がらくた処分場

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貴方のために生まれた私(原題/コタツ「コタツは日本の心です」男「自分で言うな」)


1 :名無しさん :2014/03/27(木)12:43:56 ID:ugfAQYdsI


女「じゃあ男君、また明日ね」

男「うん、気をつけて」


男(…最近、割と女さんといい感じ)

男(これは大学二年目にしてようやく春が来るか…!?)

男(でも、焦らない…人によるかもしれないけど、たぶん俺は焦るとロクな事にならない)

男(忘れもしない、高校の時──)


『──えっ? あ…ありがとう』

『あー、でも…ごめんね…勘違いさせちゃったのかな…』

『うん…男君の事、嫌いじゃないんだけどね』

『正直、一緒に遊んで楽しいお友達感覚だったんだ──』


男(…あかん、思い出しただけで泣ける)



2 :名無しさん :2014/03/27(木)12:45:23 ID:ugfAQYdsI


男「はー、ただいまー」ガチャッ

男(……独り暮らしだけどね)


男(メシ…冷蔵庫、何があったっけ)カタッ

男(……何も無いって言った方が正しいな)

男(卵めしでいいか…)ヒョイ


男(ご飯よそってー)モリモリ

男(醤油と卵溶いてー)カチャカチャ

男(味の素ひと振りしてー)フリフリ

男(ご飯にタンパク質をブッかける!)ドロッ!

男(ご飯『らめえええぇぇぇ! 真っ白な私が茶色くなっちゃうううぅぅぅ!』ビクンビクンッ)



男(これから食う物に対して考える事じゃなかったな……)オエッ



3 :名無しさん :2014/03/27(木)12:45:30 ID:ZdfJONwBy


何か始まった




4 :名無しさん :2014/03/27(木)12:46:20 ID:ugfAQYdsI


男(あとはTVつけて……面白いのやってねえなあ…ま、いいか)ポチッ


…コトッ、カチャッ
バフッ、モソモソ…


男「いただきまーす」

男(もう4月だもんな…そろそろこのコタツも片付けなきゃ)モグモグ

男(TVもつまらないんだし、食ったらやろう)


男(そして女さんを部屋に招いた時の事を考えて、二人掛けのローソファーを…!)

男(…まずは買わなきゃな)モグモグ…


5 :名無しさん :2014/03/27(木)12:47:19 ID:ugfAQYdsI

男(…よっし、食ったし、洗い物もしたし)

男(まだ多少はどたばたしても、迷惑なほどの時間じゃないし)

男「さらばだ…コタツ、また晩秋に会おう」ウルッ


男(まずは天板を外さなきゃ……おらっ! 大人しくしろよっ!)ガバッ

『ひゃっ』

男(へっへっへ……そのコタツ布団の下はどうなってるのかな…? ひん剥いてやるぜぇっ!)バサァッ

『きゃあああぁぁっ!』

男(おいおい…真ん中が熱くなってんじゃねえか、とんだ淫乱だぜ…! その脚、よけてみろよっ!)ガシッ


「やぁっ! 乱暴しないで……!」



6 :名無しさん :2014/03/27(木)12:48:02 ID:ugfAQYdsI


男(……俺も妄想が過ぎて幻聴を感じるようになったかぁ)シミジミ

?「だめぇっ…脚をグリグリしちゃ…!」

男(ん…? コタツの脚って、柔らかい材質だったっけ?)

?「男さんっ、お願い…優しくして……」


男「誰だ!?お前はああああぁぁぁっ!」


?「そんな…っ! 誰かも解らずにこんな格好をさせたんですかっ」


男(なんで俺はいつの間にか美少女の素足を掴んでグリグリしてるんだ…!)

男(ましてやこの娘…! 上やパンツはともかく、スカート履いてないじゃねえかっ!)

男(俺はその片足を持ち上げて…彼女は床に半身で倒れてて…)


?「…あんまり…見ないで……」ウルッ

男「これ、理性が弾けてもいいですか」プシュー



7 :名無しさん :2014/03/27(木)12:48:43 ID:ugfAQYdsI


男「待て、俺、冷静になれ、せめて上半身だけでもクールダウンしろ」ブツブツ…

?「あ…あの…だったら手を放してもらっても…?」

男「ああ…ごめんっ」パッ


?「はわわ…っ」ササッ

男「あの、何か下半身を隠すものを…あ、とりあえずコタツ布団でもっ!」

?「ありがとう……って、これ私のなんですけどね」マキマキ

男「はい?」


?「私、コタツです。この部屋の」


男「……ご冗談を」

コタツ「本当ですよ、コタツ…無くなってるでしょ?」


8 :名無しさん :2014/03/27(木)12:49:15 ID:ugfAQYdsI

男(そういえば、片付けようとしてたコタツがどこにも無い)

男(外した天板だけは壁に立てかけたままだけど…)


男「…あれ? コタツ布団が」

コタツ「だから『私のです』って言ったじゃないですか」

男(さっき彼女が腰に巻いたコタツ布団が、いつの間にか普通のスカートになってる…! 柄はコタツ布団と同じだ…)


男「まさか…本当に、コタツなのか」

コタツ「はい」ニッコリ

男「夢でも見てんのか、俺は…」

コタツ「いいえ、現実だと思いますよ」



10 :名無しさん :2014/03/27(木)12:49:46 ID:ugfAQYdsI


男「もういい、信じるしかないし…信じよう。…で、なんで急に人間の姿に?」

コタツ「それですっ!」ビシィッ

男「はい?」


コタツ「男さん、私を片付けようとしたでしょう」ジロッ

男「ええ…まあ…春ですし」

コタツ「また去年みたいに押入れで半年以上も過ごすなんて、絶対に嫌です!」


男「そう言われても、コタツは季節モノだよ」

コタツ「でもでも、コタツ布団さえ外せば普通の卓袱台として使えるんですよっ!?」

男「そりゃまあ、使えなくはないけど…」



11 :名無しさん :2014/03/27(木)12:50:20 ID:ugfAQYdsI


男「でも、押入れにはガラストップのテーブルもあるからさ。季節的にはそろそろそっちかなーって」

コタツ「コタツは日本のココロですっ!」


男「君がそうやって意識を持ってるって事は、ガラステーブルも押入れで辛い想いをしてるんじゃないの?」

コタツ「ハッ…この国にはまだガラステーブルが神化するような歴史はありませんよ」ヤレヤレ

男(ものっそい見下した目したな…)


コタツ「日本の部屋にはコタツ! それはもはや日本人の本能です。男さんは生粋の日本人でしょう?」

男「はあ…」

コタツ「じゃあ、使いましょう。エブリデイ!オールシーズン!グッドコタツライフ!」



12 :名無しさん :2014/03/27(木)12:50:53 ID:ugfAQYdsI


男「まあ…わかったよ、使うからさ。元の姿に戻ってよ」

コタツ「…戻れないんですよね、コレが」

男「はい?」


コタツ「いや、戻れるには戻れるんですけどね? …寝てる間だけなんですよね」

男「誰が?」

コタツ「私が」


男「……じゃあ寝ろよ」

コタツ「貴方、さっき目覚めたばかりで『また寝ろ』って言われて寝られます?」

男「無理です」

コタツ「ですよねー」ニッコリ

男「……ですよねー」イラッ



13 :名無しさん :2014/03/27(木)12:51:26 ID:ugfAQYdsI


男「普通に24時間サイクルで眠くなるの?」

コタツ「はい。今が夜の8時くらいですから、明日の朝くらいには普通に眠たくなって、また夕方か夜に起きると思います」

男「それ、つまり俺が部屋にいない時間帯だけコタツ状態に戻るって事だよね」


コタツ「……そういえばそうですね」


男「よし、押入れ行こうか」ニッコリ

コタツ「待って! 毎日少しずつ寝る時間ずらしてくからっ! あの押入れGが出るんですよぅっ!」


男「…全く、時間をずらした後はいいにしても、しばらくはどうやってメシ食えばいいんだよ」

コタツ「あ、そこはご心配なく」

男「え?」



15 :名無しさん :2014/03/27(木)12:52:00 ID:ugfAQYdsI


コタツ「はい、どーぞ?」

男「…四つん這いになった女の子に天板載せろってのか」

コタツ「大丈夫、もともとそういう作りですから、へっちゃらです」

男「まじか…じゃあ、載せるよ?」ソーッ


…トスッ


コタツ「うん、ジャストフィット」

男「めっちゃハミ出してるんだけど」

コタツ「大丈夫、絶対に落ちませんよ。どうぞご利用下さい」

男「じゃあ、缶ビールでも飲むか…」プシッ



16 :名無しさん :2014/03/27(木)12:52:40 ID:ugfAQYdsI


男「で、これはどう座ればいいの」

コタツ「はい? そりゃ…コタツですから。お一人なら足を伸ばして、どうぞ」

男「四つん這いの女の子の下に足を通すのか…」

コタツ「お気になさらず、ささ…ぐいっと」

男「よっ…と」ズズイッ


…プルンッ

コタツ「ひゃっ…」ピクン


男「はい?」

コタツ「男さんのエッチ……さっき爪先で胸の先っぽ、弾いたでしょ…」ジトー

男(……やっぱ押入れ行きかな、こいつ)



17 :名無しさん :2014/03/27(木)12:53:53 ID:ugfAQYdsI


男「………」グビグビ

TV《ナンデヤネーン!アハハハハ…》

コタツ「ぷっ…」クスクス


男(つまみ…味ごのみ食うか)バリッ

ポリポリ…

TV《モウ キミ トハ ヤッテラレンワー!》

男(……つまんな)グビグビ

コタツ「あー、終わっちゃった…」


男「………」チラッ


コタツ「どうされました?」ニコッ

男「全然落ち着きません」



18 :名無しさん :2014/03/27(木)12:54:22 ID:ugfAQYdsI


コタツ「そうですか…私は超リラックスなんですけどねー」

男「とりあえずビールも飲み終えたから、人間コタツモード解除な」


コタツ「はい……よいしょっと」

男「もはや『そんなランドセル風のベルト無かったろ』とは言わないけど、天板は背負ったままなの?」

コタツ「言ってるじゃないですか、まあ…これが基本形態ですよ?」


男「…亀みたいなのな」ボソッ

コタツ「失礼なっ! 私はコタツですっ! 今の発言、訴訟モノですよ!?」

男「お前の怒りのツボが解らねーよ」



20 :名無しさん :2014/03/27(木)13:02:23 ID:hfWV3B6HO


はやく



21 :名無しさん :2014/03/27(木)13:05:47 ID:1avDogG3g


おねがい



22 :名無しさん :2014/03/27(木)13:36:54 ID:llI3bJc86


続けてたまえ



24 :名無しさん :2014/03/27(木)13:54:18 ID:iOx1T5U0O


大作だ




27 :名無しさん :2014/03/27(木)14:57:37 ID:9m34bKxr8


………



男「さて…寝酒も入ったし、寝るかね」

コタツ「おやすみなさい」


男「……君は?」

コタツ「まだ全然眠くないです」

男「だろうな……ま、寝る時は完全コタツ形態になるんだろ?」

コタツ「なる事もできます」


男「っていうか、なってくれ。さすがに女の子の姿のままでスヤスヤは俺の理性がもたない」

コタツ「私は家電ですよ?」

男「家電の姿をしてないだろ、とにかく寝る時は元の姿で頼む。その方が寝具も要らないだろうしな」


コタツ「わかりました、でも眠くなるまで起きてていいですか?」

男「お好きに、TVもヘッドホン使って観てたらいいから」

コタツ「はーい」



28 :名無しさん :2014/03/27(木)14:58:14 ID:9m34bKxr8


………



男(…とは言ったものの、全然寝付けない)

男(目を閉じると、この娘が現れた時の艶姿を思い出してしまう)


男(いかん…俺は女さん一筋の筈だ)

男(今…俺の横でTVを観てる、こいつは家電だ!)

男(しかもホームセンターで買った安物のコタツだ!)

男(コタツに欲情する奴がどこにいるってんだ!)


…チラッ


コタツ「………」ニコニコ

男(…ただの天板背負った女の子だよなぁ──)



29 :名無しさん :2014/03/27(木)14:58:49 ID:9m34bKxr8


……………
………


…翌朝


コタツ「ふぁ……おはようございまーす」

男「やっぱ、いるんだな…」

コタツ「そりゃいますよ、貴方の持ち物ですもん」

男(女の子が俺の所有物とか…)ムラッ


コタツ「ふあぁ……ぁ」

男「…なんで眠そうなんだ?」

コタツ「えっ?」


男「まさか寝てないのか? 少しずつ寝る時間をずらすために、早めに寝る努力は?」

コタツ「……てへっ」

男「お前、ずっとTV観てたな。通販番組くらいしかあるまいに」

コタツ「けっこう面白かったですよー? あのわざとらしい日本語吹き替えが…」


男「押入れが好きなようだな」

コタツ「許して下さい、今夜から早寝します」



30 :名無しさん :2014/03/27(木)14:59:12 ID:9m34bKxr8


………



男「じゃあ、俺は行ってくるから」

コタツ「はーい、行ってらっしゃーい」


男「どうせ眠いんだろ。誰か来ても出るなよ? コタツの姿で寝とけ」

コタツ「言われるまでも無き事」キリッ

男「なんか腹立つわ…」



31 :名無しさん :2014/03/27(木)14:59:33 ID:9m34bKxr8


……………
………



男「女さん、おはよう」

女「あっ…おはよう、男くん」


女「今度のプレゼン実習の原稿とか、進んでる?」

男「全然…ごめんね、せっかくペア組んでくれたのに」

女「それが私も全然なの、もうあんまり猶予は無いのにねー」

男「何とかしなきゃな」



32 :名無しさん :2014/03/27(木)14:59:56 ID:9m34bKxr8


………



女「──それでね、結局その日は買うのやめたの。でも次の週に行ったらもう売れててね」


男(…あの娘、ちゃんとコタツ状態になってるのかなー)

女「やっぱり買っとけば良かったなーって、かなり悔やんでる」


男(余計な家捜しとかしてなきゃいいんだけどな…)

女「しかも後からネットの通販見たけど、送料考えたらその時に買っとく方が安かったんだよ」


男(そんなに疚しいものは無いけど…健康な男子の持ち物くらい、いくらかはあるぞ)

女「後悔先に立たずだよー、ほんと」



33 :名無しさん :2014/03/27(木)15:00:15 ID:9m34bKxr8



男(そうは言っても、昨夜も今朝もあの娘が起きてたから隠す事も出来なかったもんなー)

女「…男くん?」


男(テレビ台の引き出しだろ…? それから本棚の上……げげっ、そういえば脱衣所のタオル棚にオナホがあるぞっ)

女「………」


男(鏡台の開き戸の中にはローションも立ててるし……でも、コタツにはそれが何か解んないか──)

女「…男くん、つまらない?」

男「えっ」


女「なんか、返事もしないし…ボーッとしてるよね」

男(しまった、考え事に集中しすぎだ…こりゃマズイ)



34 :名無しさん :2014/03/27(木)15:00:32 ID:9m34bKxr8


女「…さては、夜更かししたんでしょ?」

男「お…? う、うん…そうなんだ。ごめん、ちょっと意識飛びそうになってた」


女「もう…あんまり興味無さそうにしてたら、不安になるじゃない」

男「…不安?」

女「んー、話…つまんなかったかなーって」

男「そんな事ないっ! ごめん、俺が悪かったよ!」


女「仕方ない、今回は許してあげよう…その代わり」

男「その代わり…?」

女「今度、男くんの部屋で一緒に原稿を作ろうよ。招待…してくれるかな?」

男「えっ!?」



35 :名無しさん :2014/03/27(木)15:00:47 ID:9m34bKxr8


女「あれ…? だめだった?」

男「そ…そんな事ないっ! 全然、ウェルカムだよ!」

女「よーし、約束ね? じゃあ午後の講義始まるから、行こう」

男「…おう」


男(…とは言ったものの、まさか部屋に女の子がいるとは言えないし)

男(いや、家電だけどさ)


男(とりあえずその時、あの娘には寝といてもらわないとな──)



36 :名無しさん :2014/03/27(木)15:01:09 ID:01GgysPsw


ほう



39 :名無しさん :2014/03/27(木)15:08:05 ID:CECVz6r3Q


ふぅ…



42 :名無しさん :2014/03/27(木)15:36:04 ID:9t9PRKwqo






43 :名無しさん :2014/03/27(木)15:46:25 ID:B3ATyUdb0






44 :名無しさん :2014/03/27(木)16:08:19 ID:9t9PRKwqo






45 :名無しさん :2014/03/27(木)16:08:56 ID:zdPEFnzhb






47 :名無しさん :2014/03/27(木)16:34:59 ID:DAuV1FRJS


がんば!




50 :名無しさん :2014/03/27(木)19:26:28 ID:1bIplJk4A


……………
………



男「…ただいまー」ガチャッ

コタツ「あっ、おかえりなさーい」


男「………」


コタツ「あれ、どうしたんですか?」

男「…『ただいま』に対して『おかえり』が返る事に、ちょっと感動してた」

コタツ「あはは…それは良かったです。人型を見せた甲斐がありました」


男「その代わり、家具としての利便性は落ちたけどな」

コタツ「ひどっ!」



51 :名無しさん :2014/03/27(木)19:27:05 ID:1bIplJk4A


男「ま、とりあえずシャワーでも浴びてくるわ」

コタツ「はーい、ごゆっくりー」


…パタンッ

シャアアアアァァァァァ…


男(…様子に変なところは無い)

男(エログッズは見つかってはいない…か)


男(まあ…でも、やっぱり部屋に独りぼっちじゃないってのは)

男(悪くはない…な)



52 :名無しさん :2014/03/27(木)19:27:39 ID:1bIplJk4A


…パタンッ


男「ふう、さっぱりした」ゴシゴシ…


男「さて…と」

男「………」


男( 着 替 え が 部 屋 だ ! )


男(しし…しまった、いつもの癖で)オロオロ

男(独り暮らしだから何を気にする事も無く、身体拭いたら素っ裸で部屋に戻ってたもんな…)

男(仕方ねえ…部屋干しの中から持ってきてもらおう)



53 :名無しさん :2014/03/27(木)19:28:12 ID:1bIplJk4A


…ガチャッ


男「おーい、コタツー」

コタツ「ん? 呼びましたー? …どうしたんですか、そんなドアの隙間から覗いて。ちょっと怖い…」

男「着替え持ってくんの忘れたんだよ…悪いけど、部屋干ししてる中から取ってくれないか」

コタツ「あはは…独り暮らしの癖ですねー。よいしょ…っと」


…ピーン


コタツ「……ごめんなさい、無理です」

男「え、なんで?」

コタツ「部屋干ししてる窓際まで、コードが届きません…」



54 :名無しさん :2014/03/27(木)19:28:51 ID:1bIplJk4A


男「コードなんて付いてるのか!?」

コタツ「はい…人間で言えば尾てい骨のあるところから、尻尾みたいに…」


男「…抜けばいいんじゃないの?」

コタツ「それが…このコードって、男さんがコンセントに挿したでしょう?」

男「そりゃまあ」

コタツ「私、あくまで男さんの持ち物だから…持ち主の意思によって決定された状態を変える事はできないんです」

男「…まじか」



55 :名無しさん :2014/03/27(木)19:29:14 ID:1bIplJk4A


男(どうする…だからって全裸をあの娘に晒すわけには…)

コタツ「あの、私…後ろを向いておきますからっ」

男「えっ」

コタツ「見ないから…どうぞ、出てきて下さい」


男(それしかないのか…)

コタツ「いいですよー」

男「えーと…絶対だよ?」

コタツ「はい」

男「念のため、手で顔を覆っといてね?」



56 :名無しさん :2014/03/27(木)19:29:47 ID:1bIplJk4A


…スゥーーッ、パタンッ…


男(そーっと、そーっと…って、なんで忍び足の必要があんだよ)

コタツ「………」


男(後ろを向いてるとはいえ、女の子の傍を全裸で…)

コタツ「………」


男(いかん、状況に対して生理反応が起きているっ!)

コタツ「………」


男(落ち着け! 俺! 主張するな!)

コタツ「………」



57 :名無しさん :2014/03/27(木)19:30:22 ID:1bIplJk4A


…パチン、パチッ、ヒョイッ


男(OK、とりあえずパンツとノースリーブは確保…! さあ、どうする…ここで着るか)

コタツ「………」


男(しかし、着てすんだら彼女に目隠し解除を言い渡さなければならない。下半身の主張ぶりを考えれば、それはマズイ)

コタツ「…まだ、ですか?」

男「まだっ!」

コタツ「………」


男(何しろパジャマ代わりのスウェットは、彼女のいる近くの棚の中だ…。これだけ主張していればバレない訳がない)

コタツ「………」



58 :名無しさん :2014/03/27(木)19:31:00 ID:1bIplJk4A


男(ここは脱衣所に引き返し、収束するのを待ってから──)


ヒタ、ヒタ…


コタツ「………」チラッ

男「見た! 今、見ただろ!」

コタツ「み、見てませんっ!」


男「嘘つけっ! パンツ履いてたから良かったものの…!」

コタツ「嘘! 履いてなかったじゃないですかっ! …あっ!」

男「やっぱ見てんじゃねーか!」


コタツ「チラッとですよ! チラッと! 小さいからハッキリは見てません!」

男「お前は今、押入れ行きが確定した」



59 :名無しさん :2014/03/27(木)19:31:30 ID:1bIplJk4A


………



コタツ「ごめんなさいってば」

男「もういい」

コタツ「大丈夫、けっこう大きかったですよっ」

男「うるせえ、どうせ平均以下だよ」


コタツ「もう…あんまり気にしないで下さいよ。今までも私の目の前で裸になってたじゃないですか」

男「えっ! 見てたのか!?」

コタツ「あっ!」


男「何、やっちまったって顔してんだよ! じゃあ、お前…今までの俺の自家発電シーンとかも…!」

コタツ「…だ、だって男さん、私に入ったままするんですもん!」

男「挿入ったままとか言うなっ!」

コタツ「そういう意味じゃないですよっ!」アセアセッ



60 :名無しさん :2014/03/27(木)19:31:51 ID:1bIplJk4A


男(…なんて事だ、エロアイテムが見つかるどころの話じゃねえ)

男(今まで俺はこの娘に見せつけながら、それを使用してたのかよ…)


男「なあ、コタツ」

コタツ「はい…?」

男「全部、忘れてくれ」

コタツ「ああ……はい、忘れました」

男「それらの事に触れる発言したら、本当に押入れ行きな?」

コタツ「わ、解りましたよぅ…」



61 :名無しさん :2014/03/27(木)19:32:19 ID:1bIplJk4A


男「はぁ…気を取り直して、メシにするかぁ」

コタツ「わーい」ニコニコ


男「え? お前…食べるの?」

コタツ「いいえ、コタツを使って貰えるなーって思って」

男「…それって嬉しいのか?」

コタツ「そりゃそうですよ! そのために生まれてきたんですから!」


男「正直、四つん這いの女の子の背中でメシ食うなんて、気が引けるもいいとこなんだけど」

コタツ「ダメッ! 私というものがありながら床でご飯食べるとか、侮辱です!」

男「うーん…」



62 :名無しさん :2014/03/27(木)19:33:08 ID:1bIplJk4A


コタツ「さ、どうぞ!」ビシッ

男「結局こうなるのか…」

コタツ「遠慮は無用です、置いて置いてっ!」


コトッ、コトン…


男「じゃあ…気にはせずに、頂きます」

コタツ「今日は卵ご飯よりはマシですね」

男「一応、惣菜とか買ってきた」モグモグ


コタツ「野菜が少ないんじゃないですか?」

男「なんで天板の上が見えるんだよ」

コタツ「予想しただけですけど、当たりだったみたいですね」クスクス



63 :名無しさん :2014/03/27(木)19:33:49 ID:1bIplJk4A


男「……それにしても、この状態だとテーブルにはなってもコタツの役目はしてないよな」モグモグ

コタツ「コタツ布団に足が入ってないですもんね…」


男「だったら、もうコンセント抜いとこうか? その方が自由きくだろ」

コタツ「うーん…それもあんまり嬉しくはないです」

男「なんで?」ゴキュゴキュ


コタツ「やっぱり私はコタツとして使われるために生まれてきたわけで…ただのテーブルに成り下がるのは複雑です」

男「でもこれからの時期はどうしてもコタツとしての利用はできなくなるぞ?」プハーッ

コタツ「それは仕方ないんですよ、逆にそうだからこそ冬の風物詩的なポジションでもあるんですから」

男「それでもコンセントは抜かない方がいいのか…ヘンなの」



64 :名無しさん :2014/03/27(木)19:34:45 ID:1bIplJk4A


………



男「さて、メシも食ったし…もう人間コタツ体勢はやめてくれ。どうしても見た目に抵抗がある」

コタツ「はーい」

男「それと、その天板…ずっと背負ったまんまで重くないの?」

コタツ「自分の一部ですからね。でも、あちこちにぶつけちゃいけないから、使わない時は降ろしときましょうか」


男「まだ寝るにも早いな…どうせいいのはやってないだろうけど、TVでもつけるか」

コタツ「じゃあ…失礼して」ゴソゴソ

男「ん?」

コタツ「よいしょ」トスッ



65 :名無しさん :2014/03/27(木)19:35:16 ID:1bIplJk4A


男「…おい」

コタツ「はい?」

男「なんで俺の膝に座る」

コタツ「…コタツですから」ポフポフ


男「そのスカートがコタツ布団で、俺の足を包んでる…と」

コタツ「はい、電源入れましょうか?」

男「……入れなくても人肌くらいは暖かいけど、じゃあ入れてみてもらおうか」

コタツ「そうこなくっちゃ」パチッ



66 :名無しさん :2014/03/27(木)19:35:45 ID:1bIplJk4A


男「スイッチは普通にコードに付いてんだ」

コタツ「はい…少し待って下さいね」


ジワーッ…ホカホカ…


コタツ「だいぶ暖かくなりました」

男「…膝の上でお漏らしされた気分」

コタツ「なっ…!?」



67 :名無しさん :2014/03/27(木)19:36:18 ID:4K1jvIu4u


コタツかわいい



69 :名無しさん :2014/03/27(木)20:52:30 ID:ze41jST5d


かわいいな



70 :名無しさん :2014/03/27(木)23:43:50 ID:xt3ji0NdQ


是非ハッピーエンドで

コタツかわいすぎる




72 :名無しさん :2014/03/28(金)10:29:11 ID:aaq9LqYNe


男「しかしコレ、どこが発熱してんだ?」

コタツ「……何て事を訊くんですか」ポッ

男「ごめん、言わなくていいわ」


コタツ「重くはないですか?」

男「潰れそう」

コタツ「………」シクシクシク

男「嘘、冗談、小さいって言われた仕返しのつもりだった、謝るから」



73 :名無しさん :2014/03/28(金)10:29:44 ID:aaq9LqYNe


男「なあ、さっき家具状態の時も周りが見えてて意識があるって言ってたよな?」

コタツ「はい」

男「それって昨日『寝なきゃ家具状態に戻れない』って言ったのと矛盾してないか?」

コタツ「そんな事ありませんよ」ビクゥッ!

男「台詞と態度が一致してないぞ」


コタツ「ね…寝てても意識はあるんです、身体を休めてるだけなんですよ」アセアセ

男「ふーん…?」

コタツ「…疑ってますね」

男「あ、解る?」

コタツ「信じて下さいよぅ…」



74 :名無しさん :2014/03/28(金)10:30:19 ID:aaq9LqYNe


………



男「じゃあ灯り、消すぞ」

コタツ「おやすみなさい」

男「今夜は早目に寝ろよな」

コタツ「努力しまーす」


男「…あ、だけどさ」

コタツ「はい?」

男「今度、部屋に人を呼ぶ事になると思うんだ。多分昼間なんだけど…その時は家具状態になってくれよな」

コタツ「じゃあ、やっぱり夜更かししてお昼寝できるようにしないといけませんねっ!」キラーン

男「いやいや、まだいつの事かも解らないし…」

コタツ「だったら明日かも知れないじゃないですか! これは仕方ないです、夜更かしするしかありません!」フンス

男「…まあ、好きにしろ」



75 :名無しさん :2014/03/28(金)10:30:41 ID:cFvlviBiZ


wktk




76 :名無しさん :2014/03/28(金)10:30:45 ID:aaq9LqYNe


………



コタツ「………」ニコニコ


男(…相変わらず嬉しそうにTV観ちゃって)

男(普通の家具状態に比べれば、利便性は劣る…)

男(でも昨日から、いつもより楽しいのは確かだよな)

男(…二人の時は、無理に元の姿に戻ってもらう必要も無いか)


男(しかし、さっきの『寝てても意識はある』は嘘だろうな…)

男(それでも家具状態の時にも周囲を見てた)

男(…という事は、嘘があるとしたら──)



78 :名無しさん :2014/03/28(金)12:29:02 ID:1rzeG0zgI


……………
………


…翌朝


コタツ「──てっ! 男さん、起きて下さいよっ!」


男「ん…んん…?」

コタツ「いつもより起きる時間、ずっと遅くなってますよ! なんで携帯のアラームをセットしなかったんですか!?」ユサユサ


男「…ああ、おはよ」

コタツ「いいから早く! 用意しないとっ!」



79 :名無しさん :2014/03/28(金)12:29:59 ID:1rzeG0zgI


男「いいんだよ、今日は…」

コタツ「えっ」

男「受けとかなきゃいけない講義、特に無いから休むつもりなんだ」


コタツ「なんだ…それなら昨日の内に言っといて下さいよ。明け方にうとうとしてて気付くとこんな時間だったから、びっくりしました」

男「ごめんごめん、心配してくれてありがとうな。せっかくだから起きるよ」

コタツ「はーい、今朝はちょっと冷えるからスイッチ入れときますねー」


男(…寝てる間も意識があるなら、時計見てびっくりしないよな)



80 :名無しさん :2014/03/28(金)12:30:36 ID:1rzeG0zgI


コタツ「それで、今日は何をするんです? 映画のDVDでも観ます? ゲームします? それともワ・タ・シ?」

男「じゃあ最後の」

コタツ「えっ」

男「…を、片付けようかな」

コタツ「意地悪…」ウルウル


男「嘘うそ、ごめんって。でも、外出って選択肢は無しなのか?」

コタツ「それってコンセント抜かなきゃいけませんし」

男「そんなに嫌なの?」



81 :名無しさん :2014/03/28(金)12:31:04 ID:1rzeG0zgI


コタツ「…っていうか、部屋が好きなんですよ。なんといっても家具なので」

男「なるほど、屋外には魅力を感じないと」

コタツ「家具たる者、屋外で雨ざらしほど悲しい事もないですから」

男「あー、なんとなく解るかも…あれは侘しい光景だよな…」


コタツ「あ、でも最悪なのは売れ残って使われずに廃棄される事です。もう店頭では毎日ビクビクしてました」

男「そういえばお前、ホームセンターでかなり値下げされてたよな」

コタツ「言わないで下さいよ…本当に怖かったんですから」



82 :名無しさん :2014/03/28(金)12:31:33 ID:1rzeG0zgI


男「その価格だったからこそ購入したんだけどな」

コタツ「はい、あの時は嬉しかった……だから男さんの事は大好きです」

男「ば…ばかやろ、大好きとか言うなっ」


コタツ「私は家具ですよ?」

男「だから家具の姿してないだろ。そうでなくとも俺は女の子に免疫薄いんだよ」

コタツ「知ってます、部屋に連れてきた事ないですもんね」

男「うるせえ」


コタツ「だから私は、アナタしか知らないの…」ポッ

男「てめえ、からかうな」

コタツ「あははっ、もっと挙動不審になってくれるかと思ったのに」



83 :名無しさん :2014/03/28(金)12:31:59 ID:1rzeG0zgI


男「でも、なんとなく部屋に閉じ込めっぱなしってのも悪い気がするなー」

コタツ「そんな事ないですってば」

男「うーん…」


コタツ「男さんに買ってもらった以上、男さんの部屋で使ってもらう事こそが私の幸せなんです」

男「…そっか、じゃあ今日は映画でも借りて来ようかな」

コタツ「はいっ」



84 :名無しさん :2014/03/28(金)12:35:35 ID:24XjCUNYQ


可愛いな



85 :名無しさん :2014/03/28(金)13:38:54 ID:iUqxaoO9L


久しぶりに2次に行きたくなった




88 :名無しさん :2014/03/28(金)20:04:37 ID:ZhlSx18LJ


………


…レンタル店


男(さーて、何を借りるか…)

男(とりあえず、ラブシーンがありそうなやつはパスだな)

男(…でも、割と何にでもあったりするんだよなー)


男(安心なのは…キッズ向け?)

男(CGアニメ系のやつなら、大人が観ても楽しいのあるよな)



89 :名無しさん :2014/03/28(金)20:05:21 ID:ZhlSx18LJ


………



コタツ「うぅ…」グスッ


《…Eve? …Eve!》

《WALL・E…!》


男(…で、『ウォーリー』にしたけど…)

コタツ「男さん…これ、ダメですよぅ」ポロポロ

男「感動した?」

コタツ「それもそうですけど、地球がゴミだらけじゃないですか…」

男「ああ、そっか」

コタツ「家具や電化製品の末路だと思うと……うぅっ」グスン

男(…人間には解らん感覚だ)



90 :名無しさん :2014/03/28(金)20:06:07 ID:ZhlSx18LJ



男「ゲームでもするかー」

コタツ「はいっ」


男「二人で出来るのは……Wiiパーティーくらいだな」

コタツ「………」

男「ん? どした?」

コタツ「…いえ、なんでパーティーゲームなんか持ってるのかなーって」


男「……やっぱやめる」グスッ

コタツ「えっ!? 嘘っ、大丈夫! 独りでやっても面白いですよね! ねっ!」アセアセッ



91 :名無しさん :2014/03/28(金)20:07:06 ID:ZhlSx18LJ


コタツ「はっ! …それっ! よっ…ととと…!」フラフラ

男「まあ確かにこの部屋で誰かとやった事は無いんだけどさ」スイッ

コタツ「えいっ! うわっ、難しいっ!」バタバタ


男「友達の部屋でやった『ぐるぐるパズル』にハマッちゃったんだよな……っと」ヒュッ…

コタツ「ええっ!? そんなに軽い動作でいいんですか!?」

男「うん、座ったままでオッケー」


コタツ「先に言って下さいよ…すっごく疲れたじゃないですか…」

男「すまん、ジタバタ加減に軽く萌えててな」



92 :名無しさん :2014/03/28(金)20:07:55 ID:ZhlSx18LJ


コタツ「そのなんとかパズルをやってみたいです」フンス

男「対戦より一人でとことんモードの方が面白いぞ、やってみ」


コタツ「ええと…?」

男「とにかく回して四つ以上の同色パネルが繋がったら消える。あとは素早く消してコンボを途切れさせるな」

コタツ「うわっ、間に合いません! コンボとぎれるー!」ジタバタ

男「落ち着け、これはリモコン振らなくていい」


…ドーーーンッ!


コタツ「アッと言う間に終わった……」

男「面白かった?」

コタツ「まだ面白さが解りません、ただ…」

男「…ただ?」

コタツ「男さんのMii、こんなにハンサムじゃないたたたたたっ! やめて! 粗大ゴミになりますっ!」

男「粉砕して可燃ゴミにしてやんよ」グリグリ



93 :名無しさん :2014/03/29(土)00:32:27 ID:ummsUqGfZ


こたつかわいい



94 :名無しさん :2014/03/29(土)06:16:50 ID:7jN0hbRip


しえん




96 :名無しさん :2014/03/29(土)11:03:52 ID:Yzj5xryc9


……………
………


…1週間後、早朝


男「…ん」


…モゾッ


男(あれ…えらく早い時間に目が覚めちゃったな…)


《スタジオノ ミナサン オハヨウ ゴザイマース!ケサノ キオンハ キノウヨリタカク──》


男(TVの音が出てる…それで目が覚めたのか)

男(あーあ、コタツめ……家具状態にもならずに、うたた寝してんじゃねーか)

男(寝返りでヘッドホンのプラグが抜けたんだな)

男(たぶん人間の姿だと寒いだろうに…)



97 :名無しさん :2014/03/29(土)11:04:21 ID:Yzj5xryc9


…バサッ


男(…コタツが寒くないように毛布をかけてやるってのも、変な話だな)


男(眠る時は家具にも人型の状態にもなれる…か、それは本当みたいだけど)

男(じゃあ、家具状態の時には寝てても周囲が見えてて、人型だと全くの睡眠状態?)

男(やっぱりそんな変な話、無いだろ)

男(眠らなきゃ家具型になれないって部分は、きっと嘘だな)


男(つまり多分、今までずっと家具の状態でいた時も、眠ったり目覚めたりを繰り返してたんだ)

男(店頭でも、この部屋に置かれてる時も、押入れにしまわれてる時も)

男(さぞ退屈だったろうけど、外出に魅力を感じないとか…そういう家具の感性からすれば平気なのかな)


男(でも、明らかに夜更かしが好きだったりゲームや映画に興じたり)

男(人型を現してからの毎日が、楽しそうなんだよな)



98 :名無しさん :2014/03/29(土)11:04:46 ID:Yzj5xryc9


男(…女さんを部屋に呼ぶ時……もう明日の事か)

男(いや、それより後だってそうだ)

男(いつかはまた、ずっと家具の状態でいてもらわなきゃいけなくなる)


『──男さんの部屋で使ってもらう事こそが私の幸せなんです』


男(…そうは言ってたけど、本当にコイツはそれでいいのかな)

男(ある時を境に『喋るな』『動くな』『姿を変えるな』)

男(そう告げなきゃいけない日は、いつか来る……そしてその時)


『持ち主の意思によって決定された状態を変える事はできないんです』


男(きっとコイツは、笑顔で受け入れるんだろう──)



100 :名無しさん :2014/03/29(土)12:33:07 ID:43rCuhclr


>>1さんは知らないかもしれないけど
高橋留美子っていう漫画家が書いた漫画のノリみたいで好き




102 :名無しさん :2014/03/29(土)15:49:04 ID:8VzRY7ByI


………


…翌日


女「お邪魔しまーす」

男「どうぞー、自慢できるような部屋じゃないけど」

女「うん、でも綺麗に片付いてるから恥ずかしくもないでしょ」


男「がんばって片付けたんだよ、女さんが来るから」

女「あははっ、それは言わない方がよかったんじゃない?」

男「偽っても仕方ないしー、普段は散らかしてるしー」


女「あっ、でもひとつだけ指摘事項みっけ」

男「えっ」



103 :名無しさん :2014/03/29(土)15:49:30 ID:8VzRY7ByI


女「もう春もいいとこなんだから、コタツは片付けないとね?」

男「…ああ、いいんだよ。俺、コタツ好きなんだ」


女「じゃあ年中出しっぱなしなの?」

男「うん」

女「ふーん……まあいっか、布団を取れば卓袱台だもんね」

男「まだ布団も取らなくても、OFFにさえしてれば平気だしな」


女「あ、読めた」

男「何が?」

女「横着して、コタツで寝る癖あるでしょ!」

男「はは、バレたか」

女「でも解る、あれ心地いいよねー」



104 :名無しさん :2014/03/29(土)15:49:48 ID:8VzRY7ByI


………



女「──このスライドの時、グラフはいると思うんだよ」

男「うん、メモしとく」

女「じゃあ文章は私、考えるから。男くんはそういうビジュアル的な部分を任せてもいい?」

男「了解、お互いメールとかで原稿を交換しながらやろう」


女「はぁ…ようやく方向性と骨組みはできたねー」

男「本当はまだ骨組みだけってのじゃ、いけないくらいのタイミングだけどね」

女「人の事は言えないくせにー」

男「解ってるって、責めてるんじゃないよ」



105 :名無しさん :2014/03/29(土)15:50:07 ID:8VzRY7ByI


男「じゃあ今日はこのくらいにして……お腹すいたね」

女「ぺっこぺこです」


男「夕食、どっか行く?」

女「うーん……実は、ですね」

男「?」


女「カレーでも作ろうと思って、ちょっとした材料を持ってきてたりします」

男「まじか、やばい嬉しい」

女「でももし作らない事になったらいけないと思って、お肉とかの生鮮ものは持ってきてないの」



106 :名無しさん :2014/03/29(土)15:50:27 ID:8VzRY7ByI


男「そっか…でも冷蔵庫には無いなぁ」

女「うん、買いに行ってくるよ。来るとき見たけど、近くにスーパーあったよね」


男「ああ、歩くとまあまあ遠いけど。荷物持ちに行こうか」

女「ううん、そんなにたくさん買うわけじゃないから平気。それよりご飯はあるのかな?」

男「……炊かなきゃ無い」

女「じゃあ、そっちを頼みます」


男「わかった、女さん何合くらい食べる?」

女「そんなに何合も食べないよ、失礼だなぁ」

男「はは…冗談、三合くらい炊いとく」



107 :名無しさん :2014/03/29(土)15:50:52 ID:8VzRY7ByI


…ガチャッ


女「先にお菓子のつまみ食いとかしちゃダメだよ?」


男「しないって、女さんこそ試食コーナーの誘惑に負けないようにね」

女「うっ、なぜ私が試食コーナー好きなのを知ってますか」

男「女友さんから色々聞いてまーす」

女「やめてー! 思い出さなくていいからっ!」


男「あはは……そろそろ暗くなり始めてるから、気をつけてね」

女「うん、最近物騒だもんね」

男「そうだよ、こないだも近くで空き巣と放火があったって」

女「怖いねー」



108 :名無しさん :2014/03/29(土)15:51:09 ID:8VzRY7ByI


男「…炊飯器だけセットして、やっぱりついていこうか?」

女「ううん、平気。人通りの多いとこ通るから」


男「なんか心配だな」

女「スーパーに行くのに心配とか、子供じゃないんだから」

男「そっか…まあ、そうだね」


女「でも…嬉しいよ?」

男「ん?」

女「玄関を出る時に、そんな風に心配してくれるのって…なんかいいよね」



109 :名無しさん :2014/03/29(土)15:51:25 ID:8VzRY7ByI


男「…誰だって、暗い時間に女性が外出しようとすれば心配するよ」


女「うーん…それは違うよ、男くん」

男「………」

女「今、言うべき台詞としてはちょっと相応しくない…かな?」


男「…解ってるよ」

女「何を?」


男「さっきのなし、照れ隠しだったよ。……女さんだから、心配したんだ」



110 :名無しさん :2014/03/29(土)15:51:41 ID:8VzRY7ByI


女「やっとだね」

男「やっと?」

女「待ってました! …だよ、その言葉」

男「…お待たせしました」


女「やばい、思ってたより恥ずかしい。もう行ってきます、すぐに帰るからっ」

男「そんなにすぐにご飯炊けないよ」

女「もう照れ隠しはいいってば」

男「…そうだな。じゃあ、早く帰ってきて下さい」

女「了解です!」



111 :名無しさん :2014/03/29(土)15:52:23 ID:8VzRY7ByI


………



男「おい」

コタツ「………」

男「家具状態でもどうせ聞こえてんだろ」

コタツ「………」

男「…っていうか、その状態なら寝てても聞こえるとか見えるとか、嘘だよな。起きてんだろ?」


スウウウゥゥッ……


コタツ「……バレてたんですか」

男「おうよ、けっこう前からな」



112 :名無しさん :2014/03/29(土)15:52:54 ID:8VzRY7ByI


男「少しの間だけど、人型でいても大丈夫だよ。30分もしたら帰ってくるだろうけど」

コタツ「はーい」


男「今日は退屈させたな」

コタツ「何言ってるんですか、ちゃんと天板使われてるのに退屈なわけありません」

男「そういうもんか」


コタツ「それに男さんの緊張した喋り方が面白くて面白くて…」プププッ

男「やっぱそろそろコタツも季節外れかなー」

コタツ「脅してもダメですよ。『俺、コタツ好きなんだ』…でしょ?」ニヤニヤ

男「うわ、ムカつく」



113 :名無しさん :2014/03/29(土)15:52:56 ID:7jN0hbRip


しえん




114 :名無しさん :2014/03/29(土)15:53:30 ID:8VzRY7ByI

コタツ「でも、よかったじゃないですか。祝、初彼女!」パチパチ

男「今まで彼女いた事無いなんて言ってないぞ」

コタツ「あれ? てっきりそうかと…いた事あったんですか?」

男「……無いけどさ」


コタツ「これでWiiパーティーの相手ができましたねー」

男「お前じゃ相手にならなかったからな」

コタツ「失礼なっ! ぐるぐるパズル1万点超えるようになったんですよ!?」

男「3万点超えてから言いな。俺、ちょっと炊飯器セットしてくるわ」

コタツ「ちぇっ、じゃあちょっとだけゲームしてても──」


──ガチャッ


女「ごめーん、お財布大きい方のバッグに入ってたよー」



115 :名無しさん :2014/03/29(土)15:53:58 ID:K23q1EklX


おっ?




