がらくた処分場

漁師と魔女と約束の島【第二部】



【第二部:月と星と二人の魔女】


334 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/13(月) 17:56:15.73 ID:ykRymiXBO


……………
………


…翌々日、夕方


友「海沿いの小さな森……本当にこんなところに舟置いてんのかよ?」

眼帯「なんか民家のひとつも見えないね…」

魔女「でも確かに海側に向かって道が分かれてますよ」

友「道…といっても、獣道に近い気がしますけど…」


魔女「男さん、間違いないんですよね?」

男「は…はい……その奥です…」コソコソ

友「なにコソコソしてんだ?」

男「し、してねえし、堂々としたもんだし」アセアセ

眼帯「どこが…」

友「で、そんなとこに放置されてる舟なんて、使い物になるんだろうな…?」

男「放置は…してない…」キョロキョロ


魔女「…じゃあ? どなたか管理されているのですか?」

男「うっ」ギクッ

友「だったらその人を探して声を掛けなきゃな」

男「いや、いい! こっそり盗み出せばいいから! さあ、そーーーっと行こう!」アタフタ

魔女「それは駄目なんじゃ…」

友「まあいいや、行こうぜ。他の皆は手前の砂浜で待たせてんだ、早く舟回してやんなきゃ」



335 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/13(月) 17:57:29.67 ID:ykRymiXBO


ザッ、ザッ、ザッ…


友「あ…森が開けた」

眼帯「あれがその舟? 確かにちょっと小さい…」

魔女「すぐ脇に家屋がありますよ、煙突からちょびっと煙出てます」

友「いい匂いがする、夕食作ってんのかな。声かけたらご馳走に…」

男「馬鹿言うな、とっとと乗り込むぞ」ソソクサ

眼帯「え、本当に声掛けないの?」

男「当たり前だ、見つかったらどうす──」


??「──こらぁっ!! 舟泥棒っ!!」


友「お…管理してる人か?」

眼帯「みたいだけど…」

魔女「…女性?」

男「うぐ…」ガックリ



336 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/13(月) 17:58:05.89 ID:ykRymiXBO


??「…あれ? なんか見た事ある顔だね?」

男「よ、よぉ…久しぶり…」

??「もしかして、男? 嘘、帰ってきたの…!?」パァッ

男「元気そうでなによりだよ…幼馴染、風邪でもひいてりゃよかったのに」ゴニョゴニョ


幼馴染「わ…本当に男だ! 何年ぶりよ、連絡も寄越さずに…もうっ!」タタタッ…

男「ちょ」

幼馴染「おかえりっ!」…ギュッ!

友「!?」

眼帯「!?」

魔女「………」ピクッ


男「やめろ、放せ馬鹿やろ」ジタバタ

幼馴染「ふふふー、立派な騎士様になっちゃってー」ニコニコ


魔女「………」ピシッ…ジジジッ…

眼帯「やめて魔女ちゃん魔力上げないで、あてられちゃう」



337 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/13(月) 17:58:49.07 ID:ykRymiXBO


友「な、なあ…男、その娘とはどういう関係?」

男「えっと…オサナナジミで──」


…ガチャッ

チビ「──おっかあどした? おとう帰ったん?」


魔女「………」バチッ!

眼帯「うわぁ…」ヨロッ

友「魔女様、さすがに俺もクラクラするんですけど…」フラフラ…


幼馴染「あれ、そちらのお嬢さんは…? 騎士様じゃなさそうだけど」

男「お前も魔力にあてられないのか、魔法苦手だったもんな」

幼馴染「さっぱり駄目な男に言われたくないよ、私は薪に火くらいつけられるよ?」


魔女「あの、男さん。そのお綺麗な方と子供さんはどなたですか…?」ニコニコ、ピシッ

男「や、あの、ただのオサナナジミです…」

魔女「…ただの?」ニッコリ



338 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/13(月) 18:01:03.48 ID:ykRymiXBO


幼馴染「ははーん…お嬢さん、なるほど…そういう」ニヤニヤ

男「やめろ、変な顔すんな。魔女様、こいつはオサナナジミ以上のなんでも無いんです」

幼馴染「あら心外ね、貴方八年前になんて言ったか覚えてないの?」クスッ

男「頼むから黙れよ、ほんと」


友「なんでコソコソしてたか解ったわ…」

眼帯「この案が次点だったのって、舟の大きさだけじゃなかったみたいだね」

魔女「昔のいい人…?」ズーン

男「違う、違います! ああもう…そうじゃなくて…」


??「──ただいま、お客さんか?」

チビ「あ、おとう!」キャッキャッ

幼馴染「あっ、おかえりダーリン! 男が来てるの、久しぶりでしょ!」

地元友「おぉ!? 男か、おいおい何年ぶりだよ!」


男「昔…フラれたんです、俺が」ウッ

魔女「ごめんなさい…」プシュウ



341 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/13(月) 20:30:59.52 ID:PdhnPy7Do


………



幼馴染「──月の明りがー窓からー注ぎてー♪」

幼馴染「揺り籠ーの影もー漕ぐ舟ーのようー♪」


チビ「おとうは一緒に寝ないん…?」ウトウト

幼馴染「今日は懐かしい友達が来てるからね、いい子に寝ようね」ナデナデ

チビ「んー…」


幼馴染(早く寝ないかなー)

幼馴染(私も話に入りたいな…あのお嬢さんの事ももっと訊きたいし)


チビ「お歌はー?」

幼馴染「はいはい…」

幼馴染「青いー水面もー暗く染む夜──♪」



342 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/13(月) 20:31:33.77 ID:PdhnPy7Do


地元友「──乾杯だ、再会に」コチンッ

男「酒で付き合えなくてすまんな」

地元友「こっちこそ、俺だけ酒で悪いくらいだ」

男「はは…このトウモロコシ茶も懐かしいよ」ゴクッ


地元友「しかし…隣の部屋で寛いでもらってるが、あれが魔女様とはな」

男「信じられないのも無理はない、俺も目を疑った」

地元友「舟は自由にしてくれ、元々お前の舟だ」

男「ありがとう──」


『──お前、軍に入るって本気か』

『ああ、騎士を目指すよ』



343 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/13(月) 20:32:05.40 ID:PdhnPy7Do


『舟はどうする、祖父さんの形見だろ…?』

『できれば…お前に託したい。この港の舟も、もうひとつも』

『どっちかというと秘密の波止の小さい方ばかり使うようになるぞ』

『構わないよ、でもまとめて市場に卸す時は港の方も使うだろ』


『お前、地元を離れるのは…もしかして』

『あいつの事だけが理由じゃないよ』

『じゃあそれもあるんじゃないか』

『そりゃ少しはな…ほんの少し』

『……すまん』


『もう決めた事、役場で願書も出したんだ』

『そうか…』

『辛気臭い顔はやめてくれ。幼馴染はお前を選んだんだぞ、胸を張れよ』

『ああ、幸せにするよ』

『頼むぜ…俺は騎士になって、お前らの暮らしを守りたいと思ったんだ──』



344 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/13(月) 20:32:43.82 ID:PdhnPy7Do


地元友「──本当に騎士になったんだな」

男「ああ…守るものは言ってた事と違ってしまったけど」ゴクン


地元友「茶、飲んだか?」

男「うん、ご馳走さま。じゃあ…行くよ」コトン

地元友「…察してくれて助かる、許してくれ」

男「いや、当然だ」スッ…


地元友「一度じゃ乗り切れないんだろ、本当は俺が船頭をすればいいんだろうけど…」

男「隊士に一人、慣れてはないけど操船の経験がある奴いるから」


トン、トンッ…カチャッ


友「…行くか?」

眼帯「いつでも大丈夫だよ」

男「静かに頼む、子守歌の邪魔にならないように──」



345 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/13(月) 20:33:26.66 ID:PdhnPy7Do


………


バサバサッ…!ギィッ…


男「いい風向きだ、夜でも月明かりでよく見通せる」

友「そこ、木が出っ張ってるぞ」

男「舐めんな、ここからの出船なんて慣れたもんさ。動くぞ…魔女様、座っておいて下さい」グイッ

魔女「はい」


地元友「気をつけていけ、どうか元気で」

男「ありがとう、舟を取り上げてすまん」

地元友「港にいきゃあるんだ、家族が食うくらいなんとでもなるさ」


男「万一、軍が聞き込みに来たら…」

地元友「留守の間に舟を盗まれた…って言うことにするよ」

男「それで頼む…迷惑をかけずに済めばいいんだけど」

地元友「…あいつに怒られるだろうな──」


…ガチャッ!タタタタッ

幼馴染「──男!なんで…明日の朝までいるって…!」ハァ…ハァ…



346 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/13(月) 20:34:02.20 ID:PdhnPy7Do


ギィッ…バサバサバサ…


男「幼馴染! またな!」フリフリ


幼馴染「どこに行くの! あんたまた私に何も言わずに…っ!」

地元友「危ない、落ちるぞ…もう届きゃしないだろ」

幼馴染「どうせまた貴方だけ全部聞いてるんでしょ!」

地元友「仕方ないんだって…」


幼馴染「ねえ! 騎士じゃない娘…魔女ちゃんだっけー!?」

魔女「は、はいっ」

幼馴染「貴女が誰なのかわかんないけど、男をお願いー! そいつ魔法も全然使えないし、焼き魚しか作れないしー!」

男「おいおい…変なこと言うなよ、煮魚もできらあ」


幼馴染「それと、けっこう寂しがりやだからー! 放っといたら拗ねちゃうからねー!」

魔女「…えっ、あのっ」

幼馴染「でもいい奴だからーっ! きっと貴女を守ってくれるから! ずっとくっついてあげててー!」フリフリ

魔女「はい…! そうしますっ!」フリフリ

幼馴染「仲良く、元気でねー! またおいで──!!」フリフリフリ…



351 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/14(火) 17:36:08.10 ID:gHYxuco+O


……………
………


…月の王都


月王「──おのれ…おのれっ! 港町でも取り逃がすとは…!」ダァンッ!

大臣「配した兵を無力化した者達については、現在調査中で…」ブルブル


月王「赤小隊他、追撃に失敗した部隊はどうした!」キッ

大臣「た、隊舎にて謹慎に処してございます!」

月王「甘い! 懲罰房に投獄しておけっ!」


??「気がたってるみたいねぇ…陛下ったら」


月王「何者ぞ! 私は今、機嫌が悪い…下手な事をぬかせば処刑する──」

??「──これはこれは、失礼。しかしこの処刑人たる私を処するなんて、どんな方法を用いるおつもりかしらぁ…?」ニヤリ


月王「おお…黒騎士、戻っておったのか! 丁度良い、もはや貴公の隊を呼び寄せるしかないと考えておったところだ!」

黒騎士「呼ばれた気がしたのよぉ」

月王「ふ…調子のいい事を。大臣、席を外せ」

大臣「ははっ…」


…キィッ…パタン

大臣(黒騎士…とうとうあのオカマ率いる殲滅部隊、黒小隊が出されるのか…)ガタガタ



352 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/14(火) 17:36:45.59 ID:gHYxuco+O


黒騎士「落日の残党の次は、どこの誰を? 白夜に抵抗部隊が? それとも旭日がしつこくも…? 誰でも皆殺しにして差し上げますわよ」ウフフ…

月王「白小隊だ…奴ら魔女を拉致し、東へ逃げおった。今頃は海を渡ろうとしておろう」

黒騎士「あらぁ…自軍の反乱部隊とは、陛下にたてつくなど愚かな兵がいたものねぇ」


月王「必ず魔女を生かして捕らえるのだ…そのためにも、砦を経由してゆけ。大方を知る貴公なら魔少女を連れる事も許そう」

黒騎士「なるほど、彼女の初陣というわけ。これはエスコートのし甲斐があるわぁ…美容についても教えてあげなくっちゃ」


月王「初代の魔女から今まで、半分ずつの血を受け継いだ少女だ…最後の、そして最強の魔女となる」

黒騎士「あら、じゃあ今の魔女の命なんて固執しなくとも、その娘がいればよろしいんじゃなくて?」シレッ

月王「ふん…解らんわけでもなかろうに」

黒騎士「ふふふ…そうよねぇ。初代からずっと血を受け継いでおきながら、未だに少女なんておかしいわ」



353 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/14(火) 17:37:35.91 ID:gHYxuco+O


月王「我が国の持てる魔法工学技術の全てを注ぎ込んだ生ける兵器だ。魔力が必要量保たれていれば老いる事などない」

黒騎士「永遠の若さなんて嫉妬しちゃいそうですわ」

月王「魔女など比較にならん魔力を有するが、その半分以上を生命の維持に費やすのが難点。だがそれも間も無くの事だ…」

黒騎士「じゃあ…?」

月王「次の譲渡を受ければ、遂に魔少女の命の源である魔力増殖炉は安定運転に入り、無尽蔵の魔力を持つ事になるのだ」クックックッ…


黒騎士「怖い御方…そんな力を手にして、何をお望みなのかしら」

月王「…全てだ、王家に生まれ落ちながら何も与えられる事なく埋れかけていた。私は全てを自分で手に入れ、捧げねばならん」

黒騎士(捧げる…ねぇ…?)クスッ


月王「よかろうな…決して『魔女の名』は呼ぶな。あくまで生け捕りにするのだ、手足を引き千切ろうと、生きておれば構わん」

黒騎士「本当の名を耳にすれば魔女は死ぬ…利用するだけして捨てる時はゴミ以下なんて、陛下も悪い御方だわぁ」クネクネ

月王「自衛のための最後の手段だ、決して口に出すでないぞ。魔女の名を知るのは私と貴様、砦長の三人…それ以上要らぬ」

黒騎士「ふふふ…解ってますわよ、必ずや生かして連れ帰ってご覧に入れるわ──」



354 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/14(火) 17:38:15.29 ID:gHYxuco+O


……………
………


…月の国、東海域の諸島

ザアアアァァァン…ザザアァァン…
…サァァアアアァァ


男「──頼むぞ、気をつけてな」

白隊士「途中で時々交代してもらいながら、なんとなく勘は取り戻したよ」


男「とにかく本土の南東の岬と、遥かに霞む火山島を見て位置を把握するんだ」

白隊士「よせやい、餓鬼の遣いじゃねえんだぞ。迷子になんかならねえって」

男「すまん、任せた」


白隊士「この便で友と眼帯を連れてくるよ。片道二日…あと二回で一週間ほどか」

男「水は? 食料は?」

白隊士「ぬかるもんか、ちゃんと酒を積んだぜ」ヘッヘッヘッ

男「ちゃっかりしてんな…ほんと迷子になんなよ──」



355 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/14(火) 17:38:51.05 ID:gHYxuco+O


魔女「──全員が渡れたわけじゃないから、まだ気を張っておかなきゃいけませんけど」

男「はい」

魔女「着いたんですね…ここがその島、男さんのお祖父さんがお祖母さんと駆け落ちて暮らしたところ」

男「…後には許されて港町に帰りましたけれど」


魔女「島に名は?」

男「ありません、ですがこれからは『魔女の島』と」

魔女「贅沢な事です…砦の部屋とは大違い」


男「しかし生活の不便さも段違いです、まずは草を取るだけとはいえ畑を使える状態にしなければ」

魔女「はい」

男「当面の食料は魚が中心になるでしょう。舟は無いので釣りをする事に」

魔女「不謹慎かもしれませんけど、楽しみです」


男「餌にする虫を触れますか?」

魔女「ふふ…ずっと狭い世界に閉じ籠っていたのです、何にでも興味津々ですよ?」

男「…予想以上の不気味さに悲鳴をあげない事を期待しています」



356 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/14(火) 17:39:37.25 ID:gHYxuco+O


男「あとは野生の果実や山菜を探しましょう、脚気を患ってはいけません」

魔女「この島に植物の枯死が及んでなくて良かったですね」

男「それでも昔より多少衰えた気もいたしますが…まあ、このくらいなら御の字としましょう」


魔女「…これであと二往復の便が無事に島まで着けば、全てが終わりますか?」

男「無論、特に夜間を中心に見張りを怠るわけにはいきません」

魔女「はい」

男「しかし船が接岸できるのはこの浜辺だけ、注意するのはさほど難しくはないと」


魔女「…もし、追っ手の船影が見えたら?」

男「その際はお手間をおかけしますが、魔法で周りの海を荒して撃退を」

魔女「海…つまり波を荒らせば良いのですか」

男「先日見た丘を吹き飛ばす魔法を用いれば、とても船は近づけないかと。さすがに沈めてしまうのは気が進みませんでしょう…?」

魔女「そうですね、追っ手も一人ひとりの兵には何の悪意も非も無いのですから」



357 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/14(火) 17:40:11.41 ID:gHYxuco+O


男「…大丈夫です、魔女様の御力の前に近づける船などありますまい」

魔女「ずっと平穏であって欲しいですね」


男「もしもの話…月の大船団が押し寄せたとして、魔女様はどれくらい魔法を使い続けられますか?」

魔女「あの丘を消した程度であれば、百か二百ほどは」

男「驚きました…これは月の国中の船を集めても近づくなどできそうにない」


魔女「それで持てる魔力の半分ほどでしょう」

男「半分ですか」

魔女「ただ…更に使い続けたり、もっと大きな魔法を使って総魔力の三分の二を超える消費をすると、命に関わってしまいます」

男「先代魔女様の演習のように…?」

魔女「あれはほとんどを譲渡した残りとはいえ、持てる全魔力を発動する最期の魔法ですから」



358 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/14(火) 17:40:44.84 ID:gHYxuco+O


男「…5回に渡り魔力を引き継いだ…と仰られましたね」

魔女「はい」


男「失礼ですが、それはどのくらいの頻度で…?」

魔女「正確には覚えていませんが…おそらく二年に一度ほどだったかと」

男(二年に一度…延べ5回──)


『──魔力の譲渡は六月末、来週に最初の一回を行う予定です…が、これは魔女様も承知しているとはいえ、改めて話題とはしない方が』

『年に一度、十年に渡り血を分け魔力を譲渡する…それこそが死を手繰り寄せる行為だからですよ──』


男(──白衣の職員の言葉…計算が合わない。考え過ぎか…?)


