がらくた処分場

スレ『ショートショート深夜VIP』・『みんなで文才晒そうぜ』投稿作品

これらはSS深夜VIPのスレ「ショートショート深夜VIP」に投下させて頂いたものになります。


86 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:32:21 ID:V.2kCN2g [2/17]

【ハッピーエンド】

俺には容姿可憐な幼馴染がいる。

でも俺は彼女の事を恋愛の対象として見る事はできない。

こう言うとまるで軽い恋愛作品にありがちな設定のようだが、俺の場合は本心での事だ。

俺には心を寄せる女性がいた。

同じクラスの『女』だ。

淡い想いだった頃から数えれば一年間に渡り、小さな努力を積み重ねてきた。

甲斐あって自信過剰とも思えないくらい、良好な仲を築いていた。

休日に二人で過ごす事も幾度か叶った程だ。



87 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:32:56 ID:V.2kCN2g [3/17]


「なんだか今日は落ち着かないみたいだね」

朝、通学路を歩きながら幼馴染が俺に言った。

「まあな、ちょっと…思い切ろうと思って」

「…女さんの事?」

「いいだろ、別に」

幼馴染は成績も素行も、性格さえもすこぶる良い奴だ。家も比較的裕福で、非をうつところは無いと言える。

俺はそんな彼女が、少し疎ましかった。

俺だってそんなに恵まれない人間ではないつもりだ。でも幼馴染と一緒に居るとどうしても自分で比較してしまう。

そんなちっぽけでくだらない自尊心が、幼馴染を好きになれない理由だった。

そして俺はその日、ついに女に想いを告げる。

勝算は充分にある、明日からの薔薇色の日々を脳裏に描いての告白だった。



88 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:33:37 ID:V.2kCN2g [4/17]


「ごめんなさい。貴方はいい人だけど、そういうつもりでは見られないの」

彼女は迷う様子すらなく、拒絶の言葉を返した。

目の前は真っ暗、足下が崩れ落ちるような衝撃。

俺は女の前では演じきれていないだろう平静を装い、部屋に戻っても帰り道での出来事さえ覚えていない始末。

翌日、俺の様子に気付いた幼馴染が「気を落とさないで」と労りの言葉を掛けても、返事をする気になれなかった。

幼馴染は当然のように異性に好かれている。何度も告白を受けてはそれを断り続けている事は知っていた。

そんな彼女に今の俺の気持ちなど解るはずが無い、そう思ったから。



89 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:34:09 ID:V.2kCN2g [5/17]


数ヶ月、失意の日々を過ごした後それでも俺には次の春が訪れる。

かねてより俺に歩み寄ろうとしてくれていた『後輩』だ。

彼女が俺に好意を持ってくれていたのは何となく解っていた。

でも俺には想い人がいたから、後輩に対して真っ直ぐに向き合う事はしてこなかった。

「男先輩、私の事を好きじゃなくてもいいです。嫌いじゃなかったら、私を彼女にして下さい」

その時の俺に、彼女を拒絶する理由は見当たらなかった。

失恋の傷を少しでも癒すためと言えば後輩に対してあまりに失礼だけど、実際のところその想いが無かったとは言えない。

こうして俺と後輩の交際は始まった。



90 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:34:39 ID:V.2kCN2g [6/17]


あれほどひどく傷ついたつもりだった失恋も、所詮は高校生の浅はかな恋心だ。

次第に傷は薄れていき、そしてやがて後輩の事を本心から愛しく想うようになった。

その頃から朝に幼馴染が俺を迎えに来る事は無くなる。

「最近、元気になったね」

「まあな」

教室では普通に会話するが、やはり彼女持ちとなれば近寄り難かったのだろう。

俺は、幼い頃から何でも思うように手にしてきた幼馴染を少し出し抜けたような優越感を覚えていた。

しかしそんな日々は突然に終わりを告げた。



91 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:35:09 ID:V.2kCN2g [7/17]


後輩の両親が転勤でヨーロッパに移住する事になったのだ。

卒業を控えたような歳であれば、彼女だけが日本に残る事も可能だったかもしれない。

でも後輩はまだ一年生だ、両親について行く他に選択肢は無かった。

「男先輩…向こうの高校を卒業したら必ず帰ってきます、その時まで待っててくれますか」

涙声で俺に告げる後輩。

でも俺は距離も時間も遠過ぎると思った。

遠距離恋愛など、そう続くものではない。

彼女が日本を発って独りになった俺は、再度訪れた失意の日々を過ごす事になる。



92 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:35:41 ID:V.2kCN2g [8/17]


