がらくた処分場

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淡き水にロマンスを求めて(原題/男「釣りロマンを求めて」幼馴染「淡水の釣り編です」)

SSの性格的に、頂戴したレス等も含めて掲載しています。
現行時の雰囲気のままご覧下さい。
名前欄が青色表記のレスが本文です。
また、赤色表記の文字は参考画像等へのリンクボタンになっています。



135 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/16(水) 15:56:22 ID:zIwzHYDs [2/6]


男「おはようございます」

幼馴染「今は四時どころか、まだ二時半です。感覚だけでなく完全に深夜と呼ばれる時間帯です」

男「釣り場に着く頃には朝マズメになります」

幼馴染「理屈は解りますが、若干キレそうです」

男「ご安心下さい、今回の車はリクライニングがききます」

幼馴染「それなら少しはマシですが、なぜ前の日から予告しないのでしょう」

男「昨夜ベッドの中でムラッときました」

幼馴染「それ、たぶん性的な意味じゃないですよね」

男「仰る通りです」

幼馴染「独りで行ってはどうでしょうか」

男「じゃあ、もういいです…」

幼馴染「ちょ、待てよ」



136 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/16(水) 15:57:08 ID:zIwzHYDs [3/6]


男「来るんですか」

幼馴染「だってぇー、男が寂しくて死んだらいけないしぃー?」

男「何キャラですか、俺はうさぎではありません」

幼馴染「とにかく部屋に女性を起こしにくるなら、もう少しやりようがあると思います」

男「この辺りではまだ夜這いの風習が残っているのですか」

幼馴染「ここはどこの辺境でしょうか」

男「何をすれば良いのでしょう」

幼馴染「寝起きの口づけでもされたら少しは目が覚めそうです」

男「どうせ車内で寝るだろうから、覚まさなくていいです」

幼馴染「怒りで目が覚めてきました」



137 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/16(水) 15:57:51 ID:zIwzHYDs [4/6]


男「では車に乗りましょう」

幼馴染「今回は軽トラではないのですね」

男「ハイラックスサーフを父親から無断で借りました」

幼馴染「これなら快適そうです」

ガチャ…バタン

男「では、出発します」

幼馴染「では、寝ます」

幼友「ひあうぃごー」

幼馴染「………」

幼友「おはよう、幼馴染ちゃん」



138 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/16(水) 15:58:28 ID:zIwzHYDs [5/6]


幼馴染「なぜ貴女がいるのですか」

幼友「釣りに誘われたから」

幼馴染「男が釣りに行きたくなったのは昨夜では」

幼友「だから深夜に電話があったんだよ」

幼馴染「どんな電話が?」

幼友「『ムラッときたから、これから家に行きます』って」

幼馴染「てーい!てーい!」

男「痛いです、やましい意味ではありません」

幼馴染「私には何の連絡もなく、深夜だというのに先に幼友を迎えに行く時点で万死に値します」

幼友「勘違いしないで、私も念のためシャワー浴びて無駄毛処理したけど、やましい気持ちなんてないよ」

幼馴染「貴様も死ぬか」



139 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/16(水) 15:59:01 ID:zIwzHYDs [6/6]


幼馴染「しかしこの時間から朝マズメを目指して出発という事は、相当遠いのでしょうか」

幼友「男さん、どこの海まで行くんですか?」

男「海ではありません、むしろ山です」

幼馴染「拉致られてるー!」

幼友「埋められるー!」

男「拉致りません、埋めません。まずは渓流の釣りをするつもりです」

幼馴染「もみじ狩りには少し早い気がします」

男「紅葉と釣りが両方楽しめるなら最高なのですが、渓流釣りには禁漁期があるので、ほとんどの河川では十月頃から釣る事はできなくなります」

幼馴染「今はもう十月ですが」

男「これから行く川では禁漁期は十月の半ばから。この週末がラストチャンスなのです」

幼馴染「それでムラムラきたのですか」

幼友「ヤリ納めですね」

男「釣り納めと言って下さい」



140 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/16(水) 18:25:55 ID:qVRVge3M


淡水編来たか!!

期待支援!



141 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/16(水) 19:39:43 ID:sRXggsMc


幼友はNTRばっちこいなのか



142 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/16(水) 20:15:32 ID:G7SVr6j. [1/2]


幼馴染「とりあえずまだまだ着きそうにないので、私は寝ます」

幼友「おやすみー」

男「幼友ちゃん、隣の足元にある小さいクーラーから眠気覚ましのコーヒー取って下さい」

幼友「はいはーい、開けて渡しますねー」

男「ありがとう、さすが気がききます」

幼友「私、ガム持ってます。コーヒー飲んだらあげますね」

男「助かります」

幼友「いいなー、幼馴染ちゃんはアクティブな彼氏がいて」

男「鬱陶しがられてばかりです」

幼友「私だったら、そんな事ないんだけどなぁ…?」

男「…ガム貰っていいですか?」

幼友「待ってて…粒ガムだから落とさないように、銀紙剥いて…はい、あーん」

男「あーん」

幼馴染「貴様らぁっ!何をイチャついとるかぁっ!」

幼友「幼馴染ちゃん、からかい甲斐あるわー」



143 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/16(水) 20:16:11 ID:G7SVr6j. [2/2]


男「渓流に着きました」

幼馴染「結局ぜんぜん寝られませんでした」

幼友「まだ薄暗いですねー」

男「色々と釣れると思いますが、狙うのはアマゴです」

幼馴染「アナゴ?」

幼友「タマゴ?」

男「アマゴです。ヤマメの近縁種で、パーマークと呼ばれる共通の模様の他に赤い斑点があるのが特徴の美しい魚です」

幼馴染「どうやって釣るのでしょう」

男「その前に、二人ともこれを身につけておいて下さい」

幼友「遊漁券?どこに着けたらいいですか」

男「胸か袖あたりの見やすい位置に。幼友ちゃんは誰もがすぐに胸に目をやると思うので、胸がいいでしょう」

幼馴染「その先は言うな」



144 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/16(水) 21:37:32 ID:xmQeO/CY



待ってたよ!



145 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/17(木) 01:14:26 ID:Pt4CBjIw


>てーい!てーい!

大変可愛い



146 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/17(木) 17:53:09 ID:maJi5cnM


このテンポが大好きだ



147 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/18(金) 12:16:01 ID:Gn0SDreU [1/5]


男「仕掛けを作っている間にいい感じの薄明るさになってきました」

幼友「雰囲気ありますねー」

幼馴染「眠いです」

男「では竿をどうぞ、先端はすぐ折れるので大事に扱って下さい」

幼馴染「長っ」

男「二人には扱いやすい15尺を使ってもらいます」

幼馴染「エサは?」

男「その辺にいます」

幼友「はい?」

男「その辺、草むらの中です」

幼馴染「ご冗談を」

男「じゃあ最初は採ってきます」ガサガサ

幼友「え?ちょ、まじで?」

男「はい、バッタです。堅い脚はちぎってあります」

幼馴染&幼友「ぎゃあああああぁぁ!」



148 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/18(金) 12:24:26 ID:Gn0SDreU [2/5]


男「仕方ないからたくさん捕まえてきました。二匹目からは針づけする時に脚をもいで下さい」

幼馴染「無理」

幼友「のーせんきゅー」

男「秋は野の虫が最高のエサなのですが」

幼馴染「違うの希望」

幼友「みーとぅー」

男「…仕方ありません、こちらをお使い下さい」

幼馴染「段ボールの切れ端…?」

男「一列ずつ破ってみて下さい」

幼友「破く…こう?」ビリッ

ブドウ虫「ハロー」

幼馴染&幼友「ぎゃあああああぁぁ!」



149 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/18(金) 12:31:13 ID:1ZnoDUIE


ユムシじゃないだけマシではある



150 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/18(金) 15:21:44 ID:Gn0SDreU [3/5]


男「がんばりましょう、海釣りのイソメのようにヌルヌルしたりはしません」

幼馴染「ひいいぃぃぃ」

幼友「がんばった!私、がんばったよ!」

男「いい子いい子」

幼馴染「むぅ…わわ私もがんばりましたっ!」

男「はい、いい子いい子」ナデナデ

幼馴染「えへへ…じゃあ釣ります」

幼友「あれ、幼馴染ちゃん髪に何かついてるよ」

男「あ、すみません」ヒョイ

幼馴染「何がついていましたか?」

男「さっきのバッタのあ」
幼友「聞かない方がいいから、ね?」



151 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/18(金) 15:22:14 ID:Gn0SDreU [4/5]


男「では二人は安全に岸から深場の淵を狙って下さい」

幼馴染「男は?」

男「ウェーディングで瀬を狙います」

幼馴染「ぱぱぱぱーん」

幼友「ぱぱぱぱーん」

幼馴染&幼友「あいらーびゅーふぉえーばー」

男「ウェディングではありません、このウェーダーという防水ウェアを履いて水に立ち込む事です」

幼馴染「…言ってもいいですか」

幼友「言わないであげようよ」

男「何をでしょう」

幼馴染&幼友「それ、けっこう格好悪い」

男「しゃらっぷ」



152 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/18(金) 16:41:01 ID:AtCEZfbM


魚河岸ゆーなww



153 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/18(金) 18:07:15 ID:BYZctF5w


…よく考えると幼友はカップルのデートに同行してるのか…ふむ



155 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/18(金) 20:13:39 ID:8pL0d0L2 [1/3]


幼馴染「釣り方はどんな感じなのでしょう」

男「上流側に仕掛けを投げ、糸を軽く張った状態で流します。目印のトンボ糸を見て、アタリが出たら素早くアワセて下さい」

幼馴染「てーい」

幼友「とーう」

男「…少し、オモリが軽いようですね。底が取れていません、調整します」

幼馴染「お願いします。…ずいぶん小さなオモリです」

男「針のチモト近くにこの極小のガン玉を打ちます。底を取れるギリギリ、あくまで自然な水流に乗れるように極力小さい物を使います」

幼馴染「○ン玉を歯で…」

幼友「ギュッと潰す!」

男「変な所を伏字にしないで下さい」キュン

幼馴染「今、キュッときてましたね」

男「貴女達には解りますまい」



156 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/18(金) 21:29:22 ID:PJzk.D2c


鉛の塊をギュッって噛み潰すって思えば凄いことしてるよな……



157 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/18(金) 22:19:59 ID:qkT/wXN.


食い物じゃないのを口に入れるのってなんか抵抗があってアレ苦手なんだよなぁ



158 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/18(金) 22:34:14 ID:8pL0d0L2 [2/3]


男「…今!…ああ、遅い。今のがアタリです」

幼馴染「全く解りませんでした」

男「目印が引き込まれるほど大きなアタリが出る事は稀です。一瞬流れに逆らう動きをしたり、あるいは静止したりといった微妙なアタリを取りましょう」

幼友「うわ!?大きなアタリ!…釣れましたー!」

男「カワムツですね。食べられなくは無いですが、小骨が多くリリース対象です」

幼友「ちぇーっ」

幼馴染「てーい!………なんか小っこいの釣れました」

男「アブラハヤです。見た目は綺麗な姿ではありませんが、唐揚げなどに向く美味しい魚です」

幼友「…今度こそ!とーう!」

幼馴染「おお、良く引いています」

男「これは期待できそうです」

幼友「釣れたー!うわ、めっちゃ綺麗!」

男「お見事、それがアマゴです。15cmを超えているようであればお持ち帰りサイズです」



159 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/18(金) 22:35:42 ID:8pL0d0L2 [3/3]


幼馴染「それ以下のサイズの場合はどうするのでしょう」

男「15cm未満のアマゴは資源保護のためリリースする決まりです」

幼友「微妙なサイズ…」

男「幼友ちゃん、手をグーにして親指を立ててみて下さい」

幼友「イイネ!」グッ

男「女性ならだいたいそれが15cmの長さです」

幼馴染「おお、15cm以上ありそうです」

幼友「やったー!」

男「…と言ってる間に、微妙なアタリ!貰った!」ピシィッ

幼友「うわぁ、なんか格好つけたアワセだったよ」

男「釣りキチ三平風にアワセてみました、よし…キャッチ」

幼馴染「アマゴですか」

幼友「カワムツに見えるよ」ヒソヒソ

男「見ないでー」



160 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/21(月) 22:39:04 ID:MSFiVT5U


支援



161 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/23(水) 15:17:57 ID:6xs5OuAQ


長編ファンタジーもいいけどこっちも待ってる
忘れんでくれよ・・・



162 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/24(木) 04:41:01 ID:lrdCWivs


支援



163 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/24(木) 04:56:41 ID:/4D7m6U.


釣り全然知らないけどめっちゃ楽しい!

続き期待!!!



