がらくた処分場

地球見ヶ丘(原題/地球兵「月の兵士…ゲート奪還部隊ねぇ」)

1 :◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/29(水) 20:22:32.81 ID:MDXw9W5f0


地球兵A「本当に今夜、来るのか」

地球兵B「情報が確かならな」

地球兵C「今まで情報に偽りがあった試しはない、気を抜くな」


地球兵A「はんっ……気を抜くも何も、見つかってる座標媒体は二十そこそこだって言うじゃないか」

地球兵B「そうそう、それに対して百の兵で囲んでるんだぜ?……敵ながら憐れにもなるってもんだ」


地球兵A「…ったく、オイルライターやらウイスキーケースやら、もっとマシな物を媒体にしやがれってんだ。これじゃ戦利品にもなりゃしねえ」

地球兵B「媒体は金属じゃないとだめらしいからな。それに無人機からばら撒くんだ、シンプルな物じゃないと壊れてしまう」



2 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/29(水) 20:24:22.02 ID:XXItzpblo


…チリッ…ジジジッ…


地球兵C「……おい、光ったぞ」

地球兵A「やれやれ、お出ましか……これで帰れる」


…バチッ!…バチバチッ!


地球兵C「来るぞ!構えろ!」ジャキッ

地球兵B「よーし、七面鳥撃ちだ。一羽でも俺が堕とすぜ!」



3 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/01/29(水) 20:25:01.76 ID:XXItzpblo


…ブンッ

スタッ…スタッ…ザザッ


月兵リーダー「…ここが、地球──」

月兵A「転送完了……人員、点呼!」


地球兵B「その必要は無えよ、あとで数えてやるから」


月兵B「な……!? か、囲まれて……!!」

地球兵A「はるばるご苦労さん、あばよ」ズガガガガッ


月兵C「うわああああっ!!!」

月兵D「ぎゃ…ぎゃああっ!」ビシビシッ

月兵リーダー「いかんっ!散開し……ろ……ぐっ…ぅ…」ドサッ



4 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/29(水) 20:25:59.17 ID:XXItzpblo


地球兵C「……毎度ながら、気持ちの良いものではないな」

地球兵B「何を言ってる。躊躇って体勢を立て直されたら、地に伏せるのは俺達になるんだぞ」


地球兵A「けっ……これっぽっちかよ、下らねえ。こんな程度の数でゲートを奪えると思ってんのか」ゲシッ

地球兵C「死体を足蹴にするな、見ていて不快だ」

地球兵B「どうでもいいよ。早く死体の数と座標媒体の数を照合して、帰ろうぜ──」



5 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/29(水) 20:27:30.35 ID:XXItzpblo


……………
………


…地球軍、研究所


女(…もう、そろそろ時間ね)

女(また幾つもの命が犠牲になる)


…カタンッ、バサバサッ


女「あら…お帰りなさい、ピーちゃん」

ピー「ぎゃあ」

女「大きくなったわね、あなたも……ふふっ。奥の部屋のケージ、開けるからね」


ピー「ぎゃあ、ぎゃあ」キラーン


女「……それは?」

女(…ペンダント、中に写真が)パカッ

女(綺麗な女性…)



6 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/29(水) 20:28:28.07 ID:XXItzpblo


女「ピーちゃん、これ…拾ったの?」

ピー「ぎゃあ」


女(……そんなに古くはなさそうだけど)

女(ペンダント…金属製……まさか──)


…チッ…ジジジッ…バチッ!


女「きゃ…っ…!」

女(いけない、これは…!座標媒体!)


…ブンッ…………スタッ


女(月兵…!)

男「……!?」

男「どこ…だ…? ここは…」



7 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/29(水) 20:29:56.83 ID:XXItzpblo


女「あ…ああ…」

男「……誰だっ」ジャキン…

女「ま、待って…撃たないでっ」

男「答えろ、ここはどこだ」


女(どうしよう……ここは、この人にとっては敵の施設…)キラッ

男「それは…俺のペンダント! お前、なぜそれを!」チャキッ


ピー「ぎゃあっ」


男「!!」

女「やめてっ! は、話す…から…!ピーちゃん、静かにしてて……」

ピー「ぎゃ」


男「……妙な真似をしたら、迷わんぞ。まず、ここはどこだ?」

女「地球…」

男「当たり前だ、そのペンダントは間違いなく地球に撒かれたはずだからな。…この施設は何だと訊いている」



8 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/29(水) 20:31:57.69 ID:XXItzpblo


女「…地球軍の技術研究所よ」

男「研究所……では、なぜお前がそのペンダントを持っている」

女「ついさっき、ピーちゃんが拾って戻ったから」


男「嘘を言うなよ、先に発見して確保していたんじゃないのか」ガチャリ

女「違うっ……嘘じゃないわ」


男「……ここからゲートまでは、どのくらいある?」

女「10キロくらいだと思う」

男「この施設に、兵士は?」

女「たくさんいるわ……私を殺せば、逃げられないわよ」


男「……くそっ、こうしてる間にも仲間は作戦を遂行してるってのに」

女「おそらく、それはないわ」



9 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/29(水) 20:32:44.77 ID:XXItzpblo


男「…何を言う気だ」

女「情報なら入ってる。21時ちょうど、部隊は二十二名……違う?」

男「なぜ知っている…! じゃあ、まさか…」

女「貴方の仲間は…現れてすぐに、全滅しているはずよ」


男「……ふざけるなっ! どうやってその情報を仕入れた…!? 内通者でもいるってのか!」

女「内通者……ではないわ」

男「なんだと…」


…コンコン


《…女所長、報告が》



10 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/29(水) 20:33:39.80 ID:XXItzpblo


男「!!」

女「…少し、待って」


《……所長?》


女「机の下に隠れて」ボソッ

男「何…?」

女「いいから、早くっ!」


男(どういうつもりだ…)ササッ…


女「……いいわ、入って」


…ウィーン


所員「失礼します、報告が上がって参りました」

女「どうせ、月軍は全滅でしょう」

所員「いえ…それが、座標媒体の確認数と死体の数が合いません。…というより、座標媒体ごとひとつ減っているのです」



11 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/29(水) 20:35:08.68 ID:XXItzpblo


女「まさか、媒体が歩くとでも?」

所員「それが解らないのです。一応、捜索は行なっておりますので発見でき次第射殺されるでしょうが」

女「…物騒な話ね」


所員「この研究所には兵士は僅かしかおりません。所長、暫くは外出されませんよう」

女(余計な事を……)

所員「では、失礼いたします」ペコリ


…ウィーン


女「……行ったわ、出てくれば?」

男「何故、かくまった…」

女「助けを求めようとしたら、すぐに撃っていたでしょう?」

男「まあな」


女「……それと、理由ならもうひとつあるわ」

男「ほう…?」

女「それは月の部隊の出現を知っていた事と関係があるの。向こうの部屋へ行けば、見せてあげる…」スッ



12 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/29(水) 20:36:05.47 ID:XXItzpblo


男「待て!誰が動いていいと言った!……そのドアの向こうに兵がいないとは限らん、開けるな」ジャキッ

女「…貴方は女性に対して、銃を向けないと話す事もできないの?」

男「貴様…調子に乗るなよ」

女「知りたくないのね?」

男「まず、言葉で説明してみせろ」


女「…いいわ、お茶でも?」

男「時間を稼ぐな、さっさと話せ。立ったまま、両手は前に見せておけ」

女「貴方が銃を下ろしたら、話しましょう」

男「ふん……言う事をきかない女だ」…スッ

女「誉め言葉と受け取っておくわ」


男「何度も言わせるな、早くしろ」

女「……貴方、地球をどんなところだと思ってる?」

男「話すのはお前だ」

女「自然も資源も豊かな楽園……そう思ってるでしょうね」

男「………」



13 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/29(水) 20:38:01.39 ID:XXItzpblo


女「この地球の人口が限界まで増加し、資源が枯渇した……50年前の事ね」

男「誰も歴史の授業を受けたいんじゃないぞ」

女「それを見越して更に前から整備の進められていた、月への移住計画。月の重力操作、環境の矯正、プラントの建設、それらが一応の完成をみたのも、50年前」


男(……やはりただの時間稼ぎか?)


女「人口の三分の一を月へ送り、開拓を進めた。その通り道としたのが、貴方の部隊が狙った巨大な空間転移ゲート…」

男「…貴様らが塞いだ」ギリッ

女「そう……そう思ってるわよね」

男「違うとでも言うのかっ」


女「月への移住が完了次第、地球側は予告も無くゲートを封鎖した。史上最大の口減らし…そう思ってるでしょう?」

男「………」

女「地球は人口が減り、資源は次第に豊かになった。やがて楽園と呼ぶに相応しい環境を取り戻し、月に取り残された人々を尻目に自分達だけが恩恵を享受している──」

男「早く本題に入れ、あと一分しか待たんぞ」


女「──じゃあ、現在の地球の環境が月と変わらないと言ったら?」



14 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/29(水) 20:38:49.63 ID:XXItzpblo


男「……!! 何を馬鹿な…」

女「今も深刻な資源不足に苛まれ、むしろ状況は月の方がマシ。一年間に餓死する人の数が五千万人を超えているとしたら…」

男「でたらめを言うなっ」


女「…もう一度、訊くわ。地球をどんなところだと思ってる? 貴方達は、何のためにゲートを奪おうとしたの? 地球軍は何のためにゲートを守っていると思う…?」


男(嘘だ、そんなはずが無い。それが本当なら、俺は)


女「自分達を追い出し隔離した地球の民の手からゲートを取り戻し、楽園の地へ帰還する…それが貴方達の目的であり、希望」


男(死んでいった、仲間は)


女「本当は地球の方が状況は悪い。でも地球の一般の民は皆、信じてるの……月の方が環境は劣悪だって」

男「………」

女「だから我慢するしかない。そして可哀想でも月の民の帰還はさせられない。もっと環境が悪化するから……そう思ってる」


男「……嘘だ」


女「貴方達、月の民はこう思ってる。全て地球が悪い、自分達を追い出した地球の民が憎い。楽園を取り戻したい……って」


男「嘘だっ!」



15 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/29(水) 20:39:57.49 ID:XXItzpblo


女「自分達はまだマシなんだと信じた民、悪いのは向こうだと信じた民。地球側の上層部も月側のそれも、実にコントロールしやすい事でしょうね…? 」


男(じゃあ…情報が伝わっていたのは)


女「ゲート奪還の部隊を転送し、毎回に渡って全滅……それでも月の軍は努力している、民の目にはそう映る事でしょう」


男(地球と月の上層部は)


女「繰り返し襲来する月の軍、それでもゲートを守り続ける地球軍……民からは、さぞ頼れる存在だと思われているに違いないわ」

男「共謀して…民を、兵を騙してるっていうのかっ!」

女「それが現実よ……向こうの部屋には私の書庫がある。地球各地の映像を見せてあげるわ。貴方が楽園と信じていた地球の、本当の姿をね──」



23 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/29(水) 23:41:54.16 ID:Rsw21GpAo


………



男(それから、俺は映像記録を始め様々な資料を見せられた)


男(たかが一介の兵士に過ぎない俺を騙すために、ここまでのデータを捏造するとは思えない)


男(二時間をかけても全ての資料の一割さえ目を通せてはいないが、それらは確かに俺が真実と思ってきた二十数年間を否定するに足る説得力を持っていた)



24 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/29(水) 23:42:59.36 ID:Rsw21GpAo


男(地球は、楽園などではない)


男(俺が命を捧げる覚悟で入隊した月の軍は、民を欺くための組織に過ぎなかった)

男(無論、その事実を知っているのはごく上位の人間だけなのだろう)


男(全ての民も、ほとんどの兵士も、嘘を信じ込まされて地球の人々を呪っている)

男(そして地球の民もまた、月の真実を知らされないままに欺かれている)


男(空間転移ゲートは両軍および両政府首脳陣の同意の下、意図的に閉ざされたままなのだ──)



25 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/29(水) 23:44:15.93 ID:Rsw21GpAo


女「…まだ、見る?」

男「いや…もういい、充分だ」

女「信じてもらえたみたいね」

男「……信じるしか、ないだろう」ガチャッ


ピー「ぎゃあっ」バサバサッ


男「心配するな、鳥。撃つ気は無い、むしろ…」スッ…

女「……何のつもり?」

男「撃ってくれ、俺を。どうせ捕まって死ぬなら、早く仲間のところへ逝きたい」


女「お断りするわ」


男「…そうか、そうだな。兵士でもない君の手を汚させるわけにはいかないか。なら、武器だけ預けるから…兵を呼んでくれ」

女「そうじゃない、私もどうせ殺すつもりの相手に数時間もかけて真実を教える程、酔狂な事をしたつもりはないの」



26 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/29(水) 23:46:11.81 ID:Rsw21GpAo


男「……どういう事だ?」

女「とりあえず、せっかくだから武器は預かるわ。その方が安心して話せるもの」

男「………」カチャン…


女「ふふっ…けっこう重いのね。じゃあ、代わりにこれを返すわ」チャラッ

男「ああ」

女「素敵な座標媒体ね」

男「…それは、どうも」


女「さあ…じゃあ、何から話すべきかしら」

男「俺に真実を教えた…その理由を、聞かせてくれ」

女「今度は断らないでね、お茶…ハーブティーは嫌い?」

男「……もらおう」



27 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/29(水) 23:47:45.54 ID:Rsw21GpAo


……………
………


…三日後


女「おはよう、相変わらず早くから起きてるのね」

男「軍の宿舎では午前五時起床が習慣だったからな。……もっとも地球のようにおよそ決まった時刻に夜が明けるわけじゃないが」


女「約二週間の昼と夜……か、なんだか不思議な感じがするわ」

男「俺にしてみたら毎日昼と夜を繰り返す地球の環境の方が馴染まないよ」

女「あはは、そうでしょうね。とりあえずまた朝食の残りをくすねてきたから、早目に食べちゃって」

男「…すまない、頂こう」


女「……資料の確認は、あとどのくらい必要?」

男「細かく見ようと思えば、まだ一週間は欲しいな」

女「ちょうどいいかも、こちらの体制もまだすぐには整わないから」



28 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/29(水) 23:49:26.78 ID:Rsw21GpAo


男「…本当に上手くいくのか」

女「解らないわ、誰かが裏切れば……終わりね。少なくとも貴方の存在はギリギリまで明かさないつもり」

男「俺はもう死んでいたはずの人間だ。どうなろうと──」

女「だめよ、貴方は切り札だから。私達の計画の、ずっと探していた最後のピース……ちょっと頼りなさげだけど」


男「失礼だな、これでも同期の中では首席だったんだぞ」

女「あははっ、そういう事にしておくわ」

男(……計画の首謀者だなんて信じられない無邪気さだな)

男(でも本当に計画が成功したら、この馬鹿げた戦争が終わるかもしれない)

男(最初は何を言い出すのかと思ったが──)



29 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/29(水) 23:53:29.99 ID:Rsw21GpAo


……………
………



男『──第二のゲート?』

女『ええ、もうほぼ完成してる。もちろん地球側にしか作れないから、一方通行だけれど』

男『一方通行のゲートなんて、何のために作ったんだ』


女『この研究所に在籍する所員…兵士を除くほとんどの者は、この見せかけの戦争に対して反対の意をもっているはずなの』

男『戦争の真実に気付いてるって事か?』

女『…五十年前に作られた最初のゲート。この狂った戦争の原因となったそれを開発した当時の研究所長は、酷くその事を後悔していたそうよ』

男『……真実を知る人間の一人だった…と』


女『そしてその開発者も所員達も皆、多少の入れ替わりはあっても二代・三代とこの施設に従事してる』

男『秘密を知る人間に世襲を許すとは、無防備な事だな』

女『逆よ、むしろこの研究所は秘密を知る人間を隔離しておくための、牢獄的な性質を持たされているの』



30 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/29(水) 23:54:52.10 ID:Rsw21GpAo


男『……それで?』

女『ゲートの開発者は機を窺いながら、所員達に真実を伝えていった。そしていつか自分の…あるいは子孫の手によってこの戦争を終わらせる事を夢みてた』

男『だから研究所の人間は反戦の意思を持っている…か』


女『でもゲート開発者は二十数年前、息子である二代目の所長に想いを託して亡くなった。そしてその二代目も……三年前に』

男『死んだ……それとも』

女『殺されたわ、反戦の意思を持っている……という理由で。そして彼を殺した実の娘は、その忠義を買われて三代目の所長となった』

男『実の娘だと? 三代目…まさか』

女『そう、私よ。地球政府からの信用を得るために、実の父を殺した冷酷な娘……表面上はね』

男『……実際には?』

女『父は、生きてるわ。秘密裏に遠く離れた孤島に渡り、その地下に第二のゲートを作っているの』


男『話はそう繋がるわけか。……それで、それをどう使って戦争を終わらせる気なんだ?』

女『絵に描いたようにいくかは判らないけど、月へ赴き真実を伝える……貴方に見せた資料を使ってね』



31 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/29(水) 23:55:53.04 ID:Rsw21GpAo