嫌いあって別れたわけでない失恋というのは厄介なものだった。

新しい恋を探す事もできず、追いかける事もできない。

そしてまた、幼馴染が俺を迎えに来るようになった。

「元気出して、男…」

「…出ねえよ」

こんなにもぞんざいな態度ばかりとる俺に、なぜ幼馴染は構おうとするのだろう。

古くからの顔見知りだという事、誰よりも仲良く遊んでいた過去がそうさせるのだろうか。

本当は解っていた。

そこには密かな想いがあるのだという事。

でも俺は彼女の気持ちに応える気にはなれなかった。

相変わらずの身勝手な心のわだかまりと、今さら都合良くそんな関係になれるものかという変な拘りがあったから。



93 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:36:25 ID:V.2kCN2g [9/17]


そして俺は気を紛らわせるつもりで、かねてより興味のあった二輪に手を出す。

学校には内緒で免許を取得し、オンボロでもよく走るレプリカタイプのバイクを悪友から譲り受けた。

休日の昼間は峠を駆け回り、夜は高速道路で車間を縫って走る。

周りの迷惑を省みない、無謀な運転を繰り返した。

走っている間だけはツイていない境遇を忘れられる、そんな錯覚を感じていた。

馴染みの峠でも『アイツの走りはキレてる』と囁かれるほど速く、無謀な走行。

実際、死んでしまうならそれでもいい位に考えていた。

だから当然だったんだ。



94 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:37:04 ID:V.2kCN2g [10/17]


俺は事故をした。幸いにも相手はいなかった。

タイヤのグリップが限界を超え、滑り落ち投げ出された俺の身体が叩きつけられたのは、アウト側の擁壁。

次に目を覚ましたのは病院のベッドの上、丸一週間も昏睡していたらしかった。

一命はとりとめ、四肢を形として失う事も無かった。

ただ左の手足には軽い麻痺が残るだろうと、医者は言った。

こうして俺はロクなものでは無かったとはいえ、また心の拠り所を失ったんだ。

そして入院してひと月ほど経った今日、病室に幼馴染が見舞いに来た。



95 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:37:36 ID:V.2kCN2g [11/17]


「ザマ無えだろ?お前、バイク危ないからやめろって言ってくれたのにな」

「男…」

「笑えよ、マトモに左手も動かなくなっちまった」

「笑えないよ、そんな男を見て」

彼女は感覚も乏しい俺の左腕に触れて言う。

「大丈夫…私がついてる」

その一言が俺の心を抉った。

でもそれは今までの受け止め方とは違うものだった。

「なんで…お前、俺のところへ来るんだよ。俺は今までずっとお前を軽んじてきたのに」

情けなくも涙が溢れた。

ずっと意地を張ってきた幼馴染相手に、俺はついに弱い心を見せてしまった。

本当は意地を張る心こそが弱かったのかもしれないけれど。



96 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:38:18 ID:V.2kCN2g [12/17]


「幼馴染…俺についてちゃ駄目だ。お前まで不幸に巻き込んじまう」

「嫌だよ、私は男を見捨てたりしない」

幼馴染が俺を抱き締める。

「私、男が好き。ずっと好きだった」

あんなに冷たかった俺を、こんな身体になった俺を、それでも好いてくれる幼馴染。

俺は過去を悔いた。

つまらない自尊心に拘り彼女の想いに応えなかった自分を。

そして今、都合よくも彼女の気持ちを受け入れようとしている事を認めた。

涙を止められないまま、自由のきく右腕だけで彼女を抱き返す。



97 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:39:07 ID:V.2kCN2g [13/17]


そして俺は、今までで一番身勝手な言葉を吐いた。

「俺にはもう、お前しかいないんだ…」

彼女は小さく「うん」と答えた後、数秒して身体を離すと小さく溜息を落とした。

少しの間、二人の視線が泳ぐ。

「あ、スズメ…」

病室の窓枠に一羽のスズメがとまっている。

幼馴染はそれに左手を延べて、右手で自分の髪を一本ぷつりと抜きながら「おいで」と言った。

「…嘘だろ」

スズメが羽ばたき、彼女の手にとまる。

「昔、流行ったおまじないなの」

そう言いながら幼馴染は寂しそうに笑った。



98 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:39:37 ID:V.2kCN2g [14/17]