魔女「…男さん?」

男「は、失礼しました。さっそく山に果実でも探しに参りましょう」

魔女「はい、私も行きます」


男(……大丈夫、やっと魔女様が手に入れた安住の地だ)

男(脅かさせやしない…万一漁船を装って接岸する小さな舟があっても、俺達が護る)

男(決して…そう、魔女様と同じ力を持つ者でもいない限りは──)


『──いつ、その少女は魔女に?』

『今までとは事情が違います』

『高い魔力を持つ方を魔女と呼ぶなら、既に──』



366 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/20(月) 14:07:24.55 ID:aOD/3eRFO


……………
………


…星の国、中枢


星の将軍「──そうか、魔剣士の妹は魔女の側に…」

星の副将「それをそのまま見逃すとは、魔剣士も身内だからと甘い事を」

星の将軍「よせ…年端もゆかぬ娘を暗殺者に仕立てるなど、我々のやり方に問題があったのも事実だ」

星の副将「しかし魔女を葬る事を諦めるわけにはいきませぬ、これは惑星の守護者たる我々の使命──」


──ダダダッ、ガタッ!

星の兵「はぁ…はぁっ…! ご報告差し上げますっ!」ゼェ…ゼェ…


星の将軍「何事か、騒々しい」

星の兵「つ…月の辺境において、魔女と思しき強力な反応が確認されました!」

星の副将「辺境で…? 今朝までは東の諸島に反応が見られたはずだが」

星の将軍「そんなに急に移動したというのか? 間違いではないのか…」

星の兵「それが…っ! 諸島部の反応はそのままに、二つ目の反応が現れたのです──!」



367 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/20(月) 14:08:02.85 ID:aOD/3eRFO


……………
………


…1週間後、魔女の島


魔女「──あ、あの…まだですか?」ソワソワ

男「もう少し…次のアタリが出るまで待って下さい」

魔女「はいっ」ドキドキ…


…ピクピク、ピクッ…フッ…


魔女「浮きが消えました!」

男「アワせて!」

魔女「てーいっ!」ビシィッ!


ググググ…!

魔女「うわ…すごい引きです! さっきの豆アジと全然違う…!」

男「落ち着いて、魚が泳ぐのと反対向きに竿を寝かせて」



368 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/20(月) 14:08:40.83 ID:aOD/3eRFO


ダババババッ!


魔女「わわっ! 水面で暴れて…!」

男「もっと竿を寝かせて、できるだけ水面に出さないように…今度は深くに突っ込んでます、竿を上げて…!」


魔女「難しいです、交代して下さい! 逃げちゃう!」アワワワ…

男「大丈夫、もう疲れ始めてますから」

魔女「うう…お願い、逃げないで…」

男「もう少し、もう少し…よし! 糸を掴みました!」ザバッ!ビチビチビチッ…


魔女「やった! 大きいの釣れました!」フンスフンス

男「お見事、立派なヒラスズキです。これは夕食の主役になりますね」



369 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/20(月) 14:09:36.64 ID:aOD/3eRFO


魔女「はぁ…手がへとへとです。でも楽しい、釣れると嬉しいですね」

男「まだまだ、おそらく今日は三便目…最後のひと班を乗せた舟が着くでしょう。もう少し釣っておかなければ」

魔女「ふふ…船頭をしている方にもゆっくりお酒を飲んで頂かないと」

男「そういう事です。もう少し潮が引いたらアテとするための貝でも拾いに参りましょう」


魔女「………」

男「…魔女様?」


魔女「食べ物を自ら確保するのは、とても大変なのですね」

男「…そうですね。釣りならまだ面白みも強い方、もちろん農耕も実りの時季などには喜び深いものではありますが」

魔女「それも味わいたいです」

男「はい、是非」



370 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/20(月) 14:10:43.07 ID:aOD/3eRFO


魔女「私は今まで、国に生かされてきただけです」

男「…そんな事は」

魔女「例えそれが国の都合であったとしても、何もせずに食事や寝床にありついてきました」


男「私からすれば、あの砦に縛られて過ごす事こそ御労苦以外の何ものでも無く思えます」

魔女「外の暮らしを知らなかったのですから、憧れこそすれ羨むなどできようもありません」

男「…それでもです」

魔女「だからこそ…来る日に血を譲渡し、短いと教えられた命を国の繁栄のために捧げるのは務めだと、そう思っていました」


男「今は違うとお解りでしょう?」

魔女「はい」

男「どうかこの島で、天の与え賜うた命が尽きるまで…我々はそう望んでおります」

魔女「…怖いです、幸せ過ぎて嘘のよう」

男「魔女様…」



371 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/20(月) 14:12:10.90 ID:aOD/3eRFO


魔女「魚を獲る事も田畑を耕す事も、苦労と引き換えの喜びに満ちています」

男「はい」

魔女「ただ生かされてきた私が、男さん達の力を借りながらとは知りつつも、今は『生きている』と感じられる…それがとても幸せ」

男「何よりも有り難きお言葉です」


魔女「…男さん、だから私はもう貴方達の主ではないかもしれません」

男「?」


魔女「私は貴方達のおかげで日々を生きています。それは…子が親の、妹が兄の庇護を享受するように」

男「そんな…なんだか恐れ多い気がします」

魔女「お答え下さい、私達は家族ですか?」


男「…はい、家族です」

魔女「よかった…」ニコッ



372 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/20(月) 14:13:05.42 ID:aOD/3eRFO


魔女「でも、隊のみんなが家族…なんですけど…」

男「はい…?」


魔女「か、家族にも色々あって…ですね」

男「?」

魔女「親子…とか、兄弟とか」

男「はい、祖父母と孫もそうですし」


魔女「他には?」

男「他…? 姉妹とか?」

魔女「いえ、あの、その二人は血が繋がってなくても家族だったり…」

男「ああ、夫婦ですか」

魔女「そう! それです!」

男「はい、それが…?」



373 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/20(月) 14:14:58.26 ID:aOD/3eRFO


魔女「その…私は……やっぱり、男さん…だけは──」ゴニョゴニョ…


友「──あ、いたいた。おーい、まだ沖だけど舟が見えたぞー」


男「おー、すぐ行くよー」

魔女「うっ」

男「魔女様、お手を」

魔女「は、はい…砂浜に行きますか?」

男「そうですね、迎えて労ってやらないと」


友「頭から麦酒でもかけてやるか」

男「少し風が強くて波打ち際に寄りにくいだろ、近づいたらロープを投げてやった方がいい」

友「ああ、眼帯が用意を進めてる」


魔女「………」



378 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/20(月) 19:42:13.11 ID:N4spc7FrO


………


…隣の島

ザッ、ザッ、ザッ…


黒騎士「──酷いところねぇ、日差しが強くてお肌が荒れちゃう」

黒隊員「黒騎士様、日傘を」

黒騎士「持っておきなさい、あとでいい子いい子してあげる」ウフフ


魔少女「……見えた」ザッ

黒騎士「ああ…なるほど、やっぱり見つけた小舟はあそこを目指してるみたい」

魔少女「もう用済み、吹き飛ばす」

黒騎士「せっかちねぇ…お待ちなさいな、まだ浜に人影が見えないわ。違う島と見せかけるために航路を選んでるかもよ?」

魔少女「………」チッ


黒騎士「舌打ち、聞こえたわ」

魔少女「聞こえるようにした」



379 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/20(月) 19:43:14.17 ID:N4spc7FrO


黒騎士「生意気な小娘だこと、陛下の秘蔵っ子でなければお仕置きなんだけど」

魔少女「……お前から先に吹き飛ばしてもいい」スッ…


黒騎士「おやめなさい、私は貴女の名前も知ってるわよ?」

魔少女「………」

黒騎士「フフフ…魔力を高める数秒もあれば名を唱えられるわ」

魔少女「それは陛下が許さない」

黒騎士「そうねぇ…でも私も死にたくないし、貴女が牙を剥くなら躊躇わないけど」クスクス


黒隊員「黒騎士様、浜辺に白小隊と思しき人影が現れました」

黒騎士「不用心だこと、どうやら小舟は全く気付いてなかったみたい。水平線ギリギリを追ってたのにねぇ」


…スッ

魔少女「光線魔法モード、出力20%」キイイイィィィィン…


黒騎士「……解ってるわね? 島そのものを消し飛ばせば魔女を生け捕りにできないのよ?」

魔少女「………」チッ

黒騎士「また聞こえたわ」

魔少女「…聞こえるようにした」



380 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/20(月) 19:43:53.33 ID:N4spc7FrO


………



友「──だいぶ近づいたな」

眼帯「そろそろロープ投げる?」

男「いや、本当に届くくらいにならないと流されるだけだ」

魔女「手を振ってますよ、おかえりなさーい!」フリフリフリ──


──カッ!バチッバリバリバリッ…!


男「うっ…!」

眼帯「眩し…何っ!?」


ドゴオオオオォォォォン…!!


魔女「きゃあっ…!」

男「魔女様! 伏せて…!」


ズズズズズズ……



381 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/20(月) 19:44:49.19 ID:N4spc7FrO


友「…収まった…か…?」

男「なんだよ…これはっ、海が抉れてる…!」

眼帯「嘘…でしょ…?」

魔女「舟が…! 舟が無い…!」


…ザアアアアアァァァァッ!


友「波がくるぞっ! 離れろ!」

眼帯「急いで!」

男「ふざけんな…! 舟は…あいつらはどこへ行ったんだよ!?」

友「男! 今は丘に上がるんだ、早く!」

眼帯「魔女ちゃん、走って!」


男「波なんか来ねえよ! くそっ…!」ギリッ

友「何を言ってる! 来ないって──」クルッ


魔女「──!!」

眼帯「えっ…!?」



382 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/20(月) 19:45:44.29 ID:N4spc7FrO


友「一瞬の間に…海が凍ってる…」

眼帯「なにこれ…隣の島から道みたいに…!」


男「魔女様…貴女の魔力でこれを再現する事は可能ですか?」

魔女「は、はい! 凍結魔法…おそらく二割ほどの力で…」

男(やはり…)グッ


友「魔女様に出来たからなんだっていうんだよ! 魔女様はここにいるだろ!」

男「次の魔女となる少女…」

眼帯「まさか…! あの砦に残した!?」

友「そんな…まだ魔力の譲渡はしてない筈だろ!」



383 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/20(月) 19:46:29.59 ID:N4spc7FrO


男「予想に過ぎん…続きは後だ。魔女様、あの氷の道を壊せますか?」

魔女「はい! 火炎魔法を──」


──カッ…!


眼帯「最初と同じ光!」

男「いかん…!」

魔女「くっ…防壁魔法っ!」バッ!


キイイイイィィィンッ!
バチッバリバリバリッ…!ゴオオオオォォォッ!!


友「うぉ…っ!!」

眼帯「わわっ!?」

男(弾き飛ばした…!)



384 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/20(月) 19:47:22.30 ID:N4spc7FrO


魔女「光線魔法…私が三割ほどの力で放つのと互角です!」

友「魔女様に匹敵するなんて事…!」


眼帯「男! 友! 氷の道を誰か来るよ!」

男「馬…騎兵か…! くそ、やはりあの道を壊さないと…」


カッ…!バチッバリバリッ…!
ゴオオオオォォオォォォッ!!


眼帯「うわ…また!」

魔女「防壁の手を緩められませんっ!」

友「糞ったれ! 騎兵隊が上陸する…漆黒の鎧、あれは黒色小隊だぞ!」



385 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/20(月) 19:48:15.29 ID:N4spc7FrO


ザッ…ザザザッ!


男「黒…殲滅部隊」グッ…


ヒヒィーン!ブルルッ…


眼帯「騎士団で唯一、魔女じゃなく王に仕える騎士…」ゴクリ


シュルッ…ザンッ!


友「旭日の街を廃墟と化した非情の小隊、その長は──」ザリッ


バサァッ…


黒騎士「あはァ…ご機嫌麗しゅう、『白旗』小隊のゴミ虫各位殿」ニタアァ…ッ

男「──男色の怪人、黒騎士…!」チャキッ



392 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/21(火) 10:35:11.09 ID:dK5jkQ2io


カッ…!バチッバリバリッ…!


魔女「うぅ…! また…っ!」バッ

キイイイィィィィンッ!
ゴオオオォォオォォッ…!!

黒騎士「ほんと、面倒よねぇ…魔女を生け捕りにするには不意打ちで吹き飛ばす事もできないもの」


男「黒騎士…念のため訊くぞ」

黒騎士「はぁ? 貴方、質問ができる立場だと思って?」

男「海の水と共に消えた舟はどうなった? あの光線魔法とやらは、どこか遠くへ瞬間移動でもさせる魔法か…?」

黒騎士「…なにを寝ぼけた事を言ってるのかしら? そんな御伽噺みたいな魔法あるわけないでしょう?」


男「そうかよ…じゃあ、あいつらは死んだんだな」

黒騎士「あいつら? …あぁ、貧相な小舟で追っ手にも気づけなかった間抜けな蟻の事?」

男「………」ギリッ…!



393 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/21(火) 10:35:45.46 ID:dK5jkQ2io


黒騎士「それなら蒸発して空気にでもなったんじゃなぁい? そういえばさっきから臭い気がしてたのよねぇ! あはっ…あはははっ!」ゲラゲラ

男「お前も死ねよ──」ザッ!


──キイイイィィィン!


黒騎士「フフ…速いわ、噂通りねぇ…」ギギギッ…

男「貴様も噂通りだよ…!」ザリッ!


ヒュンッ…カンッ!キィンッ!


黒騎士「あはっ…私はどんな噂で語られてるのかしらっ…!?」

男「性格も喋り方も風貌も…っ!」ガンッ!ギィンッ!

黒騎士「……っ…」シュンッ…!

男「吐き気を催す…だとよっ!」ブゥンッ…


…ガキイイイィィィンッ!



394 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/21(火) 10:36:50.75 ID:dK5jkQ2io


黒隊員「散開! 隙を狙って魔女の腕を斬り落とせ! 右腕を奪えば魔法は使えん!」ザザッ

友「させるか…! 眼帯、そっちを頼む!」

眼帯「任せて! 友、魔女ちゃんの周りをしっかり固めるんだよ!」

黒隊員「お前らが友と眼帯か…こいつらに限ってはぬかるわけにいかん、集中してかかれ!」


白隊士「はっ…ナメてくれるじゃねえか、雑魚扱いされるとはな!」

黒隊員「…違うとでも?」

白隊士「雑魚かどうか、首を落とされてもちゃんと見ときやがれっ!」


魔女「皆…! すぐ加勢を…っ!」

カッ!バチッバリバリッ!

魔女「くっ…!」


キイイイィィィンッ!ゴオオオォォオォォッ!


魔女(こんなに連続で攻撃魔法を放つなんて…!)ハァ…ハァ…



395 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/21(火) 10:37:31.86 ID:dK5jkQ2io


黒騎士「ヒヒッ…! ちゃんと防壁を張るのよぉ? あんたがそうしないと私まで灰になっちゃうんだからッ!」

男「よそ見してんじゃねぇっ!!」シュンッ!ガキィンッ!

黒騎士「んもう…そんなに早く死にたいの…?」



友「うおおおぉおぉぉぉっ!」ズバァッ!

黒隊員「ひっ! ぎゃっ…!!」ブシュッ!ガクガク…バタッ

友「次だ! 来い、おらっ!」ハァーッ…ハーッ…



黒隊員「くっ…すばしっこい! 片目の癖に!」

眼帯「剣ばっかに気をとられてていいの…!?」コオオオォォォ…!

黒隊員「魔法…!」ザッ

眼帯「残念、やっぱり剣で!」ヒュッ!ズバッ…!

黒隊員「がぁっ…!」グラッ…ドサッ!



396 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/21(火) 10:38:06.71 ID:dK5jkQ2io


キイイィンッ!
カァン!ギンッ…シュッ…!ザザッ!

「ぐああぁあぁっ!」

「くそ、誰か! 囲まれてる…!」



魔女(さっきまで…あんなに幸せだったのにっ…!)ギュッ…



シュッ…ズバッ!キンッ、ギィンッ!
ザザザッ!