165 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/24(木) 14:04:01 ID:s2pvoESU [2/6]


幼馴染「てーい!…やりました、アマゴです」

幼友「こっちもー」

男「いい調子ですが、日が上がってきました。そろそろ釣れ難くなると思います」

幼友「昼間は駄目なんですか」

男「アマゴは一説には雨子と書くといいます。雨の曇りの日のように直射日光が差さない日、そしてマズメ時に好釣果が得やすいのです」

幼馴染「やたら早く出発した理由が解りました」

男「それでは釣り方を変えてみたいと思います。こちらをお使い下さい」

幼馴染「今度は短い竿にリールが付いています」

男「ルアー釣りです、このスプーンを投げます」

幼馴染「フォーク?」

幼友「ナイフ?」

男「言うと思ってましたが、ちっとも面白くありません」

幼馴染「言うだけで満足してるので気にしてはいけません」



166 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/24(木) 14:04:33 ID:s2pvoESU [3/6]


幼馴染「てーい!…軽くて投げ難いです」

男「大振りなキャストはせず、柔らかい竿なので先のしなりで飛ばす感じです。手首のスナップを意識して下さい」

幼友「とーう!」

男「いい感じです。日が高くなって岩の下に隠れたアマゴを狙うつもりで、際を通して下さい」

幼友「難しい事言いますね…」

男「流れ落ちの白泡の中から出てくる事もありますので、気を抜かずに」

幼馴染「何か釣れました」

男「おお、面白いものを釣りましたね」

幼馴染「足があります」

幼友「手もあります」

男「天然記念物の大山椒魚の子供です。決して傷つけずに放してあげて下さい」

幼馴染「美味しいでしょうか」

男「食べてはいけません…が、噂によると美味しいらしいです」

幼友「どこ情報でしょう」

男「…祖父は昔、何かも解らずに食べていたそうです」



167 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/24(木) 14:05:31 ID:s2pvoESU [4/6]


男「さてアマゴもまずまず釣れましたので、今度は違う釣りをします」

幼馴染「大きな池です」

幼友「ダムって書いてるから、湖じゃない?」

幼馴染「じゃあ小さな湖です」

幼友「バス釣りかな?」

男「いいえ、バス釣りも楽しいのですが…最近はしていません」

幼馴染「珍しく男が真面目な顔をしています」

男「失敬な、いつも真面目です。…やはりブラックバスというのは管理釣り場以外では、日本に居て良い魚では無いと思います」

幼友「他の生態系を崩すから?」

男「それも大きな要因ですが、あまりに手近な野池でも釣れるため年少者が手を出しやすく、やはり意識の低い釣り人が多いジャンルです」

幼馴染「野池に釣りのゴミが捨てられているのを見た事があります」

男「決してバス釣りに限った話では無いのですが、そういう例が非常に多い釣りなのは確かなのです」



168 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/24(木) 14:06:36 ID:s2pvoESU


男「落ちているゴミを拾ったりもしたのですが、それでも無くなる事はなく…その光景を見るのが辛くて、バス釣りをしなくなりました」

幼馴染「男…意外と繊細なのですね」

幼友「でも同じダム湖に釣りには来るんだ?」

男「しゃらっぷ」

幼馴染「都合がいいね…」

幼友「ただの自己満足だよね…」

男「…釣り人全てが自己満足でもいいから心掛ければ、自己満足では無くなるのですが」

幼馴染「それで何を釣るのでしょう」

男「ここは尺以上のヘラが数釣れるポイントなので、ヘラ釣りをします」

幼馴染「…尺…」ポッ

幼友「…○ェラ…」ポッ

男「さっきまでの真面目な雰囲気ブチ壊しです」

幼馴染「元の雰囲気に戻しただけです」



169 名前: ◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2013/10/24(木) 14:15:25 ID:s2pvoESU


また他の書き始めたから、息抜きがてらの更新になると思われます
当初からそんなつもりのスレだったので、勘弁して
でもできるだけ頑張る



170 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/24(木) 18:12:30 ID:24utcdJE



楽しみに待つぜ



171 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/26(土) 21:58:52 ID:Z9h9xQnM


何てスレ?



172 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/27(日) 10:37:10 ID:dsKlls0o


淡々だろ?



173 名前: ◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2013/10/27(日) 11:42:18 ID:5YhIYhF6


淡々ちゃいます
釣りも魚も大好きだけど、あそこまでの知識と投下ペースは真似できんわ…
もうひとつのスレはあまりにジャンルが違うので、ここで宣伝するのも的外れな気がするよ



174 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/27(日) 12:01:04 ID:jpSogKGk


ぶっちゃけこの人が書いてる他の話って基本的にこの釣りスレとは全然違うもんな
正直このノリが好きなら他のは好みに合わない人も多いと思う



175 名前: ◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2013/10/27(日) 13:23:24 ID:xNmO776E [1/5]


仰る通り、本人でもそう思いますわ



176 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/27(日) 15:19:48 ID:xNmO776E [2/5]


幼友「何ですか、このテーブル?」

男「テーブルではありません、へら台と呼ばれる釣り用の台です」

幼馴染「一台だけですか」

男「けっこう高いしかさ張るので、さすがに複数は持っていません。五投ずつ位で交代していきましょう」

幼友「これがエサ?何やらポテサラみたいですね」

男「その通り。下針の食わせエサは、ほぼポテサラマヨ抜きです」

幼馴染「ご冗談を」

男「本当です、マッシュポテトと少しの麩で出来ています」

幼友「食べられそうですね」

男「食べても何ら問題ありません…」

幼馴染「では」ヒョイ…パクッ

男「…が、この湖の水で練っています」

幼馴染「早く言って下さい…」



177 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/27(日) 15:20:20 ID:xNmO776E [3/5]


幼友「味は?おイモ?」

幼馴染「はい、まさにジャガイモでした」

男「毎日のようにヘラ釣りを楽しむ年配の方は、学校給食用のマッシュポテトを大量買いして使用したりする位です」

幼馴染「ただ、ほんの少し香ばしかったような」

男「集魚剤として、わずかにサナギ粉が入っていますので」

幼友「サナギ粉?」

男「絹糸の生産に使われた蚕の蛹を乾燥粉砕したものです」

幼友「蚕って、あのカイコ?」

男「はい、クワの葉を食べさせて育てる、うにょうにょのアレです」

幼馴染「………」エレエレエレ



178 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/27(日) 16:18:25 ID:xNmO776E


幼友「とーう」

男「ウキが沈んで…この位置がウキ馴染みです」

幼馴染「呼ばれましたか」

男「ウ、キ、ナ、ジ、ミ、あんだすたーん?」

幼馴染「オ、サ、ナ、ナ、ジ、ミ、いえすべりーきゅーと」

男「ウキが少しずつ浮いて…この位置がバラケ落ちです。勝負はここから…」

幼友「緊張の一瞬ですね」

男「…はい、エサ落ち目盛りです。上げて下さい」

幼友「え?何も無かったですよ?」

男「湖みたいな野釣りの場合、アタリが出始めるまで小一時間はかかるものです」

幼馴染「では一時間してから呼んで下さい」

幼友「私も幼馴染ちゃんと車で寝てますねー」

男「………」チッ



179 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/27(日) 16:27:47 ID:xNmO776E [5/5]


幼馴染「アタリは出始めましたか」

幼友「交代でーす、交代でーす」

男「貴様ら…」

幼馴染「しかし細くて長いウキです」

男「ヘラブナの繊細なアタリや微妙なエサ状態を感知できる、感度の高いウキです」

幼馴染「感じやすいんですね…」ポッ

男「今使っているのは浮力の高いパイプトップですが、冬場には更に敏感なムクトップを使ったりします」

幼友「パイプカット?」

男「子孫は遺させて下さい」

幼馴染「けけけ結婚してから!」アタフタ

幼友「男さん、いきなり発情ですか」

男「言葉のアヤです、そもそも下ネタ振ったのはそっちです」



180 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/27(日) 20:13:25 ID:3.n3O3DU


幼馴染「てーい」

幼友「ウキ馴染み…バラケ落ち…ここからなんだね」

男「ふわふわと触りが出ています…神経を集中しておいて下さい」

幼友「…あっ!」

幼馴染「てーい!」

男「ノッた、バッチリな合わせです!後は竿を立てた状態をキープして、もし腕ごと延ばされたら負けです!」

幼馴染「けっこう…強い…です!」

幼友「うわー、走る走る」

男「あと少し…両手で竿を支えて、引き寄せて下さい。幼友ちゃん、玉網を」

幼馴染「て…えぇ…い…疲れたぁ…」

男「ナイスランディング、体高のある立派なヘラブナです。尺二寸はありますね」

幼馴染「尺二寸…36cmほどという事ですね」

男「ちなみに先ほどのような、ヘラ特有の鋭くウキを消し込むアタリの事を『ツン』といいます」

幼馴染「べ…別にアンタにアワセてるんじゃないんだからねっ!」



181 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/27(日) 21:59:46 ID:t2nmO2Lc


やっぱりいいですね

この前のカーナビのも面白かったです



182 名前: ◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2013/10/28(月) 21:27:12 ID:zBUXI6mE [1/2]


ありがとう
もちろん両方そう言ってくれたら一番嬉しいです



183 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/28(月) 21:29:45 ID:krXOYDUg


でもぞうさんのほうがもーっと好きです



184 名前: ◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2013/10/28(月) 22:15:19 ID:zBUXI6mE [2/2]


もし>>181と>>183が同一人物なら、俺は盛大にからかわれてるっぽいwww



185 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/29(火) 00:01:33 ID:OBKDxEfg


別人ですよ

ホントにどれも面白いです



186 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/29(火) 00:29:38 ID:Fjy3lxDE


(こっそり支援してる)



187 名前: ◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2013/10/29(火) 08:46:29 ID:WyorFcf. [1/2]


>>186
こっそりさんくす
竜の方にもひっそり支援さんくす
こっちのも5レス分くらい溜まったら投下する



188 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/29(火) 09:01:42 ID:DdhkJpbA


>>184
俺は183なんだが、そのリアクションは予想外だたwww

最近一覧から漁って読むこと減ったから気づいてないのもありそうだけど
見つけた分は全部読ませてもらってるよ



190 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/29(火) 22:42:53 ID:DqZY3C5E [1/7]


幼友「な、なんかいつアワセていいのか解らない位、ウキが動くんですけど!?」

男「あー、ヘラが薄れてジャミが出ましたね」

幼友「ってか、これどーすればいいんですか?」

男「それ、もうノッてます。適当に上げて下さい」

幼馴染「ちっちゃ!」

幼友「なんか可愛いですね」

男「オイカワです。初夏の頃はオスであれば身体に綺麗な虹模様の婚姻色が出て、より美しいのですが」

幼馴染「もうヘラは釣れないのでしょうか」

男「ヘラは集団になって回遊する場合がありますので、また回ってくると思います。でも本当はエサ打ちを休まず、その場に寄せ続けるのが理想です」

幼友「海釣りみたいに撒き餌するんじゃだめなんですか?」

男「『ヘラブナはタナを釣れ』と言われます。水面にエサを散らす事は、ヘラブナの居所であるタナ深さを乱す事になり、決して良い釣果は得られません」



191 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/29(火) 22:44:13 ID:DqZY3C5E [2/7]


男「オイカワは小さくても淡水魚としては非常に美味な魚です。このダムは水も綺麗なので、せっかくですから釣っていきましょう」

幼馴染「この竿は?」

男「オイカワ相手なら、無理にへら台など要りません。竿は複数あるので、数釣りでいきます」

幼友「とーう」

幼馴染「てーい」

男「どんどん釣っていきましょう。ヘラブナが帰ってくれば、ジャミが蹴散らされて雑なアタリは消えるはずです」

幼馴染「これはこれで面白いです」

幼友「うわ、上針と下針のダブルで釣れた!」

男「ジャミならよくある事です。稀にヘラでそれが起きると、竿が折れないよう祈らなければなりません」

幼友「なんか違うの釣れました」

男「モツゴです。佃煮の材料になったり、型が良ければ揚げ物にも向きます」

幼馴染「淡水でも意外と食べられる魚は多いのですね」



192 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/29(火) 22:46:02 ID:DqZY3C5E [3/7]


男「由々しき事態です」

幼馴染「どうしたのでしょう」

男「ここ2レス連続でオチをつけ損なっています」

幼友「たまには真面目に釣りをすればいいんじゃないですか」

幼馴染「またエサでも食べさせられるのでしょうか…っと、強いアタリです!」

男「このしなり具合は…!幼馴染が使っている竿は安物のグラスロッドなので、折れても良い覚悟でいきましょう!」

幼馴染「無理!無理!何ですかこれ!?」

男「手を貸します!…この魚を釣ったら、二人で名にちなんだ行為をしなければなりませんが…!」

幼友「またきたこのパターン。玉網すたんばーい」

男&幼馴染「てーーーい!!!」

幼友「でかい!もしかしてコレは…!」

男「…コイです」

幼馴染「もう、男ったら馬鹿なんだからぁっ」ポッ

幼友「無理矢理オチつけやがった」



193 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/29(火) 22:47:42 ID:DqZY3C5E [4/7]