「髪を一本抜きながら願い事を声に出すと、叶うって。小学校の頃に女子の間で流行ったわ」

彼女は窓辺に歩むとスズメを放し、背を向けたまま外を眺めている。

「…消去法なんだね」

「え…?」

「俺にはもう私しかいないって、さっき言ったでしょう?」

「それは…」

言い訳はできなかった。でも自分の心は自分で解る。

こんなにも良くしてくれる幼馴染を、今の俺は心から愛しく想っている。

それなのに言葉はまだ薄汚い意地を張っていたのだ。

「…ごめん」



99 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:40:08 ID:V.2kCN2g [15/17]


「ずっと…ね、男にだけは本当の意味で振り向いて欲しかった」

「幼馴染…」

「でも、無理なんだね。消去法で私を選んだ貴方は、いつかまた違うモノを見つけてしまう」

くるりと俺の方に向き直った幼馴染の頬には、雫が伝っている。

「…その時、また男は私から離れてしまうんだね」

「そんな事ない」

こんな状態の俺を抱き締め、見捨てないと言ってくれた幼馴染。

だから俺はもう、絶対に離れるつもりなど無かった。

でも言葉にしなければ、それは伝わらない。

「幼馴染…俺は」

「男、お願い」

彼女がまた、ぷつりと髪を抜く。

「私のものになって」



100 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:40:40 ID:V.2kCN2g [16/17]


当たり前だ、だって俺は今お前に告げようと思ったんだカラ。

「幼馴染…好きだ」

消去法じゃナク、心から好きだカラ、俺はズット幼馴染の傍にいるンダ。

「男、左腕が不自由でもいいの。私が貴方を守ってあげる。何も心配しなくていい」

「…うん」

良カッタ、最初カラコウスルベキダッタンダ。

「貴方は、私だけを見てくれたらいいんだからね」

ナンデモット早ク気付カナカッタンダロウ、馬鹿ダナア俺ハ。

「うん…幼馴染、大好き」

アア、幸セ。

ズット、幸セ。

ナノニ何デ、俺ハ泣イテイルンダロウ。


【おしまい】


140 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/12(土) 18:52:24 ID:1vXax0TU [2/8]

【貝殻の恋】

「もう、どのくらいですか」

「こっちは…そうだな、三年位かな」

少し冷たくて強い風が吹く砂浜に、二人分の足跡を刻みながら僕らは歩いた。

「そっちは?」

「もう四年目になりました」

足を水に浸すには季節が遅い。

砂の渇いたところを選んで少し蛇行しながら、ゆっくりと進んでゆく。



141 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/12(土) 18:52:55 ID:1vXax0TU [3/8]


「寂しいもんだよね」

「そうですね…。なにより段々と平気になってくるっていうのが、一番寂しいです」

「全くだな」

波の具合で出来たのだろうか、砂浜の質が少し変わった。

細かな砂というより、ちょっと砂利に近い粗い粒子が集まった場所。

ここなら腰をおろしても、服が砂まみれになる事は無さそうだ。

僕らは並んで、そこに座った。



142 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/12(土) 18:53:34 ID:1vXax0TU [4/8]


「最近でも連絡はあるの?」

「ごくごく、たまーに」

「それは余計、タチが悪いね」

「本当ですよ。…そっちは?」

「さっぱりだよ、もしかして幻だったのかと思うくらい」

数年前にはふた組のカップルとして、共に旅行をした事もある仲の四人だった。

今、一緒に歩くひとつ年下の彼女と僕の二人は、それぞれの相方の仕事の都合で取り残されてしまった言わば残り物同士。

「もういっそ、私達で幸せになっちゃいますか?」

「…悪くない話だな」

少し心臓が強く鳴った。

見れば彼女も落ち着かない様子で、右手の指で砂利を弄っている。



143 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/12(土) 18:54:12 ID:1vXax0TU [5/8]


座った周りの砂利浜に混じるたくさんの貝殻。

彼女はその中のひとつ、二枚貝の片割れを手に取り、ぎゅっと握った。

「今…私が手に取った貝殻、見ました?」

「ああ、なんとなく」

「じゃあ、その片割れ…探してみて下さい」

そんな無茶な。

砂の数ほどじゃなくても、同じ種類に見える貝殻だって無数にある。

たぶんそのひとつひとつが全部、微妙に違って合うわけがない。

僕はそう思いながらも、少し慎重に本気で同じくらいの大きさのものを探した。



144 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/12(土) 18:54:55 ID:1vXax0TU [6/8]