118 :名無しさん :2014/03/29(土)16:02:44 ID:Yl2TMfP43


男「お、女さんっ…!?」

女「あはは…時間ロスしちゃった、すぐに行って…くる…か……ら…」


《3…2…1…スタート!チャチャラチャーラーラ、チャチャラチャーララーンラララ…》


女「………」

コタツ「…はわ…はわわ…」ガクブル

男「……最悪だ」


女「えっと……うん、帰るね」


男「ちょっと待って! 女さん、コイツは違う! コタツなんだ!」

女「…コイツとコタツを掛けた感じ? あはは、面白ーい。せめて妹だとか、まともな言い訳は出てこないわけ?」


男「そうじゃない!」

女「何? なんでこのタイミングで部屋で寛いでるわけ? まさか押入れにでも隠れてたの? 本当、さっきの玄関でのやりとり、いいお笑い種ね」ガチャッ…

コタツ「あの、女さん! 本当に違いますからっ!」

女「そう、とにかく帰るから。どうぞコタツさんとぬくぬくしてたら!? さよならっ!」バタンッ!



119 :名無しさん :2014/03/29(土)16:03:30 ID:Ng8NTzdDC


oh.,




120 :名無しさん :2014/03/29(土)16:04:36 ID:Yl2TMfP43


…スタスタスタ
カン、カン、カン…


女「………」グスッ

女(何よ…それ…)

女(彼女いるなんて聞いてなかった)

女(……本当にそうかは解らないけど、でも──)


──バッ!

女「きゃっ…!?」

タタタタタッ…


女(びっくりした…何、今の人…?)

女(もうこんなに暖かいのに、ニット帽なんか被って)

女(男さんのアパートの裏から出て来たけど、すごく慌ててた──)



121 :名無しさん :2014/03/29(土)16:06:09 ID:Yl2TMfP43


………



男「………」

コタツ「……ごめんなさい」


男「………」

コタツ「あの…家具形態になる時は、四つん這いじゃないとひっくり返った状態になってしまうからっ」


男「………」

コタツ「それで、咄嗟には変われなくて…その……ごめんなさい…」グスッ


男「お前のせいじゃないよ…俺が油断してたんだ」

コタツ「でもっ…」

男「告白みたいなシーン、お前に見られたと思ったから…こっ恥ずかしくて話し掛けちまった。そうじゃなきゃお前は家具のままだったろ」

コタツ「……うぅ…」



122 :名無しさん :2014/03/29(土)16:06:27 ID:Yl2TMfP43


男「何とか誤解を解くよ……ただ、何て説明していいか…」

コタツ「だったら早い方がいいです! もし今連れ戻してくれたら、目の前で家具の姿になってみせますから…!」

男「……そうか。素直に戻ってくれるかは解らないけど、それが一番いいのかもしれないな…」

コタツ「そうですよ! だから、追いかけて下さいっ!」


男「……でも」

コタツ「どうしたんですか! 早くっ!」

男「女さんにお前の正体を見せて、その後はどうなる」



124 :名無しさん :2014/03/29(土)16:06:43 ID:Yl2TMfP43


コタツ「どうなる…って…」

男「女さんは良い人だけど…もしお前の噂が広まったら…」

コタツ「その時は私、家具のままになりますから! 誰が見に来たって二度と人型にならなければ、すぐに噂なんか消えますよ!」


男「そんな、お前が二度と人型になれなくなるなんて」

コタツ「私は家具ですっ! 電化製品ですっ!」


男「もう、そうとは思えないよ! どこの世界にこんなに一緒にいて楽しい電化製品がいるんだよ!」

コタツ「!!」



125 :名無しさん :2014/03/29(土)16:06:46 ID:bnrtqt3aO


辛い



126 :名無しさん :2014/03/29(土)16:08:04 ID:Ng8NTzdDC


やめてくれえ




127 :名無しさん :2014/03/29(土)16:08:29 ID:Yl2TMfP43


男「ゲームが好きで、映画で泣いて、夜更かしばっかして、生意気な口叩いて…!」

コタツ「男さん…」

男「家具の姿よりずっと不便で! でも、俺は…!」

コタツ「………」ポロッ


男「俺は…そんな売れ残りの安物コタツを……気に入ってるんだよ…」

コタツ「……っ…」ボロボロッ



128 :名無しさん :2014/03/29(土)16:09:29 ID:Yl2TMfP43


コタツ「…ありがとう、男さん」

男「………」


コタツ「でもね…私は電化製品なんです。電化製品は持ち主に豊かで幸せな暮らしをしてもらうためにあるんです」

男「…お前は充分、俺を幸せにしてくれてるよ」

コタツ「でも、家具なんです」

男「………」


コタツ「家具にできるのは、持ち主の幸せな『暮らし』を叶える事。でも女さんは、貴方の人生そのものに幸せを与えてくれるはずなんです」

男「………」

コタツ「だから、行って下さい」



129 :名無しさん :2014/03/29(土)16:09:58 ID:Yl2TMfP43


男「俺は…」

コタツ「大丈夫、女さんはきっと私の事を言いふらしたりしません。そんな人とは思えませんでした、違いますか…?」

男「………」


コタツ「男さん」

男「…解った、行ってくる」


コタツ「はいっ」ニコッ



130 :名無しさん :2014/03/29(土)16:10:44 ID:bnrtqt3aO


コタツちゃん(´;ω;`)



135 :名無しさん :2014/03/29(土)16:44:01 ID:hmbYEN8hT


期待



136 :名無しさん :2014/03/29(土)18:11:25 ID:43rCuhclr


ハッピーエンドで終わるよね
いやハッピーエンドにしてあげて下さい!




138 :名無しさん :2014/03/29(土)22:23:51 ID:oBWUSsnVZ


………



カン、カン、カンッ…!
タタタッ…!


大家「あら、男くん今からお出かけ?」

男「大家さん! さっき、俺の部屋から出てきた女の人…どっちに行ったか知りませんか!?」

大家「ええ…? いや、私もさっき出てきたばかりだからねぇ…」

男「そうですか…」


男(…女さんはバスで帰る。素直にバス停に向かうなら、こっちだ)

男(くそっ…解らないけど…可能性の濃い方に賭けるしか──)



139 :名無しさん :2014/03/29(土)22:24:16 ID:oBWUSsnVZ


………



コタツ「ごめんなさい…男さん」


コタツ(……自分が原因で持ち主が困るなんて)

コタツ(家電製品失格ですよね…)


コタツ(本当は二手に別れて女さんを探せたらいいのに)

コタツ(…それさえもできない)


コタツ「……?」


コタツ(なんだろう…アパートの裏が、明るい──)



140 :名無しさん :2014/03/29(土)22:24:45 ID:oBWUSsnVZ


………



女「………」トボトボ

女(…追いかけて来る気がして、わざと別の方向に来ちゃった)

女(こっちからだと、バス停より駅に行った方が早いかな…)


『…女さんだから、心配したんだ』


女(…どの口が言ったのよ)

女(でも…もしあの娘が本当に良い仲で、部屋の中かどこかに隠れてたんだとしたら)

女(そして私がいない…隙あらば出てくるように決めてたとしたら)


『──やっぱりついていこうか?』


女(…あんな事、言わない気がする)



141 :名無しさん :2014/03/29(土)22:25:20 ID:oBWUSsnVZ


女(コタツだとか変な言い訳してたけど、本当は親戚の娘だったりするのかも…?)

女(…希望的観測かな)


女(でも私、あの時カッとなって…まともに説明する間も与えなかった)

女(もし本当に勘違いだったら?)

女(今引き返して話を聞けば、ごめんなさいで済む話だったら…?)


…ピタッ


女(だけど…やっぱり私が先走って、それをからかわれてただけだったら…)

女「………」ギュッ…


『──本当、さっきの玄関でのやりとり、いいお笑い種ね』

『どうぞコタツさんとぬくぬくしてたら!? さよならっ!』


女(…だめだよ、やっぱり今日はもう顔なんか──)



142 :名無しさん :2014/03/29(土)22:25:57 ID:oBWUSsnVZ


──ウウウウウゥゥゥゥ…カンカン…


女(…なんだろ、消防車?)

女(そういえばこの前、空き巣や放火があったとか言ってたなぁ…)


女(……あれ?)ハッ


女(さっきの…アパートから走って出てきた人、本当に何してたんだろう…?)

女(……まさか…まさか、ね)

女「………」…クルッ


女(万一って考えたら、心配だから)

女(そう…仕方がないんだよ。これで男くんにもしもの事があったら、後味悪すぎるもん)

女(別に、仲直りしたいわけじゃないけど──)



143 :名無しさん :2014/03/29(土)22:26:49 ID:oBWUSsnVZ


………



女(ええっと…確か、ここを左だったよね)

女(やだ…またサイレン、近くなってる)

女(ここを曲がれば、アパートが見えるはず──)


「──ショウボウシャ ハ マダコナイノカ!」

「コノアタリ ミチガセマイカラ…」

「コノママジャ ゼンショウ スルゾッ!」


女「嘘…! 本当にアパートが燃えてる…!?」ダッ…

女(…嫌だ…! 男くん…逃げてるよね…!?)



144 :名無しさん :2014/03/29(土)22:27:22 ID:oBWUSsnVZ


大家「建物の裏は枯れ草が多かったからねぇ…」

近所の人「さっきからサイレンの音がするだけじゃないか…なんて事だ」


女「あのっ…! 中に人はっ!?」ハアハア…

大家「知り合いが入居してたのかい? 大丈夫、一階の人はみんな気付いて出てきてるし、二階の人もさっき出掛けてるのを見たから…」

女「二階の人って、『男』って人ですか…!?」


大家「あら、貴女…男くんの知り合いなの? そうよ、彼がさっき出掛けるのを見たの」

女「ああ…良かった……」ホッ…



145 :名無しさん :2014/03/29(土)22:27:22 ID:wLkt9TquJ


コタツううう!




146 :名無しさん :2014/03/29(土)22:28:23 ID:oBWUSsnVZ


大家「そういえば出掛ける時、誰か女の人を探してるって言ってたわ」

女「!!」

大家「もしかして貴女の事だったのかしらね…」


女「あの、その時…男くんは一人だったんですか…?」

大家「そうよ?」

女「まさか…その後、男くん部屋からは誰か出てきましたか?」


大家「いいえ…? あの子、独り暮らしでしょう」


女(……じゃあ、もしかして…!)

大家「…どうしたんだい?」


女「…中に、人がいるかもしれない──!」



147 :名無しさん :2014/03/29(土)22:29:01 ID:oBWUSsnVZ


大家「どういう事なの…!? 男くんの部屋に誰かいるってのかい!?」

女「解らないけど…さっきまではいたんです!」

近所の人「なんてこった、まだ二階の火の手は弱いが…しかし…!」


女「………」グッ


大家「消防はまだ来ないの!?」

近所の人「今、遠くからホースを繋ごうとしてるみたいだ、もう少しかかるだろうな…くそっ」

女(……怖い…けど──!)


ダッ…!


大家「ちょっと!? あんた…!」

近所の人「無茶だ! 戻れ…!」


女(──男くんの悲しい顔なんか…見たくないっ!)



148 :名無しさん :2014/03/29(土)22:29:31 ID:oBWUSsnVZ


………



男「はぁ…」トボトボ…

男(結局、バス停まで行っても見つけられなかったな…)


男(さっきから消防車のサイレンが煩いな…また放火でもあったのか)

男(そういえば、なんかあっちの空が明るいような)


男「あれ…?」

男(携帯…着信があったのか、気付かなかった)

男(大家さん…珍しいな。こんなに何回もどうしたんだ?)


男「……まさかな」

男(でも、なんか胸騒ぎがするような──)



149 :名無しさん :2014/03/29(土)22:30:06 ID:oBWUSsnVZ


………



女(──確かに、二階はまだ火が弱い…これなら…!)

女(この部屋…だったよね)


…ドンドンッ!

女「いるのっ!? 返事してっ!」


女(いないのかな……まだこの火の勢いなら、逃げられるはずだもんね…)

女(でも、煙に巻かれてたりしたら…)


…ガチャッ

女(カギ…あいてる…! まさか、やっぱり中に──)



150 :名無しさん :2014/03/29(土)22:30:25 ID:KRAUtTyMo


バッドエンドは勘弁




151 :名無しさん :2014/03/29(土)22:30:36 ID:oBWUSsnVZ


女(…うっ…煙が……でも、まだこれくらいなら)

女「げほっ…誰かいるのっ!?」


コタツ「…女さん…! どうしてっ!?」

女「やっぱり…! 『どうして』はこっちの台詞よっ!」ゲホゲホ

コタツ「だめっ! 入ってきたら煙が…!」

女「ならどうして貴女は逃げないのっ! もういい、入るっ!」


コタツ「だめって言ったのに…!」

女「いいから! 早く出るわよ!」ガシッ



152 :名無しさん :2014/03/29(土)22:31:11 ID:oBWUSsnVZ


コタツ「あの…それが、コンセントが…!」

女「コンセント…?」


コタツ「私は本当にコタツだから…自分でコンセントを抜く事はできないんです…」

女「何をふざけた事……」ハッ


女(この娘のスカート…こたつ布団と同じ模様……その下から、スイッチのついたコード…?)

コタツ「それに…コンセントを抜くと──」

女「意味解んないけど…コンセント抜いて逃げるしかないでしょ!」

コタツ「でも…!」

女「いいからっ! 抜くわよ!」


──プスッ!



153 :名無しさん :2014/03/29(土)22:31:43 ID:oBWUSsnVZ


女「ほら、これでいいんで…しょ……」

女「……えっ…?」


女(…いない……コードの先にはひっくり返ったコタツ…?)

女(まさか…本当に…)


──バリィンッ!ゴオォッ…

女「!!」


女(いけない…! 窓が割れて火が──)



154 :名無しさん :2014/03/29(土)22:31:49 ID:wLkt9TquJ


これはあかん




155 :名無しさん :2014/03/29(土)22:32:24 ID:oBWUSsnVZ


……………
………



男「嘘だろ…おい…」

男「二階まで火の海って…それを今、消火中って…!」


男「嘘だろっ! あいつは自分でコンセント抜けないんだぞっ…!」

大家「あっ…! 男くん!?」


男「くそっ…!」ダッ…!

大家「男くん!? 何を…やめなさいっ!」

近所の人「ばかもん! 死ぬつもりかっ!」ガバッ!


男「離してくれっ! コタツが…!」

大家「コタツって、何を言ってるの!」

男「くそぉっ! 離せよっ…!」



156 :名無しさん :2014/03/29(土)22:33:32 ID:oBWUSsnVZ


女「──男くんっ!」

男「女さん…!?」


女「あの、私…大丈夫なんだけど一応、救急車に乗らなきゃいけないみたいだから…」

男「ごめん! 後にしてくれ…! まだ部屋にコタツがっ!」

女「あ、なんかそれムカつく」イラッ


男「そんな事言ってる場合じゃ…!」

女「ふーん…結局、救急車に乗る私よりそこに置いといたコタツさんの方が大事なんだ」

男「そんなの比べてるわけ…じゃ……そこに置いてる?」


女「あーあ、私がどれだけ危ない目にあってまでコタツさんを助けに行ったと思ってんのよ?」

男「助けた…女さんが…? じゃあ…」


女「消防士さんが間に合わなかったら死んでたんだからねっ、私も──」

男「女さん…!」

女「──そこの塀のところにある『彼女』も」



157 :名無しさん :2014/03/29(土)22:33:57 ID:oBWUSsnVZ


……………
………


…二週間後


女「前の部屋よりは綺麗だね」


男「でも隣の部屋の音、すっごい聞こえるんだ…やっぱ月極めアパートなんてそんなもんなのかな」

女「贅沢言わないの、次の部屋が見つかるまででしょ?」

男「まあね…」


女「しかし部屋の中、備え付けの物以外は空っぽだねー」

男「持ち物ほとんど燃えちゃったからな」

女「何にも無い部屋の真ん中に…」

男「ぽつーんとコタツ、なんか変な感じ」



158 :名無しさん :2014/03/29(土)22:34:27 ID:oBWUSsnVZ


女「あれから、コタツさんは?」

男「……まだ、何にも」

女「そっか」


男「でも、きっとその内またヒョコッと出てくると思うんだ」

女「本当…そうだったらいいね」

男「大丈夫だよ」

女「…うん」



159 :名無しさん :2014/03/29(土)22:34:47 ID:oBWUSsnVZ


男「女さん、本当に何度も言うけどさ…」

女「もう『ありがとう』は充分聞きましたー」

男「…ありがとう」


女「天板だけ、変わっちゃったね」

男「でもサイズはピッタリだよ」

女「ふふっ…オトコの人の部屋にしては、薄ピンクでちょっと可愛いけど」

男「うん」

女「気に入ってくれるよ、きっと」



160 :名無しさん :2014/03/29(土)22:35:16 ID:oBWUSsnVZ


男「…女さんがコンセントを抜いた瞬間、あいつは消えたんだよな」

女「そうだったよ?」


男「つまりたぶん、電源が入ってなきゃ人型にはなれなかったんだろうと思うんだ」

女「うーん…」

男「外出に興味が無いのは本当かもしれないけど、コンセントを抜くのを嫌がったのはそのせいもあるんじゃないかな」


女「でも、今はコンセント刺してるんだよね…」

男「そうだけど、きっと充電中なんだよ」

女「充電式のコタツかぁ」


男「俺さ…コタツに待機電力があるのかは知らないけど、前の冬は一人暮らし始めたばっかでマメにコンセント抜いてたんだ」

女「…この冬は?」

男「横着してずっと刺しっぱなし。だからアイツ、姿を現せたんじゃないかな──」



161 :名無しさん :2014/03/29(土)22:35:36 ID:oBWUSsnVZ





《──バレましたか、やりますね》






162 :名無しさん :2014/03/29(土)22:36:12 ID:oBWUSsnVZ


男「!?」

女「男くん…今の聞こえた…?」


《まだ姿は変えられないけど、一週間経ってようやく声だけ伝えられるようになりましたよー》


男「コタツなのか…!?」

《それ以外だったらこの月極めアパートはお化け屋敷ですね》

女「似たようなものじゃないかな…」

《あっ、女さんひどいです》



163 :名無しさん :2014/03/29(土)22:36:36 ID:oBWUSsnVZ


男「ははっ…まじか、お前…また出てくるのか!」


《まだもう少しかかりますけど、また役立たず形態になりますよー》


男「……はあ…安心したら、なんか気が抜けたよ」

女「良かった…良かったね…!」

男「うん……さっきは当てずっぽうで言ってたけど、本当はもう無理なんじゃないかと思ってた」


《あらあら…女さんがいるのに、そんなに私に会いたかったんですか? 女さん、男さんは私に首ったけかもです》

女「家電に負ける気はありませーん」



164 :名無しさん :2014/03/29(土)22:37:00 ID:oBWUSsnVZ


《あははっ…冗談です、私は家具ですから》

男「持ち主の生活を豊かにする事が幸せだ…って?」

《そういう事です。ちょっと小さめだけど、二人で使って下さいね?》


男「じゃあ、お前がまた姿を現すまでに買っといてやるよ」

《……何をです?》

女「なるほど、三本目だね?」

男「正解、今度は三人でパーティーゲームするからな──」


《──はいっ!》





【おしまい】



165 :名無しさん :2014/03/29(土)22:38:03 ID:RhtZh63PT


乙!



167 :名無しさん :2014/03/29(土)22:44:23 ID:0Y1Ad4cUB


乙!
ハッピーエンド無茶苦茶良かった!!
コタツも女も不幸にならなくて良かった



168 :名無しさん :2014/03/29(土)22:46:52 ID:bnrtqt3aO


乙!
コタツが息を吹き返して良かった



170 :名無しさん :2014/03/29(土)22:49:36 ID:K23q1EklX


よかったよ



171 :名無しさん :2014/03/29(土)22:58:09 ID:7jN0hbRip


良SS記念age



172 :名無しさん :2014/03/29(土)23:18:35 ID:ZvCpVC373


>>1乙



.
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テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

  1. 2014/03/31(月) 09:17:36|
  2. 擬人化SS
  3. | コメント:4

戦友達の屍を越えて(原題/俺「生存率1億分の1以下…か」)



1 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/26(水) 12:29:11 ID:qQ8jI7Nw


俺「いずれ来るんだろうな」

友「ああ…最近、かなりサイクルが早いみたいだ」


俺「その時が来て欲しいような、まだ先でいいような」

友「ま、オレ達がどうこうできるハナシじゃないさ」

俺「…そうだな」



2 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/26(水) 12:29:57 ID:qQ8jI7Nw


モブA「おい、オレ達の小隊に集合命令が出てるぞ」

友「!!」

俺「まじかよ…今、話してたばかりだぜ」


モブB「オレ…やだよ、だって全滅が当たり前だって言うじゃねえか」

友「……そりゃ、オレだって怖いさ」

俺「でも、ここにこのままいたって一緒だ」



3 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/26(水) 12:30:38 ID:qQ8jI7Nw


モブA「そうだ…今はまだ若い精子、でもすぐに劣化していって……」

友「その内、老廃物……オレはその方が御免だ」

俺「友……」


友「俺、オレは征くぞ。なに…どんなに狭き門だろうと、挑まなければ通れるわけがないんだ!」

モブA「友…その通りだ」

モブB「ごめん…オレ、覚悟するよ! お前達と同期でよかった!」


俺「よし──」

友「俺…?」


俺「──征こう、オレ達の死に場所へ」



4 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/26(水) 12:31:52 ID:qQ8jI7Nw


小隊長「総員! 整列っ!」


ビシィッ!


小隊長「…ご苦労、諸君。尻尾を休めて聞きたまえ」

男(いつもと雰囲気が違うな…普段なら『休め』なんて言わない)


小隊長「訓練の定時ではないこの時間に集合を呼びかけた…その時点で皆、察してはおろう」

小隊長「…つい先刻、前立腺(ジェネレーター)が初期拍動の兆候を見せたとの報告があった」



5 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/26(水) 12:32:53 ID:qQ8jI7Nw


隊員「おお…遂に…!」

ザワザワ…ザワザワ…


小隊長「騒ぐな! …なに、知らなかったわけではあるまい」

小隊長「何しろ、ここ最近の出撃サイクルは非常に早い」

小隊長「それは言うまでも無く、我々の主たる『男』が二十数年の童貞生活に終止符を打ったからだ」


モブC「お言葉ですが小隊長殿! 我が主『男』は以前より右手の活用に余念はありませんでした!」

ドッ!アハハハハ…
…ソウダ、ソウダ!ミギテハトモダチー!



6 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/26(水) 12:34:12 ID:qQ8jI7Nw


小隊長「…静まれ! ……だが、この期に及んでなお、下らん野次を飛ばせる貴様らを頼もしく思う」


小隊長「状況は以前とは違う」

小隊長「主たる『男』は現在、恐るべき頻度で恋仲であり脱童貞の相手でもある『幼馴染』との性交渉を行っておる」

小隊長「右手による演習訓練とはわけが違うのだ……解ろうな?」


俺(つまり、本当に卵子に突入できるチャンスもあるって事だ)

俺(……オレ達は無駄死にすると決まったわけじゃない)



7 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/26(水) 12:35:30 ID:qQ8jI7Nw


小隊長「その出撃サイクルの早さ故に、貴様らに充分な訓練を受けさせたとは言えん」

小隊長「正直、もっと…貴様らをしごきヌキたかった──」


ザワザワ…ショウタイチョー
…ナイテル…?


小隊長「──騒ぐなっ!」

小隊長「例え訓練が不足していようとも…! 貴様らがいかに若きヒヨッコであろうとも…!」

小隊長「貴様らはワシが誇る精鋭、一騎当千の兵と信じる!」


俺(小隊長…)ウルッ



8 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/26(水) 12:36:23 ID:qQ8jI7Nw


伝令兵「報告いたします! 前立腺の大規模拍動を確認! 間もなく分泌液が押し寄せますっ!」


小隊長「すでにこの竿(ふね)は作戦区域(膣内)に突入しているっ! 端部潤滑液(カウパーリキッド)の分泌量も上々だ!」


ドパッ!ザアアアアァァァッ!
ゴゴゴゴゴゴ…!


俺(あれがオレ達が乗る分泌液…! これだけ頻繁に排出しておいて、なんて量だ…!)


小隊長「挑むは…戦うは、まさに今ぞ! 奮え、勇士よ! 総員、出撃体勢っ!」

隊員「おおおおおおぉぉぉぉぉっ!!!!」



俺(いいだろう…分泌液は今、俺を飲み込み──)



俺(──精液に変わる──!)



9 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/26(水) 12:37:04 ID:qQ8jI7Nw


──発射10秒前

波動砲充填20%──


俺「くっ…他の小隊よりも前に出なければっ!」

友「俺っ! こっちだ!」

俺「友…! どこだ、友っ!?」


ライバル「はっ! モタついてんじゃねえよ!」

俺「ライバル…! お前の小隊も出撃していたとはなっ!」

ライバル「俺よ、悪いが貴様が受精する事は無いぜ」

俺「ぬかせっ…!」



10 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/26(水) 12:38:06 ID:qQ8jI7Nw


──発射8秒前

波動砲充填50%──


俺「くそ…完全に友とはぐれちまった…!」

俺(かなり前にはきたが…)

俺(ライバルの姿も見えない…あいつの実力なら、先頭に近いところにいるはずだ──)


………



兄『──なあ、俺…重荷を背負わせて悪いが、いつか出撃したら…オレの分まで戦ってくれよな』

俺『な、何を言ってんだよ。…兄貴だって戦うために生まれてきたんだろ』

兄『ははっ…知ってるだろ? 産出される精子の数パーセントは不良品だ』

俺『兄貴…』


兄『不良品の精子は受精しても、うまく分裂できない……それを避けるために、早く死ぬ運命だ』

俺『兄貴は不良品なんかじゃ…!』

兄『いいんだよ、俺…。もう尻尾の先は老廃物化しようとさえしてる…自分の事は自分で解るさ──』



11 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/26(水) 12:39:05 ID:qQ8jI7Nw


──発射6秒前

波動砲充填70%──


俺(オレは…)

俺「負けるわけには、いかないんだ…!」ピチピチッ!

ライバル「くっ…こいつ! 食らいついて来やがるっ…!」


モブD「周囲の温度が変わってきたぞ!」

モブE「発射口に近いんだ…いよいよか」


俺(確かに、周りの壁が軟質化してきてる)

俺(おそらく亀頭部に達してるんだ…)

俺(あとは尿道との合流弁がいつ動作するか…!)



12 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/26(水) 12:40:55 ID:qQ8jI7Nw


──発射4秒前

波動砲充填90%──


俺(しまった…周りの密度が高すぎる…!)

俺(波動砲は最大で120%まで加圧される…このままじゃ、潰されちまう!)

俺(どこか隙間は…!?)キョロキョロ


俺(…あった! あそこへ逃げ込めば…!)ピチピチッ


ライバル「甘えんだよっ!」ババッ!

俺「ライバルッ! 貴様…!」

俺(くそ…先を越されるなんてっ!)

俺(でも、ライバルが悪いわけじゃない…みんな生き残るのに必死なんだ)


…ギュウウウウゥゥゥッ!


俺(く…そ……意識…が…)

俺(ここ…までか──)



13 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/26(水) 12:41:59 ID:qQ8jI7Nw


──発射2秒前

波動砲充填100%──


友「──俺っ!」ドンッ!

俺「うわっ…!?」ピチッ


俺(何が起こった…!? 幾分隙間があるところへ押し出されたが…)


──ハッ!


俺「……友っ!?」

友「くっ……」


ギュウウウゥゥゥゥッ!


俺(馬鹿な! 友が俺のいたところに…!)

友「……生きろ…俺…」

俺「友っ! 今行く…! くそっ、よけてくれっ! 友ぉっ!」ピチピチピチッ



14 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/26(水) 12:42:52 ID:qQ8jI7Nw


──発射1秒前

波動砲充填120%──


友「うわああああぁぁぁぁぁっ!!!」

モブ多数「ぎゃあああっ! つ…潰れるうううぅぅっ!!!」


──プチッ
プチプチプチッ!


──波動砲充填限界

生存者ハ耐衝撃体勢ヲトレ

繰返ス、生存者ハ──


俺「友おおおおおぉぉぉぉっ!!!!」


──波動砲

発   射   !!!



15 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/26(水) 12:44:03 ID:qQ8jI7Nw


……………
………



俺(……ここは…どこだ)

俺(暖かい…まるで母の胎内のようだ)

俺(俺は…死んだのか…?)

俺(…友は……?)


俺「友…? ……友っ!?」パチッ


俺「………いない…」


俺「そうだ…ここは、膣内…俺は…友の、兄貴のためにも」

俺「ここで倒れるわけにはいかないんだっ!!!」



16 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/26(水) 12:44:42 ID:qQ8jI7Nw


モブF「ぎゃあああぁぁぁっ! なんだ…こいつらはああぁぁっ!?」


俺「!?」


モブF「うわあああぁぁぁぁ……! たす…け…て……」ジュウウウウゥゥゥゥ…

俺「なっ…!? 体が溶けて…!」


ライバル「ボーッとするな!  そいつに触れたら死ぬぞ!」

俺「ライバル! 生きていたのか!」

ライバル「くそっ…どうやら、主…『男』はオレ達を見限ったようだぜ」

俺「どういう事だ…?」

ライバル「お前にはアレが見えないのか」


俺「……!!」



17 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/26(水) 12:45:21 ID:qQ8jI7Nw


俺(何だ…あの壁はっ!)

俺(全方位を囲んで…オレ達の進撃を阻んでいる…!)


ライバル「聞いた事くらいはあるだろう…あれが『絶対防御壁(ゴム)』だ。…オレも見るのは初めてだがな」

俺「あれが…ゴム…」


モブG「ぎゃああああぁぁぁっ!」ジュウウウウゥゥゥッ


ライバル「そしてあのオレ達を溶かす物体は、ゴムに塗布された殺精子ゼリー!触れたら終わりだぞっ!」ピチピチッ


俺(何て事だ…! でも、それじゃいくら逃げても…!)

俺(くそっ! 『男』はただ快楽のためにオレ達を利用したってのか…)


俺(受精させる気も…!)

俺「……戦う事を許す気も無いってのかよぉっ!」



18 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/26(水) 12:46:14 ID:qQ8jI7Nw


──フワリ…


俺(…風? こんな閉ざされた空間で、どこから)

俺(でも間違いない、どこかから吹いてくる)

俺(風が吹くなら…どこかに出口があるはずだ…!)ピチピチッ


ライバル(アイツも気付いたようだな…)ピチピチッ


俺(どこだっ!? どこに出口が…!?)


──ヒュウウゥゥッ


俺「!!」

俺(あった…! 円形の穴が空いてる…!)


ライバル「ハハッ…! どうやら『男』がオレ達を見限っても『女神』は見捨てなかったようだな!」

俺「女神…?」

ライバル「あれは人為的に空けられた『針穴(トラップホール)』だよ…! 『幼馴染』の仕業だろうな!」



19 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/26(水) 12:47:09 ID:qQ8jI7Nw


俺「くそっ…しかし殺精子ゼリーの布陣が濃い…これじゃあ近づけない!」

ライバル「チッ…情けねえ、ついて来い!」ピチピチッ

俺「なっ…よせ! ライバル! 死ぬ気かっ!」ピチピチッ


ライバル「殺精子ゼリー、心も持たぬ無機物の兵士よ…! 道を──」

俺「ライバルーーーッ!」

ライバル「──開けろおおおぉぉぉっ!!!」


グチャアッ!
バキッ!ドロッ!ジュウウウウゥゥゥ…



20 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/26(水) 12:48:04 ID:qQ8jI7Nw


ライバル「…早く…行けっ……このウスノロ…め…」ジュウウウゥゥ…


俺「なぜ…なぜだっ! ライバル!」

ライバル「ふんっ…勘違いする…な……オレは…さっき一度、ゼリーに触れて…いたんだ…」ジュウウウゥゥ…ブスンッ…ブスッ

俺「…そんな……」


ライバル「尻尾が…焼け落ちる前に…ここをクリアにでき…て…良かった…ぜ…」ボロッ…ボロボロッ…

俺「ライバルッ! 崩れ落ちて…!」


ライバル「さあ…早く……行けっ! オレの死を無駄にしないでくれ…! イクんだ…俺……頼…む──」サアアアァァァ…


俺「ライバルーーーッ!!!」



21 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/26(水) 12:48:38 ID:qQ8jI7Nw


俺「ライバル……」

俺「友……兄貴……」

俺「みんな……」


俺「オレは…必ず、受精してみせるっ!!!」

俺「例え主の意思がどうであろうとも……!」

俺「避妊なんか…許さないっ!」


俺「待ってろ…卵子…!」


──みんな、俺を


俺「うおおおおおぉぉぉぉっ!!!!」ピチピチッ


見守ってくれ──



22 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/26(水) 12:49:14 ID:qQ8jI7Nw


──この日の戦いは後に『壁越えの聖戦』と呼ばれ、永く歴史に刻まれる事となる


戦死者1億1284万8635名

任務達成者1名


後年明らかとなった破られし壁は『超うす12個入(小さめ用)』だった


無論、穴は人為的に穿けられたものであり、決して商品の質に問題は無い──



23 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/26(水) 12:49:46 ID:qQ8jI7Nw


──三ヵ月後


幼馴染「責任とってよね」

男「あい」



【End】



25 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/03/26(水) 12:59:31 ID:M1h4LZA6


静かな場所で読むんじゃなかった…



26 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/03/26(水) 13:26:29 ID:mZj4gA0o


>小さめ用
あっ…(察し)



27 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/03/26(水) 13:52:01 ID:IWYd.zDs


ウディ・アレンかなwwwwwwwwwww
Everything You Always Wanted to Know About Sex

これ読んでひっさびさに動画見てきたわwwwwwwwwww



31 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/03/26(水) 15:28:53 ID:PsLekaVk


感動した



.

テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

  1. 2014/03/26(水) 15:50:18|
  2. 擬人化SS
  3. | コメント:4

心の花が咲くところ(原題/男「俺は壁と話してるらしいな」少女「………」)



1 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/15(土) 18:22:34 ID:PeHUh3io


………



男「……あと、どの位ですか」

白衣「もうすぐだよ」

男「随分、山奥なんですね」

白衣「………」


男「前いた施設より、環境が良くなるって聞いてるんですけど」

白衣「…自然豊かで、いい所じゃないか」

男「どうせ部屋から出られる訳じゃないんでしょう」

白衣「外の空気を吸う位はできるさ、それに自然というのは眺めるだけでも癒しのあるものだよ」

男「そんなの、人によりますよ」


白衣「…着いたね。少し揺れる、気をつけたまえ」



2 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/15(土) 18:23:19 ID:PeHUh3io


………



男(随分厳重な事だな…。何人も入りそうな大きな守衛室、高い壁…)


白衣「待たせてすまない、入ろうか」

男「入りたいわけじゃないんですけどね」

白衣「……悪いが」

男「解ってますよ、決まった事…なんでしょう」


白衣「君のためだよ」

男「それで結構です」



3 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/15(土) 18:23:52 ID:PeHUh3io


白衣「あれが、君の入る棟だ」


男「……冗談でしょう?」

白衣「意外かもしれないが、本当の事だよ」


男(嘘だろ……あんな厳重な壁に囲まれた中に)

男(造りは新しい、小綺麗ではあるけど)

男(外から見るに、よくある平屋のLDK……賃貸住宅じゃないか)


白衣「少なくとも狭い独房のようだった前の施設よりはマシじゃないかね?」

男「……狭くとも、どうせ一人だったから関係ありませんでしたけど」



4 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/15(土) 18:24:46 ID:PeHUh3io


白衣「今度の施設にはモニターやTVゲーム機、簡素だが音響設備などもある。前ほど退屈じゃないはずだ」

男「テレビ…じゃなく、モニターですか」

白衣「まあ、そういう事だね」

男(映画ソフトなんかは貸し出されるかもしれないが、外界の情報は得られない…か)


男「このたった一軒の平屋のために、あんな厳重な外壁や見張り小屋を?」

白衣「ここからは見えないが、同じように壁に仕切られた施設は碁盤の目状に幾つもあるよ」

男「でも壁に相互に行き来できるドアはありませんね」

白衣「すまないが、それは禁ずる事になる」


男(……結局、また一人か)



5 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/15(土) 18:25:29 ID:PeHUh3io


…ガチャッ


白衣「入ってくれ」

男(玄関の土間、廊下…おそらく奥の引き戸は脱衣所と風呂場。本当に普通の住宅じゃないか)


白衣「このドアの向こうがリビングだ。ただ、そこへ入る前に幾つか言っておく事がある」

男「…どうぞ」

白衣「まず、申し訳ないがこの建物はトイレと風呂場を除き、あらゆる角度からモニターで監視されている」

男「プライバシーもへったくれも無いですね」


白衣「更にその例外のトイレと風呂場も、サーモグラフィでは監視されているのでそのつもりで」

男「裸だけは見られないようになってる…と」

白衣「そうだ。更に君達が室内にいる時は、玄関の前に係員を配置している。室外に出る際には守衛室まで引っ込む事も可能だがね」


男「君『達』…?」



6 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/15(土) 18:26:31 ID:PeHUh3io


白衣「…このリビングの中にはこれから生活を共にしてもらうパートナーがいる。まずは会う前に以上の事を知っておいて欲しかった」

男「パートナーって、そんなの聞いてない」

白衣「心配は要らない、歳も近いしすぐに慣れるだろう。…では、入ろうか」

男「え、ちょっと待って…!」


…ガチャッ


男(どうせ俺と同じで訳ありなんだろ、そんなのと相部屋なんて何があるか解ったもんじゃ──)

白衣「どうした? 入りたまえ」

男「……くそっ」



7 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/15(土) 18:27:05 ID:PeHUh3io


…パタン


白衣「やあ、連れてきたよ。君のパートナーだ」

男(……えっ…!?)


少女「………」


男(女の子…!? 嘘だろ…!)