女『いきなり軍部を取りこめるとは思って無いわ。民衆に真実が広がれば、やがて軍の末端の兵士へ……そしていつか革命が起きれば』

男『…なるほど』

女『その時、一度地球を訪れ真実を知った月兵の存在は大きな意味を持つはずよ、そう思わない?』

男『それが俺を殺さない理由…か』


女『全員とはいかないかもしれないけど、所員の多くには計画の実行を伝えて、片道切符の同行者を募るつもり』

男『政府の息がかかった者が、いなければいいがな』

女『そう、だから慎重に…同志だと思っていた人間も、時間をかけて疑っていかなければいけないの』


男『……俺にできる事は?』

女『あははっ、不審者さんにできる事なんて無いわよ。さっきの資料を細かに見て、いざという時に備えてくれたらいいわ』

男『あの膨大な資料を、細かに…かよ』



32 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/29(水) 23:56:32.57 ID:Rsw21GpAo


女『とりあえずあの部屋を使ってくれたらいいわ。鍵もかかるし、こっちの部屋にくればトイレもシャワーもあるから』

男『…まさか地球くんだりまで来て、女性の部屋に転がり込む事になるとはな』

女『変な気を起こしたら……そうね、貴方の言葉を借りればトリガーを引くのは迷わない…からね?』

男『銃を渡すべきじゃなかったかもしれんな』

女『あら、いいようにしてやろうと考えてたの?』

男『冗談だよ……あんたは命の恩人だ。気の迷いはないと誓おう──』



37 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 09:01:36.11 ID:ebVL6FcWo


……………
………



男「…ご馳走様」

女「ごめんなさい、足りないと思うけど」

男「何、これから訓練があるってわけじゃないからな」

女「ふふ…そうね、でも資料を眺めて頭を使うのも疲れるでしょう?」

男「それは違いないな……残念ながら座学では首席とは程遠かったものでね」

女「それは信じるわ」ウンウン

男「そっちこそ否定してくれよ」

女「仕方ないじゃない。もっと頭のいい人だったら、私の突拍子もない話をすんなり信用してくれないでしょ?」



38 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 09:02:21.48 ID:ebVL6FcWo


男「……今の俺だって、本当は何か企んでるかもしれんぞ?」

女「それは無いと思うわ。……なんとなくだけどね」クスッ

男「君こそこの施設の所長とは思えんな、俺を簡単に信用するんだから」

女「ピーちゃんが、あまり警戒しないからね? きっと悪い人じゃないわ」


ピー「ぎゃ?」


男「……そういえば、こいつこそ俺の命の恩人なんだよな」

女「そうね、この子がペンダントを拾わなければ、貴方は射殺されていたもの」


ピー「ぎゃあぎゃあ」バサバサ



39 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 09:02:57.95 ID:ebVL6FcWo


男「その後、逃走した月兵の情報は?」

女「何も入ってこないわ。……少し不気味なくらい」

男「地球軍にとってはこの上ない不穏の種だろうからな。血眼になっているはずだが」

女「…そうでしょうね」


男「……もしもの話だ」

女「?」

男「この施設に調査が入って、俺を隠しきれなくなったら、俺が君を人質に立て籠もっていた事にしてくれたらと思う」

女「男さん……」



40 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 09:03:41.16 ID:ebVL6FcWo


男「俺の存在は切り札かもしれないが、計画の核である君が失われるよりはずっといいはずだ」

女「……解ったわ、もしもの時は…だけどね」

男「ああ、恨みはしないから」


女「でも、そうしたくはない…かな」

男「そう言ってくれるのはありがたいがな」

女「私、この研究所でずっと孤独だったわ。父を殺した事にしてから、部屋には独りきり」

男「おいおい……変な気を起こすなと告げた相手に言う台詞じゃないぞ」



41 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 09:04:26.89 ID:ebVL6FcWo


女「所員のみんなは本当のところを薄々知ってはいるけど、さっき貴方が危惧した通り政府の手の者が潜り込んでる事を恐れて、あまり表立って話はしないから……」

男「君からも言い出す事は難しい…か」

女「そうなの、だから…こんな風に何もかもを打ち明けられる人は、ずっといなかった」


男「……なんだか、今なら口説けそうな雰囲気だな」

女「あはは…撃つわよ?」チャキッ

男「冗談だ、すまん」

男(ハンドガン持ってんのかよ……)



42 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 09:05:00.32 ID:ebVL6FcWo


………


…その夜


男(……平気なふりを装ってるけど)

男(二十数年も信じてきた事が全て出鱈目で)

男(軍に入隊して数年、訓練を積んできた事も全くの無意味な努力だった)


男(当たり前だが、ショックは大きい)


男(いったい俺は……何のために生きてきたんだ?)

男(月の誇りを取り戻すため……そう信じて積み上げた、あの血の滲む時間は何だったというんだ)



43 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 09:05:57.18 ID:ebVL6FcWo


男(馬鹿げた、無意味な見せかけの戦争)

男(努力している様を人民に見せるためだけの訓練)

男(送られてすぐ、死ぬだけの予定だった任務)


男(全て月と地球の上層部が求めた、予定調和……)

男(それが…俺の人生だったっていうのか)


男(…だめだ、資料を見るにも気が入らない。今日はもう…寝るか)

男(あまり汗はかいてないけど、シャワーを借りるべきか……この時間に彼女の部屋へ入るのも気がひけるけど)

男(でも、トイレも行っときたいしな……)


ピー「ぎゃあ」


男「しーっ! …夜這いかけようってんじゃないって、静かにしてろ」



44 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 09:07:29.08 ID:ebVL6FcWo


…コンコン


男「……すまん、まだ起きてるか?」


… … …


男(返答無し、寝てるか……仕方ないな)


…ウィーン…プシュ


男(足音、殺して……)ヒタ、ヒタ…

男(ちょうどベッドの傍を通らなきゃいけないんだよな…)

男(変な気を起こすつもりはないが……)ピタッ


女「………」スースー


男(…綺麗な人だ。とてもクーデターを目論むような人物には見えない)

男(……いかん。ここでじっとしていたら、それこそ勘違いされても文句が言えんな)スッ

男(無意味だった…俺の今まで)

男(彼女がそれを、意味あるものにしてくれるだろうか──)



47 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 10:27:18.05 ID:/Dl7qATJo


……………
………


…翌日、午後


女「少し休んだら?」

男「ああ、でも…今見てる過去の資料が面白くてな」

女「百年以上前、地球がまだ本当の美しさを残していた頃の資料ね」

男「この頃を、見て見たかったよ」


女「地域にもよるけど、木々が生い茂り動物が支配する大地。あるいは動物が生きられない厳しい環境でも……雄大な自然があった」

男「…今はもう、どこにも無いのか」

女「……残念だけど」

男「そうか」



48 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 10:28:05.95 ID:/Dl7qATJo


…コンコン


《──所長、軍の査察団がおいでです》


女「!!」

男「…まずいな」

女「この部屋にいて、決して出てこないで。…何か物陰に、隠れて」

男「女、昨日も言ったが…」

女「解ってる……最後の手段だけど」


…ウィーン……プシュ…


中将「遅い、いつまでドアを眺めるかと思ったぞ」

女(……相変わらずの、吐き気を催す顔だこと)

中将「貴様らはここにいろ」

部下「はっ」



49 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 10:28:35.79 ID:/Dl7qATJo


女「…どうされたのです、何も聞いておりませんが」

中将「あぁ? …ここは軍の施設だ、なぜ管理するワシが訪れるのに事前の連絡が必要なんだ?」

女「……どうぞ、お茶を淹れましょう」

中将「ふん、いらんわ。それより…ここにネズミが迷いこんでいないかと思ってな」

女「デリケートな機材が多い施設ですので、衛生面の管理は行っているつもりですが」

中将「とぼけるな、聞いておるだろう?」


女「不明の月兵…ですか」

中将「ゲートから近い施設では、もうここしか残っておらんのだ」

女「……しかし、何も存じません。その後の情報すら入っておりませんので」

中将「今、部下が施設内を調べておる。答えはじきに出よう」



50 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 10:29:13.76 ID:/Dl7qATJo


女「よろしければ、所内をご一緒いたしますが」

中将「……この部屋からワシを追い出したいようだな?」

女「…滅相もない」

中将「あの、奥の部屋…入らせてもらおうか」

女(……まずい…お願い、上手く隠れていて…)

中将「早くせんか」

女「……はい」


…プシュ…


中将「随分と散らかっているな」

女「お恥ずかしい事です」


ピー「ぎゃあ」


中将「ふん…何が衛生面の管理はできているだ、この部屋では鳥も飼っておるというのに。ケージから出すんじゃないぞ」

女(……姿は無い…どうか見つかりませんように…)



51 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 10:29:54.61 ID:/Dl7qATJo


中将「この星の過去の資料…か」ペラッ…ペラッ…

女「この部屋の資料は細かに纏めてあります。あまり場所を乱されませんよう」


中将「何を企んでいる?」


女「企み…とは、穏やかでない事を」

中将「この資料を纏めて、どうするつもりだ」

女「……少しでも、この星に自然を取り戻す事ができれば…と」

中将「怪しいものだ……ワシは貴様の事を信用しておらん」

女「心外です」


中将「父親を殺したというのも、眉唾ものだな」

女「私は軍に忠誠を誓っているつもりですが」

中将「……なら、態度で示してもらおうか」

女「?」



52 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 10:30:57.80 ID:/Dl7qATJo


中将「軍に忠誠を誓うなら、上官の命令は絶対であろう? せっかく奥まった部屋に入ったのだしな」

女「……っ…」

中将「くっくっ……心配するな、何も貴様を犯そうというのではない。さすがに喘ぎ声など出されては敵わん……貴様が奉仕すれば良いのだ」


女「…仰る意味が解りません」

中将「はっ…父親殺しが、まさか穢れたくないなどと言うのではあるまい? 」

女(下衆な人…)


中将「…ほれ、手間をかけるな。服の脱がせ方くらい知っておろう」

女(……嫌だ…だけど…)

中将「聞けんのか? 忠誠を誓う、上官の命令が?」


女「……いいえ」


中将「なら、早くしろ。貴様のその喉の奥に忠義があるか……ワシがその口の中を掻き回して感触を確かめてやると言っている」



53 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 10:33:18.02 ID:OkivQ3r7o


女(男…さん……絶対に、出てこないで…)カチャカチャ…ファサッ

中将「さあ、跪いて咥えるんだ……返事はどうした?」


女「…喜ん…で…」


中将「くっ…ふふっ…喜んでいるようには見えんがなぁ? なに…かえってそそるというものだ」ニタァ

女(お願い…見ずに、聞かずにいて……)ギュッ…

中将「ほれ、手を添えろ…そうだ、もっと強く握れ……さあ、口を開け──」


ガチャンッ!


ピー「ぎゃあっ!ぎゃあっ!」バサバサッ


中将「うおっ…!? ケージが開けっ放しではないか…くそっ! このバカ鳥…!」バサッ


部下《中将殿…!? どうされました、何か声が…くっ、奥の部屋か…!?》ダダッ


中将「ちっ…! 興が削がれたわ…」カチャカチャ…


…プシュ…


部下「中将殿!」

中将「ああ、鳥に驚かされただけだ…この部屋には何も無い、行くぞ」

部下「…はっ」


中将「ふん…今日は堪えてやろう。しかし貴様の心は既にワシに服従したのだ、覚えておけ」

女「………」グッ

中将「今度、基地に呼んでやる。身体を磨いて来る事だ……くっくっ」



54 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 10:34:26.85 ID:OkivQ3r7o


………



…ウィーン……プシュ…


女「……もう、帰ったわ」

男「手を洗うのは、気が済んだか」

女「ごめんなさい……嫌な思いをさせて」

男「君ほどじゃない。……手が赤くなってるじゃないか、痛いだろうに」

女「…落ちた気がしないの」


男「落ちてるよ」ギュッ


女「!!……誰も手を握ってくれなんて、言ってないわ」

男「どうしても前の汚れ痕が気になるなら、別の汚れで隠せばいいんだ」

女「……また洗わなきゃいけないじゃない」

男「俺の汚れはしつこいぞ? 前の汚れなんか目じゃない」

女「ふふっ……じゃあ、洗っても無駄ね」

男「そうかもな」



55 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 10:35:06.03 ID:OkivQ3r7o


女「…あの子のケージを開けておいたのは、貴方ね」

男「賢い鳥だ、あと一秒遅ければ、俺が飛び出してたよ。本当は部屋に踏み込まれた時に撹乱してくれたら……と思っていただけだが」


女「少し、ここにいても…いい?」

男「元々、君の部屋だろ」

女「…そう…ね……」グスッ

男「資料、見てる。落ち着いたら声を掛けてくれ」

女「う…ん……」ポロポロ…



56 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 10:35:44.14 ID:OkivQ3r7o


………



女「……ねえ、月から見た地球って、どんな色だった?」

男「この資料にある姿とは少し違うのかもしれんが、青くて綺麗だったよ。…夜空を見上げて羨む対象にはなるくらい」


女「…見てみたいな」

男「見に行くんだろう」

女「観光に行くみたいに言わないでよ」

男「そんなつもりじゃない。……でも、見る価値はあると思うよ」


女「昔は月に大気が無かったから、どこでも見られたんでしょうけどね」

男「それじゃ人間がいられないけどな」



57 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 10:36:12.08 ID:OkivQ3r7o


女「…地球が綺麗に見えるスポットとか、知ってる?」

男「ああ、故郷にオススメの丘があるよ」

女「そう…」

男「大した高さの丘じゃないのに、周りの風景が目に入らなくてさ。なんだか地球が近くに見える気がした」


女「そこで恋人と待ち合わせでも?」

男「さあ」

女「言わないんだ?」

男「まあな」

女(……バカだな、私)

男「それに向くような所ではあったけど」

女(連れて行ってくれるかも…なんて──)



60 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 17:45:11.35 ID:0VnUrMPqo


……………
………


…数日後、朝


女「おはよう、やっぱり早いわね」

男「ああ、おはよう……その顔、何かあったな?」

女「父から、暗号の入電が」

男「いよいよ…って事か」

女「今日の夜12時、輸送機の発進準備が整う予定よ」


男「メンバーは? 揃ってるのか」

女「所員30名の内、最も信頼のおける約半数には伝えてる」

男「それで、何割が同行を?」

女「話は勝手に広まって…結局、全員よ」

男「そりゃすごい、君は孤独なんかじゃ無かったようだな」

女「そうみたい…なんだかこんな時なのに、気が抜けたわ」



61 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 17:51:00.99 ID:q+9jRpd1o


男「しかし、施設の警護兵の目をどう掻い潜る?」

女「正直、全員が同行するとなると……ひきつけておく役がいないから、見当もついてないの」

男「だろうな……やはり、止むを得んか」

女「?」

男「女……この行動は綺麗事じゃない、少々の犠牲はつきものだ」

女「犠牲…?」

男「末端の兵に罪は無いかもしれん……だが」

女「まさか、兵を…」


男「この施設、警護兵は何人いる?」

女「10名ちょっと…だけど、所員に戦力は期待できないわ」

男「ああ、そうだろうな……じゃあ、武器は?」

女「軽歩兵装程度のものが数名分なら」

男「充分だな。まあ脱出に際してはたぶん使わないし、その後も一人じゃ持て余すほどだ」



62 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 17:56:30.24 ID:04I/aWSto


女「一人って…まさか!」

男「見せかけだったとはいえ、少数の兵でゲートを奪還する訓練を受けてる。…心配ない」

女「……でも、本当に人を殺した事なんか無いんでしょ?」

男「月軍の部隊、最終訓練は死刑囚相手の実戦だ……言ったろ、首席だったって」

女「そんな……」

男「なに…最後の一人まで、戦闘が発生している事さえ気付かせないさ──」



63 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 18:00:38.14 ID:04I/aWSto


……………
………


…夜、11時過ぎ


警備兵A「……冷えるなぁ」

警備兵B「そうか?」

警備兵A「そうか…って、お前…また酒飲んでるじゃねえか」

警備兵B「こんな辺境のこんな夜中に、何があるってんだよ。飲まずにいられっか」

警備兵A「お前、そんなだからこんなところに飛ばされるんだよ」


警備兵B「へっ…じゃあ、お前はなんでここにいるんだよ」

警備兵A「うるせえ」

警備兵B「やれやれ…ちょっとトイレだ、しっかり見張ってろよ? 真面目な落ちこぼれ君よぉ」

警備兵A「てめえ、後ろから撃つぞ」

警備兵B「へへっ…怖えぇこって」フラフラ…



64 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 18:04:07.14 ID:saO2ZudFo


警備兵B(ちっ…なんの娯楽もねえ、こんな施設の警護なんてどうでもいいよ)

警備兵B(ま、所長はベッピンさんだけどな)

警備兵B(綺麗な顔して親殺し…か、わからねえもんだな)


警護兵B「あれぇ……トイレ、照明が点いてねえぞぉ…? むぐっ…!?」

男「そりゃあ失礼したな」ボソッ

警備兵B「む…! う…うぅっ……」グサッ…


ズル…ズリズリ……ドサッ


男(ちょうど良かった、こいつの服ならサイズが合いそうだ)ゴソゴソ…



65 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 18:08:54.60 ID:TZEG4BkWo


男「うう…う……」フラフラ

警備兵A「やっと帰ってきたか……って、どうしたんだよ? 飲みすぎて気分悪いってか?」

男「おええぇぇぇ…」ガックリ

警備兵A「うわ、汚ねえな…しっかりしろよ」


男「肩……貸してくれ…」

警備兵A「しょうがねえなあ……俺に吐くんじゃ……ぐっ…!?」グサッ

男(……貴重な体験だろ? この時代にナイフで殺されるなんて)ズズズ…


警備兵C「おーい、交代だぞ…」

男「!!」



66 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 18:13:27.76 ID:tZHNnFywo


警備兵C「どうした、Aのやつ…そんなところで横になって」

男「不謹慎な話だ…こいつ酒を飲んでやがった」


警備兵C「おいおい……普段から飲んでるのはB、お前の方だろ? しかしなんでこっちを向かないんだ?」

男「ああ…すまない。あと二歩で、届くからな」

警備兵C「あ? 何に──」

男「お前にだよ」ビュッ

警備兵C「……っ…!!!」ブシュッ!