「なにが殲滅部隊だっ! おら、死ねっ!」

「陛下に仇なす逆賊め! 死ぬのは貴様らだっ!」



魔女(さっきまで、最後の舟を迎えるために笑顔だったのに…!)



キイイィィィンッ!
ズシャッ!ガンッ、ズバァッ!

「ぐっ…!」

「腕がっ…ぎゃああああぁあぁぁっ!」

ドンッ…ブシュッ!ザザッ!



魔女(家族が…傷ついていく、倒れていく…!)



ギンッ!ズバッ…
カァンッ、ギリギリ…ザッ!

黒隊員「黒騎士様っ…加勢を…!」

ドスッ!ブシュッ!

白隊士「魔女…様……ご無事…で…」ドサァッ



魔女「嫌…やだよ…! こんなの…!」



397 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/21(火) 10:38:40.36 ID:dK5jkQ2io


黒騎士「はぁ…はぁっ…流石ね、剣の腕じゃ僅かに及ばないみたい」ハァ…ハァ…

男「だったら諦めて死ね…!」ズァッ…!


黒騎士「…剣は、ね──?」ニヤリ

──キンッ…ピシィッ!


男(凍結魔法! 速い…!)

黒騎士「凍てつきなさい!」ビキビキビキッ!

男「ぐっ…!」グラッ

黒騎士「チッ…片脚しか捉えられなかったわね、でも終わりよ」ヒュッ…


キイイイイィィィィンッ!


男「…ざけんなっ!」ザザッ…ザリッ…

黒騎士「馬鹿力ねぇ、その状態でも重心を移動できるの…」ギリギリッ…!

男「おらああああぁぁぁっ!!」ギッ…ミシミシッ、バリイイイィィンッ!

黒騎士「あはっ、凍結魔法の氷を力尽くで割るなんて初めて見たわ」



398 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/21(火) 10:39:26.92 ID:dK5jkQ2io


男「おら、今度はこっちだ!」ブンッ!


ギンッ!ガンッガァンッ!


黒騎士「フフ…でも動きは鈍ったみたいね、力任せになってるわよ」シュッ…ヒラッ…

男「くそ…っ!」ゼェ…ゼェ…


黒騎士「フン、周りは五分五分ってとこね…あの友と眼帯を除けばこちらが押してるけれど」

男「間をとってねえで来いよ…! とっとと貴様を斬り伏せて皆のとこへ行かなきゃなんねぇんだ!」ペッ

黒騎士「…いいわ、ケリをつけてあげる。ただし──」スッ…


男「……?」


黒騎士「──危なっかしいから、間はとったままでね。切り刻んじゃいなさい、風刃魔法!」ゴオォッ…!

ズバッ…!ザクザクッ!

男「ぐっ…!」


魔女「男さんっ!!」

カッ…!バチッバチバチッ…!

魔女「また…! やめてよっ!」バッ

キイイイィィィィンッ!ゴオオオォォオォォッ…!!


魔女「お願いっ! もう来ないで…!」ハァ…ハァ…!



399 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/21(火) 10:40:51.30 ID:dK5jkQ2io


男「ちく…しょう…!」グググッ…

黒騎士「そんなに力んだら血が吹き出して死ぬわよぉ?」クックックッ

男「風魔法ごときで…俺にとどめを刺せると思うな…っ!」チャキッ…!

黒騎士「思って無いわ」


…ヒュンッ


男「……っ…」


ボタボタ…ブシュッ!


黒騎士「でも…更に動きの鈍った貴方を斬るくらい、容易くてよ」

男「く…そっ……」グラッ


…ドシャァッ!


魔女「嫌…! もう傷つけないで、男さんがっ!」

黒騎士「あはァ…月の誇る人間兵器の癖に、こんなモノが大事なの? この──」


ドスッ!


黒騎士「──標本みたいに背中を串刺しにされた虫けらが?」クスクス

魔女「うわああああぁぁあぁっ! 男さん…男さんっ!!」



400 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/21(火) 10:41:44.56 ID:dK5jkQ2io


友「男…! くっ、どけっ! くそぉっ!」キンッ、ギィンッ!

眼帯「男! 嘘でしょ…死んでないよねっ!?」カァンッ!キンッ、ギリギリ…


黒騎士「いい頃合いね、赤の狼煙矢を放ちなさい」スッ

黒隊員「ははっ」


ビシュッ!ヒュイイイィィィ……ボワッ!


黒騎士「…これで暫く光線魔法の攻撃は止むわ。ただし魔女の魔力上昇を感知したら瞬時に次を放つからね…フフフ」

魔女「お願い…みんなに治癒魔法だけ使わせて下さい!」

黒騎士「治癒魔法? ああ…じゃあ私がしてあげる」スッ…


…パアアアァァアァァァッ


黒隊員「おお…」

黒隊員「ありがたき幸せ、黒騎士様」

黒隊員「さすがだ、一瞬で傷が消えた…」



401 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/21(火) 10:42:43.74 ID:dK5jkQ2io


黒騎士「フフ…どう? 実は私も先代の魔女から少ぉしだけ血を受けてるのよねぇ」クスクス

魔女「し、白のみんなには…!?」

黒騎士「あなた魔女の癖に馬鹿なの?」

魔女「…っ! もういい、私がっ──」スッ


カッ…!バチッバリバリッ…!

魔女(──光線魔法!!)ババッ!


キイイイィィィィンッ!ゴオオオォォオォォッ…!!


魔女「違う! 今のは攻撃魔法を使おうとしたんじゃないっ!」キッ


黒騎士「解ってるわよぉ…でも対岸の魔少女は貴女の魔力が上昇すれば無差別に撃ってくるわ」クックックッ…

魔女「もう…やめて……みんなが死んじゃう…」ヘナヘナ…ペタン

黒騎士「あはァ…悔しいでしょうねぇ。救う力を持つのに、仲間が弱っていくのを眺めるしかできない…ゾクゾクしちゃう」ブルルッ



402 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/21(火) 10:43:24.46 ID:dK5jkQ2io


友「ふっざけんなっ!」ブンッ!

キイイイィィィンッ!ギギギッ…

黒隊員「ハッ…疲弊しきった貴様らと全快の我ら、勝負になるのか?」ニヤッ

友「くっそ…! どけよっ!」



魔女「やめて…」



眼帯(治癒魔法…使った事ないけど…私にもできる?)パアアアァァァ…

黒隊員「おっと」ヒュッ!ズバッ!

眼帯「ああぁっ…!」グラッ…ボタボタッ

黒隊員「まさか白の隊士にもそんな芸当を持つ奴がいるとはな」ヘッヘッ



魔女「お願い…やめてっ」グスッ



黒騎士「アンタ達、もう何人か殺しときなさぁい?」

黒隊員「はっ!」ジャリッ!


ヒュッ…ズバッ!


黒隊員「恨むなら…」ブンッ!

白隊士「ぐぁっ…! おの…れ…」ドシャアッ

黒隊員「…あの魔女を恨みな」

白隊士「ぎゃああああぁぁぁっ…!」ブシュッ!グラリ…バタッ



魔女「やめてええええぇぇぇっ!」ボロボロ…

黒騎士(…そろそろ壊れたかしらぁ?)ニタァッ



403 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/21(火) 10:43:54.73 ID:dK5jkQ2io


黒騎士「魔女…いいこと? こうなったのは貴女のせいなのよ?」

魔女「私の…せい…」グスン


黒騎士「私は貴女を生かしたまま連れ帰るよう命ぜられてるわ」

魔女「……?」

黒騎士「だから貴女が素直に従えるように、わざと急所は外してある」

魔女「急所…外す…?」


黒騎士「私の剣に貫かれたこの人…まだ息があるわよ?」

魔女「!!」


黒騎士「フフ…抵抗せず、魔力封印の呪縛を右手に受け、そのまま私達と王都へ行く…そう約束するならここまでにしてあげる」

魔女「じゃあ治癒魔法を…!」

黒騎士「馬鹿なこと言わないで、そんなの起き上がってまた抵抗してくるに決まってるじゃなぁい」ケラケラ



404 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/21(火) 10:48:24.31 ID:dK5jkQ2io


男「…魔女…様…」グッ…ググッ…

魔女「男さんっ!」

黒騎士「ほぉら、まだ意識さえあったみたいよぉ? …どうするの?」


男「今…の内…に……我々もろと…も…」ハァ……ハァ…

黒騎士「あんたに喋れなんて言ってないわ」グリッ

男「うぐっ…ああぁっ!」ゲホッ!ゲホッ…!

魔女「やめてっ!」

黒騎士「早く決断なさいな? あの片目の娘も少しは治癒魔法を使えそうだけど、間に合わなくなるわよぉ?」


魔女(…魔女の島……やっと着いた…のに…)

魔女(すごく…幸せだったのに…)グッ…

魔女(ずっとあんな日に…続いて欲しかったのに…っ)ギュゥッ


黒騎士「…まだ少し足りないみたいねぇ、希望の糸を断ち切ろうとしたらどうかしら…?」



405 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/21(火) 10:49:15.30 ID:dK5jkQ2io


黒騎士「四肢を縛られなさい、束縛魔法!」スッ…バチィッ!

眼帯「う…ッ!?」ギシッ…!

黒騎士「その娘、連れてきなさい」

黒隊員「はっ」


友「眼帯っ!」

黒隊員「構う余裕なんざ無えだろ?」シュッ…!

ドスッ!

友「うっ…ぐ…」ズル…ズルズル……ドサッ


黒騎士「…さあ、どうしようかしら? この娘が死んだら誰も傷を癒せないわ」

魔女「う…ぅ…」

黒騎士「殺す? それとも同じ隊の奴らに輪姦させる? 右腕だけ残して手足を斬り落としましょうか?」

眼帯「魔女ちゃん…構わない…から、この場ごと…吹き飛ばし…て…」ギリギリ…



406 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/21(火) 10:50:13.96 ID:dK5jkQ2io


黒騎士「フフフ…その包帯の下には、どんな醜い傷があるのかしらねぇ? 見せてみなさい」グイッ

シュルッ…!

眼帯「…くっ……」キッ


黒騎士「あら…? 怪我なんて無いじゃない、その紅い瞳…あんた星の国の民だったのね」

友「違…う……そいつは…俺らの家族…だ…」

黒騎士「つまらないわ、やっぱり仲間に犯させる方が楽しそう」フイッ


魔女「……ま…した…」グッ

黒騎士「んん? 何ですって?」

魔女「貴方達と…共に行きます…から…」ポロポロ…


眼帯「だめ…魔女ちゃん…」

友「魔女様…! お願い…です、魔法で…こいつらを…っ」

男「………」ハァ…ゲホッ、ゲホッ…


魔女「皆さん…巻き込んでごめんなさい…私は王都へ行きます」


魔女「眼帯さん…治癒魔法は触れて使うのが一番効果が高いはずです」

魔女「見た目には傷口が塞がっていなくても、柔らかい血管や筋組織はすぐに繋がるはず」

魔女「まずはその方法で、みんなの命を取りとめる事を優先して下さい…」



407 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/21(火) 10:51:06.93 ID:dK5jkQ2io


黒騎士「でも、いくつか治せないトコロがあるのよねぇ。心臓とか、脳とか…」ニヤァ…

魔女「…? 何を──」


黒騎士「──その紅い目、とか」ヒュッ!

スパッ…!

眼帯「うっ…!」ポタポタポタッ…!


魔女「眼帯さんっ!」

友「……!!」ギリッ

黒騎士「あはっ…いいじゃない、もっと包帯が似合うようになったでしょう? あははははっ」ゲラゲラゲラ


魔女「もうやめて! お願い…言う事をきくから…!」

黒騎士「じゃあ、右手を出しなさい?」

魔女「はぃ…」スッ…


眼帯「いけな…い…魔女…ちゃん……」ハァ…ハァ…


黒騎士「呪縛に抵抗しちゃだめよ? 素直に受け入れるようにしなきゃ、貴女の魔力を封じるなんてできっこないわ」バチッ…バババッ

魔女「………」ギュッ

黒騎士「そうよ…いい子ね。…ふぅ、できたわ」バチィッ!



408 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/21(火) 10:52:30.05 ID:dK5jkQ2io


黒騎士「さあ…怖い魔女も無力化できたところで、皆殺しにしようかしら?」ニヤァッ

魔女「それはできません」

黒騎士「…フフフ、そうねぇ。魔法を外に放てなくとも、体内で使える魔法がひとつだけあったわね」

魔女「これ以上皆さんに手出しをしたら、私は自爆魔法を使います。生かして連れ帰るのでしょう…?」


黒騎士「この虫けら共は島に置き去りになさい。舟も無い、近い港は全て封鎖…逃げようがないわ」

黒騎士「魔女、いいわね…? 貴女が自ら死んだら、数日の内に魔少女が島を消し飛ばすわ」

黒騎士「あはっ…ゴミみたいな虫達でも、丁度いい鎖としては役立ってくれそうじゃない? 愉快だわぁ…あはははっ!」


魔女「皆さん…本当にごめんなさい。亡くなった方には詫びようもないけど…」

魔女「どうかせめて…今、息のある人だけでも生きのびられますように」


魔女「…少しの間だけでも、私は幸せでした。本当にありがとう、友さん、眼帯さん、皆さん…」

友「畜生…っ」

眼帯「…どうして…こんな…」


魔女「男さん…大好きでした」ニコッ

男「……魔女…さ…ま…」ハァ……ハァ…


魔女「さよなら──」



417 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/22(水) 08:57:32.45 ID:xhx5uDTHo


……………
………


…二日後、夕方

ザアアアアァァァァザザアアアァァァン…
…サァァアアアァアァ


男「………」ボーーーッ


『──皆さん…本当にごめんなさい。亡くなった方には詫びようもないけど…』

『どうかせめて…今、息のある人だけでも生きのびられますように』

『…少しの間だけでも、私は幸せでした──』


男「魔女…様…」ポツリ

男「…何が…魔女の騎士だよ」


『どうかこの島で、天の与え賜うた命が尽きるまで…我々はそう望んでおります』


男「どの口が言ったんだ…」グッ…



418 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/22(水) 08:58:36.40 ID:xhx5uDTHo


友「──男、まだそうしてたのか」ザッ

男「友…」


友「食事の用意、進んでるぞ。今日は潮がよく引いたからな、貝や雲丹がたくさん採れた」

男「…悪い、欲しくない」

友「はぁ…お前、昼もロクに食ってないだろ。それじゃ治る傷も塞がらないぞ」


男「いいよ、俺の傷は消えなくても。それより眼帯は…?」

友「左目は治らない。…頬から額への傷痕も今からじゃ消えないな」

男「…俺のせいだな」

友「お前だけじゃねえよ、みんなあいつに治癒してもらったんだ。…自分の傷は致命傷じゃないからって、後回しにしやがって…」


男「熱は引いたのか?」

友「だいぶな…ぶっ倒れるまで治癒魔法使い続けてたから、無理もないさ」



419 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/22(水) 08:59:26.47 ID:xhx5uDTHo


男「俺は大丈夫だ、友…眼帯についててやれよ」

友「ちっとも大丈夫そうじゃねえよ」

男「…すまん、でも何をしてても考えちまってさ」

友「黒騎士の最後の言葉…か──」


『──魔女はアンタ達のために死ぬ事も許されないわ、だから残される者もしっかり苦しまないとねぇ』

『本当は魔女を陵辱してやればいいんでしょうけど、私以外触れられないし…でもそれなりに傷を負ってもらおうかしら? あははっ』

『いい…? 月王陛下は言ったわ、魔女の手足を引き千切っても構わない…って』

『アンタ達を生かす為に、魔女は爪を剥がされ髪を毟られても命を絶てないのよ』

『フフフ…泣き叫ぶ様を、しっかり想像なさい──?』


男「──なぁ、友…魔女様は今どんな目にあってる…!?」

友「男、落ち着けよ…」

男「手足を斬り落とされた御姿なんて、想像したら気が狂いそうなんだ! …なぁっ!」



420 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/22(水) 09:00:32.26 ID:xhx5uDTHo


友「冷静になれ、男。魔女様だって人間だ、耐え難い苦痛を受ければ正気じゃいられない」

男「それが心配なんだろ!」

友「聞けよ! そんな苦しみから逃れるためなら、思わず自爆魔法って奴も使いかねないだろ?」

男「……呪縛を受けても使える魔法…か」

友「だから…たぶんそんな目にはあってねえよ、黒騎士だって魔女様に死なれちゃ困るはずだ」


男「魔女様を生かして連れ帰るのは恐らく魔力の譲渡のためだろ? じゃあそれが済んだら…?」

友「……解らん、でも今はまだ大丈夫だ。それまでに何か救い出す手を…」

男「無えよ、そんなの! 舟も連絡を取る術も無いんだぞ!?」

友「落ち着けって…」


男「いっそ俺達が全員自決すれば!? そうすりゃ魔女様は苦しみを受ける前に命を…!」

友「馬鹿言うな、どうやってそれを知らせるんだよ。連絡の術が無いって言ったばかりだろ──」



421 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/22(水) 09:01:25.34 ID:xhx5uDTHo