男「さて、夕方が近づいてきました」

幼馴染「帰るのでしょうか」

幼友「一応、着替えとかは持ってますけど」

男「実は昼間の内に、キャンプ場併設のバンガローを予約してあります」

幼馴染「ガンバロー」

幼友「ニッポン!」

男「そのフレーズは日本人として大切にしたいので、しょーもないネタに使わないで下さい」

幼馴染「ここがその施設ですね。…おお!温泉もあると書いています!」

幼友「ひゃっほーう」

男「俺はここの管理員のおっちゃんと釣り仲間なので、少し話してきます。すぐに戻るのでそれから食事の準備をしましょう」

幼馴染「お腹が減ったので早目に願います」

男「はいはい…」

幼友「お腹が減って胸がしぼみそうです」

男「すぐ戻ります!」

幼馴染「………」チッ



194 名前:◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2013/10/29(火) 22:50:07 ID:DqZY3C5E [5/7]


幼馴染「ああ言ってた癖に遅いです」

幼友「まあまあ、まだ10分しか経ってないよ。………ん?」

金髪男「おねーさん達、二人なのー?」ニヤニヤ

茶髪男「俺たちも二人なんだけどさー」ニヤニヤ

幼馴染「…キャンプ場で男性二人なんですか」

幼友「まさかの恋仲とか?」

金髪男「んなわけねーし」ニヤニヤ

茶髪男「ご心配なく、おねーさん達とあわせれば人数ぴったりじゃん?」ニヤニヤ

幼馴染「生憎、男性の連れがいるので」

幼友「そーそー、だいたい乗って来た車見たら解らないかなー?」

金髪男「じゃ、彼氏さんが帰ってくる前に」ニヤニヤ

茶髪男「さっさと始めちゃいますかー?」ニヤニヤ



195 名前:◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/29(火) 22:51:11 ID:DqZY3C5E [6/7]


金髪男「へへっ、おら…クチ開けろよっ」

幼馴染「…くっ、じ…自分でやりますっ」

金髪男「そうそう、大きく開けて…ほーら」

幼馴染「んぐっ…(生臭い…!)」

幼友「幼馴染ちゃん…!」

茶髪男「ははっ、こっちはいい感じに解れてきたぜ」

男「…おや?」

金髪男「おーっと、彼氏さん登場ー」ニヤニヤ

茶髪男「人数合わなくなるけど、参加しちゃいますかー?」ニヤニヤ

男「バーベキューとは結構ですね、お言葉に甘えて良いでしょうか」

幼馴染「まだ肉が生焼けで臭みがあります」

幼友「キャベツほぐしましたよー」

男「じゃあ、今日の魚も捌いて焼きましょう」



196 名前:◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2013/10/29(火) 23:07:02 ID:DqZY3C5E


全員「かんぱーい!」

男「本当、すみません。急にお呼ばれしてしまって」

金髪男「何言ってんすかー、旅は一期一会の思い出作りっすよー」

茶髪男「今夜はマイナーな流星群の日なんで、見えない物を見ようとして望遠鏡を担いでみたんすよねー」

幼馴染「今度はお肉、いい感じです」

幼友「アマゴも美味しいー!」

金髪男「いやー、釣りたての川魚なんて滅多に食べらんないっすー」

男「どんどん焼いていきましょう。…ビールおかわり」

茶髪男「プレモル入りまース」

男「二度目のかんぱーい!」

幼馴染「あ!流星です!」

茶髪男「ピークは日付が変わってからっすよー」

幼友「今日がずっと続きますように!」

男「その願いだとループしてしまうらしいですよ?」



197 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/29(火) 23:44:34 ID:ReHjjQgc


>>196
いくら自分の作品だからといってそのネタを引っ張ってくるとは



198 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/30(水) 00:20:29 ID:ECq4L1bY


支援

1は幼馴染モノ好きやね
最近少ないからありがたい
今度ひたすらあまあまとかも見てみたい かも



199 名前: ◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2013/10/30(水) 01:11:30 ID:HKG/Ie9M


>>197
昨日あたりそんなレスやりとりになったから、試しに引っ張ってみた。気付く人がいてくれてよかった

>>198
支援あり
ひたすら甘いやつか…書けるかな…



200 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/30(水) 10:36:59 ID:1wZSQ8Ho


>>192
つまり二人は体だけの関係だったのか……

>>197
変に恋愛をこじらせて引っ張るだけの話より
またああいう話を読みたい



201 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/30(水) 17:38:53 ID:n0iH7XDE


見えないものを見ようとしてー



202 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/30(水) 20:47:13 ID:ODfXvtpY


波間の浮きをにらみつけたー



203 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/31(木) 08:26:14 ID:iSQ3OsPw


静寂を切り裂いて たも網をぐっと掴んだよー



204 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/31(木) 09:09:00 ID:PTOMmpfs


パクーで知った痛ーみーをー未だに僕は覚えている



205 名前: ◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2013/10/31(木) 10:17:42 ID:KkolYj5Y


パクリじゃなーいナビのハナシ
似たーのーがーあるの知らーなかったーおーいぇーえーあはーん



206 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/31(木) 10:18:31 ID:KkolYj5Y [2/4]


幼友「バーベキュー楽しかったねー」

幼馴染「おお、バンガロー意外と広いです」

男「よく知った管理員なので、広めの棟を融通してくれました」

幼友「よーし、温泉行こう!」

幼馴染「露天風呂もあるようです、楽しみです」

幼友「着替えとー、タオルとー、準備おっけー」

男「身体拭き用の大きなバスタオルは備え付けられているはずです」

幼友「了解ー、じゃあ行こう」

幼馴染「…ちなみに男女は別なのでしょうか」

男「残念ながら」

幼友「………」チッ

幼馴染「………」ホッ



207 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/31(木) 10:19:02 ID:KkolYj5Y [3/4]


幼馴染「露天風呂からの満天の星、素晴らしいです」

幼友「あ、また流れ星」

幼馴染「流星群だと言っていましたね」

幼友「ふう、少し熱めだね。肩まで浸かってたらすぐ逆上せちゃう」ザバー

幼馴染「………」チッ

幼友「何、今の舌打ち。…いいじゃん、幼馴染ちゃんスレンダーで」

幼馴染「…男はボンキュボンが好きみたいなので」

幼友「そんな事ないんじゃない?幼馴染ちゃんだって、小さくとも形はいいじゃん」モミモミ

幼馴染「ちょっ…!何をしますか!…えーい!」モミモミ

幼友「くすぐったーい!」

幼馴染「…揉むと余計に差を思い知りました」チッ

幼友「大丈夫…幼馴染ちゃんの身体も、ちゃんとエッチだよ…食べちゃいたいくらい」

幼馴染「幼友…だめっ…」

男《あー、全て聞こえています。上がれなくなるのでやめて下さい》



208 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/31(木) 10:19:50 ID:KkolYj5Y


幼馴染「では、そろそろ上がりましょう」

幼友「んー、私はもうちょっと入っとくよ」

幼馴染「…随分、長風呂ですね」

幼友「うん、上がってから売店のアイスでも食べて帰るから。…そうね、30分は絶対戻らないからね?」

幼馴染「30分…」



…30分後



幼友「ただいまー」

幼馴染「おかえりなさい」ツヤツヤ

男「おかえりなさい」ツヤツヤ

幼友「…気を利かせたのは自分だけど、なんか腹たつわー」



209 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/31(木) 10:56:20 ID:fU1KFKXA


俺の愚息がてーいした



210 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/31(木) 14:43:18 ID:VE4M2Zgg


支援

ところで3Pはしないのかい?



211 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/01(金) 20:05:56 ID:HrLR6zmQ


この幼友で幼馴染の了解があればなんか流れでいけそうな気がするが
なんかやっぱりモヤっとしそうだな

このままでオナシャス!



212 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/02(土) 06:03:07 ID:6p8foWzg


いやアリだろw

213 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/02(土) 16:02:59 ID:JGfg/I3.


てーい



214 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/02(土) 22:14:25 ID:NFwr0VfQ [1/4]


幼馴染「ふわぁ…眠くなりました」

幼友「さーて、飲み直しますかぁ」

男「お付き合いします」

幼馴染「私は寝ます」

幼友「どのベッドに行く?」

幼馴染「せっかくなので、二段ベッドの上の段を希望します」

幼友「ずるいぞー」

男「二段ベッドはふたつあります。俺はどこでもいいので、二人とも上にどうぞ」

幼友「じゃあ、安心して乾杯ー」

男「乾杯ー」

幼馴染「おやすみなさいー」



215 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/02(土) 22:15:25 ID:NFwr0VfQ [2/4]


男「…さて、しっかり飲みました」プハー

幼友「ういー、酔ったぞー」プハー

男「それでは、おやすみなさい」

幼友「…ん」ジー

男「………?」

幼友「おやすみのキッスぷりーず」

男「…悪酔いしすぎです」

幼友「なんとでも言えー、そしてチューしろー」

男「それはできません。…おやすみなさい」

幼友「…胸には目を遣るくせに、意外と堅物なんだから」チッ

男「俺には甲斐性が無いので、女性は一人幸せにするので精一杯です」

幼友「はいはい、ごちそーさま。おやすみなさーい」



幼馴染「……………」ジーン



216 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/02(土) 22:16:41 ID:NFwr0VfQ [3/4]


男「ぐーぐー」

幼友「すぴーすぴー」

幼馴染「………」…ムクッ

トントントン…ゴソゴソ…

…テーイ、チュッ…チュッ、チュッ…

男「…ふが?…ぐーぐー」

トントントン…ゴソゴソ…

…テーイ、ゴキッ

幼友「ふぐっ!?」ピクピク…


…翌朝


男「おはようございます」

幼馴染「おはようございます」

幼友「おはよ…痛てて、何か…首が…」

幼馴染「寝違えましたか」ニヤリ



217 名前: ◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2013/11/02(土) 22:19:09 ID:NFwr0VfQ [4/4]


>>210
>>212
3Pモノは嫌いではないが、このSSでは無しです。すまぬ



218 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/02(土) 23:00:41 ID:Ghwj8.Wo


まあエロを求めてこれ読んでる奴はいないだろ



219 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/02(土) 23:24:15 ID:oSSWs9eM


乙乙



220 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/03(日) 00:36:13 ID:B/ONY2v.


おつ

エロシーンはいらないの

幼馴染「」ツヤツヤ

幼友「」ツヤツヤ

男「」ゲッソリ

こんなん



221 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/03(日) 10:52:11 ID:5Y/2js2s


>>218
いや一度でも催促されてエロを書いた酉使ってる奴相手なら
催促すればまた書くに違いないってのも多そうだぞ



222 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/04(月) 19:27:14 ID:1.shBJ.M


どんだけ飢えてんだよ…



223 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/06(水) 00:24:50 ID:N.nFGtak [1/3]


男「さて、こないだよろしく二日目は船を出します」

幼馴染「淡水でですか」

幼友「…という事は」

男「こちらの豪華客船になります」

幼友「わー、豪華ー」ヤレヤレ

幼馴染「すごーい、オールがついてて屋根が無ーい。まるで俗に言う手漕ぎボートみたーい」ハイハイ

男「お付き合いありがとうございます」

幼友「いえいえ」

幼馴染「毎度の流れですので、ご遠慮なく」



224 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/06(水) 00:25:43 ID:N.nFGtak [2/3]


幼友「このボートで何を釣るんですか?」

男「ワカサギを釣って晩酌のアテにしたいと思います」

幼馴染「嘘です、ワカサギは氷の上で釣るものです」

幼友「そーよ、丸い穴あけて釣るんだよねー」

男「もちろんそれも風流な釣り方ですが、それを味わいたければ真冬に氷点下の湖上に立つ覚悟で再訪しましょう」

幼馴染「遠慮しておきます」

幼友「同じく」

男「ではライフジャケットを装備して下さい」

幼友「またアンミラか…」

幼馴染「またぶかぶかか…」



225 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/06(水) 00:28:46 ID:smnsUwqk


この男、確信犯っ……!