「あはは、がんばれー」

確かこのくらいの大きさだった、と思う。

「じゃあ、これ」

「はいはーい、では合わせてみまーす」

彼女は僕の手からそれを受け取ると「せーの」と呟きながら二つを合わせた。

「…違うね」

「はい、ちょっとずれてますね」

「残念」



145 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/12(土) 18:55:26 ID:1vXax0TU [7/8]


口にしてはいないけど、きっとこの行為には何らかの願掛けがあったに違いない。

でも、そう上手くいくはずが無いんだ。

だけど次に彼女が言った言葉は。

「じゃあ…私達、恋をしましょう」

ああ…そうか。

別々の貝の片割れずつでも、ぎこちなくとも、今この二つを選んだ事を運命だと考えるなら。

それは大きな問題じゃないのかもしれない。

「…随分と勝ちが見えた賭けだな」

「そりゃそうですよ、告白のつもりでしたから」


【おしまい】


ここからはSS深夜VIPのスレ「みんなで文才晒そうぜ」への投稿レス集です。

924 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/29(金) 10:47:35 ID:npRU7yXE

【お題:紅葉】

鮮やかに染まる山間の渓流。
紅に、黄色に、橙色に色づき鮮やかさを競う木立の群れの中、緑を残す常緑樹がまばらに混じってコントラストを強調している。

晩秋に葉が色づくのは、それまでの光合成で葉に溜め込んだ栄養素が変質するからだという。
葉を落とす前にその成分を取り込みやすい形にして枝に戻し、翌春に新芽が開く際の糧とするそうだ。
いわば今この景色を彩る木々の葉は、一年弱の役割を終えるために最期の命を燃やさんとしているのだろう。

花も葉も、散り際が美しいとはよく言われる事だ。
実を結ぶために花粉を受け、役割を終えて満開を過ぎる花もまた秋の葉に同じ。
それは葉一枚、花一輪にしてみれば等しく最期の輝きに他ならない。

ならば人間はどうだ。

新たな命という実を育むために花を咲かせる、その若者達の姿は確かに美しいだろう。
だが、葉を散らさんとする晩年に鮮やかに燃える事は難しい。

そして今、それを切なく想う私は既にその時期に近付いているのだ。

だから少しでも鮮やかに、似つかわしくなくとも華やかにありたい。

私はもう一枚、谷の風景をファインダーで切り取った後、車へと向かう。
息子には笑われたオープントップのクーペだが、孫は目を輝かせて褒めてくれた。

その助手席に座り、散り落ちる椛の葉を掴もうと手を延ばす老いた妻は、まだ近付く私に気付いていない。
ケースにしまいかけたカメラを再度構え、ファインダーに彼女を捉える。

私はその横顔を美しいと思った。



949 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/12/20(金) 09:48:07 ID:XDy1Oyf.

【お題:一週間】

既に戦の幕は切って落とされたのだ。

躊躇う事は許されない。戸惑っている暇も、再考する権利も与えられてはいない。
震える足に無理矢理でも力を吹き込んで、ただ前へ歩む。

自分の代わりなど幾らでもいる。歩みを止めれば追い越され、押され、倒れこんでも手を貸す者はいないだろう。

この孤独な行軍において共に歩みを止めてくれるのは、アスファルトの上に月明かりが描いた、自らの影くらいのものだ。

だが、いくらそう自分に言い聞かせて決めたはずの覚悟でも、思うほど強いものではない。

あがる火の手を潜り抜け、その背の重荷に水中へ没しそうになりながらも対岸に辿り着く。
その頃には最初の覚悟など、欠片でも残っていればいい方だ。

息を切らせつつ、それでも脇目をふる事など許されない。

例え目の端に捉えた大樹の木漏れ日が「少し休めよ」と甘く囁いた気がしても。
きっとその先にあるはずの金色の草原を脳裏に描いて、「まだいける」などと強い言葉を自らに唱える。

そしてようやく終わりを迎える、この行軍。

微かに鼻腔へと届く、懐かしい土の香り。
その大地を少し湿ったものとしているのは昨夜の雨か、忘れかけていた涙か。

柔らかな日の光に照らされて、やがてそのぬかるみは渇いてゆく。
戦いは終わった、今はただ傷を癒そう。


例えこの平和が仮初めのものであっても。


例え明日、再び出征の朝を迎えるとしても。



975 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/09(木) 10:37:55 ID:YRPmT62c [2/2]