白衣「おや、どちらも名乗らないのか」



8 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/15(土) 18:27:44 ID:PeHUh3io


少女「…男の人だなんて…聞いてない…です」

白衣「そうだね、言っていない」


男「ちょっと待ってくれ、そりゃこの娘だって抵抗を覚えて当たり前でしょう。こんなの大問題だ」

白衣「問題となるかは、君達次第だよ。特に男性である君の方が、そのウエイトは大きいかもしれないね」


男「…常識外れです。こんな事、許されるものじゃない」

白衣「悪いが、この処置の許可は下りている。許されているんだよ」

男「そんなバカな…」



9 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/15(土) 18:28:22 ID:PeHUh3io


男(それから白衣の人は更に幾つかの注意事項を説明し、ここを後にした)


男(建物からは出ても良い、ただし出る前と戻った後はインターホンで連絡をする事)

男(食事は基本的には定時に差し入れられるが、希望があれば食材を貰い自分で調理する事も許される)


男(一日のタイムスケジュールはかなり自由だが、多少は強制的な指示があるらしい)

男(ただそれも健康維持のための運動命令であったり、歳相応の勉学の課題など…決して強制労働のような事ではない)


男(そして、この施設で過ごす期間に明確な設定は無い)

男(つまり俺は、そしてこの娘は互いに知らない異性と共に、終わりの見えない生活を送る…という事だ)



10 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/15(土) 18:29:06 ID:PeHUh3io


男「……変な事になったね」

少女「………」


男「名前は? …俺は男だ」

少女「………」


男「いくつだ? 見たところ15~17ってところか」

少女「………」


男「俺は今、18だ。…どこに住んでた?」

少女「………」


男「…俺は壁と話してるらしいな」

少女「………」



11 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/15(土) 18:29:47 ID:PeHUh3io


男「せめて名前だけでも答えないか? いろいろ困る事が──」

少女「…少女」ボソッ


男「………」

少女「………」

男(本当にそれだけかよ)


男(…参ったね、どうコミュニケーションをとればいいんだ)

男(まあ警戒するのは当たり前だろうけど)

男(恨むぜ…白衣の人)



12 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/15(土) 18:30:39 ID:PeHUh3io


男「……今日は移動で疲れた、悪いけど一眠りするよ」

少女「………」スッ


男「…どこへ行くつもりだ?」

少女「違う部屋」

男「違う部屋って…あとはダイニングしかないぞ」

少女「そこでいい…です」


男「あっちはフローリングで冷たいだろ」

少女「………」

男「……いいよ…俺がそっちに行く、君がこっちを使えよ」



13 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/15(土) 18:31:22 ID:PeHUh3io


…ダイニングルーム


男(……くっそ、すっげえ居心地が悪い)

男(結局モニターやゲーム機があるのはリビングの方だし……)

男(これならあの独房みたいな部屋の方がまだマシだ)


男(本当に床、冷てえし……こんなじゃぐっすりは……)

男(あ…だめだ、本当に疲れて…る──)



14 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/15(土) 18:32:23 ID:PeHUh3io


………



《──今日は男の好きなおかずだからね》


《あらー、テストよく出来てるじゃないの! お父さんにも見せてあげなきゃね!》


《大丈夫、お母さんはずっと男の味方よ》


《学校はどう? 楽しい? そう、お友達ができたの…よかったわねえ》


《男は優しいわねえ、きっといいお兄ちゃんになるわ…》


《ほら、赤ちゃん…男の弟よ。ふふ…可愛がってあげてね?》


《大丈夫、赤ちゃんがいたってお母さんは男のお母さんでもあるんだから、いつだって甘えたらいいのよ》



15 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/15(土) 18:33:33 ID:PeHUh3io


………



男「………」

男(…変な夢みちゃったな)


男(時間は……まだ15時か)

男(あの娘はどうしてるんだろう……でも部屋に行かない方がいいかな)


男(いっその事、あの娘に悪戯でもしてしまえば、隔離されるだろうか)

男(……いや、でもそんなのどういう形での隔離になるか解ったもんじゃない)

男(今度こそ鉄格子のついた部屋もありうる)


男(そのくらいなら、いっそ……)

男(…未成年には適用できないか)



16 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/15(土) 18:34:24 ID:PeHUh3io


プルルルル…プルルルル…


男(インターホン…? たしかリビングに…)

男(まあいいか、あの娘が出るだろ)

男(無口だけど、喋れないわけじゃないんだし)


ガチャッ…パタン…


少女「……起きてたんですね」

男「ああ、さっきね。……インターホン、何だった?」

少女「外に出るように…って」



17 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/15(土) 18:34:58 ID:PeHUh3io


………



白衣「どうだい、少しは仲良くなれたかね」

男「名前だけ、交換しましたよ」

少女「………」


白衣「外に来てもらったのは他でもない、建物の中の事はあらかた説明したが外の事を伝えていなかったからだ」

男「……はあ」


白衣「役割分担なども必要だろうから、少し二人にコミュニケーションをとる時間を用意したつもりだったが……」

男「そんなにすぐに仲良しこよしになるわけないでしょう」

白衣「まあ、君達の境遇を鑑みれば…そうだろうね」

男「いいから、説明なら早くして下さい」



18 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/15(土) 18:36:28 ID:PeHUh3io


白衣「まず、この壁に囲まれた範囲は自由に使っていい。スポーツをしようと、菜園をつくろうと構わない」

少女「………」

白衣「そうは言っても200坪もないが、野球やサッカーがしたいというのでなければ問題ないだろう?」


男「一人でどうやって野球やサッカーをやるんです」

白衣「一人…? 二人だろう、君達は」

男「二人でも無理ですよ」

白衣「キャッチボールくらいはできるんじゃないかね? 道具なら数日くれれば用意できる」

男「……しないと思いますけど」



19 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/15(土) 18:37:08 ID:PeHUh3io


白衣「まあいい、ただし自由にして良いかわりに管理するのも君達の仕事だ」

男「管理…ですか」

白衣「放っておいても草が生えるくらいの事だがね。目障りなら自分で処理してくれ、その道具も用意はできる」


少女「あの…」

白衣「…何だね?」

少女「菜園や花壇を作るなら、その材料や道具も…?」

白衣「ああ、確保された予算の中で収まる程度なら、準備しよう」



20 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/15(土) 18:37:39 ID:PeHUh3io


少女「…じゃあ、花壇を造りたいです」

白衣「解った、後で改めて職員を行かせるから必要なものをピックアップして伝えてくれ」

少女「………」コクン


白衣「君は? 何か望むものは無いかね」

男「………」

白衣「……では外まわりの設備だけ案内しておこう。水道と電源の位置を教えるくらいのものだが」



21 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/15(土) 18:38:14 ID:PeHUh3io


………



白衣「──以上だ。では部屋に入るなり運動をするなり、今日は好きに過ごしてくれ」


男「……あの」

白衣「何だね?」

男「やっぱり、俺も欲しいものが」

白衣「…聞こう」


男「花壇を造るために必要な道具を、俺の分も用意して下さい」


少女「………」

白衣「なるほど、それはいいな。用意しよう、少し時間をくれ」

男「はい」



22 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/15(土) 18:38:47 ID:PeHUh3io


………


…夕方


ガチャッ…


職員「おーい、食事だ。玄関まで取りにきてくれー」

男「あ、はい」


男(あの娘は…出て来ないな)

男「…どうも」

職員「食べ終わったら玄関の前にいる職員に返すようにね。トレイふたつとも持てるかい?」

男「はい」



23 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/15(土) 18:39:30 ID:PeHUh3io


男(とりあえずダイニングのテーブルへ…)カチャッ、コトン…

男(……呼びに行ってやるか)


…コン、コン

男「入っていいか」


男(…返答無しかよ、勝手に開けるのもな)

男「聞こえてるものとして言うぞ? 食事が届いてる。ダイニングのテーブルにあるから、来いよ」


男(……俺はちゃんと言ったからな)



24 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/15(土) 18:40:28 ID:PeHUh3io


男(結構ふつうの食事だな)モグモグ

男(でもさすがに話し相手もテレビも無いから、静か過ぎて…なあ)ゴクン

男(……慣れっこだけどさ)フゥ


………



男(結局、出て来ないのか…食べさせないわけにもいかないな)

男(もう一回、呼んでみるか)


コン、コン…
……ドン、ドンッ

男「聞こえてないわけじゃないんだろ? メシがあるんだって、トレイ返さなきゃいけないから早く食えよ」



25 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/15(土) 18:41:07 ID:PeHUh3io


…ガチャッ


少女「………」

男「寝てたのか?」

少女「…いえ」


男「どうする? 食べてる間は俺がこっちの部屋にいようか?」

少女「…お願いします」

男「はぁ…先が思いやられるな」

少女「ご…ごめんなさい」


男「いいよ、そりゃ知らないオトコなんて怖いだろ」

少女「………」スッ



26 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/15(土) 18:41:40 ID:PeHUh3io


…パタン


男(ごめんなさい…か)

男(謝るって事は、俺に迷惑をかけたって意識はあるんだな)


男(見た目は結構、可愛いんだけど)

男(…果たして彼女はどこが『訳あり』なんだろう)

男(警戒するにしても、少しリアクションが無さすぎる…そこに何か理由があるのかな)


男(そんな事、とてもまだ訊けないし)

男(……訊かれても、俺も答えられないしな)


27 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/15(土) 18:42:20 ID:PeHUh3io


………



…ガチャッ


少女「あの…」


男「ああ、食べたか。トレイ返さなきゃな」

少女「返しました」

男「俺の分も?」

少女「………」コクン

男「そうか、悪い」

少女「…いえ」



28 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/15(土) 18:43:00 ID:PeHUh3io


男「じゃあ、部屋…戻そうか」

少女「いいんですか」

男「…何が?」

少女「その…この部屋を私が使って」

男「いいよ、向こうも空調はあるし。どうしても退屈してゲームでもしたくなったら、その間だけ交代してくれ」

少女「………」コクン


男「じゃあ…ほら」スッ

少女「……?」ビクッ

男「握手だよ、不本意かもしれないけど暫くは生活を共にしなきゃいけない」



29 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/15(土) 18:43:59 ID:PeHUh3io


少女「…あ…あの…」

男「約束する。俺は絶対に危害を加えたりしない、悪口を言うような事もしない。だから握手だ」

少女「………」ビクビク

男「握るぞ」ギュッ

少女「……っ…」


男「…そんなにビビらないでくれよ、そう強面じゃないつもりなんだが」

少女「ごめん…なさい…」


男「幸いこの部屋からもダイニングからも、それぞれを通らなくても風呂やトイレには行ける。ノックだけ忘れないようにしよう」

少女「………」コクン

男「俺は19時頃に風呂に入るよ、そのつもりでいてくれ。じゃ、また明日……おやすみ」

少女「…はい」



37 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/16(日) 21:06:34 ID:WBySr/l.


……………
………


…翌朝


男(……何も無くても、6時半起床が染みついちゃったな)

男(前の施設ではこのあとすぐにラジオ体操、それから食事だった)

男(ここではそれも義務じゃないんだろうけど…少し身体を動かしたい気もする)

男(でもインターホンはあの娘の部屋か…外に出る時は連絡しなきゃいけないんだよな)


男(……あの娘が起きるのを待つしかないか)

男(確か朝食は7時半って言ってたな、まだ1時間もあるし…)



38 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/16(日) 21:07:24 ID:WBySr/l.


…ガチャッ


男「お…?」

少女「…あ……」

男(もう起きてたのか…)


男「…おはよう」

少女「………」ペコリ

男「ちょっと外に出たいんだ、インターホン使っていいか」

少女「…私もそのつもりで…さっき連絡しました」

男「そうか、そりゃちょうど良かった」



39 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/16(日) 21:08:26 ID:WBySr/l.


職員「…ん? 連絡では一人だけと聞いていたが」

男「彼女が外出すると聞いて、便乗しようと思いました」

職員「ああ、それは構わんよ。今日は最初の外出になるから一応、様子を見させてもらう」


男「…今後は?」

職員「問題無さそうなら、次からは邪魔者はいないよ」

男「カメラでの監視はされてるんでしょう」

職員「……それは仕方ないと思ってくれ」

男「解ってます」


男(さて……ちょっと走るか)



40 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/16(日) 21:09:36 ID:WBySr/l.


………



男(外周をぐるっと周るのに、軽く走っても1分とかからない)

男(見える景色はずっとグレーの壁だけ)

男(反対側でも見れば、山の尾根は見えるけど…)

男(こりゃ、つまんねえな…)


男(あの娘は……)


少女「………」

男(何をしてんだろう? ゆっくり歩いたり、しゃがみこんだり)



41 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/16(日) 21:10:41 ID:WBySr/l.


男「地面に面白いものでもあるか」

少女「……いえ」

男「もしかして、土…か?」

少女「………」コクン


男「…で、ここの土は花壇造りにはどうなんだ?」

少女「……全然…だめです」

男「昨日、欲しいものを伝えた時に肥料とかは?」

少女「欲しいって…言いました」

男「それを混ぜれば何とかなるのか」

少女「…耕して、石をよく取り除いて…それから肥料を攪拌すれば」



42 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/16(日) 21:11:48 ID:WBySr/l.


男「耕して石を取り除くところまでは、道具さえあれば今でもできそうだな」

少女「……?」


男「すみません、職員さん」

職員「なんだい?」

男「スコップとか鍬は、すぐにでもありませんか」

職員「スコップくらいはあると思うが……ただ、それを使う時は監視をつけさせてもらう事になるよ」

男(凶器に使えるから…か)


少女「……使いたいです」



43 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/16(日) 21:12:43 ID:WBySr/l.


男「監視の手間をおかけしますが、二本貸してもらえませんか」

少女「………」

職員「解った、朝食の後で持ってこよう」

男「お願いします」


男「土を耕す作業…軽い運動としてはちょうどいいかもな」

少女「…貴方も花壇を?」

男「いけないか?」

少女「………」フルフル

男「知識は何にも無いけどな」



44 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/16(日) 21:13:35 ID:WBySr/l.


少女「…だったら、この辺りを…どうぞ」


男「そうなのか、どうしてだ?」

少女「お昼過ぎまで日光がよく当たるから…」

男「その後は?」

少女「…西日は当たらなくていい…です」

男「なるほど」

少女「………」

男「じゃあ…ここを俺達の花壇にしようか」

少女「……え…?」



45 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/16(日) 21:14:38 ID:WBySr/l.


男「あれ…? だめか?」

少女「…俺『達』…って…」


男「そうだよ、一緒に造ろうと思ったんだけど」

少女「………」

男「…部屋と同じで、別々の方がいいか?」

少女「………」

男「…無言は了承と捉えるよ?」

少女「…は…ぃ」

男「どっちの『はい』だ? 別々の方がいい?」

少女「………」フルフル



46 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/16(日) 21:16:18 ID:WBySr/l.


男「じゃあ、一緒に造ろう。でも俺は何も知らないから、教えてくれよな」

少女「………」コクン


男(…少しだけ、コミュニケーションがとれたのかな)

男(まあ別に好きで同室になったわけじゃない)

男(無理に馴染む必要は無いのかもしれないけど)

男(期間が定められていない以上、お互い少しは言いたい事を言えないとやってられないしな)


男(この土地を好きに使っていい…代わりに管理はしなきゃいけない)

男(その事から察すれば、そう短い期間じゃ無さそうだ)

男(だからコミュニケーションをとる、それだけ……それだけだよ)



51 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 14:12:06 ID:vUFUbNMM


男(結局、朝食はまた別々か…)


男(嫌なら嫌で、喋らなきゃいいだけだと思うけどね)

男(顔も見ていたく無い…って?)

男(……ちょっと凹むな)


…ガチャッ


職員「スコップ、用意できてるからねー」

男「はい、ありがとうございます」


職員「外出前に必ず連絡をね……まあ、遠隔操作で鍵がかかっているけど」

男「……火事になったら死ねそうですね」

職員「一応、報知器と連動して鍵は開くようになっているから、そこは心配しないでくれ」



52 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 14:13:01 ID:vUFUbNMM


…コン、コン


男「スコップ、届いたよ」


ガチャッ…


男「早速、始めるか?」

少女「………」コクン

男「服、着替えないと。風呂場の脱衣所以外はカメラで丸見えだぞ」

少女「…はい」

男「俺はもう着替え終わってるから、インターホンで連絡しとくよ」



53 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 14:13:44 ID:vUFUbNMM


………



職員「悪いが言った通り、こういった道具を使う際は近くに居させてもらうよ」

男「はい」

少女「………」


男「まずは? とことん掘り返していけばいいのか?」

少女「あの…掘り取った土を別の場所に置いて、そこで石を選別して堆肥を混ぜます」

男「うん、どの位の深さまで掘ればいい?」

少女「20センチ…できれば30センチくらい」



54 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 14:14:35 ID:vUFUbNMM


ザクッ、ボコッ…


男「固ってえな…掘れるか?」

少女「……んっ…」ガツンッ

男(やっぱり体重が軽いから、刃が入ってないな…)


少女「………」フゥ

男「よし、掘り返して土を別の場所に運ぶのは俺がやるよ。少女はそれを崩して、石を選り出してくれ」

少女「…でも」

男「でも…?」

少女「その…掘り返す作業の方が大変…」

男「いいんだよ、俺はオトコなんだから。適材適所って奴だ」



55 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 14:15:14 ID:vUFUbNMM


………



男「ふぅ…だいぶ進んだな、もう昼が近い」

少女「………」コクン


男「どの位の範囲を花壇にしようか?」

少女「最初は…この位で」

男「2×3m…6m2くらいかな。だいたい深さも30センチはあるだろ」

少女「………」コクン

男「そっちも、石の選り出しはできてるっぽいな」

少女「…今度は、この石を花壇の底に敷きます」



56 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 14:16:00 ID:vUFUbNMM


男「選り出した石だけを?」

少女「…排水層になります。土が少し粘土質だから、水はけを良くしないと…」

男「結構、詳しいんだな」

少女「………」フルフル


男「それに、園芸の事なら割と喋るんだ」

少女「……っ…」

男「いいと思うよ、恥ずかしがる事ない」

少女「………」



57 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 14:16:39 ID:vUFUbNMM


男「崩した土を見て、改めてどうだ? 肥料を混ぜればいけそうか」

少女「少しだけ還元色がかってるから…本当は黒曜石のパーライトを混ぜたいです」


男「全然、解らねえ…」

少女「ご、ごめんなさい」

男「いいって、そういう方面は任せるよ。そのナントカ石のナントカってやつも、貰えるようにしなきゃな」

少女「…はい」…サスサス

男(ん…? 手をさすって…)



58 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 14:17:11 ID:vUFUbNMM


男「手、どうかしたのか? 見せてみ…」ギュ

少女「やっ…!」バッ

男「……ごめん…」

少女「あ、あの…ごめん…なさい」


男(…手首を握ろうとしただけなんだけどな)

男(よほど嫌われてる……いや、怖がられてる…?)


男「…手、痛いのか?」

少女「久しぶりの作業だったから…少し…」

男「手袋も無いもんな」

職員「悪いね、昼には用意するよ」

男「はい、お願いします」



59 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 14:18:10 ID:vUFUbNMM


……………
………


…施設館内


白衣「D棟の二人、直接見ていてどうかね」

職員「今のところ問題はありません。どちらかというと男…D-1の方が自発的にコミュニケーションをとろうとしていると思います」

白衣「うむ……まあ、そうなるだろうな」


職員「D-2にはまだ歩み寄りの姿勢はありません。一度D-1がD-2に触れた時、かなりの抵抗感をもったようでした」

白衣「ほう…D-1が接触した理由は?」

職員「単に気遣っての事だと思います。しかしD-2は強く反応し、一瞬手にしていたスコップを持ち上げようとしました。私も制止に入りかけましたよ」


白衣「……まだ一日しか経っていない、進展が無いのも当然だろうな。貴重なサンプル、ゆっくりと様子をみよう──」



60 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 14:21:47 ID:vUFUbNMM


……………
………


…三日後


男「排水層はこんなもんか?」

少女「…このくらい厚みがあれば、大丈夫だと思います」

男「敷地内の石ころもレーキで集めて、だいぶ足したな」


少女「……ごめんなさい」

男「何が?」

少女「疲れる仕事ばかりさせて…」

男「いいんだって、役割分担だろ」



61 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 14:22:22 ID:vUFUbNMM


男「それで? これからは?」

少女「残った土に堆肥を混ぜてあるから…敷いていきます」


男「堆肥って、全然臭くはないんだな」

少女「発酵には牛糞なんかも使ってると思うけど…完熟してる、微生物に全て分解されてますから」

男「………」

少女「…未熟な堆肥だと、土の中で残りの発酵が進んで窒素分を奪うから…だめです」

男「この堆肥は良いやつなんだ?」

少女「………」コクン



62 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 14:23:07 ID:vUFUbNMM


男「こっちに除けてる大き目な石は?」

少女「…花壇の縁に積みます」

男「じゃあ、土を入れながら石積みも同時進行だな。石の方は任せるよ、重すぎるやつがあったら言ってくれ」

少女「……は、はい…」


…サクッ、サクッ
コロコロ……ドサーッ


男(手押しの一輪車なんて、久しぶりに使ったな)

男(中学校の時の農業実習以来か…?)


男(……しかしあの娘、ほんと園芸の事ならちゃんと喋るんだな)

男(その時には俺に対する抵抗も余り無さそうだし)

男(嫌われてるわけじゃない…のかな?)



63 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 14:23:43 ID:vUFUbNMM


少女「あ…あの…」

男「どうした?」

少女「…石、大きいのを」

男「ああ、行こうか」


男「中にはかなり大きいのもあるな」

少女「花壇の周囲にランダムな配置で、置いて貰えたら…」

男「ランダムでいいの?」

少女「………」コクン



64 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 14:24:24 ID:vUFUbNMM


男「ふう…こんなもんか?」

少女「はい」

男「じゃあ、土入れの続きやってるわ」


少女「……あの」

男「ん…?」

少女「あ…ありがとう…」

男「……どういたしまして」



65 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 14:25:00 ID:vUFUbNMM


コロコロ……ドサーッ


男(…違う)

男(彼女にはできない力仕事を、代わりにやってあげたんだ)


…サクッ、サクッ


男(だから、お礼を言われるのも当たり前)

男(決して彼女が心を開いてるわけじゃない)


…ドサーッ


男(俺だって、そうだ)

男(特別な繋がりなんか、望んでない──)



67 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 19:39:26 ID:n3E8nT02


……………
………


…更に二日後


男「できたんだな」

少女「………」コクン


男「なんか…肥料以外はこの場にあった土と石だってのに、できあがってみると……」

少女「……?」

男「意外と……うん、ちゃんとした花壇だよな。感心したよ」


少女「………」クスッ

男(……今、笑った?)


職員「………」



68 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 19:48:31 ID:d/eGHAkQ


男「しかし堆肥の分もあるとはいえ、土ってほぐすと増えるもんだな」

少女「…それだけ元は締め固まってました」

男「そういう事だな。…で、何を植えるんだ?」


少女「え…と、種を…撒きます」

男「種からか、じゃあ何とは訊かずに楽しみにしておこうかな」

少女「……あの、これ…」

男「ん? これが種? ……あ…」

少女「………」コクン



69 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 19:53:30 ID:h4I4Wc5Y


男「ははっ…こりゃ、誰でも種で解っちまうな…向日葵だ」

少女「…はい」ニコッ

男(やっぱり、笑った…)


男「どうやって撒いたらいい?」

少女「…まず、一輪車に一杯の土をとって…」

男「了解」


…サクッ、サクッ



70 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 19:54:37 ID:h4I4Wc5Y


少女「それから…指で花壇の土に穴を穿けて」

男「じゃあ、手本を見せてもらおうか」

少女「………」コクン


…プスッ、コロッ
プスッ、コロンッ…


男「第二関節くらいの深さでいいのかな」

少女「はい……あっ…」

男「ん?」

少女「……真ん中から始めないと、出られなくなり…ます…」

男「ああ、そうか。馬鹿だな…俺」

少女「………」クスクス


職員「………」



71 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 19:55:35 ID:h4I4Wc5Y


男「あとは一輪車にとっておいた土を撒けばいいんだな」

少女「はい、やさしく…うっすらと」

男「難しい事を…」


少女「…これでお水をあげれば、終わりです」

男「うん、水遣りは毎日?」

少女「芽が出るまでは…」

男「…楽しみだな」

少女「………」コクン



72 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 19:56:28 ID:h4I4Wc5Y


………


…同日、夕方


職員「おーい、食事を取りに来てくれー」

男「はーい」


…ガチャッ


男(……お?)

少女「…ありがとう…ございます」ビクビク

職員「震えてる…? 零さないようにね」

少女「………」コクン



73 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 19:57:04 ID:h4I4Wc5Y


男(同じタイミングでトレイをダイニングに運ぶって事は…)


少女「……あの、いいです…か…?」カチャッ

男「一緒に食べる…って事?」

少女「…はい」

男「もちろん」


少女「……頂き…ます」

男(…少し、慣れたって事か?)



74 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 19:58:19 ID:h4I4Wc5Y


男「しかし、花壇造りが終わると明日からちょっと暇だな」モグモグ

少女「…はい」パクッ

男「けっこう楽しかったよ」

少女「………」コクン


男「昔から園芸を?」

少女「………」

男(…顔が曇った、まずかったか)


男「ごめん、いいんだ…色々詳しかったなって思っただけだよ」

少女「………」



75 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 19:59:03 ID:h4I4Wc5Y


少女「…増やします…か?」

男「うん…?」モグモグ

少女「花壇…もっと」


男「ああ…いいね、広げようか」

少女「今度は…種じゃなく、苗を植える花壇を…」

男「それなら最初から賑やかだな」

少女「向日葵の花壇より一段低く…隣りに繋げて」


男「そうだな。向日葵は背が高くなるから、バランスもいいんじゃないか?」

少女「…はい」ニコッ



76 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 19:59:41 ID:h4I4Wc5Y


男「……笑ってくれるようになったよな」

少女「えっ」アセッ

男「いいよ、その方が」

少女「……はい」


男(──でも、他意は無い)

男(共同生活を送る上で、やりやすくなったってだけだ)

男(どうせいつか、この生活は終わる…)

男(ある程度、意思の疎通がとれさえすれば)

男(それ以上の関係なんて…要らない)



77 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 20:23:47 ID:2oEv2f6s


……………
………


…四日後


ガチャッ…


男「ああ、おはよう」

少女「おはよう…ございます」

男「今朝はよく眠れたよ、やっぱり連日ちゃんと労働してれば眠りも深いね」

少女「…そうですね」

男「もうじきに食事じゃないかな」


職員「朝食、持ってきたよー」


男「…だな、取りに行こう」

少女「はい」



78 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 20:24:42 ID:2oEv2f6s


………



男「ふたつ目の花壇もできたね」モグモグ

少女「はい」モグモグ


男「今日、苗が届くんだろ?」

少女「そう…聞いてます」コトッ

男「どんなの、頼んだの?」パクッ

少女「…色々、春咲きのものを」


男「楽しみだな」

少女「…はいっ」ニコッ



79 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 20:25:29 ID:2oEv2f6s


男(……随分、普通に話せるようになった)

男(これならあまり困ることも無いだろう)

男(ただ……)


少女「………」カシャッ…コトン

男「重いだろ、お茶のポットは俺が持つよ」ヒョイ

少女「……っ…!」ビクッ


男(手を伸ばすと、やっぱり怖がってるみたいだな……)



80 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 20:26:20 ID:2oEv2f6s


………



男「へえ…色とりどりだな」

少女「はい」


男「これは?」

少女「アネモネ…」

男「こっちは?」

少女「ガザニアです」

男「この背の低いのは?」

少女「シバザクラ…縁に使います」



81 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 20:27:04 ID:2oEv2f6s


男「色分けして植えるのか?」

少女「はい…でも、分け過ぎると鮮やかさが無くなるから…」

男「混ぜた方が?」

少女「アネモネは色分けして…ガザニアとマリーゴールドは種類は分けるけど、色は混ぜた方が綺麗だと思います」

男「じゃあ配置は任せるよ、置いてくれたら植えるから」

少女「…はい」



82 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 20:28:00 ID:2oEv2f6s


男(背の高いのはこんなもんかな)

男(あとは周囲のシバザクラと、ダイアンサス…だったかな)

男(端っこから後ろへ、バックしながら植えるか…)

男(ダイアンサスの茎って柔らかいな、折れてしまいそうだ)

男(この辺はシバザクラだけを纏めて……)ジャリッ


…ドンッ

少女「きゃ…!」ドテッ


男「あ…悪い、後ろ向いて退がってたから…! ほら、手を──」


──ギュッ

少女「あ……」ビクッ



84 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 20:28:35 ID:2oEv2f6s


男「立てる?」グイッ

少女「…う……」


男「ごめんな、よく見れば良かった」

少女「い、いえ……あの…起こしてくれて、ありがとう…」

男「足挫いたりしてない?」

少女「大丈夫…です」


職員「………」



85 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 20:29:28 ID:2oEv2f6s


男「花も植えて、ふたつ目の花壇も完成だね」

少女「はい」

男「さすがに咲き誇ってると、綺麗だな…」

少女「…上手に植えられてると…思います」

男「そうか、よかった」

少女「………」


男「さあ…みっつ目の花壇、どうする?」

少女「…まだ、造ってもいいですか…?」

男「俺は構わない……造りたいよ」

少女「……はいっ」



86 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 20:31:02 ID:2oEv2f6s


……………
………


…数日後、朝


男「…う……」

男(よく寝た…)

男(さっき、少女は外へ出てたような気がするな…)


…ガチャッ、バタンッ


男(ああ、やっぱり…外から帰って──)

少女「…男さんっ」

男「──えっ…」



87 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 20:31:43 ID:2oEv2f6s


少女「あの、ちょっと…外に…」

男「あ、ああ…」

少女「職員さんには、男さんを連れて出るって言ってあります」

男「解った、すぐ着替えるよ」


男(……初めて、名前を呼ばれたな)

男(なんかいつもと声の張りも違うような…)


少女「………」ソワソワ

男「あの…少女?」

少女「はい…?」

男「そこにいたら、着替えられないんだけど」



88 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 20:32:23 ID:2oEv2f6s


少女「!! ご、ごめんなさい…脱衣所に行くかと…」

男「うん、下着まで替えるわけじゃないから…」

少女「あ、あの…先に外にいますっ」パタパタパタ…


男(可愛いな…)


男(……いけない、何を考えてる)

男(駄目だ、意識するな…しちゃいけない)

男(彼女は……他人だ…)



89 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 20:33:03 ID:2oEv2f6s


………



少女「男さん、こっち…最初の花壇です」

男「向日葵の…?」

少女「ほらっ」

男「…あっ……これって…?」


少女「芽が出ました…!」


男「そっか…けっこう早いんだ、嬉しいな…こういうの」

少女「はいっ」ニコッ



90 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 20:33:43 ID:2oEv2f6s


男「すごい、たくさん芽吹いてる」

少女「はい」

男「ちょっと感動したよ。自分で造った花壇で、自分が蒔いた種から芽が出るなんて」

少女「…はい」

男「園芸って、楽しいもんだね」

少女「……は…ぃ…」ポロッ


男「……え?」

少女「……っ…」ポロポロ…



91 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 20:34:27 ID:2oEv2f6s


男「ど、どうしたんだ? なんで泣いて…」

少女「すみません…何でも…ない…」グスッ


男(何でも無い事はないだろ…)

男(…今は道具を使ってないから、職員さんは先に引っ込んだ)

男(この様子をカメラで見られたら、なんか変に思われそうだな)


少女「………」グスン

男「部屋、入ろう? …とりあえず顔を洗おうよ」

少女「は…ぃ…」



92 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 20:35:06 ID:2oEv2f6s


………



男「…落ち着いた?」

少女「はい…ごめんなさい」

男「びっくりしたよ」

少女「もう大丈夫…です」


男「もうすぐ食事だと思うよ」

少女「………」コクン

男「部屋に戻ってる?」

少女「ここが…いいです」

男「…そうか」



93 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/17(月) 20:36:00 ID:2oEv2f6s


男(……涙の理由は解らない)

男(でも、少なくとも何かが嫌で泣いたわけじゃないんだろう)


男(泣いてるところを見せる…なんて、ある程度気を許してないとできないんじゃないか)


男(……違う、考えるな)

男(自分に都合良く考えちゃだめだ──)



98 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/18(火) 19:08:01 ID:ErJNzHtk


………


…その夜


男「トレイ、返した?」

少女「はい」

男「風呂の用意はできてるから、順番に入ろう。俺は後でいいから」

少女「じゃあ…私、入ります」

男「うん、なんか今夜は冷えるから、ゆっくりでいいよ。上がったら知らせてくれ」

少女「はい」



99 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/18(火) 19:09:07 ID:ErJNzHtk


………



少女「あの、お風呂…どうぞ」

男「ああ、ありがとう」


少女「それから…その…」

男「ん…?」

少女「今夜は…冷えるから」

男「うん、俺もゆっくり入るよ」

少女「その…あと」

男「……?」



100 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/18(火) 19:09:44 ID:ErJNzHtk


少女「こ、この部屋…寒くないです…か…?」モジモジ

男「ああ…まあ、ちょっとな」

少女「…寝るの…リビングにしたら、いい…です」

男「うん…ありがたいけど、少女に寒い方の部屋を使わせるわけにも…」


少女「そうじゃ…なくって…あの」

男「…大丈夫だから、気を遣わないでくれ。俺はこっちで平気だよ」

少女「そう…ですか」



101 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/18(火) 19:10:30 ID:ErJNzHtk


男「じゃ、風呂行ってくるよ。…おやすみ」

少女「…あのっ」

男「………」

少女「もう一回…」

男「何?」


少女「握手…してくれませんか」


男「そりゃ…いいけど」スッ

少女「………」ソーッ


…ギュッ


少女「…ぅ……」

男(少し震えてるな…)



102 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/18(火) 19:11:10 ID:ErJNzHtk


男「…もういいか?」

少女「もう少し…」

男「………」

少女「………」

男(ちょっとずつ、震えが引いてきたか…?)


少女「私…怖いんです、人が…」

男「そうみたいだな」

少女「でも…」ギュウッ

男(強く握って…震えが止まった)


少女「貴方を怖がるのは…嫌」



103 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/18(火) 19:12:06 ID:ErJNzHtk


男「少女…」

少女「花壇造り…男さんと出来て良かった…です」

男「…うん」

少女「もっと、たくさん…造りたい」

男「そうだな」


少女「ありがとう…ございます」パッ…

男「…こちらこそ」


少女「おやすみなさい、男さん」ペコッ

男「…おやすみ」



104 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/18(火) 22:49:50 ID:S826yCFo


………



…チャプン


男「…はぁ」

男(解ってる…部屋を『替わろう』と言ったんじゃない事くらい)

男(…認めまいとしてたけど、彼女は他人への恐怖感をもちながらも、歩み寄ろうとしてくれてる)


男(俺は…どうだ?)


男(自ら進んで花壇造りを一緒にしてみたり)

男(最初の握手を求めたのだって、俺の方だ)


男(…やっぱり俺も、彼女に近づこうとしてる)



105 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/18(火) 22:51:01 ID:S826yCFo


バシャッ…ゴシゴシ…


男「ぷはっ…」


『私…怖いんです、人が……でも』

『貴方を怖がるのは…嫌』

『花壇造り…男さんと出来て良かった…です』


男(…くそっ、やっぱり狭くても一人部屋の方が良かったんじゃないか)

男(俺の症状が解ってて、なんでこんな…)

男(……早く上がって寝よう、気持ちを切り替えなきゃ──)



106 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/18(火) 22:52:14 ID:S826yCFo


……………
………



《──格好いいわよ、男》

《もう貴方も高校生なのねえ…》

《弟も再来年には中学生だし、どんどんお米が無くなるわ》

《ふふ…いいのよ、しっかり食べてお父さんみたいなオトコ前にならなきゃね》


《本当、二人とも自慢の息子だわ》

《幸せな家庭って、我が家みたいな事を指して言うのよ、きっと》

《あはは…大袈裟じゃないつもりよ、お母さんは──》

… … …

《──え?》

《事故? お父さんと…弟が…? え…?》



110 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/19(水) 10:01:30 ID:u1b34bsU


……………
………



「今度は今までの花壇の背景になるような、木を植えたいです」

「また男さんに力仕事ばかりさせてしまいますけど…」

「木陰をつくる常緑の少し大きい木……ミモザアカシアやイレックスとか」


「大丈夫ですか? 重い…ですよね」

「一緒に…持ちます」



111 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/19(水) 10:02:07 ID:u1b34bsU


「すごく感じが良くなりました」

「あとは周りに低木を……きゃっ」

「ごめんなさい、びっくりしただけ…ごめんなさい」

「……大丈夫、男さんは…怖くないです」


「あの、アセビは日が当たらないところへ…」

「えっと…もう少し…」

「ミモザの枝が邪魔ですよね…私、持っておきます」



112 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/19(水) 10:02:44 ID:u1b34bsU


「男さん、顔に土が」

「ちょっと動かないで……ほら、ここ」

「…綺麗になりました」


「男さん、向日葵が伸びてますよ、ほら」


「男さん、今度は…」


「男さん」


「男さん」


「男さん──」



114 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/19(水) 12:50:50 ID:Ssi.yA8k


……………
………


…二ヶ月後


ガチャッ…


職員「食材、持ってきたよー」


少女「はい」

職員「ジャガイモとかが入ってるから、ちょっと重いよ。大丈夫?」

少女「…は、はい」ビクビク


職員「………」



115 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/19(水) 12:51:25 ID:Ssi.yA8k


男「どうしたんだ、それ」

少女「…あの、カレーを作ろうと思って」

男「カレーか、そういえば施設の食事はバランスを重視してるのか、そういうのはあまり出ないな」


少女「ジャガイモ…もう少し大きく切ってあればいいのに」

男「…そうか、包丁なんかは貸し出されないんだな」

少女「………」


男「俺も食べていいの?」

少女「えっ」

男「……カレー、俺も食べていいのかな…って」

少女「あ…当たり前…ですよ?」



116 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/19(水) 12:52:08 ID:Ssi.yA8k


………



男「じゃあ、頂きます」…パクッ

少女「………」

男「……美味い、すごく」

少女「よ、よかった…」ホッ…


男「少量を鍋で作ったカレーなんて、久しぶりに食べるな」

少女「明日のお昼の分くらいはあると思います」

男「懐かしい…な」ボソッ

少女「……男さん」



117 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/19(水) 12:52:44 ID:Ssi.yA8k


少女「あの、食べ終わってお風呂入ったら…」

男「うん?」

少女「…こっちの部屋、来ませんか」

男「何か映画でも借し出してもらうか?」


少女「……そうじゃなくって、その…これから…こっちの部屋で寝ましょう」

男「同じ部屋でって事か?」

少女「………」コクン


男「ありがとう」

少女「い、いえ…今までごめんなさ──」

男「でも、それは遠慮しとくよ」



118 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/19(水) 12:53:27 ID:Ssi.yA8k


少女「え…」

男「もうすっかりこの部屋で寝るのに慣れたし、寒い時期も過ぎたし」

少女「で、でも…ダイニングは本当は寝る部屋じゃ…」


男「…施設の方針としてどうなのかは解らないけど、本当は異性が二人で同じ棟
に入居してる事自体おかしいんだ」

少女「………」

男「できるだけ棟内での生活スペースは、区切った方がいい」

少女「男さん…」


男「信頼してくれるのは嬉しいけど、俺だってオトコだぞ」

少女「!!」ビクッ

男「…だから、今まで通りがいいよ」



119 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/19(水) 12:54:00 ID:Ssi.yA8k


少女「でも、監視カメラもあります」

男「そうだな、間違いをおこすような事は無いつもりだけど」

少女「だったら…」

男「…ごちそうさま。カレー美味しかった、ありがとう。…先に風呂行ってくるよ」


少女「…男さん」

男「ゆっくり食べたらいい──」
少女「男さんっ」ガタッ


男「………」

少女「前も言いました…私、人が怖いです」



120 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/19(水) 12:54:51 ID:Ssi.yA8k


少女「でも、男さんは怖くない……まだ不意に近くに寄ると、少しびっくりする事もあるけど」

男「少女…」

少女「きっと私達が同じ棟に割り当てられたのは、お互いの何かを克服するため…だと思います」


男(……違う)


少女「私、前の施設では本当に誰ともコミュニケーションがとれなくて…男さんみたいに接する事ができる人はいなかった」

男「………」


少女「きっと、男さんがいい人だから…他人を怖がる私と組ませたんだと──」

男「──それは違う」



121 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/19(水) 12:55:27 ID:Ssi.yA8k


少女「……え…」

男「いや…もしかしたら君の側はそうなのかもしれない」

少女「私の側…は?」

男「俺にとって、この環境は自分の問題を克服するに向いたものじゃ…ないんだ」


少女「…どういう事ですか」

男「言えるわけないだろ」

少女「……っ…」

男「君は言えるのか? 俺達の関係は…この生活はいつか終わる。その時、君の過去を知る人間が目の届かないところにいるなんて、嫌だろ?」

少女「私…は…男さん…なら」フルフル

男「聞かないよ、俺は。そして俺の過去も話さない」



122 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/19(水) 12:56:07 ID:Ssi.yA8k


少女「…わかりました」

男「ごめん、せっかく君が怖いのを我慢してまで歩み寄ってくれたのに」

少女「でも、納得はできません」

男「……少女」

少女「過去は聞きません、私も言いません。…でも教えて下さい」



少女「私が他人への恐怖を抱えているように…男さんは何に苛まれているんですか」



男「………」

少女「それが何であっても、私…平気です」



123 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/19(水) 12:56:44 ID:Ssi.yA8k


男「前の施設で、君の担当カウンセラーは何度か交代したか」

少女「…いいえ、一人でした」

男「俺の担当は四回…替わったよ、施設にいた一年の間でな」

少女「………」

男「最初と二番目は女性のカウンセラーだった、その後は男性だ」

少女「…どうして」


男「決して疚しい感情じゃないとは言っておく、でも…俺は彼らに依存しすぎた」



124 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/19(水) 12:57:18 ID:Ssi.yA8k


男「言われたよ…『君は他者への依存願望が強い』って」

少女「依存…」

男「言い換えれば『愛情に飢えている』『絶対的な味方を欲してる』…そういう事らしい」

少女「………」

男「ごめん、これ以上は言わない。でも、もう解るだろ?」

少女「はい…」


男「今より君が距離を詰めたら、俺は……君に依存してしまう──」



128 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/19(水) 18:58:54 ID:kcCkcZv.


……………
………


…翌日、昼前


ババババババ…
……プスンッ


男「…ふう」


男(花壇の手入ればっかりで草を放置してたけど、伸びるもんだな)

男(痛てて…草刈機なんて初めて使ったから、肩が痛い)

男(ようやく半分くらいか…)


男(少女は向日葵の花壇を手入れしてるな)

男(…今日はほとんど話してない)

男(当たり前か…)



129 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/19(水) 19:05:19 ID:laGt5r2U


男「……どう? 向日葵の調子は」

少女「………」チョキン…パサッ

男(…あれ?)

少女「………」プチプチ


男「…少女?」

少女「え? …あ、は…はいっ」アセッ

男「なんだ、気付いてなかったのか」

少女「ご…ごめんなさい、考え事してました」



130 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/19(水) 19:12:16 ID:kcCkcZv.


男「向日葵、生育の具合はどうだ?」

少女「…いい具合です。でも向日葵は養分の吸い上げが強いから、そろそろ肥料を足さないと」

男「そうか、だいぶ大きくなったもんな」

少女「はい」

男「少し、休もうか」


職員「じゃあ道具を預かって、僕は詰所に引っ込むよ」

男「すみません、お願いします」

職員「午後からもまた使うか?」

男「できるだけ草を刈ってしまいたいから、お願いすると思います」



131 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/19(水) 19:19:48 ID:WALKrkBM


………



少女「……男さん、昨日はごめんなさい」

男「俺の方だよ…それは」

少女「ううん、男さんがどんな症状に悩んでるかも知らずに…私、自分の事しか考えてませんでした」


男「また俺が怖くなったんじゃないか?」

少女「いいえ」

男「……そっか」

少女「男さん…だから、私は──」


男「やめろ、俺につけいる隙を見せないでくれ」

少女「…言っちゃ、だめですか」

男「だめだ」



132 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/19(水) 19:23:41 ID:3sRyMd8U


少女「……考えてたんです、どうして私達はペアに選ばれたんだろうって」

男「………」

少女「私の症状は、男さんと一緒にいる事で少しずつでも改善してると思います。白衣の人は、それを狙ってたかもしれない」

男「どうかな…」

少女「でも、男さんの症状は? …誰かに依存しちゃいけないんだとしたら、この処置は…有効とは思えません」

男「………」

少女「それでも私達をペアにした……それにはきっと理由があります」


男「…様子を見てるんだよ。俺が君に依存しないかどうか…たぶん重度の依存が生じたと判断されたら、隔離される」

少女「それは…ないと思います」

男「どうして?」

少女「それじゃ、この処置において男さんは私のための犠牲にしかなり得ないから」



133 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/19(水) 19:31:06 ID:.oGUVR8o


少女「ここは国立の施設と聞いてます。性格を考えれば、公共の医療機関の内でしょう?」

男「まあ…そうだな」

少女「現代のこの国のそういった施設で、誰か個人のために別の誰かを犠牲にするなんて、さすがに無いと思います」


男「……社会は君が思うより汚いかもしれないよ」

少女「でも、それなら男さんを犠牲にしてまで私を優遇する理由は?」

男「さあ…なんだろう、くじ引きかな」

少女「ありませんよ、そんなの。だからきっと、この組み合わせには男さんにとっての利点だってあるはずです」


男「…最初会った時には想像もしなかったよ」

少女「何を…ですか?」

男「こんなに口が達者だとはな」

少女「……失礼ですね」クスッ



134 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/19(水) 19:38:44 ID:wIjVNFTE


少女「じゃあ…口論には勝ったという事で、やっぱり言わせて貰います」

男「やめろ、妙な事を言うんじゃ──」



少女「男さん…私に、依存して下さい」



135 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/19(水) 19:51:08 ID:KUPGFQSQ


男(……なんで、こうなる)

男(結局、俺は誰かに依存してしまうのか? そんな資格、俺には無いのに)


少女「大丈夫…逃げないで」ギュッ


男(なのになんで、俺はこの娘に抱きしめられてるんだ)

男(離れようと思えば簡単なのに、俺は…)


少女「…もし震えてたらごめんなさい…でも、じっとしてて」


男(…なんでこんなに嬉しいんだ)

男(なんで…泣いてるんだよ…)



136 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/19(水) 19:53:05 ID:KUPGFQSQ


少女「男さん、根拠は何も無いです……でも、きっと男さんは私に依存すればいいんですよ」ナデナデ

男「………」


少女「カウンセラーの方は異動になったりする事もあります」

少女「だから強く依存していたら、男さんはその時つらい想いをする…」


少女「でも私は施設の人達の判断次第では、ずっと一緒にいられます」

少女「いつか二人とも普通の毎日に戻る事ができたら、その時だって」


少女「私達がペアになったのは私の恐怖心を取り除くため」

少女「そして男さんが安心して依存できる相手をつくるため」


少女「…きっとそうです、そう思ってましょうよ。……ね?」



138 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/19(水) 22:13:55 ID:CDbG8Yhw


………


…その夜、リビング


男「絶対、何もしないから」ドキドキ

少女「し…信じてます」オドオド


男「いびきが煩かったら、叩き起こしていいから」

少女「私がそうだったら…男さんもそうして下さい」


男「布団は部屋の端っこと端っこだから、絶対に手も届かないから」

少女「解ってます、でもちょっと離し過ぎじゃないですか…」

男「いや、丁度いい。このくらいでいいからっ」



139 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/19(水) 22:14:50 ID:CDbG8Yhw


少女「え…と、電気…消しますよ?」

男「たぶん監視カメラは暗視機能もついてるから」

少女「解りましたから」

男「絶対、何も──」
少女「解りましたってば!」


…パチン


男(おお…暗い……当たり前か)

少女「男さん…?」

男「はいっ」

少女「なんで『はい』なんですか……おやすみなさい」クスクス

男「お…おやすみ…なさい」



140 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/19(水) 22:16:11 ID:CDbG8Yhw


………



男(ちっとも寝付けない)

男(少女は…小さく寝息が聞こえる気がする。緊張してるのは俺だけか)


『私に、依存して下さい』


男(……情けない、でも…嬉しかった)

男(全部カメラで見られてたんだろうな…ちくしょう)


男(もしこれで…俺が彼女に依存するのが『望ましくない事』だとしたら、近い内に俺達は隔離されるんだろう)

男(それを思えば、深入りしない方が……)

男(……解ってる、そんなの…無理なんだ──)



141 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/19(水) 22:17:13 ID:CDbG8Yhw


……………
………



《──男、もうお母さんには貴方しかいないの》


《お父さんも弟も…天国から見守ってくれてるはず…よね…》


《でも…ごめんね…お母さん、どうしても悲しくなるの…》


《だって…あんなに幸せだったのよ──》



142 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/19(水) 22:18:15 ID:CDbG8Yhw


………



男『母さん…また飲んでるの』

母『………』


男『もうやめなよ』

母『うるさいわね…お酒は悲しい事を忘れさせてくれるのよ』

男『……母さん』

母『うるさいって言ってるでしょう!?』


ガシャーンッ…!