226 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/06(水) 00:41:57 ID:N.nFGtak [3/3]


男「遊漁券はすでにキャンプ場で購入しているので、出発したいと思います」

幼馴染「出港でーす」

幼友「よーそろー」

男「手漕ぎボートもたまにはのんびりしていて良いものです」

幼友「でもなんか、どこの貸しボートも恋人同士で乗ると別れるって話がありますよね」

男「全くです、むしろ別れたい二人が貸しボートに乗ってるだけなんじゃないかと思わされます」

幼友「言えてますねー、彼氏が貸しボートに誘ったら別れ話の合図と考えた方がいいのかも」

男「別れの台詞は『もう俺達、ボート乗ろうか』ですね」

幼友「あはは、可笑しー」

幼馴染「あの…二人じゃなくとも、私と男…ボートに乗ってるんですが」ウルウル



227 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/06(水) 10:24:37 ID:e3ajMYlU


つまり二人の邪魔してる幼友が別れて居なくなるんですね



228 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/08(金) 18:47:27 ID:EeshmZYc [1/2]


誰も幼友貰わないみたいなので貰って行きますね♪

乙です!
竜も釣りも両方とも好きだーー



229 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/08(金) 20:20:22 ID:ysh0zfFs


じゃあ私は男を貰います



230 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/08(金) 21:38:34 ID:lulQG9WE


>>229
てーい( ゚∀゚)=◯)`Д゚)・;'



231 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/08(金) 22:06:12 ID:EeshmZYc [2/2]


>>230
幼馴染降臨



232 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/08(金) 23:50:30 ID:T/mruwlc


では幼馴染ちゃんください



233 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 04:25:13 ID:/.6DtXNc


>>232
とーう( ゚∀゚)=◯)`Д゚)・;'



234 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/09(土) 05:17:09 ID:6UX8SPYk


仕方がない
幼馴染と幼友の両方を貰うことで手を打とう



235 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/09(土) 07:54:38 ID:Ui.EE.U2


>>234
てーい( ゚∀゚)=◯)`Д゚)・;'



236 名前: ◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2013/11/09(土) 08:27:30 ID:vyvPHclo


レスさんくす
知らない間に幼馴染が暴徒と化してる…
そろそろこっちも更新します



240 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 12:34:26 ID:fBFSLrJ6 [1/2]


>>228
「滝」とはなんぞ。
読んでみたいのだが、教えて下され。



241 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/09(土) 13:31:30 ID:t74JqMZc


>>240

さんずいいらんがな



242 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/09(土) 13:40:39 ID:SGcH/Nsw


>>240
農夫と王女と七竜(←惜しい)
ただこのSSとは全くのジャンル違い
>>1もそれを気にしてここで宣伝はしてないみたいだから
好みじゃなくても文句言ってやるなよ



243 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 14:18:55 ID:fBFSLrJ6 [2/2]


>>240
失礼。「竜」だすな。

>>242
ありがとうです。

釣り「淡水編」はやく書いてほしいです。



244 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 17:48:22 ID:p8wPT4ik


最終回はトローリング巨大カジキマグロとの死闘だと勝手に思い込んでる



245 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/09(土) 20:49:42 ID:ahyAVR5A


いや待て
どうして死闘と言うのに相手を魚に限定するんだ?



246 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/09(土) 22:23:54 ID:w2rtGvvg


しかしてーいはある



247 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/09(土) 22:41:18 ID:cAqNZaig


>>245
つまり鮭をめぐって熊と死闘を繰り広げると



248 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/10(日) 10:55:59 ID:bZ4VpPps


てーい( ゚∀゚)=◯)`Д゚)<クマー・;'



249 名前: ◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2013/11/10(日) 12:47:28 ID:/CbEq6do


レスたくさん感謝、なんか雑談に近いがこのスレはわいわいしてていいと思う

>>239
許して

>>242
助かる、さんくす

>>243
待たせた

>>244
無茶言うわ

>>248
幼馴染、クマより強えのか



250 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/10(日) 12:49:25 ID:/CbEq6do [2/7]


男「この辺で竿を出しましょう。まずはボートをアンカーで固定します」

幼馴染「ここでいきなり趣旨を変えますか」

幼友「じゃあ今日の幼馴染ちゃんのパンツの色を>>257

男「それは安価です。アンカーとは船を固定するために沈める重り…これです」

幼馴染「鈍器になりそうです」

幼友「キノコ?」

男「マッシュルームアンカーという形式です。では投げ込んで下さい」

幼馴染「てーい」ダッパーン

男「ではロープを弛ませて持っておいて下さい、少し移動します」

幼友「アンカー落としたまま移動するんですか?」

男「…このくらいでいいでしょう。ここでもうひとつ、アンカーを投入します」

幼友「とーう」ダッパーン

男「ロープに少し弛みをもたせて船尾のアイボルトに結んでおいて下さい。幼馴染はロープを張っていって下さい」

幼友「なるほどー、二点から少し斜めにロープを張るんですね」

男「それによって風でボートが回らないようにするのです」



251 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/10(日) 12:50:04 ID:/CbEq6do [3/7]


幼馴染「竿、短いです」

男「相手はワカサギですので。それに狭いボートの上では短い方が楽です」

幼友「おー、針いっぱい。サビキみたい」

男「ではエサをどうぞ、こちらです」

幼馴染「ご冗談を」

幼友「これは大根の輪切りですよ?」

幼馴染「ご丁寧に真ん中に田楽味噌まで乗せてあります。でも生では頂けません」

男「真ん中のは味噌ではありません、よく見て下さい」

幼馴染&幼友「はい…?」

アカムシ「ハロー」

幼馴染&幼友「ぎゃあああああぁぁ!」



252 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/10(日) 12:50:35 ID:/CbEq6do


男「アカムシはとても小さいので、大根の上で直接針刺しします。二、三匹プチッといって下さい」

幼友「まあ直接触らないだけマシなのかな…」プチッ

幼馴染「がんばります」プチッ

男「それではいよいよ仕掛け投入です。オモリが底に着くまで沈めて、すぐ巻いて糸フケを無くします」

幼馴染「てーい」

幼友「とーう」

男「更に少しだけ巻いて、10cmくらい底を切り、一定のリズムで揺らして誘います。誘い幅は5cmくらいが普通です」

幼友「とう、とう、とう…」チョコチョコ

幼馴染「………おかしい」

男「何がでしょう」

幼馴染「こんな小さな動作では、おっぱいが揺れないはずです。男がこんなやり方を勧めるわけがありません」

男「あくまで今までのポヨポヨは副産物です。俺を何だと思っていますか」

幼馴染&幼友「確信犯だと誰かが言っていました」



253 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/10(日) 12:51:05 ID:/CbEq6do [5/7]


男「ところで、何故かボートが回っている気がするのですが」

幼馴染「私もそんな気がします」

幼友「あれ?…ロープが解けてる」

男「幼馴染が結んだ方ですね…ちゃんと結んでおいて下さい。仕掛けが絡まってしまいます」

幼馴染「失礼な!私はちゃんと結びました!」

男「何結びで?」

幼馴染「蝶々結び」

男「貴女はアホの子ですか、引き解けない結び方にして下さい」

幼馴染「男にアホ呼ばわり…くっ、殺せ」

幼友「何故に囚われの女騎士?」



254 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/10(日) 12:51:36 ID:/CbEq6do [6/7]


幼馴染「てい、てい、てい…」チョコチョコ

幼友「とう、とう、とう…」チョコチョコ

男「根気よく続けて下さい。ワカサギも群れで移動します、群れが入れば次々と入れ食うはずです」

幼友「簡単に釣れるんですか?」

男「ちゃんとそこに魚がいて、誘いさえできていれば結構簡単です。ひとり100匹を目指しましょう。食ったら解りやすくツンツンします」

幼馴染「てい、てい… 解りやすくなんてしないんだからっ!勝手にそっちで気付いてよね!」

男「誰も俺に解るようにツンデレろとは言ってません」

幼友「…という事は食ってるんだから、ボケる前に上げようよ」

幼馴染「おお、2匹もついています」

幼友「いいなー、とう、とう…う、うらやましくなんかないんだからっ!私にだって釣れるもん!」

男「いいから上げていきましょう」



255 名前: ◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2013/11/10(日) 12:52:07 ID:/CbEq6do [7/7]


ちなみに安価は生きてます
よかったら



256 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/10(日) 13:03:29 ID:iVYkTNzw


パンツFoooooooooooooooo!!

お疲れ様です



257 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/10(日) 13:22:19 ID:B9DC28HY


オトナブラック


258 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/10(日) 13:54:18 ID:Hp/GFbhc


え?履いてたの?



259 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/10(日) 21:18:59 ID:6m033GjU


勝負下着ですか



260 名前: ◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2013/11/10(日) 21:45:17 ID:AAUpi6K6


>>257
把握した、暫し待たれよ



261 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/13(水) 14:04:25 ID:42lNeVKg [1/4]


幼友「どんどん釣れるねー、楽しい!」

幼馴染「群れが入ったという状態なのでしょうか」

男「まさにそうです。ずっと続けば良いのですが、なかなかそうもいきません」

幼友「でももう結構釣れてますよ」

男「まだまだ、いったん群れが離れても次を待ちます」

幼馴染「てい、てい、てい、て…」

…ジュボッ

幼馴染「…何か今、変な音がしました」

幼友「まさか、こんなところで…」

…ズボッ

幼馴染&幼友「なっ!そこまで…!?」

男「あの音はブラックバスが水面で獲物を食う時の音です」

幼馴染「なんだ…」ホッ

幼友「なんだ…」チッ

男「何の音だと思ったのか、俺にはさっぱりです」



262 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/13(水) 14:04:58 ID:42lNeVKg [2/4]


幼友「この湖にもブラックバスがいるんだね」

男「もはやいない淡水域を探す方が難しいほどです。実際、由々しき問題だと思います」

…ズバッ

男「…………」ピクッ

幼馴染「ん…?」

…バシャッ

男「………」

幼馴染(…気のせいでしたか)

…ズボォッ!

男「……!!!」ピクッ

幼馴染「…男、手が止まっています」

幼友「どうかしたんですか?」

男「な、なんでもありません」

幼馴染(…もしかして)



263 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/13(水) 14:19:01 ID:42lNeVKg


幼馴染「…男、我慢していますか?」

男「……!」

幼馴染「…その気持ちは解らなくも無いのですが、我慢のし過ぎも良くありません」

男「………」フルフル

幼馴染「たまには…欲望を解放しても良いのでは」

男「………」

幼馴染「…ここでしますか?」

男「…ここではだめです」フルフル

幼馴染「私は構いませんよ…?」

男「幼馴染が良くても…我慢です」

幼馴染「だって男、つらそうです…見ていられません」

男「でも…ここじゃ…」

幼馴染「…今日は持っているのですか…?」

男「………」コクン

幼馴染「じゃあ、我慢しなくていいです。…出して、スッキリしましょう?」ニコッ



264 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/13(水) 14:34:07 ID:AktWeP.s


吐くのか



265 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/13(水) 15:20:36 ID:42lNeVKg [4/4]


男「でも、恥ずかしいです」

幼馴染「したくなったものは仕方がありません」

男「…いいのでしょうか」

幼馴染「男、しよう…?」

幼友「ストップ!何をしようってんですか!私の目の前で!」

男&幼馴染「え?」

幼友「どうりで朝風呂の時、幼馴染ちゃんが大人ブラックなパンツ履いてると思ったよ!」

幼馴染「何をバラしますか」

幼友「このSSで3Pは無いと宣言してたじゃないですか!」

男「大人なブラックも魅力的ですが、何か勘違いをしています」

幼友「え?」

幼馴染「男、やっぱりブラックバス釣りをしたいのですね。昨日あんな事を言ったから、言い出すのが恥ずかしかったのでしょう」

男「でも、ここではダメです。ブラックバスを釣るなら、それを観光資源として遊漁を認めている場所でなければ、俺自身のプライドが許しません」

幼友「…腹立つわ、こいつら」



266 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/13(水) 15:22:29 ID:tQbJVQgc [1/2]


オトナブラックはいてたら勘違いしてもしょうがない



267 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/13(水) 19:46:31 ID:3Oa4WBhw [1/4]


…帰り道


幼馴染「結局、今日はブラックバス釣りはしませんでした」

男「来週、また誘います。遊漁指定の湖はかなり遠いので、今度は二泊三日になると思います」

幼友「来週か…行けるかな」

幼馴染「来なくていい…」ボソッ

幼友「聞こえてるから」

男「今日はあと釣具屋に寄って帰りますが、構いませんか」

幼馴染「まだ時間も早いので構いません。来週の準備でしょうか」

男「ルアーは腐るものではないので、足りない物はもう備えておきます」



268 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/13(水) 19:47:09 ID:3Oa4WBhw [2/4]


男「釣具屋に着きました」

幼友「おー、私そういえば釣具屋さんって初めてです」

幼馴染「幼友、エサ見に行きましょう。赤面モノな奴がいます」

男「ユムシの事ですか。では、俺はルアー用品の方へ行きます」

幼友「いってらー」

幼馴染「では、また後で」


…ルアー用品売場


男「ラバジの素材…白と、ライムグリーンと…」

「ホントニヤバイコレー!」
「ネー!?ダカライッタデショ!」
「ワー!ウゴイテルー!」
「コッチノスイソウハ、オオキイサイズダッテー!」
「キャー!タクマシイー!」
「オトコー!チョットコッチニキテクダサイ!」

客A「なんか女の子がエサ見て騒いでんぞ」

客B「可愛いけど、ユムシ見て大興奮は引くわ…」

男(関係ない、俺じゃない…)



269 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/13(水) 19:47:57 ID:3Oa4WBhw


…幼友のアパート


幼友「またまたありがとうございました、来週も行けそうなら行きたいです」

男「声を掛けます、無理で無ければ是非」

幼馴染「無理はしなくていいです」バイバーイ

幼友「ちぇっ、無理してでも行ってやるー」バイバーイ


…幼馴染宅


幼馴染「また来週も行きます」

男「もちろん、必ず誘います」

…チュッ

幼馴染「てーい!てーい!」

男「痛いです、まだ照れ隠しをしますか」

幼馴染「…習慣です」



270 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/13(水) 19:48:57 ID:3Oa4WBhw


淡水の釣り編、おわり

次はブラックバス釣り編いくぜ



271 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/13(水) 19:54:29 ID:V8oB5sCw



楽しみにしてるぜ



272 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/13(水) 20:05:37 ID:W/Al6jH2


てーい



273 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/13(水) 20:29:33 ID:R9N0RxTk


しえんてーい!