眼帯「──あるよ、一つだけ」ザッ


友「眼帯…! 起き上がって平気なのか!?」

眼帯「大丈夫…まだ全快とは言えないけど」ハァ…


男「眼帯…すまん、俺達のためにお前の顔に傷を残してしまった」

眼帯「気にしないで、小隊に入ってからは片目で剣技を磨いてきたんだから」ニコ

友「無理すんなよ、まだ休んでないと」

眼帯「みんなだって傷の治癒が完璧じゃないもの、私だけ休んでられない」


男「それで…眼帯、一つだけある術ってのは…?」

眼帯「…あまり気は進まないかもしれない。でも状況は変わった筈だから…もしかして」

友「?」

眼帯「今日は潮がよく引いたんでしょ? たぶん大潮だよ、だから今夜は──」



422 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/22(水) 09:02:16.58 ID:xhx5uDTHo


………


…月の国、北東の洋上


ザザザザザザアアァァァ…


黒騎士「──はぁ、日陰が無いんだもの…本当に嫌になっちゃうわね」

魔少女「………」チッ


黒騎士「舌打ち、聞こえるようにしたの?」

魔少女「…そう、人に舟を漕がせておいて暇そうだから」

黒騎士「仕方ないじゃないの、貴女の風魔法を用いればこんな中型船ひとつ進ませるなんて優しいものでしょう?」

魔少女「…それならそこにいる荷物にでもさせればいい」


魔女「………」


黒騎士「だめよぉ、呪縛を解いたら何をするか解ったもんじゃないわ」クスッ



423 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/22(水) 09:04:56.01 ID:xhx5uDTHo


魔少女「…呪縛の印…忌まわしい紋様」

黒騎士「フフフ…いかに魔女や貴女でも、これを施されたらどうしようもないものねぇ」ニヤニヤ

魔少女「…ある程度の魔力を持つ者が触れ解呪を使えばすぐに消える」

黒騎士「あはっ…貴女達に誰が触れられるっていうの? 簡単な呪縛だけど、むしろ魔女にとってこそ完璧だなんて皮肉ねぇ」クスッ


魔女「……王都まで、あと何日かかりますか」ボソッ

黒騎士「んん…? なにか企んでるのかしらぁ?」

魔女「私はあとどのくらい生きられるのか訊いているだけです」フイッ


黒騎士「南東の諸島からだと対角線になるものねぇ…この速さでもまだ一週間はかかるかしらぁ?」

魔女(一週間…)


黒騎士「…本当に気になってる事は違うわよねぇ? 貴女、自分の役目が済んだらあの島を消されると思ってるでしょう?」

魔女「………」

黒騎士「フフフ…その通りだと思うけどぉ? でも諦めなさい、あの近辺の港は事が済むまで出船を許されないわ」



424 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/22(水) 09:05:37.56 ID:xhx5uDTHo


魔女「…それなら今、私が命を絶っても同じですね」

黒騎士「そうねぇ、だけどできないでしょう? 万に一つも島に残る虫けら共が生き残る可能性を信じたい…違う?」ニヤニヤ

魔女「………」ギュ…


魔少女「…水平線に船が」

黒騎士「んん…? どこの船かしら、けっこう大きそうね」


魔少女「…沈める」スッ

黒騎士「おやめなさい、あのくらい沖なら公海に入るわ」

魔少女「………」チッ

黒騎士「今は月の東海岸一帯に入港規制が敷かれてるはず、たぶん月旭海峡を回ってきたのよ──」



425 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/22(水) 09:07:18.75 ID:xhx5uDTHo


………


…星の大型船


魔剣隊員「──魔剣士殿、通信が入りました」

魔剣士「ご苦労、もう満月が昇ったか。どれ──」


バサッ…ガサガサ…


魔剣士「──なんと…眼帯から本国に通信があったらしい」

魔剣隊員「妹君から…?」

魔剣士「なるほど…先に本国から知らされていた二つ目の魔女反応、そういう事か」


魔剣隊員「それと、先刻より船の魔力検知計が振り切れるほどの反応を示しております。もしやいずれかの魔女が近づいて…?」

魔剣士「…そうだとして我々を敵とみなしているなら、前触れも無く消し飛ばしてこよう。抵抗しても無駄だ」

魔剣隊員「はっ…では、針路は」

魔剣士「そのまま変えるな。それと南東の諸島に対し直接の通信が可能か試みてくれ」


魔剣隊員「…直接…ですか?」

魔剣士「眼帯はそこにいる。繋がるようならこう送れ。『逆賊の力を貸り受けにゆく』…と」

魔剣隊員「はっ…!」

魔剣士「魔少女…次の魔女か。解らんものだな、魔女を殺すべき我々の針路が魔女に仕える騎士と交わるとは」


魔剣隊員「満月の魔力供給、最大に入ります!」

魔剣士「よし、帆に送る風魔法を増幅! 月の南東諸島へ、全速前進せよ──!」



432 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/22(水) 21:53:13.91 ID:xhx5uDTHo


……………
………


…月の王都


大臣「──陛下のご様子は?」

侍女「まだ多少の発熱はございますが、安定はしています……ただとてもうなされて」


大臣「そうか…」

侍女「例え風邪であったとしても用心に越した事はございません」

大臣「うむ、交代で付き添いを頼む」

侍女「はい」


大臣(…万一の事があった場合、世継ぎがどうなるか)

大臣(陛下は第三皇子でありながら王位を継がれた…骨肉の争いは避けられまい)

大臣(しかも先代の正妃ではなく第二妃の子、本来なら国王になる筈はなかったのだ──)



433 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/22(水) 21:53:54.54 ID:xhx5uDTHo


『──聞いたか? またあの呪われた姫に触れた者が命を落としたらしいぞ』

『なんでも魔力が強過ぎて近づく事さえ命がけだとか。実の母親もそれで死なせたんだからな…』

『しっ…兄様、聞こえますわ。噂をすれば…』

『聞こえたって構わないさ、どうせ正統な王位継承権を持つ我々に歯向かうなど許されまい』

『ふん、第二妃…いわば妾の子の分際でよくここで暮らせるよな。兄妹ともどこか地方にでも送っちまえばいいんだ』


『………』

『妹姫、行こう』

『兄上…母上が私を撫でようとして命を落としたというのは本当なのですか』

『……母上はお前を愛していた、触れられぬと知りつつも抑えられなかったのだ』


『なぜ…私はこんな力を…』

『それは…解らない。だがその力は神がお前に与え賜うたもの、きっと何か意味がある』

『でもそれ故に私だけでなく兄上まで忌まれてしまうなど』

『私の事はいいんだ、妹姫』


『…私達はここで暮らしてはいけないのでしょうか』

『あの者達の言葉など耳を貸さなくていい、お前は私が護る』



434 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/22(水) 21:54:43.86 ID:xhx5uDTHo


『近く、戦があると聞きました』

『ああ…私も征く、お前を残すのは気がかりだが部隊を率いねばならん』


『……兄上、私をお連れ下さい』


『何を言う、そんな事できるわけ無いだろう…』

『兄上は私の力は神が与え賜うたものと仰って下さいました、そこには与えた理由がある…と』

『それは…しかし…』

『ならば私は兄上のお役に立ちたいのです。兄上が武勲をたてれば、きっと私達の居場所が…!』

『妹姫…』


『…私はこの国を統べる兄上を見とうございます』

『………』

『兄上…王家に生まれ落ちながら居場所さえ与えられない私達です、ならば二人で…それを』

『…全てを…二人で──』



435 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/22(水) 21:55:17.61 ID:xhx5uDTHo


月王「──ぅ…妹姫…」ハッ…


侍女「陛下、お目覚めでございますか」

月王「……ああ、私は…夢を…」

侍女「酷くうなされておいででした、お加減はいかがでございましょう…?」


月王「うむ…古い夢であった…だが忘れ得ぬ記憶だ。なに…具合は悪くない、まだ死ねぬ」

侍女「何よりでございます。先刻、軍部より通信が届いておりますが…」

月王「…内容は?」


侍女「私には解りかねますが、一文のみ『白は朱に染み、月の矢は漆黒の下に』…と」


月王「月の矢…黒の下に……ふふ…ふははっ…!」ガバッ

侍女「陛下、ご安静に…!」

月王「何の事はない、風邪など失せたわ。なるほど、そうか…道理で古き記憶も夢に浮かぶわけよ──」



436 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/22(水) 21:56:35.12 ID:xhx5uDTHo


……………
………


…十日後深夜、月の国西部の洋上


ザザザザザザアアアァァ…


男「──まさかあんたの手を借りるとはな思わなかったよ」

魔剣士「さて…借りているのはどちらだろうかな」

男「次に会えば千切りにするつもりだったんだが」


魔剣士「妥協の末、利害が一致したに過ぎん」

男「魔女が二人いたんじゃ、一人を味方につけるしかないものな」

魔剣士「そういう事だ」


男「…しかし本当は二人の魔女が相打つ事を望んでいるんだろう?」

魔剣士「私は騎士では無い…が、そのように義理を欠いた事は望まんよ」

男「どうだかな」

魔剣士「…剣に誓おう」



437 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/22(水) 21:57:24.63 ID:xhx5uDTHo


男「魔少女を討った後は、もう魔女様の命は狙わない…眼帯からそう聞きはしたが」

魔剣士「まあ実際のところ状況が変わった…いや、理解したと言うべきか」

男「ほう…なにをだ?」

魔剣士「それについても妹から聞いているのではないか?」

男「そうだとしても、あんたの口から聞きたいね」


魔剣士「…今までは魔女が月の袂にいる限り、御子様の再誕は無かった」

男「御子の魔力だけが引き継がれてゆくから…だな」

魔剣士「しかし、そなたらの企て通りとなれば話は違う。魔女は力を譲渡する事無く、いつか死ぬ」

男「天寿を全うした後の事だ」

魔剣士「それまでの間にも惑星は弱るだろう、だが永劫続くわけではない」


男「それがあんた達の妥協点という事か」

魔剣士「無論、その魔女の力を借りる時点で恩義もできる。妥協という言葉通りには受け取らないでくれ」

男「ふん……まあ、信じておくとしよう」



438 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/22(水) 21:58:30.27 ID:xhx5uDTHo


男「あと、どのくらいだ?」

魔剣士「三時間ほどか…夜明け前には着こう」


男「……大きな船だ、王都は驚くだろうな。突如として星の軍艦が岸に着くんだから」

魔剣士「王の居城が海に面した市街のすぐ隣りとは、強気なものだ」

男「魔女の力を得た今の王が遷都したからな」

魔剣士「しかしこの船も魔女の力をもってすれば張子の虎だ。接岸後すぐに下船せねば一網打尽にされるだろう」


男「魔女様は間違いなく王都にいるんだろうな?」

魔剣士「少なくとも魔力感知装置が捉えた反応は、二つに分かれる事は無かった。そして今は王都の方向を指している」

男「魔女様も魔少女って奴もその先にいる…ってわけか」


魔剣士「気は昂ぶっているだろうが、今しばらく身体を休めよう」

男「…そうだな」

魔剣士「船室にいる、なにかあったら声をかけてくれ──」



439 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/22(水) 21:59:09.94 ID:xhx5uDTHo


カッ、カッ、カッ…


「──だね、もう傷は平気?」


魔剣士(…妹の声、船尾か。話しているのは……)


友「へっちゃらだよ。口を開けてても皮一枚だ、すり傷と変わんねえ」

眼帯「うん、私も。熱もすっかり下がったし」


友「…まさか、月の王都に攻め込む事になるなんてな」

眼帯「ほんの半年ちょっと前までは、そこを守ってたのにね」

友「そうだな…でもその時も俺たちは魔女の騎士だったし、仕える主は変わってないぜ」


眼帯「……私は、みんなを騙してたけどね」

友「眼帯…」



440 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/22(水) 21:59:45.66 ID:xhx5uDTHo


友「……さっき、怪我はもうすり傷くらいのもんだって言ったけどさ」

眼帯「うん…?」

友「お前の左目は…そうはいかないよな」

眼帯「……そだね」


友「包帯…とってみてくれないか」

眼帯「えっ」

友「どうしても嫌ならいい…決して下衆な興味で言ってるんじゃない」

眼帯「…いいよ」スッ…


スルスル…シュルリ、パサッ


眼帯「あはは…こんなになっちゃった」エヘヘ

友「…もう痛くないのか?」

眼帯「傷口はね、でも時々瞼の下…治せない目が痛む事があるかな」



441 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/22(水) 22:00:57.89 ID:xhx5uDTHo


眼帯「こんな事言ったら魔女ちゃんが悲しんじゃうから、ここだけの話…だよ?」

友「…なんだ?」


眼帯「うん…やっぱりさ、なんだかんだ言って…けっこう落ち込んでるんだ」

友「片目を失った事か?」

眼帯「どっちかというと、顔に傷が残った事…かな」

友「………」


眼帯「まあ…あんたにこんな事言っても、どうせ『熊はそんなの気にしない』ってからかわれそうだけどさ」

友「……熊じゃねえよ」

眼帯「ん?」


友「俺は、そんなの気にしねえ」


眼帯「…どういう意味?」

友「初めて会った時から、お前はずっと左目を包帯で隠してたじゃねえか」



442 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/22(水) 22:01:46.90 ID:xhx5uDTHo


眼帯「それは…紅い瞳を見せるわけに──」

友「──俺はそのお前をずっと見てきたんだ。包帯の下には見せたくない傷があるんだろう…そう思ってた」


眼帯「友……」

友「だからその傷で何か変わる事なんてねえんだ」

眼帯「…ありがとう」


友「でも…悪かったよ、それを見せろなんて言って」

眼帯「ううん……友、ひとつ頼んでもいい?」

友「頼む…? 何を?」

眼帯「包帯を巻いて欲しいの」


友「俺、不器用だぞ?」

眼帯「いいんだ、友に巻いて欲しい」

友「…解った、後ろ向けよ」

眼帯「うん…」



魔剣士(…なるほど、隊に情を移すわけだ)

魔剣士(もはや兄の出る幕は無いか、寂しい事だな──)フフッ



443 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/22(水) 22:02:52.64 ID:xhx5uDTHo


………


…夜明け前


ザザザザザザザアアァァァ…


魔剣隊員「──第一魔導士隊の艦が合流! 本艦の右舷に並走します!」

魔剣隊員「続いて第二・第三魔導士隊の二艦、左舷および後方に合流します!」

魔剣隊員「海洋守護艦隊より『現在位置、西方約半海里。貴艦との合流を許可されたし』との直接通信あり!」

魔剣士「許可すると返せ、ただし遅れれば魔法攻撃の標的となるぞ…と付け加えてな」


友「…すげえな、星の国…どこが小国だ」

眼帯「でもこれは主要な部隊だけとは言っても、ほぼ全軍だよ」

男「全軍…? もし失敗したら、月に滅ぼされるぞ」


魔剣士「我が国は惑星と共に生きている。この作戦の失敗は主たる惑星の命運が尽きた事を表すも同じだ」

男「ほう…惑星に仕える身か」

魔剣士「そう言い換えてもいい……さあ、月の王都に着くぞ」



444 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/22(水) 22:03:55.41 ID:xhx5uDTHo


「守護艦隊、合流します! 接岸まで残り五分!」



魔剣士「上陸後の手筈は伝えたな、そなたらの小隊には周知を?」

男「ああ、一応は。向こうの出方次第でどうなるかは解らんが」


友「もう一度確認しといた方がいいんじゃないか?」

男「俺がかよ」

眼帯「ウチの隊に号令かけるなら、男がするのが一番だよ」

男「お…おぅ……」ボリボリ


カッ、カッ、カッ…カツンッ


男「あー、ごほん……白色小隊、総員整列──!」

──ザンッ!


男「本艦は間もなく月の王都西側の岸壁へ着く!」

男「どの時点でかは判らんが、接岸前後は魔法攻撃が予想される! 総員、速やかに下船せよ!」



「接岸まで残り三分!」



445 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/22(水) 22:04:27.96 ID:xhx5uDTHo


男「上陸後、予め配置した六班に再編成! 星の魔法剣士隊および魔導士隊を先導し、王城を目指す!」

男「眼帯は魔剣士殿率いる特別隊と共に身隠しの兵装を用い、魔女様奪還の別部隊とする!」

男「別部隊は西側石垣の夜間連絡路より侵入! 他の隊は市街の一から六番通りそれぞれを進み、注意を引きつける!」

男「魔女様奪還後は速やかに撤収する! 合流地点は東の森林内の湖だ!」

男「ただし魔女様の力を封じる呪印が解かれた場合、魔少女との交戦もあり得る! その際は可能な限り援護せよ!」



「接岸まで残り二分! 艦、減速します!」



男「…騎士隊をはじめ見知る部隊との交戦もあろう。しかしこれは魔女の騎士たる我々の誇りを賭けた作戦だ」

男「一切の容赦は要らん…『知る顔だからと斬る事もできない程度の覚悟』では、糞親父に尻を蹴りあげられると思え」

男「だが…その糞親父は我々が命を落とす事は望むまい」

男「……総員、生きて帰ろう」



「接岸まで残り一分! 耐衝撃体勢、用意!」



友「そうだな……島へ戻ろう」コクン

眼帯「うん、私達家族の島だもんね」ニコッ


男「本作戦は再度あの島へ上陸する時を以って終了とする! 無論、それは──」



ゴオオオオォォォォン……

「接岸確認! 上陸開始!」



男「──魔女様と共にだ! 健闘を祈る!」



452 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/24(金) 20:28:49.07 ID:dLxdt5iaO


魔剣士「下船急げ!」

魔剣隊員「月の警戒兵が集結しています! 矢の弾幕が濃過ぎる…!」

魔剣士「魔導士隊っ!」

魔導隊長「物理防壁魔法、急げっ──!」


──カッ!


