がらくた処分場

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Halloween apartment(原題/男「ハロウィンアパート」女「少女の悪戯」)



1 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:17:45 ID:rlAncNMc [1/50]


魔女娘 (……どの家にしよう)テクテク

魔女娘 (あんまり子供がいなさそうな家がいいなぁ)キョロキョロ


魔女娘 「…アパート」ピタッ

魔女娘 (玄関が…いち・に・さん…で二階建て、部屋ちっちゃそう…)

魔女娘 (どうみても一人暮らし用のワンルームってやつだよね)

魔女娘 (うん…いいかも)


タタタッ…



2 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:18:25 ID:rlAncNMc [2/50]


ピーンポーン、ピーンポーーン…

…ガチャッ


DQN 「うぇ?」

魔女娘 「Trick or Treat!」ニパッ


DQN 「…あー、ヘロイン?」

魔女娘 「ハロウィン…」

DQN 「チッ…めんどくせーな…なんでこんな安アパートに来たんだよ」ハァ…

魔女娘 「うっ」


DQN 「えーっと、どうすんだっけ?」

魔女娘 「えと…悪戯されるか、お菓子をくれるか…です」モジモジ

DQN 「お菓子ねぇ…」



3 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:19:07 ID:rlAncNMc [3/50]


魔女娘 「あ、あの…無かったらいいです」

DQN 「ちょっと待ってろ」クルッ

魔女娘 「あぃ」


ゴソゴソ、ゴソゴソ…ナニカアッタカナー


魔女娘 「…あの、無理には」


ガラガラ…ガチャーンッ!


魔女娘 「ひぅ」


チッキショ…コレ、イツノダ…?


魔女娘 (あ…あんまり古いの持ってこられても困るなぁ…)



4 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:20:05 ID:rlAncNMc [4/50]


DQN 「うぇい、待たせたな」ポイッ

魔女娘 「ひゃっ…あ、ありがとう」アタフタ


DQN 「アイスでもお菓子だろ?」

魔女娘 「でもこのピノの箱、開いて…」

DQN 「あぁ? カノジョが残してったんだよ。今日の昼のだ、古かねぇぞ」チッ

魔女娘 (あうぅ…確かにみっつ残ってる。でもピックは人が使ったお古なんじゃ…)

DQN 「カノジョはフォーク使ってたから、気にすんなよ」


魔女娘 「そ、そうですか…ありがとうございました」ペコッ

DQN 「あ?」


魔女娘 「さような──」

DQN 「──待てよ」



5 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:21:29 ID:rlAncNMc [5/50]


DQN 「お前、お菓子貰っといてお辞儀ひとつか? あぁ?」

魔女娘 「え…でも、ハロウィンってそういう…」キョトン

DQN 「まあ玄関で悪いが、座って落ち着いて食えよ。その間俺の愚痴でも聞け」

魔女娘 「えっ…えっ…?」アセアセ


DQN 「す・わ・れ・よ?」ニコッ

魔女娘 「ぁぃ…」


魔女娘 (あうぅ…参ったなぁ…)ビクビク

魔女娘 (…でも、アイスくれたし…愚痴を聞けって言われただけだし…)

魔女娘 (怖いけど…悪いヒトじゃなさそう…?)チラッ…



6 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:22:32 ID:rlAncNMc [6/50]


DQN 「…お前、いくつだ?」カチッカチッ…ボッ

魔女娘 「8歳…です」パクッ

DQN 「………」ジジジ、スゥッ…フウゥゥ…

魔女娘 (たばこ…煙い…臭い…)

DQN 「おお…悪りぃ、煙がそっち行ってんな。外に向かって扇風機回すわ」スッ、パチン…ブオオォォォ…

魔女娘 (もう明日は十一月だよ…ピノ食べてるし寒いよ…)モグモグ


DQN 「まあ…よ…お前みたいな子供に話しても仕方ねえんだけどな」

魔女娘 「…はい?」

DQN 「それこそ、カノジョがその大好物のピノ食いかけで部屋出ていった…その話だ」



7 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:23:23 ID:rlAncNMc [7/50]


DQN 「あいつと付き合い始めて、もうすぐ一年になるよ」スゥ…

魔女娘 「はぁ」パクッ

DQN 「けど、付き合い始める前は…俺、遊んでたオンナいたんだ」フゥーーッ

魔女娘 (本当に小学生に聞かせる話じゃないなぁ)モグモグ…


DQN 「知らなかった…気づかなかったんだよ、そのオンナも割と遊んでるやつだったからさ」

魔女娘 「なにをです?」

DQN 「俺の事が本気で好きだったんだってさ……カノジョが出来たって教えてから言いやがった」スゥ…

魔女娘 (返事に困る…)ズーン…


DQN 「でも、俺もこんなだけどよ…できたカノジョは大事にしたいわけよ」フゥーッ…

魔女娘 (そうは見えないって自覚はあるんだ)



8 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:24:55 ID:rlAncNMc [8/50]


DQN 「なんだけどなぁ…たまーに、その遊んでたオンナから連絡がある」

魔女娘 「一年経っても…?」

DQN 「ああ、ちゃんと言ったんだぜ? カノジョができた以上、もうお前とは遊べない、会わないって」

魔女娘 「ハッキリ言っててもだめなんですか…」


DQN 「今日だって、夜にはヘロインパーティーしようと思ってたんだよ、カノジョと」

魔女娘 「ハロウィンですってば」

DQN 「ケーキも買ってたってのに……最悪のタイミングで電話してきやがった。無駄になったぜ…ったく」チッ…

魔女娘 (アテのないケーキあるのに、出てくるのは食べかけのピノだったのかぁ…)パクッ


DQN 「まぁな…俺が悪いのは解ってんだよ」スゥ…

魔女娘 (…うぅ、寒いなぁ)モグモグ

DQN 「ハッキリ言ったのは最初の一度だけ…その後は『電話してくんな』って言って切るだけだもんな」ハァー…



9 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:25:28 ID:rlAncNMc [9/50]


DQN 「全部食ったか」

魔女娘 「は、はい…ごちそうさま」

DQN 「…悪かったな、聞いても仕方ないような話してよ。まあそのアイスのお代だと思えや」

魔女娘 (ハロウィンはお代を求められるものじゃないんだけどなぁ…)


DQN 「お前、もうこのアパートの部屋ぜんぶ回ったのか?」

魔女娘 「ううん、ここが最初です」

DQN 「……そうか」


魔女娘 「?」

DQN 「いや…なんでもねぇ。暗いから変な奴に気をつけてな」

魔女娘 (怖そうな人にはもう会っちゃったけど…)クスッ

DQN 「ん?」

魔女娘 (…でも、いい人だった)



10 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:27:53 ID:rlAncNMc [10/50]


………



魔女娘 (じゃあ次…お隣、いってみよ)テクテク

魔女娘 (玄関まわり、なんにもないなぁ…空き部屋みたい)

魔女娘 (でも薄っすら灯りは点いてるような)

魔女娘 (…呼び鈴、押してみよっと)


ピーンポーン、ピーンポーーン…

…ガチャッ


男「…はい?」

魔女娘「Trick or Treat!」ニパッ

男「うわぁ、びっくりした」

魔女娘(全然びっくりした感じじゃなかったけどなぁ…)



11 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:28:27 ID:rlAncNMc [11/50]


男「そっか、今日はハロウィンだね。いらっしゃい」ニコッ

魔女娘(よかった、いい人っぽいおにーさんだ)ホッ…


男「お菓子だね、ちょっと待ってて」

魔女娘「あの、なにも無かったら──」

男「ううん、あると思うよ」

魔女娘「──そう…ですか」


男「お待たせ、あるとは言っても安いお菓子ばっかだけど。はい、どうぞ」ゴソッ

魔女娘「あ、ありがとう」

男「持ちきれる?」

魔女娘(けっこういっぱい…袋とかないのかな)



12 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:30:55 ID:rlAncNMc [12/50]


男「持ち切れないようだったら、ちょっと食べていきなよ。お茶でも淹れるよ」

魔女娘「えっ…あの、袋…」

男「玄関のミニチェア、靴履く時に掛けるやつだけど座ってたらいいよ」

魔女娘「…はい」チョコン


魔女娘(まだまだ帰らなきゃいけない時間よりは早いし、まあいっか…)

魔女娘(お菓子…うまい棒とブラックサンダー、キャベツ太郎とよっちゃんイカ…マルカワのフーセンガム)

魔女娘(100円を超えるお菓子ないなぁ…いいけど、ブラックサンダー好きだけど)


男「はい、ミルクティーにしてるからね」

魔女娘「頂きます」



13 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:31:33 ID:rlAncNMc [13/50]


魔女娘(小さいのはポケットに入れて持って帰ろう…まずは一番かさ張るキャベツ太郎食べようかな)ガサガサ

男「キャベツ太郎美味しいよね」

魔女娘「うん」パクッ

男「コーンポタージュスナックも美味しいけどね、昼に食べちゃった」

魔女娘(あー、そっちの方が好きだったな…)サクサク…


男「魔女の仮装だよね、手作り?」

魔女娘「うっ…」ギクッ


男「ん? どうかした?」

魔女娘「…手作り…しかも、布はほとんど使ってないから」

男「うん、紙袋とかに色塗ったり工夫してるんだね」



14 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:32:11 ID:rlAncNMc [14/50]


魔女娘「安っぽいでしょ…?」シュン…

男「え? ハロウィンの仮装って、そんなにお金かけるもの?」

魔女娘「んー…お金はかけないかもしれないけど、クラスの友達はお母さんが縫ってくれたり…」

男「ああ、そういうのも嬉しいよね」

魔女娘「…うん」


男「でも工作をがんばった子供らしい仮装、可愛いと思うよ」

魔女娘「ほんと?」パァッ


男「うん、新聞丸めた魔女の杖もかっこいいね。ナイロンひも割いたフリフリの飾りも女の子っぽいし」

魔女娘「これ…ホウキ…」ズーン…

男「ごめん…」アセアセ



15 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:32:47 ID:rlAncNMc [15/50]


男「なんにもない週末の晩だと思ってたけど、思わぬイベントがあって嬉しいよ」

魔女娘(…さっきのピノくれたお兄さんは、本当はハロウィンパーティー予定してたんだっけ)サクサク

男「今年のハロウィンはちょうど金曜日だったんだね、ぜんぜん意識してなかった」


魔女娘「なにも予定無かったんですか」

男「…痛いとこ訊くねぇ」アハハハ

魔女娘「ご、ごめんなさい…」


男「まあね、ハロウィンだって気づいてれば、勇気出して食事くらい声を掛けてみても良かったのかも」

魔女娘「彼女さん?」パクッ

男「…に、なって欲しいヒトかな」


魔女娘「まだ七時にもなってないです、電話してみたら…」サクサク

男「そうだね、電話する距離じゃあないけど」



16 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:33:27 ID:rlAncNMc [16/50]


男「もうこのアパートの部屋、全部回ったの?」

魔女娘「ううん、ここが二軒目です」


男「じゃあここの前には…」

魔女娘「こっちの部屋に、先に寄りました」

男「ああ、DQNさんの。…見た目怖そうだけど、いい人だったでしょ」

魔女娘「はい」


男「じゃあ次はこっち隣か…えっと、うん…悪い人じゃないよ」

魔女娘「?」

男「でも万一なにかあったら、大きい声出しなね?」

魔女娘(えっ)



17 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:34:03 ID:rlAncNMc [17/50]


男「いやいや…心配ないか、人を見かけで判断しちゃダメだよね」

魔女娘「あの、なにか気になるようなヒトなんですか…?」

男「ううん、大丈夫…だと思うよ」

魔女娘(思う…としか言えないような人なのかなぁ)


男「あと二階の三部屋は女の人が住んでるから、心配ないよ」

魔女娘「わかりました。…紅茶、ごちそうさま」

男「いいえ、来てくれてありがとう」ニコッ

魔女娘「お邪魔しました──」



18 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:34:41 ID:rlAncNMc [18/50]


………



魔女娘(…いい人でよかった)

魔女娘(次の部屋がちょっと不安だけど…)


魔女娘(二階はみんな女の人かぁ)

魔女娘(…でも、だからって一階のひと部屋だけ訪問しないなんておかしい)

魔女娘(もし入居してる人同士で話した時『ウチだけ来てない』なんて…嫌だったりするかも)


魔女娘(うん、もし留守なら仕方ないけど…呼び鈴押してみよ!)