274 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/13(水) 20:53:29 ID:ADO7o5IE


てーい!



275 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/13(水) 20:58:25 ID:1LbzkJfI


とーう!



276 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/13(水) 21:00:10 ID:tQbJVQgc [2/2]


てい、てい、てい…



277 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/13(水) 21:14:21 ID:vpe9A4B6


幼馴染増殖中



278 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/13(水) 21:41:16 ID:MNCY4rbM


とーう( ゚∀゚)ノ≡▼



279 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/13(水) 21:44:42 ID:EElACAI.


>>278
男のブーメランパンツですね



280 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/14(木) 00:38:25 ID:QSSLbMxw


てーい!



281 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/14(木) 08:11:55 ID:tldFv5HU


とーう! 幼友prpr


282 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/15(金) 02:59:24 ID:L68g8kiI


てーい!てーい!



283 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/15(金) 17:12:13 ID:fRM9qQgg


てーい!てーい!
ブラックバス編はまだですかいな。



284 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/17(日) 06:35:10 ID:gVpOe.RA [1/3]


男(…平和です)

男(夕暮れ過ぎ、ベタ凪の防波堤、ディーゼル漁船の航行音…)

男(そして微動だにしない、電気ウキ)

男(…突然思いたったので、幼馴染も誘わず一人で釣行に臨んでしまいました)

男(まあ、平日だから仕方がありません)

男(日付が変わるまでには帰るとしましょう…)

男(…単独での釣行も気ままで良いものです)

男(…………)

男(エサ…付け替えますか)

男(よし、今度こそ釣れますように…)

男「………てーい」ボソッ

男(なんて……)フウ…

男(……少し、寂しいです)



285 名前: ◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2013/11/17(日) 06:36:21 ID:gVpOe.RA [2/3]


何気に番外
バス編ももうじき始めます



286 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/17(日) 08:32:01 ID:jh.l7.UQ




誰かに遭遇してもええんやで



287 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/17(日) 08:54:45 ID:bpFQabiM [1/2]


電柱|∀゚)テーイ



288 名前: ◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2013/11/17(日) 09:45:23 ID:gVpOe.RA [3/3]


>>286
さすがにこの後バス釣り編を書いたら、このシリーズも終わりかな…
…と思ってたんだけど、このレスのせいでSSまる一つ閃いた
どうしてくれる



289 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/17(日) 09:58:57 ID:Nd8KVigo


構わんやれ



290 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/17(日) 10:09:48 ID:HswjIwKg


>>288
このシリーズは続けてもいいんやで\(^o^)/

っか、お願いします。



291 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/17(日) 13:36:40 ID:NuxAvtRU [1/2]


遭遇…

今までのシリーズの誰かがゲストか?



293 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/17(日) 18:07:34 ID:KeUga6NA


釣りssだけど釣りばっかりじゃなくてもええんやで
もっといちゃいちゃが見たいんや



294 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/17(日) 23:03:45 ID:bpFQabiM [2/2]


>>288
私は一向にかまわんッッ



295 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/18(月) 01:10:48 ID:4UQKz.5M [1/3]


幼馴染(……ヒマです)

幼馴染(ケータイ…)モゾモゾ…ピッ

幼馴染(友達リスト…男…トーク…LINEスタンプ無差別連打攻撃を喰らうがいい)スパパパパパ

幼馴染(…………)

幼馴染(…………)

幼馴染(……既読がつきません)

幼馴染(電話をかけてみますか)

ピッ…《……現在電源ガ入ッテイナイカ電波ノ届カナイ…》ピッ

幼馴染(……どうせどこかの水辺なのでしょう)ヤレヤレ

幼馴染(でもこの調子だと、浮気中に電源を切っていても『釣りだった』で誤魔化されそうです…)

『……俺には甲斐性が無いので、女性は一人幸せにするので精一杯です』

幼馴染(…まあ、信じるとしましょう)クスッ

幼馴染「………てーい」ボソッ

幼馴染(釣り…したいな)



296 名前: ◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2013/11/18(月) 01:14:33 ID:4UQKz.5M [2/3]


思いつきの番外で間を繋ぎつつ、バス釣り編準備中
>>288で思いついた宣言したやつはバス釣りの後で書こうかな


.
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テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

  1. 2013/11/14(木) 14:41:01|
  2. 釣りSS
  3. | コメント:0

農夫と皇女と紅き瞳の七竜『第二部』(原題/同じ)

第二部

と砂漠と反逆の師団』



188 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/02(土) 14:22:13 ID:8Z/QAnKk [2/7]


……………
………


…砂漠地帯、三日目


男「…副隊長、水は保ちそうか」

月の副隊長「今、進んでいる方向に狂いが無ければ、オアシスの集落までは問題無いでしょう」

男「狂いがあった場合は?」

月の副隊長「…約120の干物が出来ますな」

男「そりゃいい肴になりそうだな…渇竜にとっての」


当たり前だが初めて訪れた砂漠、どんな所か話は聞いていたのに少々なめていたかもしれない。

歩きにくさもあってか、兵も下を向いて歩を進めている。

それ故に幾分か隊列が乱れがちだ。

振り返るといつも俺のすぐ後ろに着いていたはずの女が、少し離れている。


男「女、できるだけ離れるな。砂に潜む魔物に狙われたらどうする…」

幼馴染「私が着いてるから大丈夫、気にしないで」

男「いや、お前も含めて隊列から外れるなよ」


女と幼馴染だけではない、時魔女とその副官も合わせて女性4人が隊列から外れ気味だ。

これを許せば隊の規範が乱れかねない。



189 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/02(土) 14:22:54 ID:8Z/QAnKk [3/7]


男「隊長命令だ、隊列に戻れ」

幼馴染「うるさい、大丈夫だからほっといて」

時魔女「男の鈍ちん」


なんだ、この言われようは。

いかに幼馴染は直接の部下では無いし、時魔女は本来なら俺と同列の立場であろうとも、ここはビシッと言わねばなるまい。


男「お前ら、身勝手な事を言うんじゃない!砂漠の行軍が大変なのは皆一緒なんだぞ!」

月の副隊長「隊長殿、察してやりましょうぞ」

男「副隊長まで…何を甘い事を」

月の副隊長「…失礼ながら、確かに鈍いかもしれませんな。隊長殿、砂漠に入ってから三日…風呂も行水もお預けなのですぞ」


…ああ、なるほど理解した。

臭いのか、俺も、皆も、彼女ら自身も。


男「…今日中にオアシスまで行けるか」

月の副隊長「微妙なところですな」


道理で昨夜、夫婦となってから初めて別々に寝ると言い出したわけだ。



190 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/02(土) 15:37:19 ID:8Z/QAnKk [4/7]


……………
………


…その夜、オアシスの集落


男「酋長殿、この度は宿の提供を感謝する」

酋長「何という事はありませぬ。数知れぬラクダを奪ってきた憎きヴリトラを征伐して下さるのであれば、こんな有難い事は無い」


小さなかがり火の灯るテントの中で、砂漠の民の酋長である老人は言った。


酋長「ヴリトラは砂に潜み、砂を泳ぐ竜…砂漠で地震のような大地の震えを感じたら、注意召されますよう」

月の副隊長「砂に潜む…か、やりにくそうですな。酋長、どの辺りでよく現れるのか?」

酋長「いかに渇竜といえど、水も無くては生きていけませぬ故…このオアシスを中心とした半径10マイル以内に現れるのが殆どでございますな」


半径10マイルとは、出会うだけでも難しそうだ。

しかし砂に潜むという事は、逆に砂の無いところには現れないという事。


酋長「この集落は砂のすぐ下に厚い砂岩の岩盤があります故、ヴリトラに襲われる事は滅多とありませぬが…」

男「滅多に…という事は、時にはあるのか。岩盤があるなら砂を泳ぐ事はできまいに、どうやって」

酋長「年に数回の雨が降る日、ヴリトラは砂上に姿を現して這い回るのでございます。その時だけは集落を上げて見張りに努めなければなりませぬ」



191 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/02(土) 15:37:52 ID:8Z/QAnKk [5/7]


………



月の副隊長「年に数回、それも現れるのが半径10マイル中のどこか解らないのでは、雨を望み待つのも現実的ではありませんな」

男「そうだな…ラクダを囮に、その範囲を歩み続けるしかないか」


オアシスの畔を歩きながら、俺と副隊長は討伐の作戦を練る。


男「砂を泳ぐ竜か…サーペントを仕留めた要領に倣おうにも、砂を凍らせて固めるのは無理だろうな」

月の副隊長「時魔女殿の時間停止がどれだけ保つかが、鍵となりましょう」


ふと視界に、オアシスの水際に建てられた仮設のテントが目に入った。

テントの中にかがり火が焚かれているらしく、ほんのりと内側から照らされている。



192 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/02(土) 15:38:22 ID:8Z/QAnKk [6/7]


その出入口の前には、星の副隊長が佇んでいるのが見えた。


男「…副隊長、気を利かせようか」

月の副隊長「かたじけない」


我が副官は俺の元を離れ、想いを寄せる女性の方へ歩み寄ってゆく。

しかし、僅か手前で彼女から何かを告げられたと思うと、彼は慌ててこちらへ戻ってきた。


月の副隊長「隊長殿、戻りましょう。行ってはなりませぬ」

男「は…?」


どういう意味か解らずテントを見遣ると、その白い布に影が映り動いているのに気付く。

あれは…女だ。

それから幼馴染と、時魔女…か?



193 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/02(土) 15:39:01 ID:8Z/QAnKk [7/7]


星の副隊長がテントの中に向かって何かを言っている。


男「……?」

月の副隊長「見てはなりませぬ!行きますぞ!」


俺の様子に一段と慌てた風な副隊長、その雰囲気でようやく事を理解した。

テントに映る影は全員ハダカだ、行水しているのだろう。

しまった、シルエットだけどその身体のラインをしっかり見てしまった。

テントから時魔女が顔を出して何やら喚いている。


男「逃げるぞ、副隊長!」

月の副隊長「…御意!」


かがり火を中に入れるのが悪いんだ、俺たちは悪くない。

もし追求されたら、そう言おう。



194 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/02(土) 16:27:49 ID:r.NQjBHM [1/13]


……………
………


…四日後
…オアシスの東、10マイル地点


オアシスを日々の拠点として、各方向への探査を繰り返し始めて四日目。

未だにヴリトラもワイバーンも影を見せない。


男「…そろそろ引き返さないと、オアシスに戻れなくなるな」

時魔女「なかなか出て来ないねー」

星の副隊長「これより南は砂岩の露出が多い地域ですので、竜が潜む可能性は低いでしょう」


仕方が無い、明日はもう一度北の方向へ探査を進めてみる事としよう。


幼馴染「まあ、いいわ…オアシスを拠点としてからは、ちゃんと水浴びもできるし」

時魔女「誰かさんが覗くけどねー」

男「覗いてねえ!」



195 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/02(土) 16:28:52 ID:r.NQjBHM [2/13]


幼馴染「そういえば私、10歳くらいまでは男と一緒にお風呂入ってたのよー?」

男「余計な事まで言うな!」

時魔女「ひゃっほーう、女ちゃん妬けるー?」

女「子供の頃の事なんて、気にしませんっ」


砂漠の真ん中で、兵を引き連れて何を話してるんだか。

星の副隊長は別としても、女性が三人寄れば姦しいのは当たり前なのかもしれない。


俺が呆れて目を逸らした、その時だった。

隊列の左手、緩い砂丘の肌がサラサラと崩れてゆく。


幼馴染「…地鳴り………!?」


次第に大きくなる大地の震え。



『…砂漠で地震のような大地の震えを感じたら、注意召されますよう』



酋長の言葉が頭をよぎった、そして次の瞬間。


月の兵「うわああぁぁっ!」


隊列の最後尾でラクダを引いていた兵が叫ぶ。

振り返った先、そこで見たものは。



196 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/02(土) 16:30:06 ID:r.NQjBHM [3/13]