男(喉を切ると返り血がな……声を上げられないためには仕方ないけど)

男(このAって奴の服と換えるか……)ゴソゴソ

男(やっぱり、こんな施設の警備兵だ。一人ひとりは通信端末は持ってないみたいだな)

男(だとしたら、女の言ってた詰所だな……あっちか)



67 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 18:17:10.53 ID:OkivQ3r7o


男(ここ…だな、中に一人…二人…三人)

男(ちょうどいい、手動のドアじゃねえか。よし…)ゴソゴソ


…コンコン


警備兵D「あ? …誰だ?」

男「…Aだよ、交代で戻った。定時連絡はもうしたのか?」カチャッ

警備兵D「なんだよ、それなら入ってくりゃいいのに」

警備兵E「定時連絡ならさっき済んでるよ、早くポーカーの続きしようぜ? 負けがこんでるんだ」


男「ああ、だよな。定時連絡はやっぱり毎正時だもんな」…ピンッ

警備兵F「なに当たり前の事を言ってんだよ、どうかしたのか?」



68 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 18:21:15.70 ID:K/5Zaie7o


男「いや、すまねえ。さっきコレを拾ってさ」ポイッ…バタンッ


…カンッ、コロンコロン…


警備兵D「おいおい、投げて寄越すなよ──」


プシュウウウゥゥゥッ…


警備兵E「え?」

警備兵F「うっ…ぐううっ…あ…ぁ…」ズルッ

警備兵D「……かはっ…」ズズ…

警備兵E「え? ……え…?」ドサッ


男(そんだけ狭い部屋なら、毒ガスもよく効くよな…)

男(予想通り、定時連絡は毎正時…だからこの時間を選んだんだ)

男(これで輸送機が離陸する頃まで、軍が異常に気付く事はなかろう)

男(あと5人くらいか──)



69 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 18:25:52.17 ID:Llb4ypTNo


………



女「………」ウロウロ

副所長「女所長、落ち着いて」

女「落ち着いてるわよっ」

副所長「どこがですか」ハァ…

所員「あの月兵が心配なのは解りますが…」

女「ち、違うわよ! もうすぐ輸送機の準備を始める時間だから、間に合うかが心配なだけ──」


…ウィーン……プシュ…


男「…そりゃ酷い、俺は切り札じゃなかったのか」

女「男さんっ!」

副所長「月兵殿…! 成功したのか?」

男「ああ、問題ない」



70 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 18:30:24.67 ID:tzwA1J68o


所員「恐ろしい……本当に一人で全ての兵を抹殺してしまうとは」

男「そういう訓練を積んできたからな。しかし…よく皆、俺を信用してくれたものだ」

副所長「なに…女所長が自室に長らく匿うほどの者だからな」

所員「ええ、信じてついてゆく人が信じる方なら、従わない理由がありません」


男「本当に…どこが孤独だったんだ、君は?」

女「もう、それは忘れてよ」



71 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 18:35:35.42 ID:DjkODwyko


所員「時刻になります! 外へ…!」

女「副所長、しつこいようだけど…」

副所長「大丈夫、ゲートの設計図や資料は全て抹消してあります」

女「それと、メインゲートは?」

所員「遠隔操作で3重にロックをかけました。一年やそこらで破れるものなら、やってみろです」

副所長「もちろん、勘付かれるようなヘマはしていないな?」

所員「軍本部の人間なんて、ゲートにアクセスした形跡すらありませんでしたよ」

女「これで、地球軍が月に実際に干渉する事はできないわ。情報は遮断しようがないけど」


男「後に第二のゲートが発見される可能性は?」

女「父様は孤島の秘密施設に、時限式の爆破装置を備えているはず。それを起動してから、ゲートをくぐれば…」

副所長「さあ、急ぎましょう! 月兵殿を信じて輸送機は離陸準備を始めているはずです!」

男「…よし、行こう」



72 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 18:38:29.55 ID:OkivQ3r7o


……………
………


…二時間後、輸送機内


ピー「ぎゃあ…」ソワソワ

女「初めての乗り物、この子ったら怖いみたい」

男「自分の翼で飛ぶのは慣れているだろうに」

女「だからこそかもね」


男「…飛行は順調みたいだな」

女「ええ、着くのは明け方になるだろうけど」

男「発見される恐れは無いのか?」

女「…もちろん、無くはないわ。ただ、私達も軍の関係者だから通常の識別信号は解ってる」

男「だが、そろそろ定時連絡が無い事に気付いているはずだ。恐らく識別信号も緊急時のパターンになるだろう」

女「そうね…各地の基地から距離をとったルートを飛行しているはずではあるから、そうすぐに追いつかれる事は無いと思うのだけど」

男「……何事も無く、孤島まで着けばいいがな」



73 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 18:42:07.06 ID:R8ep6mYFo


男「そもそも、なぜ第二のゲートは研究所から離れた地に作ったんだ?もちろん半端に離れてもだめだろうが、研究所の地下じゃいけなかったのか」

女「軍の査察は不定期に抜き打ちであるわ。兵もいるし、隠し通すのは無理と判断したの」

男「…しかし、わざわざ父親を殺した事にしてまで」

女「悔しいけど、私の知識ではゲートの開発は無理よ。だから当時の所長だった父を研究所という牢獄から解放するには、ああするしかなかった」

男「……相当な覚悟だな」


女「貴方は…?」

男「ん?」

女「過去に生きて戻った者のいないゲート奪還の任務、どうして受けたの?」

男「受けたんじゃないな」

女「?」

男「自ら、志願した」

女「……なおさら不思議よ」



74 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 18:45:51.59 ID:K/5Zaie7o


男「十二年前、親父は同じ任務に散った。地球に赴き、勇敢に戦い、そして敗れた……俺はその意志を継ぎたかった」

女「………」

男「でも…実際には、親父は無駄死にだったんだな」


女「そんな事ない」


男「…どうして」

女「貴方はお父さんの意志を継いだ。そして地球に来た貴方は偶然にも死ぬ事無く、真実を知った」

男「ああ」

女「その貴方が月へ帰還すれば、もしかしたらこの戦争は終わるかもしれない。…だからお父さんの死は、今に繋がってる。無駄なんかじゃない」


男「……お見事」

女「何が?」



75 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 18:49:28.63 ID:/Dl7qATJo


男「真実を知って、俺は今までの人生を否定された気がしたよ」

女「それは無理もないかもね」

男「だからその時…まさに今、君が言った事を自分に言い聞かせた。親父の死を無為にしないために、俺は月に帰るんだって」

女「……事実よ」

男「事実…か、現実にしなきゃな」

女「うん、するわ…必ず」


男「女、今さらなんだけど……ずっと言ってなかったよ」

女「あら、プロポーズでもするの?」

男「からかうなよ。…ありがとうって言おうと思ってたのに」

女「何に対して?」

男「…色々だよ」



76 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 18:52:11.19 ID:saO2ZudFo


………



男「落ち着かないもんだな」

女「?」

男「いつ追撃を受けるか解らないって状況……俺は攻め込む訓練ばかりで、受身の戦い方はあまり知らない」

女「貴方が地球に現れた時のように、空間転移で飛べたらいいんだけどね」

男「座標媒体の個体記録が有効なのは、データ書き込み後ひと月が限度だから……」

女「もちろん、それ以上経つと身体の組織が変わり過ぎて、照合できないもの」

男「……そうか、君に講釈を垂れる内容じゃなかったな」

女「それが可能なら、父様に皆の媒体を置いてもらってるわよ」



77 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 18:52:54.79 ID:saO2ZudFo


男「媒体無しに直接転移させるゲート…か、君のお祖父さんもとんでもない発明をしたものだ」

女「………」

男「すまん、責めるつもりじゃ無かった」


女「月への移住が無ければ、地球はもっと悲惨な事になってた」

男「ああ、せめて…この下らない戦争の芝居さえ終わればな」

女「そうね、そうしたら……あとは月も地球も、緩やかな滅亡を待つだけ」


男「そうさせる気は無いんだろう」

女「え…?」

男「言ってたじゃないか、過去の豊かな自然を取り戻したいって」



78 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 18:56:41.14 ID:lkhdwBOYo


女「あれは、その場凌ぎの…」

男「どうかな? そうだったら、あそこまでの資料を揃えるものか」


女「……それは、夢よ」

男「いいと思うよ、夢で。滅亡を待つだけの世界に、欠片でも夢があれば。…君が作れば」

女「私が…」

男「できる事なら、それを…」

女「?」

男「…いや、何でもない」



79 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 19:04:15.82 ID:lkhdwBOYo


……………
………


…地球軍、本部併設基地


中将「あのっ! 糞アマがぁっ!!」バァンッ

大尉「ち、中将殿…! 落ち着いて…」

中将「研究所の警備兵は殆ど一撃の元に刺殺されていたと言うではないかっ! 地球の民にそんな真似ができるかっ!」

大尉「では、まさか…」

中将「やはりあそこに月兵がおったのだ! おのれ…虚仮にしおって!」

大尉「なんと…月兵とはそんなに…」



80 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 19:07:46.90 ID:lkhdwBOYo


中将「十数年前、一度だけ……現れた月兵が攻撃を掻い潜り逃げた事があった…それを始末したのがこのワシだ!」

大尉「存じております…」

中将「ふん、何を知っているというのだ。あの悪鬼の如き強さ……味わった者にしか解るまい」

大尉「はっ…」


中将「月軍め……地球との不可侵条約が破棄された場合を想定して、兵の訓練だけは本気で行っておるのだ……こざかしい」

大尉「しかし、月はなぜそのような優れた兵士を捨て駒にする必要が?」

中将「この芝居にリアリティを持たせるため……それ以外のどんな理由があるというのだ」

大尉「それだけのために…」

中将「下っ端ばかり送っていては、月軍内部での示しがつくまいからな……あくまで奴らは本気でゲート奪還を目指しているふりをせねばならんのだ」

大尉「……憐れなものです」



81 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 19:08:37.47 ID:lkhdwBOYo


中将「なに、資源の量に対して人口が余っているのは、地球も月も同じという事よ」

大尉「しかし、そのようなエリートが研究所のメンバーに同行しているとなると……」

中将「ふん…どんな優れた兵であろうと、一人で何ができる」

大尉「現在、追撃部隊は100名を準備しております」

中将「それでいい、一人に対して何人を使おうとな! それがワシの戦い方だ!」


地球兵「報告いたします! 追撃艦の発進準備、整いました!」

中将「くっくっ…逃げられると思うな、月兵よ! ワシは貴様らの天敵ぞ…!」



84 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 22:25:45.24 ID:WbLaUehPo


……………
………


…孤島南、約100km海上


副所長「女所長、もう島まで10分ほどです」

女「良かった…何事も無く着けそうね」

男「気を抜かない方がいい、島は辺境もいいところなんだろう?」

副所長「それはそうだが…」

男「通常、そんな位置を飛行する者はいない。おそらく軍はもうこの機に気付いているはずだ」

女「……追ってきている?」

男「追わない理由が無かろう、あとはそれがどのタイミングか…だ。この機には火器は?」

副所長「艦尾に砲門が一基だけだ」

男「頼りないな」

女「機材の輸送機だから…」



85 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 22:28:46.94 ID:WbLaUehPo


所員「副所長っ!」


副所長「どうした、慌てて」

所員「後方から接近する機影を捉えました!速度はこの機の倍以上…小型の戦闘機と思われます!」

男「何機いる?」

所員「レーダーが捉えた機影は五機、三分で遭遇します!」


男「五機…か、多くはないな」

女「どうするの…」

男「堕とすしかあるまい、パイロットに海面スレスレに高度を落とすよう伝えろ」

副所長「低高度など、狙い撃ちにされるのでは」

男「いいから、信じろ……砲門はどこだ? そこから直接、コックピットと通信は可能か?」

所員「はい、こっちです!」


女「男さん…」

男「俺の心配ならするな、駄目ならどうせ全員死ぬ──」



86 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 22:46:47.54 ID:WbLaUehPo


………



男(敵機視認…やはり五機か)

男(まだこちらの攻撃は届くまい……おそらく奴らは──)


所員「強力なレーダー照射を受けています! 誘導弾を射つ気だ!」

男「そうだろうな、分かり切ってる……来るぞ! パイロット、全速のまま不規則に蛇行しろ! 海面に接触するなよ!」


所員「うわ…!」

男(…上からの射撃の誘導弾、そう簡単に当たりはしない)

男(それに高高度と違い、一度でも躱せば海面で爆発するはずだ!)


…ズズンッズンッ…ドォンッ!


男「よし…よく避けた! そのまま低空をキープしておけ!」

所員「敵機、V字編隊で接近します!」

男(…輸送機だと思って舐めてかかってる…散開もしない、今しかチャンスは無い)



87 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 22:49:05.36 ID:WbLaUehPo


所員「射程まで、あと3秒…! 2…1…撃てます!」

男(全機、堕とす…!)ズガガガガガッ!


…ドンッ!…ドッ…ズドンッ!


男「くそっ、 一機逃したか…! 高度をとれ! もう上下の挟み撃ちは無い!」

所員「すごい…輸送機の砲門で、一度に四機も…!」

男「敵機の掃射! くるぞっ!」


ビシビシビシッ!


所員「うわっ! くっそ…右二番エンジン損傷っ!」

男「現在の高度は…!?」

所員「一万二千フィート! 上昇中ですが…出力が!」

男「よし…ストールしない、限界の低速度で降下しろ! 海面にキスする前に操縦桿を引けよ…!」


男(……まだ後方視界に敵機が入らない…もっと下を向くんだ……そう、もう少し…!)


所員「海面、接近!」

男「ギリギリまで粘れ!」



88 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 22:50:56.74 ID:WbLaUehPo


…キラッ


男(……見えた!)

男「操縦桿! 引けっ!」ズガガガガガッ!


所員「……敵機残存! 当たりません!」

男「構わん、奴は全速降下だ。弾を回避することしかできまい…」

所員「え…!?」


…ズドオオォォン


男「…操縦桿を引く間も無かっただろう」

所員「墜落した…! レーダー、オールクリア!」



89 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/30(木) 22:52:01.89 ID:WbLaUehPo


男「それはどうかな、索敵範囲を広域にしてみろ」

所員「!!……これはっ!」

男「さっきの機体、そうアシの長いものには見えなかったからな」

所員「この反応…! 乙型空中母艦……中将の艦です!」


男(中将……あいつか…)


所員「遭遇まで、五分! 島までギリギリです!」

男「島に滑走路は?」

所員「垂直離着陸用のハッチしかないと聞いています…」

男「まあ、そうだろうな…滑走路みたいな目立つもの、作れないだろ。…この輸送機は海面着水は可能か?」

所員「は、はい…」


男「悠長に島の上空でホバリングなど、許されそうにない。できるだけ施設に近い地点で、水上あるいは砂浜への胴体着陸だ」

所員「はいっ…! 総員、耐衝撃体勢──!」



94 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/31(金) 00:38:23.17 ID:EkFyACsqo


……………
………


…孤島の砂浜


副所長「全員、降りたか!」

所員「な、なんとか…死ぬかと思った…」

女「情けない事言わないで、早く…地下施設の入り口は開いてるわ!」


ピー「ぎゃあ」

男「地上に降りて、安心したみたいだな。それとも朝だからか」

副所長「夜明け…これが地球の景色の見納めですな」

男「馬鹿を言え、戦争を終わらせるんだろう? 行き来できるようになるはずだ」


所員「ん…影が……?」

女「上…!」

男「大きい…これが母艦か!」


ドドドドドッ!
……ビシッビシビシッ!