143 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/19(水) 22:19:17 ID:CDbG8Yhw


………



母『男、ごめんね…酔ってたの。お母さんが悪かったわ…貴方に怪我をさせるなんて』

男『もういいよ、大した事ないから』

母『貴方は私にとって残された唯一の宝物なのよ──』


… … …


男『母さん…! お酒はやめるって…』

母『あんたは部屋に行ってなさい!』

男『だめだよ、母さんの身体が…』

母『うるさいっ!』



144 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/19(水) 22:20:22 ID:CDbG8Yhw


………



母『男…ごめん、ごめんね…大事な息子に私は──』


母『放しなさいよ! 子供に何が解るの!?』


母『お母さんが悪いの…もう二度とお酒は飲まないから──』


母『あんたは何のために生きてるのよ! 私の邪魔をするしかできないなら、あんたなんか…!』


母『男…もしまたお酒を飲んだ私が貴方を傷つけようとしたら、殴ってでも──』


母『二人の代わりにあんたが死ねば良かったのよ! 生意気な顔してるんじゃないわ!』


母『もういい…出ていけ!』


母『死ねっ! 帰ってくるな!』


母『なんでそんな目で見るのよ! 私はもうあんたの母親なんかじゃない──!』



145 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/19(水) 22:21:29 ID:CDbG8Yhw


母『そんなに気にくわないなら…! この私が憎いなら』


母『殺してよ…あの人のところに行かせてよ!』


母『そう……できないの…そうよね、貴方は優しい子だったわ』


母『じゃあ一緒に死にましょ』


母『天国で、また家族みんなで暮らせばいいわよね?』


母『せめて私が、貴方を殺してあげる…!』


グサッ
…ポタッ、ポタッ


母『…ごめん…ね……男…』


母『どうし…て…こうなったん…だろう…ね──』



148 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/20(木) 10:02:48 ID:GKvXbo3U


……………
………



男(──そして自分でも予想した通り、俺は確実に少女に依存していった)

男(決して疚しい感情ではない)

男(でもそれ以上に根が深く、捨て去り難い)


男(日々を生きる意味として、目覚めた朝を喜べる理由として)

男(俺にとって少女は文字通り、かけがえのない存在になっていった)


男(日々は流れる、向日葵は次第にその背丈を延べてゆく)

男(今のところ、俺と彼女を隔離しようとする動きは無い)

男(きっとそんな事はありえないのに、俺はこの日々が永遠に続く事を望まずにはいられなかった)



149 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/20(木) 10:03:23 ID:GKvXbo3U


……………
………



少女「痛ったあぃ…!」

男「下手くそだなー」


少女「キャッチボールなんかした事ないんだから、しょうがないじゃないですか…」

男「ボールが近づく前に、もうグローブ構えとくんだよ」

少女「柔らかくて軽いボールにしましょうよー」

男「これも軟球だって、軽いボールは余計に捕り難いぞ」



150 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/20(木) 10:29:08 ID:XUd2byY.


少女「もうやめたいです…」

男「せっかく貸し出してもらってるんだから、もうちょい上達しろ。ほら、よく狙えよ」

少女「うぅ……いきますよ? …てーい!」

男「うわっ、どこ投げてんだ!」


… … …


職員「もう隣りの区画にまで投げちゃだめだよ、僕がすごく怒られるんだからね?」

男&少女「すみません…」



152 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/20(木) 10:33:41 ID:1UWYGI9A


………



男「映画、貸し出してもらったよ」

少女「楽しみですねー」

男「ちなみによく知らない洋画だけど」


男「おお…」

少女「すごいアクションです」

男「…ん?」

少女「……あ…」

男(…ラブシーン、超気まずいんですけど…全年齢だからエロじゃないだけマシか)

少女「………」フンスフンス



154 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/20(木) 10:45:27 ID:DCb8HRZ.


………



少女「今日はオムライスを作ります」

男「手伝おうか」

少女「…と言っても、材料は相変わらず切ってありますね」

男「する事ないな」

少女「卵でも混ぜて下さい」

男「卵は『溶く』じゃない?」

少女「………」

男「………」


少女「普通に貸してくれましたけど、フライパンも凶器になりそうですよね」ニッコリ

男「ごめんなさい」



155 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/20(木) 10:46:41 ID:DCb8HRZ.


………



少女「今日は雨ですね」

男「よく降るな」

少女「梅雨ですから」


男「雨音って、結構好きだな」

少女「ああ、解ります」

男「こういう建物の中とか、バスの中とかから見る雨の景色も好きだ」

少女「うんうん。全然急いでない時に雨宿りして、ボーッと眺めるのとかもいいですよね」


男「要するに」

少女「自分が絶対濡れない安全圏にいる時の雨が好きです」

男「…だよね」



156 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/20(木) 10:47:56 ID:DCb8HRZ.


………



少女「これは?」

男「……マリーゴールド」

少女「全然違います、日々草です。じゃあ、これは?」

男「…ラベンダー?」

少女「色は近いですけど、ブルーサルビアです」


男「サルビアって、あの蜜を吸うやつか? 青いのもあるんだ」

少女「そういえば、ブルーサルビアの蜜は吸った事ありませんね」

男「吸ってみる」プチッ

少女「あっ、だめです! 千切っちゃ…」

男「…あ、結構甘い」チューチュー

少女「えっ……じゃ、じゃあ…私も」プチッ



157 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/20(木) 10:48:43 ID:DCb8HRZ.


………



男「暑くなったね」

少女「ここに来た時は、夜は寒いくらいだったんですけどね」

男「…もうそれだけ一緒にいるんだな」

少女「四ヶ月になろうとしてますから」

男「そりゃ、向日葵も随分大きくなるわけだ」


少女「……最初の花壇を造る時は、緊張しました」

男「園芸の事以外、全然喋らないんだもんな」

少女「…今は、うるさいですか?」

男「退屈しなくていいよ」

少女「あ、『うるさい』ってところ否定はしないんですね」

男「賑やかでいいよ」



158 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/20(木) 11:56:51 ID:IoiyWc7A


……………
………


…八月はじめ


少女「向日葵…満開です」

男「感無量だね」

少女「写真に撮れたらいいのに」

男「施設内は撮影禁止、カメラの貸し出しなんてもってのほかだろうな」



159 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/20(木) 11:57:23 ID:IoiyWc7A


少女「…男さん、もう一回お願いできますか」

男「何を…?」

少女「握手、今…もう一度して下さい」スッ


…ギュッ


少女「……震えてない…でしょ?」

男「うん」

少女「男さんは、怖くないです。もう不意に傍に来たって、びっくりする事はあっても怖くなんかない」

男「……うん」

少女「男さんの事を、心から信用してるからです」



160 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/20(木) 11:58:00 ID:IoiyWc7A


少女「だから、話します」

男「………」

少女「私の過去を知る人がいたって、その人を信じられるなら平気です」

男「…うん」

少女「でも、手を離して…後ろを向いてでもいいですか」


…スッ


少女「…私、男さん以外の人が怖いです」

少女「本当は…怖いのは、自分の方なのに」



少女「男さん、私……人殺しなんです──」



165 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/20(木) 19:51:08 ID:gzNelEMA


………



男(…それから少女は、途切れ途切れに過去を語った)


男(幼い頃の地元が○○県の△△市だという事、両親が離婚した後は若い母親と共に□□市に移り住んだ事)

男(決して裕福ではない家庭、数少ない楽しみの最たるものは、アパートの庭で母親と一緒にする花壇造りだった事)


男(中学の終わり頃に母親が再婚した事)

男(しかし再婚相手の男性はすぐに職を辞め、やがて母親は水商売をするようになった事)


男(少女は後ろ向きのまま、表情こそ知れないが肩を震わせていた)



166 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/20(木) 19:52:21 ID:gzNelEMA


男(次第に母親はやつれ、娘である少女を気にかける事もしなくなっていったという)

男(そして高校一年の夏の夜、母親が家にいない時)

男(再婚相手の男性は部屋に忍び込み、寝ている彼女を乱暴しようとした)


男(彼女は必死に抵抗し逃げようとしたが、男性の力に敵うはずもなく)

男(再びベッドに倒され絶望した彼女は、覆い被さろうとする相手の頭を枕元にあったガラスの花瓶で殴った)


男(気を失い、伏せた男性)

男(…そこで逃げれば良かったのかもしれない)

男(しかし心の内で男性を憎んでいたであろう彼女は──)



167 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/20(木) 19:53:22 ID:gzNelEMA


少女「──我を取り戻した時には、血でベタベタになった花瓶を握って部屋に立ってました」

少女「最初、救急車を呼ぼうと思ったけど…あの人の頭部はもうまともな形をとどめてなかった」

少女「だから呼ぶのは、警察にしました」


少女「パトカーが来るまでの間、私…返り血を浴びたままで、もうすぐ咲く向日葵の手入れをしてたんです」

少女「きっと、花に触れるのは最後になると思って」


少女「男さん…ごめんなさい、さすがに怖いですよね。殺人犯と同室だったなんて」

男「同じだよ」


少女「…え……」

男「俺も人殺しなんだ、実の母親を…この手で刺した」



168 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/20(木) 19:54:07 ID:gzNelEMA


………



男「──母さんが殺してくれと願った時に、俺は包丁を渡されてたんだ」

男「できない…って断ると、母さんは心中するつもりで俺にかかってきた」

男「俺は無意識にも抵抗して……母さんを刺した」


男「母さんは何も手にしていなかった…包丁なんか使わなくても、抵抗はできたはずなのにだ」

男「もしかしたら心中する…俺を殺すつもりなんか、無かったのかもしれない」

男「ただ俺に殺されるために、そう装った…それもあり得る」

男「正当防衛が成り立つ状況じゃなかった、事故とも呼べなかった」


男「俺は…君と同じ、人殺しだ」



169 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/20(木) 19:55:09 ID:gzNelEMA


少女「違います、男さんはお母さんを殺したくなんかなかったはずでしょう?」

男「それなら少女だってそうだ。その人に襲われるなんてきっかけが無かったら、殺したりはしなかった」

少女「でも私は自分が危機を脱してから、あの人を殺した…とどめを刺したんです」


男「君は俺の口から『お前は人殺しの犯罪者だ』と言って欲しいのか?」

少女「…事実…ですから」

男「違うだろ、そんな言葉…誰よりも自分が自身を責める時に、何度となく心で呟いたはずだ」

少女「………」


男「俺は君に言われるまま、君に依存した。カウンセラーの言った『絶対的な味方』を手に入れた」

少女「男…さん…」

男「だから俺は、君の絶対的な味方になる」



170 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/20(木) 19:56:11 ID:gzNelEMA


男「例え誰が君を責めようと、法が罪を定めようと…俺は認めない」


ギュッ…

男「君は犯罪者なんかじゃない」

少女「…うっ…うぅ…っ…」グスンッ


男「俺は…解るよ」

少女「…は…ぃ」

男「誰かに、そう言って欲しかったろ」

少女「……ぅ…」コクン


男「…何回でも、いつでも言うから」

少女「ありが…と…ぅ…」グスッ



171 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/20(木) 19:57:02 ID:gzNelEMA


男(少女は俺の腕の中で、ずっと泣いていた)

男(監視カメラで見られているのは分かっていたが、それを理由に腕を解く気にはならなかった)


男(二人ともが本意でなくとも人を殺めた過去をもち、その記憶を共有している)

男(それは俺の依存願望を強く満たしていると思う)

男(きっとそのレベルは一線を超えているだろう)


男(だから、この生活は終わる。施設は俺達を一緒にしておかない)

男(華奢な肩を抱き締めながら、俺はそんな事を考えていた)



172 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/20(木) 19:57:51 ID:gzNelEMA


……………
………


…半月後、施設館内


白衣「昼食の後で眠たいかもしれないが、まあ…座ってくれ」

男「……初めてですね、二人揃って呼び出されるのは」

少女「………」


白衣「少女くん」

少女「!!」ビクッ

白衣「……その様子だと、私が怖いようだね」

男「変な味利きはやめてくれませんか」

白衣「すまない、だが少し確かめたくてな」



173 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/20(木) 19:58:41 ID:gzNelEMA


白衣「四ヶ月ちょっと…か、この施設での君達を見てきた。随分と変わったね」

男「………」


白衣「それぞれの症状の事、そして過去の事は…話しているのか?」

男「…ええ」

少女「………」コクン


白衣「そうか、それなら話す内容をぼかす必要は無いな」

男「彼女に不躾な事は言わないで下さい」

白衣「……気をつけよう」



174 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/20(木) 19:59:27 ID:gzNelEMA


白衣「まず…男くん。君は我々の予想通り、彼女に依存している」

男「…否定はしません」

白衣「君自身の意識の中で、その関係が恋人のそれか兄妹のそれに近いかは解らないが…はっきり言おう」

男(……離れろ…って?)


白衣「…正直、安堵している。君の依存のレベルは、我々が理想とした程度に留まっていると思う」

男「えっ…」


白衣「君が前の施設で数名のカウンセラーに心的依存の症状を見せた時、それは相手に『頼りたい』『護って欲しい』という願望が強かったと診断している」

男「はい、そう聞いています」


白衣「だが今の君の依存の方向性は、相手に頼り頼られる…相互の関係を築いていると見た」

男「………」

白衣「君がその種の依存関係を築くためには、自分と同年代…できれば少し年下の相手が必要だと我々は判断したが、正解だったようだ」

男「…はい」



175 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/20(木) 20:00:20 ID:gzNelEMA


白衣「…次に、少女くん。君は他者に対する恐怖心を強く抱いていたね。前の施設では、それはとても顕著なものだった」

少女「………」

白衣「だがこの数ヶ月で、少なくとも相部屋の彼に対する恐怖心は拭えた。しかも相手は男性だ、これは大きな進歩だよ」

男(まさか、施設から出られるのか…?)


白衣「しかし…さっきの様子から察しても、まだ彼以外の者への恐怖心は払拭できていないようだね」

少女「…はい」

白衣「明らかな進展は認められるが、もう少し様子を見る必要がありそうだな」

男(どうなる…このまま、現状維持なら御の字だが…)



176 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/20(木) 20:01:04 ID:gzNelEMA


白衣「総合的に見て、近々…次の段階に移りたいと思うのだ」

男「次の段階…」


白衣「ああ、二人とも『別の人物に対しても同じ関係を築けるか』を判断する」


男「!!」

少女「……えっ…」


白衣「二週間後、君達は棟を変わってもらう事になるね」

男(つまり、それは…)

少女「あ、あの…っ」



白衣「そう、二人とも『新しいパートナー』との生活に入ってもらう」



177 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/20(木) 20:47:26 ID:gzNelEMA


男(ふざけやがって……外に出られるわけでも、現状維持でも個室に戻されるでもなく)

男(よりにもよって、新しいパートナーだと?)


白衣「…せっかく馴染んだのに寂しいだろうとは思うが、どうか理解して欲しい」


男(少女のパートナーがまたオトコである可能性もある……いや、その可能性の方が高いだろ)


白衣「少女くんが、男くんにしか気を許せないというのでは…とても社会復帰は不可能だ」


男(さんざん依存させておいて取り上げるだけじゃなく)


白衣「男くんの経過は、まずまず良好だ。どちらかと言うと特に少女くんの為の措置である…そう考えて欲しい」


男(他の誰かの下へ去る彼女を、笑顔で見送れってのか──)



178 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/20(木) 21:01:09 ID:/sJeInrI


白衣「男くんには辛いかもしれんが…解ってくれるね?」


男「……解り…ました」

少女「えっ…?」


男「よろしく…お願いします」ググッ…

少女「え…あの…男さんっ…?」

男「少女の新しいパートナーはできるだけ優しい、可能なら…花の好きな人にしてあげて下さい」


白衣「難しい注文だが、心にとめておくよ」

男「…お願いします」

少女「男さんっ!」



179 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/20(木) 21:12:06 ID:h2IPo18M


白衣「…今後の予定は追って伝えさせてもらおう」

男「はい」


少女「………」


白衣「では、部屋に戻りたまえ」

男「…行こう、少女」


少女「………」フルフル


白衣「どうした、少女くん」

男「……?」


少女「…ふざ…けないで…よっ」 ギリッ



180 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/20(木) 21:13:31 ID:h2IPo18M


少女「この施設にいる限り…私達は必要な治療を受ける義務があります…」

男「少女…」

少女「解ってる…そんな事、解ってます…私達は税金を使って治療を受けてる」

白衣「…その通りだ」


少女「それでも…嫌です」ポロッ

男「よせ…少女…」

少女「男さん以外の新しいパートナーなんか、私は欲しくないっ!」ボロボロッ


男「やめろ! 余計に悪い診断が下される──」

少女「構わない! 今のまま…そうでないなら独りぼっちでいい! 元の施設に帰して下さい!」



181 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/20(木) 21:25:30 ID:CHtSbo1g


白衣「……おめでとう、合格だ」

少女「……っ…?」

男「え…?」


白衣「謝ろう、本当にすまなかった。今の話こそが、最後の診断だったんだよ」

男「どういう…事ですか」

白衣「相互の信頼関係を築いた男くんが、その相手のためを考えて自らの理性を保てるか。また少女くんが、どこまで深く人を信頼できるようになったか…試させてもらった」


少女「…じゃあ、今の話は」

白衣「不合格であれば、本当にその処置をとる可能性もあったがね。その必要は無いようだ」

男「合格なら、どうなるんです」

白衣「おめでとう…と言ったはずだ」



182 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/20(木) 21:26:33 ID:CHtSbo1g


白衣「君達は間違いなく、人を殺めた」

白衣「しかしその経緯は大きく情状酌量の余地があるものだ。限りなく不幸な事故に近いと言っていい」

白衣「そんな若者が、長く施設に隔離される程に社会復帰の道を掴み難くなってゆく…それは悲しい事だ」


白衣「しかしながら君達のようなケースでは、自身が大きな心の傷を負っている事が多い」


白衣「そしてそれは思わぬ形で現れる事がある」

白衣「男くんの依存症状も少女くんの他者への恐怖心も、それ自体は社会復帰が不可能なレベルではない」


白衣「だが社会に出た男くんが誰かに強く依存し、不意にその対象を失いそうになった時」

白衣「そして少女くんが目の前の誰かに強過ぎる恐怖心をもった時」

白衣「その心の傷が自己を過剰に防衛しようとするかもしれない」

白衣「つまり不幸な事故が再現される可能性がある…という事だ」



183 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/20(木) 21:28:10 ID:CHtSbo1g


白衣「君達がそうなるとは限らないが、そういった事例は決して少なくはない」

白衣「だから長く施設に、保護の名を借りた隔離をせざるを得なかった」


白衣「…この施設はその期間を少しでも短縮するためのもの」

白衣「少し荒療治かもしれないが、君達が受けたような治療を施すために作られたんだ」

白衣「まあ…まだまだ、実験段階だがね」


男「期間を短縮する…じゃあ」

白衣「そうだ、君達には社会に戻ってもらう」

少女「男さんっ…」

男「少女…よかった…」



184 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/20(木) 21:29:07 ID:CHtSbo1g


白衣「ただし、今しばらくは監察の下に置く事となる…つまり一般の児童保護施設、いわば孤児院に入ってもらう」

男「孤児院…」

白衣「残念ながら二人とも、あまり頼りにできる身内はいないと聞いてもいる。それは仕方ないと思ってくれ」


少女「お…男さんとは? 同じ施設に入れるんですか…?」

白衣「それも…すまない、君達がそれぞれ住んでいた自治体の管轄する施設に入ってもらう事となる」

少女「そん…な…」


白衣「…まあ、そう気を落とさないでくれ。二人の地元はひとつ県を挟むだけと聞いている。男くんの歳なら通えない事もあるまい?」

男「そう…ですね」

白衣「失った期間の分、勉学にも励まねばなるまいが…今よりはずっと自由になるはずだ」

少女「…はい」


白衣「この施設が君達のような若者にとって救いとなれるか…それは今後の君達にかかっているといっていい。…期待しているよ──」



185 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/20(木) 21:29:58 ID:CHtSbo1g


……………
………


…二週間後


男「向日葵…ほとんど枯れちゃったな」

少女「………」コクン

男「午後には退所…か、孤児院ってどんなだろうな」

少女「…どうでも…いいです」


男「元気出せって、名前のイメージだけだけど子供とかもいっぱいいるんじゃないか。確か小さな子供は怖くないんだろ?」

少女「でも…男さんがいません」



186 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/20(木) 21:30:50 ID:CHtSbo1g


男「会えないわけじゃないよ」

少女「…会いに来てくれますか?」

男「個人情報保護の観点だとかで、お互いの入る施設の名前や詳しい情報は教えられてないけどな」


少女「答えて下さい、会いに来て…くれる?」

男「…うん」


少女「約束ですよ…? この情報社会ですもん、きっとインターネットとかで施設は調べられます」

男「そうだな。孤児院なんて、そんなにたくさんあるわけじゃないだろうし、およその目星はつくんじゃないか」

少女「だから、会いに来て下さい」

男「…きっと行くよ」



188 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/20(木) 21:31:27 ID:CHtSbo1g


少女「どうして『きっと』なんですか、絶対って言って下さいよ」

男「うん、絶対」

少女「…これじゃ、どっちが依存してるのか解らないです」

男「相互の関係…そう言ってたよ」


少女「離れてても男さんは、私の味方ですよね?」

男「それはもちろん、絶対的な味方だよ」

少女「…待ってますから」

男「うん…」



189 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/20(木) 21:33:00 ID:CHtSbo1g


………



男「お世話になりました」


白衣「元気で、何かあったら連絡をくれて構わない」

職員「施設の土地をあんなに綺麗な庭にしたのは、君達が初めてだよ。次に入る人には、できるだけ管理してもらうようにするからね」

少女「お願い…します」ペコッ


白衣「じゃあ、名残惜しいだろうが……それぞれのワゴン車に乗ってくれ」

男「はい」

少女「………」



190 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/20(木) 21:34:15 ID:CHtSbo1g


…バタンッ


少女「あの…窓は…」

運転手「うん?」

少女「窓、開けたいんですっ」

運転手「ああ、悪いが運転席からしか──」
少女「早くっ! お願いします!」


ウイィーーン…

少女「男さんっ!!」


男「…少女!」

少女「待ってるから…私、ずっと待ってるからっ!」

男「さよなら、少女…!」

少女「さよなら、ちょっとだけ…さよなら──!」



194 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/21(金) 00:15:36 ID:0.FupNiM


……………
………


…数日後、男の入所する施設


男(…やっと落ち着いたな)

男(この施設、悪い所じゃない…子供もいっぱいいるし)

男(きっと所員の人は知ってるんだろうけど、俺の過去に触れる人もいない…)

男(少女の施設も、こんなならいいな)



195 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/21(金) 00:16:25 ID:0.FupNiM


スポ刈「あ、兄ちゃん! キャッチボールやろうぜ!」

男「えー、昨日もしただろがよ」


メガネ「新入りにせっかく馴染むチャンスを与えてあげようとしてるのに…」

男「お前らが俺につきまとってるだけだろ、生意気言うな餓鬼共」


スポ刈「ちぇーっ、行こうぜメガネ」

メガネ「兄ちゃんのばーか!」

男「うっせえ、また相手してやんよ」



196 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/21(金) 00:17:32 ID:0.FupNiM


男(さて…何か施設の手伝いでも──)

男(…ん? ロビーのPCの前にいるのは)


ポニテ「………」

男「どうかしたの?」

ポニテ「あ、新入りのお兄ちゃん。えっと…ケンサクってどうやるのかなーって」

男「検索…? ああ、それならこのマークをダブルクリックして、出てきた窓に言葉を入力するんだよ」


ポニテ「ええと…」

男「ふたつ以上のキーワードで検索したい時は、間に空白を入れるんだ」

ポニテ「え…い…が……スペース? えっと……ぷ…り……『きゅ』ってどう打つの?」

男「はいはい『映画 プリキュア』ね」カタカタッ…ターンッ

ポニテ「わぁ! すごい!」



197 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/21(金) 00:18:46 ID:0.FupNiM


………



ポニテ「ありがとう、お兄ちゃん! こんどプリキュアのこと教えてあげるねっ!」フリフリ

男「お、おぅ」

ポニテ「じゃあね! パソコン、使っていいよー!」


男(PCか…インターネットねぇ…)


…カチカチッ
カタタッ…カタタタッ


男「………」



198 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/21(金) 00:20:15 ID:0.FupNiM


男(…本当に会いに行くつもりか?)


男(きっと彼女の施設の人も、過去に触れるような事はしないだろう)

男(でも俺が会いに行ったら、どうなる…?)

男(素直に会わせるだろうか)

男(彼女の過去を知り、そして同じ過去をもつ俺を…)


男(その施設にとって、そんな訪問者は招かれざる者なんじゃないか)

男(…彼女がそれを呼び寄せる元凶だとでも捉えられたら)


男(……ずっとじゃない)

男(俺も彼女も大人になって、施設を出る時が来たら…いくらでも会えるはずだろ)

男(それまでは──)



199 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/21(金) 00:21:06 ID:0.FupNiM


……………
………


…翌春


ポニテ「お兄ちゃん、何するの?」

男「うん、施設長さんには許可をとったから…」

スポ刈「何のだよー」

男「いいから、ほら…スコップ持て。メガネもだ、ポニテちゃんは後であんまり力の要らない仕事をしてもらうからな?」



200 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/21(金) 00:21:59 ID:0.FupNiM


メガネ「スコップ大きいー、重いー」

男「それでも男か、しゃんとしろ」

スポ刈「いぇーい! メガネ、チャンバラやろーぜ!」

男「危ねえ! スコップ振り回すな!」


ポニテ「それで、本当に何をするの…?」

男「よし、準備ができたところで教えてやろう……これからここに、花壇を造るぞ!」


ポニテ「花壇…お花植えるところ?」

メガネ「材料もないのに」

男「あるんだなー、これが。目の前にいっぱい」

ポニテ「?」



201 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/21(金) 00:23:33 ID:0.FupNiM


スポ刈「…なんか面白くなさそうだなー」

男「いやいや、意外と楽しいもんだぞ? よっし…じゃあこの範囲を30cmの深さで掘って、土を移動だ!」


ポニテ「30cmってどのくらい?」

メガネ「大人の靴の長さくらいだよ」

スポ刈「まじかよー!? ここ、土が固いから花壇なんて無理だって…石ころだらけなんだぞー」


男「ふっふっ…その石ころが重要なのだよ」

メガネ「意味わかんない」

スポ刈「俺、パス。サッカーやるわ」

ポニテ「えぇー、一緒にやろうよ…ねっ?」ウルウル

スポ刈「しょ…しょうがねえなぁ…」テレッ



202 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/21(金) 00:24:48 ID:0.FupNiM


……………
………


…数日後


スポ刈「この位のはどーする?」

男「おう、それ石積み用な。あっちに置いといて」

メガネ「掘った土、崩し終わったよー」

男「うん、ポニテちゃん熊手で石ころを選り出してくれ」

ポニテ「はーい」


スポ刈「ちょっと俺、トイレなー」

メガネ「サボんないでよー?」


男「じゃあ、俺はあっちで石積みの続きやってるから、怪我すんなよ」



203 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/21(金) 00:26:59 ID:0.FupNiM


男(──少女、今…俺は子供達と一緒に花壇を造ってるんだよ)

男(去年の春、君が教えてくれた方法で…同じように)


男(ある意味、今…俺はあの子達に依存してるのかもしれない)

男(子供達も俺を小馬鹿にしつつも慕ってくれてる、相互の関係が築けてると思うんだ)

男(君とはまた違う存在として、絶対に護ってやりたい…味方になってあげたい)


男(…怒らないよな?)


男(寂しくない…会いたくないって言えば、嘘になるけど)

男(いつか君を迎えに行ける日まで、俺は俺で頑張るから)

男(きっと…待っててくれ──)



204 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/21(金) 00:31:49 ID:0.FupNiM


………



スポ刈「ふうっ、スッキリスッキリ! これで力が入るぞー! …って、忘れるとこだった。施設長が兄ちゃんを呼んでくれって」

男「俺を? …何だろ」


メガネ「早く行かないと、施設長怖いよー?」ニヤリ

スポ刈「なんか悪い事してて、もう怒ってるかもよ?」ニヤニヤ

ポニテ「もーう、お兄ちゃんは怒られるような事しないよー」


男「うん…まあ行ってくるわ、本当に怪我だけは気をつけてやってろよ?」

三人「はーい」



205 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/21(金) 00:32:30 ID:0.FupNiM


………



…ガチャッ


男「…失礼します」

白衣「おお、久しいな。元気にしているようだね」


男「お久しぶりです、どうしたんですか?」

白衣「いや、ちょっと君の様子をね……どうだい、彼女には会いには行ったのか?」

男「…いいえ」



206 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/21(金) 00:33:20 ID:0.FupNiM


白衣「ほう…どうして行かない」

男「この施設で、僕の過去に触れる方はいませんでした。…きっと彼女の所でも一緒じゃないかと思います」

白衣「…うむ」

男「そこへ過去を知る俺が行くのは、施設にとって…そして彼女にとっても脅威にしかならないと思いました」


白衣「もし彼女が新しい環境に悩んでいたら、力になってあげたくはないかね…?」

男「それは…そうですけど、でも逆に新しい環境に適応し始めているとしたら、それを壊したくもありません」


白衣「素晴らしい、完璧だよ」

男「…はい?」



207 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/21(金) 00:34:24 ID:0.FupNiM


白衣「…また謝らねばならんな、君が彼女の下を訪ねなかった事は知っていたんだ」

男「相変わらず、人が悪いですよ」

白衣「まあ、責めてくれるな……それからこの施設のPCで、彼女の施設に関する情報を検索した形跡も全く無いと聞いている」

男「…はい」


白衣「重ねて、すまない。今日、ここを訪れたのは紛れもない…君の症状についての最終判断をするためだ」

男「最終って、前も聞きましたよ」

白衣「だから謝っているんだよ。だがまあ…監察下に置かれるというのは、そういうものだ。どうか、許してくれ」



208 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/21(金) 00:35:08 ID:0.FupNiM

男「いつか、彼女の事は調べます。…会いに行きますよ、お互いに施設を出られるくらい大人になったら」

白衣「今は通信制の高校に再入学しているそうだね」

男「はい、できれば将来は保育士になりたいです。…園芸や造園の方面も興味はあるんですけど」

白衣「なるほど、頑張っているんだな」


男「あの…ところで…」

白衣「なんだね?」


男「格好つけた事を言っておいてアレなんですけど……彼女の事、話だけなら聞きたいです。どうしてるか、知りませんか」



209 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/21(金) 00:35:54 ID:0.FupNiM


白衣「ああ、彼女は…あまり状態は変わっていないね」

男「そう…ですか」


白衣「君と同じように通信制の高校には入学したが、どうしても他者への恐怖は拭いきれないようだ」

男「………」

白衣「やはり、君のような心を許せる相手が傍にいて、他者との橋渡しをしてやる方がいいのかもしれんな…」

男「…会いたくなっちゃいますね」


白衣「うむ…君はさっき、大人になってから会いに行く…と言ったね」

男「…ええ、それが?」

白衣「ちょっと…また、謝らねばならんかもしれんな──」



210 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/21(金) 00:36:34 ID:0.FupNiM


………



スポ刈「おりゃーっ! こんなもんだろっ!」


メガネ「まだ深さが足りないんじゃない?」

スポ刈「いいんだよ、サボってる兄ちゃんが悪いんだ」

ポニテ「お兄ちゃんはサボってるんじゃないでしょ?」


スポ刈「…あれ? あの人、誰だろう…」

メガネ「こっちにくるぞ」



211 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/21(金) 00:37:38 ID:0.FupNiM


「…こんにちは」

三人「こんにちはー」


ポニテ「あの、お姉ちゃん…誰?」

「うん、今日からここの施設に入る事になった新入りなんだ。…よろしくね」


メガネ「お、早くも兄ちゃんの子分ができたな」

スポ刈「よっし…新入り、花壇造りを手伝わせてやろう」

ポニテ「だめだよ、無理矢理させたらお兄ちゃんに怒られるよ?」



212 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/21(金) 00:39:02 ID:0.FupNiM


「あはは…大丈夫だよ、きっと。…ところで、この花壇には何の花を植える予定なの?」

スポ刈「決まってない」

メガネ「…ってか、兄ちゃん花の苗を買うお金無いって言ってた」


ポニテ「じゃあ種からかぁ、時間かかりそう」

スポ刈「種も買えないんじゃね?」

メガネ「こないだ『喉が渇いたー』って言いながら、自販機の横の水道の水飲んでたもん」


「あらあら…じゃあ、お姉ちゃんがいいものをあげようかな」

ポニテ「いいものって?」

「ほら、これだよ」ガサッ



213 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/21(金) 00:40:04 ID:0.FupNiM


メガネ「あ、種だ!」

スポ刈「これ、リスが食うやつだ」

ポニテ「もしかして向日葵? 私、大好き! この種、どうしたの?」


「この種は、去年の向日葵から収穫したんだよ」

ポニテ「自分で育てた向日葵の?」


「うん…とっても大切な人と一緒に、手造りの花壇でね──」




【おわり】




2014.3.25追加

この先は本来なら書かないつもりだったはずの後日談ですが、コメントで多く要望を頂戴したため、追記しました。

あくまで蛇足的なものになりますので、ここで終わった方が良いと思う方は読まない事をお勧めします。

実際、続きはいくらでも考えられます。これはそんな続きの内、あり得るかもしれない1パターン。

読まれる方がこの展開でいいと思えばそれで構いませんし、そうじゃなく自分的にはこう…と感じればそれが正解で構わないです。














214 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/25(火) 00:00:00 ID:te-i_and_to-u


……………
………


…8月中ごろ


カタタン、カタタン…


少女「電車なんて、すごく久しぶりです」

男「うん、俺もだよ」

少女「あの、さっきも朝ご飯払ってもらったけど…大丈夫ですか?」

男「知ってるだろ? 盆前まで郵便局で配達の夏季バイトしてたの」

少女「それは…まあ」

男「いいんだよ、たまには」



215 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/25(火) 00:00:00 ID:te-i_and_to-u


男「実際、施設の世話になってる身だからあまり贅沢なんて出来ないけど」

少女「それでも充分、毎日が楽しいですよ」

男「うん、でもこの程度…休日にたかが数時間の日帰りでどこかに行くくらい、許されてもいいだろ」


少女「…どこに行ってるんですか?」

男「こないだ新聞で見たところ」

少女「私は見てないですよ」

男「解ってる、内緒だから」

少女「…楽しみにしておきます」



216 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/25(火) 00:00:00 ID:te-i_and_to-u


………



男「いかにも田舎の無人駅だなー」

少女「こんなところで下車するのは初めてです」

男「それも、俺も同じ…かな。昔、親父が生きてた頃はあちこち行ったけど、車がほとんどだったから」


少女「私は小学生の頃には母と二人だったから、あまり遠くに出かけた事はないです」

男「そうか、そりゃ良かった」

少女「良かった…?」


男「うん、だってたくさん楽しい事が残ってる、これからそれを経験できるって事だろ」

少女「……はいっ」



217 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/25(火) 00:00:00 ID:te-i_and_to-u


男「確か○△行きのバスに乗るんだよ」

少女「えっ」

男「…どうした?」


少女「……日に4本しかないですよ」


男「げっ! そこまで調べてなかったな……でもよかった、1時間後にはあるぞ」

少女「ここで1時間ですか」

男「……まあな」

少女「何しましょう?」

男「…散歩?」



218 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/25(火) 00:00:00 ID:te-i_and_to-u


………



少女「男さん! あれ、水車です!」

男「おお…手作り感満点だね」

少女「水も綺麗…嘘みたい」

男「あっ、魚…オイカワかな」


少女「小川に足を浸けたら気持ちいいでしょうね」

男「どうぞ、止めないよ」

少女「え、どうしよう……」

男「いいんじゃない? サンダルだから脱ぐのも楽だろ」

少女「もう、日焼け止めが流れちゃうな…とか、女の子には色々あるんですよ」

男「また塗ればいいよ。足を浸そうかと思えるような川、地元には無いぞ?」



219 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/25(火) 00:00:00 ID:te-i_and_to-u


少女「じゃあ…そうしようかな」


男「…で、いつ後ろから押せばいい?」

少女「もうっ! 絶対やめて下さいよ…!」

男「押すなよ! 絶対に押すなよ!?」ニヤニヤ

少女「前フリじゃないですっ!」アセアセッ


………



男「どうー?」

少女「最初は痛いくらい冷たかったけど、だんだん慣れて気持ちいいです。男さんもどうですか?」

男「うん、でも先にちょっとな……そこで待っといてくれよ、すぐに戻るから」

少女「…はい?」



220 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/25(火) 00:00:00 ID:te-i_and_to-u


………



男「お待たせー」

少女「どこに行ってたんですか?」

男「ああ…さっき遠目に商店が見えたんだ」

少女「商店…?」


男「はい、半分こな」バリバリッ

少女「あっ、アイス」

男「懐かしのソーダバー、真ん中で割れるやつ。…よっ…と」サクッ

少女「わあ…川に足を浸けながらアイスって、なんかいいですね」


男「うーん……こっち」ヒョイ

少女「あ、ちょっと大きい方とりましたね」

男「いいんですー、買った者に大きい方をとる権利があるんですー」



221 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/25(火) 00:00:00 ID:te-i_and_to-u


………



お婆さん「…おや、こんにちは」

男「こんにちはー」

少女「こんにちは」ペコリ


お婆さん「地元の若い子じゃあないねぇ」

男「ええ、電車で来ました」

お婆さん「珍しいねぇ、何にも無いところじゃけど、ゆっくりして行きんさい」

男「いいところですよ、すごく」



222 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/25(火) 00:00:00 ID:te-i_and_to-u


お婆さん「兄妹かね?」


少女「えっ」


男「…そんなとこです」

お婆さん「違ったならごめんねぇ、もしかしてバスを待ってるのかい?」

男「はい、まだ30分もあるから…」


お婆さん「だったらあそこへ行くんじゃな? あの──」
男「わわっ! お婆ちゃん、ストップ! 内緒にしてるんですっ」

お婆さん「…ああ、そうかね。そりゃあすまんじゃった」

少女「……?」



223 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/25(火) 00:00:00 ID:te-i_and_to-u


お婆さん「でも、それなら油断せん方がええよ…? この田舎じゃからねぇ、バスはうんと早く着く事もある」

男「げっ、逃したら洒落にならないな」


お婆さん「まあ定時近くまでは停まっとるけどねぇ」

男「ありがとう、お婆ちゃん。ちょっと早目には行ってみます」

お婆さん「うん、それがええよ」


男「じゃあ、アイス食べ終わったらバス停に戻ろうか」

少女「はい」



224 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/25(火) 00:00:00 ID:te-i_and_to-u


………



男「暑いなー」

少女「………」


男「良かった、まだバスの姿はないな」

少女「………」


男「さすがにバスは冷房効いてるよな…?」

少女「………」


男「…少女?」

少女「………」


男「少女っ」

少女「はいっ!? …ご、ごめんなさい、ボーッとしてました」



225 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/25(火) 00:00:00 ID:te-i_and_to-u


少女「……お婆さん、兄妹って言いましたね」

男「ああ、まあそう見えても無理はないよな」

少女「そうですね」


男「実際、家族みたいに想ってるしな」

少女「家族…ですか」

男「もちろん施設の人はみんな家族みたいなものだけど、特に少女は」


少女「……ありがとう…ございます」

男「少女、だから…家族にそんな丁寧な言葉遣いは、要らないんだよ」

少女「うん…その内、なおしますね」



226 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/25(火) 00:00:00 ID:te-i_and_to-u


………



少女「バス、本当に早目に来ましたね」

男「お婆ちゃんの言う事きいといてよかったな」

少女「出発したのは定時になってからですけどね」

男「でも車内は涼しいよ」


少女「…どのくらい乗るんですか?」

男「15分くらいじゃないかな」

少女「じゃあ、もう少しですね」


男「道が悪いから、揺れるな」

少女「男さん…あのね」

男「ん?」

少女「さっきの…家族みたいって話なんですけど」

男「…うん」



227 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/25(火) 00:00:00 ID:te-i_and_to-u


少女「私は…少し違──」

男「──あっ」

少女「?」

男「少女、目を瞑ってて」

少女「えっ…?」パチッ


男「…たぶんすぐにバス停だから、そのまま」

少女「……はい」



228 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/25(火) 00:00:00 ID:te-i_and_to-u


ブロロロロ…キィッ…
…プシュー


男「少女、目を瞑ったまま…手を引くから」

少女「怖いですよぅ」

男「そーっと、そーっと…はい、段差あるよ。もう二段、一段…おっけー」


少女「……何なんですか?」

男「はい、じゃあそのまま向きを変えて…こっちこっち。まだ、目を開けるなよ?」

少女「………」


《…発車します》
ブロロロロロッ……



229 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/25(火) 00:00:00 ID:te-i_and_to-u


男「俺達が…ポニテちゃん達と一緒に造った花壇が一番だってのは解ってる」

少女「はい?」

男「でも別物だよ、これは」

少女「どういう──」
男「──少女、目を開けろ」


ザアッ…
…ザワザワ


少女「……!!」



230 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/25(火) 00:00:00 ID:te-i_and_to-u


男「写真で見るより、ずっとすごいな」

少女「向日葵畑…! 辺り一面…どこまでも…!」

男「真ん中に見晴らし台があるって。…手を」


──ギュッ


少女「あっ…」

男「行こう」

少女「…はい」



231 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/25(火) 00:00:00 ID:te-i_and_to-u


少女「すごい、私の背より高い…」

男「俺より高いのも多いよ」

少女「向日葵のトンネルみたいです」

男「あの階段かな」


トン、トン、トン…


少女「うわぁ…!」

男「これは壮観だな」

少女「すごい…! すごいっ!」



232 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/25(火) 00:00:00 ID:te-i_and_to-u


少女「………」グスッ

男「なんで泣くよ」

少女「こんな日…来ないと思ってた…」ポロッ

男「…俺も、そう思った」


少女「男さん…ありがとう、私…男さんと会えてよかった…です」

男「よせよ、照れる」

少女「…兄妹でこんな事言うの、おかしいですか?」

男「兄妹…か」



233 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/25(火) 00:00:00 ID:te-i_and_to-u


男「俺、少女の事…本当に家族みたいに思ってるよ」

少女「…はい」


男「でも、妹みたいに思ってるのかっていうと…合ってるような、違うような」

少女「……?」


男「だって妹なら、いつか少女が誰かと恋をするのを喜んで見守ってあげなきゃいけない」


少女「男さん…」

男「格好悪いけど、俺の依存願望は…そんな事を許さないんだ」



234 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/25(火) 00:00:00 ID:te-i_and_to-u


男「それでも、じゃあ今…俺が君に恋をしてるかって訊かれたら……それも違う」

少女「それでいいです。…自分に依存してって望んだのは私ですから」


男「だから、これからだよ」

少女「はい…?」



男「俺は今から、君と恋をしたいと思うんだ──」



235 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/25(火) 00:00:00 ID:te-i_and_to-u


……………
………


…数年後


「──写真だけって方も、最近は多いですよ」

「はい、よろしくお願いします」


「衣装とかは提携してるところがありますから、かなりの数から選べます」

「後で行ってみますよ」

「あとは…小物ですね、中には買い取りになるものもありますが」

「…それくらいは記念ですから」

「ヴェールとか、ブーケとか…あと…」


「あ…ブーケなんですけど」

「はい?」


「僕達の、手作りのブーケを使いたいんです」

「ああ…いいんじゃないですか、何もかも自前でって言うと嫌な顔されたりしますけど、ブーケくらいは」

「そうですか、よかった」

「でも、似つかわしくない花もありますからね…念のため、何の花で作るんです?」



「…向日葵です」




【おわり】




.

テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

  1. 2014/03/21(金) 11:29:26|
  2. 男女SS
  3. | コメント:32

ひとつになれるその日まで(原題/俺と幼馴染と幼馴染 第1~3部全編)

この作品はSS深夜VIPのスレ『>>1のみを書くスレ』のレス番749からネタを貰っています。


1 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/12/14(土) 19:37:02 ID:zavYEJk6


……………
………



俺の幼馴染は、二重人格だ。

午前中と午後で、人格が変わる。

ただ周りの人には多分わからないと思う。

なぜなら…


幼馴染「ねえ、男…久しぶりにマリオパーティーやろうよ」

幼馴染『ねえ、男…久しぶりにマリオパーティーやろうよ』


性格も好みもほとんど変わらず、幼馴染が二人いることに気づかないだろうから。


男(…マリオパーティー、昼飯の前にやってたんだけどな…)



2 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/12/14(土) 19:38:17 ID:zavYEJk6


幼馴染「ああー、勝てないー!」

男(…なんで同じ日に同じゲームをやりたがるかな)

幼馴染「ちょ、ちょっともう一回!もう一回やろう!」


さっき二人の彼女の差異が『ほとんど』無いと表現したのは、そのまんまの意味…最近になって判り始めてきたごく小さな違いがあるからだ。


幼馴染「…また、負けた…もういいや…」


例えば午前中の彼女は、この連敗になかなか屈する事なく更に数回以上のリスタートを要求してきた。


幼馴染「…音楽でもかけよっか」


でも、その後でとる行動のパターンは同じ。

やはり微々たる違いに過ぎない。



3 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/12/14(土) 19:39:42 ID:zavYEJk6


いつから二重の人格をもつようになったのかは、はっきり判らないらしい。

その事を俺に打ち明けてくれたのは半年ほど前の事。

彼女は親にさえ話していないから、俺だけが知る秘密という事だ。


なぜ親や先生、そして医者に相談しないのか…最初は半信半疑ながら俺もそれを彼女に尋ねた。

その時の答えは『困っていない』という理由と、もうひとつ…今の環境を変えるのが怖いというもの。


確かにその症状が精神的な疾病であると診断されれば、彼女の生活は随分と変わってしまうだろう。

それを思うと、俺としても受診を勧める気にはなれなかった。



4 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/12/14(土) 19:40:15 ID:zavYEJk6


幼馴染「男、今日は晩ごはん食べてく?」

男「うん…ご馳走になろうかな」

幼馴染「じゃあ、お母さんにそう言ってくる」


ぱっと顔を明るくした彼女は、日記帳をぺらぺらとめくって確認してからドアの向こうに消えた。


午前中の彼女の記憶は、今の彼女には無い。

しかし彼女はそれぞれの時間帯での大事な出来事を、一冊の日記帳で共有するように努めている。

おそらく今、確認したのはここ数日の午前中の食事の記録。

ついこの前食べたものを希望メニューとして母親に告げれば、不審に思われる可能性があるからだ。

でもさすがに午前中、何のゲームをやって遊んだかまでは記入していないのだろう。


男(まあパーティーゲームに二回付き合うくらい、安い御用だしな)



5 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/12/14(土) 19:41:34 ID:zavYEJk6


夕食をご馳走になって、その後もう少しだけ彼女の部屋で寛ぐ。

今日は土曜日、明日も学校は休み。

高校で美術部に所属する俺達は、休みの日まで活動をするほど真面目な部員ではない。


幼馴染「本当は遅れ気味だから、描かなきゃいけないんだけどね」

男「俺はもう今度の作品、ほぼ出来てるからな。余裕あるぜ」

幼馴染「じゃあ、手伝ってよ」

男「それじゃ提出できなくなるだろ」


この話は午前中の彼女とはあまり出来ない事だ。

美術部員としての幼馴染は、放課後を活動時間に含む事のできる午後の彼女が占める割合が高いから。



6 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/12/14(土) 19:42:06 ID:zavYEJk6


…そして。


幼馴染「…男」


彼女がそっと俺の肩に寄り添う。

俺はその頭を撫でて、少しの後に柔らかくキスをした。

俺達が恋仲になったのは一ヶ月ほど前の事だ。

その前から限りなくそれに近い関係ではあったのだけど。


ただひとつ、小さくて大きな問題がある。

午後の彼女が俺に想いを打ち明けてくれて、晴れて付き合うようになった…その事を午前の彼女は知らないのだ。


何故か午後の彼女は日記帳でその事を伝える事はしなかったらしい。

どうやらそれぞれの彼女には、各個人としての独占欲があるようだった。



7 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/12/14(土) 19:43:05 ID:zavYEJk6


午前の彼女とも同時に、同じ関係を持つようにすれば良かったのかもしれない。

でもそれは『午後の彼女がこうしたんだからお前もそうしろ』と言っているのと同じ。

例え俺が何か嘘をついても『午後はこうした』と言えば午前の彼女も従わざるを得ない…それは違うと思った。


男「じゃあ、帰るわ…隣だけど」

幼馴染「うん…また明日も会おうね?」

男「ああ、多分…駅前くらいかな」


明日は朝から一緒に町に出る予定だ。

ちょうど正午に切り替わる二人の人格、次に今の彼女に会うのはおそらく駅前で服を見た後だろう。


幼馴染「…朝マック、食べてみたいなあ」

男「うん…今度、買っといてやるよ」

幼馴染「おやすみ…男。…いつもおはようが言えなくてごめんね」

男「そんな事、気にすんなよ。…おやすみ」


午前のお前に言って貰ってるから構わない……多分、それは言わない方がいいのだろう。



14 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/04(土) 22:10:17 ID:Rp7hqP3I


……………
………


…翌日


幼馴染「おはよう、待った?」

男「おー、おはよ。待つも何も、自分の家にいたし」

幼馴染「だよねー。いいよね、お隣り同士って」

男「今に始まった事じゃないだろ」

幼馴染「そういう時は素直に同意しなさい!」ドスッ

男「うぐっ」


慣れたやりとりを交わしながら、いつものバス停へと向かう。

そこから駅前までは二十分ほど、とはいっても距離はさほどでもない。

交通量の多い道ばかりを通るからその位かかるというだけで、もしかしたら自転車の方が早く着く可能性もある。



15 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/04(土) 22:11:21 ID:Rp7hqP3I


駅前に着いたのは九時頃。

昨日そんな話をしたからというわけではないけど、朝マックを食べる事にする。

俺はいつもソーセージと卵のマフィン、彼女は日によって違うものをチョイスするが、今日は同じものがいいとの事だった。


幼馴染「ここ、空いてるよ」

男「んー、表通りに近すぎるからパス。もうちょい奥に行こう」

幼馴染「あはは、大口開けて食べてるの見られるのは何か嫌だもんね」


少し奥まった所のテーブル席に座り、他愛もない事を話しながらゆっくりと朝食を摂る。

当たり前だが、食べるペースは俺の方が早い。

話にキリがついた頃を見計らい、まだ彼女が食べ終わるには多少の時間がかかる事を確認して、俺は自分のマフィンの残りを口に押し込んだ。


幼馴染「そんなに詰め込んだら喉に詰まるよ?」

男「う…ん……ん………ぷはっ、大丈夫だって。悪りい、ちょっと花摘んでくるわ」

幼馴染「乙女ですか」



16 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/04(土) 22:12:06 ID:Rp7hqP3I


席を立ち、トイレのある方へ向かう……が、本当はそこに用は無い。

わざわざ奥まった席を確保したのは、この行動を幼馴染に見せないためだ。


店員「いらっしゃいませ、こちらでお召し上がりですか?」


ええ、こちらで召し上がってます。


男「ソーセージエッグマフィン、単品で一個。持ち帰りで」

店員「畏まりました」


良かった、ついさっき同じ物を注文した奴だという事はバレていないみたいだ。

どれだけこのマフィンが好きなんだと思われてしまう。

間も無く出てきた紙袋を受け取り、肩から提げた小さなスポーツバッグに押し込む。


男(……潰さないように気をつけなきゃな)



17 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/04(土) 22:12:46 ID:Rp7hqP3I


彼女が食べ終わって更に少し話をしている内に、駅前の店がオープンする時間になった。


今日は服を見るという漠然とした目的はあれど、他に定めた予定は特に無い。

その『服を見たい』という希望を唱えたのは午前中の彼女だから、その用事は昼までに終わらせる必要がある。


とはいえ、そう時間に迫られているわけでもない。

ぶらぶらと目にとまった店に立ち寄りながら、何を買うでもなく冷やかしだけ。


幼馴染「あ、これ可愛い」

男「うん、言うと思った」

幼馴染「うわ、予想されてた」

男「ふっふっふ、わからいでか」


気の向くまま雑貨屋に寄ったり、靴屋に寄ったり。

目的としていた服の店に入る頃には午前11時が近付いていた。



18 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/04(土) 22:13:28 ID:Rp7hqP3I


男「なんか目当てがあんのか?」

幼馴染「無いよ。でもそろそろ冬物が安くなる頃だから……あ、これどう思う?」

男「似たようなの持ってる気がします」

幼馴染「むう……鋭いね」

男「さっきもそうだったけど、お前の好みはおよそ解ってんだって。ちっとは冒険してみたら?」

幼馴染「じゃあ選んでよ」

男「それ、すげえ文句言われそう……」

幼馴染「辛口ですよー、えへへ」


余計な事を言ったな……と後悔しつつ、女物の服をあれこれと品定めする。

要するに普段はこいつが着ないような、それでいて俺好みな服を選べばいいという事だ。

俺の趣味どストライクな服を着てくれるとしたら、それはそれで悪くはない。



19 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/04(土) 22:14:08 ID:Rp7hqP3I


男「これは?」

幼馴染「うーん、そういうゆるふわな感じのは自分じゃ選ばないなぁ……似合うのかな、私に」

男「羽織ってみろよ」

幼馴染「ま、一応……ね」


彼女は今着ているアウターを脱ぎ、きょろきょろしている。

どこか掛けておくところが無いか探しているのだろう。


男「貸せよ、持っとくから」

幼馴染「おお……男がそんな気を利かせるとは」


ちょっと失礼な事を言われた気がするが、まあ気にはしないでおこう。


差し出されたそれを受け取り、代わりに俺が選んだファー付きのショートコートを手渡す。

彼女は少しの間しげしげとそのコートを見て、小さな声で「こういうのが好みなんだ」と呟いた。

俺も同じ位のボリュームで「悪いか」と呟いておいたが、聞こえただろうか。



20 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/04(土) 22:14:45 ID:Rp7hqP3I


幼馴染「……どう、でしょう?」

男「いいと思います」

幼馴染「どういう風に?」

男「えーと……新鮮で」

幼馴染「私は生鮮食品ですか」


自分でも解ってる、今のは照れ隠しだ。

恋仲という関係である午後の彼女になら、もっと素直な感想を言えたはず。


じゃあどうする、今の彼女には言わないのか……?


男「まあ、その……あれだ」

幼馴染「どれ?」


そんな差別、したくはない。


男「……俺好み、ではある」

幼馴染「お、照れてる」

男「うるせえ」

幼馴染「私も照れてる」



21 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/04(土) 22:15:23 ID:Rp7hqP3I


男「……予算的には合うのか?」

幼馴染「ギリギリ圏内……いや、ちょいオーバーかな……いやいや」

ここで「少し足してやるよ」とでも言えば株も上がるのだろうが、それは難しい。

幼馴染「うーん……いいや、買っちゃおう!お年玉だもの!」

男「ああ、それで服買う余裕があったのか」


結局、彼女はそれを購入した。

俺の趣味も悪くは無かったようで、少し安堵する。


ふとレジの奥の壁に掛けられた時計を見ると、もう午前11時半を回っている。

彼女が『今の彼女』でいられる時間は残り少ない。

店を出た後、携帯の時計を気にしながらゆっくりと歩道を歩く。



22 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/04(土) 22:16:04 ID:Rp7hqP3I


そして午前11時50分。

俺達は街路樹の下に設置された石造りのベンチに腰掛けた。

午前と午後の彼女が入れ替わる時はできるだけ座っていた方がいい。

立っていたり、ましてや歩いてなどいると不意に転ぶ事があるからだ。

自分に置き換えて考えても、例えば眠りから醒める時、いきなり歩いてなどいたら次の一歩をまともに出せるとは思えない。


彼女はバッグから日記帳を取り出し、さらさらと文字を書き込む。

やがて手を止め、ペンの頭を唇に当てて少し思案した様子を見せて。


幼馴染「……あのね、勝手な事を言うんだけど」

男「うん?」

幼馴染「さっき買った服の袋……この後、男が持ってくれる……?」

男「そりゃ、いいけど」

幼馴染「今日は男が自分の家に持って帰って欲しい……それで明日の朝、私に渡して欲しいの」



23 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/04(土) 22:16:37 ID:Rp7hqP3I


幼馴染「ごめんね、変な事を言ってると思うんだけど」

男「……いいよ」

幼馴染「お願い…します」


このまま彼女がこの服を持っていたら、午後の彼女は遅くとも家に帰れば袖を通してみるだろう。

もしかしたらその姿を俺に見せようとするかもしれない。

今の彼女には、それが腹立たしく思えるに違いない。

例え店先で一度は着て見せていたとしても、本当ならインナーも合わせたものにしたいはずだ。


幼馴染「次の休みに会う時は、これ着るからね」

男「どんな着こなしにするか、楽しみにしとく」

幼馴染「もう、変なプレッシャーかけないでよー」


きっと、その姿は自分が先に見せたいのだろう。



24 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/04(土) 22:17:12 ID:Rp7hqP3I


携帯のディスプレイは午前11時59分の文字を表示している。


幼馴染「男、楽しかったよ」

男「うん」

幼馴染「明日の朝、また迎えに行くからね」

男「いつも通り早目に、寝てたら起こしてくれよな」

幼馴染「うん、それは私の仕事だから」


少し会話が途切れる。

彼女は小さな声で「ええと」「それから」と呟いている。


幼馴染「だめだ、纏まらないや……もっと、話したかったな」

男「また、明日な」

幼馴染「うん、また…明日ね」


少し切なげに笑う午前の幼馴染。

そして携帯の表示は12時に変わった。



30 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/06(月) 01:33:01 ID:ijHrhwqA


座った体勢のまま、幼馴染の上半身が少しフラつく。

慌てて手を差しのべようとしたが、幸いそこまでの必要は無かったようだ。

俺の姿を視界に捉えた彼女は、満面の笑みを見せて口を開いた。


幼馴染「男、会いたかった」

男「半日ぶりの再会で言う台詞か」


真昼に目覚めた午後の彼女は、いつもまず一番に日記帳に目を通す。


幼馴染「バスで来てるんだね」

男「ああ、自転車で来るには寒いからな」

幼馴染「この辺りのいつもの店には、もうだいたい寄ってるんだ?」

男「見たけりゃもう一度寄ってもいいけど」

幼馴染「まだお昼は食べてない……か、ちょっとお腹減ってるもん」

男「そうだな、朝を食べたのはもう三時間近く前だから」



31 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/06(月) 01:33:49 ID:ijHrhwqA


幼馴染「昨日、話したから?……マック行ったんだね」

男「あ、そうだ…」


スポーツバッグのファスナーを開ける。

一応気をつけてはいたけど、潰れていなければいいが。


男「…ほら、買っといたんだ」


幸い、外袋から察するにはダメージは少なそうだ。


幼馴染「それ、もしかして朝マック?」

男「おう、冷めてるから持って帰ってから食えよ」

幼馴染「ありがとう、嬉しい……傷まないかな?」

男「この時期なら平気だろ」



32 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/06(月) 01:34:37 ID:ijHrhwqA


ベンチから立ち上がり、冬枯れの木立通りを歩き始める。

さっきまでとの違いは互いの距離、そして気温が変わらずとも右の掌だけは温かい事だ。

少しだけ感じる、午前の幼馴染に対する後ろめたさ。

だからといってどうする事もできないし、握っているのは間違いなく同じ女性の左手なのだから、罪は無い……はず。


幼馴染「その袋、何か買ったの?」


ゆるふわコートの入った袋を見て、彼女が問う。

一瞬、心臓が少しだけ大きく脈打ったが、できるだけ何食わぬ顔を作って「俺の服だよ」と答えた。


幼馴染「どんなの買ったの?」

男「パーカー」

幼馴染「見せて」

男「…下着も買ったから、見せない」

幼馴染「余計見たいですなー」

男「アホか」



33 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/06(月) 01:35:08 ID:ijHrhwqA


朝がジャンクフードだったから、昼は少しちゃんとした物が食べたくなって和食メインのファミレスを選んだ。

その後はゲームセンターで比較的安く遊べるメダルゲームに興じたり、一時間だけカラオケをしたり。

外は寒いというのにワゴン車で売っているクレープの誘惑に彼女が負けて、できるだけ日当たりの良い席で肩を寄せ合ってそれを食べたり。


幼馴染「寒いー」

男「解り切ってただろが」

幼馴染「だって生イチゴのが安くなってたんだもん」

男「まあ、そろそろ時期だからな」

幼馴染「でも、酸っぱいなぁ…」


夕方が近づけば尚更に冷えるだろう。

そう判断して少し早めに帰りのバスに乗り、あとは昨日と同じく彼女の部屋に避難する事にした。



34 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/06(月) 01:35:44 ID:ijHrhwqA


幼馴染「ううー、風も強くなってきた」

男「耳が冷てえ、痛え」

幼馴染「我が家視認!玄関突入準備!」


自然と早足になる。

玄関を待たずして、彼女はバッグから自宅の鍵を取り出している。

家にお邪魔したら、まずは温かい飲み物を淹れてもらおう。


辿り着いた玄関、がちゃがちゃと鍵を回す彼女。

その背中、ベージュのダウンジャケットを見ていて、ふと自分の手に下げた袋の存在を思い出す。


男「幼馴染、俺ちょっと自分の部屋に荷物置いてくるわ」

幼馴染「ああ…うん、わかった」

男「何か温かいもの淹れといてくれよ、すぐ行くから」


危ない危ない、うっかり持って入れば中身を見られかねないところだ。

俺は鍵をしまったポケットを探りながら、すぐ隣の自宅へ向かった。



35 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/06(月) 01:36:34 ID:ijHrhwqA


言った通りすぐに彼女の部屋を訪ねた俺は、しばらく懐炉代わりに彼女を膝に乗せて後ろから抱えた。


幼馴染「幸せですねー」

男「寒い時期だから余計にな」

幼馴染「夏場はしてくれないのかな?」

男「涼しい部屋でなら、する」


温かいミルクティーを飲んで、ほっと一息。

もう夕食が近いのだからやめておけと言うのに、彼女は例のマフィンを温めて食べた。

随分と湿気っていただろうに、それでも彼女は「美味しい」「ありがとう」と言って笑ってくれた。


テレビゲームをして、今日もまた夕食をご馳走になる。

あまり食欲の無い幼馴染を見て不思議がる彼女の母親に、半端な時間にマフィンを食べた事を告げ口して。

そしてまた部屋で少し寛いで、帰り際にはキスをひとつ。


午前と午後それぞれの彼女に対する気遣いなど、普通なら必要の無い小さな苦労は確かにある。

でもこれが丸一日を彼女と一緒に過ごす場合の、俺達にとって当たり前でとても幸せな休日。


少なくともこの時の俺は、こんな日々が続く事を望んでいたんだ。



38 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/06(月) 12:53:58 ID:7WbdB/Dk


……………
………


…翌週土曜日、昼過ぎ


男「先週は金使っちゃったし、この後は映画でも借りて部屋で観るかな」


午前中は寒いのを堪えながらごく近所を散歩したりして、チープに過ごした。

本当なら朝から家に居れば良かったようなものだが、午前の彼女が出掛ける事を強く望んだから。


その理由は今、隣で菓子パンをかじる午後の彼女が引き続き着ているショートコート。

自分では選ばないようなシルエットのものであるはずなのに、インナーの黒いタートルネックと細身な巻きスカートを合わせて上手く着こなされてい る。

とりあえず朝イチは照れを抑えて、ちゃんと褒めておいた。


その時の彼女は、口先では『そう、良かった』という程度の素っ気無い反応。

でもこっそり右の拳をぎゅっと握った小さなガッツポーズを、俺は見逃さなかった。

その素直じゃないところも含めて、大変可愛い。



39 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/06(月) 12:54:29 ID:7WbdB/Dk


幼馴染「映画、前に面白いよって勧めてくれてたやつ、観たい」

男「…なんだっけ?」

幼馴染「ほら、あのディカプリオと渡辺謙が競演してるって言ってた」

男「ああ、あれか。いいよ、じゃあそれ観よう」


家から程近いレンタル屋に立ち寄って、目当てのDVDを借りて。

隣のコンビニで少しお菓子を買おうと言ったら、スーパーで買う方が安いと諭された。

少しだけ遠回りをしてスーパーにも寄って、その後は俺の部屋へ。



40 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/06(月) 12:55:07 ID:7WbdB/Dk


十分ほどしてエアコンが効き始める。

室温が快適になって、彼女は例のコートを脱ぎながら言った。


幼馴染「……男。このコート、きっと男が選んだよね」


心臓が跳ねる。

見慣れない服に気付かないはずがないとは思っていたけど、さほど気にしてもいないのだろうと油断していた。


幼馴染「こんなの、きっと自分じゃ選ばないもん」

男「……ええと、その」

幼馴染「先週、買ったの?…もしかしてあの時の袋って」


そこまでで彼女は言葉を止めて、視線を逸らした。


幼馴染「これじゃ面倒な女だね、私。……ごめん、気にしないで」


おそらく大方の流れを理解したのだろう。

それは別人格とはいえ、彼女自身が俺に望んだ事なのだという点についても。



41 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/06(月) 12:55:48 ID:7WbdB/Dk


思えば午後の彼女が午前の彼女に俺達の新しい関係を知らせなかった時点で、彼女達の不協和音は鳴り始めていたに違いない。


そしてその小さなチューニングのずれは、次第に大きくなってきているのだろう。



42 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/06(月) 12:56:26 ID:7WbdB/Dk


……………
………


…翌日、日曜の朝


今朝は天気予報通り、冷たい雨が降っていた。

無理に出掛ける事はせず、適当な時間に幼馴染が俺の部屋に来る事になっている。

しかしもう時刻は午前10時、いつもの事を思うと少し遅い。


男(電話してみようか……でも昨日も会ってるんだし、たまにはゆっくり寝たい朝もあるわなー)


俺は部屋のPCを起動し、適当にショッピングサイトを巡ったりして時間を潰した。


午前11時、まだ連絡も無い。

もしかして昨日の散歩で風邪でも拾っただろうか。


午前11時半、窓越しに様子を見ようとするが、カーテンが閉まっている。

こっちから行ってみようかとも考えるが、本当に風邪をひいて連絡もできないとしたら、無理をさせるばかりのような気がする。

彼女の家の車庫には母親の車もあるようだし、一人で苦しんでいるという事もないだろう。



43 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/06(月) 12:57:13 ID:7WbdB/Dk


そして午前11時50分を回った頃、俺の家の玄関が開いた様子が感じられた後、階段を駆け上がる足音が響いてきた。


男(……あれ?)


この無遠慮さ、軽い足音、たぶん幼馴染に違いない。

なんだろう、大幅に寝過ごしていただけだったのだろうか。


こんこん…と、ドアをノックする音。


幼馴染《……男、もしかしている?》


俺が部屋にいる確信があれば、彼女はノックなどしない。

ということは、俺が留守だと思っていたという事だ。


男「いるけど?…入ってこいよ」


がちゃりと音をたててドアが開く。

そこにはなんとも言えない苦い顔をした彼女の姿があった。



44 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/06(月) 12:58:01 ID:7WbdB/Dk


幼馴染「いた……まさか、朝から…ずっと?」

男「……そうだけど」

幼馴染「……………っ…!!!」


突然に両手で顔を覆う、午前の幼馴染。

小さく肩を震わせながら、蚊の鳴くような声で「ごめん」と呟く。

その様子だけで、およその事情は察せられた。


まともに言葉を交わす事もできないままに、僅か数分しか残っていない彼女の時間は過ぎていった。

上着も羽織っていない彼女の胸に抱かれた日記帳。

きっとそこには午後の彼女が昨夜に書いた、何らかの嘘が記されているに違いない。



47 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/06(月) 15:10:40 ID:7WbdB/Dk


幼馴染「男…ごめんね、本当…ごめん」

男「いいよ、何か特別に予定があったわけじゃないし」


たった一言ずつの会話、今日の彼女とのやりとりはそれだけで終わってしまう。


ふらり…とバランスを失いかける幼馴染の身体。

時刻が12時ちょうどになったのだ。

彼女は立ったままだったが、何とか倒れずに持ちこたえる事ができた。


幼馴染「……あれ?…なんで、男の部屋──?」

男「最後の最後に、嘘に気付いたから…じゃねえかな」

幼馴染「あ……」


気まずそうな顔をする、午後の幼馴染。

きっと嘘がバレなければ、午後になってから何らかの理由で遅れた風を装って、この部屋を訪ねるつもりだったのだろう。



48 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/06(月) 15:11:34 ID:7WbdB/Dk


男「日記帳に何て書いたんだ」

幼馴染「……男が午前中だけ予定ができたから出掛けてて会えない…って」

男「午前のお前がここに来たのは、ほんの数分前だよ。…たぶん俺の部屋のカーテンが開いてる事に気付いたんだろ」

幼馴染「あのね、私…男に一日の最初の『おはよう』が言いたかっ──」
男「だからって午前中の自分に嘘をついてどうするんだよ!」


思わず声を大きくしてしまう。

彼女の小さな肩が、びくっ…と震えたのが判った。


男「俺達が付き合い始めた事だって、なんで午前のお前に伝えなかったんだ…」

幼馴染「……でも」

男「俺にとってはどっちも大事な幼馴染なんだよ」



49 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/06(月) 15:12:12 ID:7WbdB/Dk


幼馴染「じゃあ…なんで昨日のコートの事、私に教えてくれなかったの?…私、悔しかった!男はあの服、今の私じゃなくて午前中の私のために選んだんでしょ…!?」

彼女の頬を一筋の雫が伝う。


男「違う…当たり前だけど、どっちのお前にも似合うし、着て欲しいと──」
幼馴染「それを今の私に知られたくないって、そう言ったのは午前の私かもしれないけど、男もそれを隠したじゃない!男だって私に嘘をついたくせに…!」


情けなくも、それについて言い返す事はできなかった。


『どんなの買ったの?』

『パーカー』

『見せて』

『…下着も買ったから、見せない』


確かにあの時、俺は午前の彼女の気持ちを尊重するために、午後の彼女に対して隠し事をしたのだから。

それを自分の中で認めると同時に、俺の心に今まで押し殺してきた感情が湧き上がってくる。


男「もういい…」

幼馴染「……何がっ」

男「このままでいいと思ってたけど、やっぱりもう無理だ」



50 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/06(月) 15:12:49 ID:7WbdB/Dk


幼馴染「む、無理…って!やだ…嫌いになっちゃ、やだよ…!」

男「違う、お前らの人格…何とかしてひとつにする」

幼馴染「え……」

男「だから俺達の関係も午前のお前に話す。それぞれの時間にあった出来事も、できるだけ全部俺から伝える」


そもそも二人の人格は、性格が大きく違うわけじゃない。

疑いようもなく、二人とも俺を想ってくれている。

もちろん食べ物の好き嫌いも一緒。


ならば人格をひとつにする…というのは、単に記憶を共有できるようにするという事とほぼ同じ意味だ。


男「もう決めた。お前ら、明日から俺がビシバシ矯正すっから」


例えば悪い例として、午前中の彼女が何か不味い事を言ったとしても、記憶さえあれば午後の彼女は『なんで朝はあんな事を言ったんだろう』と感じるだけ。

そんな少し前の発言を悔いる事など、誰にでもあるだろう。



51 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/06(月) 15:13:25 ID:7WbdB/Dk


幼馴染「矯正って…なんか怖い」

男「とにかく日記帳みたいに断片的じゃなく、できる限り事細かに伝えるから。その時の事を思い出すよう努力してくれ」

幼馴染「でも、午前の私とも付き合うようになるって事は、キスしたりとかもしちゃうんでしょ!?…そんなの嫌だ!」

男「うるせえ!どっちもお前だ、つべこべ言うな!」

幼馴染「一人一人を尊重してよ!」

男「尊重し過ぎてこうなってんだって、理解しろ。人格ひとつになりゃ、丸一日好きなだけ俺を独占できるんだぞ?」

幼馴染「むう…なんかいいように丸め込まれてる気がする」

男「さて、今日はもう帰れ。午前のお前とちょっとしかいなかったんだから、今のお前ともここまでだ」

幼馴染「ひどい」

男「ひどくない。差別しない、どっちかを特別視もしない。はい、さよーならー」


正直、かなり心を鬼にして言ったつもりだ。

彼女はブツブツと文句を言いながら、それでも自宅へと帰ってゆく。

なんとなく、ちょっとだけ心が軽くなった気がすると同時に、どっと疲れが押し寄せた。



52 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/06(月) 15:13:55 ID:7WbdB/Dk


ばたん…とベッドに倒れこむ。


好きな女にあんな風に接するのは気持ちいい事じゃない。

でも仕方ない、さっきも言ったが俺にとっては等しく大事な幼馴染だ。


自分で自分の心を傷つけ合うなんて、して欲しいわけが無い。

果たして俺が出来事を伝えるだけで、本当に症状が改善していくかは解らないけれど、やってみるしかないだろう。


ふと窓の向こう、彼女の部屋の窓際に人影を見つけた。

雨の湿度と室内外の温度差で曇った窓ガラスに、指で文字が記されてゆく。


『 カ ー バ 』


アホか、逆さ文字を書くなら文字の順序も右から左にしなきゃダメだろ。

そういえばあいつは昔から、やる事に何かオチのつく奴だった。


男(まあ、そこが可愛くもある…か)


少し怒っていたはずなのに、俺の口から笑いが漏れる。

文字の横に添えられた左右対称のハートマークだけは、表も裏も無く見えたから。



65 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/07(火) 16:00:48 ID:LdxBaRzw


……………
………


…翌日の朝、男の部屋


幼馴染「お、おはよう……」


いつもより静かに部屋のドアを開けた午前の幼馴染は、どこか恐る恐るといった声色でぎこちない挨拶をした。


男「おう、おはよ」

幼馴染「あの……昨日、ごめんね」

男「いいって。それより昨夜の日記帳には何か書いてあったか?」

幼馴染「ううん、普通……だと思う。また嘘があるかは判らないけど」

男「そうか、何も伝えてないんだな」


いっそ午後の幼馴染が、日記帳である程度の説明をしておいてくれたら助かるのに。


……いや、これからの試みについて説明をする事は、別に苦ではない。

そこはいいんだ、問題は──



66 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/07(火) 16:01:27 ID:LdxBaRzw


──違う、問題だなんて考えるな。


午後の彼女が伝えてくれたらなんて、期待するのはオトコらしくない。


男「幼馴染、ちょっとこっち来い」

幼馴染「?」


疑問符を浮かべた表情をしながらも、彼女はベッドに腰掛ける俺の傍まで歩む。

それを待って、俺も立ち上がって。


幼馴染「……え!……ちょ、あの、えっ!?」


予告もせず、彼女を抱き寄せて。


男「付き合おう、幼馴染」

幼馴染「ななな…何を、急に、えっと…その、寝ぼけてる?」

男「寝ぼけてない、恥ずかしくて倒れそうではある。とりあえず『はい』と言ってくれ、頼む」

幼馴染「は……はいっ!……は……ぃ……」


掠れる彼女の声、安堵した俺の溜息。

午後の彼女と以前から付き合っている件については、この後すぐに話す事にしよう。



67 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/07(火) 16:02:21 ID:LdxBaRzw


……………
………


…登校中、通学路


幼馴染「……ずるいっ!」


午後の彼女との関係を話し始めてから、すでに十回を超えたのではないかと思える『ずるい』という言葉。


男「ずるくないだろ、午後のお前にも俺から告白したんならともかく」

幼馴染「何よぅ、しなかった今の私が悪いって言うの?」

男「まあその件はもういいじゃねえか、それよりこれからの事だよ」


昨夜、色々と考えた。

あくまで素人なりの思いつきだけど、やはり記憶を引き継ぐためには行動や出来事を五感とセットで覚えるのが有効なのではないだろうか。

男「つまり、例えば午前中のお前が受けた触覚なり視覚なりの刺激と同じものを午後のお前が感じた時、記憶もセットでついてこないかって事だ」


幼馴染「……読めた」

男「何が?」

幼馴染「エッチな事、考えてるでしょ!」

男「殴っていいか」



69 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/12(日) 11:50:12 ID:jnIT2lzU


男「候補は、あれこれ考えたんだ」

幼馴染「候補?」

男「記憶とセットにする、何らかの感覚を与えるもの……例えば『痛覚』なら?」

幼馴染「お断りします」

男「そりゃそうだよな。だから、不快じゃなく、手軽で、時や場所を選ばずに実行できる事がいい」


素材を必要としないという面では、痛覚ではなくとも何らかの触覚はその条件を満たしやすい。

ただ、当たり前だが歩けば足に、何かを持てば手に、服を着るだけで身体のほとんどに僅かでも刺激は存在するわけだ。

それらを凌ぐ程度には強い刺激となると、痛みやくすぐったさのような不快感を伴うものしかピンとこない。



70 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/12(日) 11:51:11 ID:jnIT2lzU


幼馴染「匂い、は?」

男「それも考えたよ。香水の小瓶とか、ポケットに入れやすいしな」


ただ、匂いもまた環境の中に溢れている。

もちろんそれはそれで、例えばパン屋の前を通る時にわざと時計を確認して、人格が入れ替わってからもう一度パン屋を通りかかった時に最初の時刻を思い出せるか……といった試し方はできるだろう。

ただ嗅覚よりも確実に刺激があり、環境の中で普段は感じない感覚がある。


幼馴染「もしかして、味…かな?」

男「うん、正解。……というわけで、これやるよ」


俺はポケットから小さくて薄いケースを取り出し、ぽいっ…と投げ渡した。



71 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/12(日) 11:51:49 ID:jnIT2lzU


幼馴染「これ、ミントのタブレット……男、知ってるよね?」

男「ん?」

幼馴染「私が、辛いの苦手だって」

男「もちろん」

幼馴染「貴方は、ドSですか」


失礼な、一生懸命考えたというのに。

まあ、確かに……


男「大丈夫だよ、そんな言っても大した事は無いから。とりあえず時計見ながら、一粒食べてみ?」

幼馴染「本当かなぁ……? ええと、八時ちょうど…だね。うぅ……えいっ!……んっ…んんんんっ!!!」


……わざと一番辛い黒ラベルを選んだけど。



76 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/15(水) 19:52:09 ID:zcuo/ZUc


幼馴染「んんっ…だめっ! 舌がっ…痛いよぅっ! これじゃ痛覚じゃないの!」

男「ぎゃははは!…あぁ、おかしい……涙出るわ」

幼馴染「ひっどい…もっと甘いやつ、自分で買おう…」

男「それはだめだ、やっぱ刺激は強烈じゃないと。じきにある程度慣れるよ、毒じゃあるまいし」


少し涙目になった彼女は不満そうにもそのケースをポケットにしまった。


こんな簡単な事ですぐに上手くいくとは思えない。

でももう二人の幼馴染に変な気を遣う事はやめたつもりだし、彼女達同士にもわだかまりなど作らせないように努める。


できるだけストレス無く、長い目でみながら気楽に構えていこう。

苦手とする辛いタブレットを食べるくらいのストレスは堪えてもらうとして……だけど。



77 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/15(水) 19:54:58 ID:2tgzBPfs


その後、午前中の彼女はもう三度ほど辛さに悶える事となった。


その内で最初の一度は隣の席の友人が風邪をひいて休む事が判った時、俺が指示して食べさせた。

その次は数学の授業で、彼女が思いっきり解答を間違えて恥をかいた時。

そして午前中最後の休み時間、廊下の端の人目の無い階段に行って、ようやく恋仲となった彼女を短く抱き締めた時。


後の二度については彼女が自発的にタブレットを口に入れていた。

感心感心……と頷きながらも、その度に顔を赤くして刺激に耐える姿に内心、ちょっと萌える。


やがて時刻は正午が迫る頃となっていた。

この授業が終われば昼休みだが、その時にはもう午後に入っている。

同じ教室でいくつか離れた斜め前の席に座る午前の彼女は、正午を迎える直前に俺を振り返って少し寂しそうに笑った。



78 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/15(水) 19:55:36 ID:2tgzBPfs


………


…昼休み


幼馴染「男、おはよう」

男「おはようって、昼だけどな」

幼馴染「いいの、例えその日の最初じゃなくても『おはよう』を言う事に決めたの」

男「うん……それでいいんじゃね。おはよう、幼馴染」


周りのクラスメイトに聞かれたら変に思われそうだから、俺達は少し小声でその挨拶を交わした。

そしていつも通り、この教室で一緒に弁当を食べる……と思ったのだが。



79 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/15(水) 19:56:39 ID:2tgzBPfs


幼馴染「屋上、行こう」

男「え? …そりゃ、寒いだろ」

幼馴染「今日は風も無いし、日が照ってるから大丈夫だよ。行こ?」

男「おいっ」


予期せず右手を引ったくられる。

午後のこいつとは以前から付き合っていたとはいえ、午前の彼女に伝わらないように学校ではそういうそぶりは見せなかった。


なのに、そうか…こいつ……


幼馴染「もう、解禁……だよね?」


……午前の幼馴染とも同じ仲になった事を都合よく解釈して、クラスメイトに関係をカミングアウトしようとしてやがる。



80 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/15(水) 19:57:13 ID:2tgzBPfs


………


…屋上


幼馴染「おお……意外と先客がいる」


屋上では既に数組の男女が仲良く昼食を摂っていた。

ここが休み時間にイチャつきたい奴らの集合場所になっているのは知ってたけど、冬でも結構いるものだ。


その中にごく見慣れた顔を見つける……いや、見つけられる。


友「おっ! 男だ!」

幼友「あれあれー? とうとう屋上デビューしたんだ! おめでとう!」

男「屋上デビューって」

幼馴染「ありがとー! ご一緒していい?」



81 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/15(水) 19:58:20 ID:2tgzBPfs


友と幼友はクラスでも公認の仲、そもそもは俺と幼馴染それぞれの友人だった。

いつの間にか先を越すように関係を深めた彼らは、今や卒業と同時に同棲を計画しているという。


俺と幼馴染にとって誰よりも気を置く事なく話せる相手、ましてや互いに二組の恋仲同士となった今、それまで以上に気を遣う必要は無くなったと言えるだろう。


友「男の弁当って、幼馴染ちゃんが作ったりしないのか?」


彼に悪気は無い、でも俺達にとっては少し答えに戸惑う問いかけ。


男「ああ……えっと、その予定は…無いかな」


だって弁当を作るとしたら、それは午前の彼女の仕事になるわけで。

そしてそれを俺と一緒に食べるのは、午後の彼女……という事になってしまう。


いくら彼女らにそういうわだかまりを無くして欲しいとは思っても、そこまでは簡単に割り切れないんじゃないだろうか。

……しかし。



82 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/15(水) 19:59:02 ID:2tgzBPfs


幼馴染「作るよ、今度……そうだなぁ、明日から?」

男「え?」

幼馴染「楽しみにしててね」

男「何を言ってんだよ、そんなの無理だろ」

幼馴染「うん、午前の私が了承しないとだめだよね」

男「ば、馬鹿!言うな!」

幼友「午前の……?」

男「いや、こいつ寝起きが悪いからさ! 朝のこいつには弁当作るようなモチベーションは無いって意味だよ!」


言い訳としては苦しい。

だけど事情を知らない幼友なら、真の意味まで考え及ぶ事はあるまい。

直接に説明でもしない限り、幼馴染の人格が二人いる事に気付くはずがない──


幼馴染「幼友、私…実は二人いるの」



84 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/16(木) 14:25:57 ID:Slg605U.