【お題:1(イチ)】

明日、君と結ばれる。

別々の道を歩んできた僕らが、別々の個性の中に大いに通ずるところを見出して、惹かれあった。
その結果、別々の道はいつしか隣り合った二筋の線となり、三年の時を経てついにひとつに纏まるのだ。

でもこれからも僕らはあくまで別々の一個人であって、干渉すべきでない部分も存在して当たり前。
そこを誤れば僕らの道の纏まり方は『混ざる』のではなく、いつか離れてゆきかねない『交わる』に留まる事になる。

通うところがあるだけで、違う個性。
理解できるだけで、心の奥底ではきっと別のものであろう感性や価値観。
失くせば替えるものなど無い、互い。

そんなたくさんの二つずつが、一つ屋根の下で暮らし始める。
軋む事も、ずれを生じる事もあるだろう。

でもいつか同じ屋根の下、二つずつが三つずつ、四つずつになればいい。
そしてそれらが歪にも一つの、同じ幸せを育みあえたなら、それがいい。




50:以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/17(月) 19:04:29ID:FOzAegtk


【お題:麻薬】


いいか? 古臭いと、時代遅れだと罵るなら好きにするがいい。

ただしそいつはこれから三分間、まずは最初のナンバーだけでも、耳をつんざき腹わたをひっくり返すアンプの音圧に耐えてからにしてくれ。
それで伝わらないならそれまで、お前にゃ合わなかったってだけの話、好きに罵倒してくれて構わない。

例えば酒、例えば異性、例えば喧嘩、人の感情や精神を昂らせる要因は様々ある、それ位は理解できるだろう?

だけどコイツはちょっとレベルが違う。

お前に体験しろとは言わないし、決してお勧めもしない。何故ならコイツは違法だし取り返しのつかない行為だからだ。

でも常軌を逸したその感覚は、時に常軌を逸した旋律を生んでくれる。

これからお前が味わうのは、その力を借りた俺が可能な限りその力を具現化した音達。文字通り命を削って吹き込んだ、法を外れたメロディだ。


この前、僅か10歳だという少女が俺の元に駆け寄って『貴方の曲に勇気を貰った』って言いやがった。

薄汚れた俺が、精一杯に輝いたふりをして表現したナンバーが、濁りひとつない彼女に力を与えたなんて余りに出来の悪いジョークみたいだろ?


だけどその後、涙が止まらなかった。


決して褒められた物じゃない、ダーティな昂りを得て作った俺の魂の欠片達は、汚れてなんか無かったらしい。


いや、いいんだ、感傷的になっちまった。


だから三分間だけ時間をくれよ。
きっと最高の中毒性と暴力性を持ちながら決して身体は蝕む事の無い、世界最高のドラッグだと約束しよう。

近い将来、俺がオーバードーズでおっ死んだら、どうぞ笑ってくれ。
俺の遺すドラッグに心を蝕まれた奴らが、運び出される俺の棺が見えなくなるまでコールしてくれたら、それでいい。

時代遅れでも、俺はその言葉通りに生き、そして殉ずるんだよ。


さあ! イントロだ、コールを! 力の限りのコールを!


「SEX! Drug! Rock'nRoll!」

「SEX! Drug! Rock'nRoll!」

「SEX! Drug! Rock'nRoll!」



65:以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/22(土) 21:03:37ID:.nUhhiM6


【お題:消失】


「確かにあったのだよ、それは。……最初から、その姿を覆い隠す箱と共に」


上官は唐突とも思える切り口から、私の問いに答えた。


「箱……ですか」

「ああ、大層な装飾が施され、厳重な鍵がかけられた箱だ」

しかし続けて彼は言う。
その箱の中身である『それ』は、まだそこにあるのかどうかは判らないと。


「歴史の中で幾度となく争いが起き、そして終わった。箱の中身を求め、また護るための争いだった。……だが争いの終わりに『それ』が護られたのか奪われたのかは結局判らないのだよ」