所員「うわ…! 撃ってきた!」

副所長「総員、走れ! 施設入り口へ…!」



95 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/31(金) 00:39:10.54 ID:EkFyACsqo


………



男「地下への階段か、長いな…」

女「長い階段なんて、初めてだわ」

所員「はあ…はあ……もう、足がへとへとだ…」

副所長「急げ! 追ってくるぞ!」


…ズウウウゥゥゥン


女「…何、今の音…?」

男「おそらく最初に入ってすぐ閉めたシャッターが爆破されたな」

副所長「ここまででシャッターは三つ通過した筈、まだすぐには追いつかれんでしょう」

男「ああ、二つ目からは通路内だ……爆破にも気を遣うだろうしな」



96 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/31(金) 00:40:52.03 ID:EkFyACsqo


女「最下層が見えたわ! 父様…!」

博士「女…! よく来た…よく……!」ギュッ

ピー「ぎゃあっ」パタパタパタッ

男「感動の再会劇は後だ、早く室内へ!」

副所長「もたもたするな! 遅れたら締め出すぞ!」


博士「施設爆破の時限装置をセットする。これでシャッターは完全にロックされ、更に二箇所追加される」

男「何分後にセットするんだ?」

博士「最短…それでも10分だ。事故を防ぐため、それ以下にはセットできない」


男「となりのカバーは……」

博士「即時起爆のスイッチだ。つまり諸共自爆する……誰か犠牲になる勇士がいるなら、使えるがね」

女「冗談を言ってる場合じゃないわ、早くセットを」

博士「もうしてあるとも、あと9分42秒」



97 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/31(金) 00:41:35.10 ID:EkFyACsqo


副所長「先代、ゲートの状態は?」

博士「あとは目標地点の座標を入力するだけだ」

女「座標のあてはあるの?」

博士「残念ながら、月の地理はほとんど不明だ……唯一、砂漠地帯ならすぐに月軍に見つかるという事は無かろうが」


男「砂漠など、三日で死ぬぞ。……北緯35度40分、東経139度40分にセットしてくれ」

女「そこは?」

男「俺の故郷から、数キロの地点になるだろう」


博士「君の故郷には軍は駐留していないのかね?」

男「辺境なものでね、自警団しか存在しない。みんな顔見知りだ」

副所長「それは心強い、そこしかないな」

博士「よし……すぐセットしよう」



98 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/31(金) 00:42:14.17 ID:EkFyACsqo


………



中将「くそっ…! なんだこの施設は…!」

大尉「使われなくなったはずの旧施設…全くチェックされておりませんでした」

中将「ふざけるな! 長らく本当の戦争が無いからといって、弛みきっておる証拠だ!」

大尉「はっ…」


中将「しかし、こんなボロ施設に何があるというのだ……」

大尉「研究所の者達が逃走した理由自体が不明です」

中将「奴らの目的…逃げる理由……逃げる? ……どこへだ? 奴らはこの戦争の真実を知っている……」

大尉「中将殿、そのような言葉…兵に聞かれますぞ」


中将「真実を知る……ゲートの開発者…まさか──」

大尉「……?」

中将「この施設…この先にあるのは、ゲートだ…! 奴らは月へ逃れ、クーデターを企んでおるのだ!」



99 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/31(金) 00:42:53.43 ID:EkFyACsqo


大尉「馬鹿な…秘密裏にゲートを作るなど」

中将「なに、五十年前の本物のゲートのように巨大でなくとも良いのだ、人間が転移できればな…」

大尉「それでは奴らはもう…」

中将「さあ、それはどうかな。もし未然に……いや、ゲートを発見して後から追ったとしても、クーデターを防いだ場合…ワシの功績は大きなものになろう」


大尉「中将殿、奴らが施設を爆破する可能性は…!?」

中将「無論、可能性はある……だが恐れぬ。くっくっ…これはワシが全軍の大将となるチャンスかもしれんぞ…!」

大尉「……っ…」


中将「何をやっておる! とっととシャッターを爆破しろ!」

大尉「しかし…爆薬をセットしてから人員を退避させるためには…」

中将「退避しなければ良いのだ、起爆装置を貸せ!」

大尉「そんな! 中将殿…!」



100 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/31(金) 00:44:33.39 ID:EkFyACsqo


………



…ズウウウゥゥゥン


男「!!」

女「近い…! もう幾つ目のシャッターに達してるの…!?」

所員「管理画面によると、この部屋から四番目のシャッターが突破された模様です!」

博士「馬鹿な、まだ時限装置の起動までは六分以上ある」

副所長「早く、ゲートをくぐりましょう」

博士「くっ……時限装置は解除可能にできている。ゲートを奪われ、追手が来るぞ」


男「座標をずらしておけば?」

女「誰が残ってその役をやるの? その人は追手に殺されてしまうわ」

男「俺がやる」

女「だめよ、貴方は切り札だと言ったでしょう!」


博士「それに奴らがこのゲートの存在を知った時点で、さほど状況は変わるまい。すぐに月軍の上層部に情報が入り、我々を抹殺しようとするだろう」

副所長「では、どうすれば…」

博士「奴らにこの第二のゲートの存在を確信されてはならんのだ。確信が無い限り月に対して己の失態を晒すような報告はすまい……」



101 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/31(金) 00:45:35.08 ID:EkFyACsqo


男「やはり施設は爆破せねばならんな。そして、できれば…奴らを諸共に」

女「……誰かが、犠牲になるしかないのね。なら、私が──」

ピー「ぎゃあ! ぎゃあ!」

男「馬鹿を言うな、鳥も怒っているぞ。君には大事な使命があるはずだろう」

女「でも…!」


男「……その鳥は、頭のいい奴だ」

女「!!」


男「ゲート前から飛ばせ、スイッチを押させる……そのくらいの事、できるか?」

女「いや……嫌よ! ピーちゃんは昔からの…」

博士「しかし、その代わりに誰か人間を犠牲にするわけにはいかん」

女「そんな……」

男「すまない、でもそれしかないんだ」



102 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/31(金) 00:46:19.78 ID:EkFyACsqo


ズシイイィィィン……


博士「急ごう、順番にゲートをくぐるんだ!」

所員「はいっ」

女「………」

男「女、俺も付き合う……最後に行こう」


博士「男君、女を頼む……必ず鳥を放った後、すぐに引きずってでもゲートをくぐってくれ」

男「わかった」

博士「女……娘よ、すまない…先に行くぞ」

副所長「女所長、先に行きます……必ず来て下さい」

女「………」


男「スイッチのカバー、開けておく」

所員「全員くぐりました、あとは私達だけです!」

男「お前も先に行け、女は俺が必ず行かせる」

所員「男さん……お願いします!」



103 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/31(金) 00:47:04.31 ID:EkFyACsqo


女「………」

男「女…」

女「…解ってる」

男「………」

女「ごめん……気持ちを整理してるの」

ピー「ぎゃ…?」


男「女、これを持っておいてくれ」

女「……ペンダント…?」キラッ

男「そいつがあれば、俺はそこへ飛べる」

女「え…?」


男「スイッチを押してから、一秒未満でも…炸裂の間はあるんじゃないか」

女「何を言っているの…?」

男「身につけた転移装置のバッテリーも残ってる。僅かなズレをもたせて、二つのスイッチを押すだけの話だ」

女「だめよ! 危険過ぎる…!」



104 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/31(金) 00:47:42.09 ID:EkFyACsqo


男「もし…万が一、時限装置の残り時間を経過しても俺が行かなかったら、俺の故郷の酒場に勤める娘にペンダントを見せろ」

女「万が一の話なんてしないでよ! ピーちゃんを飛ばせるんでしょう…!?」

男「この方が、より確実だろう? 果たして鳥が本当にスイッチを押せるか、保証は無い」


女「貴方、最初からそのつもりで……」

男「ペンダントを見せれば、必ずその娘は力になってくれる。そいつの助力があれば、俺がいなくたってみんな信用してくれる」

女「でもっ…!」


男「そしていつか俺の母親の墓前に、そのペンダントを返してくれ。…君が、その手で」


女「お母…さんの…?」

男「ああ、俺が三歳の頃に死んだ。それの中身、見なかったのか? 写真…入ってたろ?」

女「……!!」



105 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/31(金) 00:49:06.63 ID:EkFyACsqo


男「酒場にいるのは、俺の妹だ。……だから、見せれば解る」

女「そんな…あの写真……お母さん…」

男「ははっ…恋人だとでも思ったか? それなら、部隊に志願しなかったかもな」

女「…私はっ」


ズウウウゥゥゥン…


男「時間が無い、俺は装備を整えなきゃならん」

女「…だめよ! 貴方も一緒に…」

男「悪い、鳥を離すなよ」ドンッ…

女(ゲートに…突き飛ばされ──!)


男「女……ありがとう」

女「馬鹿っ──」



106 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/31(金) 00:51:15.58 ID:EkFyACsqo


………



男(さあ…格好つけたからには、みすみすゲートを渡すわけにもいかんな……)チラッ

男(時限装置の起爆まで、あと4分弱……か)

男(…転移装置……)ピッ


【BATTERY/32%】


男(……だよな、月まで飛ぶのは…たぶん無理だろ)

男(理想は、地球軍の奴らが時限装置を解除しようがないタイミングまで粘って、ゲートに飛び込む事だ)

男(残り10秒……いや、5秒くらいまで)


《……爆薬設置、完了!》

《な……やめっ…まだ起爆しないで…! ああっ…!》


ズドオオオォォォンッ!!!



107 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/31(金) 00:52:29.92 ID:EkFyACsqo


…パラッ…コロン…カラカラ……


地球兵「着きました! 最深部のようです!」

男「ご苦労さん、一歩も入れさせないけどな…!」ドドドドドドドッ


地球兵「うわ……て、敵兵あり! ぐっ…ぅ……」ドサッ

地球兵「ぎゃあああぁぁっ…」バタッ

地球兵「退けっ! 物陰から撃つんだ!」


男(いいぞ……あと3分、互いに潜みながら慎重に…ゆっくりやってくれ──)ササッ…



108 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/31(金) 00:53:07.63 ID:EkFyACsqo


……………
………


…月、男の故郷付近


博士「女……! よかった、時間がかかったな…」

副所長「……? 女所長、月兵殿は…?」

女「……許さない…こんなのっ……来なきゃ、許さない…!」

ピー「ぎゃあ…」


所員「鳥もいる……じゃあ、まさか」

博士「彼が残ったというのか……なんて事だ…」

女「彼の座標媒体は預けられてる……でも、もしかしたらゲートを使うかもしれないから」

副所長「……少し、待ちましょう。時限装置が起爆するまで、まだ数分あります」



109 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/31(金) 00:53:41.31 ID:EkFyACsqo


女「………」ギュッ

博士「それが彼の座標媒体か」

女「何が……」

博士「?」


『ははっ…恋人だとでも思ったか──?』


女「ふざけないでよ……」

博士「……女…」


女(…来てよ、早く……早くっ…)

女(起爆スイッチと転移装置……私を送ったらすぐに押せばいいはずでしょ…)

女(どうして……なんで来ないのよっ…)



110 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/31(金) 00:54:17.43 ID:EkFyACsqo


『身につけた転移装置のバッテリーも残ってる』


女(……まさか、あれも…嘘……)


『いつか俺の母親の墓前に──』


女(なんでそんな……死を覚悟したような事まで言う必要があったの…)


『──そのペンダントを返してくれ。…君が、その手で』


女「自分で返しに来なさいよっ…! 馬鹿ぁっ…!」



111 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/31(金) 00:55:33.25 ID:EkFyACsqo


……………
………



男「はあ……はあ……」ボタボタ…

男(……ちょうどいい、部屋への出入口に死体が折り重なって、簡単には入れまい)

男(起爆まで……あと三十秒…)

男(これなら今からゲートをくぐっても、奴らに時限装置の解除はできないはず……!)グッ


男(威嚇して……走るっ)ズガガガガガガッ


地球兵「うわっ! くそ……まだ手が出せん、隠れろっ!」


男(そうだ……隠れてろよ…)スクッ

男(よし、死体しか見えん……ゲートまでは10mも無い…いける!)ダッ



112 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/31(金) 00:58:32.85 ID:EkFyACsqo


男(……女、ちゃんとゲートくぐった先で待ってくれてるかな──)


…ズドンッ!


男(──え…)ブシュッ

男(なんで……死体が撃って…)ガクッ


中将「ガハハッ! まただ! またワシが月兵を仕留めたぞ!」ズルッ

男(死体を…盾に……)ズズズッ…


中将「突撃だ! 奴がいたという事は、施設の爆破はあるまい…!」

男「……くっ…」ドサッ

中将「はっ…ははっ! これで! 軍の最高ポストはワシの──」

男(せめて…貴様は……俺が…)ジャキッ


バンッ!


中将「…も……の………」ブシャッ……ガクッ

大尉「ち…中将殿っ!」

地球兵「だめだ…眉間を撃たれてます…」



113 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/31(金) 00:59:20.30 ID:EkFyACsqo


男(……女…)


地球兵「大尉! 何か装置が起動しています!」

大尉「何…っ!」


男(夢で…いいんだ……)


地球兵「じ、時限装置……! あと3秒っ…!」


男(この世界に……妹に…夢を──)



114 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/31(金) 01:00:16.09 ID:EkFyACsqo


……………
………



副所長「……女所長…もう、時限装置の起爆時間は10分以上も過ぎています」

女「………」

副所長「残念ですが……夜とはいえ、見つからないとは限りません」

女「もう…少しだけ」


博士「…女、彼が生きていればその座標媒体のところへ来るはずだ」

女「………」

博士「あの丘へ上がれば、彼の故郷が見えるかもしれん……とりあえず、あそこへ」


女「……丘…」フラッ

所員「女所長?」

女「ここにいて……あの丘には、私だけで行かせて」ザッ…ザッ…



115 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/31(金) 01:01:24.59 ID:EkFyACsqo


女(……まだ…)ザッ…

女(まだ、見上げない…)


『…地球が綺麗に見えるスポットとか、知ってる?』

『ああ、故郷にオススメの丘があるよ』


女(この丘の頂まで、空を見ない)

女(あと…少し……)ザッ…ザッ…


『そこで恋人と待ち合わせでも?』

『さあ』


女(ここが──)…ザッ


『それに向くような所ではあったけど』


……クルッ

女「……これが、月から見た…地球…」


『この資料にある姿とは少し違うのかもしれんが、青くて──』


女「…綺麗……」ポロッ



116 : ◆M7hSLIKnTI [saga]:2014/01/31(金) 01:03:56.01 ID:EkFyACsqo


女(…男さん)

女(私、必ず…月にも地球にも…少しでもあの自然を再現する、甦らせるから……)

女(……夢でもいい、夢なら…私が作る)


『できる事なら、それを……いや、何でもない』


女(男さんと一緒に……作るから)

女(だから、ひとつだけ…約束を守らない)

女(このペンダント、お母さんのところには返さないわ。私が持っててもいいでしょ…?)


『──言う事をきかない女だ』


女「出会った日……貴方が、そう言ったわ……」



【おわり】












──チリッ…ジジジッ


.
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テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

  1. 2014/01/31(金) 09:28:50|
  2. SF
  3. | コメント:2

釣りとロマンスの寄り道(原題/男「釣りロマンを求めて」幼馴染「離島編です」



SSの性格的に頂戴したレス等もほぼ全て掲載しています。
名前欄が青色表記のレスが本文です。



855 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/01(水) 02:20:53 ID:8xB.iR/. [3/9]


幼友「春の海ですなぁ…」

幼馴染「まだ寒いです」

男「2月のボート釣りですので、そりゃ寒いです」

幼友「お、アタリ…とーう!」

男「いい引きです、型が期待できるかもしれません」

幼馴染「あ…私もです、てーいっ!」

男「カワハギのアワセは難しいのに、エサをアサリの剥き身に替えてからは、いい調子で掛けています。二人とも随分、上手になりました」

幼友「おっけー、これはウマヅラハギですねー?」

幼馴染「やりました、マルハギです。肝も詰まってそうです」

男「これは今夜は鍋物と刺身で決定です。肝醤油に浸けて……うへへへっ」ジュルッ

幼友「堪りませんなぁ、きしししっ」ジュルルッ

幼馴染「二人とも、笑い方がエロ親父っぽくて嫌です」



856 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/01(水) 02:21:23 ID:8xB.iR/. [4/9]


男「では、もう充分釣れました。そろそろ帰港して、晩の支度をしましょう」キュルルルッ…ズドンッ…ドンッドンッドンッ…

幼友「いやっほーぅ、期待に胸躍るぜぃ」ポヨンポヨン

幼馴染「わざと揺らすな、目障りです」チッ

男「走ります。いつも通り、港が見えてきたら舳先が上がっている内に、生簀の水を抜いて下さい」ブロロロォォォッ

幼馴染「らじゃ!」ピシィッ

幼友「ぶらじゃ!」ピシィッ

男(今日は久しぶりに波が穏やかで良かったで……す……?)ブロロロ…ガスッ…ガスンッ!

幼友「何か、変な音しません?」

幼馴染(……はっ…!)



857 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/01(水) 02:22:01 ID:8xB.iR/. [5/9]


男「幼馴染、さっき燃料は携行缶から入れてくれていたと思うのですが……?」ガスンッ…ガスッ…

幼馴染「……重くて動かなくて、後で男に頼もうと思いました」

男「ほほう、それで」…プスンッ

幼友「あ、止まった」

幼馴染「…そのまま忘れちゃった!てへぺろ!」キャッ

男「キャラを変えてもどうにもなりません」

幼友「あーあ…早く入れちゃいましょ」

幼馴染「そ、そうです!入れれば済む話です!」

男「…それが済まないのです。古いディーゼル船は、ガス欠させるとエア抜き作業が必要です」ヤレヤレ…

幼馴染「じゃあ、手伝うので早くしましょう。寒いです」

男「工具も設備も無い状態では、無理です」



858 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/01(水) 02:22:39 ID:8xB.iR/. [6/9]


幼友「え、それって?」

男「お手上げです」

幼馴染「まさか、この海の上で…私達は遭難したのでしょうか」

幼友「そうなんですか…!?なんつって」

男「何で幼友ちゃん、余裕しゃくしゃくなんでしょう……一応、予備の2psエンジンを積んであります。けど、トランザム高さが合うかな…」ゴソゴソ

幼馴染「漂流してるー!」

幼友「ウィールソーン!」

男「使えなくは無いか……でもこの小さなエンジンで、元の港まで帰るのは無理です」キュルルッ…キュルルッ…バイイィィィンッ!