──耳を疑った。


俺達の仲を公にしたのはこっ恥ずかしくはあっても、それを望む彼女の気持ちも当然と思える。

でも、彼女の人格が二重である事……言葉を選ばなければ、精神的な疾患を他者に明らかにするなんて。


『現状を変えたくない』そう望んでいたはずの彼女が、何故。


男「寝ぼけた事言ってんなよ。幼友、真に受けないでやってくれ」

幼友「う、うん……幼馴染ちゃんってボーッとしたところはあったけど、そんな不思議ちゃんだったけ……」

友「いや、違うな」

男「……友!?」



85 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/16(木) 14:26:48 ID:Slg605U.


友「男と付き合いが長い俺には分かる。何かを隠して出鱈目を言ってるのは……男、お前の方だろ?」


そうだ、こいつは本当に俺の事をよく知っている、よく理解している……そして。


友「っつーか、結構前からなんだよな」


普段は軽口や憎まれ口ばかりで決してそれを表には出さないけれど、やはり俺も知っているんだ。


友「お前、ずっと何かを一人で抱え込んでたろ? 俺が気付かないわけ無えじゃん」

男「友……」


本当のこいつは他人思いで、俺にとっては誰よりも頼りになる奴だって。


幼友「……ヤバイ、男同士の友情に鼻血吹きそう」

幼馴染「同じく」



86 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/16(木) 14:28:08 ID:Slg605U.


そして幼馴染は二人に大体の事情を説明した。

友も幼友もにわかには信じ難い内容に、戸惑いを隠しきれない様子ではある。

それでも話を聞き終えた幼友は、幼馴染の頭をぎゅっと胸に抱き寄せて言った。


幼友「なんで…相談してくれなかったのよ…この馬鹿っ」

幼馴染「ごめん…幼友、苦しいよ……ごめん…ってば…っ」

幼友「明日になったら、午前のあんたも叱ってあげないとね……」


幼友の頬を一筋の涙が伝う。

その胸に抱かれて見えないが、きっと幼馴染も泣いているに違いない。


友「……ヤバイ、女同士の友情に興奮を禁じ得ない」

男「同じく」



87 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/16(木) 14:29:04 ID:Slg605U.


幼馴染「男、何も相談せずに二人に打ち明ける事にしてごめん。でも言ってもきっと男は止めると思ったから…」

男「まあ……そうだったかな」

幼馴染「友君達には悪いと思うけど、きっと少しでも理解者がいた方が男の気持ちも軽くなると思ったの」

友「水臭え事言うなよ、何でも協力すっからさ」

幼友「うん、だって午前と午後それぞれの時間の出来事を、できるだけ伝えあった方がいいんでしょ? 男君だけじゃ目の届かない時だって多いはずだよ」

男「……そうだな、ありがとう」


幼馴染の言う通りだ、俺の心はものすごく軽くなっている。

きっと幼馴染自身も仲の良い相手に打ち明ける事ができて、少なからず楽になったに違いない。

照れ臭くて真面目には言えないけど、持つべきは親友だと本心から思った。



88 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/16(木) 14:31:33 ID:Slg605U.


……さて、昼休みも残り少ない。

まだ午後の彼女に伝えていない『お楽しみ』が残っている。


男「幼馴染、右のポケット探ってみ?」

幼馴染「ポケット…? 何、このタブレット。辛いやつでしょ…これ」

男「今日、午前のお前は4回それを食べた。一度目は朝、時計を見ながら…二度目以降は内緒だ。今、お前がそれを食って、そのどれかでも出来事を思い出せるか」

幼馴染「え、食べるの? 私が?」


目を瞬かせながら、彼女はいかにも嫌そうな顔をして見せた。


幼馴染「パス、他の方法を考えようよ? ……だめ?」


二人を差別はしない、どっちかを贔屓したりもしない。

でも彼女らが持つはずのライバル心、逆に利用できるところではさせてもらおう。


男「はあ、午前の幼馴染は頑張ったんだけどなぁ……」

幼馴染「食べる、こんなの余裕」



89 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/16(木) 14:32:18 ID:Slg605U.


思い切りよく、一粒を口に放り込む彼女。

かりっ…と噛み砕く音、数秒の間。


幼馴染「ふぁ…!? 辛っ…辛いっ! んんんんっ…!」

男「ぷっ…くくくっ…」

友「ははっ! 顔、赤くなってら…!」

幼友「あはははっ、可愛い! 幼馴染ちゃん!」


涙目になりながら彼女は暫し刺激に耐え、大きく溜息をついた。

さあ…何か思い出せたか?


幼馴染「朝の時計…八時でしょ」

男「……!! 思い出せるのか…!?」

幼馴染「あれ、当たっちゃった? だって朝、キリのいい時に確認するとしたら、そこかなって…」

男「てめえ、くすぐったろか」



90 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/16(木) 14:33:03 ID:Slg605U.


残念ながら当てずっぽうだった朝の時刻確認を含め、午前中の事は何も思い出せないらしい。

一応、みっつ目の出来事までは説明しておいたが、階段での一件は友がいる前では話さなかった。


男「ま、そう印象深い出来事があったわけでもないからな」

幼馴染「はあ……これ、毎日食べなきゃいけないのかぁ」

男「おい、今日は終わりってわけじゃ無いぞ? これから午後の間に何か印象に残る出来事があれば、そん時は食べとけ」

幼馴染「ええぇ……」


昼休みの終わりが近い事を告げる予鈴が鳴った。


きっと明日からも天気が良ければ昼食はこのパターンで摂る事になるに違いない。

でも本人を含むこの4人は、幼馴染の秘密を共有できる限られた仲間。

来る事自体が照れ臭くはあるけど、これからここは俺達にとって心休まる場所になるのだろうと思った。



99 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/24(金) 12:34:07 ID:i9PZIiyo


……………
………


…放課後、帰り道


今回の課題の絵も既に描きあげている俺達は、美術部の活動もそこそこに帰路についた。


男「でもお前、明日からの弁当…本当に午前の自分に作らせる気なのか?」

幼馴染「もちろん、日記帳で伝えるよ。できれば男もメールで伝えてくれるといいかな」

男「でもあいつは自分で作っても食えないんだぞ? OKするかな…」

幼馴染「するよ、絶対」


妙に自信たっぷりに答える午後の彼女。

仲違いする事はあれど、やはり本人同士の事は一番よく解っているのだろう。



100 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/24(金) 12:34:42 ID:i9PZIiyo


その夜、彼女と別れた後の俺は、自分の部屋で携帯を片手に頭を捻っていた。

なんと伝えれば午前の彼女は最も快く思ってくれるだろう。


幼馴染達の関係に気を遣うのはやめた……そうは言っても、できるだけ嫌な想いをさせたくはない。

何故か午後の幼馴染は自信ありげだったが、俺が食べる様を見る事もできない午前の彼女は、どんな心持ちでそれを作るだろう。


男(『ちゃんと翌朝、感想を言うから』とか…それは当たり前か)

男(『午後のお前には感想を言わない』…それじゃ二人をモロに差別してるしな)

男(『代わりに朝メシを俺がお前に作ってやるよ』…できもしない事は言えないって)



101 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/24(金) 12:35:32 ID:i9PZIiyo


男(どうすっかな──)


バチコーイ!…ピコーン


男「うおっ…!?」


握っていた携帯に突然のメール着信、考え事ばかりをしていた俺は思わずそれを落としそうになるほど驚いてしまった。

ちょっとこのメール受信音は心臓に悪い、後で変えよう。


……………

件名…おやすみ
本文…まだ男から午前の私へのメール、届いてなかったから。
部屋の電気ついてるから、まだ起きてるでしょ?
できれば日付が変わったらすぐにメールしてあげて下さい。
もう日記帳にはお弁当の事、書いたからね。

おやすみ、男。
色々ありがとう、感謝してます。

……………



102 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/24(金) 12:36:12 ID:i9PZIiyo


男(……あいつらのわだかまりも、解けてきてるならいいな)


別に俺からのメールは日付が変わる前に入れても、彼女が日記帳にメールが来ている旨を記入しておけばすむ話だ。

でも今のあいつは、日付が変わってから送信しろと言う。

それはそのメールが午前の彼女に宛てるものだから。今の幼馴染が先に読むべきでないと気遣った言葉に違いない。


ディスプレイの一番上、時計の表示を確認する。23時58分、もう僅かしか時間は無い。

日付が変わってから送るメールの文面も決まっていないが、それよりも先に。


……………

件名…Re:おやすみ
本文…わかった、このあとメールする。
おやすみ、午後の幼馴染。

……………


このメールはあくまで、今のあいつ宛に返信したいと思った。



103 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/24(金) 12:37:21 ID:i9PZIiyo


……………
………


…翌朝


幼馴染「おはようっ!」

男「なんだ、やけに元気いいな」

幼馴染「そりゃそうだよ。いつもより早起きしてるから、すっかり目が覚めてるもん」


遠慮なく俺の部屋のドアを開けた彼女は、自慢げに無い胸を張ってそう言った。

いつもより早起きをした理由となる物を、誇らしげに突き出しながら。


幼馴染「感想、食べたすぐ後にメールで入れといてね。午後の私は開封しないって約束してるから」

男「でも午後のお前にも味の事、話すと思うぞ?」

幼馴染「話すのは仕方ないと思ってるよ。でも味の記憶が鮮明な内に、ちゃんと今の私宛の感想を残しといてくれたらいいの」



104 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/24(金) 12:38:31 ID:i9PZIiyo


幼馴染「昨日、日付が変わる前に男が送った最後の『おやすみ』のメール、その時の私…すぐに保護設定してあったよ」

男「あんな短いメールを?」

幼馴染「嬉しかったんだろうねー? ちょっと妬けちゃう」


そう言いながらも、彼女の顔に曇りの色は無い。

一昨日までの事を思えば、やはり彼女らの関係は随分と改善しているようだ。


男「その後、お前にもメールしただろ?」

幼馴染「もちろん、そっちも保護設定してあるよ」

男「いや、しなくていいよ。そっちも短かったし」

幼馴染「だって『お前の作った弁当が食べたい』って、もはやプロポーズだよ!」


考えに考えて、結局いい文句は浮かばなかったからシンプルに書いた。

でも今朝の彼女の機嫌がすこぶる良い事を思えば、どうやらそれで正しかったらしい。


きっと午後の彼女は昼過ぎにそのメールを見て、同じようにちょっとだけ妬くのだろう。



【第一部おわり】


.


《第一部時点で記事に頂いたコメント》



名前:無記入

第一部……だと!?
期待せざるを得ない……!



返信

コメントありがとうございます
期待に応えられるよう、頑張りますです…!




【第二部】

(午後の幼馴染視点)




112 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/25(土) 11:51:39 ID:2uRMliDI


……………
………


…十日後、夕方


数名の部員で黙々と活動に勤しむ美術教室。

私はやめようと思えば片付けの楽なクロッキー画を描きながら、時々教室の入り口を気にしていた。

それはこの後、幼友と友君が来る予定になってるから。

まだ慣れないミントのタブレットを食べても、今のところ午前の記憶が蘇る事は無く、それは午前の私も同じらしい。

そこで友君の発案により、帰りにファミレスに寄って作戦会議をする事になった。

もちろんそう真剣に考えてるわけじゃないから、ただのお喋り会に終わる可能性は高いけど。


幼馴染「男、木版画なんて片付けが大変なんだから準備しといたら?」

男「いや…ちょっとキリが悪くてな……」


仕方がないなあ、私はここまでにして周りに散った木屑の掃除をしておいてあげよう。

そう考えて窓際の隅にある掃除用具入れの方へ歩く。

そしてふと、窓から夕焼け色に染まるグラウンドに目を遣った……その時だった。



113 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/25(土) 11:52:28 ID:2uRMliDI


美術教室は三階にあるから、校内の南面はよく見渡せる。

サッカー部が整地している最中のグラウンドも、吹奏楽部がマーチング練習をしている体育館横も。

そして一人の女生徒が佇む、冬枯れのケヤキ木立の傍の校門も。

その光景を目にとめた時、胸が妙な鼓動を打った。

確信があるわけじゃない、でも私はポケットからミントのケースを取り出して、一粒を口に放り込む。

相変わらずの冷たい辛さ、それと共に私の意識に再生される、さっきまで無かった記憶──


『──あの、男先輩……少し話せませんか?』

『私、二年の◯◯っていいます』

『ずっと、先輩の事…好きで──』


すぐに自分の通学鞄を開けて、日記帳を取り出す。

そうだ…確か書いてあった、数日前の出来事。



114 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/25(土) 11:54:26 ID:2uRMliDI


日記帳のページをめくる。

昨日じゃない…月曜日の事だったはず……あった──


◯月◯日(月)
1…今朝のお弁当は少しだけ手抜きになってしまった、男に謝っといて欲しい
2…六時限目に数学の課題を提出する事を忘れないように
3…今朝、男が二年の女子に告白された。ちゃんとその場で断ってくれたから心配は無いけど、気分が悪かった
4…三時限目で──


日記帳を鞄に戻し、再び窓際に寄る。

校門に立っていた女子の元には待ち人が現れ、手を繋いで帰るのが見えた。



115 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/25(土) 11:55:36 ID:2uRMliDI


幼馴染「男…ちょっと来て」

男「……どうした?」


他の部員もいるから、大きな声では話せない。

男は私の様子に話の内容を察したのか、真剣な表情で隣に立った。


幼馴染「月曜日…男が二年の娘から告白されたのって……校門のところだった?」

男「!!」

幼馴染「最初その娘は人のいないところへ行きたがったけど、男はすぐその場で断ってくれたよね?」

男「思い出せるのか…!?」

幼馴染「本当にそのシーンだけなんだけど……」


驚きと喜びの表情を見せる、男。

私も嬉しかった、男が喜んでくれる事が。

ただ、それよりも大きな戸惑いが心を占める。

そして僅かに、理由も解らないけれど小さな不安の棘が、胸に刺さっている気がした。



116 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/25(土) 11:56:38 ID:2uRMliDI


……………
………


…午後六時、ファミレス


友「じゃあ幼馴染ちゃんの症状に快復が見られた事を祝して」

幼友「かんぱーい」

男「乾杯、コーラだけどな」


作戦会議ぎりぎりになって僅かな変化があった私の症状。

でも今、実行しているミントタブレットを使った試みが、あながち効果が無いわけではない事は判ったから。


友「別の作戦を考えるつもりだったけど、とりあえずコレは継続だな」

幼友「あはは、まだ引き続き辛いの食べなきゃいけなくなったねー」

幼馴染「もうやだよー」



117 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/25(土) 11:57:47 ID:2uRMliDI


男「同じタブレット、箱買いしとくか」

友「黒ラベルなのに◯サヒとはこれ如何に…ってね」

男「そういや、ビールなら◯ッポロだな」


やっぱりこの集まりは、ただのお喋り会で終わりそう。

それにみんな長い目で見るつもりでいるから、次々に色んな事を試しても仕方ない。


幼友「でもやっぱり一番に思い出すのは男君絡みの事だったね」

友「愛の力ですなー」

幼馴染「えへへ、照れますなー」

男「……ちょっと、ドリンクおかわりしてくるわ」

友「お、照れて逃げたな」

男「うっせ」



118 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/25(土) 11:58:32 ID:2uRMliDI


軽く食事も摂って、更にお喋りは続く。

いつの間にか話の内容は私の事じゃなくて、幼友たちの同棲計画や次の連休の計画に変わっていったけど。


友「卒業したら車買うつもりなんだ」

男「まじか、金あんのか」

友「やっすい軽四でいいんだよ、最初は。そしたらどっか行こうぜ」


教習所に通う友君の話を聞きながら、私はふと思った事をなんの気なしに口に出す。


幼馴染「私も免許、取りに行きたいなー」


しかしそれに対する三人の反応は、予想外のものだった。


幼友「え? 本気?」

友「…めっちゃ意外…いいと思うけどさ」

男「正直、俺もびっくりした」



119 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/25(土) 11:59:14 ID:2uRMliDI


幼馴染「あれ? なにかおかしい…?」

幼友「ううん、おかしくはないよ」


それにしては驚きすぎだと思った。

免許を取りに行くに不自然な年齢、タイミングじゃないはず。

だとしたら三人の、その反応が持つ意味とは。


幼友「…気を悪くしないでね?」

幼馴染「うん」

幼友「話を聞いた時から思ってたんだけど、なんとなく意識してみると…午前の幼馴染ちゃんと今の幼馴染ちゃん、ちょっとだけ性格が違うんだよね」

友「なんと言うか、今の幼馴染ちゃんの方がサッパリした性格してる気がするんだ」

幼馴染「…そうなんだ」


自分ではそうは思えなかった。

だって一度は日記に嘘を書く位、嫌な事をしてしまった今の私だから。



120 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/25(土) 11:59:55 ID:2uRMliDI


でもその疑問も、次の幼友の言葉で少し納得する事ができた。


幼友「サッパリっていうのもそうだけど、実行力? 決断力みたいなのが、午後の幼馴染ちゃんの方が強い気がするんだよ」

友「ああ、そうかも。午前の幼馴染ちゃんに了承をとる前に弁当の事を約束したりな」


きっと二人は言葉を選んでくれているんだと思う。

つまり悪く言えば、今の私の方が『厚かましい』って事だよね。


男「はいはい、この話はお終い。どっちの幼馴染が優れても劣っても無えよ。昔からこいつは気分屋だったしな」

幼馴染「なんかそれ、慰められてるのか貶されてるのか解んないんだけど」

男「どっちでもないからな、事実だ」


彼が話の流れを遮ったのは、私達のそれぞれを差別しないための優しさだという事は解ってる。

それにしても、もうちょっと他に言い方は無いのかな…と思った。

…でもそこが好き、とも。



121 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/25(土) 12:00:39 ID:2uRMliDI


更に一時間近くもお喋りを楽しんで、店を出た四人は二組それぞれ別の方向に帰る。

すっかり暗くなった歩道を男と並んで、手を繋いで。

たまにどうでもいいような事を話しながら、少し寒いけどゆっくり歩く。


幼馴染「明日は午後から雨だって」

男「それ、傘を忘れないように日記に書いといてやれよ」

幼馴染「もちろん、だって困るのは明日の午後の私だもん」


そして私は、あまり掘り返すべきじゃないと思いながらも、頭にあった疑問を彼に投げ掛けた。


幼馴染「男……私が二人になる前、たぶん何年も前の事だけど」

男「うん?」

幼馴染「その頃の私は…どっちだった?」



122 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/25(土) 12:01:13 ID:2uRMliDI


自分でも言葉を選んでしまったと思う。

だってはっきりと文章にするには、あまりにも怖い。

問いの本質は午前と今、どっちが『本当の私』だったのかという事だから。

だから彼の答えは、なんとなく解ってたんだ。


男「……そんな前の事、覚えてないって」

幼馴染「そっか」

男「その程度の違いって事だよ」


彼は私達のどっちが本物なんて言わない。

だけど彼も、私の昔を知る幼友も今の私に驚いた。

だからなんとなく解ってたんだ。

本当の、答えも。



127 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/27(月) 12:40:52 ID:ZLtaj/x.


……………
………


…その夜、幼馴染の部屋


今日は帰宅そのものが遅くなったから、私達はお互いの部屋に上がる事無く玄関先で手を振った。


一日という時間は当たり前に24時間だけど、起きて活動をする時間は普通7時くらいから23時前後くらい。

その内、男と共に過ごせるのは8時前後から大体21時くらいまで。

つまり一緒にいる時間は圧倒的に今の私の方が長い。


幼馴染(その点については、午前の私……解ってても悔しいだろうなあ)


そんな自分ではどうしようもない事を考えながら、部屋の時計に目を遣った……その時。



128 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/27(月) 12:41:22 ID:ZLtaj/x.


短針が11を指そうとしているアナログの文字盤が一瞬、暗くなる。


幼馴染(え……これって)


違う、文字盤だけじゃない。

目に映る部屋の風景……つまり視界全体が、点滅したんだ。


幼馴染(どうして、まだ11時なのに)


私は速やかにベッドに横になり、この後に備えた。



129 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/27(月) 12:42:10 ID:ZLtaj/x.


緩やかなフェードアウトとインを繰り返す視界。

目を開けたままだと気分が悪くなる事があるから、私はこの時いつも瞼を閉じてその情報を遮断する。


そう、この現象には慣れてる。

もちろん日付変更線を待たずに寝る事が多いから、午前の私ほど度々味わうわけじゃないけど。

これは人格が入れ替わる前兆。


でも、それにはまだ時間が早い…は……ず──



130 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/27(月) 12:43:29 ID:ZLtaj/x.


──意識が、覚醒する。


見慣れた光景、いつもの感覚。

耳に届く面白くもない話と、静まり返った周囲の人々。

学校の教室、きっと今は四時限目の授業中。

しかし黒板の上の時計に目を遣った時、ほんの小さな差異に気付く。


幼馴染(……12時11分…)


覚醒するのが、僅かに遅い。

そして手元のノートのページには。



131 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/27(月) 12:45:03 ID:ZLtaj/x.


幼馴染(メモ書き……?)


《おかしい、意識が消えない》

《これを書いているのは12時05分、どうして? 》

《昨夜の交代も11時過ぎだった》

《少し怖くて男には言っ》


…最後のメモは途中で切れていた。

きっとそこで視界が暗転し始めたのだと思う。

そっと斜め後方を振り返り、男を見る。

男は普通に黒板を眺めていて、私の視線に気付くと小さく笑った。

たぶん今日初めて会う、今の私への挨拶代わりの笑顔だと思う。

特にいつもとの差異には気付いてないみたいだった。



132 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/27(月) 12:45:39 ID:ZLtaj/x.


私はポケットからタブレットのケースを取り出し、あまり音をたてないように気をつけながら一粒を口に放り込んだ。

少し鼓動が早い。

できるだけ平静な心を保つよう努めながら、口の中の冷たい粒を噛み砕く。


幼馴染(……嘘…!)


再生される、午前の記憶。

少しずつ…断片的ではあるけれど。

登校の風景や幼友に挨拶した時の事、体育の授業で持久走に嫌気が差した事などを思い出す。


間違いない、これは改善の兆しなんだ。

でも今、私の心を支配しているのは『喜び』でも『期待』でもない。

もうすぐ昼休み、きっと私はこの事を男に言い出せないだろうと思った。



137 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/27(月) 18:30:38 ID:VF//Kp..


……………
………


…数日後、午後の美術教室


目の前の机の上に絵のモデルとするための花瓶を置いて、私はスケッチブックを膝に抱えている。

焼き物の花瓶を見つめるふりをした私の視線は、本当は焦点の定まらないものだけど。


自分が日記帳でそう望んだから、午前の私もまだ男に症状の変化を話してない。

一昨日は夜、10時過ぎに私の意識は消えた。

昨日の昼、私が再び覚醒したのは12時20分になる頃だった。

そして昨夜は意識を手放したのが10時前。

今の私の人格が現れたのは12時30分頃だった。


日々、少しずつ今の…午後の私が身体を支配する時間は短くなっている。



138 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/27(月) 18:36:09 ID:pJVmSrWg


男「…どした? 手がついてないな」

幼馴染「あ、男……うん…花瓶の角度に悩んでた」

男「そっか、せっかく耳のある花瓶なんだし……もうちょい時計回りのところが面白いかもな」

幼馴染「そうだね、ありがとう」


ぐっ…と言葉を飲み込んだ。

もし今、私がここ数日の経過を話したら男はどんな反応をするだろう。

彼は私が普通の、ひとつだけの人格になる事を望んでる。

当たり前の事、それが正常なんだから。

これは私の症状について言えば、快復に他ならない。

だからきっと、男は喜んでくれるはず。

数日前、私が朝の校門での告白劇を思い出した際に男が見せた、嬉しそうな顔が心に浮かんだ。



139 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/27(月) 18:37:08 ID:pJVmSrWg


………



暗くなったいつもの道を、いつも通り手を繋いで帰る。

この道程は、午後を司る今の私にだけ許された大切な時間のひとつ。

私はできるだけゆっくり歩いた。


男「……なんか口数、少ないな?」

幼馴染「そんな事ないよ」

男「どうだ? 最近は…朝の事を思い出せたりはしないか?」

幼馴染「うん……ごめん」

男「謝る事は無いだろ、ゆっくりでいいんだから」



140 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/27(月) 18:38:29 ID:pJVmSrWg


いつまで嘘が通せるだろう。

きっともうすぐ日中に人格が入れ替わるのは、お昼休みの間になってしまう。

その内、この帰り道で意識を手放す事になるかもしれない。


午前の私に対する嫉妬はしない、つまらない意地は張らないように努めてるつもり。

でも、この帰り道も、お昼休みも、美術部の活動時間も、たぶん私のものじゃなくなってしまう。


男「よっし、じゃあ…また明日だ」

幼馴染「うん」

男「おやすみ、幼馴染」

幼馴染「おやすみ」


そしていつかは、この玄関先でのキスも。



141 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/27(月) 18:49:21 ID:DstCGmhg


……………
………


…翌日、放課後


幼友「幼馴染ちゃん、ちょっといいかな」


美術教室へ行こうとしていた私と男に、幼友が声を掛けた。


幼馴染「どしたの?」

幼友「うん、ちょっと……男君は先に部活行ってて?」

男「うん? いいけど…」

幼友「ごめんね」


そして彼女は少し強引に私の手を引き、昼と同じ屋上へと連れて行った。



142 : ◆M7hSLIKnTI:2014/01/27(月) 18:49:58 ID:DstCGmhg


少し怖いような、幼友の真剣な表情。

何故か私は、それを真っ直ぐに見る事ができなかった。


幼友「あんた、今度は怒るわよ? 怒ってもいいよね?」

幼馴染「えっ」

幼友「前に友が男君に言ってた真似じゃないけど、私には判るわよ。あんた一人で何を抱えてんの?」

幼馴染「あ、あの…」

幼友「男君に言いにくい事なら、なんで私に相談しないわけ? 私から見れば、あんた…顔に書いてあるのよ」


知らず内に、頬に温かいものが伝っていた。

見ていてくれた、言葉にできなくても彼女には届いてたんだ。


幼友「……『助けて』ってね」


今の私のSOSが。



156 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/03(月) 19:07:41 ID:jYTTJ7Mw


私はぼろぼろと涙を零しながら、幼友に全てを話した。

日々、午後の私の時間が短くなってる事。

タブレットを噛む度に、午前の記憶が幾つも蘇る事。

日記帳を通じて知った、今のところ午前の私は午後の記憶を取り戻す事は無いという事。

それら全てを、男には話していない事。


幼馴染「だって、怖かった。だんだんと午前の私の時間が延びて、今の私にも午前の記憶が蘇って……」

幼友「午前のあんたが、全部になるっていうの…」

幼馴染「それを話した時、男が喜ぶんじゃないかと思って……そういう意味じゃなくても、今の私が消える事を望んでしまう…気が…して……」


そして彼女は、小さく「ばか」と呟きながら私の肩を抱き締めてくれた。



157 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/03(月) 19:08:14 ID:jYTTJ7Mw


幼友「男君も私も、午後のあんたが消える事なんか望んでないわよ」

幼馴染「でも…」

幼友「それぞれのあんたが記憶を共有して、二人のままで不自由なくいられるように…そうしか望んでないんだから」


それは私が望み、あまりの身勝手さに口にする事ができなかった想いそのものだった。


幼馴染「あり…がとう…幼友……」

幼友「今日は友はバイトだけど、早くあがるって言ってたから」


彼女は身体を離し、私の両肩に手を掛けて笑う。

わざと不敵に、私に『大丈夫』と言い聞かせるように。


幼友「男君も呼んで、第二回作戦会議…するよ!」

幼馴染「……うんっ!」



158 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/03(月) 19:10:25 ID:jYTTJ7Mw


……………
………


…午後七時、ファミレス


幼友「……というわけで、第二回作戦会議を開催したいと思います」

友「なんでお前が仕切ってんだし」

幼友「あんたバイトあがりなんだから、会計役ね。ここの払っといて」

友「ちょ…!?」


事の次第はあらかた幼友が話してくれた。

聞きながら男は驚き、何度も「そうじゃない」とか「なんでそうなる」と後悔を顕にしていた。

私が恐れた『喜び』の反応など、微塵も見せないのが嬉しかった。


男「くそ…こんな事なら記憶が共有できなくても、そのままの方が良かったのに」

幼友「……ね? 幼馴染ちゃん、早く話せば良かったでしょ?」

幼馴染「うん…ごめん」



159 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/03(月) 19:11:11 ID:jYTTJ7Mw


友「いっそ今からでも病院に行ったらどうだろう」

幼友「だめだよ。たぶん医者の目から見れば、今のこの状態は『順調な快復』としか映らないと思う」

男「そうだろうな。二人の人格を残したまま……なんて、本人や俺達だけが望む事のはずだし」

友「そうか…医者にしてみりゃ、一人だけになっちまえば全快って話だよな」


今の私のために、真剣に知恵を絞ってくれる三人。

少しだけ『もしこれで私が消えても、悔いはない』なんて想いがチラついたけど、彼らに報いるためにもその考えは捨てようと思う。


幼友「そもそも幼馴染ちゃんの人格が二人になったのって、何か理由は思いつかない?」

男「…いつからの事だっけ?」

幼馴染「自分でもはっきりはしないんだけど、たぶん中学生の頃かな…」



160 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/03(月) 19:12:03 ID:jYTTJ7Mw


幼馴染「ある時、なんで午前中の事を覚えてないんだろう…って。それでその時の手帳に朝読むためのメッセージを書いたの」

幼友「そしたら?」

幼馴染「次の日、やっぱり知らない内…午前中の内に返事が書き込まれてた。午前の私も不思議に思ってたって…」


それからしばらく手帳での情報交換を続けて、ちょうど昼の12時に意識が入れ替わっている事に気づいた。

そして試しに夜更かしをして、夜の12時にまた入れ替わるという事を突き止めたんだ。


幼馴染「でも、原因……理由は解らないよ」

幼友「そっか…」

男「とにかくこれからは午前のお前に午後の記憶を取り戻して貰う方向でいこう」

友「そんな都合のいい風にいくかな」

男「解らないけど…でも、両方にそれぞれの記憶を共有してもらうしかないだろ」



161 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/03(月) 19:12:46 ID:jYTTJ7Mw


友「午後の時間に、何か強く印象に残る事をすればいいんじゃないか?」

幼友「そうだね、少しでも午前の幼馴染ちゃんが思い出しやすいような記憶を作るようにすればいいよ」

幼馴染「…思い出しやすい記憶……かぁ」


頭を捻る…けど、上手い案は自分でも思いつかない。

『美味しいものを食べる』とか、『映画鑑賞みたいな印象深いデートをする』とか、凄く贅沢な考えだけは出てきたけど。


幼友「ひとつ…あるね」

友「お、今日は冴えてんな」

幼友「いつも冴えてるけどね」


彼女が思いついた、その『冴えた考え』とは。

その表情からして、嫌な予感に襲われたような気がするのは思い過ごしじゃないと思う。



162 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/03(月) 19:13:25 ID:jYTTJ7Mw


……………
………


…午後八時過ぎ、自宅前


男「……ええと、もうけっこう遅いんだけど」

幼馴染「そうだね」

男「あのさ、幼友の言う事は気にしなくていいと思うんだ」


男が明らかに挙動不審。

いつも割と落ち着いてて、余裕ぶってる彼のこんな姿を見るのは珍しい。


幼馴染「私は気にしてないけど」

男「お? おう、俺も気にしてないぜ。…気にしてないとも」

幼馴染「とりあえず、上がる?」

男「上がるだけな!」


……おかしいってば。



163 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/03(月) 19:14:34 ID:jYTTJ7Mw


部屋に入っても彼はそわそわとしてる。

正直、さっきは強がったけど私だって胸中は穏やかでない。

確かに幼友のアイデアはなかなかに強烈なものだった。


『あんた達、愛し合えばいいのよ』


…解ってる、相思相愛とかそういう意味じゃない事くらい。

それはもっとオトナな意味、間違いなく強力な印象を残すであろう行為。


幼馴染「……男…」

男「はい」

幼馴染「なんで敬語なの」

男「いや、ちょっと何と無く」



164 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/03(月) 19:15:10 ID:jYTTJ7Mw


幼馴染「幼友の言った事だけどね」

男「いや、待てまて、冷静になれ、くーるだうん、早まるな、俺」

幼馴染「いいから聞いてよ、さすがに突拍子もなさすぎると思うんだ」


いくらなんでも、今の状況にかこつけて大事な一線を越えるのは躊躇われる。

もちろんこのまま私の意識がどんどん小さくなって、消える前に最期の思い出を欲するようになったら……解らないけど。


幼馴染「やっぱり、そういうのは純粋にキモチを確かめるための行為だよね? 状況を打破するための手段としてなんか…したくない」

男「そりゃ…もちろん」

幼馴染「だからとりあえず、今日はそんなコトしないでしょ? だから落ち着いて」

男「……おぅ」


あ……今、ちょっと残念そうな顔した。



180 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/01(土) 01:29:16 ID:uutW/KDg


それから一時間あまり、普段ならとっくに男は帰っている筈の頃。

私は意を決して口を開いた。

さっきから…いや、この部屋に入った時から考えていた事。

身体を重ねるとまで思い切りはしなくても、明らかに今までと違う記憶を残せる手段……それは。


幼馴染「男、あのね……今夜は…その…」

男「ああ…ごめんな、結局いい手が浮かばなくて。何も変わった事できなかったなあ」

幼馴染「え?」



181 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/01(土) 01:29:58 ID:uutW/KDg


男「悪い悪い…ずっと考えてたから、いつもより遅くなったな。さすがに引き上げるよ」


男は私の言葉を待たずに立ち上がる。

しまった、きっと私のしどろもどろな物言いが『そろそろ帰れ』という意味にとられたんだ。


男「じゃあ、おやすみ」

幼馴染「いや…そうじゃなくって!」

男「……?」



182 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/01(土) 01:30:55 ID:uutW/KDg


どうしよう、尚更に言いにくい雰囲気になってしまった。

でも、このまま自分の時間を失ってゆくのは怖い。

どうしても失ってしまうなら、少しでも一緒に過ごしたい。

だから、はっきり言うしか…ない。


幼馴染「……こ、今夜は帰らないでっ」

男「えっ」

幼馴染「いや、その…何かするってわけじゃないんだけど!」


何を言ってるんだろう…私は、何かってナニよ?



183 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/01(土) 01:31:38 ID:uutW/KDg


顔が熱い、きっと真っ赤だと思う。

『今夜は帰さない』って、普通なら男のヒトが言う口説き文句だ。

でも幸い、男は私の意図をおよそ解ってくれたらしい。


男「…なるほど、昼間はともかく夜にお前の人格の入れ替わりに立ち会った事は無いな」

幼馴染「う…うん、そうでしょ?」

男「それは確かにいつもと違う状況として、試してみる価値はありそうだ」


でもちょっと事務的すぎるよ、男。

もう少し乙女心的な意図も、汲んでくれないものかな。

何のために『入れ替わる時まで帰らないで』じゃなく、今夜は…って言ったと思ってるんだろう。



184 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/01(土) 01:32:40 ID:uutW/KDg


男「なんならその直前…兆候が現れた時にタブレットを食べてみてくれ。入れ替わったら直後にまた食べさせるから」

幼馴染「ああ…もう、ちっがーう!」


男「…はい?」


幼馴染「ばーか! 男のばーか!」

男「な、何がだよ」

幼馴染「ある程度の年齢になってから、さすがに一緒に夜を越した事は無いでしょ!?」

男「そう…だな」

幼馴染「だから今夜はっ、傍にいてって…私が入れ替わる時に抱き締めてて…って言ってんの! ばーか! 鈍ちん!」


たぶん顔は真っ赤なまま、全然迫力は無いと思うけど。

ちょっと腹が立ってきたから、遠慮を捨てて男を責めてみた。



185 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/01(土) 01:33:52 ID:uutW/KDg


男「…こっちの台詞だ」

幼馴染「何がよっ」


……その結果、私に与えられたのは。


男「人の照れ隠しくらい察しやがれ、この鈍ちん」


今までのどれよりもきつく、長い抱擁だった。


もし今の私が本当にいつか消えるなら、最後の時はこうしていたい。

きっとそれなら消えるのではなく、私は溶けて貴方に混じってしまうのだと。

そう思えるから、怖くないんじゃないかな。


それが一週間後でも、明日でも。


例え、今だったとしても。



188 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/07(金) 20:51:14 ID:/0Dyn6uQ


……………
………



《中学に入ってから、男…小学校の時みたいには接してくれないなあ》

《そういう時期なんだとは思うけど》


《……いつか、他の娘に告白されたりするのかな》

《やだなあ…》


《それならいっそ私が…?》

《でもずっとオサナナジミの関係に甘えてきたし…ちゃんと女として見られてるのかな》



189 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/07(金) 20:51:57 ID:/0Dyn6uQ


《だめだなあ…うじうじして》

《私、もうちょっとだけでいいから決断力とか強くなれないかな》

《そしたら思い切って……》


《でも、ふられたら?》


《きっと男はそうなっても友達ではいてくれるだろうけど》

《……私、きっと普通には接する事ができなくなる》


《告白…したい》

《もし、ふられたら…その事だけ忘れちゃいたい》



190 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/07(金) 20:52:29 ID:/0Dyn6uQ


《二人になれたらいいのに》

《当たって砕けちゃっても、ダメージの無い方だけ残れたらいい》

《そして、もし…上手くいった時は》

《元通り、一人に戻れたら……って、都合良すぎるかな》


《でも、そうなればいいのに──》



191 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/07(金) 20:53:22 ID:/0Dyn6uQ


……………
………



──それでもまた、意識が覚醒する。

再び自分が目覚められた事に安堵し、また昨夜の抱擁の内に消えてしまえなかった事を悔やんだ。


顔を上げると、そこには心配そうな表情で私の様子を窺う三人の姿。

ここは屋上、私の膝の上には半分ほどの量になった弁当箱がある。



192 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/07(金) 20:53:51 ID:/0Dyn6uQ


ああ、とうとう入れ替わるのはお昼休みにまで達してしまったんだ。

そう察した私の表情は、きっと曇ったんだろう。


幼友「……大丈夫? 幼馴染ちゃん」

幼馴染「うん、心配させてごめんね」


深刻なトーンで私を気遣う幼友に、ひとまずは強がってみせる。

昨日、彼女はあんなにも親身になってくれたのに、更に状況が切迫したものになっている事が申し訳ない。


友「入れ替わるところは初めて見たけど、やっぱり前後を見ると雰囲気が変わるな」

男「やめろ、一緒だよ」

友「…っと、悪い…」


友君に悪気は無い、解ってる。

本気で私の事を案じ様子を見てくれているから、その変化にも気づいたんだろうから。



193 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/07(金) 20:54:31 ID:/0Dyn6uQ


幼友にはまた怒られてしまいそうだけど、これ以上気を遣わせちゃいけない。

私は短く目を閉じたあと、弁当箱にかけて置かれていた箸を手に取り、出来るだけ明るい調子になるよう心掛けて声を発した。


幼馴染「手を止めさせちゃってごめん、残り食べてお喋りしようよ」

幼友「…うん、そうだね」

男「今日の唐揚げ、美味いぞ。冷めても柔らかい」

幼馴染「おお…今朝の私、頑張ってるね」



194 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/07(金) 20:55:46 ID:/0Dyn6uQ


──よかったね、午前の私

初めて自分の作ったお弁当、男と一緒に食べられたんだね


なんとなく私は、少しずつ覚悟ができてきたよ

こんなに親身になってくれる友人と、今の私の事も大切にしてくれる男に手を尽くしてもらって

それでも消えてしまうなら、もうどうしようもない


つい昨日、自分が諦めちゃダメだと思ったばかりだけど

諦める事と、覚悟をもつ事は違うよね──?



きっと明日の昼間の人格交代は、更に遅れるんだと思う。

もしかしたらこのお弁当、今の私が食べるのは最後になるのかもしれない。


幼馴染「あ、本当…美味しい。私、結構やるね」


自画自賛できるこの唐揚げの味、絶対に忘れたくないと思った。



195 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/07(金) 20:56:44 ID:/0Dyn6uQ


………


…放課後、美術室


幼馴染「美展に提出する作品、出来たねー」

男「おう、俺も最後の仕上げになって手間どっちゃったよ。結局ぎりぎりになったな」

幼馴染「最初は遅れてた私の方が先に出しちゃったもんね」


イーゼルに掛けられたまま、つい今さっき完成した男の描いた油絵をしげしげと眺めつつ私達は話した。

贔屓目で見なくともなかなかの出来、高校最後の出展作品として相応しいと思うけど、私より上手な気がするから言ってあげない。

もし入賞したら、その時思い切り褒めてあげる事にしよう。

それが今の私かは解らないけど。



196 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/07(金) 20:57:33 ID:/0Dyn6uQ


男「ちょっと廊下の流し台で洗い物してくるわ」

幼馴染「じゃあ廊下は寒いから、ここで待ってる」

男「おう、絵に悪戯すんなよ」

幼馴染「へっへーん」

男「…おい」


さすがにそんな意地悪はしない、もちろんそれは男も解ってる。

ふざけて何回か振り返る真似をしながら、彼は教室のドアから寒い廊下へ出て行った。


さて、悪戯はしないけど…粗探しでもしてやろうかな。

……それも違う、男が描いた絵を目に焼きつけておきたいだけ。


私はキャンバスに顔を近づけて、端からなぞるようにそれを眺めた。



197 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/07(金) 20:58:09 ID:/0Dyn6uQ


幼馴染「……あ…」


ふと、ある一点…パレットナイフでわざと乱雑に色がのせられた背景部分に目がとまる。

これは──


確認しようと更に目を凝らしたその時、不意に暗転を始める視界。

いけない、私が入れ替わろうとしている。


幼馴染「お…とこ…」


まだ夕方なのに、しかもなんでこんなタイミングで。

せめてあと少し、男が戻るまで。

せめて大きな声だけでも出す事が出来れば──



【第二部おわり】



.



《第二部時点で記事に頂いたコメント》



名前:無記入

続きが待ちきれない・・・!



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コメントありがとうございます
できるだけ早く書きます!