どちらが奪う側なのか、護る側なのか。始まりがどこにあったのか。『それ』は誰が作ったのか、今でもどこかに存在するのか。


「その全てが、もう判らないのだ。……だが今、我々はここに在る」


そこまで聞いて、私はようやく多少の合点がいった気がした。

大事なのは箱の方なのだ。

その内に『それ』があるのかどうかを曖昧にする、その箱こそが我々の存在理由。


「もしかして『それ』は最初から……」


思わず想いが口をつきそうになる。
しかしその続きを声に出す事は自己否定にさえ繋がりかねない。

言葉を途切れさせた私に背を向けて、上官は静かに「征け」と呟いた。


「全軍に告ぐ! 国境を越え南進せよ! 今この時を以って我が国は宣戦を布告する!」


護るための戦いか、奪うための戦いなのか、知らないままに私は死地へ赴く。

例え既に箱の中身が失われていようとも。そう、最初から今まで『それ』を見た者などいないとしても。



90 名前:以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/01(土) 03:19:15


【お題:一撃必殺】


視界がひっくり返る、いや、自らひっくり返したのだ。

雲にも届こうかという高度で、魚の腹を思わせる機体の底面を太陽に向ける。そして操縦桿をぐいと引いた次の刹那、愚鈍に海原を横たわる醜い鉄の鯨の背が正面に見えた。

周囲で高射砲が炸裂している。しかし上着の裏に縫いつけた手作りのお護りがある以上、当たりはすまい。


あと少し、軌道を修正し固定できれば間違いない。

狙うは鯨の心臓部、そこへ通ずる排煙筒。
見る間に大きくなってゆく憎き米艦の輪郭に、己が命の刻限を知る。


父上、今も仏間の卓袱台の前で、口を一文字に結び座しておられるのでしょうか。どうか今、最期の時だけは幼き日のように『父ちゃん』と呼ばせて頂きとう御座います。

母上、貴女の作る牡丹餅が何より好きでありました。旅立つ日、それを皿いっぱいに盛りながら『めでたい、めでたい』と唱える貴女の目が濡れていた事、この愚息は気付いておりました。

姉上、庭の柿の木に登り、まだ熟れる前の実をかじった日が昨日のように思えるのです。料理の不得手な貴女の事、私は天からいつも心配しているとお心得下さい。


そして君よ、駅で別れし愛しき君。


どうか笑顔で送ってくれと、見えなくなるまで万歳をしてくれと頼んだはずだ。なのに思い出すのは涙化粧、行かないでくれと袖を握る君の姿ばかり。


嗚呼、二十年に満たぬ我が人生は、今この米艦を沈めて幕を閉じるのだ。


一撃必殺、必中轟沈。

あと僅か、ほんの軽く操縦桿を引──



147 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/03/15(土) 22:58:00 ID:px39WxlA [2/2]