19 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:35:11 ID:rlAncNMc [19/50]


ピーンポーン、ピーンポーーン…


魔女娘(………)

魔女娘(留守みたい! うん、それなら仕方な──)クルッ


…コトンッ

魔女娘「ひぅ」ビクッ


魔女娘(ゆゆ…郵便受けが少し開いて…誰か覗いた…?)ドキドキ


ガチャッ……キィ…ッ…

魔女娘(ちょっとだけドアが開いたけど…)


キモオタ「……誰でござる」

魔女娘「ご…ござる?」



20 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:35:42 ID:rlAncNMc [20/50]


キモオタ「お、女の子……ハァハァ、魔女? だ、騙されないでござる! 騙されないでござるよ!?」

魔女娘(なんでチェーンロック掛けたままなんだろう…)

キモオタ「拙者好みのコスプレロリ娘を家賃取り立てに仕向けるとは…大家さんめ、なかなかやりおる…」

魔女娘「はい?」


キモオタ「デュフフ…しかし、なけなしの金なら好物の生チョコにつぎ込んだばかり。払うのは無理でござる! 残念無念フォカヌポゥ!」

魔女娘「家賃…私、別にお金とか…」アタフタ

キモオタ「それなら何の用でござるか!? ど、ど、どうせ言えないに違いないでござるよ!」


魔女娘「と…」ドキドキ…

キモオタ「と?」


魔女娘「Trick or Treat!」


キモオタ「………フヒッ」ピクッ

魔女娘「…あの?」



21 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:36:16 ID:rlAncNMc [21/50]


キモオタ「その魔法詠唱…そして今日の日付」

魔女娘(魔法…?)

キモオタ「まさか、ハロウィンの夜にコスプレ美少女が拙者の部屋を訪ねてきたというのか…」ワナワナ

魔女娘(び…美少女とか)テレテレ


キモオタ「感動…感涙でござるっ!」ブワッ

魔女娘「ふぇっ…」ビクッ


キモオタ「それで金の無い拙者はこの奇跡への対価としてなにを支払えば良いでござろうか?」キリッ

魔女娘「ええと…お菓子をくれるか、悪戯されるか──」

キモオタ「なりませぬ! Yes、ロリータ! No、タッチ! デュフフ、拙者マジ紳士コポォ」

魔女娘「あのっ、悪戯はそっちがするんじゃなくて…!」


キモオタ「拙者がされる側…だと?」ピクッ



22 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:36:50 ID:rlAncNMc [22/50]


キモオタ「それならば話は別でござるっ!」

魔女娘「えっ」


キモオタ「さあ、その新聞紙の杖をドアの隙間から差し入れるでござるよ…ウェヒヒ」

魔女娘「うぅ…ホウキなんだけど…」スッ

キモオタ「そう、もうちょっと奥まで…その辺その辺…デュフッ」


魔女娘「これが悪戯になるんですか?」キョトン

キモオタ「オゥフ…ナイロン紐のフサフサが実に小悪魔的な悪戯でござるぅ…」ゴソゴソ

魔女娘「ふぇっ? なんか動かしてる…」


キモオタ「…ロリ娘が丸めた新聞紙が拙者の拙者にジャストフィット、オゥ…イェァ…シーッ、ハーッ」ハアハア

魔女娘(…暗くてぜんぜん見えない)



23 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:37:45 ID:rlAncNMc [23/50]


キモオタ「おおおおお! 昂ぶってきたでござるぅぅぅ!」コスコスコスコス

魔女娘「あ、あの…」

キモオタ「……フォックス2…ッ! …オゥ…ィェス…ッ…ブルズアーィ…」ビクンビクン


魔女娘「えっ? だ、大丈夫ですか…!?」

賢者「…お嬢さん」

魔女娘「へ?」


賢者「とっておきのお菓子を持ってこよう。代わりにこの杖は貰ってもいいかい?」

魔女娘「あの…人が変わりました?」

賢者「とんでもない、元から君の前には紳士一人しかいないさ…少し待っていてくれ、ズボンが冷たくてね」

魔女娘(持っていかれちゃった…ホウキって言ったのになぁ…)



24 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:38:25 ID:rlAncNMc [24/50]


………



魔女娘(…結局、ホウキは返してもらえなかった)

魔女娘(なにをしてたのかわかんないけど、まあ…悪いヒトじゃなかったのかな?)

魔女娘(私がしたいのは、あんな意味のわかんない悪戯じゃなくて)ハァ…


魔女娘(だけどなんかちょっと高そうなチョコレートもらっちゃった)

魔女娘(『なけなしのお金で買った』って言ってたけど…)

魔女娘(あーる…おー…ロイズ? 紙袋にも入ってるし…うまい棒とか一緒に入れちゃお)ガサガサ


魔女娘(あとは二階の三部屋…女の人って言ってたなぁ)

魔女娘(いい人ばかりでありますように)


魔女娘(…なんのお菓子も無いって人がいればいいな──)



28 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 22:52:10 ID:rlAncNMc [25/50]


ピーンポーン、ピーンポーーン…


《はーい》ガチャ

魔女娘(う、やっぱり女の人はインターホンで出るんだ)アセアセ

《…あら? どなたー?》

魔女娘「あ…と、Trick or Treat!」

《えっ…? あぁ…もしかして、近所の子なのかな。ハロウィンで来てくれたんだ?》

魔女娘「はい」


《嬉しいなぁ、ちょっと待っててね! お菓子持って出るから!》ガチャッ

魔女娘「あの…無理には…っ」

魔女娘(…切れちゃった、待ってよう)



29 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 22:53:06 ID:rlAncNMc [26/50]


…カチャッ


女「ようこそ、ハッピー・ハロウィン!」ニコッ

魔女娘(おぉ…ちゃんとハロウィンらしく返された)ジーン…


女「かっわいい! いいね、手作りの魔女衣装!」

魔女娘「ありがとう…」テレテレ


女「はい…これ、お菓子。入れる袋とか…あるね、よかった」

魔女娘「頂きます」ゴソゴソ

女「あと、これ! 持って帰るには適さないから、食べてかない?」

魔女娘「わぁ、かぼちゃパイ…手作りなんですか?」

女「うん、焼きたてだよー」


魔女娘(…パイはあったかい内に食べたいなぁ)ゴクリ

女「ふふーん、目が『食べたい』って言ったね? どうぞ、上がって──」



30 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 22:54:10 ID:rlAncNMc [27/50]


………



女「飲み物、熱々のパイには冷たい牛乳がいいと思うんだけど、飲める?」

魔女娘「はい、牛乳好きです」

女「じゃあ座っててね」


魔女娘(わぁ、アパートはそんなに新しくないのに綺麗な部屋)キョロキョロ

魔女娘(やっぱり女の人だなぁ…)

魔女娘(…あれ?)

女「はーい、お待たせ……あら、見つかっちゃった」クスッ



31 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 22:54:49 ID:rlAncNMc [28/50]


魔女娘「あそこに掛けてあるのって、魔女の衣装…?」

女「うん、今日のために縫ったんだよー」


魔女娘「すごい…私の衣装とはぜんぜん違う…」

女「そんなことないよ、充分可愛いと思うな」

魔女娘「そうかなぁ」


女「あとは…そうね、杖かホウキでもあればもっと良かったかな? なーんて、さ…食べよ?」

魔女娘「う…」

女「…ん?」

魔女娘「実は──」



32 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 22:55:37 ID:rlAncNMc [29/50]


女「──そっか、取り込まれちゃったのか」モグモグ

魔女娘「はい…なんでかはわかんないんですけど」モグモグ

女「…まだこれからも他のお家を回るのかな?」

魔女娘「うーん…せめてこのアパートの部屋は全部」


女「……よしっ」スクッ

魔女娘「?」


女「紙粘土で作ったからちょっと重いんだけど、いいよね」

魔女娘「…杖? それも作ったんですか? すごい、ちゃんと先に宝石みたいなのもついてる…」

女「ギュッと絞った新聞紙を芯にして、先のはちょっと特別製なんだ。はい、どうぞ…きっと魔法が使えるよ?」

魔女娘「えっ? こ、これ…」

女「あげる、うん…よく似合ってる!」



33 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 22:58:00 ID:rlAncNMc [30/50]


魔女娘「でも、それじゃおねーさんのが…!」

女「いいの、貴重な情報をもらったしね」

魔女娘(情報…?)キョトン

女「それにこのパイをトレイに載せて持っていくとしたら、杖を一緒には持ち難いなぁ…って思ってたんだ」


魔女娘「…仮装した人がお菓子を持っていくんですか?」

女「ふふっ…そうだね、ちょっとおかしいけど。でも、そうするつもり」

魔女娘「あはは…それじゃTrick or Treatって言われても、相手が困っちゃいそう」

女「じゃあ、お菓子あげる代わりに悪戯しちゃおうかな?」クスクス

魔女娘「おもしろい」クスッ


女「……いっそ、悪戯してくれたらいいんだけどね」ボソッ

魔女娘「え?」

女「『好き』って言ったら、悪戯してくれるかな…? なんてね、あはは」



34 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 22:59:15 ID:rlAncNMc [31/50]


………



魔女娘「──ごちそうさまでした」ペコリ

女「どういたしまして」

魔女娘「杖、本当にいいんですか?」

女「うん、いいよ。可愛い魔女さんに持ってもらえて嬉しい」ニコッ


魔女娘「じゃあ、ありがとう。おねーさんも良いハロウィンを」

女「こちらこそ、来てくれてありがとう。…それと、確認なんだけど」

魔女娘「?」


女「一階…全部の部屋の人、居たんだよね? みんな一人で」ボソボソ

魔女娘「はい、さっきは確かに」

女「よしっ…がんばってみるかっ!」

魔女娘「…? が、がんばって…」



35 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 23:00:53 ID:rlAncNMc [32/50]


………



魔女娘(なにをがんばるんだろ)テクテク

魔女娘(…まあいいや、すごくいいヒトだったなぁ)

魔女娘(杖、かっこいい…)ニヘラ


魔女娘(あと…ふた部屋、順番に真ん中の部屋から行ってみようかな)

魔女娘(…なんか今までになく生活感溢れる感じの玄関だなぁ)

魔女娘(肥料のボトル挿した植木鉢とか、モップや竹ぼうきが並んだ傘たて)

魔女娘(…割と年配の人の部屋かな?)