男「!!」

眼帯「あの光は…魔少女の!」


バチッバリバリッ…!
ゴオオオォォオォォッ…!!

…グワッ!ドオオオォォン…ズズズズズ…


魔剣隊員「二番艦、沈黙! くそっ…!」



453 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/24(金) 20:29:40.55 ID:dLxdt5iaO


男「小隊の連中は皆降りたか!?」

友「大丈夫だ! 全員いる!」


月兵「なんだ、今の光は!?」

月兵「味方なのか敵なのか…!」

月兵「あんなのに狙われたら終わりだぞ!」


男「しめた、迎撃の月兵もさっきの魔少女の攻撃で怯んでる、今の内に班ごとに散開するぞ!」

眼帯「何も知らないんだもんね…」


月兵「おのれ! 侵入者の前進を許すな!」

月兵「でも…港湾警備の兵だけでは数が違い過ぎて…!」


カッ!バチッバリバリッ…!


月兵「ひぃっ! まただ…!」



454 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/24(金) 20:30:30.07 ID:dLxdt5iaO


グワッ!ドドオオオォォン…ズズズズウウゥゥン…


魔剣隊員「旗艦が被弾! 沈みます!」

魔剣士「構うな! もう無人だ、白小隊の先導に続け!」

魔剣隊員「おおぉっ!」


眼帯「兄様…っ!」

魔剣士「よし、別働の特別隊! 集え!」

男「眼帯! 頼んだぞ!」

眼帯「…うん!」


友「さて…こっちはこっちの仕事だな」チャキッ

男「二番街通りは頼む、武運を」

友「しっかり引きつけるように、派手にいこうぜ」

男「馬鹿、大通りの真ん中なんかに出るなよ。魔法攻撃の的になるぞ」

友「解ってらぁ、じゃあ…また東の森でな!」



455 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/24(金) 20:31:29.64 ID:dLxdt5iaO


………



側近「──陛下! 岸壁に乗りつけた船の正体が判明致しました!」

月王「この時勢において月に盾突く愚か者め、どこの籍だ!?」

側近「星の国の艦船にございます!」

月王「星だと…!? 自らが望んだ不可侵条約を覆したというのかっ!」

側近「そ、そういう事に…」


月王「黒小隊…黒騎士を出せ! 一兵たりとも城に近寄せるでない!」

側近「ははっ!」


月王(おのれ…なぜ今になって…)

月王(…まさか、魔女となにか関係が…?)

月王(星…母上の祖国か。もし妹姫の…魔女の力が星の国に関わるものだったら?)

月王(魔力を遮断しないこの城に魔女と魔少女が入った事で居場所を特定したとしたら…説明がつく)



456 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/24(金) 20:32:23.69 ID:dLxdt5iaO


月王「魔女は今どこに幽閉しておる」

側近「地下二階でございます!」

月王「警備の兵は?」

側近「同じ階に二十の兵を」

月王「五十に増せ、地下一階と地上一階を半々に守備にあたるのだ」


側近「地下二階そのものは…?」

月王「私は自ら以外、誰も信じぬ。自軍の中で星に内通する者が無いと言い切れるか?」

側近「はっ…お、仰せのままにっ!」


月王「…魔少女のいるバルコニーに出ておる、状況は随時報告せよ」

側近「陛下、今お姿を見せては危険です!」

月王「ふん…そうか、私が信じる者なら一人だけおったな」

側近「……?」

月王「魔少女だ、あやつの隣ほど安全な場所など無いわ」



457 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/24(金) 20:33:19.00 ID:dLxdt5iaO


カッ、カッ、カッ…


月王(…魔少女)


魔少女「…焦がし貫け、光線魔法」バチッ!

バリバリッ…!ゴオオオオォォォッ!


月王「やはり凄まじい力だな」

魔少女「…陛下、侵入者の艦船は全て撃沈致しました」

月王「うむ…ご苦労、しかし既にもぬけの殻であろう」

魔少女「…賊は王城に向かい、街路を侵攻中との事」

月王「解っておる、城下を灰と化すわけにはいかぬ。責めているわけではない」

魔少女「………」



458 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/24(金) 20:34:13.30 ID:dLxdt5iaO


月王「賊の船は星の国のものという事だ。今は各通りに騎士団を向かわせ、城門に黒小隊を配している」

魔少女「……何を目的に奇襲など」

月王「先日の魔女演習に危機感を募らせたか、あるいは国の政策とは無関係の過激派部隊か…それとも」

魔少女「…?」


月王「もしかすると狙いは魔女かもしれんな」

魔少女「魔女が狙い…とは?」

月王「星は直接的な兵器でなく、魔力を利用した様々な通信や観測機器といった魔法工学に長けていると聞く」

魔少女「ここに魔女がいる事を嗅ぎつけ、亡き者にしようと…」

月王「そこまでは解らん、だが魔女と星の国には何らかの関係があるやもしれぬ」


魔少女「……今、魔女は?」

月王「城の地下に幽閉し、幾重にも警戒を敷いてある。姿を消しでもせぬ限り、近づけまいて──」



459 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/24(金) 20:35:08.70 ID:dLxdt5iaO


………


…王城、連絡路


眼帯(──身隠しの兵装…ほんとに消耗が激しい、ゆっくり歩く事しかできない)

魔剣士《…大丈夫か、きつくなったら立ち止まって目を閉じるといい。少し楽になるだろう》ヒソヒソ

眼帯《平気…早く魔女ちゃんを助け出して、みんなを囮役から解放しなきゃ》ヒソヒソ

魔剣士《訓練も無しに兵装を使いこなすとは…やはりお前は才能に長けているな》ヒソヒソ


魔剣隊員《…魔剣士殿、一階はかなりの数の兵が警戒しております》

魔剣士《魔女らしき反応は上方と地下の両方で感知されているな》

眼帯《さっきの光線魔法は城の上層階から放たれてたと思うから、そっちが魔少女じゃないかな…》

魔剣士《うむ、やはり地下階か》


眼帯《予備の兵装は持ってきてるんでしょ? 魔女ちゃんなら呪印さえ無ければ使いこなすだろうけど…》

魔剣士《どう考えても呪印を解いているとは思えんな。通常、三日ほどで消えるが…繰り返し施されているに違いない》

魔剣隊員《兵の数が多い区画です、お静かに──》ヒソヒソ



460 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/24(金) 20:36:12.48 ID:dLxdt5iaO


月兵「──どういう事なんだよ? 俺達はまだしも、地下を見張ってる奴らは何の意味があって配置されてんだ」

月兵「港から賊が侵入したとは言うし、さっきからすごい音がしてたが…」

月兵「陛下の身辺を警護するなら解るが、地下に何かあるってのか?」


眼帯(…本当になんの情報も与えられてないんだね)

魔剣士(用心深いと言うべきか、疑り深いと言うべきか)

魔剣隊員《…まずいですね、地下への通路に扉が。恐らく向こう側から鍵が掛かっていると》ヒソヒソ…


月兵「俺さ、時々この国のしようとしてることが解らなくなるんだよな…」

月兵「他国への侵攻の事か?」

月兵「それもそうなんだけどさ……聞いたか? こないだなんか騎士団の小隊が三つも懲罰房に放り込まれたって」

月兵「ああ…赤・緑・橙の隊だろ? 何らかの任務に失敗したとか」


眼帯(あの三隊が何のために出撃したかも知らないんだな…)



461 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/24(金) 20:36:48.60 ID:dLxdt5iaO


月兵「でもさっき地上で姿を見たんだよ」

月兵「そりゃ、この混乱を収めるために解放されたって事だろ」


月兵「だから変なんだよ。三小隊も出撃しておいて任務に失敗するって、何か不測の出来事かあるいは大きな手落ちでもあったはずだろ?」

月兵「手落ちがあったから懲罰を受けたんじゃないのか?」

月兵「それなら責を問われるのは普通、隊長格じゃないか。なんで隊士全員なんだよ」

月兵「そういや…そうだな、どういう事だろう」


月兵「考え得るとしたら、裏切りかあるいは何かの口封じ…」

月兵「それが緊急事態になったら解放されるってのか」

月兵「この地下にあるものにしたってそうさ、俺達は何を護ってるかも知らないまま…」


眼帯《…兄様、このまま扉の前で待機してて》ヒソヒソ

魔剣士《どうする気だ…?》ヒソヒソ

眼帯《扉、開けさせてみせるよ──》ヒソヒソ



462 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/24(金) 20:37:21.39 ID:dLxdt5iaO


眼帯(──兵の目が届かないところまで戻って)

眼帯(ここでいいかな…イチかバチかだけど…)スーッ…ハァーッ…


バサァッ…ブゥンッ!


眼帯(ふぅ、兵装の効果を解くとすっごい楽だなぁ)

眼帯(よし…)


カッ、カッ、カッ…


月兵「!? …そこにいるのは誰だ!」ジャキッ!


眼帯「ご苦労様。地上は混乱してるけど、まだ賊は王城までは達してないわ。ここも変化は無さそうね?」

月兵「はっ…! これは騎士団の…失礼致しました!」ビシッ

眼帯「まだウチの隊は誰も来てないみたいだけど、すぐに集まると思うわ。地下階の防衛を言い渡されてるの」



463 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/24(金) 20:38:32.19 ID:dLxdt5iaO


月兵「では地下二階を…? やはり、最初に警護していた階を無人にするなどおかしいと思いました」

眼帯(地下二階…無人って、本当に兵を信用してないんだなぁ。でも好都合…)


月兵「騎士団が後ろに控えて下さるなら心強い。しかし、恐れながらその甲冑…貴女様は白色小隊所属では」

眼帯(まずい…? 白の反逆も知らされてないと思ったけど…)ゴクリ

月兵「ここ半年も王都で姿を見ませんでしたが、どこか遠地へ…?」


眼帯「…仕方ないね、ひとつだけ話すよ。『貴方達がここで何を護ってるのか』気になるでしょう?」

月兵「は…?」


眼帯「我々、白色小隊は昨年から魔女様の警護にあたっていたわ。それが今、ここにいる…解るかしら?」

月兵「では、まさか…地下には…!」

眼帯「これ以上は言わない、でも私が地下を訪れる理由も解ったんじゃない?」

月兵「ははっ!」


眼帯「じゃあ気を引き締めて警護を続けてちょうだい。地下へは何か合言葉でも?」

月兵「はい、ノックの回数が決まっております。扉までお供致しましょう」


眼帯(私、役者になろうかなぁ──)



471 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/30(木) 11:09:41.55 ID:7HloQDp8o


………


…城下、一番街通り


月兵「──急げっ! 通りを封鎖しろ!」

月兵「くそ…兵数が足らん! 増援はまだか!?」


魔導隊員「炎壁魔法!」キュウウゥゥン…


ゴオオォッ!メラメラメラ…


月兵「うぐ…近づけん!」

月兵「お、おい…賊の中に混じってるのって…!?」

月兵「どういう事だ!? あれは我が国の騎士団じゃないか!」



472 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/30(木) 11:10:43.50 ID:7HloQDp8o


男「どうする…? 抵抗するなら容赦はしないぞ」

月兵「何を…気でも違ったか!」


男「長く語る時間はない。いいか…我々は魔女様の騎士として、主を救うために行動している」

月兵「魔女様を…?」

月兵「戯言を! 魔女様は我が国の力、お前達はその月に刃を向けているではないか!」

男「貴様らが月王に仕える事を正義とするなら、我々の正義とは相容れん。斬られたくなければ剣を捨て、道を開けろ」キンッ…


月兵「どうする…騎士団を相手にこの人数では勝てんぞ」

月兵「怖気づくな、我々は王都の守護部隊だ! 道を開けるなどという選択肢はないっ!」チャキッ


ヒュンッ…!ザザッ、キィンッ!
カンッ!ザリッ…シュンッ!



473 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/30(木) 11:11:39.49 ID:7HloQDp8o


男「誇りに殉ずる意気や見事だ」


ズバァッ!

月兵「…ぐ…ぉ……」

…ズル…ドサァッ


男「…他の奴はどうする? 剣を捨てるか、道を開けるか」

月兵「強い…やはり騎士団とやり合うなど──」


赤小隊長「──ならば我々が相手をしよう、守備隊…遅れてすまなかった」

男「赤色小隊…!」

赤小隊長「やはりまた相見えてしまったな」

男「小隊長……再び剣を交える事になれば運命と思え、そう仰いましたね」


赤小隊長「貴様らの顔が見えた以上、この奇襲の意味するところは察しがつく」

男「それでも退いては頂けないのでしょう」

赤小隊長「理由がどうあれ、我が国の兵を斬った。我々はそれを敵と見なさねばならん」

男「……違いありません」スチャッ



474 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/30(木) 11:12:30.44 ID:7HloQDp8o


赤隊士「白小隊…星の魔導士共と手を組むとは」

赤小隊長「…ぬかるな、前の交戦とは違うぞ。こやつらは覚悟をもって我々を殺さんとするだろう」

男(俺たちの目的は時間稼ぎと囮…それでも手を抜く事ができる相手じゃない)


赤小隊長「総員散開っ! 賊を殲滅せよ!」

男「白小隊、交戦! 道を開けっ!」

魔導士隊「魔導隊、白小隊を魔法援護!」


「おおおおおぉぉぉっ!!」


ザザッ!
ガキイイイィィィン──!



475 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/30(木) 11:14:01.21 ID:7HloQDp8o


………


…王城、門前広場


黒騎士「──派手な音ばかりしてるけど、暇ねぇ」フワーアァ…

黒隊員「賊は各大通りを侵攻中、それぞれに騎士団を迎撃にあてているとの事です」

黒隊員「これは城門まで辿り着けないやもしれませんな、我々の出番があるかどうか…」


黒騎士(……なぁんか、妙なのよねぇ)

黒騎士(奇襲をかけるにして、軍艦を何隻も港に乗りつけるとか目立ち過ぎだし)

黒騎士(城下を混乱させるための砲撃も無い…予期せず魔少女の魔法攻撃を受け、その間が無かっただけかしらぁ…?)

黒騎士(それがわざとで、そこに意味を見出すとしたら──)


黒隊員「──報告差し上げます! 賊の船は星の国籍! また侵入者の中に島に置き去った筈の白小隊の姿を確認致しました!」

黒騎士「白小隊ですって…? あはァ…やっぱりねぇ」ニヤァ



476 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/04/30(木) 11:14:55.78 ID:7HloQDp8o


黒騎士「確かに目を斬ってやった小娘は星の民のようだったけど、まさか国そのものと繋がってるとはね」

黒騎士「あんた達、半数は城の地下へ向かいなさい!」


黒隊員「はっ…しかし陛下はここを守れと…」

黒騎士「無駄よ、賊は本気で王城に達するつもりなわけじゃないわ」

黒隊員「では、侵攻中の部隊は陽動だと…!?」

黒騎士「星の魔導士の事だもの、どんな手を使ってくるか解らない。あるいはもう既に魔女のところへ侵入してるかもね」

黒隊員「くっ…急げ! 確か地下二階のはずだ!」


黒隊員「黒騎士様、残りの半数はどうすれば?」

黒騎士「……魔女を攫う気だとしたら、それが達成されたらすぐにでも離脱するはず…」ブツブツ

黒隊員「黒騎士様…?」

黒騎士「西は海…艦船は既に沈んでる、北は平原……見通しが良すぎるわ。残るは…東の森林──」



484 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 21:47:48.64 ID:qWrG07H7o


………


…王城、地下二階


魔女(──暗い…なぁ)

魔女(幼い頃にいた砦の地下に戻ったみたい)


『──恐れながら魔女様は、やむを得ず外界に出られた事がありません』

『それを私が語り、魔女様は興味深く聞いて下さいます』

『失礼かもしれないのですが……私は、魔女様をそこへお連れしているつもりで語らせて頂いております──』


魔女(また男さんの話、聞きたいな…)

魔女(ううん…もっと、男さんと世界を旅したかった)

魔女(贅沢になっちゃったな…知らない方が幸せだったのかな)



485 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 21:48:28.70 ID:qWrG07H7o


魔女(舌を噛み千切れば死ねるって本当かなぁ)

魔女(…でもそうしたら、島の男さん達は)


魔女(魔力の譲渡、三日後だっけ)

魔女(たぶん一度に全部の血を渡すから、それまでの命…だよね)

魔女(生き残ってた人、みんな無事ならいいな…)


魔女(男さん…生きてるよね)

魔女(男さん…私の事、忘れないでくれるかな)

魔女(男さん…)グスッ

魔女(……助けて…なんて思っちゃ、駄目…だよ…ね…)ポロポロ…



486 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 21:49:14.57 ID:qWrG07H7o


魔女「金色の…」

魔女「麦畑ーに……♪」

魔女「…日が落ちーたーのはー♪ …だったっけ」

魔女(せっかく男さんが教えてくれた子守歌)

魔女(せめてちゃんと歌えるようになりたいな…)


魔女「今はー星がー昇りて……渡り鳥ーがー休む夜ー♪」

魔女「髪をー撫でるはー命のー左手…♪ 掌をー包むは──」


《──上手じゃないの、星の子守歌なんてどこで覚えたのかな?》


魔女「誰っ…!?」

《あれ、誰…なんて随分なご挨拶だなぁ》


バサァッ…ブゥンッ!