【お題:頬擦り】


親が我が子に頬ずりをする。その温もりを、絆を確かめるように。

子がある程度の歳にもなれば、父親の頬ずりは「髭が痛い」だとか文句を言われる対象にさえなるが、それでも頬ずりをできる親子の関係は決して希薄なものではない筈だ。


血の繋がりはなくとも、愛すべき家族の一員たるペットに頬ずりをする事もあるだろう。

多くの種では人のそれとは違う、ふさふさとした毛に覆われた彼らの頬。

しかしそこで確かめられるのは、やはり互いの心の絆に違いない。


有機質か無機質かに関わらず、何か思い入れのある物に頬ずりをする事もあるかもしれない。

例えば丹精込めて作った野菜や、ずっと憧れ続けた楽器や車。

冷たく硬い感触の素材で出来ていようと頬を寄せてしまうのも頷ける。


若き恋人達が、結ばれて家族となったばかりの二人が、それぞれの居場所を確認するように頬を併せるのは、当たり前を過ぎて本能とも思える事だ。

長く連れ添った熟年の夫婦がそうしていても、微笑ましいばかりで何ら不自然さなど感じない。


頬に覚える感触や温度がどうであろうとも、その行為により心に伝い湧き上がるのは愛しさや喜びといった、優しい感情。

頬ずりとは、幸福や充足感を得るためにとる仕草である筈だ。


だから今、私の頬に触れているごつごつとした皺だらけの冷たい肌から届く感情も、悲しみでは無いと信じたい。



「ありがとう」



母が私にくれた、最後の言葉。

絞り出した掠れ声は、とてもそれを唱える唇が私の耳元にあるとは思えないほど小さく弱々しいものだった。


心拍の途絶を告げる機械音が部屋に響き、付き添っていた医師が母の手首に指を当てる。

私の目から零れ落ちた温かい雫が、互いの頬の隙間を濡らしてゆく。


「ありがとう、おふくろ、ありがとう」


幼な子が母を真似るように、私はただ彼女が遺した言葉を繰り返した。

冷たくてごつごつした感触の、優しい頬ずりと共に。



233:以下、名無しが深夜にお送りします 2014/04/16(水) 20:50:40ID:HH2IkReI


【お題:三分】


「今日は本当、楽しかった。思い出に残る日だね」


彼女は屈託の無い笑顔を見せてそう言った。

しかしその心の内には、本当に一点の曇りさえも無いのだろうか。


僕の転勤はもう来月に迫っている。

同期の仲間からは「栄転だな、憎いぜ」と肩を叩いて野次られたが、向かう先は県境をいくつも越えた土地。

車も持たない彼女にとっては、途方もなく遠いところに感じられるに違いない。

だからこそ今日という日を『思い出に残る』と、自分に言い聞かせたのではないだろうか。


「そろそろ帰らなきゃ、明日は月曜だよ」


時間は残り少ない。


今日一日のプランは、まずまず良かったらしい。

何度か通った店だけに、食事もいつもの気に入った味だった。

その店を出る前に化粧室で鏡を見た限り、髪型の乱れも気になる程ではなかったと思う。

ポケットの中なら、さっきから何度も確認した。

昨夜の内に言葉も決めた、用意したはずだ。


仕事も遊びも段取り七分とはよく言うが、そこまでは達している。


「大事な話、聞いてくれるか」

「なあに、改まって。良い話? それとも悪い話?」


僕は踏み出す。

今日をただの思い出の一日ではなく、二人の記念日にするために残された三分の道へ。

その先を彼女と手をとり、共に歩むために。



274 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/05/23(金) 01:14:43 ID:DPd21ZMQ



【お題:裏切り】



「糞ったれ、よりにもよってまあ……」


僕は日差しに焼ける楕円形の鉄タンクに、へこみができない程度に力を加減してげんこつを入れた。

こぁん、と響く音がいかにもその中身の少なさを物語っている。


とはいえこの鋼鉄の彼女が拗ねている理由は空腹では無いはずだ。

念のためハンドルを握りその身体を揺すってみると、ちゃぷんと液体が跳ねる音が聞こえた。


(いっそガス欠くらい単純な理由でへそを曲げてるなら、その方が楽なのに)


彼女の心臓に送られるガソリンの霧、その濃さがどうしても整わないのは長く解決しない持病というべき症状。

ガレージを出る前に短く調子を利く時はいつも機嫌が良いくせに、暫くその背に跨って駆けてみると決まって四千回転から上に達さなくなる。

そして挙句の果てには「ぶすん」と悪態をついて鼓動を止め、それからは毎度この有様だ。


しかし今日の不貞腐れようは、いつにも増してたちが悪い。

何しろこの場所は、いくら見渡しても茶色の大地にキャベツと思われる丸い緑が規則的に列ぶだけの畑、畑、田んぼの向こうにまた畑という片田舎。

普通なら三十分も歩けばある程度の得物を借りられるガソリンスタンドが目に入るものだが、こうも明らかに期待がもてない景色の中にあっては二百キロ台半ばの大女を押す気になどなれるはずがない。


「悪かったよ、あの若い娘は近所の買い物用に買った原付なんだ。僕は今までもこれからも……」


キックスターターにかけた足に力を籠めながら、僕は言い訳を並べたてる。


「君ひと筋だって!」


ささやくというより、声を荒げて告げた殺し文句。それと同時に繰り出す、渾身のひと蹴り。

しかし彼女は「まだ許さない」と嘲笑うかのように、めっき色に輝く排気筒からくぐもった不発音を漏らすだけだった。


411 :以下、名無しが深夜にお送りします:2015/03/07(土) 15:31:43 ID:aV6gFL0U



【お題:ビール】



我ながら馬鹿げた事に労力を使ったと思う。

耳が痛くなるほどに冷え切った空気の中、雪かき用の大きなスコップで新雪を集めては一輪車で運び、土手のように積み上げ重ねる。そんな作業を二時間もかけて作りあげたのが、大人ひとりが楽に入れる大きさのかまくらだ。寒かったのは最初だけで、作業を終える頃には上着だけでなくセーターまで脱いでいるほど懸命に働いた。

そして更に小一時間を費やし中に一通りのものを運び込んだ頃には時刻は夕方に近づき、白い厚化粧に埋もれた周囲の景色は青紫に染まっていた。ここは県内でも一番といっていい豪雪地帯、しかし私自身はこの地域の住人ではなく親戚の家を三日ばかり預かっているだけだ。