魔女娘(まあ二階はみんな女の人って言ってたし、よしっ…呼び鈴押してみよう)



36 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 23:01:38 ID:rlAncNMc [33/50]


ピーンポーン、ピーンポーーン…

…ガチャッ


魔女娘「ふぇっ」

大家「はいはい、どなた?」

魔女娘(お…女の人でもいきなりドア開けるんだ…)ドキドキ


大家「あら、可愛いお嬢ちゃんねぇ」

魔女娘「あっ…えっと、Trick or Treat!」

大家「おやまぁ! ハロウィンで来てくれたのかい、嬉しいねぇ!」ニコニコ



37 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 23:02:10 ID:rlAncNMc [34/50]


大家「じゃあお菓子を持ってこなきゃねぇ」

魔女娘「あの、無かったらいいです!」

大家「やだよこの子ったら、こんなオバサンの家に茶菓子が無いわけないじゃないの」

魔女娘「そう…ですか」


大家「…あんた、もしかして三丁目の孤児院の子じゃないかい?」

魔女娘「はい」

大家「ああ、やっぱり。回覧板来てたのよ、子供達が訪ねてくるかもしれないって。でもあなた、一人で来たのねぇ?」

魔女娘「………」

大家「いいんだよ、みんなの分まで持って帰ってあげなさいな。いつも以上に買い置きしてたんだから」

魔女娘「はい」

大家「あはは、オバサンの肥やしにならなくて良かったわ。ちょっと待ってて頂戴ねぇ」パタパタパタ…



38 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 23:02:48 ID:rlAncNMc [35/50]


魔女娘(みんないい人だなぁ、お菓子いっぱいになっちゃう)

魔女娘(でも、本当は)

魔女娘(私は…)


大家「はいはい、お待ちどうさま。好きなだけ持っていきなさい」ドチャッ

魔女娘「うわ…たくさん」

大家「あなたみたいな子供が好むお菓子があるといいけどねぇ」ニコニコ

魔女娘「あ、ハッピーターン大好きです。ポンスケも、ピッカラも好き」

大家「良かったわぁ、大きい袋出してあげましょうね」

魔女娘「ありがとうございます」



39 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 23:03:24 ID:rlAncNMc [36/50]


大家「でもその小さな袋、ちょっと高そうなお菓子ねぇ。お隣の女さんからでも貰ったのかしら?」

魔女娘「ううん、一階の…こっちの端っこの部屋の人です」


大家「えっ…キモオタさんかい!?」

魔女娘「たぶん…」


大家「あの人、部屋にいるのね……そう…」ホッ…

魔女娘「…?」

大家「どうだった? 元気そうだったかい?」

魔女娘「いえ…ドアの隙間からお菓子をもらっただけで…」



40 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 23:03:57 ID:rlAncNMc [37/50]


大家「…あなたに言っても仕方ないんだけどねぇ…あの人、アルバイトしてたお店が潰れちゃったとかで」

魔女娘「ああ…そういえば、私を家賃の取りたてだと勘違いしてました」

大家「!! …それで、なんて!?」ガシッ

魔女娘「へっ?」ビクッ


大家「あの人、他になにか言ってなかったかい!?」

魔女娘「え、ええと…お金は無いから払えない…って」


大家「…………馬鹿だねぇ…」ボソッ


魔女娘「…はい?」

大家「なんでもないわ、教えてくれてありがとうね──」



41 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 23:04:31 ID:rlAncNMc [38/50]


………



魔女娘(すっごく優しいおばさんだったけど…最後どうしたんだろ)

魔女娘(キモオタさん? …のこと、話しちゃったのマズかったかなぁ…)


魔女娘(大きな紙袋も貰ったし、持って帰るのも安心)

魔女娘(お菓子、もう充分あるけど…でも残りのひと部屋も呼び鈴押してみよう)

魔女娘(このアパート、みんないい人だし)

魔女娘(きっとこの部屋の人も──)


──ガチャッ…パタン

魔女娘「…あ」


魔女娘(杖くれたおねーさん、魔女の衣装で出てった。…何の事かわかんないけど、がんばってね)

魔女娘(…よしっ、私も最後のひと部屋がんばろっ)フンス



42 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 23:05:06 ID:rlAncNMc [39/50]


ピーンポーン、ピーンポーーン…

…シーン…


魔女娘(…あれ? お留守かな)


ドタッ!


魔女娘「ん?」


バタバタバタバタ…ッ!

…ガチャッ!


スイーツ「DQN!?」バッ

魔女娘「ひゃっ!?」



43 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 23:05:37 ID:rlAncNMc [40/50]


スイーツ「……ちがぅ…?」ハァ…ハァ…

魔女娘「あ、あの…?」ビクビク

スイーツ「DQNがゎざゎざ謝りにきてくれたのかと思ったょ…」シュン…

魔女娘「なんかごめんなさい…」


スイーツ「そんなワケなぃょね…ァィッゎゥチのコトなんかどぅでもぃぃ…」

魔女娘(どうしよう…なんか変な空気…)モジモジ

スイーツ「…で、アンタゎ?」

魔女娘(うっ…)



44 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 23:06:09 ID:rlAncNMc [41/50]


スイーツ「ぃたずらなら今ゎゃめてょ……ウチ、そんな気分じゃなぃ…」

魔女娘(…悪戯)ピクッ

スイーツ「…はぁ…もぉマヂ無理…ピノたべょ」

魔女娘(違う…私がしたいのは──)

…ギュッ

魔女娘(──こんな悪戯じゃないっ!)


スイーツ「ばぃばぃ」スッ…

魔女娘「…とっ…」

スイーツ「?」


魔女娘「Trick or Treat!」



45 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 23:06:45 ID:rlAncNMc [42/50]


魔女娘(怒られるかな、落ち込んでる時に…)ドキドキ

スイーツ「……それって」

魔女娘「うっ」ビクッ


スイーツ「知ってるょ…そっか、今日ゎヘロインだったょね…」

魔女娘「…ハロウィン」


スイーツ「杖、かっこぃぃじゃん…オーマイハニーみたぃ」

魔女娘(もしかしてハーマイオニーかな…)

スイーツ「来てくれてァリガト…ぉ菓子だょね? 待ってて」



46 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 23:07:33 ID:rlAncNMc [43/50]


魔女娘「あの…無かったらいいです!」

スイーツ「…ぇ?」

魔女娘「いえ…だから、お菓子なかったら…」


スイーツ「アンタ…ぃぃコだね」クスッ

魔女娘「…!」ピクッ


スイーツ「でもだぃじょうぶ…お菓子ぁるょ」

魔女娘「いい子じゃ…ない」

スイーツ「…?」

魔女娘「私、いい子じゃない…っ!」



47 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 23:08:19 ID:rlAncNMc [44/50]


魔女娘「お菓子が無いならいいって、遠慮して言ってるんじゃ…ないの…」ジワッ…

スイーツ「ぉ菓子なかったら、ィタズラされるんだょね?」

魔女娘「!!」ドキッ


スイーツ「アンタ、ィタズラがしたかったんでしょ…?」

魔女娘「……ん」コクン


スイーツ「ゴメンね…先に気づいてぁげられなかった。ゥチ、バカだから…」ナデナデ

魔女娘(──ずっと、いい子にしてた)ギュッ

スイーツ「してもぃぃょって言ゎれてするィタズラなんか、嬉しくなぃょね」

魔女娘(施設には悪戯っ子もいたけど、職員の人達を困らせる事…私はできなかった)ポタッ

スイーツ「…ちょっと待ってるんだょ?」スッ…

魔女娘(だから…今夜は悪戯がしたくて、他のみんなはお菓子目当てで集まってたから、わざとはぐれて)ポロポロ…



48 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 23:08:59 ID:rlAncNMc [45/50]


スイーツ「ぉ待たせ、アイスしかなぃから…ここで食べなきゃだケド」

魔女娘「ううん…ありがとうございます」ゴシゴシ

スイーツ「ゴメンね、ィタズラさせてぁげられなくて」

魔女娘「いいんです」クスン


スイーツ「はぃ、ウチこれ大好きなんだ」ニコッ

魔女娘(ピノ…?)ハッ…

スイーツ「…そぉぃぇば、ァィッの部屋に食べかけのャッぉぃてきちゃったなぁ」ボソッ


魔女娘「もしかして…おねーさんって、一階のこっちの端っこのおにーさんの…?」

スイーツ「アンタ、ァィッのトコにも行ったんだ…機嫌悪くなかった?」

魔女娘「大丈夫…でも、ちょっと話を聞いたの」

スイーツ「話…?」


魔女娘「うん、昼間に他のヒトから電話があったこと、それでおねーさんが怒っちゃったこと──」

スイーツ「ァィッ…こんな小さぃコに話しても仕方なぃのに」



49 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 23:09:36 ID:rlAncNMc [46/50]


魔女娘「──『悪いのは自分だ』って、おねーさんのこと『大事にしたい』…って」


スイーツ「ぇ…」

魔女娘「今夜は二人でハロウィンパーティーしようと思ってたって言ってた」

スイーツ「ァィッが…ウチのために…?」

魔女娘「ケーキも買ってたって」コクン


スイーツ「……やっぱ…ウチ、バカだ」グスッ

魔女娘「ま…まだまだ日が暮れたばっかりです、今からでも訪ねてみたら…!」

スイーツ「ぅん、そだね…ぁゃまんなぃとね」ゴシゴシ


魔女娘「きっとおにーさんは怒ってないです」

スイーツ「ぁは…マスカラがヘンになっちゃった…直してから行かなきゃ、玄関入ってピノ食べてて──」



50 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 23:10:10 ID:rlAncNMc [47/50]


魔女娘(……結局、悪戯はできなかったなぁ)モグモグ

魔女娘(でもお菓子、いっぱいもらった)プスッ

魔女娘(…満足しなきゃ)パクッ


魔女娘(うん、楽しかった)モグモグ

魔女娘(お菓子だけじゃない、かっこいい杖ももらったし──)


『──きっと魔法が使えるよ?』


魔女娘(…魔法…かぁ)



51 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 23:10:53 ID:rlAncNMc [48/50]


魔女娘(ピノ、食べ終わっちゃった…)

魔女娘(おねーさん、まだ奥に入ったままだなぁ)


魔女娘「あのー、ごちそうさまでした…」

スイーツ「ぁ、食べぉわったんだ! ゴメンね、今ちょっと鏡の前から動けなぃょ!」

魔女娘「ありがとうございました。あの…みんなが心配したらいけないから、そろそろ帰ります」

スイーツ「ぅん、見送れなくてゴメンね…! 空き箱ゎ置ぃとぃてね!」


魔女娘「はい、おねーさん…あの…が、がんばって!」フンス

スイーツ「……泣かせなぃでょ、またメイクがヘンになっちゃぅ。もぅマヂ無理…すっぴんにしょ…」

魔女娘「あぅ、ごめんなさい──」



52 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 23:58:36 ID:rlAncNMc [49/50]


………



魔女娘(帰ろうっと……みんな、私がはぐれたの気づいてるかな)カツン、カツン

魔女娘(階段からだと周りよく見えるけど、姿は無いなぁ…)キョロキョロ

魔女娘(…施設、帰ってみればいっか)カツン、カツン


女「あっ」

魔女娘「あれ?」

女「うぅ、ぐずぐずしてたら見つかっちゃった、早く開けてよー」モジモジ

魔女娘(手にかぼちゃパイ…おねーさんが訪ねるつもりだったのって──)


…ガチャッ

男「──はい?」

女「と…Trick or Treat!」



53 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 23:59:24 ID:rlAncNMc [50/50]


男「えっ…! お、女さん…!?」

女「あの、ハロウィンだからっ、そのっ…!」

男「そっか…ハロウィン……魔女の衣装、似合ってるよ」テレテレ

女「ありがとう…」テレテレ


『──好きって言ったら、悪戯してくれるかな…? なんてね』

魔女娘(おねーさん…)


男「…でも、参ったな。もう、お菓子無いや」

女「あはは、逆に持ってきちゃった。ほら、これ…」

男「かぼちゃパイ…作ったの?」

女「うん、がんばりました」フンス



54 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/31(金) 00:00:26 ID:NIHkuhfc [1/15]


女「だから……」スッ…

男「うん?」


女「……てーいっ!」スポッ


男「うわ、なにを…!?」

女「えへへー、狼男風耳つきニット帽。これで男さんも仮装してるからお菓子もらってもいいでしょ?」ニコニコ

男「…参ったね、こんな可愛いの似合わないよ。照れくさい悪戯だなぁ」クスッ


魔女娘(…悪戯──)



55 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/31(金) 00:01:11 ID:NIHkuhfc [2/15]


…カツン、カツン、カツン

魔女娘(…あれ、真ん中の部屋のおばさん)


ピーンポーン……ドタタタタタッ


キモオタ「──ま、またロリ娘魔女が来てくれたでござるかっ!?」ガチャッ!