男「ヴリトラだ…!総員、散開!決して固まるな…!」


渇竜は砂中から顎だけを露わにし、ラクダを呑み込んでゆく。

弓兵が後ろ歩きに散開しつつ、矢をつがえた。

砂から覗けているのはごく一部分、ここで時間停止をしても有効な攻撃は出来そうに無い。


男「魔法隊、凍結魔法準備!弓兵…放てっ!」


どちらが下か上かもよく解らない、その巨大な顎に数十本の矢がたつ。

しかし刺さるのはその内の数本、うまく鱗の隙間に食い込んだものだけで、後はバラバラと砂上に落ちた。


サラマンダー戦で知ってはいたが、やはり竜の鱗は固い。

しかし僅かな痛みにさえ怒りを覚えたのか、ヴリトラが砂中に隠していた残りの体躯を露わにする。

砂丘を崩し、ついに見せたその姿は。


幼馴染「大きい!オロチと同じくらいはある…!」



197 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/02(土) 16:31:41 ID:r.NQjBHM [4/13]


現れた黒い鱗を纏いし竜は、腕も足も無い蛇のような姿だった。

胴体の太さは軽く10フィートを超え、体長はおそらく60ヤードに達するだろう。


男「時魔女!時間停止を!」

時魔女「了解…!魔力コンバート、時間停止モード…!」


しかし次の瞬間、ヴリトラは討伐隊の散開範囲を舐めるように見渡して、再度砂に潜ってしまった。

想像を遥かに超えるその潜行速度に、危機を直感する。


男「いかん!更に散開しろっ!足を止めるな…!」


女が俺の傍に駆け寄るが、兵だけでなく俺も止まっているわけにはいかない。


男「女、手を!走るぞ…!」


俺は女の手を左手で奪い、右手で剣を抜く。

その時、左前方の砂丘が盛り上がった。


星の兵「うわ…ああぁ…っ!」


姿を現す竜の顎、足を縺らせて転んだ兵がその牙にかかる。



198 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/02(土) 16:32:26 ID:r.NQjBHM [5/13]


時魔女「くっそ…!思ったより速くてロックオンできない…!」


海から現れるサーペントと違い、全く透明度の無い砂に隠れているが故に、現れる場所に予想がつかない。

時魔女が時間停止を発動できないのも無理は無かった。


咄嗟に目の端で捉えた砂丘の向こう、砂岩の一枚岩が覗いている事に気付く。


男「総員、あの岩まで走れ!急ぐんだっ!」


俺と女が100ヤードほど離れたその岩に辿り着くまでに、更に三度の襲来を受け五人の兵が顎に呑まれた。

岩の上で振り返ると、まだここに達せず走る兵の姿もある。


男「早く…!早くしろっ!」

月の副隊長「いかん…!」


その中の一人、最も遅れていた者が転ぶのが見えた。

その一人とは…


月の副隊長「くっ!…竜になど呑ませるものかっ!」


叫んだ彼は倒れた者…星の副官の元へ走った。

彼女の直下、砂丘が揺れる。



199 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/02(土) 18:34:02 ID:r.NQjBHM [6/13]


男「副隊長っ!回避しろ…!」


星の副官の周囲の砂が盛り上がり、竜の顎がせり出した。

駆け寄った我が副官が、星の副官を抱え逃れようとする。

閉じられんとする巨大な顎。


女「…させないっ!」


その寸前、竜の口の中に5フィート程の氷塊が生まれ、顎は完全に閉じきらなかった。

かろうじて2人はその牙を脱し、砂上に倒れ込む。


月の副隊長「星の副官殿!早く岩に…!」

星の副隊長「しかし!」


伏せたままの我が副官の周りの砂には、夥しい量の血が染みていた。



200 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/02(土) 18:34:41 ID:r.NQjBHM [7/13]


ヴリトラは既に砂中に沈み、いつまた二人を襲うとも知れない。

最も近い位置にいた兵士数名が駆け寄り、負傷した副隊長を抱え上げた。


時魔女「座標、ロックオン!」


刹那、岩盤上から時魔女の姿が消える。

彼女の姿が移動したのは、副隊長らから5ヤードばかり離れたところ。

すぐにまた胸に手を翳して魔力を変換し始めているが、彼女はその場で立ち尽くし動こうとしない。


時魔女「空間跳躍モード、コンバート完了…座標よし!」


囮となった彼女の周囲で砂が弾ける。



201 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/02(土) 18:35:14 ID:r.NQjBHM [8/13]


一瞬にして露になり、ばくん…と音をたてて閉じられる顎。


男「時魔女は…!?」

時魔女「ここにいるよー、ぎりぎりセーフ…」


俺のすぐ隣の岩盤上から、彼女の声がした。

副隊長も兵士に抱えられて、ようやく岩の上に運ばれる。


男「無茶な事を…、左足がズタスタじゃないか」

星の副隊長「申し訳ありません…!私が愚図な真似を…」

月の副隊長「何…そなたの上官殿がおらねば、命も無かったのだ」

男「時魔女、時間逆行は使えるか」

時魔女「連続して跳躍したから、少しの間は無理…何分かして試してみるから、ちょっと我慢して」



202 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/02(土) 18:35:48 ID:r.NQjBHM [9/13]


ヴリトラは時おり頭を出しては周囲を窺い、また砂中へと消える。

いつ砂上を這って攻めてくるかもしれない、そして今はまだ時間停止で安全を確保する事もできない。

岩盤上にいたところで、いつまで凌げるものか。


男(どうする…何とかして竜を砂上に留め、動きを封じなければ)


…竜は砂中を泳ぐ。


男「女…凍結魔法で氷を作るのは、どの位の大きさまでいける…?」


唯一、竜が砂上を這うのは。


女「完全詠唱で、直径5ヤード程の球形を作ってみせます」

男「それを何回、放てるんだ」

女「…4回…いえ、5回は」


集落が竜に怯えるのは雨の日…酋長はそう言った。



203 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/02(土) 18:36:27 ID:r.NQjBHM [10/13]


男「女、砂上に氷を作れ!球形じゃなく、できるだけ広い範囲に!できるだけ薄く…!」

女「…は、はい!」


彼女が完全詠唱に要した時間はおよそ20秒ほど、魔法隊のそれよりもずっと早い。


女「いきます!」


女が両手を砂漠に翳す。

耳の奥が凍りつくような甲高い音、砂漠の一部が厚さは3フィートほど広さは直径15ヤードに迫る円形の氷の板に覆われる。


男「魔法隊!火炎魔法を詠唱開始!合同ではなく、各自単体…!広い範囲を焼くつもりでいけ!」

魔法隊「はっ!」

男「幼馴染!あの炸裂の矢で氷を砕いてくれ!」

幼馴染「了解…っ!」

女「次!いきます!」



204 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/02(土) 18:36:59 ID:r.NQjBHM [11/13]


俺の考えが正しければ雨の日に竜が砂上を這う理由には、砂中の水分が影響している。

濡れた砂は乾いたそれより、ずっと重く泳ぎ難いだろう。


幼馴染「あらかた砕いたよ!」

魔法隊「火炎魔法、発動できます!」

男「氷を溶かすんだ!放てっ!」



『いかに渇竜といえど、水も無くては生きていけませぬ故…』



そして生きるために水を必要とするなら、他の生物と同じように空気も必要なはず。

湿った砂の中で、思うように呼吸はできまい。



205 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/02(土) 18:37:30 ID:r.NQjBHM [12/13]


氷を作っては砕き、溶かす。

最初の一地点の次は少し間を開けた地点に。

竜が顔を覗けた場所を取り囲むように、砂を濡らしてゆく。


足元に岩盤が露出しているという事は、竜のいる辺りも深くには同じ層があるのではないだろうか。

そうでなくとも砂丘の地下、集落のオアシス水面と同じレベルラインには水脈があるに違いない。

だとすれば、竜の泳げる渇いた砂の範囲は既に無くなってきているはず。


女「…これで…最後です…っ!」


連続した完全詠唱の凍結魔法を繰り出し、女は限界に達していた。

最後の氷盤を砕いた幼馴染も片膝をつき息を弾ませている、やはり魔力を籠めた矢を射るのも負担は大きいのだろう。

火炎魔法を放つ魔法隊、彼らも同じなはずだ。


男「…ご苦労だった。岩盤の中央に寄り、息を整えろ」



206 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/02(土) 18:38:59 ID:r.NQjBHM [13/13]


ここ数十秒、竜はその姿を現していない。

逃げたか…それとも。


時魔女「…砂が!」

星の副隊長「竜が浮上します!」


大きく盛り上がり、湿った砂を散らす砂丘。

その範囲は頭だけを露わにしていた時の比では無い。


男「苦しかったろう…息もできず、身動きもままならず」


最初に現れて以来、二度目…その全身を砂上に現した竜が俺を睨みつける。

その紅き右瞳は、怒りに満ちていた。



211 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/03(日) 03:18:24 ID:yUTTq.qc [1/7]


男「弓兵、一斉掃射!」


矢の弾幕が放たれる。

真っ直ぐにこちらへ這い進ませてはいけない。

砂が濡れた範囲から出す事も許されない。


男「魔法隊!動ける者だけでいい、凍結魔法で周囲を塞げ!」

魔法隊兵長「我ら魔法隊、動けぬ者などおりませぬ!貴様ら、命を魔力に変えてでも放て!」

魔法隊「おおおっ!」

男「よくぞ言った…!槍兵、俺に続け…!討って出るぞ!」


砂上に現れた竜の動きは幾分か鈍い。

尾による打撃を受ければひとたまりもないが、直接の攻撃は不可能では無いだろう。


男「正面は矢の弾幕を浴びる!両側から攻めるぞ!」



212 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/03(日) 03:19:52 ID:yUTTq.qc [2/7]


竜の身体に剣撃を浴びせる。


男(やはり固い、切り裂く事はできないか…!)


槍兵の攻撃は鱗の隙間を突き、小さくもダメージを与えている。

しかしこれではとどめを刺すには至らない、この巨体を相手に消耗戦など挑むべきでないのは明らかだ。


男(…剣がたたないまでも、刃こぼれをするほどじゃない。金剛石よりは弱かろうよ!)



《充填開始…10%…30%…50%》



握った剣に闘気の光が蓄えられてゆく。


「弓兵!掃射中断!」


俺は竜の眼前を目指し、駆けた。



213 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/03(日) 03:21:17 ID:yUTTq.qc [3/7]


………



月の副隊長「時魔女殿!隊長殿は一撃で決するおつもりです!時間停止の補助を…!」

時魔女「でも!今、時間停止を使ったら副隊長さんの足を治せなくなっちゃうよ!」

月の副隊長「私の足ごときと指揮官の命!どちらが重いかなど、比べるにも価せぬ事!早く…!」

時魔女「う…うう…ごめん、副隊長さん!魔力コンバート、時間停止モード!」

月の副隊長「それでいい…頼み申す」

時魔女「目標ロックオン…!」



214 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/03(日) 03:21:54 ID:yUTTq.qc [4/7]


………




《…70%…90%…》



ヴリトラはその大顎を開き、俺に喰いかからんと咆哮をあげる。


男(くそ…もう体勢を整えやがった)


剣を振るうのが間に合わないかもしれない、いったん間合いを取り直すべきか…そう考えた時。

前触れも無く、重力に対して不自然な体勢で渇竜は動きを止めた。


時魔女「男!早く…!七竜を長くは止められないっ!」

男(時間停止か…!今しか無い、一撃で仕留める!)



《…100%、充填完了》



サラマンダーに対してそうしたように顎の中を貫くべきか。

しかし地に堕ちた火蜥蜴よりも、ヴリトラが地上を這い回るスピードは速い。

魔法隊も女も消耗しきっている、凍結魔法でとどめを刺す事もできまい。

俺の一撃がとどめとならなければ、この竜は女達のいる岩盤に迫るに違いなかった。



215 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/03(日) 03:23:09 ID:yUTTq.qc [5/7]


ならば、狙うのは心臓だ。


男「頼むぜ…剣よ!」


開かれた竜の顎の付け根に剣を振るい、刃をたてたまま胴を切り裂きつつ体躯の側面を駆ける。


男(いいぞ…切れる…!)


闘気の充填された剣は、その鱗を布のように切断してゆく…しかし。


巨体の三分の一ほどまで刃を進めた時、不意に切っ先が重くなる。


男(光が失われていく…剣から闘気が果てたのか…!)