眼帯「…友達、でしょ?」

魔女「眼帯さん…!」



487 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 21:49:58.74 ID:qWrG07H7o


魔剣士「…しかし、まさに牢獄に囚われているとはな」バサッ、ブゥンッ

魔女「えっ…!? 星の…!」

眼帯「大丈夫…今は魔女ちゃんを殺そうとなんてしてないよ」


魔剣士「この鉄格子ではこじ開けるのは無理だぞ」

眼帯「魔女ちゃん、右手の呪印を最後に施されたのはいつ…?」

魔女「今朝方です…まだ解けそうにありません」


魔剣士「この階から撤収させられた兵が鍵を持っているとは考え難いな」

眼帯「どうしよう……私、また姿を消して鍵を探しにいこうか──」


魔剣隊員「──魔剣士殿、勘付かれました! 上階より兵が追ってこようと…!」

魔剣士「くそ…物理防壁魔法を継続的に張れ! 近付けてはならんっ!」

魔剣隊員「はっ!」



488 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 21:50:37.88 ID:qWrG07H7o


魔剣士「魔女を解放した後は上階の不意をつき強行突破するつもりだったが…万事休すか」ギリッ

魔女「ごめんなさい……私のせいで…」


眼帯「……魔女ちゃん、右手を格子から出して」


魔女「え…?」

眼帯「早くっ! 兵の侵入を止める程の物理防壁なんて五分と保たない!」

魔女「は…はいっ」スッ


魔剣士「何を、まさか…?」

眼帯「……大丈夫、大丈夫…」スゥーッ…ハァーッ…

魔剣士「よせ! この距離にいるだけで、この圧迫感を受けてるんだぞ…!」

眼帯「どうせこのまま──」バチッ、キイイィィィィン…バリバリッ


ギュッ!ジュウウゥウゥゥッ…!
バチバチバチッ!



489 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 21:51:17.39 ID:qWrG07H7o


魔女「眼帯さんっ!? 私に触れたら…!」

眼帯「──待ってても、死んじゃうだけでしょ! …解呪っ!」


バチバチッ…!ブシュッ…ボタボタッ!


魔剣士「傷口が開いているぞ! …くそっ、治癒魔法っ!」キュウウウゥゥゥン…

眼帯「ぐっ…うぅっ! 消えろ! 早く消えてよっ!」ガタガタ…

魔女「眼帯さんっ!」

眼帯「えへ…へへ……平気だよ…魔女ちゃ…ん…」ニコ…


魔女「そんな…包帯にも血が!」

眼帯「この包帯…誰が巻いてくれたと…思う…?」バチィッ…シュウウウゥゥ…

魔女「…え……?」

眼帯「へっへーん…友だよ……あの鈍ちんが…巻いてくれたの」ハァッ…ハァーッ…


『──俺は、そんなの気にしねえ』

『初めて会った時から、お前はずっと左目を包帯で隠してたじゃねえか』

『俺はそのお前をずっと見てきたんだ──』



490 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 21:52:05.95 ID:qWrG07H7o


眼帯「悪いけど…さ……魔女ちゃんに…生きてて欲しい…だけじゃない…」バチッ…ボタッボタボタ…

魔女「…?」

眼帯「私だ…って、生きたい…明日がある…のっ…! その為には…魔女ちゃんの力が必要なんだよ…っ!」バリッ…!キュウウウゥゥゥン──!


──バシュウウウゥゥゥッ!ドオォンッ!!


眼帯「ふぁ……呪印…消えた…」ヘナヘナ…ペタン

魔剣士「しっかりしろ! 無茶な事を…だがよくやった」


魔女「……ありがとう、眼帯さん」

眼帯「あはは…男達も囮になってくれてるし、早く行きたいけど…力が…」

魔女「この後はどう動くのです?」

魔剣士「王城から東の森林にある湖で合流予定だが」



491 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 21:52:59.89 ID:qWrG07H7o


魔女「東…どちら側でしょうか」

眼帯「ええと…西から入って地下二階に降りて、ああ来て……たぶんあっちかな?」


魔女「解りました」スッ…

眼帯「魔女ちゃん…?」

魔女「魔剣士さん、眼帯さんを連れて少し離れて。…この魔法、使うのはなんとなく抵抗があるのですが」ババッ…バリッ!


キイイイイィィィン…バチバチィッ──


魔女「──焦がし貫きなさい…!」

眼帯「それは…!」


カッ…!バリバリバリッ!

魔女「…光線魔法っ!!」

ゴオオオオォォォッ!
ズドオオオオォオォォォン──!!



492 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 21:53:48.45 ID:qWrG07H7o


………


…城下、一番街通り


赤隊士「──くっ、強…いっ…!」ガキイイィィンッ!

男(だいぶ前進できている…あの角を曲がれば城門か、黒小隊でも出ていなければいいが)ギリギリギリ…


赤隊士「おのれっ、こっちだ!」ブンッ!

魔導隊員「物理防壁!」キュイイイィィン…

魔導隊員「撃ち降りろ、落雷魔法!」ピシィッ…ドゴオオォォンッ!

赤隊士「ぐあぁっ…!」バリバリッ…


男「おらあああぁぁっ!!」シュッ…ズバァッ!

赤隊士「が…ぁっ…」グラリ…バタッ

男「進め! 城は目前だっ──!」



493 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 21:54:37.65 ID:qWrG07H7o


──カッ…!バリバリバリッ!


魔導隊員「…魔少女の攻撃か!?」

男「いや…! あれは…」


ゴオオオオォォォッ!ズドオオオオォオォォォ…


男(…違う、城の地下から放たれている! 眼帯…やったな!)

魔導隊員「男殿!」

男「ああ…総員、別方向に散開だ! 合流地点で!」ザッ


赤小隊長(あれを合図のように賊が散ったな…)

赤隊士「追いますか!?」


赤小隊長「いや…先の凄まじい魔法、賊にとっての別部隊が任務を果たしたという事だろう」

赤隊士「それでは…魔女様は」

赤小隊長「……王城が陥ちた可能性がある、まずは城門へ!」



494 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 21:55:29.73 ID:qWrG07H7o


タタタタタッ…!


男(…城の地下から東の空へ放たれた魔法……おそらく脱出路を得るためのものだろう)ハァ…ハァ…

男(つまりそれで穿たれた孔から、魔女様が…!)


月兵「貴様、白小隊だな…! 止まれ!」チャキッ

男「やかましいっ!」ガキイイイィィィン!

月兵「ぐぁっ…け、剣が弾かれて…!」


シュウウウウゥゥゥ…モクモク…
…ガラッ、カラカランッ


男(…あそこか、幸い兵士も慄き退いてるな)ハッ…ハァッ…

男(魔女様は…? もう出たのか?)フゥ…


…ガラッ…ジャリッ、ザッ

魔剣士「…いいぞ、月兵の姿は無い」

眼帯「ごめん…兄様、もう肩貸さなくて大丈夫…」


男「!!」



495 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 21:56:30.06 ID:qWrG07H7o


男「眼帯! 魔剣士殿!」ザッ

眼帯「男…!」

男「魔女様は──!?」


──ザクッ…ヒョイッ

魔女「…男さんっ!」タタタッ…!

男「魔女様っ!!」

魔女「会いたかった…!」ガバッ!ギュウッ…


男「よかった…お怪我は? 酷い事はされておりませんか!?」

魔女「大丈夫です、でも…もう会えないと思ってた……うわあああぁぁん!」ボロボロ…

男「泣くのは後です、皆と合流して島へ戻りましょう」ナデナデ


眼帯(そこはキスのひとつでもして泣きやませるとこでしょ…)チッ



496 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 21:57:18.58 ID:qWrG07H7o


友「…眼帯! 上手くやったんだな!」

眼帯「友!」


男「ははっ…! 生きてたか、みんなは!?」

友「みんなバラバラの方向から東の森を目指してるよ、俺たちも行こうぜ。魔女様、走れますか?」

魔女「はいっ」


──カッ!バチッバリバリバリッ…!


魔剣士「まずい…! 来るぞ!」

魔女「防壁魔法っ!」


キイイイイィィィンッ!
バチッバリバリバリッ…!ゴオオオオォォォッ!!


友「くっそ…! あの時と同じだ!」

男「いや、今は黒色小隊に囲まれてはいない! 魔女様、少しずつでも進めますか?」

魔女「はい、攻撃がやんでいる間なら…!」

眼帯「男、魔女ちゃんをお姫様抱っこしたら!? 魔女ちゃん、それでも防壁は使えるでしょ!?」


男「なるほど──」

魔女「えっ…!? わわっ!」グイッ

男「──失礼! 走ります!」ダダダッ


カッ!バチッバリバリバリッ…!

魔女「ちょ…なんだか私、格好悪いんですけど…! もうっ…防壁魔法っ!」

キイイイイィィィンッ!ゴオオオオォォォッ!!



497 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 21:58:11.33 ID:qWrG07H7o


………


…王城、最上階


魔少女「──森へは逃がさない」カッ!バチッバリバリバリッ…!

月王「魔女め、どうやって呪印を解いた…」

魔少女「…誰かが決死の覚悟で魔女に触れた…そうしか考えられません」


月王「賊には白小隊が混じっているという事だ」

魔少女「!!」


月王「確かに私は騎士団に対し、魔女の騎士であれ…そう説いてきた」

魔少女「……それはあくまで我が国、陛下の御力としての魔女を守護せよという命だったはず」

月王「そうだ…しかし奴らは私に仕える気など無かったのだ」

魔少女「陛下…」

月王「結局、私は何一つ掌握する事など叶わんのかもしれぬ…」



498 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 21:59:01.48 ID:qWrG07H7o


魔少女「それは違います」

月王「…?」


魔少女「私は…この私だけは、一切の偽り無く陛下に忠誠を誓いましょう」

月王「…魔少女」

魔少女「陛下に触れられぬこの身が恨めしゅうございます」

月王「そうか……ならばやはり私は全てを手に入れ、捧げねばならぬ──」


近衛兵「──陛下!」

月王「…何事ぞ」

近衛兵「地下より発せられた正体不明の攻撃により、地中梁および東の主柱が破損! 王城は僅かずつ傾倒しております! すぐに脱出を!」

月王「!!」

近衛兵「賊はその攻撃以来、撤退の動きを見せております! 我が騎士団は城門に集結、陛下の護衛は万全です故…何卒お急ぎ下さい!」



499 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 22:00:01.57 ID:qWrG07H7o


月王「ぬぅ…散り散りに逃げられては騎士団も追い切れぬか」ギリッ

魔少女「…陛下、私に魔女追撃の命を」

月王「魔少女…しかし」

魔少女「最悪の場合、魔女を殺さざるを得ないかもしれません」

月王「………」


魔少女「無限の魔力が無くとも、私はこの世の全てを陛下に献上してみせます」

『…私はこの国を統べる兄上を見とうございます』


月王「私の唯一にして絶対、そして最強の味方か」

魔少女「はっ…」


『…全てを…二人で──』


月王「──よかろう。ゆけ…魔少女、追撃を許可する」



500 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 22:00:56.73 ID:qWrG07H7o


………


…王城東、旧街区


友「──しばらく魔法攻撃がないな」

眼帯「この旧街区を抜ければすぐ森だよ、あと少し!」


魔女「あの、魔法攻撃が止んでるなら降ろして…」テレテレ

魔剣士「止んでいるとはいえ、いつ次が来るかは判らん。後方の警戒は怠らない方がいい」

魔女「うぅ…」


男「できるだけ物陰を。旧街区に居住者はいない、見つかったら遠慮無く撃ってくるぞ」

眼帯「魔女ちゃん、もしかして街区全体を焼き払う事とかできたりする?」

魔女「王城の上階からでは無理だと思います。範囲が広すぎて魔力が収束しきれません」

友「地上に降りたらどうなんです?」

魔女「光線魔法なりを横一線に薙ぎ払えば…」



501 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 22:01:39.73 ID:qWrG07H7o


眼帯「誰かいる!」

男「あれは…」

友「白小隊の仲間だ! 先に来てたんだな、おーい!」


タタタタタッ…


眼帯「あれ? 座って…休んでる?」

魔剣士「待て、おかしい…森まであと少しなのに休息をとるわけが──」


男「──!!」

眼帯「どういう…事…?」

友「剣撃を受けて…死んでる…!」


魔剣士「…この街区、追っ手が潜んでいるぞ」チャキッ

眼帯「追っ手っていうか、待ち伏せされてたっぽいね」キンッ



502 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 22:02:22.75 ID:qWrG07H7o


友「なんか…嫌な予感がする」

男「捕虜にして情報を得ようとするでもなく、容赦なく背中から斬りつけてるな」

魔女「まさか──」


──カッ!バチッ…バリバリバリッ!!


眼帯「くるっ…!」

男「魔女様!」

魔女「防壁魔法っ!」キュイイイィィィン…!


ゴオオォォオォォォッ!!
ドゴオオォオォォッ…!ゴゴゴゴゴゴゴ…


男「なんだ…!? 今までとは範囲が比較にならない!」

眼帯「旧街区が薙ぎ払われる…」

友「民間人はいなくても…これじゃ、先に来てた仲間が!」


ズウウウゥゥゥゥゥン…ズズズズズ…


眼帯「本当にただの荒野になっちゃった…」



503 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 22:03:32.48 ID:qWrG07H7o


パカッ…パカラッ…

魔少女「…見つけた、魔女」


魔剣士「馬に乗って…あれが魔少女か?」

魔女「間違いありません。…降ろして下さい、男さん」

男「………」スッ

魔女「今の魔法、ご覧になったでしょう? このまま森へ逃げても同じです」ザッ…


眼帯「どうするの…?」

魔女「…あの人を葬る事ができるのは、私だけです」ゴクリ


魔少女「…葬る? この私を…?」


パカラッ…トトッ、ブルルルッ
…シュルッ、スタッ


魔少女「ふん…立場が解っていないらしい」

魔女「…解っています」

魔少女「餌になる予定の貴様と、それを喰らう私だ」

魔女「私の血が欲しくて仕方ない、未完成の魔女でしょう? 貴女は…」フフリ

魔少女「……っ…」チッ



504 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 22:04:35.97 ID:qWrG07H7o


ヒュッ…!ズシャアッ!!


魔剣隊員「ぐぁ…っ!!」ドサァッ!

男「!!」

魔剣士「何者…!」バッ…!


黒騎士「あはァ…魔少女にばかり気をとられてるからいけないのよぉ…」ニタァ…


友「黒騎士…! 黒色小隊っ!」ザッ

眼帯「いつの間に!」


黒騎士「いつの間に…じゃないわ、さっきからいたわよ」

男「…じゃあ、斬られていた仲間は貴様が」

黒騎士「あと数歩進んだら物陰からザックリ斬ってやろうと思ってたのに、魔少女が全部薙ぎ払っちゃうんだものねぇ」ヤレヤレ

友「ちっ…相変わらず胸糞悪りぃオカマだ」



505 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 22:06:33.14 ID:qWrG07H7o


黒騎士「さぁ、どうするの? 島での再現といきましょうか…?」ニヤリ

眼帯「ふんっ…ずいぶん小隊が少ないじゃない、僅かでもこっちの方が数で上だね」

友「あの時のようにいくとは思ってくれるなよ」ザリッ…


魔剣士「黒騎士とやらを除く敵小隊は我々で引き受けた」

友「男、あっちは俺たちじゃどうにもならねぇ」

眼帯「うん…魔女ちゃん、気をつけて」

魔女「はいっ」

男「…友、眼帯、黒騎士を頼む」


魔少女「…来ないなら、こちらからゆく」バチッ…バチバチッ!

魔女「………」ジジッ、バリバリバリッ…!


友「さあ、借りを返そうか…!」ザリッ!

眼帯「死になよ、オカマ野郎っ!」シュンッ!

黒騎士「…片眼じゃ懲りなかったみたいねぇっ!」ガキイイイィィィンッ!



506 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 22:07:25.86 ID:qWrG07H7o


魔少女「…雷撃魔法モード、出力50%」バリバリバリッ!ゴゴゴゴ…

魔女「凍てつき砕きなさい、凍結魔法…!」ヒュオオオオォォォォ…


バチィッ!カッ!ドゴオオオォォォン…!ゴゴゴゴ…
ピシッ…ビキビキビキッ!メキメキメキィッ!!

ビリッ…!ババババッ…バリッ!
バチバチッ…ガシャアアアァァァァンッ!!


男(落雷を氷で受けて砕けた…! 互角なのか…?)