大家「はいはい、Trick or Treat。悪かったねぇ…魔女じゃなくて鬼婆で」ギロリ

キモオタ「ぎゃああああああぁあぁぁっ!? お菓子ならもう無いでござるよおぉおぉっ!!」

大家「何言ってんだい! 職も失った貧乏人からお菓子もらおうってほど落ちぶれちゃないよっ!」


キモオタ「でも家賃を払う金も無いでござる! どどどうかお慈悲を…!!」ガクブル

大家「アンタ、それで引き篭もってたのかい。あたしに会ったら二か月分の家賃を取り立てられると思って…」

キモオタ「堪忍でござるうううぅうぅぅ!!」



56 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/31(金) 00:02:00 ID:NIHkuhfc [3/15]


大家「ほんっとーに馬鹿だねぇ…今までだって家賃こそ払っても給料日前にはお金が無くて喘いでたじゃないか」ハァ…

キモオタ「オゥフ…め、面目ないっ…」

大家「しょっちゅう多めに作ったお鍋を持ってきてやったこと、忘れちゃないでしょう? ほら、これはさっき作った肉じゃが」グイッ

キモオタ「………」


大家「アンタの懐は解ってんだよ…ちゃんと外に出てお仕事を探して、家賃なんざその後でいいから」

キモオタ「…大家殿……」グズッ


大家「食事も差し入れてやるから、元気出しな? 全く…あたしゃ、中で孤独死でもしてんじゃないかと心配したよ」

キモオタ「大家殿おおおぉおぉぉ!!」ウワアァァァン

大家「やれやれ…会っていきなりあんだけ驚かれて、今度は大泣き。しっかり悪戯した気分だよ」クスクス


魔女娘(…悪戯──)



57 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/31(金) 00:03:02 ID:NIHkuhfc [4/15]


…カツン、カツン、カツン

魔女娘(今度はピノのおねーさんが…)


ピーンポーン……ガチャッ

DQN「うぇ?」


スイーツ「DQN…! とりっくぉぁとりぃとだょ!」

DQN「は?」

スイーツ「昼間ゎ信じてぁげられなくてゴメン…ウチ、ゃっぱりヘロインをアンタと過ごしたぃょ…」

魔女娘(ハロウィン…)



58 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/31(金) 00:03:40 ID:NIHkuhfc [5/15]


DQN「…なんでそんな下向いてんだよ、もういいって」

スイーツ「でも…ウチ…」シュン…

DQN「悪かったのは俺なんだって…入ろーぜ、ケーキあるべ」

スイーツ「………」グスッ


DQN「おい──」

スイーツ「──ばぁっ!」ニコッ


DQN「うぉっ!? えっ!? うぇっ? ス…スイーツ…!?」ビクゥッ!

スイーツ「ぇへへ…すっぴんだと、ゎかんなぃ?」

DQN「ビビッたぁ…お前、眉毛どっかいってんじゃん」クククッ…

スイーツ「ひどーぃ、もぅマヂ無理…」

DQN「普段の仮装をしてないのに一番ビビるとかウケる。もう悪戯したからケーキやんねぇ」ケラケラケラ


魔女娘(…悪戯──)



59 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/31(金) 00:04:11 ID:NIHkuhfc [6/15]


魔女娘(──人をびっくりさせて)

魔女娘(そのあと笑顔になってくれる)

魔女娘(私だって…そんな悪戯がしたかった)


…ギュッ!


魔女娘(杖…本当に魔法、使える?)

魔女娘(ここにいるみんなから、もうお菓子をもらっちゃったけど)

魔女娘(今から勇気を出して悪戯しても、笑顔になってくれる…そんな魔法──)スゥッ…


魔女娘「──お願いっ!」フワッ!



60 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/31(金) 00:04:45 ID:NIHkuhfc [7/15]


ピカッ…!!キラキラッ──

魔女娘「えっ…!?」


女「あ…」

男「おお、すごいね」

大家「あらまぁ、素敵じゃない」

キモオタ「オゥフ…魔法少女を見たでござる…」

DQN「カッケーじゃん」

スイーツ「マヂきれぃ…」


魔女娘(光った…杖の石が……魔法使えた…!)



61 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/31(金) 00:05:19 ID:NIHkuhfc [8/15]


魔女娘「…悪戯──」グッ…


…タタタッ!


魔女娘「──おねーさんっ」

女「ん?」

魔女娘「Trick or Treat!」ビシッ!


女「えっ…も、もうだめだよ! このパイは男さんに…!」アセッ

魔女娘「じゃあ、悪戯しちゃいますっ!」バッ…!

女「へっ…!?」



62 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/31(金) 00:05:54 ID:NIHkuhfc [9/15]


魔女娘「えいっ! スカートめくりっ!」ブァサッ!

女「きゃああぁっ!?」


男(…白、わりと勝負系)

キモオタ(くっ…ロリ趣味な拙者でも目はいくでござるっ!)

DQN「うぇーーーぃ」ニヤニヤ


女「もうっ! なんてコト──」キッ

魔女娘「──バラしちゃう、このおねーさんはねっ!」ビシッ


男「ん?」

魔女娘「おにーさんに悪戯して欲しいって言ってたよ!」

女「ちょっ…言っちゃだめええぇえぇぇっ!!」



63 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/31(金) 00:06:27 ID:NIHkuhfc [10/15]


男「女さん…」

女「違うっ! 違うよ!? いや違わないけどっ!」アタフタ


DQN「ほほーぉ?」ニヤニヤ

スイーツ「ぉしぁゎせにだょ」クスクス

大家「うるさくしたら承知しないよ」

キモオタ「もげろ」


女「あうぅ…もう死ぬ…」プシュー

男「女さん、怒っちゃだめだよ…ハロウィンだし」

女「…うん」

男「でも悪いけど、悪戯するまではもう少し時間かけさせてもらうね」クスッ

女「改めて言わなくていいからっ! ……でも、嬉しかったり」ニコッ


魔女娘(…よかった、笑ってくれた…魔法が効いたんだ)ウルッ



64 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/31(金) 00:07:16 ID:NIHkuhfc [11/15]


魔女娘「あ、あの…お菓子ありがとうっ! 楽しかったです、さよならっ!」ペコッ

クルッ…タタタッ──


大家「──待ちなさい」

魔女娘「……っ…」ビクッ



大家「…来年もおいでね、今度はお友達も一緒に」ニコッ

男「そうだね、今度は安い駄菓子じゃないもの用意しとくよ」ニコニコ

女「来年はかぼちゃプリンにしよっかな」クスッ

スイーツ「じゃぁ、ピノのパーティーパック買っとくょ!」フンス

キモオタ「に、人数増えるなら今度はナッティバーを取寄せておくでござる!」デュフフ…

DQN「暴君ハバネロ買っといてやらぁ」クックックッ


魔女娘「…はいっ──」ニパッ



66 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/31(金) 00:08:09 ID:NIHkuhfc [12/15]


………



魔女娘(楽しかった…嬉しかったなぁ)テクテク

魔女娘(あとは、はぐれちゃった事…みんなに怒られなきゃいいな──)


チビフランケン「──あっ! いた!」ハァ…ハァ…

魔女娘「うっ」ビクゥッ

チビフランケン「…お前、なんで勝手にどっかいくんだよー。めっちゃ走って探したぞ…」フゥ

魔女娘「ご…ごめん」


チビフランケン「施設長が最低でも2人以上で行動するようにって言ってたじゃんか、悪りーんでやんのー」ケケケッ

魔女娘「…大丈夫だもん、怒られないもん」フンス

チビフランケン「なんで?」



67 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/31(金) 00:08:44 ID:NIHkuhfc [13/15]


魔女娘「この杖があったら魔法が使えるからだよ……ほらっ!」フワッ!


ピカーッ!キラキラキラ…


チビフランケン「うわ、なにそれすげえ!」

魔女娘「いいでしょ」フフリ


チビフランケン「あー、なーんだ…先の石みたいのって、弾んだり叩いたらしばらく光る100均のスーパーボールじゃん」

魔女娘「ち…違うしっ! 魔法だし!」ムッ

チビフランケン「魔法なんかねぇよーだ」ケラケラ



68 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/31(金) 00:09:31 ID:NIHkuhfc [14/15]


チビフランケン「馬鹿言ってないで帰るぞ、もうみんな戻ってるって」

魔女娘「う、うん…」


…ギュッ


魔女娘「ふぇっ…!? 手…繋ぐの?」ドキッ

チビフランケン「うっせ、二人で回ってたことにしてやっから…こんくらい我慢しろっ」テレテレ

魔女娘「いいの…?」キョトン

チビフランケン「特別だかんなっ! 怒られたくないだろ?」プイッ

魔女娘(なーんだ──)


タタタタッ…


魔女娘(──ほらね、魔法…ちゃんと効いてるもん)クスッ



【おしまい】



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テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

  1. 2014/10/31(金) 00:24:24|
  2. その他
  3. | コメント:8

冬枯れと椿の小径(原題/ツバキの道と少女の話)

1 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:01:35 ID:.JhPNqoc [1/13]

慣れた道、少し飽きた道を、いつもの通り会社へと歩く。

まだ眠気を残していた頭も、一級河川を渡る長い橋の上で寒風に吹かれ、少しずつ覚めてきた。


徒歩や自転車、それぞれのスピードで橋上の歩道を渡りゆく人々。

朝のラッシュに連なり、歩くよりも遅く停滞した車道。

この橋は住宅やマンションが多く建つエリアと市街地を結ぶ、渋滞の名所だ。

川面を見下ろすと冷たそうな水が透き通って、底のごろた石の模様がよく見える。


測った事は無いけれど、たぶん三分ほどの時間をかけて橋を渡りきり、僕はいつも通りその袂を右へと折れた。

そこからは舗装もされていない土道、周りには樹木が生い茂った川沿いの遊歩道となっている。



2 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:02:24 ID:.JhPNqoc [2/13]

市街地に近い場所に、不釣り合いに残された緑豊かなエリア。

それが保持された理由は、この雑木林の向こうにある。

そこには築庭から三百年を数える、由緒正しき大庭園が広がっているのだ。


この地の殿様が城下に造らせた広大な庭で、今は自治体による運営管理の下、観光地としても有用な施設となっている。

その外周を巡るこの遊歩道は通勤や通学のルートとして、また朝の散歩道としても多くの人に利用されていた。


車がいないから比較的安全な、街までの近道。

それもこの道が多くの人に利用される要因のひとつではあるが、何よりもこの趣が心地よいというのが一番の理由だろう。

朝夕、少なからず憂鬱な職場と心休まる自宅との行き来にここを通る事によって、気分は大いにリフレッシュされていると思う。



3 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:03:02 ID:.JhPNqoc [3/13]