【第三部】

(午前の幼馴染視点)




201 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/11(火) 19:04:18 ID:8eHANcXI


幼馴染「痛っ……」


目が覚めていきなり痛覚に襲われる。

硬いタイルカーペット敷きの床に、膝を落としてしまったんだ。


周囲を見て、そこが美術教室である事に気付いた。

そして現在が、まだ夕方である事にも。



202 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/11(火) 19:05:14 ID:8eHANcXI


幼馴染(……こんなに早く…しかも、立った姿勢のままで意識を手放すなんて)


きっと何かがあったんだ…と思った。

立ち上がりスカートの裾を払う。

目の前にはイーゼルに掛けられた大ぶりなキャンパス、完成した絵。

実際に見た事は無かったけど、今回の美展に出す男の作品に違いない。


幼馴染(よかった…この絵を倒さなくて)


ほっ…と胸を撫で下ろした時、教室の出入口のドアが開いた。



203 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/11(火) 19:07:32 ID:8eHANcXI


男「悪戯、してないだろーな?」


廊下で洗い物をしていたんだろう男は、私の様子にまだ気付いていない。

けど、私の表情は今の戸惑いを語っていたらしい。

こちらから話す前に彼の顔つきは変わった。


男「……もしかして、午前の…?」

幼馴染「うん…」

男「そう…か……」


今、彼は努めて動揺しないようにしている。

午後の私……もうその呼び方もしっくりこなくなってしまったけど、彼女を深く気遣うそぶりを今の私に見せないために。



204 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/11(火) 19:08:21 ID:8eHANcXI


幼馴染「男、気にしないでいいの。午後の自分の事は、私も心配だから」

男「ん……そっか」

幼馴染「……また早く、もう一人の私の時間が短くなっちゃったね」

男「それもかなり大幅にな」


今は17時半くらい。

お弁当を食べてる途中の13時頃に入れ替わったから、彼女の時間は僅か四時間ちょっとしかなかった事になる。


私はポケットからタブレットを取り出し、3粒くらいを口に放り込んだ。

思わず顔をしかめてしまう程の、強い刺激と清涼感。


男「お前、そんな何粒もいっぺんに…無理はすんなよ」

幼馴染「いいのっ、がんばるの。…んんんっ…うぅ……っ…」



205 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/11(火) 19:09:03 ID:8eHANcXI


少しでも、午後の私の事を思い出さないと。

今の私の中にその存在を取り込まないと、本当に彼女は消え去ってしまう。

でもその刺激に耐え切った時、無情にも記憶は何も再生されなかった。


人格が入れ替わる事に気付いていたはずなのに、椅子に座る事もしなかった午後の私。

一体何があったのか思い出す事もできず、男も知る様子は無い。



206 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/11(火) 19:09:43 ID:8eHANcXI


男「気には病むなよ、お前のせいじゃない」

幼馴染「うん…」

男「どっちかと言うと、人格をひとつにしようとした俺の──」
幼馴染「ストップ、それ言ったら怒るよ」

男「…ごめん」


……大丈夫。

例え午後の私が完全に時間を失っても、いつか私が彼女を思い出してみせる。


幼馴染「帰ろう、男」

男「…そうだな」


仲違いした事もあるけど、彼女は大事な私の半分なんだから。



207 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/11(火) 19:10:50 ID:8eHANcXI


………


…帰り道


中学の時はいくらか覚えてる。

けど、男と一緒に高校から下校する機会は今までほとんど無かった。

何かのイベントがある時など午前中に帰る事はたまにあったけど、こんな暗い時間にそうするのは初めての事。


まして手を繋いでの帰宅なんか、尚更の話だった。

今の私達が付き合う事になってからも、朝の通学の時には明るくてこんな事は出来なかったから。

午後の私はいつもこんな満ちたりた時間を過ごしていたのか……と、ちょっと悔しく思ってしまう。



208 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/11(火) 19:11:28 ID:8eHANcXI


…解ってる、状況はそんな事を気にしてる場合じゃないし、むしろ彼女に妬まれるべきなのは今の私。

それでもそう思ってしまうくらい、この時間は特別なものに感じられた。


幼馴染「絵の製作、間に合って良かったね」

男「ああ、ぎりぎりになっちゃったけど」

幼馴染「いつ会場に搬送するの?」

男「明日、放課後に顧問の先生のワゴン車に積み込んで、明後日の日中には持って行くって」



209 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/11(火) 19:12:16 ID:8eHANcXI


幼馴染「呆れた、本当にぎりぎりじゃない」


──ふと、胸が鳴る。

理由も解らないし、気にしなければ見落としてしまいそうな小さなサイン。

でも今、確かに何かが心に引っかかった気がする。


男「……どうした?」

幼馴染「何か…思い出せそうな…」

男「!!」


男が驚いた表情をしつつ黙り込む。

私が考える邪魔にならないように…という事なんだと思う。



210 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/11(火) 19:13:05 ID:8eHANcXI


どうして今、こんな感覚に襲われたんだろう。

やっぱり午後の私にとって、この帰り道は特別なものだったから?

…違う、根拠は無いけどそうじゃない気がする。


私はまたミントタブレットを口に放り込んだ。

けど、やっぱり何も記憶は再生されない。


幼馴染「……ごめん、解らないや」

男「そうか…」



211 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/11(火) 19:13:45 ID:8eHANcXI


心に気掛かりを残したまま、私達はお互いの自宅前で別れた。

玄関の門扉を開けながら自分の部屋の窓に目を遣り、ふと昨夜今の私が覚醒した時の事を思い出す。


『…えっ!? わわっ! 男っ!?』

『あはは……おはよう、幼馴染』

『なんでっ!? こんな時間…えっ!?』


普段なら男が部屋にいるはずの無い時間に目覚めたはずなのに、自分がいたのは彼の腕の中。

一瞬『まさか』と思って、ちゃんと服を着ているかを確認してしまったのを思い出して顔が火照った。



212 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/11(火) 19:15:24 ID:8eHANcXI

幼馴染(でも、ちょっと…いやすごく嬉しかったなぁ)


その行動の主目的は私を喜ばせる事じゃないとは知りつつも、やはり想う人の腕の中で目覚める事が幸せじゃないわけもなく。

でも次の瞬間には、もう一人の私の記憶を引き継げなかった事に失望した。

明日はいつ頃に入れ替わる事になるのだろう。


幼馴染(午後には体育があるから、その時じゃなきゃいいけど…)


その時の私は、まだ知る由も無かった。

そんな心配が杞憂である事。

もう二度と、その時が訪れないという事を。



217 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/12(水) 19:08:21 ID:S/bybhK2


……………
………


…翌朝


あれだけ大幅に覚醒の時間がずれたのだから、もしかしたら夜中に再度入れ替わりがあったりするかもしれない。

そう考えもしたけど、私は普通に朝を迎えた。

とにかく通学中や教室移動の時など、特に歩いている時には注意しておかなきゃ。


できるだけ静かに階段を降り、台所へ向かう。

お弁当作りを始めて間も無くは中々眠気が拭えず、メニューを考えるにも苦心した。

でも最近はようやく慣れてきて、メニューは前の晩の内に冷蔵庫と相談する事にしている。

それも夜に人格が入れ替わるのが早まったから、できるようになった事だけれど。



218 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/12(水) 19:09:10 ID:S/bybhK2


幼馴染(豚コマは使っていいって言ってたから、生姜焼きと卵焼き…あとブロッコリを茹でて……)

幼馴染母「あら、おはよう。今日も早くから頑張るわね」


まだパジャマ姿のお母さんが台所のドアを開ける。

私が自分で弁当を作ると言い出した時は随分と冷やかしてくれた彼女だけど、今じゃメニューを考える手伝いもしてくれるようになった。


幼馴染「おはよー」

幼馴染母「男くん、あんたの料理で満足してるのかしら? よかったら私が作ってあげようか?」

幼馴染「大きなお世話ですよーだ」

幼馴染母「あははっ、でもあんた達がようやく前に進んでくれて嬉しいわ…」



219 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/12(水) 19:09:56 ID:S/bybhK2


ちなみに作るお弁当は三人前。

私が最初に男にお弁当を作った朝、なんだかお父さんがイジけてたから。


『とうとうお前も色気づいてしまったか…』

『もー、変な事言わないでよ。しょうがないなぁ、明日からはお父さんの分も作ってあげるから』

『狙 い 通 り』


なんだかんだ言って、両親共に昔からの付き合いである男の家庭の事は快く思っている。

今のところ何も現在や将来のビジョンに問題は無い。

…私自身の内面を除いては。



220 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/12(水) 19:10:37 ID:S/bybhK2


………



幼馴染「おっはよ」

男「おっす」


今日も学校まで、慣れた道を二人で歩く。

少しだけ曇った空、天気予報によれば夕方からは雨になるかもしれない。


幼馴染「絵の積み込みする時、雨だったらやだね」

男「お前の分はもう先生の車に積まれてるけどな」



221 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/12(水) 19:11:29 ID:S/bybhK2


幼馴染「え、そうなの?」

男「うん、先週にな。完成して乾いた後すぐに積んでもらってたよ。『見てたら絶対あちこち修正したくなるから』って」


確かに私は家で適当にイラストを描く時も、完成した筈の絵に修正を重ねて、結果最初の方が良かった…となる場合が多い。

それでもなかなかその癖は治らずいるのに、午後の私は結構思い切りがいいんだな…。


幼友「おはようっ」

男「おー、おはよ」

幼馴染「おはよう、友君は?」

幼友「また寝坊したってメール入ってた。それよりあんた達、一昨日は『無かった』って言ってたけど昨夜はどうだったのかな?」



222 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/12(水) 19:12:00 ID:S/bybhK2


これに似た問いは昨日も受けた。

その時も今も、何の事を言ってるのかいまいち解らないのだけど。

どうも彼女の顔が悪戯っぽく見えるのは気のせいじゃない。


男「どーもしてねえよ」

幼友「えー? 意気地なしだなぁ」

男「うっせ」

幼友「誘惑が足らんぞ? 幼馴染くんっ」


流し目でニヤリと笑う幼友。

何を表現しようとしてるのか、妙にしなやかな手つきで指をくねらせてみせる。

なんとなく一昨日の話が見えた気がして、私はそんな彼女のお尻を叩いた。



223 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/12(水) 19:13:00 ID:S/bybhK2


少し早目に学校に着いた私達、男はやっぱり絵が気になるらしく一度美術室に行くとの事だった。


幼友「男君の絵も完成した事だし、今日はまたどっかで集まって打ち上げでもしよっか? あ…でもその時、今の幼馴染ちゃんじゃ…」

幼馴染「うん…気にしないで、どっちも私だもん。でも今日の放課後は絵の積み込みがあるからなぁ」


──どくん…と、また心臓が少し大きな鼓動を打った。

昨日の帰り道と一緒だ、何かを思い出せそうな……記憶の何かが主張しようとしている。


幼友「どしたの?」

幼馴染「………駄目だ、やっぱり出てこない…」

幼友「もしかして、午後の記憶?」

幼馴染「うん、何か思い出せそうになるんだけど……」



224 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/12(水) 19:13:37 ID:S/bybhK2


幼友「そっか…でもあんまり思い詰めないでね」


気遣う幼友に笑顔を返して、私はまた思慮に耽った。

昨日と今の共通点、歩いてる、話をしてた……他には?


幼馴染(…話……絵の事を話してた)


そうだ、どちらの時も『絵の積み込み』について話をしてた。

そう思いついた時、更に胸にざわつきが感じられる。

やっぱりここに鍵があるのかもしれない。


幼友「仕方ないと思うけど、ちゃんと授業中は集中しなきゃだめよ?」

幼馴染「うん、ごめん」


少しだけ、引き出しが開きかかってる気がする。

でも結局その後、記憶の正体は掴めないままに午前中は過ぎていった。



225 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/12(水) 19:14:11 ID:S/bybhK2


…昼休み、屋上


まだ人格は入れ替わらない。

私は卵焼きを口に入れると弁当箱を膝に置き、時計を確認した。


幼馴染(昨日はこの位の時間だったんだけどな…)

男「美味いわ、生姜焼き」

幼馴染「ん、良かった」


いつ午後の私と入れ替わるか解らないから、少しゆっくりとお弁当を食べ進める。

できれば彼女にも食べて欲しい。

彼女にとって楽しい時間だったはずの四人での昼食を、今日も過ごさせてあげたい。

でもどんなにゆっくり食べてもその時は訪れる事なく、遂に弁当箱は空っぽになってしまった。



226 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/12(水) 19:15:30 ID:S/bybhK2


男「…あれ? なんかメッセージ届いてる」


男がポケットから携帯を取り出す。


友「浮気か?」

幼友「あんたじゃないんだから」

友「俺も浮気した事ねーし!」

男「あ……行かなきゃ」

幼馴染「え? 本当に浮気?」

男「違うって」


どうやら夕方からの雨を見越して、本当に昼休みの内に積み込みをする事になったらしい。

私も行こうとしたけど、男は『万一昼休みを過ぎるようだったら、先生に理由を伝えて欲しい』と言って私を残らせた。

もちろん別に断る理由も無く、私は屋上を後にする彼の背中を見送る。

……また絵の事に関わる話を聞いて、胸をざわざわとさせながら。



227 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/12(水) 19:16:10 ID:S/bybhK2


幼友「…なんか、考え事してるね」

幼馴染「え? ああ…うん、ちょっと」

友「午後の記憶か?」

幼馴染「…なんだか絵の話をする時に、ちょっと引っかかるものがある気がするんだ」


それでも、どうしても思い出せない。

きっと何かがあるはずなのに。


幼友「どうにもしてあげられないのが歯痒いなぁ…」

幼馴染「ごめんね」



228 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/12(水) 19:16:46 ID:S/bybhK2


友「思い出そうとするからいけないんじゃね?」

幼友「あんた何言ってんの?」

友「午後の幼馴染ちゃんの記憶が今の幼馴染ちゃんに無いんだとしたら、思い出そうったって無理だろ」

幼友「ちょっと」

友「むしろ、午後の幼馴染ちゃんになったつもりで過ごしてみたら?」


友君の言葉、ちょっと意味が解らないような名案のような。

でも彼なりに知恵を絞ってくれているのだろう。


幼馴染「ありがとう、友君。がんばってみる」

友「うん、色々試してみればいいよ」

幼友「大丈夫? この人、何か失礼な事言ってない?」

幼馴染「大丈夫だよ、本当…色々試してみなきゃね」



229 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/12(水) 19:17:27 ID:S/bybhK2


………



そのまま、人格が入れ替わる事なく午後の授業を受ける。

危惧していた体育の授業も終わり、やがて帰りのHRまで終わってしまった。


幼馴染(午後の私……どうしたんだろう、なんで入れ替わらないの)


窓の外は雨、そう強い降りようではないけど傘は必須な位。

もちろん持ってきてはいるけど、今日は手を繋いで帰るのは難しいな。



230 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/12(水) 19:17:59 ID:S/bybhK2


男「お疲れ、絵の積み込みも終わってるし…帰るか」

幼馴染「うん」

幼友「ね、用事が無いんだったら朝も言ったけど、どこか寄ろうよ」

幼馴染「…どうする?」

男「いいよ。雨だし、家までの中間どころで休憩を兼ねてモスでも寄るか」


午後の私に申し訳ない、そうは思うのだけど。

でも帰りがけの寄り道なんて経験は無いに等しい今の私、どうしても嬉しくなってしまう。

私達は度重なる朝の遅刻で職員室に呼ばれている友君の合流を待って、校門を出た。



231 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/12(水) 19:18:37 ID:S/bybhK2


………



男「俺、この辛味噌チキンバーガーな」

友「俺もそれ、幼友はいつもの?」

幼友「うん、モスチ」

幼馴染「うーん…どうしよ」

幼友「そういえば今のあんた、あんまり来た事ないよね。私のと同じにしときなよ、定番だよ?」

幼馴染「じゃあ、そうする」


それからみんなでひとつのポテトを頼んで、私達は窓際の席についた。

他愛も無いお喋りに花を咲かせ、雨が小降りにならないかと外を気にする。

今の私がこの時間まで身体を司っているのは今までを思えば異常な事態のはずだけど、誰もそれに触れようとはしない。



232 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/12(水) 19:19:09 ID:S/bybhK2


友「今回の絵、自信の程は?」

男「けっこうあるぜ、時間かけたもんよ」

幼友「いったん展示場に運ばれたら、もう触れないの?」

男「ああ、順番に審査されていくからな」


また、胸がざわつく。

やっぱり昼の積み込みに立ち会えば良かった、何か解ったかもしれないのに。

今更そう思いついて後悔した。


友「でも運ぶのって、専用の車とかじゃないんだな」

男「当たり前だろ、プロの画家の作品じゃあるまいし」



233 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/12(水) 19:19:39 ID:S/bybhK2


幼友「部員みんな出展するの?」

男「ああ、ほとんどな。もうワゴン車の荷室いっぱい、押されてキャンバスが破れるんじゃないかと思ったよ」

友「……幼馴染ちゃん?」

幼馴染「………」


せっかく楽しく話してる。

みんなに心配はかけたくない、でもさっきから胸のざわつきが強い。

半ば苦しく思えるほど、何かを訴えかけてる気がする。


幼友「そっか…また絵の話になったから」

友「午後の幼馴染ちゃん、何を伝えたいんだろうな」



234 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/12(水) 19:20:21 ID:S/bybhK2


友君が昼に言ったように、午後はもう一人の私の行動を意識してその気になってみた。

きっとお昼ご飯の後だから眠気を堪えてたんだろうな…とか、教室の掃除はどこをやってたのかな…とか。

でも、特に進展は無かった。


男「…幼馴染、あんまり気にするな」

幼友「そうだよ、そのうち自然に思い出すかも」

幼馴染「うん、本当…ごめん」


食べ終わってからも暫くお喋りを続けている内に、雨は上がったようだった。

でももう空は暗いから、どのくらい厚い雲がかかっているのかは判らないし、少なくとも星は見えない。

帰るなら今の内、私達の意見はそう一致して席を立つ事にした。



235 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/12(水) 19:20:55 ID:S/bybhK2


………



幼友「じゃあ、私達ここで曲がるね」

男「おう、お疲れ」


そこからじきの交差点で、二人は手を振って私達と別れた。

そのあと数歩、互いに遠ざかってから男は一度振り返り、私に手を差し伸べる。

私も一度振り返り、友君達の姿が小さくなっている事を確認してその手をギュッと握った。


右手の温もりを幸せに感じながら、でも心の内で想いを馳せるのは解けない疑問について。

とうとう昨日、今の私が覚醒してから丸一日以上が経過してしまった。

友君も幼友も、あんなに知恵を貸してくれているのに。



236 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/12(水) 19:22:01 ID:S/bybhK2


幼馴染「…なんか、二人に悪いみたい」

男「そんな事、言うなって」

幼馴染「でも友君って、いい人だよね」

男「んー、まあ……いい奴なんだよ、あいつ」

幼馴染「面白いんだよ、友君…午後の私になったつもりで過ごしてみたら? って、アドバイスくれたんだ」

男「なんだそりゃ」

幼馴染「午後の私の記憶、思い出せないんじゃなくて今の私には無いんじゃないのかって。思いつかなかったよ、そんなの」


なかなか実行するのは難しい、友君のアイデア。

でもこんな訳の解らない状況を打破するには、そういう柔軟な考え方が必要なのかもしれない。



そして、もしかしてそれは当たらずしも──



男「面白いな、同じお前の中にいるのは確かだけど、記憶は別モノか」



──心臓が、大きく鳴った。



237 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/12(水) 19:22:45 ID:S/bybhK2


思い出すんじゃない。

午後の私を演じるんじゃない。

それらはあくまで、今の私が彼女の記憶や意思を取り込もうとする事。


そうじゃない、彼女はいるんだ。


この同じ身体の中に、今も、今までも、ずっとこれからも。


『午後の幼馴染ちゃん、何を伝えたいんだろうな』


友君の言葉が頭を過る。

彼女は今の私に伝えようとしてる、それは何かの警告…それとも。



238 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/12(水) 19:23:32 ID:S/bybhK2


幼馴染「自身の…存在…」


男は私の様子に気付いたようで、立ち止まり真剣な面持ちでこっちを見つめている。

私は目を閉じ、じっと心に耳を澄ませた。


今、ここにいるのが自分だけだと思うからいけないんだ。

きっと彼女は今の私と同じように、この身体に在るんだ。

だから、その声に耳を──


《──やっと、届いたんだね》



239 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/12(水) 19:24:08 ID:S/bybhK2


幼馴染「……え…?」

男「どうした?」

幼馴染「声…が…!」


《昨日の夕方、最後に交代してからは寝てる間以外ずっと意識があったんだよ》


頭の中に直接、声が伝う。

間違いない、疑いようも無い、これは彼女の声。


幼馴染(…じゃあ、貴女もこの目を通じて同じ景色を見てるの?)

《うん、それだけじゃなくて……たぶん気付いてくれた今なら、ほら──》



240 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/12(水) 19:24:39 ID:S/bybhK2


不意に右手が、男と繋いだままでヒョイと持ち上げられる。


男「…何を?」

幼馴染「違う……今の、私じゃない」

男「どういう意味だ? まさか…」

幼馴染「私にもよく解ら…そういう意味以外無いでしょ? って、ええ!? 何これ…」


言おうとしていない言葉が口から零れる。

つまり、今…私の身体を操ったのは。


《午前の私、ちょっと喋らないでくれる?》

幼馴染(うん…解った)



241 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/12(水) 19:25:27 ID:S/bybhK2


男「…幼馴染?」

幼馴染「男、一日ぶりだね」

男「!! じゃあ…今のお前は」

幼馴染「どっちもだよ、二人でひとつの身体を操ってる。午前の私が存在に気付いてくれたから、出て来られるようになったの」


午後の私が男に語るのを聞きながら、私は頭の中を整理した。

彼女の存在を受け入れると同時に、脳内に再生されたもの。

それは午後の私がもっていた全ての記憶だった。


今、私は声を出そうと思えば出せるし、身体を動かそうとすればそれもできる。

きっと彼女も同じなんだろう。

同時に反対の事をしようとすれば、どうなるのか解らないけど。



242 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/12(水) 19:26:21 ID:S/bybhK2


やっとひとつになれた。

私達がひとつになる方法は、同じ身体の中でお互いが同時に存在するという状態を認め合う事だったんだ。


男「そ、それで…大丈夫なのか? 変な感じだったりは…」

幼馴染「もちろん、変な感じではあるけど…大丈夫だと思うよ? どっちも自分だし」

男「今…喋ってるのは、どっちなんだ?」

幼馴染「どっちでもないよ」


そう、もうどちらでもない、区別なんか要らない。

喋りながら違う事を考えるなんて、ちょっと難しくても普通の事。


それを象徴するように、私の目からはどちらのものとも判らない涙が零れた。



243 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/12(水) 19:27:01 ID:S/bybhK2


私達は同じ景色を見て、同じ味や匂いを感じて、同じ右手の温もりを受け取っている。

もしかしたら心の中で喧嘩をする事もあるのかもしれないけど、それは誰にでもある心の葛藤と変わりは無いはず。


幼馴染「もう私達は…ひとつだから、男は気に…しなくていい…の…」

男「……そうか、よかった…本当に」


心から安堵した声を、搾り出すように男は言った。

彼の瞳もまた潤んでるように見えたのは、きっと気のせいじゃないと思う。



244 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/12(水) 19:28:03 ID:S/bybhK2


それ以前がどうだったかは解らない、もしかしたら二人とも気付いていなかっただけなのかもしれない。

でもこうして二つの人格が同時に意識をもつようになったのは、昨日の夕方の交代からの事。

今日、午後の私はずっと訴えかけてたんだ、自身の存在を……そして。


幼馴染「良かった、やっと言える…」

男「……何を?」


『男に伝えなきゃいけない事がある』って、教えようとしてたんだ。



245 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/12(水) 19:28:34 ID:S/bybhK2


……………
………


…翌日、早朝


先生「ああ、これだ。男、隣りをワシが持っとくから、そーっと抜き出せ」

男「はい」


顧問の先生のワゴン車から男の絵のキャンバスを抜き出す。

収納されていた袋を脱がせ、端から目を這わせてゆく…すると。


男「あった…!」

幼馴染「やっぱり、ちょっとだけ広がってる…」



246 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/12(水) 19:29:16 ID:S/bybhK2


先生「おお…これは気付かんのも無理はないな、厚く塗られた絵の具の縁に沿っている」


パレットナイフで乱雑に厚塗りされた背景部分、おそらくその刃先が当たったのだろう。

キャンバスに刻まれた、長さほんの3センチほどの傷。


先生「しかし布目が通っている、これは運搬中に他の絵に押されたら裂けていたかもしれんな」

男「先生、補修する時間は…」

先生「午前中にワシが裏から補修材を当てておくから、昼休みにこの部分だけ塗り足しに来なさい」

男「はい!」



247 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/12(水) 19:30:29 ID:S/bybhK2


昨夜の内に先生に連絡をとり、今朝は急いで登校したからお弁当は作れなかった。

それもあり昼食は二人揃って購買のパンで済ませ、昼休みの残りは念入りな絵の塗り直しに費やした。

放課後、持ち込みできる時間ぎりぎりまで乾かしてから、再びワゴン車に積み込んで。

後は先生が細心の注意の元、運んでくれるはず。


男「…ありがとうな。高校最後の美展、傷物で審査落ちなんて嫌だもん」

幼馴染「感謝の気持ちは態度で示すといいと思うよ?」

男「……マック」

幼馴染「もう一声」

男「モス」

幼馴染「上げ方がせこい」

男「ケーキバイキング」

幼馴染「よし、手を打ちましょう」



248 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/12(水) 19:31:16 ID:S/bybhK2


………



頭の中で別の声が聞こえるのは、次第に慣れると思う。

それに普通なら退屈してしまうような時、無言で会話できる話し相手がいるというのは悪くない。

たまに意見が食い違う事もあるけど、納得がいくまで相談する事にしてる。

そもそもお互いに逃げられないし考えは見透かされるんだから、喧嘩なんか長続きするわけがない。


男と手を繋ごうと、口づけを交わそうと、同じ感覚を二人ともがもつのだから嫉妬もしようがない。

片方がレンアイについて想いを巡らせてると、もう片方が冷やかしてくる…という妙に恥ずかしい思いをする事はあるけど。

逆に女同士の恋話を脳内でできるというメリットもある。



249 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/12(水) 19:31:53 ID:S/bybhK2


あと、めっぽう口喧嘩が強くなった。

争いながら同時にそれを冷静に見ているもう一人が助言できるのだから、当然かもしれない。

これには男も手を焼いているみたい、程ほどにしないと嫌われそう。


いっそ二つの事を同時に捉えられる事を特技として活かせないかとも考える。

英会話とかをしっかり習えば、同時通訳の仕事とか就けたりするかな……なんて、企んでみたり。


動作については、基本的にはどちらかが『じゃあ今は私が休んどく』という感じで、交代で行う事にした。

ただ何かにびっくりした時、咄嗟に違う事をしようとして慌てる事がある。

慣れるまで、事故とかには気をつけなきゃいけないと思う。



250 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/12(水) 19:32:34 ID:S/bybhK2


………



幼友「おはよー」

友「おっすー」

幼馴染「あ、おはよう」

男「あれ? 友、今日は遅刻しないのか?」

友「うるせーし」


今朝も男と友君がじゃれあっている。

友君はもう教習所の卒検も合格して、休み時間はもっぱら中古車雑誌を熟読してる。

幼友が話しかけても上の空だから、ちょっと彼女は最近ご機嫌斜め。



251 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/12(水) 19:34:09 ID:S/bybhK2


こんなに深い秘密を共有しあった4人、きっとずっとこんな関係でいられると思う。

……4人? でも、5人っていうのもなんか違う。

じゃあ4.5人? それじゃ誰かが半人前になっちゃうし──


《4.1人でいいんじゃない?》

幼馴染(それ、なんかおかしいよ…)

《なんでよ、Ver4.1みたいで格好いいのにー》


幼友「幼馴染ちゃーん、行くよー」

男「何してんだ、あいつ」


いけない、考え事してたら置いて行かれてる。

私はちょっと駆け足で3人の元へ向かった。


大切なパートナーと一緒に。

彼女と手を繋いだイメージで。



【おしまい】



.

テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

  1. 2014/03/13(木) 08:40:38|
  2. 男・幼馴染SS
  3. | コメント:10

恋のクロスカウンター(原題/男「女さん、これホワイトデーのプレゼント」)



1 名前:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[] 投稿日:2014/03/10(月) 13:57:32.16 ID:/vQHQctM0


女「あ、さすがぁ。こういうとこちゃんとしてるよね、男君」

男「まあ貰ったお返しはキチンとしたいしね。何倍返しにもなってはないけど」

女「いいんだよ、ありがとうね!」



「………」ジーーッ



2 名前:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage] 投稿日:2014/03/10(月) 13:58:32.40 ID:/vQHQctMo [1/18]


男「後輩ー」

後輩「あっ、男先輩」


男「これ、ホワイトデーだから」

後輩「うわー、すみません。義理チョコしかあげてないのに」

男「でも手作りだったじゃん、美味しかったよ。俺のもそんな他意は無いから、ご心配なく」

後輩「あはっ、先輩なら他意があってもいいんですよー? なーんて」

男「おいおい、変な期待させんなよー」



「………」ジーーッ



3 名前:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage] 投稿日:2014/03/10(月) 13:59:07.17 ID:/vQHQctMo [2/18]


男「生徒会長っ」

会長「あら、男君」


男「これ、バレンタインのお返しっす」

会長「あらあら……何だか悪いわね」

男「ぜんぜん、言うほど大したもんじゃないんで」

会長「じゃあありがたく頂くわ。でも何も出ないわよ?」

男「解ってますって。生徒会長、彼氏いるじゃないすか」

会長「世の中には別腹って言葉もあるけど…ね?」

男「ちょ! 生徒会長、からかわないで下さいよー!」



「………」ジーーッ



4 名前:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage] 投稿日:2014/03/10(月) 13:59:47.53 ID:/vQHQctMo [3/18]


男「おう、妹。お前も今帰りか?」

妹「……外で話しかけないでって言ってるじゃん、キモッ」


男「ちぇっ、昔は可愛かったのに。まあいーや、ほら……これホワイトデーだから」

妹「!! ……バッカじゃない! キモッ! キモッ!」アタフタ

男「うっせ。渡したかんな、何も貰ってないって言うなよ」

妹「……キッモ…」ニヘラ



「………」ジーーッ



5 名前:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage] 投稿日:2014/03/10(月) 14:00:31.33 ID:/vQHQctMo [4/18]


男「ただいまー」

姉「ああ、おかえりなさい」


男「姉ちゃん、これ」

姉「あら、ホワイトデーの? ふっふーん、可愛い弟め! キスしちゃろう!」

男「ばーか、変態姉かよ」ケタケタ

姉「よいではないかよいではないか!」

男「うわー、何をするー!」

姉「あはは……ま、ありがとうね!」

男「どーいたしまして」


……ピコッ


男(ん? 携帯…メッセージ、幼馴染か)



6 名前:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage] 投稿日:2014/03/10(月) 14:00:58.48 ID:/vQHQctMo [5/18]


…男の部屋


男(メッセージ『帰ってる?』だけだった)

男(どうしたんだろ、いつもみたく勝手に入ってくりゃいいのに)

男(………)

男(…俺が、行きゃいいのか)


男(……部屋の電気は…点いてんな、いるのか)

男(よし、ベランダ越しに──)



7 名前:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage] 投稿日:2014/03/10(月) 14:01:40.89 ID:/vQHQctMo [6/18]


(ロープ…ある、睡眠薬…ある)


(手錠も、ナイフも…大丈夫)


(そうそう…猿ぐつわできるように、タオルなんかも用意しとかなきゃ)


(……これで、万全かな)



8 名前:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage] 投稿日:2014/03/10(月) 14:02:15.90 ID:/vQHQctMo [7/18]


…コン、コン


男「お邪魔ー」


カラカラ…


幼馴染「!!」

男「よ、なんかメッセージ貰ったんだけど」

幼馴染「……き、来てくれたんだ」

男「おう、どしたのかなと思って」



9 名前:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage] 投稿日:2014/03/10(月) 14:02:50.34 ID:/vQHQctMo [8/18]


幼馴染「よかった、呼ぼうと思ってたの」

男「そっか、用は何だった?」

幼馴染「うん…まあ、ゆっくり話すよ」


………



幼馴染「……紅茶でよかった?」

男「うん、サンキュ」


幼馴染「……飲まないの?」

男「熱いのあんまり得意じゃないって知ってるだろ? もう少ししたら飲むよ」

幼馴染「………」チッ



10 名前:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage] 投稿日:2014/03/10(月) 14:03:16.20 ID:/vQHQctMo [9/18]


男「俺がこっちの部屋に来るの、ちょっと久しぶりだな」

幼馴染「そうだね」

男「昔はかわりばんこ位でお互いの部屋を行き来してたけど」

幼馴染「…そう…だったね」

男「女の子らしい部屋になったよなー」


幼馴染「男…今日、何の日か知ってる?」

男「え?」

幼馴染「知ってるよね、みんなに愛想振り撒いてたもんね」

男「へ? …ああ、ホワイトデーの事か」



11 名前:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage] 投稿日:2014/03/10(月) 14:03:54.67 ID:/vQHQctMo [10/18]


幼馴染「良かったよね、バレンタインはたくさん貰えて。お返しも大変だったでしょ」

男「大変なんて事は無いよ、まあクッキー焼くなんて慣れなかったけどな」

幼馴染「へえ…あれ、手作りなんだ」

男「ああ、お前のもあるぞ? …はい」ヒョイ

幼馴染「!! ……ありがと、でも……」

男「まあ、食ってみろよ。味の保証はできかねるけど」

幼馴染「その他大勢と一緒……か…」ボソッ



12 名前:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage] 投稿日:2014/03/10(月) 14:04:34.69 ID:/vQHQctMo [11/18]


…パクッ、モソモソ


男「どう?」

幼馴染「…ん、美味しい。紅茶に合うね」

男「良かった、俺も紅茶貰お」


…ゴクンッ


幼馴染「………」ニヤッ

男「うん、苦味がきいてる。ダージリン?」

幼馴染「うん……特別製の」

男「ふーん…?」



13 名前:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage] 投稿日:2014/03/10(月) 14:05:07.87 ID:/vQHQctMo [12/18]


幼馴染「ねえ、バレンタイン…私のチョコ、どうだった?」

男「え? 美味しかったよ?」

幼馴染「そうだよね、すっごく頑張ったもん」ニッコリ

男「そうなのか、ありがとうな」

幼馴染「男はたくさんチョコ貰って、そんなにありがたみは無かったのかもしれないけど」ニコニコ


男「そんな事ないよ」

幼馴染「あるよ」イラッ

男「……え?」



14 名前:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage] 投稿日:2014/03/10(月) 14:05:39.14 ID:/vQHQctMo [13/18]


幼馴染「だってお返し、みんなと同じクッキーでしょ? 私のチョコは特別製……男にしかあげてないのに」

男「何を言って…」

幼馴染「いいの、だから私……ホワイトデーのプレゼントは自分で貰う物を決める事にしたの。そして──」

男「幼馴染、何を言ってんだ? 俺は…」


幼馴染「──それはもう、目の前にあるの……」クスッ



15 名前:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage] 投稿日:2014/03/10(月) 14:06:12.94 ID:/vQHQctMo [14/18]



チャラッ…ガチャッ、ジャキンッ



16 名前:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage] 投稿日:2014/03/10(月) 14:06:46.65 ID:/vQHQctMo [15/18]


男「幼馴染……誰がお前へのプレゼント、そのクッキーだけだって言った?」


幼馴染「え……?」ジャラッ


男「俺からの本当のプレゼントは、コレだよ」ジャキッ

幼馴染「手錠……何で、お互いの片手を繋いで…」

男「逃げられないだろ? やるよ、特別製のプレゼントをさ。大丈夫、ベランダにはナイフもロープも猿ぐつわの道具も置いてあるから」

幼馴染「お、おと…こ…?」



17 名前:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage] 投稿日:2014/03/10(月) 14:07:13.24 ID:/vQHQctMo [16/18]


男「それにさっきのクッキーだって、お前の分だけは特別製だったんだぜ?」

幼馴染「……!?」グラッ…

男「睡眠薬入りだったんだよ、美味かったか?」


幼馴染「…くっ……」

男「俺はずっとお前が好きだったよ……いつかどうにかしてやりたいと思ってた」

幼馴染「………」

男「知ってんだ、先週自分で言ってたもんな? この週末、親はいないんだろ? 今年のホワイトデー、金曜日で良かったよ」



18 名前:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage] 投稿日:2014/03/10(月) 14:07:45.20 ID:/vQHQctMo [17/18]


幼馴染「…ふふっ」

男「……? 何がおかしい?」

幼馴染「睡眠薬…? 偶然ね、これも気が合うって事の表れかしら」


男「何を…」グラッ…


幼馴染「あの紅茶も同じ隠し味入りよ、苦味が効いてたでしょ?」

男「…なっ…!?」

幼馴染「もっと奇遇な事に、後ろのベッドの下にはロープや手錠、ナイフなんかもあるわ……ベランダに行く手間が省けたでしょ?」

男「幼馴染…お前っ!」

幼馴染「私だけへの特別なプレゼント…それは男、貴方自身でいいの。ずっとずっと…大好き…だったわ……」



19 名前:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage] 投稿日:2014/03/10(月) 14:08:26.57 ID:/vQHQctMo [18/18]


男「……くそっ…意識が…」

幼馴染「…私…も……」

男「とりあえず……寝るか…」

幼馴染「そうね…いい夢がみられそう…」


男「これから……よろしく…な…」

幼馴染「こち…ら…こそ……」


…ドサドサッ


【おしまい】



20 名前:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage] 投稿日:2014/03/10(月) 14:36:47.73 ID:MS9QvAVDO


…のヮの



21 名前:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage] 投稿日:2014/03/10(月) 14:59:18.72 ID:7oRm5LVto


わろた



22 名前:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage] 投稿日:2014/03/10(月) 15:08:41.93 ID:NtwFQOzo0


相打ち…だと?



23 名前:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage] 投稿日:2014/03/10(月) 15:28:49.34 ID:64oM93nfo


お似合いの二人だな


.

テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

  1. 2014/03/10(月) 16:19:23|
  2. 男・幼馴染SS
  3. | コメント:2

春の気配はロマンスを連れて(原題/男「つ」幼友「釣りロマンを求めてっ」幼馴染「春の気配編です」)


122 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/05(水) 12:11:33 ID:8k0kLmKw


幼友(……やっぱり、やめよう)クルッ

幼友(いやいや、でもでも)クルッ

幼友(…せっかくだし…ね…)テクテク

幼友(だけどマズイって!)クルッ

幼友(……それでも、もうここまで来ちゃったし)クルッ


子供「ママー、アノ オネエチャン クルクル シテルー」

母親「コラ ユビサスンジャ アリマセン!」


幼友(あああ…やっぱり、二人で来れば良かったなぁ…)ハァ…


幼友(…着いちゃった)

幼友(ええいっ! 別に告白する訳じゃないんだからっ!)

幼友(たまたま近くを通る用事があっただけ! そういう事にしようっ!)



123 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/05(水) 12:16:03 ID:jkrajJdA


ピーンポーン……

…ガチャッ


男「はい?」

幼友「あ、あの! ちょっと近くを通ったからっ!」アセアセッ

男「はい」

幼友「これっ……今日、バレンタインだから…」スッ


男「……僕に?」

幼友(ヤバイ、顔がまともに見れない……私こんなに純情だっけ)


男「………」

幼友(うう…なにこの沈黙、顔上げられないよ)モジモジ

男「好きです」



124 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/05(水) 12:26:21 ID:7NIpvTC6


幼友「へ?」

男「好き」


幼友「は? …何を言ってるんですか?」アセッ

男「好きになりました、貴女を」


幼友「!!」


男「正直、一目惚れです」

幼友「え…!? ちょ、ちょっと待って…!」アタフタ

男「はい、待ちます」



125 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/05(水) 12:27:22 ID:7NIpvTC6


幼友「あのねっ!? 私…私はっ…ずっと気持ちを抑えて…!」

男「でも、チョコを持ってきてくれました」


幼友「それはそうだけど! えっと、でも…作るのに何時間もかけたけど、義理だしっ!」

男「……そんな義理チョコ、聞いたことないです」ニコッ


幼友「だめっ…! 冗談ならやめて下さい! その気になっちゃうじゃ──」

男「冗談なんかじゃないです。貴女を好きになりました」

幼友「あ…あぅ……」



126 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/05(水) 12:28:13 ID:7NIpvTC6


………



幼馴染(完成しました!)

幼馴染(自信作! 味見に味見を重ねたチョコケーキ!)ゲフー

幼馴染(ラッピングも可愛く、ばっちり!)


幼馴染(バレンタインに手作りケーキを贈る……鏡です! 女子の鏡!)

幼馴染(ホワイトデーのお返しなんて、押印済みの婚姻届でいいのです)ホワワーン


幼馴染(よし、男の家に行きましょう)



127 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/05(水) 12:29:18 ID:7NIpvTC6


幼馴染(……あれ? 玄関、開いてます)

幼馴染(呼び鈴はいりませんね──)


男《好きになりました、貴女を》

男《正直、一目惚れです》

幼友《だめっ…! 冗談ならやめて下さい! その気になっちゃうじゃ──》

男《冗談なんかじゃないです。貴女を好きになりました》


……グシャッ

クルッ……タタッ──


幼友「……あれ? 今、表に誰かいたような」

男?「はい、一瞬ですが幼馴染ちゃんの顔が見えました」

幼友「幼馴染…『ちゃん』──?」



128 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/05(水) 12:30:17 ID:7NIpvTC6


………



幼馴染「はあ…はあ…」

幼馴染(疲れた…もう走れません……)フゥ…


幼馴染「……あはっ…」

幼馴染(なんですか……それ…)


幼馴染(一目惚れって…どういう事ですか)

幼馴染(男が幼友に初めて会ったのは、もう何年も前なのに)

幼馴染(その時からずっと…好きだった?)


幼馴染(じゃあ、どうして私と付き合ったのでしょう…)グスッ



129 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/05(水) 12:31:06 ID:7NIpvTC6


幼馴染(もう……こんなふざけた口調、どうでもいいや…)フルフル


『──俺は、他の女に目をくれた事はありません』


幼馴染「ふざけないでよっ…」ボソッ

幼馴染(全部……口先だけだった…)ギュッ


『昔からずっと幼馴染だけを想ってきました』



幼馴染「意味わかんないっ…!!」ボロボロッ



130 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/05(水) 12:32:03 ID:7NIpvTC6


とりあえずここまで

>>95 こんな感じか



131 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/05(水) 12:46:43 ID:N1i37QJc


そんなに似てんのか



132 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/05(水) 12:50:02 ID:d.lztU1c


かんちがい……?



133 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/05(水) 13:01:45 ID:Z60svVBc


なるほど



134 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/05(水) 14:13:13 ID:d.lztU1c


やっとわかってーい



135 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/05(水) 15:28:40 ID:2Su4brtU


俺はいつ出るんだい?



136 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/05(水) 15:47:28 ID:PzsGDmp2


ええと…アオムシ・ユムシ・生ミックの役でしたら、ご用意できますが



137 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/05(水) 16:49:22 ID:2Su4brtU


俺ユムシが幼友の谷間に潜るイベがあるなら…甘んじて受け入れよう



138 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/05(水) 19:01:12 ID:tjhsoWFY


>>136
お隣の国ではポピュラーな食材らしいよユムシさん



139 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/05(水) 19:10:22 ID:Ln1ueRuc


つまり>>137のユムシが捌かれて調理されると



140 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/05(水) 19:21:45 ID:hY42U6W.


ミミックかムックなら是非とも



141 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/06(木) 04:24:29 ID:ykH6pIuw


やっと俺の出番がきたな……幼友は頂くぜ とーう!