幼馴染「どうなってしまうのでしょう」

男「潮流に逆らう事さえ難しいので、どこか島に寄ってエア抜きしてもらいましょう」バババババ…

幼友「あ、あの島…ちっちゃいけど港がありますよ」

男「かなり小さいです、整備できるかな…まあ、次の島となると遠いので、行ってみます」バババババ…



859 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/01(水) 02:23:43 ID:8xB.iR/. [7/9]


……………
………


…島の港内


男「この辺に係留させてもらいましょう……よっと」クルクルッ…キュッ

幼馴染「いったん、船を降りていいでしょうか」

幼友「疲れたー」

男「まずは整備できるところを探さなければいけません、少しかかるでしょうから上がってきて下さい。ほら、手を…」スッ

幼馴染「はい」ギュッ

男「よいしょ…大丈夫ですか?」

幼馴染「平気です」ストンッ

男「じゃあ、幼友ちゃんも…はい、手を掴んで」スッ

幼友「う、だ…大丈夫ですよ?」ドキッ

男「落ちたら寒いです。いいから、掴んで下さい」ギュッ

幼友「あぅ…」ドキドキ

幼馴染「………」



860 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/01(水) 02:24:26 ID:8xB.iR/. [8/9]


少女「お兄ちゃんら、どうしたん…?」

幼馴染「ん…?女の子…」

幼友「この島の娘かな?私達、船が壊れちゃって困ってるんだ」

男「どこかエンジンを整備できるところ、知っているでしょうか」

少女「アタシん家、できるで?父さんが漁師しとるけん」

男「本当ですか、もちろん費用は払うので、お願いできるでしょうか」

少女「うん…でも、今は自分の船を塗り直しに本土の港に行っとるけん、おらん」

幼友「いつ戻ってくるの?」

少女「ついでに本土の市場の人達とかに挨拶して回る言うとったけん、明後日くらいじゃと思う…」

男「うーん…」



861 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/01(水) 02:25:05 ID:8xB.iR/. [9/9]


よし、寝よう


862 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/01(水) 02:37:22 ID:q5mqCS8o


よし!おやすみ!



863 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/01(水) 02:49:20 ID:OehJWmPk


>>861

え?新登場の少女と?

おまわりさーん



864 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/01(水) 18:59:36 ID:pR7.EGn6


あけおめー

きたいてーい



865 名前:バラン・ド・バーン[] 投稿日:2014/01/02(木) 17:39:45 ID:9u/Cqors


新作開始か^^

少女がゲスト留まりか、新たな幼馴染のライバルとなるのかも楽しみだw



867 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/03(金) 20:48:26 ID:ewG/ZkY6 [1/8]


男(明後日までに何とかなるとしたら、一応困りはしない…か)

幼馴染「少女ちゃん、歳は何歳なのでしょう」

少女「私、五年生なんよ」

幼友「そっか、可愛いねー。私、幼友っていうの」

男(ただ、待つ間の宿泊先とか…この島にあるでしょうか)

幼馴染「私は幼馴染、こっちの冴えない野郎は男といいます」

少女「私は少女、ウチに来てみる?お母さんおるよ」

幼友「じゃあ、お邪魔しよっかな」



868 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/03(金) 20:49:11 ID:ewG/ZkY6 [2/8]


男(でも、船を牽引してもらうのも高くつくしな…)

幼馴染「男、行きましょう」

幼友「置いてくよー」

男「え?どこへ?」

幼馴染「少女ちゃんの家です。どっちにしても待って、エンジンを直してもらわないといけないのでしょう?」

少女「冴えない野郎さん、はよおいでぇ」

男「ちょ、何その呼ばれ方」



869 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/03(金) 20:49:43 ID:ewG/ZkY6 [3/8]


……………
………


…少女の家


少女「母さーん、お客さん連れてきたでー」ガラガラッ

少女母「おかえりー?お客さんって、どうしたん?」

幼馴染「えと…お邪魔します」

幼友「いやー、船のエンジン壊れちゃって。この家で直せるって聞いたんですよねー」

少女母「ああ…それは困ったんねぇ、寒かったじゃろ?どうぞ上がってん」

幼馴染(若くて綺麗なお母さんです…)

幼友「お言葉に甘えてー」

少女「冴えない野郎も、早くー」

男「その呼び方やめてもらえないでしょうか」



870 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/03(金) 20:50:18 ID:ewG/ZkY6 [4/8]


………



少女母「そう……悪いけど、やっぱりウチの人が帰ってこんと修理はできんのよ」

男「そうですか…うーん、待つ間の宿をどうしましょうか…」

少女「ウチに泊まるとええよ!」

幼馴染「いいのでしょうか」

少女母「ウチは昔、民宿もやっとったから部屋は余っとるんよ。よかったらほんまにそうして?」

幼友「そんな……急にお邪魔して、そこまで甘えられないよー」ミカン ムキムキ…

幼馴染「そうです、厚かまし過ぎます」ヤレヤレ クツロギ クツロギ…

男「言葉と態度が一致していません」

少女母「あはは、本当に遠慮せんでええんよ。この娘も喜んどるし…ちょうど明後日なら気も紛れるかもしれんしね…」

少女「母さん!いらん事言わんで!」

幼馴染「……?」



871 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/03(金) 20:50:54 ID:ewG/ZkY6 [5/8]


幼友「じゃあ、お言葉に甘えきっちゃおうか?」

男「すみません、ご厄介になります」

少女母「うん、気にせんで?晩には海の幸振る舞うけんね!お酒は飲むん?」

幼友「いやー、ちょびっとしか飲めないですけどねー」ワクワク

男「ほんとほんと、可愛いもんです」ウキウキ

幼馴染「貴様らザルのくせに」

少女母「あはは…漁師の家には、お金は無くてもお酒はたっぷりあるもんよ?遠慮せずに飲んだらええからね!」

少女「あとで島、案内したげるけんね!」

幼馴染「お願いします」ニコッ

少女母「あんた、いいん?…もうちょっとしか時間無いんよ…?」

少女「母さんっ!ほんまに変な事言わんでよ!」

男「……?」



872 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:34:41 ID:ewG/ZkY6 [6/8]


………



幼友「ああ…コタツでだいぶ暖まったわー」ヌクヌク

幼馴染「眠たくなってきました」ウトウト…

少女「じゃあ、島を案内したげるっ!」

幼友「え?…えっと、もうちょいゆっくり…」

少女「……そうなん?」シュン…

幼馴染「何か、今がいい理由があるのでしょうか」

少女「え、えっと…そうじゃない…けど」チラッ

幼友(…そうみたいだね、時計をチラ見したもの)

少女「じゃあ…私、ちょっと遊んでくるけん…」

幼友「幼馴染ちゃん、まあいいんじゃない?今より後にしたら夕方が近くなっちゃうし…案内、してもらおうよ」

幼馴染「…そうですね、幼友がそう言うなら」

少女「!!」パアッ



873 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:55:09 ID:ewG/ZkY6 [7/8]


幼馴染「男、島を案内してもらいましょう」

男「あー、ええと…ちょっと俺はやる事があります」

幼友「美人の若奥さんとあんな事やこんな事をするんですか!?」

幼馴染「私という女がいるのに…不潔です!」

少女「冴えない野郎、フケツー!」

男「言うまでもなく違います。船に釣具などを出しっ放しなので、こちらの倉庫にしまわせてもらうだけです。二人が使った道具もあるので、なんなら手伝いますか」

幼友「残念だなー、少女ちゃんとの約束が無ければねー」ヒューゥ アブネェ アブネェ

幼馴染「手伝いたいのは山々ですが、幼い少女ちゃんを裏切るわけにはいかないので、やむを得ません…」ヨロシク ドーゾー

少女「じゃあ、行ってくるけん!」

男「はい、行ってらっしゃい」

幼友「片付けは頼むけん!」

男「はいはい…」チッ

幼馴染「実は船の足元、スノコの下にエサ零したけん!」

男「はいはい……えっ!?」



874 名前: ◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2014/01/03(金) 22:03:07 ID:ewG/ZkY6 [8/8]


ここまでっす、てーい



875 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/03(金) 22:11:01 ID:oPm6oNfQ




どうなる…



876 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/03(金) 22:13:40 ID:LrEXn4zI


乙です



877 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/03(金) 22:55:18 ID:ENHCanEA


幼馴染、地味に酷いww



878 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/04(土) 01:45:50 ID:RwnT96QI


少女側も男側も気になるwww



879 名前: ◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2014/01/04(土) 22:45:38 ID:FXuD9QV2


また同時進行でひとつ書き始めたので、ちょっとペース落ちるかも落ちないかも



880 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/05(日) 06:12:24 ID:x5oJ1mS6 [1/2]


スレタイは?



881 名前: ◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2014/01/05(日) 08:09:47 ID:4Ypjl3ts


社交辞令かもだけど、訊いてくれてありがと

スレタイ:俺と幼馴染と幼馴染

竜ほどこことジャンル違いではないと思うから、一応回答させて貰います



882 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/05(日) 09:47:24 ID:T3wxkzLM


あれもあんただったのか!
どっちも期待してる



883 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/05(日) 13:02:02 ID:x5oJ1mS6 [2/2]


把握、見てくる



884 名前: ◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 12:59:51 ID:7WbdB/Dk


ああ…またやってしまった…



885 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 16:27:06 ID:cXKqSUQ6


>>884
どうしました?



886 名前: ◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 16:37:11 ID:9J9Q7mBE


また他の方のSSに酉つけたままレスしてしまったんですわ
見られて困るレスじゃないけど、なんとなく恥ずかしい



887 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 16:58:24 ID:Jbcv06g2


>>886
お前をてーいしたいよ



888 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 17:15:50 ID:PJKFbJ1k


私は>>1にとーうし続ける



889 名前: ◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 17:23:22 ID:EwRBN4kU


もういっそ食べられたいわ



890 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/06(月) 23:33:28 ID:CLX.xAF.


大丈夫だよ、ちゃんと続くから



891 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/07(火) 09:33:54 ID:T6B2Dp42 [1/2]


>>890って酉レス先の1じゃね?



892 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/07(火) 11:15:09 ID:XlQxNMDQ


ごめん、あえてこっちで言ってみただけ。



893 名前: ◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2014/01/07(火) 11:26:29 ID:vGv2NgH. [1/2]


もしそうなら、わざわざ申し訳ない



894 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/07(火) 11:27:01 ID:vGv2NgH. [2/2]


……………
………



少女「ここがこの島でひとつだけの商店!」

幼馴染「おお、小さい」

幼友「タイムスリップ感ぱねぇ」

少女「よくお遣いに来るんよ!ちょびっとお菓子も置いとるけんね!」

幼馴染「もしかしてそのお菓子というのは、懐かし系駄菓子でしょうか」ドキドキ

少女「うーん……よく解らんけど、黒棒とか象さんマークのヨーグルトとか」

幼馴染「モロッコヨーグル!あああ……入りましょう!是非!今!」キラキラ

幼友「出たな、駄菓子マニア」

少女「でも二時で閉まってまた夕方に開くけん、今はお婆ちゃん昼寝しとると思うんよ」

幼馴染「くっ……焦らしプレイ……!」



895 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/07(火) 11:41:39 ID:EhTsnUGY


少女「それからここが、ひとつだけのレストラン!」

幼友「レストランというより、漁師さん向けの飲み屋だね」

少女「でもハンバーグとかオムライスとかスパゲッティとか食べさせてくれるんよ」

幼馴染「魚料理はみんな自分の家で食べるでしょうから、そういう需要があるのでしょうね」

幼友「なるほどねー」

少女「入る?」

幼馴染「もう時間が半端です。今日はお母さんが海の幸を振舞ってくれると言っていたので、お腹を空かせておきましょう」ニコッ

幼友「さっき駄菓子に目の眩んだ女が言う台詞じゃねえ……」



896 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/07(火) 11:47:28 ID:eoakVDhA


幼馴染「あそこは何でしょう……交番?」

少女「……うん」

幼友「男さんが見慣れない不審者扱いされたらいけないから、挨拶しとく?」

少女「だ、大丈夫!男さんは見た目もいい人っぽいけん!」

幼友「少女ちゃん、なんか慌ててない?」

少女「そんな事ないよ!は、早く次、行こう……」

幼馴染「ふっふっふ、お嬢ちゃん……オトコは見た目で判断しちゃいけねえぜ……?」

幼友「男さん、あれで結構おっぱい星人だもんねー」

少女「じゃあ…おっぱいの大きい幼友ちゃんが男さんの彼女さんなん?」

幼友「か…っ!ち、違うよ!彼女はこっちの幼馴染ちゃんだから!」アセアセッ

少女「なんか今度は幼友ちゃん、慌てとらん…?」キョトン

幼馴染「………」



897 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/07(火) 12:07:20 ID:vtz6ehUg [1/2]


少女ちゃんにも困ったものだ、幼友は俺の彼女だというのに



898 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/07(火) 12:39:58 ID:BbcBhF7Y [1/2]


少女「こっちこっちー!秘密のとこ、教えたげるけん!」

幼馴染「教えたら秘密じゃないような」

幼友「いいんだよ、仲間だもんね!」

少女「ねー!」

幼馴染「ちょ……これ、道じゃない……」ゴソゴソ

幼友「なんか獣道って感じだね……」ガサガサ

少女「この島にはイノシシも鹿もいないから大丈夫……えへへ、この道は私達が作ったんよ!」

幼馴染(私……たち?)

少女「ほら、もうすぐ……着いたよー!」

幼友「うわぁ……なんか不思議なところ、すごいねー」

幼馴染「周りが崖に囲まれた砂浜、一箇所だけ海に繋がって入り江になっています」

少女「いいじゃろ!海がちょっとくらい荒れても波が来んから、夏はここで泳ぐんよ!」



899 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/07(火) 12:41:10 ID:BbcBhF7Y [2/2]


幼馴染「これはいいところ……夏にまた来たいくらいです」

幼友「プライベートビーチだねー、道程は険しいけど」

少女「来て来て!絶対、夏休みに来てーね!約束じゃけん!」

幼馴染「じゃあここの事、男にも教えていいでしょうか」

幼友「それは夏に来た時にしよーよ、びっくりさせよう?」

少女「うん!そうしよう!それまでは4人だけの秘密じゃけんね!」

幼馴染「4人……?」

幼友「誰かもう一人、知ってる人がいるの?」

少女「…あっ……」

幼馴染「少女ちゃん、この島には他に子供は……?」

少女「一人……おるよ、まだ……」

幼友「……まだ?」



900 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/07(火) 17:02:36 ID:T6B2Dp42 [2/2]


>>897 かわいそうに・・・てーいしてもらえなかったな



901 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/07(火) 19:13:07 ID:YLdn5vOE [1/2]


……………
………


…港、係留桟橋


男(だいたい荷物は運び終えたから……)フゥ

男(あのはスノコの下のアミエビを流しとかなきゃ、臭くなるでしょうね……)シクシク

男(幼馴染め……!)ゴシゴシゴシゴシ

男(あのちっぱい娘め…!)バシャーッ

男(……そこも含めて、可愛いのですが!)マイッタネ チキショー!

男(やれやれ、こんなもんでしょう)

男(あとはスノコをたてかけて干して…)コトンッ パタンッ

男(水汲みバケツと借りたブラシを倉庫にしまえば、またコタツにありつけます)テクテク

男(ああ…手が冷たい)

男「……ん?」



902 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/07(火) 19:14:00 ID:YLdn5vOE [2/2]



少女母「ごめんねー、今は出かけとるんよ」

少年「そうですか……お邪魔しました」ガラガラ……ピシャン

男(……少女ちゃんと同い年くらいでしょうか)

少年「……?」

男「こんにちは」

少年「……こ、こんにちは。……誰…ですか?」

男「船が壊れてちょっとこの家にお邪魔させてもらっている、男といいます。……君は?」

少年「少年…です。その、少女の……」

男「ああ、少女ちゃんの友達ですか」

少年「……友達じゃない…かも」

男(どういう意味でしょう……)

少年「…すみません、さよなら」ダッ



903 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/07(火) 19:19:25 ID:Cw/p6vyk [1/5]


男「少年君」

少年「……?」ピタッ

男「釣りはしますか?」

少年「え…いや、あんまりした事は無いです」

男「そうですか。でも、どこか岸からでよく釣れるところを知りませんか?」

少年「島の大人達は、向こうの防波堤の先でよく釣ってます。渡船で来る釣り客も……」

男「一人で釣るのも寂しいものです。ちょっと付き合いませんか」

少年「でも……」

男「あの防波堤からなら、この家の玄関もよく見えます。少女ちゃんが帰れば判るでしょう」

少年「……ちょっと、家の親に言ってきます」

男「わかりました。少年君の分まで道具を用意しておくので、防波堤に来て下さい」

少年「はい」


…タッタッタッ


男(……家は…あの交番か。警察官の息子なんですね)



904 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/07(火) 19:20:29 ID:Cw/p6vyk [2/5]


………



男「簡単な浮き仕掛けなので、投げて待つだけです。撒き餌は俺がしますから、潮に流され過ぎたらまた投げ直して下さい」

少年「はい」

男「ラインを人差し指に掛けて、ベイルを起こして……どうぞ」

少年「え、えいっ」シュッ……ポチャッ

男「まずまずです、あとは浮きをよく見て下さい」

少年「………」ジーッ

男(……素直な良い子です)

少年「………」ジーッ

男(さて、俺は餌撒きついでにサビキでも……)

少年「………」チラッ

男(…やっぱり、少女ちゃんの家が気になるみたいです)



905 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/07(火) 19:21:15 ID:Cw/p6vyk [3/5]


男「少年君、少女ちゃんとは何かあったのでしょうか」

少年「………」

男「ケンカでも?」

少年「ケンカはしてません」

男「…でも、少年君は少女ちゃんに会いたそうです」

少年「………」

男「少女ちゃんは、たぶん少年君に会わないために俺の友達と一緒に出掛けたんだと思います」

少年「…そうですか」

男「何か、思い当たる理由が?」

少年「……僕が約束を破ったから」

男「約束…?」

少年「ずっと一緒に…友達でいるって──」



906 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/07(火) 19:21:51 ID:Cw/p6vyk [4/5]


……………
………


…入り江の砂浜


幼友「…そっか。その少年君、島から引越しちゃうんだね」

少女「……それを聞いた時、私…びっくりしすぎて、ついカッとなってしもうたん」

幼馴染「それでケンカを?」

少女「ケンカとは違う……怒ったのは私だけじゃもん。少年は黙って聞いとったから」

幼友「だったら、少女ちゃんがごめんなさいするだけで、仲直りできるんじゃないの?」

少女「仲直りしても、もう向こうは明後日には引越してしまうけん。それに──」


『──独りぼっちじゃった私にやっとできた友達じゃと思うたのに!』

『ずっと一緒じゃ言うたのにっ!』

『少年は裏切り者じゃ!』

『もう、この砂浜に来んでよっ──』


少女「──私…酷い事いっぱい言うたもん、きっと許してくれんよ」



907 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/07(火) 19:23:41 ID:Cw/p6vyk [5/5]


いったんここまでっす
今回、このスレ当初の雰囲気はどこへやらって感じですが許してーい



908 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/07(火) 21:35:21 ID:m.IrlOG.