林の向こうの庭園は、数キロ離れたところに横たわる低い山々を借景としているそうで、その障害とならないよう近隣は建物の高さが制限されているらしい。

それ故に遊歩道からも人工的な建造物はあまり目につかず、里山を散策しているかのような気分に浸る事ができる。

木立越しに川面を望む側に設置された人止め柵も、丸太を型取ったコンクリート製の擬木で作られており、人工的ではあるが景観を損なうほどではない。


僅かずつでも日々変わりゆく景色を眺めつつ、今朝もその小径をゆっくりと歩いていた。



4 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:03:41 ID:.JhPNqoc [4/13]

ふと、擬木の柵の一点に目がとまる。


丸太を模した柵は約2メートル間隔ほどに親柱が建ち、その先端からおよそ10センチ下に横の丸太が渡された形になっている。

その親柱の天端、年輪を象った直径15センチ位の円形部分に、鮮やかな色彩が置かれていたのだ。


まだ瑞々しさを残すツバキの花、一輪。

一輪丸ごとが首から落ちるという性質を指して縁起が悪いと言われる事もある花だが、この彩りの少ない時期に花を開く貴重な花木でもある……という位は、僕でも知っている。


上を見ると、大きなツバキの木立が歩道にまで被さり、まだまだたくさんの花が咲き誇っていた。

おそらくいち早く寿命を迎えた一輪が落ちる時、偶然この柵の上に乗ったのだろう。

まるで飾られているかのようなその鮮やかなピンク色を見つけた事で、僕は少し得をしたような気分になった。


今日は良い事がありそうな気がする……そんなありきたりで根拠の無い勝手な期待も、自分が心の内で抱くだけなら誰も困らない。

そこを通り過ぎ、やがてその日の業務に身を置いた僕は、朝の考えがただの幻想に過ぎなかった事を思い知らされるのだけれど。



5 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:04:19 ID:.JhPNqoc [5/13]

しかし翌朝、同じところを通りながら僕は少し驚く事になる。


花が、増えている。


ツバキの木立を中心として、およそ10メートルほどの区間。

柱の数にして六本の頭上に、それぞれツバキの花が置かれていたのだ。


一番端っこの柱など、ツバキの枝が被さる範囲から外れてさえいる。

どう考えても誰かが置いている、それしか思いつかない。


向きを揃えるでもなく置かれたその花を眺めながら、また少し嬉しい気持ちでそこを通り過ぎてゆく。

そして更に数十メートルほど進んだ先で、僕はその小さな悪戯の犯人を目撃する事になる。



6 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:05:10 ID:.JhPNqoc [6/13]

今度は歩道の反対側に佇むツバキの木立、その下に落ちた花を拾い上げる一人の少女。

近くの私立小学校の制服を着た彼女は、手近な柱の頭に何気なくそれを置いた。

手にはまだ数輪の花、順番に柱の上に置きながらこちらへと歩んでくる。

やがて僕とすれ違った彼女、年齢はたぶん小学校の高学年くらいか。


校区の限定される公立の学校であれば班体制で通学するのだろうが、様々な地域から児童が集う私立校に通う彼女は一人ぼっちだった。

この花を飾り歩く可愛らしい悪戯は、寂しい通学路で彼女が見つけた小さな楽しみなのかもしれない。


すれ違ったばかりの少女を目で追う事は他意は無くとも躊躇われる、この妙なご時勢。

わざと十秒ほどの間を開けて立ち止まり振り返ると、彼女はさっき僕が通り過ぎた木立の下で屈み、また花を拾っていた。



7 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:05:45 ID:.JhPNqoc [7/13]

少し迷った後、僕は周囲を窺う。

幾人かの通行人は見られるが、特徴もないサラリーマンを気にとめる者などいない。


その存在には先から気づいていた、自らの足元に転がる一輪の花。


照れ臭さを拭い、それを拾い上げる。

少女が置いた場所の次、彼女が進む方向にとってはひとつ手前になる柱に、その一輪をそっと置いた。


何も悪い事をしてるわけじゃない。

誰も責めてはいないのに、自分にそう言い聞かせてしまう。


また少し周りを気にした後、おそらくわざとらしい知らんぷりの顔を作って、僕はさっきよりも早足で歩き始めた。



8 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:06:19 ID:.JhPNqoc [8/13]

日々、少しずつ増えてゆく柱上のツバキ。

その行為に慣れ始めた僕は、数日経って色が褪せたものがあれば新しいものと交換しながら、日に二つか三つほどツバキの小径の伸ばしていった。


彼女は自分の他にも同じ悪戯をしている者がいる事に気づくだろうか。

たまに彼女とすれ違う事はあったけど、その目の前ではあえて花を持つ姿は見せないようにしていた。


この1キロ程の遊歩道には、あちこちにツバキが点在している。

だんだんと花が落ちやすい時期に近づいているのだろう、素材を拾う事には苦労しなかった。



9 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:06:56 ID:.JhPNqoc [9/13]

やがてその小径が一日に延びる距離は、飛躍的に長くなり始める。


「あ、あそこ落ちてる」

「そこのやつは色が悪くなったな」

「白もあってもいいかなあ」


朝の散歩をするお年寄りが、僕と同じように通勤する男性が、ベビーカーを押した母親が、ツバキを拾っては柱に置いてゆく。


「ちょっとストップ!」

「もう、急に停まらないでよ」


自転車に乗った女子高生が、わざわざブレーキをかけてまで風で落ちた一輪を柱に戻すのを見かけた。


「よっしゃ、いっぱいあったぞ」

「お前、それはもう汚いだろ」


普段なら顔を逸らしてすれ違いたい柄の悪そうな建設作業員が、両手にたくさんの花を持ち朗らかに笑っている。



10 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:07:27 ID:.JhPNqoc [10/13]

遊歩道の最初と最後には誰かの手によりゴミ袋がかけられたダンボール箱が置かれ、周知があったわけでもないのに色が褪せた花はそこへ集められるようになった。


「これ、侘助かな」

「そうじゃない? さっきの木の花に似てるもの」


『ヤブツバキ』
『侘助』
『西王母』
『乙女椿』


いつしかツバキの木立には木板で作られた手書きの樹名札がつけられている。

色んな形の花があるな……とは思っていたけれど、やはり品種はいくつもあったらしい。

人為的に植えられたものも多いのだろう。



11 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:08:24 ID:.JhPNqoc [11/13]

「ああ、今日も綺麗に並んでますね」

「おはようございます」

「行ってらっしゃい、気をつけてね」

「今朝は少し暖かいですね」


きっと名前も知らない人と人、それでも挨拶を交わしている。

前からあった事なのかもしれないが、前より多いのは間違いないと思う。


そんな小さな光景の中、僕は気付いた。

向かいから近付く、誰よりも元気な声で誰よりもたくさんの者に挨拶をする人の姿。


「おはようございます」

「おはよう、だいぶ拾う花が減ってきたね」

「はい、なかなか見つからなくて」



12 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:08:56 ID:.JhPNqoc [12/13]

近くの私立小学校の制服を着た彼女は、にこにこしながら「だけどね」と続けた。


「もう、春がくるから」


そう言いながら上を向く彼女につられて、空を見上げる。

そこには、ついこの前まで冬枯れていた落葉樹の枝が、僅かに新緑の彩りを湛えて覆い被さっていた。


次にツバキが咲き、その花を落とし始めるのはいつになるだろう。

でも、それまでもこの道は様々な彩りに満ちて僕を迎えてくれるはずだ。

そして少しだけ深まったすれ違う人々との繋がりは、一年を通じてそこにあるに違いない。


「行ってらっしゃい」

「行ってきます」


僕は微笑み、また少し憂鬱ないつもの職場を目指して歩き始めた。



13 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:10:36 ID:.JhPNqoc [13/13]

おしまい


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テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

  1. 2014/01/11(土) 08:43:37|
  2. その他
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スレ『ショートショート深夜VIP』・『みんなで文才晒そうぜ』投稿作品

これらはSS深夜VIPのスレ「ショートショート深夜VIP」に投下させて頂いたものになります。


86 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:32:21 ID:V.2kCN2g [2/17]

【ハッピーエンド】

俺には容姿可憐な幼馴染がいる。

でも俺は彼女の事を恋愛の対象として見る事はできない。

こう言うとまるで軽い恋愛作品にありがちな設定のようだが、俺の場合は本心での事だ。

俺には心を寄せる女性がいた。

同じクラスの『女』だ。

淡い想いだった頃から数えれば一年間に渡り、小さな努力を積み重ねてきた。

甲斐あって自信過剰とも思えないくらい、良好な仲を築いていた。

休日に二人で過ごす事も幾度か叶った程だ。



87 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:32:56 ID:V.2kCN2g [3/17]


「なんだか今日は落ち着かないみたいだね」

朝、通学路を歩きながら幼馴染が俺に言った。

「まあな、ちょっと…思い切ろうと思って」

「…女さんの事?」

「いいだろ、別に」

幼馴染は成績も素行も、性格さえもすこぶる良い奴だ。家も比較的裕福で、非をうつところは無いと言える。

俺はそんな彼女が、少し疎ましかった。

俺だってそんなに恵まれない人間ではないつもりだ。でも幼馴染と一緒に居るとどうしても自分で比較してしまう。

そんなちっぽけでくだらない自尊心が、幼馴染を好きになれない理由だった。

そして俺はその日、ついに女に想いを告げる。

勝算は充分にある、明日からの薔薇色の日々を脳裏に描いての告白だった。



88 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:33:37 ID:V.2kCN2g [4/17]


「ごめんなさい。貴方はいい人だけど、そういうつもりでは見られないの」

彼女は迷う様子すらなく、拒絶の言葉を返した。

目の前は真っ暗、足下が崩れ落ちるような衝撃。

俺は女の前では演じきれていないだろう平静を装い、部屋に戻っても帰り道での出来事さえ覚えていない始末。

翌日、俺の様子に気付いた幼馴染が「気を落とさないで」と労りの言葉を掛けても、返事をする気になれなかった。

幼馴染は当然のように異性に好かれている。何度も告白を受けてはそれを断り続けている事は知っていた。

そんな彼女に今の俺の気持ちなど解るはずが無い、そう思ったから。



89 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:34:09 ID:V.2kCN2g [5/17]


数ヶ月、失意の日々を過ごした後それでも俺には次の春が訪れる。

かねてより俺に歩み寄ろうとしてくれていた『後輩』だ。

彼女が俺に好意を持ってくれていたのは何となく解っていた。

でも俺には想い人がいたから、後輩に対して真っ直ぐに向き合う事はしてこなかった。

「男先輩、私の事を好きじゃなくてもいいです。嫌いじゃなかったら、私を彼女にして下さい」

その時の俺に、彼女を拒絶する理由は見当たらなかった。

失恋の傷を少しでも癒すためと言えば後輩に対してあまりに失礼だけど、実際のところその想いが無かったとは言えない。

こうして俺と後輩の交際は始まった。



90 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:34:39 ID:V.2kCN2g [6/17]


あれほどひどく傷ついたつもりだった失恋も、所詮は高校生の浅はかな恋心だ。

次第に傷は薄れていき、そしてやがて後輩の事を本心から愛しく想うようになった。

その頃から朝に幼馴染が俺を迎えに来る事は無くなる。

「最近、元気になったね」

「まあな」

教室では普通に会話するが、やはり彼女持ちとなれば近寄り難かったのだろう。

俺は、幼い頃から何でも思うように手にしてきた幼馴染を少し出し抜けたような優越感を覚えていた。

しかしそんな日々は突然に終わりを告げた。



91 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:35:09 ID:V.2kCN2g [7/17]