142 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/06(木) 06:22:53 ID:djsjqj1g


>>141
てーい( ;∀;)=◯)`Д゚)・;'←八つ当たり



143 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/06(木) 19:27:21 ID:IwLlgFXI


………


…男宅、玄関


幼友「…男さんは幼馴染『ちゃん』なんて言わない、自分の事を『僕』とは呼ばない」

男?「はい」

幼友(しばらくまともに顔見れなかったけど、はっきり見ると違う……それに男さんより髪が少し長くて、顔も幼い)


男?「……ごめんなさい。なんとなく解ってたけど、やっぱりそのチョコは兄ちゃんのなんですよね」

幼友「そっか…あんた、男さんの弟君なんだ」

弟「はい、言うのが遅れてすみません。貴女は兄ちゃんの彼女…?」

幼友「ち、違うよ! 彼女なのは幼馴染ちゃん…!」アセッ



144 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/06(木) 19:28:30 ID:IwLlgFXI


弟「そうでしたか、それはよかった」

幼友「よかった…?」

弟「はい」


男「弟…? 誰か来てるのでしょうか?」


弟「あ、ようやく兄ちゃん登場です。……チョコ、渡してあげて下さい」

幼友「え、いや…その…」ドキッ

男「おや、幼友ちゃん。どうしましたか? 幼馴染は一緒では?」

幼友「あっ……そういえば、さっき幼馴染ちゃんが…」

弟「はい、来ていました」

幼友「なんで入って来なかったんだろう──」ハッ

男「?」

幼友「もしかして…まずいところ見られたかも……!」



145 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/06(木) 19:29:04 ID:IwLlgFXI


弟「これは…? 外にありました」

男「潰れてるけど、チョコケーキみたいです」

幼友「やっぱり…」


男「どんなシーンを見られたのでしょう?」

幼友「え! いや…それは…!」

弟「僕が彼女に告白したんです」

男「はい?」


弟「幼馴染ちゃんは、その僕の姿を兄ちゃんと勘違いしたんだと…」

男「あははは」

弟「あははは」

男「そりゃマズイ」



146 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/06(木) 19:30:11 ID:IwLlgFXI


………



幼馴染(周りも見ずに走ってきたけど、自分の家の近所だ……)

幼馴染(やっぱり無意識にも慣れた道を選んじゃうんだな)


幼馴染(……ケーキ、玄関前に落として来ちゃった)

幼馴染(たぶんそれを見つけたら、男は察するんだろうな……ウチに来ちゃうかな…)


幼馴染(どこか、もうちょっと遠くへ…)

幼馴染(……あ、そうだ…久しぶりに)



147 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/06(木) 19:31:37 ID:IwLlgFXI


幼馴染「よいしょ…」ガタッ

幼馴染(空気は…大丈夫っぽい)

幼馴染(エンジン、かかるかな…)


…ズキュキュキュッ

…ズキュキュキュッ

…ズキュ、キュ、キュッ

…ズキュ…キュ……キュ……


幼馴染(バッテリーが…だめかな)



148 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/06(木) 19:37:11 ID:IwLlgFXI


「ハヤク ハヤクッ」
「チョット マッテヨー」
「オサナナジミ ノ イエ、モウスグソコ デス」


幼馴染(いけない、もう来てる…!)

…ズキュ…キュ……キュ……

幼馴染(だめだ…かからない……)

幼馴染(……あっ、そうだ…キックスターター!)

…カッ

ガコンッ、ガコンッ、ガコンッ

幼馴染(今は会いたくない…!)

幼馴染「…かかってよっ!」


ガコンッ!…ブスンッ、トットットットッ…


幼馴染(かかった…!)



149 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/06(木) 19:38:18 ID:IwLlgFXI


男「幼友ちゃん! 早く…!」

幼友「わ、解ってますよ……あっ!」

男「え?」


ブイイイィィィン……


男「お…幼馴染っ! あいつ、ビーノ出しやがった!」

弟「ビーノ?」

男「ほとんど乗ってない、幼馴染のスクーターです……あーあ、逃げられた…」

幼友「幼馴染ちゃんが原付乗ってるなんて、私も知らなかったよ」

男「よくエンジンかかったもんです……やれやれ、車で追いましょう」



150 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/06(木) 19:39:38 ID:IwLlgFXI


幼友「追うって…アテはあるの?」

男「無いです」

弟「幼馴染ちゃんがよく行くところとか」

男「あいつの行動範囲は普段は自転車での距離なので…その向こうはさっぱり見当がつきません」


幼友「電話…は、原付に乗ってる間は出ないよね」

弟「家で待ってるしかないのかな」


男「……でも、俺…行くわ」


幼友(あれ、男さんが素になって…)

男「見つけられないとは思うけど…自分の嫁が勘違いでも辛い想いしてる…」

弟「…兄ちゃん」


男「じっとなんか、してらんねえ──」



151 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/06(木) 19:40:42 ID:IwLlgFXI


ここまで
なんか本当に釣りから離れててすまん



152 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/06(木) 19:45:18 ID:pM8K/.2M


ええんやで



153 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/06(木) 19:55:11 ID:VC28OOXY


(ユムシでも出番があれば)ええんやで



154 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/06(木) 19:57:13 ID:0gExnA7A


久々にバイク出てきてなんか嬉しい
某姉さんのゼファー以来なのかな



170 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/14(金) 18:38:57 ID:Znh6e8Ko


幼馴染がタイトルに入ってるSSは全て ◆M7hSLIKnTI氏の作品に見える症候群な俺



171 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/16(日) 08:52:27 ID:rM/80vuU


幼馴染ものを!!

一心不乱の大幼馴染ものを!!!!



173 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/16(日) 09:37:25 ID:/9Q5XAY6


だが>>171は 一騎当千のナジミストだと 私は信仰している

よろしい、ならば幼馴染モノだ



174 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/16(日) 10:21:52 ID:3xqOeSak


(ノリノリな二人に聞きづらいが大幼馴染みってなんだろう…少佐殿ならわかるのだろうか)



175 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/16(日) 10:43:51 ID:uReh7Mk.


>>174
そりゃ大きい幼馴染なんじゃ無いですかね
何処とは言いませんが



187 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/22(土) 12:41:30 ID:heap42v2


………



男「じゃあ、幼友ちゃんは幼馴染の家にお邪魔して待ってて」

幼友「うん、定期的に電話やメッセージで連絡をとってみますね」


男「弟は? どうする?」

弟「僕は兄ちゃんと行きます。手分けして探す事もあるでしょ」

男「わかった。悪いな、今日は色々と準備があったはずなのに」


幼友「準備?」

弟「三月には高校を卒業して実家に戻るつもりなので、色々と用意をしに戻ってたんです」

幼友「そうだったんだ」

男「さあ、ゆっくりしてたらどんどん遠ざかってしまうかも……幼友ちゃん、何かあったらすぐに教えて」



188 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/22(土) 12:42:14 ID:heap42v2


………



ズキュキュッ
…ブイイィィーーン!


弟「話には聞いてたけど、コペンに乗るのは初めてです」

男「そうだな、親父が去年買ったばかりだから」


弟「兄ちゃんが素の喋り方になるのも、珍しい事です」

男「まあ、あれはただの変な癖だよ。幼馴染とふざけて敬語使ってたら、すっかり慣れちゃっただけだ」

弟「…知ってます」



189 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/22(土) 12:43:12 ID:heap42v2


男「……で、お前にも伝染ったんだよな」

弟「僕はそれこそ兄ちゃんよりもっと小さな頃からだから、完全にこれが地になってますが」


男「弟…」

弟「はい?」

男「あんまり…こんな馬鹿兄貴、見習うなよな」

弟「……兄ちゃん」


ブイイィィィン…



190 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/22(土) 12:43:46 ID:heap42v2


……………
………



幼馴染母「ゆっくりしててね、あとでお茶淹れてくるから」

幼友「お構いなく、お邪魔しまーす」


幼友「…さて、と」

幼友(とりあえずLINE入れとこ…)


幼友(『どこにいますか?』)

幼友(『幼馴染ちゃんの家で待ってます』)

幼友(『直接会ったら全部説明するけど、玄関では男さんじゃなく弟君と話してたんだよ』)



191 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/22(土) 12:44:49 ID:heap42v2


幼友(『勘違いさせちゃって、ごめんね』…っと)


…ピッ


幼友(……でも…)

幼友(全部が勘違いじゃ…ない)

幼友(幼馴染ちゃん…私が勝手に一人でチョコを渡しに行ったのは、本当の事なの)


『私…私はっ…ずっと気持ちを抑えて…!』

『冗談ならやめて下さい! その気になっちゃうじゃ──』


幼友(…期待…した)


『冗談なんかじゃないです。貴女を好きになりました』


幼友(もし、あれが本当に男さんの言葉だったら……私はどう答えてたの──?)



192 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/22(土) 17:29:19 ID:uIjj8J3Q


おおお!!きてたか!!



193 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/22(土) 19:57:46 ID:gPQktpRg


……………
………



…ビイイイィィィン


幼馴染(………)

幼馴染(………)

幼馴染(………)ポロッ


幼馴染(…いけない、前がぼやけちゃう)グスンッ


幼馴染(ここ…どこだろう…)

幼馴染(通った事がある気はするけど…)



194 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/22(土) 19:58:30 ID:gPQktpRg


幼馴染(あ…ミスドとモスバーガーが並んでる)

幼馴染(やっぱり、見覚えあるな…)


幼馴染(きっと…サーフや軽トラの助手席に乗って)

幼馴染(うとうと居眠りしながら、通った事があるんだ)


幼馴染(サイドシート…男の左側)

幼馴染(……男の…横顔…)

幼馴染(私のものじゃ…無くなっちゃうのかな…)



195 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/22(土) 19:59:21 ID:gPQktpRg


幼馴染(…やめよう、考えるの)

幼馴染(知らない方へ……何の記憶も無い場所へ)

幼馴染(…ええと…こっち?)

幼馴染(うわ…大きな道、原付で走るのちょっと怖い)


ビイイイィィィン…


幼馴染(…帰り道、解らなくなっちゃうかな)

幼馴染(………)


『冗談なんかじゃないです。貴女を好きになりました──』


幼馴染(どうにでも…なればいいや…)



196 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/22(土) 20:00:22 ID:gPQktpRg


……………
………



男「くそっ…どこだよ」


弟「兄ちゃん…幼馴染ちゃんは普段、あまり原付には乗らないのでしょう?」

男「…ん? ああ…そうだな」

弟「僕も原付の免許は取ったけど、結局買いもしなかったし乗ってないです」


男「それが…?」

弟「幼馴染ちゃんが家から出て、どっちへ行ったか…たぶん最初の内は大きな交差点で右折はしない気がします」



197 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/22(土) 20:01:12 ID:gPQktpRg


弟「僕らから逃げようとする幼馴染ちゃんは、出来るだけ停まりたくないはず。原付は大きな交差点では二段階右折が必要でしょう」

男「ああ…なるほど」

弟「それと、本当に大きな国道の交差点とかは左折してるんじゃないかと思います」

男「?」

弟「単純に、複数車線あるところを直進するのは初心者には怖い事です。だから左折に逃げてるんじゃないでしょうか」


男「家からあの方向で出て…大きい交差点は左折…基本的に右折はしなかったとしたら…ちょうど今向かってる方向か」

弟「あくまで予想ですが」

男「いや、その推察に賭けよう。たぶん同じ理屈で高架になったバイパスは避けるはず…」

弟「あのミスドとモスバーガーがある交差点、大きいです」

男「だったら、そこを西だな──」



198 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/22(土) 20:02:16 ID:gPQktpRg


とりあえずここまで
そういえば2スレ目になってから、一度も釣りしてないな



199 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/22(土) 20:53:46 ID:U/l0VW86


もっと大きなモノを釣ろうとしてるからいいかも

支援



200 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/22(土) 22:19:39 ID:mhB3CPCM


幼友に俺のハートは釣られたがなっ!!



勿論俺も幼友のハートを釣り上げたぜまさに釣り合う二人ってなぁ!



201 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/23(日) 01:13:56 ID:a6rifTB6


>>200
つれない奴



202 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/23(日) 19:03:46 ID:ynJGCNDA


>>200

とーう( ゚∀゚)=◯)`Д゚)・;'



203 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/23(日) 23:18:45 ID:vGJJBsTM


支援てーい!



204 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/24(月) 23:27:07 ID:KZtE8/us


期待とーう!



205 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/25(火) 02:48:51 ID:8Tx.s7S6


幼友には幸せになって欲しいけど男弟には取られたくない期待



206 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/25(火) 03:40:11 ID:pX.B1bww


やはり俺の出番か



207 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/25(火) 08:44:44 ID:n6kOK2aQ


>>206
いや呼んでない



208 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/25(火) 21:44:47 ID:ilrnXYK6


支援とーう!!



209 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/27(木) 14:25:23 ID:VP2H7ZxM


>>206
ユムシはお帰りください



210 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/27(木) 14:28:24 ID:G2MChN.6


>>209
何故俺だとわかった



211 : ◆M7hSLIKnTI:2014/02/27(木) 14:47:23 ID:.6KBe0JU


ユムシの皆、待たせてすまん
ようやくここと二重幼馴染だけになったから、集中して書き始めます



212 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/27(木) 15:53:28 ID:G2MChN.6


幼友に挟まれるユムシは俺だけだ!
お互いに釣り合いいちゃラブしてきた実績だってあるんだ!


頑張ってくれ



215 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/28(金) 09:01:32 ID:GSTq7EUk


ゴカイ派の俺は一体どうすれば……



216 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/28(金) 21:51:58 ID:J17Prj4Y


釣りネタに困ったら波瀬駅でハゼ釣ろう(提案



217 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/03/01(土) 00:11:20 ID:hY8tfiRU


鮫駅で鮫釣るのもいいかもね



218 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/02(日) 19:04:50 ID:SASB.dn2


……………
………


…幼馴染の部屋


幼友(…既読マーク、つかないなぁ)

幼友(今回の事で、二人の関係が変な風になったら…嫌だな)


幼友(…………)


幼友(違うか…そうなったら二人の関係だけじゃない)

幼友(私と幼馴染ちゃんだって、もう友達じゃいられない)

幼友(そんなの絶対、嫌だよ)



219 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/02(日) 19:05:31 ID:SASB.dn2


幼友(でも…そう思いながらも、私は段々と気持ちをエスカレートさせてた)

幼友(ブレーキの効きが悪くなって、きっと少しずつ前に進んでたよね…)


幼友(………)


幼友(それも…違う…か。効きが悪くなったんじゃない…きっと自分で緩めてたんだ)

幼友(どうやったって男さんが私に靡くわけないのに)

幼友(……最初っから、二人の関係…オサナナジミなだけじゃないって、解ってたはずだよ──)



220 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/02(日) 19:06:25 ID:SASB.dn2


……………

………




…約一年前


幼友『もう、帰るところだから』

リーマンA『まあまあ、肩がぶつかったのも何かの縁だしさ』

幼友『ぶつかったのはさっき謝ったじゃないですか』



221 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/02(日) 19:06:58 ID:SASB.dn2


リーマンB『別に怒ってるんじゃないよー。でも、まだ宵の口じゃない。土曜の夜に早く帰るなんて勿体無いでしょ』

リーマンA『そうそう、奢るからさ? 二軒目は僕らと一緒にどう?』

幼友『迎えが来るから、だめなんです』


リーマンB『嘘だぁ、さっきはタクシー使うって言ってたじゃん』

リーマンA『よしっ、じゃあ本当に彼氏が迎えにきたら諦めるよ。嘘だったら罰として僕らに付き合ってくれるよね? ねっ?』

幼友『なんで貴方達から罰を受けなきゃいけないんですか』


リーマンB『いいからいいから、彼氏が来るのは嘘じゃないんでしょ?』

リーマンA『だったら問題ないじゃない、ね?』

幼友『……参ったなぁ…』



222 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/02(日) 19:07:31 ID:SASB.dn2


男『幼友ちゃん、お待たせしました』


幼友『え?』

リーマンA『え? 何? 本当に彼氏登場?』

男『そういう事です。悪いけど、他を当たって下さい』


リーマンB『うっそだぁ、どうせ通りすがりで格好つけてんでしょ?』

男『幼友ちゃん、俺の名前は?』

幼友(この人…幼馴染ちゃんの……名前は確か…)

幼友『男…さん』

男『ほら、これ俺の免許です。合ってますよね? なので諦めて下さい』



223 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/02(日) 19:08:34 ID:SASB.dn2


リーマンA『…ちっ、学生ふぜいがオンナ迎えに来るなんて、生意気なんだよ』

リーマンB『そうそう、こんな街中の繁華街は子供の来るところじゃ…』


男『しつけーな、お前ら』ガシッ

リーマンA『いでっ!? いででででっ』ギュウウウウゥッ


男『子供扱いしやがって、酒の回ったお前らに負けると思ってんのか? あぁ? そこの緑道公園の小川に撒き餌させてやろうか?』脇腹ゲシゲシ

リーマンA『ちょ、解った、解りました、いだだだだだ…』


男『おら、行け』ポイッ

リーマンB『てめ…調子に…』

リーマンA『やめとけ、なんかすげえ握力だった……痛ってぇ』


男『幼友ちゃん、行こう』

幼友『う、うん…』



224 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/02(日) 19:09:30 ID:SASB.dn2


男『急に話をフッてすみません』

幼友『ううん、ありがとうございました』

男『よく本当に俺の名前、覚えてたもんです』

幼友『幼馴染ちゃんからよく聞くから、なんとなく』


男『ところで幼馴染は?』

幼友『あ、あはは……ちょっと遅いけど、今日は幼馴染ちゃんのハタチの誕生日会を兼ねてたから、お酒を…ね……?』



225 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/02(日) 19:13:04 ID:y9YDU4tU



男『あいつが? 酒を飲んだんですか?』

幼友『それでめっきり酔っちゃって…ひと足先にタクシーに乗せて帰したんです』

男『どうりで…迎えの時間になっても電話が繋がらないわけです』

幼友『家の住所は言えてたし、ドライバーさんも女性の方だったから、心配は無いと思うんですけど』


男『……ま、何事も無いならいいです。やれやれ、じゃあ良かったら幼友ちゃんを送りましょうか』

幼友『え、いいんですか?』

男『不安でないなら、どうぞ』



226 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/02(日) 19:13:34 ID:y9YDU4tU


………



幼友『なんか、ごめんなさい。助けてもらった上に送ってもらっちゃって』

男『せっかくコインパーキングまで利用したんだから、無駄にならなかっただけ良かった位です』


幼友『でも、なんだか幼馴染ちゃんに怒られちゃいそうだな』

男『幼馴染に? どうしてです?』

幼友『え? だって二人は付き合ってるんじゃないんですか?』

男『あはは…あいつとはオサナナジミなだけで、残念ながらそういう関係ではないです』


幼友(……残念ながら…か)



227 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/02(日) 19:14:07 ID:y9YDU4tU


幼友『じゃあ、今…男さんはフリーなんですか?』

男『…そこを左ですか?』

幼友『あ、はい。…そしたらすぐにコンビニがあるから、そこで大丈夫です』

男『わかりました』


幼友(話…逸らされちゃったのかな?)




………

……………



228 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/02(日) 19:24:26 ID:.gmNftgA


らしくないシーンが続く



229 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/03/02(日) 20:19:29 ID:kUqZSy62


ええんやで



230 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/03/02(日) 23:05:37 ID:rDY5d7Y.


弱気になんなよ面白くなかったらその辺のユムシがぎゃーすか言うさ



231 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/02(日) 23:48:44 ID:52BF7lNM


男「原付の姿は見えないか?」

弟「うん、今のところ見えません」

男「たぶん、あいつの性格からして30km/hの制限速度はあんまり超えようとしないだろうけどな…」


弟「この辺り、そう車通りは多くないです。初心者の原付なら、走りやすいはず」

男「これで逆方向だったら、何にもならないからな……携帯は?」

弟「今のところ、何も鳴ってないです」



232 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/02(日) 23:49:49 ID:52BF7lNM


弟「……あっ…」

男「どうした?」

弟「あの自転車の女子高生、スカート短い」


…キィッ


男「………」

弟「………」

男「……おぉ…」

弟「…イエス」


…ズキュッ、ブイイイィィン


男「急ぐぞ…! よく探せ!」

弟「はいっ」



233 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/03/03(月) 00:17:19 ID:FwStCvXQ


この馬鹿どもがwww



234 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/03/03(月) 03:00:03 ID:QzwvbjZs


>>男
てーい( ゚∀゚)=◯)`Д゚)・;'
>>男弟
とーう( ゚∀゚)=○)゚Д゚);'.;'.・



235 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/03/03(月) 04:36:22 ID:hre9WT8c


だから言っただろう…幼友に相応しいのは俺だと…



236 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/03/03(月) 08:41:19 ID:heKv1ZZ6


>>235
てーい( ゚∀゚)=◯)`Д゚)・;'



237 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/03/03(月) 09:41:31 ID:8KZ5UEs.


哀しい男の性だな



238 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/03/03(月) 10:53:22 ID:gROeYca2


おや、幼馴染ちゃんが余ってるみたいだが…



239 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 11:18:06 ID:2pi4wAtw


………



弟「……兄ちゃん」

男「うん?」


弟「兄ちゃんは、幼友さんをどう思っているのでしょうか」

男「…それを訊くか」

弟「誰も訊かなかったから、ずっと気付かないふりをしていたのですか」



240 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 11:18:40 ID:GYfAsLdQ


男「生意気言うな」

弟「言います」


男「……気付いてない、そうじゃないと今の関係は保てない」

弟「幼馴染ちゃんと幼友ちゃんの関係にもヒビが入るから?」

男「まあ…そうかな」



241 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 11:19:19 ID:H30Tk3Q.


弟「それでも幼友ちゃんが気持ちを抑えられなくなったら? 兄ちゃんはどうするのでしょうか」

男「…何を大事にすべきか…だな」

弟「その時の判断ですか」


男「必要なら、幼馴染と別れる決断もやむを得ないかと思ってたよ」


弟「そうすれば彼女らは仲違いしなくて済むから?」



242 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 11:20:06 ID:5tvMUlZE


男「……なんでお前にこんな話をしなきゃいけないんだ」

弟「全員が泣く方が、誰か一人だけが傷つくよりいいと?」


男「………」

弟「兄ちゃん」


男「…本気か?」

弟「本気です」

男「お前が本気なんだったら、それは俺のしがらみとは関係ないだろ」

弟「…兄ちゃん」



243 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 11:22:01 ID:qHnpQ6wo


…キィッ


男「………」

弟「………」

女子高生「キャッキャッ」

女子高生「アハハハ」


…ブイイイィィン


弟「幼友ちゃんは僕が貰います」

男「……生意気言うな」



244 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/03/03(月) 13:03:05 ID:Jo78ieyc


そこは尻明日でいけよおおおおおお!



245 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 14:29:54 ID:oKLLzE6U


……………
………



ビイイイイィィィン…


幼馴染(…あれ?)

幼馴染(なんでだろう、この辺り…見た事ある)

幼馴染(あ……海…砂浜だ)



246 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 14:30:57 ID:oKLLzE6U


ビイイィィィン……トコトコ…プスン

モゾモゾ……ファサッ


幼馴染(ふわ…フルフェイスだったから、きっと髪ぐちゃぐちゃだ)

幼馴染(……いっか、誰か知ってる人がいるわけじゃないし)

幼馴染(なんだろう…この海岸、来た事あるような)

幼馴染(あはっ…バカヤロー! って叫ぶなら、丁度いいかもね…)



247 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 14:41:24 ID:UQymqPVA


…ザクッ…ザクッ


幼馴染「海沿いは寒いな…」ブルッ


幼馴染「男…」

幼馴染(…いつから? 私に隠れて付き合ってた感じじゃなかったけど)

幼馴染(いつから気持ちは、幼友に移ってたの…?)

幼馴染(なんで…正直に言ってくれなかったの)


幼馴染「…馬鹿みたい」クスッ



248 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 14:44:43 ID:87ufl/5Y


幼馴染(……携帯…何か入ってたりするかな)

幼馴染(あ…スクーターのトランクにバッグごと入ってるや)


幼馴染(いいか……何が書かれてたって、信じられない)

幼馴染(男が幼友に気持ちを打ち明けてたのは本当だし……私に内緒で幼友が男の家に行ってたのも事実なんだし)


幼馴染(……誰もいない、砂浜)

幼馴染(本当に叫んでみようかな…)



249 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 14:45:35 ID:87ufl/5Y


幼馴染「………」スゥ…

幼馴染「男のバカヤローッ!!」


幼馴染「………」…ハァ

幼馴染「…なんだ、これ」ポロッ


幼馴染(ちっともスッキリなんかしない…)ポロポロッ

幼馴染(惨めなだけ…だよ…)…ペタン


幼馴染「うえええぇぇぇん…」ボロボロ…



250 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 14:58:12 ID:Cu6QfWm2


……………
………


…幼馴染の家


幼友「…あの」

幼馴染母「ごめんなさい、あの娘ったらなかなか帰らないわね」

幼友「えっと…よかったら、台所…借りてもいいですか」

幼馴染母「え? …いいけど、あの娘ったらケーキ焼いた道具や材料、出しっ放しなのよ」

幼友「構わないです」



251 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 15:01:23 ID:3aIQeMHc


幼友(…幼馴染ちゃん)

幼友(私、大事なんだ…)


幼友(何を犠牲にしても、失いたくない気持ち…)

幼友(それは、ひとつだけでいいんだよ)


幼友(だから…幼馴染ちゃん、許して──)



252 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 15:02:01 ID:3aIQeMHc


……………
………



弟「兄ちゃん、急ぎましょう」

男「なんでこんなに女子高生がよく通るんだ…! 進みゃしない!」ガンッ

弟「しかも例外無くスカートが短い上に風が強いなんて…神様は意地悪です」



253 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 15:02:51 ID:3aIQeMHc


男「もうすぐ海沿いに出るな…」

弟「海沿いは寒いでしょうから、通ってないかもしれませんね」

男「…違う方面をあたるか」


弟「ん…? 兄ちゃん、待って…あれ」

男「あ……ビーノだ! 色も同じ!」


ブイイイィィン……キィッ


男「間違いない、ミラーにかけたフルフェイスの癖に花柄で気が抜けるヘルメット、幼馴染のだ」



254 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 15:03:33 ID:3aIQeMHc


弟「じゃあ、砂浜に? それともまさか海に入って…」

男「縁起でもない事、言うな! 寒がりなあいつがそんな事…!」


ガチャッ…バタンッ、バタンッ


男「砂浜、行ってみる」

弟「じゃあ僕はスクーターのところで待ちます。違う方から歩いて来たらいけません」

男「ああ、寒かったら車に入っとけ」


弟「…幼馴染ちゃんほど冷えちゃないです。兄ちゃん…早く暖めてあげて下さい」

男「ふん…生意気言うなって」



255 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 18:17:47 ID:.BNjjYyM


………



幼馴染「ふぇっ……ヒック…うぅ…」グスッ


幼馴染(昔から…ずっと好きだったのに)

幼馴染(やっと結ばれたと思ってたのに…)


幼馴染(誰がいけなかったの…男? 幼友? 私…なのかな)



256 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 18:18:39 ID:.BNjjYyM


『俺は幼馴染が好きです』

『まあ素敵』


『だけど魚釣りも好きです』

『同時に並べる事ではないと思います』


『魚釣りが好きで、なかなか幼馴染と遊べません』

『比率はそちらが上ですか』


『でも幼馴染が好きで、なかなか釣りにも行けないのです』

『なるほど』


『そこで思いつきました』

『察しがつきました』


幼馴染(…思えば、変な告白だったよね)

幼馴染(…私も、ちゃんとした返事なんかしてないし)



257 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 18:19:17 ID:.BNjjYyM


幼馴染(ああ…そっか、この砂浜は)

幼馴染(あの日、あの後…最初に投げ釣りをしたところだ)

幼馴染(季節も違うし、着いたのが薄暗い内だったから、雰囲気が違ったんだ…)

幼馴染(あの日…楽しかったな…)


幼馴染(しょうがない…のかな)

幼馴染(でも…)

幼馴染(男が…誰かのものになるなんて…嫌だ)

幼馴染(それでも…幼友に…なら…)


幼馴染(……やっぱり…やだよ…)



258 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 18:20:05 ID:.BNjjYyM


幼馴染(…もう一回、叫んでみよう)

幼馴染(スッキリしないのは、大声が足りないからかも)ジャリッ…


幼馴染「………」スゥ…

幼馴染「男の…馬鹿ああぁぁっ!!!」

幼馴染「………」スゥッ…


幼馴染「てえええぇぇぇーーーいっ!!!」


幼馴染「はぁ…はぁ…」



259 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 18:21:25 ID:.BNjjYyM


男「…そんな大きな声出さなくても、聞こえてるって」


幼馴染「えっ…!?」

男「よかった、見つけられて…幼馴染、玄関での事は──」


幼馴染「や…やだ、聞きたくないっ!」ダダッ

男「あ、待て…話、聞けよ!」


幼馴染「来るな! 馬鹿! 浮気者っ!」ザクッ、ザクッ

男「待てってば!」ザッ、ザッ

幼馴染「いいからっ! もう、いいから…気持ちはどうやったって変わらないでしょ!? …わっ!」ザクッ…ヨロッ


…ドサッ



260 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 18:22:35 ID:.BNjjYyM


幼馴染「い…たたっ…」

男「…なに転んでんだ」フゥ…


…ギュッ


幼馴染「……っ…」


男「話くらい聞けよ、馬鹿」

幼馴染「…うぅ……」



261 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 18:23:22 ID:.BNjjYyM


男「こんなに身体、冷たくしやがって…」

幼馴染「やっ…放して! 私、私…聞いたもん! 男が……」


男「あれは俺じゃねえっ!」


幼馴染「…えっ」

男「幼友ちゃんも気付かずに話してたけど…あれは弟だ」

幼馴染「弟…? 幼友も、気付いてなかった…?」



262 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 18:24:15 ID:.BNjjYyM


男「幼友ちゃんが俺にチョコを持ってきたのは本当だ……それをたまたま弟が受け取ってたんだ」

幼馴染「……勘違い…私の…」

男「それでも…今まで幼友ちゃんの気持ちを誤魔化し続けた事は、二人ともに謝らなきゃいけないけど」


幼馴染「男…話し方が」

男「お前もだろ」


幼馴染「勘違い…男は…幼友の事が好きなんじゃ…」

男「俺が好きなのはお前だ。ずっと昔から」

幼馴染「男…」ジワッ

男「ずっと…これからも」



263 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 18:25:09 ID:.BNjjYyM


幼馴染「男ぉっ…!」ガバッ

男「よしよし…」


幼馴染「う…えええぇぇぇぇん…」

男「全く…」

幼馴染「ごめん、男…ごめん…」


男「…世話のやける奴…………です」


幼馴染「うえええぇぇぇん…」



264 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 20:27:08 ID:MCMiCrAE


………



ブイイイィィン…


男「よくうろ覚えで、あの海岸まで行ったもんです」

幼馴染「…行こうと思ったわけではないのですが」

男「じゃあ、やっぱり弟の予想が正しかったわけですか」ヤレヤレ


幼馴染「私のビーノ、弟君に乗って帰ってもらって申し訳ないです」

男「上着は俺の分まで貸しましたし、本人も久しぶりの二輪で嬉しそうでしたので」

幼馴染「ちゃんとついてきているのでしょうか」

男「制限速度が違うのでいちいち離れますが、信号の度に追いついているようです」



265 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 20:28:01 ID:MCMiCrAE


幼馴染「……いつからだったでしょう」

男「何がでしょうか」

幼馴染「喋り方…こんな口調が癖になったのは、確か…中学生の頃──?」


『なんか、俺ら一緒にいすぎて冷やかされまくりだなー』

『それが嫌なら、喋り方だけでもよそよそしくしてみる? …なーんて』

『ははっ…面白いかも。解りました、それでいってみましょう』

『なんとなく、これはこれでくすぐったいです』

『けっこう幼馴染のキャラに合っている気がします』

『ご冗談を』



266 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 20:28:48 ID:MCMiCrAE


幼馴染「…最初は友達も『なんだそれ』って笑ってたけど、面白半分のまま続けてました」

男「その内、完全に癖になって」

幼馴染「いつの間にか逆にこの口調こそが、私達の特別になったような気がします」

男「…その言い方は若干照れます」


幼馴染「たまに素になったりもしますが、私達はずっとこれでいい……だめでしょうか」

男「ちょっと渋滞してますね」

幼馴染「ちゃんと答えて下さい」


男「……俺は、いいと思います」



267 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 20:29:31 ID:MCMiCrAE


幼馴染「男…」

男「……ん?」

幼馴染「………」

男「幼馴染…」スッ…

幼馴染「ん…」


弟「………」ジーーッ


幼馴染「はぅあ」

男「渋滞してるからって、横に並んで見てんじゃねえ!」



268 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 20:30:48 ID:MCMiCrAE


コン、コン…

弟「………」パクパク


幼馴染「何か、窓を開けろって言ってるみたいです」

男「なんでしょう…?」


ウイイィィーーン…


弟「ここからは道も解るので、渋滞をすり抜けして帰ります」

男「すり抜けって…気をつけないと」

弟「はい、左側しか抜けないようにします」


幼馴染「ビーノ、よろしくお願いします」

弟「解りました。そっちこそイチャつきすぎて事故らないように気をつけて下さい」

男「生意気言うなっ!」シャーッ



269 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 20:31:37 ID:MCMiCrAE


……………
………


…幼馴染の家


幼友(……!!)

幼友(既読マーク、ついた!)

幼友(あ…返信が…)


《ごめんなさい》

《全部、事情は聞きました》

《帰ってから改めて謝ります》


幼友(…よかっ…た……)

幼友(謝るのは…こっちだよ……幼馴染ちゃん…)



270 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 20:32:21 ID:MCMiCrAE


…ガチャッ


弟「…失礼します」

幼友「弟君!」


弟「幼馴染ちゃん、見つかりました」

幼友「携帯に連絡あったよ。スクーター、弟君が乗って帰ったんだってね」

弟「はい…寒かった…」

幼友「コタツ、入って入って!」


弟「……でも、それじゃあちょっと締まりません」



271 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 20:33:01 ID:MCMiCrAE


幼友「締まらない…?」

弟「はい。これからする話は、コタツでぬくぬくしながらする内容じゃないです」

幼友「……弟君…」

弟「ウチの玄関での話……その続きです」


幼友「弟君、私…そんな慰めは要らないよ」

弟「慰め…ですか」

幼友「もう隠しててもしょうがないよね……私、男さんが好き」

弟「はい」



272 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 20:33:37 ID:MCMiCrAE


幼友「私は男さんの代わりなんか欲しくない、そんなの弟君にだって失礼だよ」

弟「代わりだというなら、そうかもしれません」

幼友「確かに弟君は姿も、口調もよく似てて……でも弟君は弟君でしょ?」

弟「はい」


幼友「だから……」

弟「だから、です」


幼友「え?」

弟「…僕にとって兄ちゃんは、大きな人です」



273 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 20:34:08 ID:MCMiCrAE


弟「楽しい事をたくさん知ってて、僕の事を誰よりもよく見ててくれる……そんな人です」

幼友「………」

弟「幸せな人生を送ろうと思えば、きっと兄ちゃんの真似をしていればそれなりに満たされる…そんな気がします」

幼友「でも」

弟「それは、嫌です」


幼友「……弟君…」

弟「だから僕は勉強を頑張った。兄ちゃんの事は好きだし、ああなりたいとも思うけど……僕は僕の道を見つけたかった」

幼友「…うん」

弟「だけど、気付けば喋り方も伝染って……やっぱり兄ちゃんの真似をしてる自分がいました」



274 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 20:35:12 ID:MCMiCrAE


弟「だけど…もう、この喋り方はやめる。この口調は兄ちゃんと幼馴染ちゃんの関係を形作るものだから、僕は…使わない」

幼友「………」

弟「そして、僕は…兄ちゃんとは違う人を好きになったんだ」


幼友「…気のせいだよ」

弟「気のせいなんかじゃない。言ったでしょ…? ひと目惚れしたって」

幼友「でも…私は」


弟「解ってる、兄ちゃんを好きな事は…今さっきも聞いたし」

幼友「………」

弟「それでも好きでいる事は、許してください」



275 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 20:35:50 ID:MCMiCrAE


幼友(幼馴染ちゃんを裏切ろうとした…こんな私を…好き?)

弟「………」

幼友「私には…人に想われる資格なんか…無いよ」

弟「そんな事…」


ガチャッ…

幼馴染「そんな事ないです」


幼友「幼馴染ちゃん…」

幼馴染「弟君が幼友を好きになるのも、幼友が『誰か』を好きでいるのも…他の誰にも止められる事じゃないと思います」



276 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 20:36:43 ID:MCMiCrAE


幼友「……なんで」


弟「幼友ちゃん…?」

幼友「なんで、私の事…怒らないの」

幼馴染「怒る理由なんて、無いからです」


幼友「……幼馴染ちゃん」

幼馴染「私は男が好き、でも幼友も好きです」

幼友「私…は……」



277 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 20:37:30 ID:MCMiCrAE


幼友「…これ」スッ

幼馴染「?」

幼友「焼いて…みた」

幼馴染「チョコケーキ……幼友…これは…」


幼友「──幼馴染ちゃんに、友チョコだよ」


幼馴染「私…に?」

幼友「私、好きなヒトがいたの」

幼馴染「………」


幼友「でも、それよりも幼馴染ちゃんと友達でいる事の方が…大事だって…気付いたの…」ポロッ

幼馴染「幼…友……」グスッ



278 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 20:38:19 ID:MCMiCrAE


幼友「幼馴染ちゃん…!」

幼馴染「幼友っ…!」


ギュッ…


幼友「ごめん…ごめんなさい…」ポロポロ

幼馴染「幼友…ありがとう…」ボロボロ


男「……よかったです」

弟「兄ちゃん…」



279 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 20:45:08 ID:tZrMBVEc


………



男「うん、幼馴染の勘違いのせいで潰れたケーキ、美味しいです」

幼馴染「しゃらっぷ」

弟「僕もこのケーキ食べてよかったのかな」

幼友「いいんじゃない? 私も食べてるし」


幼馴染「幼友のチョコケーキは私の物です、男と弟君は食べないで下さい」

幼友「私の本命だからねっ!」

幼馴染「いやーん」キャッ



280 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 20:46:00 ID:tZrMBVEc


弟「いいなー」

幼友「弟君には玄関であげたやつがあるでしょ」

弟「…あれは兄ちゃんの」

幼友「違うよ。…ただし作るのに何時間かけてたって、義理チョコだけどね」

弟「そんな義理チョコ、聞いた事ない…です」クスッ


幼馴染「ではでは、幼友の愛のチョコケーキを頂きます」パクッ

幼友「どう!? どうっ!?」

幼馴染「……にっが…」

幼友「えええぇぇぇ…」ガクッ



281 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 20:46:30 ID:tZrMBVEc


………



幼友「じゃあ、私…帰るね」

弟「送っていきます!」

幼友「車も無いくせに」


弟「バスできたんでしょ? バス停まで送る…です!」

幼友「うーん…」チラッ

男「迷惑でなければ、そうさせてやって下さい」

幼友「…じゃ、お願いしよっかな」



282 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 20:47:04 ID:tZrMBVEc


………



幼友「すっかり暗いねー」

弟「はい」

幼友「………」

弟「………」


幼友「…なんか喋りなよ?」

弟「付き合って下さい」

幼友「色々とばし過ぎだよ」

弟「じゃあ、いつ付き合ってくれる…ですか?」

幼友「なんで予定が確定してるの」



283 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 20:47:41 ID:tZrMBVEc


幼友「全く…私のどこが気に入ったのよ」


弟「チョコを渡すだけで真っ赤になるくらい純情なとこ?」

幼友「うっ」

弟「めちゃくちゃ気合い入った手作りチョコを義理と言い張る、ツンデレなとこ?」

幼友「ううっ」

弟「あとは…」

幼友「……あとは?」


弟「おっぱい」

幼友「とーう!」ビシィッ



284 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 20:48:25 ID:tZrMBVEc


幼友「…バス停ついたよ」

弟「バス来るまで、一緒に待つ…です」

幼友「だと思った」

弟「………」


幼友「喋り方、急に変えて疲れない?」

弟「…正直、疲れ…ます」

幼友「だと思った」

弟「でも…兄ちゃんとは違うオトコになりたいから」



285 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 20:48:58 ID:tZrMBVEc


幼友「憧れのお兄さんから、ライバルに…かな?」

弟「………」


幼友「…いいと思うよ」

弟「本当?」

幼友「まだまだ、オトコを磨かなきゃだけどね」


弟「負ける気は無い…です」

幼友「……だと思った」

弟「ちぇ…そればっかり」



286 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 20:49:41 ID:tZrMBVEc


弟「…もうちょっと、傍に寄っていい…ですか」

幼友「だーめ」

弟「………」


幼友「でも…影、見てごらん?」

弟「影?」

幼友「うん、二人の影…寄り添ってるよ?」


弟「…今は、影だけ?」

幼友「そうだね、これから今の喋り方にもっと慣れて…弟君だけの魅力をたくさん見つけて…」

弟「………」

幼友「その時はもっと、自信をもって私を口説いてみたら? …簡単には落ちないけどねっ」

弟「…だと思った」



287 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 20:50:17 ID:tZrMBVEc


弟「あ、バス…来ちゃったな」

幼友「はぁ…なんか今日は疲れちゃった」

弟「あの…来月には僕、本当にこっちに帰るから」

幼友「…うん、待っててあげる」

弟「……はい」


…プシューッ

《お待たせしました、◯△行きです…》


幼友「じゃ、ありがとうね?」

弟「幼友ちゃん…!」

幼友「……?」



288 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 20:51:06 ID:tZrMBVEc


弟「チョコ…ありがとう」

幼友「……来年は本当に本命チョコ…作らせてみろ、少年っ」クスッ

弟「…ちぇっ」


《…発車します》

プシューッ、ブロロロッ…


弟「……見てろよー!」

弟「絶対、そのおっぱいに顔埋めてやるからなー!」



289 : ◆M7hSLIKnTI:2014/03/03(月) 20:52:44 ID:tZrMBVEc


男「あいつ…バス停で何て事を叫んでるんでしょうか」ヒソヒソ

幼馴染「そっくりです、誰かさんにそっくり」ヒソヒソ

男「馬鹿言うなです」ヒソヒソ


幼馴染「……でも、いいオトコになりそうです」クスッ

男「そりゃ俺の自慢の弟ですから」


幼馴染「幼友、春近し…でしょうか」

男「…それは判りません、だけど」

幼馴染「だけど…?」


男「…そろそろ、春告魚(メバル)の食いが上向く頃です」




【春の気配編、おわり】




290 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/03/03(月) 21:31:52 ID:YZk0WADs


乙なのです



291 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/03/03(月) 21:34:36 ID:gROeYca2


乙て~い



292 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/03/03(月) 21:40:31 ID:u7syWFoI


上手いこと言って締めたな('-ω-)



293 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/03/04(火) 02:23:26 ID:Y2.D0f0o


てーい!



294 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/03/04(火) 03:41:36 ID:jsdPBwUU


釣りがまた始まるのか。
釣りしてるとこ好きだからな、期待して待ってる。



295 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/03/04(火) 08:16:01 ID:MkP/fwYs


次はフライフィッシングのネタを見てみたい。
幼馴染と幼友が「てーい!とーう!」とヒュンヒュンやってたら、絡まって「テーイテーイテーイ!トーウトーウトーウ!」となるのが見えるが



296 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/03/04(火) 08:22:59 ID:0.3hTEL2


おつ!
そりゃ簡単には幼友もなびかないか



.

テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

  1. 2014/03/04(火) 10:29:53|
  2. 釣りSS
  3. | コメント:15

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