魔女「地に臥せよ! 重力魔法!」ギュウウウゥゥゥン…!

魔少女「くっ…防壁魔法!」キイイイィィィィンッ!

男「…邪魔するようで悪いが、死ねよっ!」ザッ!

魔少女「!!」ザッ…!

男「もらった…!」ヒュンッ…!


ガキイイィィィィン…!


男「なに…!? 魔法・物理両方の防壁だと!」ザザッ



507 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 22:08:01.24 ID:qWrG07H7o


魔少女「…甘い、死ぬのは貴様だ。光線魔法モード、出力10%」バチッ…バリバリッ!

魔女「させないっ! 四肢を縛られよ、束縛魔法っ!」バチィッ!シュルルッ…!


魔少女「…ちぃっ」ギシィッ!

男(今の内か…!?)


魔少女「束縛など焼き切ってくれる…火炎魔法、出力40%」ゴオオオォォォッ!

男(発動前に叩き斬ってやる…!)シュンッ…!

魔少女(こいつ…死が怖くないのかっ)ザザッ


ズバァッ…!ブシュッ!


魔少女「く…はっ…!」グラッ…

男「ちっ…浅いか」

魔少女「……おのれっ!」キュイイィィ…パアアアァァァ


男(くそったれ、一瞬で治癒しやがる…!)ザザッ

魔女「男さん! 離れて!」



508 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 22:08:46.29 ID:qWrG07H7o


魔女「男さんが作った好機、無駄にしない! 弾け飛びなさい…爆砕魔法っ!」カッ…!

魔少女(…防壁、間に合わない──)


ドオオオオォォォォォン…ッ!ゴゴゴゴゴゴ…


男「やった…か…?」

魔女「防壁が現れてました…でも完璧じゃないはず」


「……光線魔法モード、出力100%」


男「!!」

魔女「防壁魔法っ!」キイイイィィィィン…


カッ!ドゴオオオオオォォォォオォォン!!
ズズズズズズ…


魔少女「…許さん、調子に乗りおって。生け捕るための手加減は終わりだ」バチッ…バリバリッ…ピシィッ!

魔女(なんて威力…私の最高出力より上かもしれない)ハァ…ハァ…



509 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 22:09:27.23 ID:qWrG07H7o


………


…旧街区入口付近


月王「──あの煙は……魔少女はどうなっておる!」

側近「陛下、これ以上の接近は危険です!」

月王「騎士団よ! 早く魔少女の加勢に向かえ、可能な限り魔女を生け捕るのだ!」


赤隊士「馬鹿な…あんな中に飛び込んでどうしろと…」

緑隊士「誇りに殉ずる事と犬死には別だ!」


ザワザワ…ザワ…


月王「私の命が聞けぬか!」

側近「しかしながら陛下、あの場に踏み入る事は現実的でありません!」

月王「このっ…腑抜け共がっ!」


月王「魔少女…」

月王「死ぬな…魔少女…」

月王「…お前だけは私の下におらねばならぬのだ──」



510 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 22:10:21.10 ID:qWrG07H7o


………



魔少女「………」チッ


…ビリッ、ビイイィッ…ポイッ


男「はん…服が裂けて色っぽくなっても容赦なんかしねえぞ」チャキッ

魔女「男さん、接近は用心して下さい。彼女の魔法は私より僅かに強く…速いです」


魔少女「僅かに…? それは今までの話だ──」スッ…

男「…?」

魔女(いけない…!)


──ピシィッ!ドオオオオォォォォン…!!ゴゴゴゴ…


男「ぐ…はっ…」グラッ…

魔少女「…雷撃魔法、出力10%。魔力上昇の時間など必要ない…それでも防壁で反応するとはな」

魔女「男さん!! 治癒魔法っ」キュイイイィィィィ…

魔少女「ふん、さっきの逆だ。凍結魔法、出力30%──」ヒュオオオオォォォォ…!



511 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 22:11:06.13 ID:qWrG07H7o


魔女(火炎魔法での対抗じゃ間に合わない…!)


ビシィッ…!ビキビキッ、メキメキメキッ!!


魔女「防壁魔法っ!」キイイィィィンッ!

魔少女「雷撃魔法、出力40%! 爆砕魔法、出力50%…!!」バチィッ…!!カッ!

魔女「ぐっ…! なんて…速さ…!」ハァッ…ハァッ…!


男「魔女…様…」グググ…

魔女「男さん! 起き上がっちゃだめです!」


魔少女「貴様は這いつくばって魔女の死に様を眺めていろ、重力魔法っ!」ギュウウウゥゥン…!

男「うぐっ…!」ズシイイィイィィッ!

魔女「男さんっ!」


魔少女「そら…防壁を解く間など与えんぞ、風刃魔法モード出力60%──!」ゴオオォオォォッ!



512 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 22:11:46.21 ID:qWrG07H7o


………



魔剣士「──はぁっ!」ズシャアッ!

黒隊員「ぅ…ぐぁ…っ!」ズルズル…バタッ


魔剣士(こちらは優勢だが、魔女は苦戦しているな…)ハァ…ハァ…

魔剣士(しかし男殿が援護すらできん状況で、加勢など無意味だ)ギリッ

魔剣士(黒小隊を全て片付けたら、我ら全員で防壁を張れば一度でも魔少女の攻撃を凌げるか…?)


黒隊員「貴様がこの隊の長のようだな、首はもらうぞ」チャキッ

魔剣士「お前達のような下衆にくれてやる首などないな」キンッ…


ヒュッ!キンッ、カァンッ!ギリギリ…
…シュッ…ギイイイィィンッ!!


魔剣士(……果たしてそこまで温存しておけるかも怪しいか)ハァッ…ハァッ…

魔剣士(妹達は──?)



513 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 22:12:29.07 ID:qWrG07H7o


………



友「──らぁっ!!」シュンッ!キイイイィィンッ…!

眼帯「痺れろっ! 雷撃魔法っ!」バチィッ!バリバリッ!

黒騎士「ちっ…!」ババッ!


友「へっ…防戦がちじゃねえか、オカマ野郎」ハァ…ハァ…

黒騎士「調子に乗るのもいい加減になさいな…?」ギロッ

眼帯「調子に乗ってるんじゃないんだよね──!」スタッ、ザザザッ…ヒュンッ!


──キイイイィィンッ!

眼帯「勝てる…って、手応えを感じてるんだよ!」ギリ…ギリギリ…

黒騎士「このッ…包帯ブスがぁっ!」

友「誰に向かってブス言ってんだ糞がっ!」シュッ…ズバァッ!

黒騎士「ぎっ…!」グラッ…ボタボタッ!



514 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 22:13:38.49 ID:qWrG07H7o


眼帯「へぇ、そんな性格してても血は赤いんだ?」

黒騎士「はぁっ…はぁ…治癒魔法っ…!」キュウウウゥゥゥン…


友「ここがテメーの死に場所だよ。殺すのは白色小隊の『友』だ、覚えとけ」

眼帯「ちょっと、私を忘れないでくれる?」

黒騎士「覚えとくわ…白旗小隊の『カス』と『クズ』がここで死んだってねぇ…」ハァ…ハァ…


友「まだ減らず口がきけるらしいな、気持ち悪りぃオカマ口調のまんまでよ」

眼帯「ほんと、その不細工な顔で私をブス呼ばわりするとか失礼しちゃう」


黒騎士「…不細工?」ピキッ


友「お? 気に触ったか、オカマ不細工。なんなら鏡でもとってきてやろうか」

眼帯「やめてあげなよ、たぶん今まで見た事ないんだよ──」


黒騎士「──誰が不細工じゃこのボケナス共があああぁぁっ!! 貴様ら顔焼いてズル剥けにしたらあああぁあぁぁっ!!」ゴオオォォォッ!



515 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 22:14:20.79 ID:qWrG07H7o


友「げ、なんかブチ切れたぞ」

眼帯「あんたが不細工とか言うから」

友「先に言ったのお前だろ」


黒騎士「もう終わりにしてやる、覚悟はいいかクソッタレ共ォッ…!」

友「へっ…いいぜ、俺も早く終わらせて魔女様のとこ行かなきゃよ」

黒騎士「お前らが先だ、ボケェ!」

眼帯「先…?」

黒騎士「先にあの世逝って待ってろっつってんだよ、糞アマァ!! 刃に宿れ、雷撃魔法っ!」バチィッ!バリバリッ!


友「剣に魔法…!?」

眼帯「何それ、星の国でも見た事ないよ!」


黒騎士「……ぐふふ、さぁ…どっちから地獄に送ってやろうか──!」



516 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 22:15:21.84 ID:qWrG07H7o


………



魔女「はぁっ…はぁーっ…」ゼェゼェ…

魔少女「…ふん、意外としぶといな」ハァ…ハァ…


魔女「負けるわけには…いかないの…」キッ

魔少女「……しぶといだけでなく、鈍いのか。まだ勝てるつもりでいるとはな」チッ

魔女「例え勝てなくても…負けない。負けたら男さん達も死んでしまう…」

魔少女「刺し違えても…とでも? 残念だな、それさえも不可能だ」


魔女「貴女は何故、そうまで頑なに月の国に仕えるの…?」

魔少女「国に仕えているのではない、私は陛下に忠誠を誓った」

魔女「……私の事を知っている貴女は、魔女というものがどういう存在か知っているはずでしょう?」

魔少女「いくら話しても情にほだされる事はないぞ」



517 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 22:16:05.29 ID:qWrG07H7o


魔女「貴女だって利用されてるだけ…それでいいの?」

魔少女「利用されている…? ふん、自分と一緒にするな。私は後の魔女に命を譲ったりはしない」

魔女「……?」

魔少女「私は最後の魔女、永遠の命を得た究極の魔女なのだからな」

魔女「永遠の命…」


魔少女「初代の魔女からずっと、その血を半分ずつ受け継いできた…私の心臓はその魔力を増幅する事で動き続ける」

魔少女「あとはお前の血さえあれば、魔法に使う分の魔力すら無限に増幅できるようになるはずだった」

魔少女「だがお前は死ななければ解らんようだ、それは諦めてもいい」

魔少女「無尽蔵の魔力など無くとも、世界を陛下の前に跪かせるくらい容易い事」


魔少女「どうだ…せめてお前との違いは解った──」

魔女「──同じだよ、可哀想」



518 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 22:17:31.56 ID:qWrG07H7o


魔少女「可哀想…だと?」ギリッ

魔女「男さんに出会う前の私と同じ…今の私よりもずっと可哀想」

男(魔女…様…)

魔少女「…戯言を、もうじきに死ぬお前よりも可哀想などと、意味が解らん。気を違えたか」


魔女「永遠の命なんて、言い換えれば永遠の鎖と同じ」

魔女「私は砦に縛られている間、外界を見る夢も人と触れ合う望みも持てず、きっと早く死にたいと願ってた」

魔女「叶わぬ希望を胸に馳せても苦しいだけ…それなのにどうしても憧れてしまうから」


魔少女「寝言を言うな、ここはどこだ? 砦の中か? 暗く陰鬱な部屋か? お前が憧れた外界に他なるまい」

魔女「…違う。私が憧れた世界はこんな、人が傷つき死んでゆく場所じゃない」

魔少女「それはお前が世界を知らな過ぎただけだ」

魔女「ううん…それは確かにこの世界にあるの。魚を獲ったり、野菜を作ったり…苦労と引き換えの喜びに満ちた場所」


魔少女「…そのような陳腐な幻想を押し売りされても、私にはなにも響かない」

魔女「だから可哀想だと言ってるんだよ」



519 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 22:18:21.75 ID:qWrG07H7o


魔少女「まだ言う気か、いい加減に黙れ」

魔女「いくらでも教えてあげる、私だって教えてもらった事だもの」

魔少女「黙れ…と言っている」


魔女「国の繁栄とは、他国を占領し領土を広げる事じゃない」

『──来る日に血を譲渡し、短いと教えられた命を国の繁栄のために捧げるのは務めだと、そう思っていました』

『今は違うとお解りでしょう?』


魔女「ずっと生かされるのではなく、その時を生きているという実感こそが喜びなの」

『ただ生かされてきた私が、男さん達の力を借りながらとは知りつつも、今は「生きている」と感じられる…それがとても幸せ』


魔女「…永遠の命なんて、その幸せの前に意味は無いんだよ」

『どうかこの島で、天の与え賜うた命が尽きるまで…我々はそう望んでおります』

『…怖いです、幸せ過ぎて嘘のよう──』


魔女「…だから、私は負けない。そんな素晴らしい世界に生きる男さん達を死なせない、そして──」

魔少女「…黙れ、貴様!」

魔女「──貴女を救うためにも、負けられない」



520 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 22:19:08.26 ID:qWrG07H7o


魔少女「ふざけるな! どうやって負けずに終わるというのだ!」

魔女「貴女を倒す、それ以外に無いわ」

魔少女「貴様と私では魔力の総量が違う、貴様はもう私の全力の魔法を防ぐ力を残していない!」

魔女「………」


魔少女「いいか…私は一時的なら魔力を増幅炉へ送るのを止める事ができる」チリッ…ジジジッ

魔少女「防壁魔法は発動こそ一瞬だが、消費の軽い魔法というわけではない」

魔少女「受け止める魔法と同じだけの魔力を消耗する、知っているだろう…」バチッ…チリチリッ

魔少女「…ならば、私の放つ魔法がお前の全力を遥かに上回っていればどうなる?」


男「く…そ……! 魔女様…逃げて下さい! 魔少女は貴女を殺すつもりで撃ってきます!」ググッ…

魔女「…私も、彼女を殺すつもりで対抗します」

魔少女「笑わせるな! 増幅炉遮断…!」キュウウウゥゥゥゥン……!



521 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 22:19:56.35 ID:qWrG07H7o


魔女「放てばいいわ、受け止めてあげる」

魔少女「なんだ…その余裕は、なぜそんな態度でいられる!? 怖れろ! 命乞いをしてみろ!」


魔女「どうして? 私が貴女を怖れるわけないじゃない。だって…」


魔女「…貴女は私の…魔女の妹でしょう?」

魔少女「!!」



『──母上はお前を愛していた、触れられぬと知りつつも抑えられなかったのだ』

『その力は神がお前に与え賜うたもの、きっと何か意味がある』

『妹姫、全てを…二人で──』



魔少女「ふざ…けるなっ! 私を…私を妹と呼んでいいのは…陛下だけだ!!」

魔少女「光線魔法モード、出力200%!!」バチィッ!バリバリッ!



522 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 22:20:50.71 ID:qWrG07H7o


男「魔女様…! ご自身だけに防壁を…っ」

魔女「防壁は使いません、きっと防げない…」


魔女「防壁よりも発動が早く」

魔女「どの魔法をも消し去る、純粋な魔力の塊…」

魔女「…えへへ、男さん…二回も言ってごめんなさい」


魔少女「魔女も! 魔女の騎士も! 月も! 星も! 世界も! 全部…消えろっ!!」カッ…!!


バチィッ!ゴオオオオォォオォォォッ!!


魔女「大好きでした……さよなら」

男「魔女様……っ」


魔女「──発動せよ、最期の魔法──」



523 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 22:21:40.27 ID:qWrG07H7o


キュウウウウゥゥゥン…パアァッ…!


魔少女「最期の魔法…だと…!? 私の魔法が…消える!!」バリバリ…バチィッ!シュウウゥ…

魔女「全てを放て、消滅魔法…!!」カッ!!