後輩の両親が転勤でヨーロッパに移住する事になったのだ。

卒業を控えたような歳であれば、彼女だけが日本に残る事も可能だったかもしれない。

でも後輩はまだ一年生だ、両親について行く他に選択肢は無かった。

「男先輩…向こうの高校を卒業したら必ず帰ってきます、その時まで待っててくれますか」

涙声で俺に告げる後輩。

でも俺は距離も時間も遠過ぎると思った。

遠距離恋愛など、そう続くものではない。

彼女が日本を発って独りになった俺は、再度訪れた失意の日々を過ごす事になる。



92 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:35:41 ID:V.2kCN2g [8/17]


嫌いあって別れたわけでない失恋というのは厄介なものだった。

新しい恋を探す事もできず、追いかける事もできない。

そしてまた、幼馴染が俺を迎えに来るようになった。

「元気出して、男…」

「…出ねえよ」

こんなにもぞんざいな態度ばかりとる俺に、なぜ幼馴染は構おうとするのだろう。

古くからの顔見知りだという事、誰よりも仲良く遊んでいた過去がそうさせるのだろうか。

本当は解っていた。

そこには密かな想いがあるのだという事。

でも俺は彼女の気持ちに応える気にはなれなかった。

相変わらずの身勝手な心のわだかまりと、今さら都合良くそんな関係になれるものかという変な拘りがあったから。



93 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:36:25 ID:V.2kCN2g [9/17]


そして俺は気を紛らわせるつもりで、かねてより興味のあった二輪に手を出す。

学校には内緒で免許を取得し、オンボロでもよく走るレプリカタイプのバイクを悪友から譲り受けた。

休日の昼間は峠を駆け回り、夜は高速道路で車間を縫って走る。

周りの迷惑を省みない、無謀な運転を繰り返した。

走っている間だけはツイていない境遇を忘れられる、そんな錯覚を感じていた。

馴染みの峠でも『アイツの走りはキレてる』と囁かれるほど速く、無謀な走行。

実際、死んでしまうならそれでもいい位に考えていた。

だから当然だったんだ。



94 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:37:04 ID:V.2kCN2g [10/17]


俺は事故をした。幸いにも相手はいなかった。

タイヤのグリップが限界を超え、滑り落ち投げ出された俺の身体が叩きつけられたのは、アウト側の擁壁。

次に目を覚ましたのは病院のベッドの上、丸一週間も昏睡していたらしかった。

一命はとりとめ、四肢を形として失う事も無かった。

ただ左の手足には軽い麻痺が残るだろうと、医者は言った。

こうして俺はロクなものでは無かったとはいえ、また心の拠り所を失ったんだ。

そして入院してひと月ほど経った今日、病室に幼馴染が見舞いに来た。



95 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:37:36 ID:V.2kCN2g [11/17]


「ザマ無えだろ?お前、バイク危ないからやめろって言ってくれたのにな」

「男…」

「笑えよ、マトモに左手も動かなくなっちまった」

「笑えないよ、そんな男を見て」

彼女は感覚も乏しい俺の左腕に触れて言う。

「大丈夫…私がついてる」

その一言が俺の心を抉った。

でもそれは今までの受け止め方とは違うものだった。

「なんで…お前、俺のところへ来るんだよ。俺は今までずっとお前を軽んじてきたのに」

情けなくも涙が溢れた。

ずっと意地を張ってきた幼馴染相手に、俺はついに弱い心を見せてしまった。

本当は意地を張る心こそが弱かったのかもしれないけれど。



96 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:38:18 ID:V.2kCN2g [12/17]


「幼馴染…俺についてちゃ駄目だ。お前まで不幸に巻き込んじまう」

「嫌だよ、私は男を見捨てたりしない」

幼馴染が俺を抱き締める。

「私、男が好き。ずっと好きだった」

あんなに冷たかった俺を、こんな身体になった俺を、それでも好いてくれる幼馴染。

俺は過去を悔いた。

つまらない自尊心に拘り彼女の想いに応えなかった自分を。

そして今、都合よくも彼女の気持ちを受け入れようとしている事を認めた。

涙を止められないまま、自由のきく右腕だけで彼女を抱き返す。



97 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:39:07 ID:V.2kCN2g [13/17]


そして俺は、今までで一番身勝手な言葉を吐いた。

「俺にはもう、お前しかいないんだ…」

彼女は小さく「うん」と答えた後、数秒して身体を離すと小さく溜息を落とした。

少しの間、二人の視線が泳ぐ。

「あ、スズメ…」

病室の窓枠に一羽のスズメがとまっている。

幼馴染はそれに左手を延べて、右手で自分の髪を一本ぷつりと抜きながら「おいで」と言った。

「…嘘だろ」

スズメが羽ばたき、彼女の手にとまる。

「昔、流行ったおまじないなの」

そう言いながら幼馴染は寂しそうに笑った。



98 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:39:37 ID:V.2kCN2g [14/17]


「髪を一本抜きながら願い事を声に出すと、叶うって。小学校の頃に女子の間で流行ったわ」

彼女は窓辺に歩むとスズメを放し、背を向けたまま外を眺めている。

「…消去法なんだね」

「え…?」

「俺にはもう私しかいないって、さっき言ったでしょう?」

「それは…」

言い訳はできなかった。でも自分の心は自分で解る。

こんなにも良くしてくれる幼馴染を、今の俺は心から愛しく想っている。

それなのに言葉はまだ薄汚い意地を張っていたのだ。

「…ごめん」



99 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:40:08 ID:V.2kCN2g [15/17]


「ずっと…ね、男にだけは本当の意味で振り向いて欲しかった」

「幼馴染…」

「でも、無理なんだね。消去法で私を選んだ貴方は、いつかまた違うモノを見つけてしまう」

くるりと俺の方に向き直った幼馴染の頬には、雫が伝っている。

「…その時、また男は私から離れてしまうんだね」

「そんな事ない」

こんな状態の俺を抱き締め、見捨てないと言ってくれた幼馴染。

だから俺はもう、絶対に離れるつもりなど無かった。

でも言葉にしなければ、それは伝わらない。

「幼馴染…俺は」

「男、お願い」

彼女がまた、ぷつりと髪を抜く。

「私のものになって」



100 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:40:40 ID:V.2kCN2g [16/17]


当たり前だ、だって俺は今お前に告げようと思ったんだカラ。

「幼馴染…好きだ」

消去法じゃナク、心から好きだカラ、俺はズット幼馴染の傍にいるンダ。

「男、左腕が不自由でもいいの。私が貴方を守ってあげる。何も心配しなくていい」

「…うん」

良カッタ、最初カラコウスルベキダッタンダ。

「貴方は、私だけを見てくれたらいいんだからね」

ナンデモット早ク気付カナカッタンダロウ、馬鹿ダナア俺ハ。

「うん…幼馴染、大好き」

アア、幸セ。

ズット、幸セ。

ナノニ何デ、俺ハ泣イテイルンダロウ。


【おしまい】


140 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/12(土) 18:52:24 ID:1vXax0TU [2/8]

【貝殻の恋】

「もう、どのくらいですか」

「こっちは…そうだな、三年位かな」

少し冷たくて強い風が吹く砂浜に、二人分の足跡を刻みながら僕らは歩いた。

「そっちは?」

「もう四年目になりました」

足を水に浸すには季節が遅い。

砂の渇いたところを選んで少し蛇行しながら、ゆっくりと進んでゆく。



141 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/12(土) 18:52:55 ID:1vXax0TU [3/8]


「寂しいもんだよね」

「そうですね…。なにより段々と平気になってくるっていうのが、一番寂しいです」

「全くだな」

波の具合で出来たのだろうか、砂浜の質が少し変わった。

細かな砂というより、ちょっと砂利に近い粗い粒子が集まった場所。

ここなら腰をおろしても、服が砂まみれになる事は無さそうだ。

僕らは並んで、そこに座った。



142 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/12(土) 18:53:34 ID:1vXax0TU [4/8]


「最近でも連絡はあるの?」

「ごくごく、たまーに」

「それは余計、タチが悪いね」

「本当ですよ。…そっちは?」

「さっぱりだよ、もしかして幻だったのかと思うくらい」

数年前にはふた組のカップルとして、共に旅行をした事もある仲の四人だった。

今、一緒に歩くひとつ年下の彼女と僕の二人は、それぞれの相方の仕事の都合で取り残されてしまった言わば残り物同士。

「もういっそ、私達で幸せになっちゃいますか?」

「…悪くない話だな」

少し心臓が強く鳴った。

見れば彼女も落ち着かない様子で、右手の指で砂利を弄っている。



143 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/12(土) 18:54:12 ID:1vXax0TU [5/8]


座った周りの砂利浜に混じるたくさんの貝殻。

彼女はその中のひとつ、二枚貝の片割れを手に取り、ぎゅっと握った。

「今…私が手に取った貝殻、見ました?」

「ああ、なんとなく」

「じゃあ、その片割れ…探してみて下さい」

そんな無茶な。

砂の数ほどじゃなくても、同じ種類に見える貝殻だって無数にある。

たぶんそのひとつひとつが全部、微妙に違って合うわけがない。

僕はそう思いながらも、少し慎重に本気で同じくらいの大きさのものを探した。



144 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/12(土) 18:54:55 ID:1vXax0TU [6/8]


「あはは、がんばれー」

確かこのくらいの大きさだった、と思う。

「じゃあ、これ」

「はいはーい、では合わせてみまーす」

彼女は僕の手からそれを受け取ると「せーの」と呟きながら二つを合わせた。

「…違うね」

「はい、ちょっとずれてますね」

「残念」



145 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/12(土) 18:55:26 ID:1vXax0TU [7/8]


口にしてはいないけど、きっとこの行為には何らかの願掛けがあったに違いない。

でも、そう上手くいくはずが無いんだ。

だけど次に彼女が言った言葉は。

「じゃあ…私達、恋をしましょう」

ああ…そうか。

別々の貝の片割れずつでも、ぎこちなくとも、今この二つを選んだ事を運命だと考えるなら。

それは大きな問題じゃないのかもしれない。

「…随分と勝ちが見えた賭けだな」

「そりゃそうですよ、告白のつもりでしたから」


【おしまい】


ここからはSS深夜VIPのスレ「みんなで文才晒そうぜ」への投稿レス集です。

924 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/29(金) 10:47:35 ID:npRU7yXE

【お題:紅葉】

鮮やかに染まる山間の渓流。
紅に、黄色に、橙色に色づき鮮やかさを競う木立の群れの中、緑を残す常緑樹がまばらに混じってコントラストを強調している。

晩秋に葉が色づくのは、それまでの光合成で葉に溜め込んだ栄養素が変質するからだという。
葉を落とす前にその成分を取り込みやすい形にして枝に戻し、翌春に新芽が開く際の糧とするそうだ。
いわば今この景色を彩る木々の葉は、一年弱の役割を終えるために最期の命を燃やさんとしているのだろう。

花も葉も、散り際が美しいとはよく言われる事だ。
実を結ぶために花粉を受け、役割を終えて満開を過ぎる花もまた秋の葉に同じ。
それは葉一枚、花一輪にしてみれば等しく最期の輝きに他ならない。

ならば人間はどうだ。

新たな命という実を育むために花を咲かせる、その若者達の姿は確かに美しいだろう。
だが、葉を散らさんとする晩年に鮮やかに燃える事は難しい。

そして今、それを切なく想う私は既にその時期に近付いているのだ。

だから少しでも鮮やかに、似つかわしくなくとも華やかにありたい。

私はもう一枚、谷の風景をファインダーで切り取った後、車へと向かう。
息子には笑われたオープントップのクーペだが、孫は目を輝かせて褒めてくれた。

その助手席に座り、散り落ちる椛の葉を掴もうと手を延ばす老いた妻は、まだ近付く私に気付いていない。
ケースにしまいかけたカメラを再度構え、ファインダーに彼女を捉える。

私はその横顔を美しいと思った。



949 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/12/20(金) 09:48:07 ID:XDy1Oyf.