>>907
問題なし!引き続きお願いします。

おつ!とーう!



909 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/07(火) 21:36:17 ID:vtz6ehUg [2/2]


てーいをしてもらう価値もないということか…ウツダシノウ



910 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 01:15:48 ID:1Ft1ViKo


いつものてーいじゃないか
ほんのり切ない風味

>>909
てーいの代わりに通報しといた俺まじ天使



911 名前:◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 10:03:17 ID:dCKI8fns [1/7]


幼馴染「……でも少女ちゃんがこの時間に島の案内をしようとしたのは、家にいたくなかったからでしょう?」

幼友「つまり、少年君が家に来るのが解ってたんじゃないかな?」

少女「………」コクン

幼馴染「少年君は少女ちゃんと仲直りしたいんじゃないでしょうか」

幼友「そうじゃなかったら、訪ねて来ないんじゃない?」

少女「……仲直りした方が、明後日…辛くなりそうじゃから」

幼馴染「少女ちゃん…」

少女「もう、ええんよ。引越しの話を聞いてからずっと考えて、また独りになる覚悟はできたけん」

幼友「本当にそれでいいの?」

少女「うん、夏にはまた幼馴染ちゃん達も来てくれるんでしょ?」

幼馴染「それは約束します」

少女「だったら、平気!…あの岩のとこ、行こう?お魚いっぱい見えるんよ!」

幼友「………」



912 名前:◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 10:04:17 ID:dCKI8fns [2/7]


……………
………


…交番の前


男「結局、少女ちゃんは帰ってきませんでしたね」

少年「すみません、五時には帰れって言われてたから……」

男「女の子を遅くまで連れ回すなんて、あとで俺の友達を叱っておきます」

少年「明日、また学校の後で家に行ってみます」

男「…学校は別々なのでしょうか」

少年「僕は私立の小学校へ通ってるから、渡る船の時間も違うんです」

男「そうですか……何か俺ができる事はありませんか?」

少年「…もし明日もなかなか会えなかったら、また防波堤で釣りをさせてくれますか?」

男「お安い御用です」



913 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/08(水) 10:04:48 ID:dCKI8fns [3/7]


少年父「……おや?」

少年「あ、父さん」

男「ああ、少年君のお父さんですか。初めまして、男といいます。少年君を釣りのお供にお借りしました」

少年父「初めまして、息子がお世話になりました」

男「……明後日、引越されるそうですね」

少年父「ええ、異動でね…息子には辛い想いをさせてしまいます」

男「お父さん、ちょっとお話できるでしょうか」

少年父「…よかったら上がって下さい。引越しは進めているので、何もありませんが──」



914 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/08(水) 10:05:24 ID:dCKI8fns [4/7]


……………
………


…少女の家


幼馴染「ん…?男からメッセージが来ました」

幼友「どこをほっつき歩いてるのかねー」

幼馴染「えっ……!? 男、今夜は別の家でお世話になる事になったそうです……」

幼友「まーた、すぐに釣り仲間作っちゃうんだからー」ヤレヤレ

少女母「あらー、せっかくお料理たくさんつくったのにねぇ」

幼馴染「大丈夫、責任をもって私が食べます」

幼友「そして私が飲みます」

少女母「ふふふ……幼友さんはイケるクチみたいじゃねぇ」

幼友「おや…その言いぶりは、少女母さんもだいぶ飲みますね?」キラーン

少女母「漁師の妻じゃからねぇ、負けりゃせんよ…?」キラキラーン

幼馴染「…幼友もすぐに飲み仲間作ります」ヤレヤレ



915 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/08(水) 10:06:13 ID:dCKI8fns [5/7]


………


…夕食後


少女「幼友さんは?」

幼馴染「まだ少女母さんと飲んでいます。呆れたものです」

少女「母さん、いつもなかなか女同士の話とかできんから、嬉しそうじゃったもん」

幼馴染「そうですね、島には他に若い夫婦といえば少年君の家くらい……あっ…」

少女「………」

幼馴染「少女ちゃん……」

少女「大丈夫、平気。…私も二人が泊まってくれて嬉しいけん!」

幼馴染「……ちょっと待っていて下さい」ガサゴソ

少女「?」



916 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/08(水) 10:06:48 ID:dCKI8fns [6/7]


幼馴染「はい!ポテトチップスにチョコ、プチシリーズ各種と夕方に買った駄菓子色々です!」

少女「わぁ、ぼっけぇある!」

幼馴染「冷蔵庫には何かジュースがありますか?」

少女「うん、たぶんあったよ!」

幼馴染「少女母さんが飲み続けているのですから、怒られはしないでしょう。今夜は私達も女同士のパジャマパーティーです」ニコッ

少女「やった!ジュース、とってくるね!」

…パタパタパタ

「コラー!ウチノ ナカデ ハシッタラ イケンヨー!」

「アッカンベーダ!ヨッパライノ クセニー!」

幼馴染(……少しは寂しさが紛れるといいのですが)

幼馴染(でも、本当は少年君と仲直りするのが一番です)

幼馴染(あの娘達二人も幼馴染み……悲しい結末には、したくありません──)



917 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/08(水) 10:09:02 ID:dCKI8fns [7/7]


このスレ内で完結できるだろうか…
もし入り切らなかったら、2スレ目たてさせて下さい



918 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 11:41:40 ID:Bcuwqi.A


1000までで離島編が完結したら2スレ目はないのか・・・?



919 名前: ◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2014/01/08(水) 12:29:30 ID:5ZyjuEto


言い方悪かった
その場合、2スレ目はまだ考えてないだけです



920 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/08(水) 19:28:32 ID:n38blphA [1/4]


………



少女「そんでね、運動会の時は私、リレーのアンカーじゃったんよ!」

幼馴染「それはすごいです、私は走るのは極めて苦手です」

少女「島の人達もたくさん観に来てくれて、楽しかったんじゃけん!」

幼馴染「……学校には友達、たくさんいるのですね」

少女「うん!……でも、放課後とか休みの日とか、ほとんど遊べんもん」

幼馴染「………」

少女「……その運動会の時、少年も来てくれたんよ。いっぱい応援してくれた…私、クラスの娘に冷やかされて恥ずかしかったけど、すごく嬉しかったん」

幼馴染「少女ちゃんは、少年君の事…好きなのでしょうか」

少女「……好き、じゃったよ」

幼馴染「本当に過去形なわけでは無いでしょう?」

少女「………」



921 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/08(水) 19:35:04 ID:n38blphA [2/4]


幼馴染「私と男も、小さな頃からの幼馴染みです。…離れる事なんか、考えた事もありませんでした」

少女「幼馴染ちゃんも…」

幼馴染「やっぱり、特別な存在です。もし離ればなれになるとしても、そんなに簡単に割り切れる想いではないと思います」

少女「でも…!遠距離レンアイなんて、大人でも続かないって……」

幼馴染「学校の友達が、そう言ったのですか?」

少女「………」コクン

幼馴染「少女ちゃんと少年君は、いつからの友達なのでしょうか」

少女「えと、一年生…じゃったと思う」

幼馴染「じゃあちょうど学校の友達と同じくらいのお付き合い。…明日、そのお友達に訊いてみるといいです」



922 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/08(水) 19:35:50 ID:n38blphA [3/4]


少女「何を…?」

幼馴染「『もしどっちかが転校したら友達じゃなくなるの?』って、そのお友達が何て答えるか……本当の友達なら、きっとこう言います」

少女「………」

幼馴染「『離れても、ずっと友達だよ』って」

少女「……っ…!」ジワッ

幼馴染「少年君とも、ずっと友達のはずです。ましてや少女ちゃんがきちんと自分の想いを伝えれば、もっと二人の繋がりは強くなるでしょう…?」

少女「幼馴染…ちゃん…」グスッ

幼馴染「まだ、少年君に『好き』とは伝えていないのでしょう?」

少女「うん……」グスンッ

幼馴染「だったら、言うべきです」

少女「………」ポロポロ



923 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/08(水) 19:36:28 ID:n38blphA [4/4]


少女「私、言う……明後日、最後の日に…告白する」グスッ

幼馴染「…明日じゃないのですか?」

少女「うん、明日は私…また今日の入り江に行く」

幼馴染「……?」

少女「二人であの砂浜に埋めたん…」

幼馴染「埋めた…?」

少女「タイムカプセル…小さいけど、三年生の時に埋めた」

幼馴染「いつ開ける予定のカプセルだったのでしょう?」

少女「いつ…とは決めてないし、中身を少年は知らんの。私がいつか告白する決心がついた時に一緒に掘り出すつもりじゃったん」

幼馴染「それなら二人で…」

少女「ううん、すぐには見つからんと思うけん。明日見つけといて、明後日に二人で開けられたら…」

幼馴染「………」

少女「幼馴染ちゃん、手伝ってくれる…?」

幼馴染「…もちろんです」



924 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/11(土) 05:45:17 ID:K4aYrJZk


支援



926 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/11(土) 18:23:21 ID:GdoJOUtk


淡々と投下を待っている



927 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/12(日) 11:34:23 ID:nYAe54ag [1/4]


……………
………


…翌日、昼前


男(さて…午後にはまた少年君と会う事になるでしょうが、お昼はどう過ごしましょう)

男(ここで食事だけ頂きに少女ちゃんの家に行くのも気がひけます)

男(勝手な事をしたので、なんとなく二人に怒られそうでもあるし…)

男(でも、お腹空いたなぁ)

男(ん…?何か食べるものがありそうな店…)

男(漁師さん向けの居酒屋でしょうか……でも昼もやってるみたいだな)

男(何か、食べるか……)



928 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/12(日) 11:35:00 ID:nYAe54ag [2/4]


男「こんにちは…」ガラガラッ

幼馴染「はい、こんにちは」モグモグ

幼友「いらっしゃいませ」ズズズーッ

男「………」ガラガラ…ピシャッ

幼友「ちょ、なぜ帰る」

男「いや、なんとなく」

幼馴染「さては昨夜、女性の家に厄介になったとか……」フルフルフル

男「待てまて」

幼友「幼馴染ちゃん、私は味方だからっ!こんな浮気男、早く忘れようっ!?」

男「浮気、してないです」

幼馴染「いやっ!他の女を悦ばせた手で私に触れないでっ!」

男「悦ばせてないです」

幼友「はっ…!まさか、オトコを悦ばせた…!?」

男「キレるぞ」



929 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/12(日) 11:35:35 ID:nYAe54ag [3/4]


………



幼馴染「そうですか、少年君に会ったのですね…」

幼友「なんとかしてあげたいよねー」

男「しかしそちらの話を聞くに、少女ちゃんは今日も会う気は無さそうです」

幼友「告白の決心がついた時に掘り出すつもりだった…かぁ」

男「あの様子なら、少年君も少女ちゃんを想っているのは間違いないと思うのですが」

幼馴染「その点を聞き出してはいないのでしょうか」

男「フッ…オトコってのはテメエの色恋沙汰を気安く口に出し」
幼友「だめだよ。このヒトが幼馴染ちゃんに告白するのに何年かけたと思ってんの」

幼馴染「というより、告白すら釣りのついで…という感じでした」

幼友「オトコなんて恋に関しては鈍感で奥手で、女より女々しいもんよ?」

幼馴染「同感です」

男「はぅあ」



931 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/12(日) 11:39:45 ID:puqDiUQg


支援てーい!



932 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/12(日) 12:32:38 ID:cI3QmZWI


更新がなくて人がいないだけだから!!!
飽きたわけじゃないから!!!
信じて!!!!!お願い!!!!!!



933 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/12(日) 12:57:39 ID:GDCGLVGw


できれば時間少したってもいいから書き貯めて一気に投下してほしい
話が忘れてきちゃう



934 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/12(日) 13:14:11 ID:va7XS/PA


飽きたわけじゃないから大丈夫
週間連載の作家って訳じゃないんだからそう急かさないよ



935 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/12(日) 15:02:05 ID:lO/p71WQ


スレ消費したくないから書き込まないだけなのさっ



936 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/12(日) 16:16:37 ID:MX8qI/rA


>>935
コノイケンニはげどう! おつ!楽しませて貰ってる



937 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/12(日) 19:21:14 ID:q33ejs.I


900超えるとてーいし辛いだけなんです、信じてください!



938 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/13(月) 05:04:24 ID:TaSNLPiw


逆に考えるんだ!てーいしまくって2スレ目にいけばまた長い間てーいできるんだぞ?



939 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/13(月) 05:08:15 ID:5ypkmjXM


>>938
てーいは用法・用量を守って正しくお使い下さい



940 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/13(月) 23:38:43 ID:.WGtoF.A


>>939
半分以上優しさで出来てるしな



941 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/14(火) 00:19:27 ID:r18LXHT. [1/2]


このあと滅茶苦茶てーいした



942 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/14(火) 12:49:11 ID:0orFeGTs [1/17]


お前らの優しさ、しかと受け取った
まだ最後まで書き溜められてはないけど、投下します



943 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/14(火) 12:49:55 ID:0orFeGTs [2/17]


男「いっそ、今日その入り江に少女ちゃんが行っているところへ、俺が少年君を連れていったらどうでしょうか」

幼馴染「少女ちゃんはカプセルを見つけてから会いたいようです」

幼友「いきなり少年君が目の前に現れたら、素直になれるわけないよ」

男「そんなものでしょうか……」

幼馴染「まったく、本当に女心の解らないヤローです」

男「男心的には面倒臭い限りです、会えば一発解決な気がするのですが」

幼友「やれやれ」フゥ

幼馴染「これだからオトコは」ハァ

男(船、直ったら置いて帰ろうかな……)



944 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/14(火) 12:50:49 ID:0orFeGTs [3/17]


……………
………


…午後、三時頃


男(結局、二人は少女ちゃんと一緒に入り江へ行ってしまいました)

男(たぶん次の船で少年君が帰ってくるはず)

男(釣りの準備でもするか……)

男(いつ少女ちゃんが家に帰ってくるか判らないんだし)

男(いつでもやめられる、ルアー釣りでいいかな)



945 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/14(火) 12:51:25 ID:0orFeGTs [4/17]


………



少年「男さん、こんにちは」

男「お帰りなさい。今日も少女ちゃんは出かけています」

少年「……そうですか」

男「まあまあ…気を落とさずに、また釣りでもしながら待ちましょう」

少年「はい」



946 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/14(火) 12:51:59 ID:0orFeGTs [5/17]


男「底を探るように、トントン…と手前に引いてきて下さい」

少年「こうかな……えいっ」ピシュッ

男「着底を待って、糸フケをとって……どうぞ」

少年「………」チョンチョン

男(砂底だけど、結構沈み岩や藻場が見えたから多分……)

少年「…わっ!?…な、なんか引いてる!」アタフタ

男「一気に引き上げて下さい」

少年「…釣れたー!」ピチピチ

男「それはアイナメ。30cmはありませんが、岸から釣る分には充分な型です」

少年「すごい、楽しい」

男(………)

少年「えいっ!」ビシッ



947 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/14(火) 12:52:47 ID:0orFeGTs [6/17]


男「少年君は島に住んでいるのに、あまり釣りなどはしなかったのですね」

少年「うん……勉強とか頑張らないと、学校でついていけなくなるから」

男「やはり小学校でも私立校、結構な競争があるのでしょう」

少年「……うん」

男「俺には自慢の弟がいます。同じように私立小学校に通い、今は県外の中高一貫校で高校生です」

少年「そうなんですか」

男「勉強に励む弟を尻目に、俺は遊んでばかりいました。…悪い事をしたと思っています」

少年「………」

男「弟も……そして少年君も、本当はもっと遊びたかったんじゃないですか?」

少年「それは…そうだけど、でもいつかこうして引っ越す事になるのも、解ってたから」

男「あんまり島の人達と仲良くなったら、別れる時が辛くなる……と?」

少年「……はい」



948 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/14(火) 12:53:38 ID:0orFeGTs [7/17]