ドゴオオオオォォォオォォォォォンッ!!!
バチッ!バリバリッ…!!ズズズズズズズズズ…



男「最期の…魔法……」

男「嘘…でしょう、魔女様…」



魔女「……ごめん…なさ…ぃ…」フラッ…



…ドサァッ



524 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 22:22:29.61 ID:qWrG07H7o


男「…嘘だ」ズズ…



男「……今のが…最期の魔法だなんて…冗談ですよ…ね?」ザリッ…ズズズッ



男「魔女…様…」ズリッ…ベシャッ、ズズズ…



男「ほら、起きて…島へ帰るんでしょう…?」ドサッ



男「………」スッ…



男「なんで…息が弱ってるんですか……脈が…消えかかって…」ブルブル…



魔女「…男…さん……どこ…?」

男「魔女様! 生きて…!?」

魔女「あは…もう、目が…見えない……です…」

男「!!」



525 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 22:23:24.88 ID:qWrG07H7o


魔剣士「男殿! 今のは…!? こちらはあらかた片付いたが──」ダダダッ

男「魔剣士殿…!」

魔剣士「──これは…!!」


男「治癒魔法を! 早く、魔女様にっ!!」

魔剣士「……消滅魔法を使ったのか」

男「何を言ってるんだ! 早くしてくれっ!!」

魔剣士「男殿…それは無理だ、治癒魔法は外傷しか癒せない」


男「じゃあ何か無いのか! あんた、魔女様と魔少女の両方が死ねば都合がいいから…!」

魔剣士「違う…!」

男「嘘だ! これで惑星の御子が産まれるから、わざと…っ!!」

魔剣士「許せ……本当になにも手立てが無いんだ」ギリッ


男「死んだ後、生き返らせる魔法は! 俺の命と入替える術は…!?」

魔剣士「………」フルフルフル



526 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 22:24:19.17 ID:qWrG07H7o


魔女「……男さ…ん…」

男「魔女様! すぐにっ…すぐに何とかしますからっ!!」


魔女「もう…すぐ……耳も聴こえなくなる…から」

男「そんな事…!」フルフルッ

魔女「…お願い、あの…子守う…た……歌ってくれません…か? それで…眠りた…ぃ…」


魔剣士「!!」

『──上手じゃないの、星の子守歌なんてどこで覚えたのかな?』


男「嫌です! 今は寝ないで下さい!! 魔女様っ…」

魔剣士「男殿、魔女に『星の子守歌』を教えたのは誰だ?」

男「何を言ってるんだ、なにか方法を…!」

魔剣士「何とかする方法を探っているんだ! 答えろ!!」

男「……俺だ、それがどうした!?」



527 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 22:25:25.16 ID:qWrG07H7o


魔剣士「男殿はなぜその歌を…いや、それはいい。男殿は親族に星の国出身の者がいるのか?」

男「そんな話は…聞いた事がない」

魔剣士「……そうか、やはり違う──」


男「──ただ、会った事も無いが…祖母は月の国の者では無かったかもしれない」


魔剣士「どういう事だ? 男殿の出自は…」

男「俺の家系は東の港町に…だが、祖父はその町にいた異国の商人の娘と駆け落ちたんだ」

魔剣士「港町……貿易…商人…」


『貿易のため月の国に配していた商人が得た情報によれば、月の軍は──』


魔剣士「──星の…血を継ぐ……魔力を持たぬ…者…」

男「どうしたんだ、魔剣士殿! なにか手があるなら早く!!」



528 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 22:26:22.30 ID:qWrG07H7o


ガラガラッ…ズズッ


魔少女「…ぐ…うっ……」フラッ…フラフラ…

魔少女「……くっ…なんという…事、右腕が千切れたか…」バチッ…ジジジッ


男「魔少女…!」

魔剣士「今は放っておけ! 右腕を失えば自爆以外の魔法は使えん!!」

男「あの腕…あいつ、半分機械だったのか…」


魔剣士「……そうだ、腕…」ハッ…

男「……?」


魔剣士「もはや伝説や神話と呼べるほどのものではない…御伽噺のようなものだ」

男「…なにを?」

魔剣士「男殿、魔女の手を握れ……右手と右手、左と左を交差するように!」

男「どういう事だ、これでいいのか?」ササッ…ギュッ



529 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/01(金) 22:27:34.41 ID:qWrG07H7o


魔剣士「いいか…男殿、ふざけて言っているのではない」

男「ああ、どうすればいい」

魔剣士「そのまま、魔女と口づけを」

男「な…なにっ!?」


魔剣士「今はその片鱗が民間の唱歌に残るだけだ。最初の御子様が惑星の精霊から力を預かった話──」


《──金色の麦畑に日が落ちたのは》


魔剣士「惑星の魔力を正しく受け取る方法は、血を譲渡する事などではない」


《母上が焼くパンの香りが煙突から届く頃》


魔剣士「自らの命を差し出し、代わりに魔力…つまり惑星の生命力を受け取る」


《今は星が昇りて渡り鳥が休む夜》


男「くっ……魔女…様……し、失礼を──」ソーーーッ


《髪を撫でるは命の左手 掌を包むは魔法の右手》


──チュッ



538 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/02(土) 17:58:17.55 ID:DnQV3eY2o


フワァッ…
ピカッ!パアアアァァァ…ッ


魔剣士「うっ…!」


バシュウウウゥウゥゥッ!


魔剣士(眩しくてよく見えない…しかし、これは…)

魔剣士(持つべき魔力も無く、故に見つける事も叶わず…それでも)


……ドンッ!


魔剣士「産まれていたのか…」

男「………」シュウウウゥゥゥ…

魔剣士「…惑星の御子」


男「…なるほど、魔女様は『血が覚えている』と表現されたが」

魔剣士「……?」

男「魔法の理を宿主に教えるのは、魔力そのものだったらしい。…理解したよ」ザリッ

魔剣士(!! ……左眼が…紅い!)


男「魔女様は暫くは起き上がれまいが、徐々に受け取った命と馴染むだろう。…魔剣士殿、頼む」

魔剣士「はっ…! 仰せのままに…御子様!」ザッ

男「よしてくれ。俺はただの元漁師で、今は魔女の騎士だ──」



539 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/02(土) 18:00:20.25 ID:DnQV3eY2o


………



月王「──魔…少女…! あんな姿に…だが生きておる!」

月王「早く! 魔少女を保護しろっ! 腕などいずれ直せる、早くせんかっ!!」

月王「おのれ…魔女めっ! 私の魔少女を…!!」ギリッ

月王「殺せ…! もはや魔女など要らぬっ!!」


緑小隊長「陛下…! 魔女様を殺せなどと…」

橙小隊長「先の光が何事かは判らぬが、魔少女殿も魔女様も今は無力だ! 両名とも保護せよ!」


月王「ふざけるな! 魔女は殺せと言ったのだ!! 八つ裂きにしろ!」

青小隊長「我々は魔女の騎士、そのような命をきく訳には参りませぬ!」

月王「貴様ら…やはり所詮は私に仕える気など無いという事か!」ドカァッ!

青小隊長「ぐっ…!」ドサッ



540 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/02(土) 18:01:45.89 ID:DnQV3eY2o


月王「貴様らが仕える魔女とは月の力の事ぞ! あの女は我が魔少女に牙を剥いた! もはや逆賊に過ぎん!」

月王「今の魔女は魔少女! 貴様らは魔少女に仕えるのだ!」

月王「ならばあそこに転がる無様な女は貴様らの敵に他なるまいがっ!」


黄小隊長「陛下…貴方は魔女様を道具としか考えておられなかったのか!」

橙小隊長「『諸君らは偉大なる魔女を守る騎士である』…あの演説は、我々を掌握するための出鱈目だったと…」


月王「黙れっ! ちっ…騎士団の小隊長はどの色も同じか…っ!」

月王「今すぐ魔女を殺せっ! あの屑のように焼き払われたくなければな!」

月王「逆賊を庇いだてした、愚かな白の小隊長のように──!」


──ザシュッ!


赤小隊長「…陛下、我々は魔女様の騎士。そして今、貴方が『屑』と呼んだ者の友人です」

月王「貴…様……っ!」ポタッ…ボタボタッ!


緑小隊長「騎士は誇りに従うもの」

橙小隊長「主を殺める事を望み、友人を殺し」

青小隊長「ましてそれを虫けらの如く呼ぶ貴方に、我々が忠誠を誓う道理はない」


月王「裏切…り……者めっ…」ブシュッ…!グラァッ…ドサッ



541 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/02(土) 18:02:15.91 ID:DnQV3eY2o


月王(…やはり……私の味方は…お前だけだったのか)ゴホッ…

月王(魔少女…いや──)


……



『──妹姫、薬を』

『ごめんなさい…兄上……』

『何を言う、お前を酷使し過ぎたのは私だ…許せ』

『いいえ…私が望んだのです』


……



『妹姫っ! 私は次の国王になるぞ! 父上も認めざるを得ないと仰った…!』

『………』

『…妹姫…?』

『兄…上……どうか…私の血を……誰かに…引き継いで…』

『何を言っているんだ…?』

『…魔力は……血に宿ります…私は…力だけになっ…ても……兄上と共に──』



542 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/02(土) 18:02:45.30 ID:DnQV3eY2o


……



『──陛下!妹姫様が意識を…!』

『おお…! すぐに行く!』


『…ぁ……ぅあ……』

『これ…は…?』

『できる限り身体組織は保存しつつ施術いたしましたが…何しろ五年を経ております故…』

『妹姫の記憶はどうなったんだ…!? 何も憶えていないのかっ!』

『記憶はあるかもしれません…過去の光景などは残っているかも』


『ならば何故このような…』

『知識を全て無くしているのです…今は産まれたばかりの赤子と同じ、これから徐々に言葉を教えていかなければ』

『…なんという事だ……』

『少しずつでも魔女の血を戻してゆくのが、ひとつの手段と考えられます──』



543 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/02(土) 18:03:40.78 ID:DnQV3eY2o


……



『──何か記憶は戻ったか?』

『わかり…ません、へい…か…』

『そうか…陛下…か』


『ごめんなさい、へいか…』

『お前のせいではない……魔少女』

『…ま…しょうじょ?』

『そうだ、お前は魔少女と名乗れ』

『はい…へいか』

『…何も憶えておらずとも良い……ただ、お前だけは私の味方であってくれ──』


……



月王(──魔少女は力を失い)

月王(…私は天寿を待つまでもなく地に臥せる…か)

月王(二人で全てを…手にできなかった…な…)


月王「もはや…これま…で……殺せ…」ハァ…ハァッ…

赤小隊長「せめて、苦しむ事はさせますまい…覚悟を──」キンッ



544 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/02(土) 18:05:10.27 ID:DnQV3eY2o


魔少女「──どけ…貴様らに陛下の介錯なぞさせん」ズズッ…ズズズッ…


赤小隊長「魔少女…!」ザッ

橙小隊長「気をつけろ! 右腕が無くとも自爆するぞ!」


魔少女「陛下…」ズズッ…ザリッ…

月王「魔…少女……」ゲホッ…ゴホゴホッ…


魔少女「申し訳ありません、陛下…」ズズッ…

月王「魔少女…私に触れて…くれ、それで死ねるなら…良い」

魔少女「…仰せのままに」スッ…


…ギュッ


月王「…これ…は、なぜ…触れていられるのだ…?」

魔少女「……増幅炉を遮断し、右腕が落ちた事でほとんどの魔力が散逸したのかもしれません」

月王「そう…か……ふふ…丁度いい、最期にお前に触れられるとは…な…」



545 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/02(土) 18:06:13.00 ID:DnQV3eY2o


魔少女「陛下、長い間…縛ってしまいました」

月王「…何を言っている?」


魔少女「二人で…全てを。でも…私はもう充分…」


月王「魔少女…お前、記憶が…?」

魔少女「…記憶ならずっとあったのかもしれません。でも脳裏に浮かぶ光景が何なのか解らなかった」

月王「……そうか…そう…か」ゲホッ…ゲホッ…


魔少女「私はどこまでもお供致します」ニコッ

月王「うむ…逝こ…う…妹姫」ギュッ…

魔少女「はい、陛下…いえ──」


キュイイイィィィン…ジジッ、バチバチッ!


魔少女「──兄上」


カッ…!
ドオオオオォオォォォン!!ズズズズズ…



548 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/02(土) 20:03:03.86 ID:DnQV3eY2o


………



友「──ちっ…! どうすりゃいいんだ!?」

黒騎士「ヒャハハッ!! ほぉら! 避けきってみせろ!」シュッ!ヒュンッ…!


眼帯「くそっ…凍りつけ! 凍結魔法っ!」ヒュオオオォォォッ!


ピシッ!ビキビキビキ………バリイイイィィィンッ!!


眼帯「届かない…!? 剣に雷撃を宿したままで防壁なんて…!」

黒騎士「バァカがっ! 宿した時点で魔法の発動は終わり、 次の魔法ならいつでも使えるんだよォ!!」ザリッ!ヒュッ…!

友「うっ…!?」グラッ…

黒騎士「もらったぁ!!」ブンッ!


ガキイイイィィィンッ!!


友「うああああぁあぁぁっ…!!」バチィッ!ビリビリビリッ!

黒騎士「はははっ!! 剣で受けちゃ駄目だって言ったろォ!?」ゲラゲラゲラ



549 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/02(土) 20:03:43.53 ID:DnQV3eY2o


眼帯「友っ…! 治癒魔法っ!」キュイイイィィィ…

黒騎士「はん…甘めぇんだよ、ブス。防壁魔法!」ピシィッ…!キイイィィィン!

眼帯「そんな! 治癒魔法が…!」

友「く…そっ…!!」グググッ…


黒騎士「ククク…状況はよく見えねぇが、もう頑張っても意味なさそうだぞ?」

友「ふざけ…んなっ!」チャキッ

眼帯「なにが意味ないってのよ!」


黒騎士「さあな、偉そうなジジイも糞生意気な小娘も…お前らの魔女も死んじまったんじゃねえか…?」

友「!!」

眼帯「…えっ!?」


黒騎士「だから手前ェらも、諦めて死ねよぉっ!! ヒャハハハッ──!」ザッ!



「──お前が死ねよ」



550 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/02(土) 20:04:40.99 ID:DnQV3eY2o


…ヒュンッ!!


黒騎士「!!」バッ!ザザッ…

男「…ふん、躱したか」


友「男…! 魔女様は!?」

男「心配ない。今は眠っておられるが、じきに目を開けるだろう」

眼帯「…よかった……」


黒騎士「魔女が来るならともかく、お前が来てなにか変わるとでも思ってんのか? このカスがっ」チッ…

男「随分喋り方が薄汚くなってるじゃねえか、気色悪いよりほんの少しマシだな」

黒騎士「うるせえ! 今度は手前ェが痺れやがれっ!!」ブンッ…!

眼帯「男っ! その剣を受けちゃ駄目!!」


男「…防壁魔法」スッ…


友「え?」

眼帯「はい?」


黒騎士「なんのつもりだ魔法音痴──!」



552 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/02(土) 20:05:46.25 ID:DnQV3eY2o


キイイイィイィィィンッ!!


黒騎士「──な…に……!? 物理と魔法の二重防壁だと…!!」

男「剣に魔法か、なるほどな」

黒騎士「どういう事だ! キサマッ!!」


男「こうか? 剣に宿れ、火炎魔法…っ」ゴオオオォオォォッ!

黒騎士「なぜ…そんなに簡単に魔剣をっ! しかもその大きさ…!」ブルブルブル…

男「よし、来いよ。雷撃と火炎の魔剣、力比べしてみようぜ」ニヤリ


黒騎士「お…おのれぇっ! 死ね! どうせ見掛け倒しだっ!!」ザッ…ヒュッ!


キイイィイィィンッ!ゴオオォォッ!
ジュウゥゥ…ドロドロドロ…


黒騎士「剣が…溶けた……」ガタガタガタ


友「どうなってんだ…?」ポカーン

眼帯「解んない…」キョトーン



553 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/02(土) 20:06:35.21 ID:DnQV3eY2o


男「…四肢を縛れ、束縛魔法!」バチィッ!

黒騎士「ぐっ…!?」ギシッ


男「いいザマだな、これからどうなるか解るか?」

黒騎士「ひっ…! あの…許してっ、ねえ!?」

男「旭日の国や白夜の国で、そうやって命乞いする奴を何人斬った…?」

黒騎士「私は陛下に命ぜられて! そうよ、仕方なく…っ!」


男「もともと気持ちの悪い顔斬っても、イマイチなんだけど──」ヒュッ…


──プツッ…スパァッ!!


黒騎士「ぎゃああああぁああぁぁぁっ!! 目がっ…! 目がぁーっ!!」ボタボタボタッ

男「見ろよ眼帯、お前の何十倍も喚いてるぞ」

眼帯「まるでゴミのようだね」



554 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/02(土) 20:07:34.39 ID:DnQV3eY2o


魔剣士「──男殿!! 魔女が意識を取り戻したぞ!」


男「ああ…意外と早かったな。友、眼帯…行ってやってくれないか」

眼帯「う、うん…もうこっちは大丈夫そうだしね」


黒騎士「うぅっ…! お願い! 殺さないでっ…!!」


友「…なあ、男」

男「ん?」

友「眼帯の仕返しをしてくれたのはいい、でも…もうこれ以上は苦しめるなよ」

男「友…」


友「そいつは仲間もそうじゃない人もたくさん殺した。でも、いくら強くなってもお前は俺の誇れる親友のままでいてくれよな」

男「……わかった」

友「それにもっと酷い事なんてしたら、きっと魔女様に怒られるぜ?」

男「ははっ、違いないな……俺もすぐに行くよ」



555 : ◆BlfAYzXRRw [saga]:2015/05/02(土) 20:09:02.08 ID:DnQV3eY2o


黒騎士「じゃあ、殺さないでいてくれるのっ!? ねえっ!」


男「それとこれとは別だ、苦しめはしないが」チャキッ

黒騎士「待って! いい事を教えてあげるからっ!」

男「いや、別に知りたくない」スゥッ…


黒騎士(糞っ! 糞ぉっ! 駄目だ…殺される!)

黒騎士(ならばせめて今、魔女の名を叫べば…!)

黒騎士(…いや、待てよ──)


男「──死ね、黒騎士」ヒュッ…!ザシュッ!


黒騎士「ぐっ…ぁ…あぁ……っ!!」ポタポタッ…ブシュゥッ!ガクッ…

黒騎士「あは…ァ……私の負け…ねぇ…」ククク…

黒騎士「…どうせ死ぬ…なら、そのイイコト…教えてあげる」ハァ…ハァ…


男「……?」


黒騎士「呼ん…で…あげるといい…わ……魔女の…名は────」



【最終部へ続く】



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テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

  1. 2015/05/07(木) 00:23:06|
  2. ファンタジー
  3. | コメント:0

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