【お題:一週間】

既に戦の幕は切って落とされたのだ。

躊躇う事は許されない。戸惑っている暇も、再考する権利も与えられてはいない。
震える足に無理矢理でも力を吹き込んで、ただ前へ歩む。

自分の代わりなど幾らでもいる。歩みを止めれば追い越され、押され、倒れこんでも手を貸す者はいないだろう。

この孤独な行軍において共に歩みを止めてくれるのは、アスファルトの上に月明かりが描いた、自らの影くらいのものだ。

だが、いくらそう自分に言い聞かせて決めたはずの覚悟でも、思うほど強いものではない。

あがる火の手を潜り抜け、その背の重荷に水中へ没しそうになりながらも対岸に辿り着く。
その頃には最初の覚悟など、欠片でも残っていればいい方だ。

息を切らせつつ、それでも脇目をふる事など許されない。

例え目の端に捉えた大樹の木漏れ日が「少し休めよ」と甘く囁いた気がしても。
きっとその先にあるはずの金色の草原を脳裏に描いて、「まだいける」などと強い言葉を自らに唱える。

そしてようやく終わりを迎える、この行軍。

微かに鼻腔へと届く、懐かしい土の香り。
その大地を少し湿ったものとしているのは昨夜の雨か、忘れかけていた涙か。

柔らかな日の光に照らされて、やがてそのぬかるみは渇いてゆく。
戦いは終わった、今はただ傷を癒そう。


例えこの平和が仮初めのものであっても。


例え明日、再び出征の朝を迎えるとしても。



975 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/09(木) 10:37:55 ID:YRPmT62c [2/2]

【お題:1(イチ)】

明日、君と結ばれる。

別々の道を歩んできた僕らが、別々の個性の中に大いに通ずるところを見出して、惹かれあった。
その結果、別々の道はいつしか隣り合った二筋の線となり、三年の時を経てついにひとつに纏まるのだ。

でもこれからも僕らはあくまで別々の一個人であって、干渉すべきでない部分も存在して当たり前。
そこを誤れば僕らの道の纏まり方は『混ざる』のではなく、いつか離れてゆきかねない『交わる』に留まる事になる。

通うところがあるだけで、違う個性。
理解できるだけで、心の奥底ではきっと別のものであろう感性や価値観。
失くせば替えるものなど無い、互い。

そんなたくさんの二つずつが、一つ屋根の下で暮らし始める。
軋む事も、ずれを生じる事もあるだろう。

でもいつか同じ屋根の下、二つずつが三つずつ、四つずつになればいい。
そしてそれらが歪にも一つの、同じ幸せを育みあえたなら、それがいい。




50:以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/17(月) 19:04:29ID:FOzAegtk


【お題:麻薬】


いいか? 古臭いと、時代遅れだと罵るなら好きにするがいい。

ただしそいつはこれから三分間、まずは最初のナンバーだけでも、耳をつんざき腹わたをひっくり返すアンプの音圧に耐えてからにしてくれ。
それで伝わらないならそれまで、お前にゃ合わなかったってだけの話、好きに罵倒してくれて構わない。

例えば酒、例えば異性、例えば喧嘩、人の感情や精神を昂らせる要因は様々ある、それ位は理解できるだろう?

だけどコイツはちょっとレベルが違う。

お前に体験しろとは言わないし、決してお勧めもしない。何故ならコイツは違法だし取り返しのつかない行為だからだ。

でも常軌を逸したその感覚は、時に常軌を逸した旋律を生んでくれる。

これからお前が味わうのは、その力を借りた俺が可能な限りその力を具現化した音達。文字通り命を削って吹き込んだ、法を外れたメロディだ。


この前、僅か10歳だという少女が俺の元に駆け寄って『貴方の曲に勇気を貰った』って言いやがった。

薄汚れた俺が、精一杯に輝いたふりをして表現したナンバーが、濁りひとつない彼女に力を与えたなんて余りに出来の悪いジョークみたいだろ?


だけどその後、涙が止まらなかった。


決して褒められた物じゃない、ダーティな昂りを得て作った俺の魂の欠片達は、汚れてなんか無かったらしい。


いや、いいんだ、感傷的になっちまった。


だから三分間だけ時間をくれよ。
きっと最高の中毒性と暴力性を持ちながら決して身体は蝕む事の無い、世界最高のドラッグだと約束しよう。

近い将来、俺がオーバードーズでおっ死んだら、どうぞ笑ってくれ。
俺の遺すドラッグに心を蝕まれた奴らが、運び出される俺の棺が見えなくなるまでコールしてくれたら、それでいい。

時代遅れでも、俺はその言葉通りに生き、そして殉ずるんだよ。


さあ! イントロだ、コールを! 力の限りのコールを!


「SEX! Drug! Rock'nRoll!」

「SEX! Drug! Rock'nRoll!」

「SEX! Drug! Rock'nRoll!」



65:以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/22(土) 21:03:37ID:.nUhhiM6


【お題:消失】


「確かにあったのだよ、それは。……最初から、その姿を覆い隠す箱と共に」


上官は唐突とも思える切り口から、私の問いに答えた。


「箱……ですか」

「ああ、大層な装飾が施され、厳重な鍵がかけられた箱だ」

しかし続けて彼は言う。
その箱の中身である『それ』は、まだそこにあるのかどうかは判らないと。


「歴史の中で幾度となく争いが起き、そして終わった。箱の中身を求め、また護るための争いだった。……だが争いの終わりに『それ』が護られたのか奪われたのかは結局判らないのだよ」


どちらが奪う側なのか、護る側なのか。始まりがどこにあったのか。『それ』は誰が作ったのか、今でもどこかに存在するのか。


「その全てが、もう判らないのだ。……だが今、我々はここに在る」


そこまで聞いて、私はようやく多少の合点がいった気がした。

大事なのは箱の方なのだ。

その内に『それ』があるのかどうかを曖昧にする、その箱こそが我々の存在理由。


「もしかして『それ』は最初から……」


思わず想いが口をつきそうになる。
しかしその続きを声に出す事は自己否定にさえ繋がりかねない。

言葉を途切れさせた私に背を向けて、上官は静かに「征け」と呟いた。


「全軍に告ぐ! 国境を越え南進せよ! 今この時を以って我が国は宣戦を布告する!」


護るための戦いか、奪うための戦いなのか、知らないままに私は死地へ赴く。

例え既に箱の中身が失われていようとも。そう、最初から今まで『それ』を見た者などいないとしても。



90 名前:以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/01(土) 03:19:15


【お題:一撃必殺】


視界がひっくり返る、いや、自らひっくり返したのだ。

雲にも届こうかという高度で、魚の腹を思わせる機体の底面を太陽に向ける。そして操縦桿をぐいと引いた次の刹那、愚鈍に海原を横たわる醜い鉄の鯨の背が正面に見えた。

周囲で高射砲が炸裂している。しかし上着の裏に縫いつけた手作りのお護りがある以上、当たりはすまい。


あと少し、軌道を修正し固定できれば間違いない。

狙うは鯨の心臓部、そこへ通ずる排煙筒。
見る間に大きくなってゆく憎き米艦の輪郭に、己が命の刻限を知る。


父上、今も仏間の卓袱台の前で、口を一文字に結び座しておられるのでしょうか。どうか今、最期の時だけは幼き日のように『父ちゃん』と呼ばせて頂きとう御座います。

母上、貴女の作る牡丹餅が何より好きでありました。旅立つ日、それを皿いっぱいに盛りながら『めでたい、めでたい』と唱える貴女の目が濡れていた事、この愚息は気付いておりました。

姉上、庭の柿の木に登り、まだ熟れる前の実をかじった日が昨日のように思えるのです。料理の不得手な貴女の事、私は天からいつも心配しているとお心得下さい。


そして君よ、駅で別れし愛しき君。


どうか笑顔で送ってくれと、見えなくなるまで万歳をしてくれと頼んだはずだ。なのに思い出すのは涙化粧、行かないでくれと袖を握る君の姿ばかり。


嗚呼、二十年に満たぬ我が人生は、今この米艦を沈めて幕を閉じるのだ。


一撃必殺、必中轟沈。

あと僅か、ほんの軽く操縦桿を引──



147 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/03/15(土) 22:58:00 ID:px39WxlA [2/2]


【お題:頬擦り】


親が我が子に頬ずりをする。その温もりを、絆を確かめるように。

子がある程度の歳にもなれば、父親の頬ずりは「髭が痛い」だとか文句を言われる対象にさえなるが、それでも頬ずりをできる親子の関係は決して希薄なものではない筈だ。


血の繋がりはなくとも、愛すべき家族の一員たるペットに頬ずりをする事もあるだろう。

多くの種では人のそれとは違う、ふさふさとした毛に覆われた彼らの頬。

しかしそこで確かめられるのは、やはり互いの心の絆に違いない。


有機質か無機質かに関わらず、何か思い入れのある物に頬ずりをする事もあるかもしれない。

例えば丹精込めて作った野菜や、ずっと憧れ続けた楽器や車。

冷たく硬い感触の素材で出来ていようと頬を寄せてしまうのも頷ける。


若き恋人達が、結ばれて家族となったばかりの二人が、それぞれの居場所を確認するように頬を併せるのは、当たり前を過ぎて本能とも思える事だ。

長く連れ添った熟年の夫婦がそうしていても、微笑ましいばかりで何ら不自然さなど感じない。


頬に覚える感触や温度がどうであろうとも、その行為により心に伝い湧き上がるのは愛しさや喜びといった、優しい感情。

頬ずりとは、幸福や充足感を得るためにとる仕草である筈だ。


だから今、私の頬に触れているごつごつとした皺だらけの冷たい肌から届く感情も、悲しみでは無いと信じたい。



「ありがとう」



母が私にくれた、最後の言葉。

絞り出した掠れ声は、とてもそれを唱える唇が私の耳元にあるとは思えないほど小さく弱々しいものだった。


心拍の途絶を告げる機械音が部屋に響き、付き添っていた医師が母の手首に指を当てる。

私の目から零れ落ちた温かい雫が、互いの頬の隙間を濡らしてゆく。


「ありがとう、おふくろ、ありがとう」


幼な子が母を真似るように、私はただ彼女が遺した言葉を繰り返した。

冷たくてごつごつした感触の、優しい頬ずりと共に。



233:以下、名無しが深夜にお送りします 2014/04/16(水) 20:50:40ID:HH2IkReI


【お題:三分】


「今日は本当、楽しかった。思い出に残る日だね」


彼女は屈託の無い笑顔を見せてそう言った。

しかしその心の内には、本当に一点の曇りさえも無いのだろうか。


僕の転勤はもう来月に迫っている。

同期の仲間からは「栄転だな、憎いぜ」と肩を叩いて野次られたが、向かう先は県境をいくつも越えた土地。

車も持たない彼女にとっては、途方もなく遠いところに感じられるに違いない。

だからこそ今日という日を『思い出に残る』と、自分に言い聞かせたのではないだろうか。


「そろそろ帰らなきゃ、明日は月曜だよ」


時間は残り少ない。


今日一日のプランは、まずまず良かったらしい。

何度か通った店だけに、食事もいつもの気に入った味だった。

その店を出る前に化粧室で鏡を見た限り、髪型の乱れも気になる程ではなかったと思う。

ポケットの中なら、さっきから何度も確認した。

昨夜の内に言葉も決めた、用意したはずだ。


仕事も遊びも段取り七分とはよく言うが、そこまでは達している。


「大事な話、聞いてくれるか」

「なあに、改まって。良い話? それとも悪い話?」


僕は踏み出す。

今日をただの思い出の一日ではなく、二人の記念日にするために残された三分の道へ。

その先を彼女と手をとり、共に歩むために。



274 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/05/23(金) 01:14:43 ID:DPd21ZMQ