同時に動きを取り戻し身を捩り始める竜、そして流動を得て吹き出す鮮血。

俺は剣を抜き、数歩ほど竜から離れた場所で砂上に膝をついた。


男(くそ…やはり動けん…!竜は…!?)


血を撒き散らしながら、竜は暴れている。

しかし、その動きは力を失ったものではない。

剣撃による傷は竜の心臓にまで達してはいなかったのだ。



216 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/03(日) 03:24:41 ID:yUTTq.qc [6/7]


怒りでより紅く染まったかに見えるその右瞳が、動けない俺を捉える。


男「くそっ…!」


切り裂かれた胴の力を奮い、ヴリトラは鎌首をもたげた。

口を開き、勝ち誇ったかのような咆哮をあげる。

それを見ながら、俺は逃げる事も叶わない。


幼馴染「男が近過ぎる…炸矢が射てない…!」

女「男さんっ!」


霞む視界の端、女が岩盤上から駆けてくるのが見えた。


男「いかん!来るな…!」

女「…嫌ですっ!」


数名の槍兵も事態に気付き、動こうとしている。

しかし間に合う程に近くはない。


時魔女「魔力コンバート!…くそぉっ!まだロード出来てない…!」


ヴリトラの牙が迫る。



217 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/03(日) 03:25:28 ID:yUTTq.qc [7/7]


「男さん…!」


女が俺の身体を抱き庇おうとした時、不意に周囲が暗くなった。

竜の顎に飲まれたか…いや違う、日が遮られたのだ。

未だ渇竜の牙は俺達に届いていない。


男「うおっ…!?」

女「…きゃあっ!」


事態を理解出来ぬまま、今度は強烈な突風を受けてよろめく。

俺は女に支えられながら、砂上に陰を落とす主を見た。


そして息を飲む。


心臓が強く動悸を打つ。


恐怖とは違う感情をもって身体が震う。


渇竜の首に喰らいつき、低い空中に留まる者。


纏うは赤黒い艶を湛えた鱗。


サラマンダーのそれより、遥かに長く禍々しい六枚の翼。


忘れようもなく夢にすら見た、その姿。


冠する名は、翼竜。


男「ワイバーン……!」



218 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/03(日) 10:09:29 ID:BGSTdDgI [1/4]


俺の頭上に鮮血の雨が降る。

翼竜は首に喰らいついたまま自らの身体を捻り、ついにヴリトラの頭部を噛み千切ったのだ。


男(竜が竜を喰らうだと…!)


指示を待たず、弓兵がワイバーンに矢を放つ。

俺は女と槍兵に肩を貸されながら、少しの間合いを確保した。


男「掃射を止めろ…!翼竜を刺激するな!」


本当なら今すぐにでも、この竜を地に堕としたい。

でもおそらくそれは叶わない、この状態で挑めば悪戯に兵を消耗するだけだ。


女「翼竜が飛びます…!」

男「くっ…!」


また襲いくる突風に砂が煽られ、まともに目が開けられない。

そうでなくとも剣撃以来、視界は霞んだままだ。

次の瞬間、既に翼竜の姿は遥か高みにあった。



219 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/03(日) 10:10:01 ID:BGSTdDgI [2/4]


ヴリトラの首を咥えたまま、隊の上空を旋回する翼竜。


男(このまま去るか…?)


まるで隊を嘲笑うかのようにゆっくりと羽ばたき、やがて身体を真っ直ぐこちらに向けた。

明らかに俺のいる位置を目指している。


月の副隊長「隊長…来ますぞ…!」


見る間に大きくなるその姿、その速度を前に躱しようがないのは明らかだった。



《充填開始…5%…7%…》



剣のトリガーを握るも充填が遅い、俺に力が残っていないせいなのだろう。


男「くそおぉっ!」


眼前に迫る竜に成す術も無い。

しかしその憎むべき悪魔は攻撃を加える事なく、佇む俺と女の頭上をフライパスしてゆく。

そしてそのまま再度遥か上空へと昇り、やがて砂丘の向こうへと姿を消した。



220 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/03(日) 10:10:32 ID:BGSTdDgI [3/4]



《…18%…20%…》



誰も声を発しない静寂の中、剣の人工的な音声だけが虚しく響いていた。

トリガーを放し、充填を続けるそれを砂に突きたてる。


男「くそっ…畜生おおおぉぉぉっ!」


俺は剣の柄に両手を掛け、膝を衝いて吼えた。


あの竜に救われるなんて。

ヴリトラから、そして翼竜自身から。


たった十数フィート、あと僅か低い高度を翼竜が通過していれば俺も女も弾き飛ばされ死んでいた。

それは容易い事だったはずだ、なのに翼竜はそうしなかった。


男「殺すまでもないってのかよ…!くそがっ…!」


俺は、確かに見た。

七竜に挑もうとするちっぽけな人間を憐れむかのような、翼竜の瞳を。


その右瞳が紅ではなく、紫に光っていたのを。



227 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/04(月) 10:45:42 ID:ieB.IhW6 [1/19]


……………
………


…その夜、オアシスの集落


風も無く鏡のように月を映すオアシスの畔、俺は独り砂上に座っていた。

ヴリトラがこの砂漠からいなくなったのは確かとしても、決して胸を張れるような結果ではない。


六名の兵士が散った。

そして本来なら今、隣に座り翼竜との再戦に向けた作戦を語り合うべき我が副官は、片足を失った。

討伐隊そのものの戦果は、疑う余地もない黒星と言えよう。


どの口が偉そうに二頭の竜を征伐して凱旋するなどと、それ以外の戦果は望まぬなどと兵に語ったのか。

ヴリトラにとどめを刺し損なった俺の斬撃、それを補助するために時魔女は時間停止を使った。

副隊長の足の治癒を差し置いて、俺の判断ミスとも言える行為のために。


副隊長の左足は止血のために縛られ、都度緩めてはいたがオアシスに帰る頃には壊死していた。

だから俺はこの手で、それを斬り落としたんだ。


男「はっ…!何が…ドラゴンキラーだよ…」


…知らなかった。

俺の剣は竜を討つためでなく、部下の足を切るためにあるらしい。



228 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/04(月) 10:48:42 ID:ieB.IhW6 [2/19]


女「…ここに居られましたか」


背後から柔らかな声がした。

振り向かずともその主は判る、それほど耳に馴染んだ…そして情けなくも今、最も求めていた声。

誰にも告げずにこの場へ来た癖に、本当はただひとり彼女に傍に居て欲しかった。

そして、気にかけていて欲しかったのだと思う。

我ながら女々しい事だ。


女「今日は、ご苦労さまでした」


彼女は言いながら俺のすぐ隣に座り、少し体重を預けるようにして寄り添った。


男「…俺は苦労など…時魔女に、副隊長に救われただけだ」

女「いいえ…討伐隊の隊長として、あなたは誰よりも心を痛めたはずです」

男「心を痛めるだけで、亡き者に報う事などできない。…今日の敗北は間違い無く俺の責任だ」


俺達が渇竜から逃れるために上がった岩盤。

戦いの後で気付けば、そこから南側には似たような岩盤が数十ヤード毎に点在していた。

つまりあの時、ヴリトラから逃れ体制を立て直す事も出来たのだ。

最初の奇襲で命を落とした兵を救う事は叶わずとも、副隊長が足を失う必要など無かった。



229 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/04(月) 10:49:20 ID:ieB.IhW6 [3/19]


男「まだろくに使いこなせもしない剣の力を…自分の力を過信して、俺は失策をとった」

女「…ほんの僅か、あと一歩のところだったじゃありませんか」

男「例えあと一歩でも、届かなければ…意味など」

女「そんな事ありません…あなたがヴリトラをあそこまで追い詰めていなければ、翼竜もそれを喰らわなかったはず」


きっと彼女は俺を激励するためにそう言ったに違いない。


男「翼竜に救われるなど!…死んだ方がましだ!」


それなのに捻くれた受け取り方しかできない今の俺は、声を荒げてしまう。

彼女の優しさは、解っているのに。

でも女は驚いた様子さえ見せず、ただ少しだけ厳しい目で俺を見つめながら言葉を続けた。


女「あなたはあの時、私も共に死ねば良かった…そう望まれますか?」

男「馬鹿を言え、死ぬのは俺だけでいい。そもそもお前まで危ない目に遭う必要は無かった…何故あの時」

女「同じです、私だってあなたの死など望まない」


それを聞き、思わず視線を逸らす。

身勝手を口にしているのは俺だ、自分でもそれは解っている。



230 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/04(月) 10:50:21 ID:ieB.IhW6 [4/19]


女「…犠牲となった方の事は、決して忘れてはなりません。それは私も承知しております」


俺が自らの我儘を悔いた事を察したのか、彼女はまた柔らかな口調に戻った。

そして言い聞かせるように、間をとりながら言葉を紡いでゆく。


女「それでも…私は、あなたが生きている事が何より嬉しい…」

男「………」


…どうしてだ。


女「男さん…私達が結ばれたのは、あなたがドラゴンキラーの戦士だったからかもしれません」


俺が望み、でも求められなかった言葉を。


女「でも…私にとってあなたは、ドラゴンキラーである前に私の大切な夫です」


何故、お前は知っている。


女「だから…生きていてくれて、ありがとう…」


きっと俺は真に受けてしまう。

生きている事を恥じるより、再戦に備え、次こそは勝利すればいい…そう考えてしまう。



231 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/04(月) 10:51:39 ID:ieB.IhW6 [5/19]


女は座ったまま、俺を抱き締めた。

俺はそれに身を任せ、柔らかな胸に頬を埋め肩を震わせている。


涙が零れたかは知れない。

例え零したのだとしても、女はそれを自覚させないためにこうしてくれているのだろう。

だから、泣いてなどいない…そう思う事にした。


男「……すまん、女…」

女「何を謝る事があるのです」


彼女の手が、赤子にそうするように俺の頭を撫でる。


女「…出会った夜に言いました。夫を支える事こそ、妻の役目」

男「そう…だったな」


いつだったか、女に言った。

俺には君が必要だ…と、その時は寧ろ女を励ますために。


女「男さん、今更ですけど…私はあなたを、お慕い申し上げます」


世の男はこうして弱味を握られて、女房の尻に敷かれてゆくものなのだろう。

そしてそれは、この上無く幸せな事なのだろう。



232 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/04(月) 12:57:00 ID:ieB.IhW6 [6/19]


……………
………


…月の国、北東の港町


男「…副隊長、必ず戻ってくれ」

月の副隊長「言われるまでもなき事、何…すぐでありましょう」


我が副官は、星の副隊長と共に彼女の国へ渡る事となった。

その国における彼女に与えられた本当のポジションは、技術開発局長なのだという。

彼女は力強く凛とした眼差しで「生身にも勝る最高の義足を作ってみせる」と誓った。


形はどうあれヴリトラが消え、おそらくそれを狙って砂漠に出没していたのであろう翼竜を探すあてが無くなった今、月と星の合同部隊はいったん解散する事となる。

出港してゆく、星の一団と我が副官を乗せた船。

およそ30名の隊員は船尾に整列し、同じく港に整列した我々に向かって敬礼を続けた。


ただ、その中で一人だけじっと下を向いている者がいる。



233 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/04(月) 12:58:15 ID:ieB.IhW6 [7/19]


………



時魔女「魔力コンバート、空間跳躍モード…」

星の兵「た、隊長…っ!?」

星の兵「どこへ跳ぶ気で!?…まさか!」

時魔女「副隊長、ごめん…」

星の副隊長「何を言っておられるのです。そんなに後ろ髪を引かれるなら、最初から船に乗らなければいいものを」

時魔女「うん…ありがとう」

星の副隊長「くれぐれも月の方々を困らせませんよう。…行ってらっしゃい、隊長」

月の副隊長「我が上官をよろしく頼み申す…!」

時魔女「座標ロックオン…いってきます!」



234 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/04(月) 12:59:17 ID:ieB.IhW6 [8/19]


………



男「…行っちまったな」

幼馴染「うええぇぇん…時魔女ちゃん…」


どうも幼馴染と時魔女は特別馬が合っていたらしい。

そういえば砂漠でも、一番どうでもいい会話で盛り上がっていたのは二人だった。


女「幼馴染さん、元気出して…」

幼馴染「なんか…妹みたいに思えて…うええぇぇぇん…」

時魔女「ボクだってお姉ちゃんみたいに思ってたよぅ…うわああぁぁぁん…」

幼馴染「ぐすん、時魔女ちゃん…また…会えるよね…」

時魔女「うん…今、会ってるよね…」


時魔女以外「……え?」


時魔女「ちゃお!」



235 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/04(月) 13:01:03 ID:ieB.IhW6 [9/19]