男「でも少女ちゃんと離れる事だけは、やっぱり辛そうです」

少年「そんな事ないです!…そんな事」アセッ

男「少年君、友達同士で好きな娘の事を話すのは恥ずかしいでしょうが、俺は大人です」

少年「………」

男「その位の歳の子に好きな異性がいるのは、ごく自然な事だと思います」

少年「…はい」

男「俺も少年君よりもっと小さな頃から、ずっと好きな娘がいます」

少年「今も?」

男「……幸いにも、想い通ずる事ができました」

少年「………」

男「その関係になるためには、やはり気持ちを伝える必要があります」


『──告白すら釣りのついで…という感じでした』


男「…ちなみにそれは、ちゃんと改まった形でしておかないと後々悪く言われます」ボリボリ…



949 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/14(火) 12:54:08 ID:0orFeGTs [8/17]


男「と、とにかく…離ればなれになる前に気持ちを伝えておかないと、きっと後悔すると思います」

少年「後悔…ですか」

男「気持ちが通じ合ってさえいれば、きっと距離には勝てるはずです」

少年「……だけど、会えないんじゃ…」

男「本当は、俺の友達から口止めされていましたが……『秘密の入り江』…で、解りますか?」

少年「!!」

男「今、少女ちゃんは俺の友達と一緒に、そこにいるはずです」

少年「…そこは……」


『少年は裏切り者じゃ!』

『もう、この砂浜に来んでよっ──』


少年「……もう、行けないんだ」ギュッ



950 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/14(火) 12:54:40 ID:0orFeGTs [9/17]


男「面倒な事だと思いませんか」フゥ…

少年「何がですか」

男「オトコには、やっぱり女心は解りません。『当って砕けろ』が、一番明快で良いと思います」

少年「………」

男「ましてもう時間が無いなら、なおさら。手段も結果も明快が一番じゃないでしょうか」

少年「…はい」

男「小学生に言う事じゃないかもしれません…が、オトコなら」

少年「オトコ…なら?」

男「『そのうち迎えに来るから、信じて待ってろ』くらい言えばいいと思います」

少年「俺が…少女を迎えに…」

男「そうです、他の誰にもさせたくはないでしょう?」ニヤッ

少年(他の…誰かが、少女を迎えに……それは)ドキッ

男「だったら」

少年「そんな事…させない。僕……入り江に行きます!」



951 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/14(火) 12:55:10 ID:0orFeGTs [10/17]


……………
………


…入り江の砂浜


少女「無い…!確か、この岩の裏に……」ゴソゴソ

幼馴染「まだまだ日暮れまでは時間があります。がんばって探しましょう」

幼友「どんなカプセルだったの?」

少女「ガチャガチャのカプセルに、色を塗っとったんよ…確か、ピンク色」

幼馴染「…何を入れていたのでしょう?」

少女「……貝殻」

幼友「貝殻?何か特別な貝殻なの?」

少女「ううん、この砂浜で見つけたちょっと大きな二枚貝の貝殻なんよ」



952 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/14(火) 12:55:47 ID:0orFeGTs [11/17]


幼馴染「これは……ピンクの陶器のかけらですか」

幼友「うわ、ピンクのカラーボール出てきた。すっごい期待したのに、馬鹿にされた気分…」

少女「………」ゴソゴソ


『少女、何を埋めるの?』

『これ!カプセル!』

『中身が判らないよ……何が入ってるの』

『内緒!開ける時のお楽しみなんじゃけん、勝手に掘ったらいけんのよ!?』

『それじゃ一緒に埋める意味、無いんじゃ……』

『ううん、あるんよ。ずっとそうじゃったっていう証拠なんじゃから』

『ますます解らないけど、まあいいや』

『少年は三年生の時にカプセルを埋めたって事だけ、忘れたらいけんのんじゃけんね!』


少女(…無いんかな……もうダメなんかな…)ゴソゴソ

幼馴染「……ん?これ、ほとんどピンク色が剥げてますが…ガチャガチャのカプセルっぽいような」



953 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/14(火) 12:56:21 ID:0orFeGTs [12/17]


少女「え……!」

幼友「本当だ!ちょっとだけピンクの塗料、残ってる!」

幼馴染「……ただ」

少女「開いてる……中身は!?」

幼友「二枚貝の貝殻……これじゃない?」

幼馴染「あ、うっすら『少女』って書いてあります!」

少女「嘘……片方しかない……!」

幼友「もう片割れもあったんだ?」

少女「…繋がったままじゃったんよ。それで片方に私の名前、もう片方に少年の名前をマーカーで書いとったん……」フルフル…

幼馴染「ち、近くにあるはずです!探しましょう!」

幼友「らじゃー!」

少女(願掛けじゃったのに……告白する時、『あの時からずっと』好きじゃったって伝えるつもりじゃったのに…!)



954 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/14(火) 12:56:57 ID:0orFeGTs [13/17]


幼馴染「おかしいです、近くにあるはずなのに……」ゴソゴソ

幼友「無いなあ…似たような貝殻も無いよ」ホリホリ

少女「………」ザクザク

幼馴染「そ、そうです!昨夜の少女母さんの料理にハマグリが!」

幼友「それじゃダメでしょ」

少女「………」ザクザク

幼馴染「少年君が中身を知らないなら、その一枚に二人共の名前を書くとか!」

幼友「幼馴染ちゃん、落ち着いて」

少女「ありがとう……もう、いいん…」

幼馴染「少女ちゃん…」

少女(やっぱり、暗示されとったんよ。離ればなれになるって…)



…ガサッ……ザッ!

少年「…少女!」



955 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/14(火) 12:57:36 ID:0orFeGTs [14/17]


少女「嘘……少年…!」ドキッ

幼友「え!この子が少年君…!」

男「…そうです、よっこらしょ」ガサゴソ…フー ヤレヤレ

幼馴染「男!連れてきてはだめだと…!」

男「ええい、しゃらくせえ。白黒はっきりさせりゃいいんです」

少年「ごめん…来ちゃだめだって言われたけど…僕、どうしても」

少女(……来て…くれたん…)

少年「お、男さんに言われたんだ!気持ちを伝えなきゃだめだって…!」ドキドキ

少女「気持ち…?」



少年「僕、少女の事…好きだから…!」

少女「……少年…!」



956 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/14(火) 12:58:06 ID:0orFeGTs [15/17]


幼友(えんだあああああぁぁぁぁぁ!)

幼馴染(いやああああぁぁぁぁぁ!)


少年「『離ればなれ』にはなっちゃうけど……」

少女「!!」ズキン…


幼馴染(そのキーワードは…!)ギャーー

幼友(今はマズイってーーー!)アワワワ…

男「何をあたふたしているのでしょう?」


少女「……そう、なんよね」ボソッ

少女(気持ちは嬉しい…けど、やっぱり貝殻が暗示する通りにしか……)

幼馴染「しょ、少女ちゃん…」

少女「少年、ごめんね……でも私達が会えんようになる事は、もう決まっとったみたいじゃけん!」ニコッ

少年「え……」

少女「じゃから、元気でね!…明日は寂しくなるけん、見送りにはいかんから!」



957 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/14(火) 12:59:08 ID:0orFeGTs [16/17]


少女「幼馴染ちゃん、幼友ちゃん!家、帰っとくけん!」

幼友「少女ちゃん!待って…!」

少年「少…女……」

幼馴染「……男、タイミングが悪すぎます」

男「……おや?」

幼友「なぜ連れてきたし!」

男「ビシッと告れば上手くいかない訳が無いと思って…」

幼馴染「はぁ…少年君、悪いのは男です。あとでしっかり、てーいしておきます」

男「ひっでえ」

幼友「そうそう、私の胸で慰めてあげよう!」

少年「…いいんです。男さんのおかげで、すっきりはしました」

男「少年君…」

少年「ありがとうございました。自分の荷物まとめるので、帰ります」

幼馴染(…何とかしてあげられないのでしょうか)



958 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/14(火) 13:00:13 ID:0orFeGTs [17/17]


ここまで

どっちにせよ、1000までに終わりそうにはないです。次スレ覚悟



959 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/14(火) 14:31:57 ID:8FXVLEyE [1/2]


それは早いとこ埋めて次スレに行きたいという願望か?
てーいしていいのか?



960 名前: ◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2014/01/14(火) 14:38:59 ID:ho2o7IF.


ちょっと待って
今、書き溜めしてるけど、やっぱもしかしたらスレ内で離島編完結できるかも



961 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/14(火) 16:30:28 ID:NFxfpb4Q


>> 960
乙です
次スレでいいがな。
次スレ立てて、のんびり長くやってや~



962 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/14(火) 19:52:31 ID:IaPn0f9w [1/18]


……………
………


…その夜、少女の家


少女母「ウチの人から連絡があって、明日の朝イチには帰ってくるって言うとったけんね」

男「すみません、たかがエア抜きくらいの事で二日もお世話になってしまって」

少女母「いいんよー! 今夜は飲み手が増えるから、嬉しいわ!」

男「幼友ちゃん、少女母さんはそんなに飲むのでしょうか」ヒソヒソ

幼友「バケモノ級だよ……」ボソボソ

少女母「さあ、乾杯しましょ! 瓶、持った?」

男「そこは瓶じゃなくグラスのような気が」

幼友「本当に一升瓶が一人一本置いてあるし」

少女「………」モグモグ

幼馴染(少女ちゃん…)



963 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/14(火) 19:54:02 ID:IaPn0f9w [2/18]


………



幼馴染「少女ちゃん、もう部屋にいたのですか」

少女「幼馴染ちゃん…」

幼馴染「今夜もパジャマパーティー、しますか?」

少女「ううん……大丈夫」

幼馴染「明日、本当に見送りはしないつもりですか…?」

少女「うん…たぶん」

幼馴染「…それで後悔はしない?」

少女「………」

幼馴染「少年君は、勇気を出して気持ちを伝えてくれました」

少女「………」

幼馴染「少女ちゃんは……たしかに貝殻の願掛けには破れたけれど、まだ言葉にはしていません」



964 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/14(火) 19:54:53 ID:IaPn0f9w [3/18]


少女「でも、伝えてもどうせ……」

幼馴染「離ればなれになったからといって、繋がりが断ち切られるわけでは無いのでは?」

少女「あと一年で中学生じゃもん、すぐに好きな娘とか…できるよ」

幼馴染「別々の学校なのは、今も同じ事でしょう」

少女「それは……そうじゃけど」

幼馴染「私立の小学校にも同じように女の子はいるはず。それでも少年君は少女ちゃんを好きになりました」

少女「………」

幼馴染「昨日も言いましたが…友達も、好きな人も『離れてもずっと変わらない』気持ちというのはあると思います」

少女「でも…期待し続けて、やっぱりダメじゃったら……」

幼馴染「……ここから先は、少女ちゃんが自分で決める事です」

少女「…うん」

幼馴染「もしも明日、もう一度貝殻を探してみるつもりなら手伝います。どうせ船が直るまでは暇ですので」

少女「幼馴染ちゃん……」

幼馴染「では…おやすみ……なさい……」ZZZzzz…



965 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/14(火) 19:55:50 ID:IaPn0f9w [4/18]


……………
………


…翌朝、港


男「はいはい、次…渡しますよー」ヨッコラショ…ット

少年父「すみません、荷物積み込みの手伝いまでさせてしまって」

男「いえいえ。今、少女父さんが船を整備してくれているので、どうせ暇です」

少年「父さん、この箱は?」

少年父「ああ…それは軽いから、一番上だな」

男(少女ちゃんも幼馴染達も、朝の内に消えてしまいました…)

男(またあの砂浜に行っているのでしょうか)



966 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/14(火) 19:56:29 ID:IaPn0f9w [5/18]


……………
………


…入り江の砂浜


幼友「やっぱり、無いね…」

幼馴染「もうそろそろ、少年君の家で引越しにチャーターした渡船が出る時間です」

少女「……ダメ…だったなぁ」シュン…

幼友「もう貝殻無しでも、告白しちゃえばいいじゃん! 少年君が少女ちゃんを好きなのは判ってるんだから!」

幼馴染「幼友……」

幼友「伝えない方が、絶対に後悔するって!」フンス

幼馴染「…もちろん、幼友の言う通りだと思います。でも私は少女ちゃんの気持ちも、ちょっと解る気がします」

少女「……?」



967 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/14(火) 19:57:07 ID:IaPn0f9w [6/18]


幼馴染「私と男もそうですが、幼馴染みという関係は何となく普通の男女とは違うように思っていました」

幼友「ノロケる気?」

幼馴染「お互いの気持ちも大事です。でもその特別な立ち位置は、運命的に神様がくれたもののような気がして」

幼友「…くっ……」

少女(綺麗にスルーした…)

幼馴染「少年君と少女ちゃんは産まれた時から近所というわけでは無いのかもしれませんが、物心ついた頃から傍にいるのが当たり前…」

幼友「………」ズキン

幼馴染「だからこそ、お互い好きでも確証が無い……なかなか特別になれなかった気がします」

少女「…うん」

幼友(……違う…)

幼馴染「誰かに、何かにその特別な絆を証明して欲しい……少女ちゃんにとっては、それが貝殻の願掛けだったのでしょう?」

少女「そう…かもしれん…」

幼友(……違うよ…)



968 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/14(火) 19:58:03 ID:IaPn0f9w [7/18]


幼馴染「だから、それを失くしたから自信も無くす…その気持ちは──」
幼友「──ちょっと、待った」


少女「幼友ちゃん…?」

幼友「異議あり…だよ、幼馴染ちゃん」

幼馴染「幼友……何を言う気でしょう」

幼友「確かにね、小さい頃…産まれた頃から一緒っていうのは、特別な存在かもしれない」

少女(え…幼友ちゃん、怒っとる…?)

幼友「その事を誰かに証明して欲しい?…甘ったれた事、言わないでくれる?」フンッ

幼馴染「…喧嘩を売っていますか」ジロッ

幼友「買う?…高くつくけど」キッ

少女「ま、待って…なんで喧嘩になるん…!? やめてっ!」



969 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/14(火) 19:59:34 ID:IaPn0f9w [8/18]


幼友「『好き』なんて気持ちは、誰かに証明してもらうものなんかじゃないの! 傍にいるのが当たり前? そんなの境遇に甘えて尻込みしてるだけの言い訳でしょ!?」

幼馴染「……う…」

幼友「『告白が釣りのついで』だった…!? それでも向こうから言ってくれただけマシだったんじゃないのっ! どうせそれが無ければ今でもオサナナジミの立場に甘えてたんでしょ!?」

少女「お、幼友ちゃんっ…」

幼友「少女ちゃんだって、そう! せっかく少年君から告白してくれたのに、離ればなれになるからって答える事もしない…!別に少年君だって好きで引っ越すんじゃないわよ!」

幼馴染「幼友っ!今、落ち込んでる少女ちゃんを叱ったって…!」

幼友「ううん、叱るわ! だってまだ間に合うかもしれないんだもん! 今から港に走れば、少女ちゃんは告白できるかもしれないんだよ!?」

少女「……っ…」ビクッ

幼友「離れて行っちゃったら、それももうできない……いつか再会しても、そのヒトの傍に誰かがいたら気持ちを伝える事も許されないの…」ポロッ…

幼馴染(……幼友…泣いて…)

幼友「だからっ! まだ間に合う内に、言わなきゃいけないんだよ!」

少女「まだ…間に合う…」



幼友「好きなヒトに…『好き』って言えないのが、一番…辛いんだからっ……」グスッ…



970 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/14(火) 20:00:26 ID:IaPn0f9w [9/18]


少女「幼友ちゃん…ごめん、ごめんな…! 私、港に行くっ!」グスッ

幼馴染「……少女ちゃん!」

幼友「コレ……さっき、見つけた」スッ

少女「新しい…貝殻、まだ二枚繋がっとる…」

幼友「名前なんか、書かなくてもいいよ。一対になった貝殻は二つと無いんだから」

幼馴染「…行くなら、早くしましょう! 時間が…!」

少女「うんっ…!」



971 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/14(火) 20:02:27 ID:IaPn0f9w [10/18]


……………
………


…港、桟橋


少女母「ごめんね…少年君。結局あの娘、来なかったねぇ」

少年母「大丈夫、また手紙を書かせますから…」

男「少年君、また釣りに誘います。その時には、この島にも…」

少年「はい…楽しみにしてます」

少年父「男さん、息子がお世話になりました。じゃあ、残念だが船頭さんを待たせるのも悪い……そろそろ乗ろう」

少年「………」チラッ

男「……少年君」

少年(さよなら……少女…)


…ブルンッ、ドッドッドッ……ブロロロロッ!


少年「男さん! さよなら…!」

男「元気で…! また会いましょう!」



972 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/14(火) 20:03:01 ID:IaPn0f9w [11/18]


………



幼馴染「もう船が…!」

幼友「男さんっ! 船、停めてっ!」

少女「少年…っ! 待って…待ってっ!」

幼馴染「だめです! 船のエンジン音で聞こえてない…!」

幼友「くっそ…もうすぐそこなのに…!」

少女「もうダメだよ…桟橋から離れとる…」グスンッ

幼友「幼馴染ちゃん! ダメもとで叫ぶよっ!」

幼馴染「男なら…! 気付くはずっ!」スウゥゥッ

幼友「せーの……!」スウゥゥッ



幼馴染「てーーーーーーーいっ!!!」
幼友「とーーーーーーーうっ!!!」



973 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/14(火) 20:04:02 ID:IaPn0f9w [12/18]


男(……ん…?)