【お題:裏切り】



「糞ったれ、よりにもよってまあ……」


僕は日差しに焼ける楕円形の鉄タンクに、へこみができない程度に力を加減してげんこつを入れた。

こぁん、と響く音がいかにもその中身の少なさを物語っている。


とはいえこの鋼鉄の彼女が拗ねている理由は空腹では無いはずだ。

念のためハンドルを握りその身体を揺すってみると、ちゃぷんと液体が跳ねる音が聞こえた。


(いっそガス欠くらい単純な理由でへそを曲げてるなら、その方が楽なのに)


彼女の心臓に送られるガソリンの霧、その濃さがどうしても整わないのは長く解決しない持病というべき症状。

ガレージを出る前に短く調子を利く時はいつも機嫌が良いくせに、暫くその背に跨って駆けてみると決まって四千回転から上に達さなくなる。

そして挙句の果てには「ぶすん」と悪態をついて鼓動を止め、それからは毎度この有様だ。


しかし今日の不貞腐れようは、いつにも増してたちが悪い。

何しろこの場所は、いくら見渡しても茶色の大地にキャベツと思われる丸い緑が規則的に列ぶだけの畑、畑、田んぼの向こうにまた畑という片田舎。

普通なら三十分も歩けばある程度の得物を借りられるガソリンスタンドが目に入るものだが、こうも明らかに期待がもてない景色の中にあっては二百キロ台半ばの大女を押す気になどなれるはずがない。


「悪かったよ、あの若い娘は近所の買い物用に買った原付なんだ。僕は今までもこれからも……」


キックスターターにかけた足に力を籠めながら、僕は言い訳を並べたてる。


「君ひと筋だって!」


ささやくというより、声を荒げて告げた殺し文句。それと同時に繰り出す、渾身のひと蹴り。

しかし彼女は「まだ許さない」と嘲笑うかのように、めっき色に輝く排気筒からくぐもった不発音を漏らすだけだった。


411 :以下、名無しが深夜にお送りします:2015/03/07(土) 15:31:43 ID:aV6gFL0U



【お題:ビール】



我ながら馬鹿げた事に労力を使ったと思う。

耳が痛くなるほどに冷え切った空気の中、雪かき用の大きなスコップで新雪を集めては一輪車で運び、土手のように積み上げ重ねる。そんな作業を二時間もかけて作りあげたのが、大人ひとりが楽に入れる大きさのかまくらだ。寒かったのは最初だけで、作業を終える頃には上着だけでなくセーターまで脱いでいるほど懸命に働いた。

そして更に小一時間を費やし中に一通りのものを運び込んだ頃には時刻は夕方に近づき、白い厚化粧に埋もれた周囲の景色は青紫に染まっていた。ここは県内でも一番といっていい豪雪地帯、しかし私自身はこの地域の住人ではなく親戚の家を三日ばかり預かっているだけだ。

だからこそ目の前を覆う雪景色に、こんな子供じみた真似を堪えきれなくなった。しかしながらその努力の目的は子供に例えるには少々不純なものかもしれない。

暖をとるためを兼ねておこした七輪の炭が赤黒くちょうど良い火加減に落ち着いている事を確かめて、僕はそっと網の上に肉を置いた。最高級とは言い難いがそれなりに値の張った牛肉は程よく霜降りの模様を呈しており、ちりちりという音をたてながら少しずつ火に炙られてその身を縮めてゆく。裏返すのは一度だけ、そう心に言い聞かせながら待つ事およそ二分間。なんと長い事だろう、喉がごくりと鳴る。

重労働をこなした身体が求めているのは食べ物だけではない、むしろ渇きを潤す命の水こそを一番に欲している。それを知りながら自身で焦らしているのだ、もしかしたら私には虐げられて悦ぶ趣味があるかもしれない。

慎重に肉を裏返すと網の型が薄っすらと焦げ目に残る良い具合、反対の面は軽く炙る程度で良さそうだった。

座る傍らにこしらえたほぐしたままの柔らかい雪山に左手を突っ込み探ると、すぐ硬いものが指に触れた。半ば乱暴に抜き出したそれが纏う雪も拭わず、反対の手で栓を開ける。

もうここまでくると欲望は止まらない。

七輪の横に置いた小鉢から粗挽きの岩塩をつまみ乱雑に肉にかけると、その粒を零さないよう箸で巻く風にして網から上げる。まだぶつぶつとたぎる脂に二度息を吹きかけて、それでも熱いと知りながら口に放り込んだ。

熱い、美味い、甘みと旨みだけでできているかのような肉と、わずかに存在を示しつつ主役をひきたてるに徹する塩。そう大きくもない身からこんなに汁気が出るのか、熱さにきちんと閉じられない口から溢れてしまいそうだ。

しかしまだだ、私の身体は最も欲するものを得られていない。

噛む必要などほとんどない肉を喉の奥へ追いやる寸前、左手に持った缶に口づけ一気に呷る。脂の旨みに満たされていた口が、香ばしい麦の香りに洗われてゆく。熱さはが冷たさに塗り替えられてゆく。

ちくちくとした炭酸の刺激に喉が驚き、それでも喜びの音を鳴らしている。アルコールを含む飲料は水分の補給に向かない、一気飲みなどこの歳になってするものではない、そんな事は心からどうでもよかった。

ごくんと最後の一口まで飲み干して目尻を指で拭うと、私はただ幸せの溜息をついた。

さあ、二回戦だ。


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テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

  1. 2013/10/16(水) 13:49:57|
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フリーワンライ『採用お題:世界五分前仮説』



僕は二十数年前、ちょっと厳しくも頼りになる父と、その二歩後ろをついてゆく控え目な性分に見せかけて実は我の強い母の間に生まれ、ごく平凡な家庭で育った。

僕より四年遅れて妹ができ、十年ばかり前にはそりゃあ生意気な奴だった。でも今はお互いに大人になって、世間並みに仲の良い兄妹だと思う。

僕も妹も同じ地元の幼稚園を卒園して、同じ小学校に通った。その後、妹はバス通学くらいの距離にある中高一貫校へ進んだが、僕はそのまま地元の市立中学に通った。

たいして勉学に励む事もしなかった僕は商業高校に入学し、専門学校を経て社会へ出た。

車の部品を卸す商社、規模的にはばっちり中小企業に類される職場だが、このご時勢にあっても経営は順調なようで今のところ倒産の危険性は薄そうだ。


ここまでは主に自分だけの話、人生における相方の事はまだ語っていない。

高校で一度、一年間ほど続いた恋愛を経験した。

専門学校では麻雀やパチンコといった遊びを覚え、勉学以外ではどちらかというとそういった方面ばかりに励んだ気がする。

その後、合コンで知り合った女性と二人ほど付き合ったが、今いち長続きはしなかった。

結局のところ僕の人生の伴侶となった人は、もっと身近にいたのだ。

同じ職場で事務員をしていた女性。目立たないけれど気だてがよく、まるで自分の母のように相手をたてて後ろに控える人だった。

いつの間にか彼女と話している時が一番リラックスしている事に気づいた僕は、半ば強引にドライブに誘ったんだ。

心から好きな邦楽アーティストが偶然にも同じで、初ドライブから長距離を走破してしまった記憶がある。

そこから距離を詰めるのはさして難しい事ではなかった。


そして三年を経て二人は結ばれる、それが今から四年前のこと。結婚二年目にしてできた娘も、日々すくすくと成長している。

仕事はまずまず順調、給料は手取りにすると年齢×万には少し届いていないが、まあ普通だろう。今日も車の部品を積んだ営業バンで、得意先を回っている。


17時帰社予定、18時半頃退社予定、家につくのは19時というところか。それもいつも通りの運びだ。

次に寄る予定の取引先までは、まだ10分ほどの移動が必要だろう。

慣れた道を走りながら、ぼんやりとそんな今までの人生を振り返る。そんな気になったのは、つい5分ほど前にカーラジオから流れてきたパーソナリティが語った話題のせいだった。


『世界五分前仮説』というのをご存知ですか──


確かパーソナリティの女性はそんな単語を口にした。

『この世界ができたのはつい5分前の事で、我々は皆つくりものの記憶を与えられているにすぎないかもしれない』という突飛な説で、どちらかというとそれが真実かどうかよりも、その説を完全に否定する事ができないという点を検証するための思考実験に近いものだ。

だからつい過去の事を考えた。なにかその説を覆す根拠がないか、想いを巡らせてみたのだ。


記憶が全て植えつけられたものだったとしたら、過去というものに意味は無い。僕を知る全ての人が、僕の記憶と矛盾しないそれを与えられていれば何も不都合は生じないだろう。

ならば遺伝子はどうか。僕の遺伝子は僕の子に引き継がれている。そして僕には父と母の、彼らにはまたその両親の血が分け与えられている。それはずっと遡れば猿になり、もっと原始的な哺乳類になり、いつかは海に帰るのだろう。

だがそれさえも過去から現在に続く──と思い込まされている──生態系が全て作り物であれば、証明にならないのではないだろうか。

僕にはよく解らないけれど、現代科学をもってすれば物質の年代を測定できるらしい。その技法を用いればあるいは。

いや、その技術もそれによってもたらされる検証結果も、予め与えられたプログラムだとしたら意味をなさない。

少なくとも言えるのは我々を作り出し記憶を与えた主がいるのであれば、その者達の世界は5分前に始まったものではない……という事だけだ。だがそれは僕の生きるこの世界の証明にはならないだろう。


暇潰しにそんな想いを巡らせる内、取引先は目の前に近づいていた。今ひっかかっている信号が青になれば、あと数十秒とかからない。

ふと助手席に置いたスマートホンのLEDが点滅していることに気づく。まだ信号が変わるには時間がかかると判断し、僕はそれを手に取った。

『新着メッセージ1件』

ロック画面のままSNSアプリの通知を右にスライドすると、直接トーク画面が開かれる。

『今日は冷えるから今夜はお鍋にするよ、早く帰っておいでね!』

娘の写真が添えられた短いメッセージ、その後ろに続けて投げキッスのスタンプ。思わず口もとが緩んだ。

この記憶が作り物である疑いなど否定できなくてもいい。僕を、彼女らを生んでくれた存在があるなら、いっそその者達に感謝したいくらいだ。


信号が青に変わる。ブレーキペダルから足を離し、アクセルを軽く踏む。たいして加速する間もなく、取引先の駐車場に入るためのウインカーを弾く。

暇潰しは終わりだ、注文品の降ろし忘れに気をつけなくては。うっかり届け忘れなどしてあとで二度手間など踏んでいたら、せっかくの鍋が冷めてしまう。

僕は5分以上前から馳せてきた考えごとに終止符を打って、左後方ミラーを確認した。

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  1. 2000/01/17(月) 15:31:45|
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