だからこそ目の前を覆う雪景色に、こんな子供じみた真似を堪えきれなくなった。しかしながらその努力の目的は子供に例えるには少々不純なものかもしれない。

暖をとるためを兼ねておこした七輪の炭が赤黒くちょうど良い火加減に落ち着いている事を確かめて、僕はそっと網の上に肉を置いた。最高級とは言い難いがそれなりに値の張った牛肉は程よく霜降りの模様を呈しており、ちりちりという音をたてながら少しずつ火に炙られてその身を縮めてゆく。裏返すのは一度だけ、そう心に言い聞かせながら待つ事およそ二分間。なんと長い事だろう、喉がごくりと鳴る。

重労働をこなした身体が求めているのは食べ物だけではない、むしろ渇きを潤す命の水こそを一番に欲している。それを知りながら自身で焦らしているのだ、もしかしたら私には虐げられて悦ぶ趣味があるかもしれない。

慎重に肉を裏返すと網の型が薄っすらと焦げ目に残る良い具合、反対の面は軽く炙る程度で良さそうだった。

座る傍らにこしらえたほぐしたままの柔らかい雪山に左手を突っ込み探ると、すぐ硬いものが指に触れた。半ば乱暴に抜き出したそれが纏う雪も拭わず、反対の手で栓を開ける。

もうここまでくると欲望は止まらない。

七輪の横に置いた小鉢から粗挽きの岩塩をつまみ乱雑に肉にかけると、その粒を零さないよう箸で巻く風にして網から上げる。まだぶつぶつとたぎる脂に二度息を吹きかけて、それでも熱いと知りながら口に放り込んだ。

熱い、美味い、甘みと旨みだけでできているかのような肉と、わずかに存在を示しつつ主役をひきたてるに徹する塩。そう大きくもない身からこんなに汁気が出るのか、熱さにきちんと閉じられない口から溢れてしまいそうだ。

しかしまだだ、私の身体は最も欲するものを得られていない。

噛む必要などほとんどない肉を喉の奥へ追いやる寸前、左手に持った缶に口づけ一気に呷る。脂の旨みに満たされていた口が、香ばしい麦の香りに洗われてゆく。熱さはが冷たさに塗り替えられてゆく。

ちくちくとした炭酸の刺激に喉が驚き、それでも喜びの音を鳴らしている。アルコールを含む飲料は水分の補給に向かない、一気飲みなどこの歳になってするものではない、そんな事は心からどうでもよかった。

ごくんと最後の一口まで飲み干して目尻を指で拭うと、私はただ幸せの溜息をついた。

さあ、二回戦だ。


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テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

  1. 2013/10/16(水) 13:49:57|
  2. その他
  3. | コメント:4

コメント

面白いです

短いながらも面白いです
また読みにきます
  1. 2013/10/23(水) 22:27:40 |
  2. URL |
  3. ネコ #-
  4. [ 編集 ]

Re: 面白いです

> 短いながらも面白いです
> また読みにきます

コメントありがとうございます
他者様のスレに投下させて頂いたベリーショートですが
楽しんで頂けたなら幸いです
  1. 2013/11/01(金) 20:48:51 |
  2. URL |
  3. 排出者 #-
  4. [ 編集 ]

読んで泣いてしまいました…
最初のスズメの話は幼馴染はもう死んでるってことなんでしょうか?
いきなりすいません
  1. 2013/11/07(木) 03:24:08 |
  2. URL |
  3. 、 #-
  4. [ 編集 ]

Re: タイトルなし

> 読んで泣いてしまいました…
> 最初のスズメの話は幼馴染はもう死んでるってことなんでしょうか?
> いきなりすいません

コメントありがとうございます
スズメの話では幼馴染は死んではいません
最後に男が泣いたのは、やっと幼馴染を受け入れて本心から愛す事ができたのに、彼女のおまじないによって意識を乗っ取られてゆくのがわかったから…ととって頂ければ幸いです
ついでに女や後輩が去ったのも、バイクで事故ったのもおまじないによるもの
あの話では幼馴染は悪役として描いています
わかりにくくて申し訳ない
これからもよろしくお願いします
  1. 2013/11/07(木) 07:32:39 |
  2. URL |
  3. 排出者 #-
  4. [ 編集 ]

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