少年「…さよーならーっ!」

男「ま…待って! ストーップ!! 少年君っ…船頭さん止めて!」

少年「え……!?」


…ブロロロロッ…ドッドッドッ…


男「船頭さん!少しだけ待ってあげて下さい!」

船頭「しゃあねえな……もっかい桟橋に着けるかい?」

少年「お願いします!」



974 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/14(火) 20:05:33 ID:IaPn0f9w [13/18]


幼馴染「男っ…! 聞こえましたか…!」ハアハア

幼友「ぎりぎり…せええぇぇふ…!」ゼエゼエ

少女「少年っ!」

少年「少女…来てくれたんだ」

少女「ごめんっ…私、ちゃんと返事もせんで……私、待っとるから! 少年の事、す…好きじゃから!」ドキドキ

少年「うん…! 必ず会いにくるから!」ドキドキ

少女「これ、カプセルの中身……とは違うんじゃけど」スッ

少年「二枚貝…?」

少女「ちぎるよ……えいっ」ブチッ

少年「……片方、くれるの?」

少女「二枚貝の片割れは、他のどの貝とも合わんから…! 私、片方をずっと持っとくけん!」グスン…

少年「うん…ありがとう。僕もずっと持ってる、絶対に」ニコッ



975 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/14(火) 20:06:36 ID:IaPn0f9w [14/18]


男「…最初の夜、少年君の家に泊まって少年父さんから詳しく聞きました」

幼友「何を?」

男「少年君の引っ越す先……○△市だそうです」

幼馴染「私達の地元の隣りですか」

男「それに引越し先の最寄駅から、この島への連絡船が出ている港までは電車で僅か30分です」

少年父「…少年、お前ももう大きくなった。一人でちょっと旅するくらい、できないオトコに育てた覚えはない」

少年「え……」

男「小学生の二人にとっては途方も無い距離に思えた事でしょう……でも、引越し先とこの島は決して遠くはないという事です」

幼友「毎日学校に通ってるんだもん、少女ちゃんも本土の港へ出るのは簡単だよね?」

少女「……うんっ!」

少女母「週末にはウチに泊まりに来たっていいけんね!」

少年「はいっ!」



976 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/14(火) 20:07:37 ID:IaPn0f9w [15/18]


男「それに……俺もせっかく島に来ておいて、あまり魚釣りをする暇がありませんでしたので」

幼馴染「私達に至っては、全くしていません」

男「少年君と少女ちゃんに、島のポイントを案内してもらいたいものです。…構いませんか?」

少年「テスト期間じゃなかったら、いつでも!」ニコッ

少女「うんっ! それも待っとる!」フンスフンス

男「それぞれのご両親も、構わないでしょうか」

少年父「頼みたいくらいですよ」

少女母「その後、ウチに飲みに来るんならええよ!」キラーン

幼友「次は負けませんからっ!」キラキラーン

男「さあ…そろそろ船頭さんが、待ちくたびれて……」

幼友「船頭さーん?」



船頭「うおおぉぉうぅぅぅ……餓鬼が、泣かせやがってよおおぉぉ…」エグッ…ヒック…ボロボロ



977 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/14(火) 20:08:18 ID:IaPn0f9w [16/18]


……………
………


…昼過ぎ、島を離れた海上


ブロロロロロ……


男「ひゃっほーい、エンジン快調!」

幼友「たまたま寄った島で、なんか色々あったねー」

男「全くです、良い出会いに恵まれました」

幼馴染「私がガス欠させたおかげです」エッヘン

幼友「原因はそうだけど、威張る事じゃないね」

男「まあ、事情と三日間の話をしたら少女父さんも無料で良いと言ってくれたので、よしとしましょう……」チッ



978 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/14(火) 20:09:11 ID:IaPn0f9w [17/18]


幼馴染「………」

幼友「…どしたの?」

幼馴染「幼友、もう怒っていませんか…?」

幼友「当ったり前じゃん……ってか、言い過ぎてごめんね?」

幼馴染「ううん、幼友の言う通りだったと思っています」

幼友「もう、いいじゃない? 忘れたから、忘れてー」

幼馴染「……はい」クスッ

幼馴染(でも、きっと忘れられません)



『好きなヒトに…好きって言えないのが、一番…辛いんだからっ……』



幼馴染(あの時、誰を想って泣いたのか)

幼馴染(いつか、ずっと先の話でいいから…教えて下さい、幼友…)



【おしまい】



979 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/14(火) 20:11:08 ID:IaPn0f9w [18/18]


ちょっと削ってスレ内完結余裕でした

では、またてーいしましょう



980 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/14(火) 20:17:45 ID:WnOq/N.w


乙なのです



981 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/14(火) 20:28:40 ID:r18LXHT. [2/2]


乙てーい



982 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/14(火) 20:46:24 ID:tzrBTSG6


乙とーう



983 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/14(火) 21:57:21 ID:b0F3V22k


おつ
て~い!



984 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/14(火) 21:58:26 ID:TXiKucTA


てーい



985 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/14(火) 22:20:04 ID:j5LVikCQ



次スレはあるんだよな?
好きなだけてーいして良いんだよな?



986 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/14(火) 22:20:39 ID:8FXVLEyE [2/2]


乙てーい



987 名前: ◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2014/01/14(火) 22:35:50 ID:dgMN.Oqw [1/2]


皆様、レスあざす
大変初歩的な質問かもしれませんが、1000に達したスレって普通にだんだん落ちていくんでしょうか?
それとも即落ちるんでしょうか?



988 名前: ◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2014/01/14(火) 22:59:43 ID:dgMN.Oqw [2/2]


ちょっくら酒場で訊いてくる
次スレたてたとして、1で前スレへのリンク貼るなら、いずれ消える現行URLより落ちて過去スレ置場に入った時のURLの方がいいかな…と思ったり



989 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/14(火) 23:55:26 ID:3GSX/1IA


おつ

梅てーいっ



990 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/15(水) 00:00:44 ID:lzF38ENE




過去ログ倉庫に入ってもurl変わらなかったような



991 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/15(水) 00:01:15 ID:fWhJaXeM


乙~
>>1000なら幼友はもらう
…酒代で破産しそうだ



992 名前: ◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2014/01/15(水) 12:40:42 ID:wEsOa/IA


酒場で教えてもらった
現行スレのURL貼っとけば、落ちた後は勝手に過去ログへ飛ばされるらしいです
またその内、新スレたてたらよろしくおなしゃす!



993 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/15(水) 12:50:11 ID:0piQ9H.U [1/2]


>>992
待ってるてーい



994 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/15(水) 16:31:14 ID:v7fkaDnE


994 てーい



995 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/15(水) 18:04:46 ID:zYxOcdyU
1時間以内にてーいされなければ幼馴染は俺の嫁



996 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/15(水) 18:10:31 ID:0piQ9H.U [2/2]


>>995
てーい( ゚∀゚)=◯)`Д゚)・;'



997 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/15(水) 18:11:00 ID:qHt2YX0Q


>>995
てーい( ゚∀゚)=○)゚Д゚);'.;'.・



998 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/15(水) 18:12:49 ID:6MJ.HLGY


>>995
てーい( ゚∀゚)=◯)`Д゚)・;'



999 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/01/15(水) 18:27:15 ID:Zgzu9d8.


お前ら、どこに潜んでた



1000 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/15(水) 18:28:17 ID:./HfbQdU


てーい!てーい!てーい!てーいぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!

(長すぎるので中略)

ううっうぅうう!!てーいの想いよてーいへ届け!!◆M7hSLIKnTIのてーいへ届け!



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テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

  1. 2014/01/16(木) 15:35:45|
  2. 釣りSS
  3. | コメント:0

冬枯れと椿の小径(原題/ツバキの道と少女の話)

1 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:01:35 ID:.JhPNqoc [1/13]

慣れた道、少し飽きた道を、いつもの通り会社へと歩く。

まだ眠気を残していた頭も、一級河川を渡る長い橋の上で寒風に吹かれ、少しずつ覚めてきた。


徒歩や自転車、それぞれのスピードで橋上の歩道を渡りゆく人々。

朝のラッシュに連なり、歩くよりも遅く停滞した車道。

この橋は住宅やマンションが多く建つエリアと市街地を結ぶ、渋滞の名所だ。

川面を見下ろすと冷たそうな水が透き通って、底のごろた石の模様がよく見える。


測った事は無いけれど、たぶん三分ほどの時間をかけて橋を渡りきり、僕はいつも通りその袂を右へと折れた。

そこからは舗装もされていない土道、周りには樹木が生い茂った川沿いの遊歩道となっている。



2 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:02:24 ID:.JhPNqoc [2/13]

市街地に近い場所に、不釣り合いに残された緑豊かなエリア。

それが保持された理由は、この雑木林の向こうにある。

そこには築庭から三百年を数える、由緒正しき大庭園が広がっているのだ。


この地の殿様が城下に造らせた広大な庭で、今は自治体による運営管理の下、観光地としても有用な施設となっている。

その外周を巡るこの遊歩道は通勤や通学のルートとして、また朝の散歩道としても多くの人に利用されていた。


車がいないから比較的安全な、街までの近道。

それもこの道が多くの人に利用される要因のひとつではあるが、何よりもこの趣が心地よいというのが一番の理由だろう。

朝夕、少なからず憂鬱な職場と心休まる自宅との行き来にここを通る事によって、気分は大いにリフレッシュされていると思う。



3 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:03:02 ID:.JhPNqoc [3/13]

林の向こうの庭園は、数キロ離れたところに横たわる低い山々を借景としているそうで、その障害とならないよう近隣は建物の高さが制限されているらしい。

それ故に遊歩道からも人工的な建造物はあまり目につかず、里山を散策しているかのような気分に浸る事ができる。

木立越しに川面を望む側に設置された人止め柵も、丸太を型取ったコンクリート製の擬木で作られており、人工的ではあるが景観を損なうほどではない。


僅かずつでも日々変わりゆく景色を眺めつつ、今朝もその小径をゆっくりと歩いていた。



4 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:03:41 ID:.JhPNqoc [4/13]

ふと、擬木の柵の一点に目がとまる。


丸太を模した柵は約2メートル間隔ほどに親柱が建ち、その先端からおよそ10センチ下に横の丸太が渡された形になっている。

その親柱の天端、年輪を象った直径15センチ位の円形部分に、鮮やかな色彩が置かれていたのだ。


まだ瑞々しさを残すツバキの花、一輪。

一輪丸ごとが首から落ちるという性質を指して縁起が悪いと言われる事もある花だが、この彩りの少ない時期に花を開く貴重な花木でもある……という位は、僕でも知っている。


上を見ると、大きなツバキの木立が歩道にまで被さり、まだまだたくさんの花が咲き誇っていた。

おそらくいち早く寿命を迎えた一輪が落ちる時、偶然この柵の上に乗ったのだろう。

まるで飾られているかのようなその鮮やかなピンク色を見つけた事で、僕は少し得をしたような気分になった。


今日は良い事がありそうな気がする……そんなありきたりで根拠の無い勝手な期待も、自分が心の内で抱くだけなら誰も困らない。

そこを通り過ぎ、やがてその日の業務に身を置いた僕は、朝の考えがただの幻想に過ぎなかった事を思い知らされるのだけれど。



5 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:04:19 ID:.JhPNqoc [5/13]

しかし翌朝、同じところを通りながら僕は少し驚く事になる。


花が、増えている。


ツバキの木立を中心として、およそ10メートルほどの区間。

柱の数にして六本の頭上に、それぞれツバキの花が置かれていたのだ。


一番端っこの柱など、ツバキの枝が被さる範囲から外れてさえいる。

どう考えても誰かが置いている、それしか思いつかない。


向きを揃えるでもなく置かれたその花を眺めながら、また少し嬉しい気持ちでそこを通り過ぎてゆく。

そして更に数十メートルほど進んだ先で、僕はその小さな悪戯の犯人を目撃する事になる。



6 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:05:10 ID:.JhPNqoc [6/13]

今度は歩道の反対側に佇むツバキの木立、その下に落ちた花を拾い上げる一人の少女。

近くの私立小学校の制服を着た彼女は、手近な柱の頭に何気なくそれを置いた。

手にはまだ数輪の花、順番に柱の上に置きながらこちらへと歩んでくる。

やがて僕とすれ違った彼女、年齢はたぶん小学校の高学年くらいか。


校区の限定される公立の学校であれば班体制で通学するのだろうが、様々な地域から児童が集う私立校に通う彼女は一人ぼっちだった。

この花を飾り歩く可愛らしい悪戯は、寂しい通学路で彼女が見つけた小さな楽しみなのかもしれない。


すれ違ったばかりの少女を目で追う事は他意は無くとも躊躇われる、この妙なご時勢。

わざと十秒ほどの間を開けて立ち止まり振り返ると、彼女はさっき僕が通り過ぎた木立の下で屈み、また花を拾っていた。



7 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:05:45 ID:.JhPNqoc [7/13]

少し迷った後、僕は周囲を窺う。

幾人かの通行人は見られるが、特徴もないサラリーマンを気にとめる者などいない。


その存在には先から気づいていた、自らの足元に転がる一輪の花。


照れ臭さを拭い、それを拾い上げる。

少女が置いた場所の次、彼女が進む方向にとってはひとつ手前になる柱に、その一輪をそっと置いた。


何も悪い事をしてるわけじゃない。

誰も責めてはいないのに、自分にそう言い聞かせてしまう。


また少し周りを気にした後、おそらくわざとらしい知らんぷりの顔を作って、僕はさっきよりも早足で歩き始めた。



8 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:06:19 ID:.JhPNqoc [8/13]

日々、少しずつ増えてゆく柱上のツバキ。

その行為に慣れ始めた僕は、数日経って色が褪せたものがあれば新しいものと交換しながら、日に二つか三つほどツバキの小径の伸ばしていった。


彼女は自分の他にも同じ悪戯をしている者がいる事に気づくだろうか。

たまに彼女とすれ違う事はあったけど、その目の前ではあえて花を持つ姿は見せないようにしていた。


この1キロ程の遊歩道には、あちこちにツバキが点在している。

だんだんと花が落ちやすい時期に近づいているのだろう、素材を拾う事には苦労しなかった。



9 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:06:56 ID:.JhPNqoc [9/13]

やがてその小径が一日に延びる距離は、飛躍的に長くなり始める。


「あ、あそこ落ちてる」

「そこのやつは色が悪くなったな」

「白もあってもいいかなあ」


朝の散歩をするお年寄りが、僕と同じように通勤する男性が、ベビーカーを押した母親が、ツバキを拾っては柱に置いてゆく。


「ちょっとストップ!」

「もう、急に停まらないでよ」


自転車に乗った女子高生が、わざわざブレーキをかけてまで風で落ちた一輪を柱に戻すのを見かけた。


「よっしゃ、いっぱいあったぞ」

「お前、それはもう汚いだろ」


普段なら顔を逸らしてすれ違いたい柄の悪そうな建設作業員が、両手にたくさんの花を持ち朗らかに笑っている。



10 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:07:27 ID:.JhPNqoc [10/13]

遊歩道の最初と最後には誰かの手によりゴミ袋がかけられたダンボール箱が置かれ、周知があったわけでもないのに色が褪せた花はそこへ集められるようになった。


「これ、侘助かな」

「そうじゃない? さっきの木の花に似てるもの」


『ヤブツバキ』
『侘助』
『西王母』
『乙女椿』


いつしかツバキの木立には木板で作られた手書きの樹名札がつけられている。

色んな形の花があるな……とは思っていたけれど、やはり品種はいくつもあったらしい。

人為的に植えられたものも多いのだろう。



11 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:08:24 ID:.JhPNqoc [11/13]

「ああ、今日も綺麗に並んでますね」

「おはようございます」

「行ってらっしゃい、気をつけてね」

「今朝は少し暖かいですね」


きっと名前も知らない人と人、それでも挨拶を交わしている。

前からあった事なのかもしれないが、前より多いのは間違いないと思う。


そんな小さな光景の中、僕は気付いた。

向かいから近付く、誰よりも元気な声で誰よりもたくさんの者に挨拶をする人の姿。


「おはようございます」

「おはよう、だいぶ拾う花が減ってきたね」

「はい、なかなか見つからなくて」



12 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:08:56 ID:.JhPNqoc [12/13]

近くの私立小学校の制服を着た彼女は、にこにこしながら「だけどね」と続けた。


「もう、春がくるから」


そう言いながら上を向く彼女につられて、空を見上げる。

そこには、ついこの前まで冬枯れていた落葉樹の枝が、僅かに新緑の彩りを湛えて覆い被さっていた。


次にツバキが咲き、その花を落とし始めるのはいつになるだろう。

でも、それまでもこの道は様々な彩りに満ちて僕を迎えてくれるはずだ。

そして少しだけ深まったすれ違う人々との繋がりは、一年を通じてそこにあるに違いない。


「行ってらっしゃい」

「行ってきます」


僕は微笑み、また少し憂鬱ないつもの職場を目指して歩き始めた。



13 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:10:36 ID:.JhPNqoc [13/13]

おしまい


.

テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

  1. 2014/01/11(土) 08:43:37|
  2. その他
  3. | コメント:0

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