時魔女「ボク、男達と行く!どうせ翼竜との戦いでは時魔法が必要でしょ!?」

男「そんなの、自分で決められるのかよ」


仮にも星の討伐隊長であり、国の化学技術の粋を集めた唯一の時空魔導士…つまり人間兵器とも呼ぶべき者が、そんな自由気ままでいいのか。


時魔女「大丈夫!星の王からは自国の不利益にならなければ、自分の判断で行動していいって言われてるから!」

男「お前が居なくなる時点で、国に不利益な気がするんだけど」

時魔女「おー、随分買ってくれるねー。じゃあ、男にとっても貴重な戦力って事じゃない?」


まあ…どうしても帰国が必要なら、彼女の国からの伝令が入るだろう。

それまでは彼女の言う通り、貴重な戦力として同行願うとしようか。


それに、ここで無理に時魔女を帰国させようものなら。


時魔女「お姉さまー!」
幼馴染「おうおう、妹よー!」


…たぶん、矢に射られそうな気がする。



240 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/04(月) 16:41:53 ID:ieB.IhW6 [12/19]


……………
………


…港町の宿


幼馴染「それで、これからはどうするの?いったん王都に帰る?」

男「うん…それについて、昼にこっちから月王宛の通信を伝令所に託しておいたんだ」

時魔女「何か考えがあるの?」


俺は予め荷物の中から取り出しておいた地図をテーブル上に拡げた。

大きすぎて少しテーブルからはみ出すその紙上には、月の国全域が描かれている。


男「今、この港町だ。そして王都がここ…」

幼馴染「ふんふん」

男「この地図には他の国は載っていないけど、世界中で発生する翼竜の被害…その箇所を線で結ぶと、およそその中央になると言われるのが…この辺りだ」

女「この国の西部…未開の台地と呼ばれる地域ですね」


かなり詳細に描き込まれている筈の地図。

しかしそのエリアだけが空白となっている。



241 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/04(月) 16:42:28 ID:ieB.IhW6 [13/19]


幼馴染「故郷からはそう遠く無いところだけど…でもここは禁足地として定められてるはずよ」

男「…だからこそ今まで調査の手が入らなかった。でもここが翼竜の住処だという可能性は、極めて高い」

時魔女「じゃあ、月の国王に打診したのは…」

男「ああ…このまま、そこへ調査に行く事の許しを請うものだ」


それが何故なのかは解らないまでも、翼竜が砂漠に頻出していたのは渇竜の首を狙っての事だったに違いない。

だから討伐隊の手により渇竜が傷ついた、あの時を逃さなかった。

その目的が果たされた今、次に翼竜が現れる場所は見当もつかない。

仮にどこかの国を襲ったという情報があったとしても、次にまた同じところに現れるとは限らないのだ。

だとすればもはや住処を突き止める他に、万全の準備を期して翼竜を討つための手段は無い。


西部の台地が禁足地である事は解っている。

しかもそれは月の国に限った事ではなく、有史以前から世界中で語り継がれる様々な神話でも同じく描かれる、言わば人類にとっての禁忌。

それでも他に手が無い以上、月王も許さざるを得ないはず…そう考えた。



242 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/04(月) 16:43:01 ID:ieB.IhW6 [14/19]


…翌日


女「男さん、伝令文が返ってきました!」

男「…内容は?」

女「…それが……」



『我が国を挙げての部隊を禁足地へ向かわせる事は、周辺諸国との軋轢を生む火種となりかねず、承諾できるものではない。討伐隊は直ちに王都へ帰還せよ』



ぎりっ…という音が発つほど、奥歯を噛み締めた。


男(何故だ…王は本当に翼竜を討つつもりがあるのか)


国を挙げての部隊が赴く事が出来ないなら、俺が討伐隊を抜ければ良いのではないか。

そんな想いすら、脳裏にチラついた。

しかし一度こうして王から帰還の命を請けた以上、それに逆らえば反逆罪に問われかねない。

俺や幼馴染だけならそれでもいい、でも女や時魔女はどうなる。

例え不本意でも、今は命に従うしかなかった。



243 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/04(月) 17:27:52 ID:ieB.IhW6 [15/19]


……………
………


…数日後
…月の王都城内、謁見の間


男「…私に、砂漠を制圧せよと仰られるのですか」

月王「制圧とは穏やかでないな、言葉を選べ。開発部隊の援護をせよと命じたのだ」


砂漠に石油をはじめとした膨大な資源が眠るという話は聞いた事がある。

しかしあの砂漠はどの国の領有地でもないはずだ。


月王「いかにとどめを刺す事は叶わなかったといえ、ヴリトラを亡きものとしたのはこの月の部隊の活躍があればこそ…砂漠の民とて我らの入植を拒む事はできまい」


最初から王はそのつもりだったに違いない。

砂漠に翼竜が出没する事にかこつけて、俺が遠征を承諾するように仕向けた。

星の国のドラゴンキラーまで呼び寄せたのは、他国に対し翼竜を討つ気勢をアピールするため。

そう見せかけて、王が本当に倒したかったのは渇竜ヴリトラの方だったのだ。



244 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/04(月) 17:31:13 ID:ieB.IhW6


男「しかし…それは禁足地への踏入よりも遥かに強く、諸国の反感を買う事となりかねないのでは」

月王「…男よ、儂はそなたに戦士としての期待と信頼を寄せておる」

男(…政治に口出しをするな、そういう事か)


そもそも開発部隊に援護が必要だと考える時点で、他国の反発は予想されているに違いない。

つまりこれから先の俺の仕事…俺が剣を向けるべき相手は、竜ではないという事。

月の国の身勝手な振る舞いに異を唱えようとする他国の人間に対して、その剣を振るえという事だ。


月王「砂漠の開発は長きに渡る。婦女が過すに適した場所では無かろう…そなたの妻はこの王都に預け、安心して赴くがいい」

男「……それは…!」


血が逆流する想いだった。

その意味するところは、俺が命に背かないよう女を人質にとるという事だ。


月王「退がるがよい。…砂漠の開発部隊を整えるには暫くかかる、旅立つまでに存分と妻を愛でる事だ」

男「……………」

月王「はっはっ…そうじゃ、子でも成すと良い。ドラゴンキラーの子…さぞ良い戦士となろう」


ふざけるな。

人質が増える程度にしか、考えてはいまい。

結局、俺は捨て駒だった。

女はその捨て駒を得るための道具だったというのか。



245 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/04(月) 22:58:15 ID:ieB.IhW6 [17/19]


……………
………



時魔女「…フッざけんな!」


謁見から戻った俺の話を聞くなり、時魔女は息を荒げて吐き捨てた。


時魔女「女ちゃんを人質扱いで引き離すなんて…!許せないっ!」

男「時魔女…声が大きいぞ」

幼馴染「無理も無いよ…しかも仇の竜を討つ事もさせずに、男を砂漠に追いやろうなんて」


ここは城の中ではなく、城下の宿。

帰還の命を請けた時から少なからず王に対し疑念は抱いていたから、時魔女が未だ同行している事は明かさなかった。

もちろん兵達にも、口止めは徹底している。

だがどうやら、それで良かったようだ。

月の国が強引にも砂漠の覇権を握ろうとしている、その事はまだ同盟国に対しても伏せておきたいに違いない。

星の国の人間が俺の周りにいると知ったら、彼女を幽閉でもしかねない。



246 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/04(月) 22:59:01 ID:ieB.IhW6 [18/19]


時魔女「男…どうすんの!?まさかワイバーン討伐は諦めるの…!?」


彼女は俺の胸倉を掴まんとする勢いで詰め寄った。


男「諦めるつもりなんかねえよ。…機会は窺うさ」

時魔女「き…機会を窺うって!まさか砂漠への赴任を請けるつもり…!?」

幼馴染「時魔女ちゃん、男だって悔しいんだよ…」


悔しい…そう、間違っちゃいない。

だけど今の気持ちをより適確に表すなら、切ない…というのが近い。


サラマンダーを倒した代わりに、ドラゴンキラーの称号を得た。

称号を得たが故に、女という妻を手に入れた。

女を妻としたが故に、端くれとはいえ王族の一員となった。

王族となったが故に王の命に背く事はより難しく、女というかけがえの無い存在があるからこそ、それを裏切る事ができない。

きっと俺が王に背けば、彼女も裁かれる。


大きな何かを得るという事は、やはり引き換えに何かを失うという事なのだ。



247 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/04(月) 23:03:15 ID:ieB.IhW6 [19/19]


幼馴染「それで、女さんは…?」

男「城の俺の部屋にいる。まだ…何も伝えてないよ」

幼馴染「…どうするべきだろうね。例えどんな人であれ、王様は女さんの父親だもの…」


幼馴染は大きく溜息を零して、頭を抱える。


男「ひとまずは、アイツには何も言わないでおくよ。…悩ませるだけだと思うから」


チッ…と、わざとらしく時魔女が舌打ちをした。


時魔女「もういい、こんなじゃ…ボクが何のために男と一緒に動いてるのか解らない」

幼馴染「時魔女ちゃん…」

時魔女「男なんか砂漠でもどこでも行っちゃえ!…ただし女ちゃんを泣かすのだけは、許さないからなっ!」


そう言い残して時魔女は部屋を出て行く。

少し乱暴にドアが閉められて、それ越しに階段を駆け降りる音が聞こえた。


幼馴染「私、あの娘を追いかけるよ。男は女さんのところへ行ってあげて…」

男「ああ…悪い…」


そういえば謁見の後、日暮れを過ぎているというのに城から出るために、門兵に『一杯引っ掛けに行ってくる』と告げた。

城に戻る前にせめて何杯かでも酒を呷っておかなければいけない…それが自棄酒にならなければいいのだが。



248 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/05(火) 03:26:30 ID:L7GZLwEI [1/5]


………



女「…お帰りなさい。随分、遅かったですね」

男「うん…ちょっとな」


部屋に戻った俺は、酒臭いのがバレはしないかと警戒しながら声を発した。


女「それで、今後の動きはどうなりそうなんですか?」


今後の予定…命ぜられたままを表せば、およそ五日後に砂漠開発部隊の第一陣が整うという。

俺はその部隊と共に、再度砂漠を目指し…短くとも数ヶ月、長ければ数年は戻らない。

女はその間、ここで俺の帰りを待つという事になる。



249 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/05(火) 03:31:02 ID:L7GZLwEI [2/5]


男「ああ…まだ、はっきりは決まらないんだ」


…そのままを伝えれば、彼女は苦しむ事になるだろう。


女「じゃあ、しばらくゆっくり出来ますね。それはそれで、私は嬉しいです」


翼竜を討つという目標が、遠のく事。

他国が月の国に制裁を加えようとした際には、その兵を俺が殺さざるを得なくなる事。

長い間、俺たちが共に過ごせなくなる事。

そして俺がそれらを拒む事が出来ない理由が、彼女自身の安全のためだという事。


女「…どうかしたんですか?…なんだか、悩んでるみたい」

男「いや…そんな事無いよ」


どの部分を上手く掻い摘めば、彼女を悲しませる事なく納得させられるだろう。

今の俺には、皆目見当がつかなかった。



250 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/05(火) 09:26:11 ID:5X26iL1Y [1/11]


……………
………


…四日後の夜
…城内、男の部屋


城からの外出もままならず、ほとんど幼馴染との連絡もとれていない。

二日前に僅かに話した際、時魔女の行方が解らない事だけは聞いた。

もしかしたら愛想を尽かして星の国へ帰ったのかもしれない。


そして肝心の話については…我ながら呆れている。

結局この四日間、俺は何一つ女に伝える事ができなかった。

明日には開発部隊の遠征準備が整うだろう。

出発はその日の内か、翌日か…とにかくもう時間は無いというのに。


女は今、湯浴みのために部屋を出ている。


男(戻ったら話そう…どう伝えたらいいかは解らないけど)


砂漠へ再赴任する…と、そして『すぐに戻る』と言えばせめてこの場は凌げよう。

後から真実を知れば、恨まれるかもしれないけれど。



251 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/05(火) 09:27:48 ID:5X26iL1Y


夜警兵「男殿っ!」


突然、ノックも無く部屋のドアが開かれた。

そこには息を切らせた夜警の兵の姿。


男「どうした、ただ事では無さそうだな」

夜警兵「我が国の兵の一部が反乱を起こし、脱走しました…!」

男「…脱走?…戦時でもあるまいし、脱走するなら昼間にいくらでも機会はあろうに」


俺は軍人として国に迎えられはしたが、あくまで当初は竜討伐を目的とした抜擢だったはずだ。

砂漠進攻の援護部隊を持たされる羽目になったとはいえ、この国の内乱まで面倒をみる義理は無い。

それでも声が掛かってしまったものは無視できまい。


男「やむを得ん…準備をして俺も向かう、退がってくれ」


何故こんな事を俺に言う必要があったのか。

反乱を起こしたのがごく一部の兵数だというなら、正規兵を多数派遣すれば鎮圧は造作もないはず。


…しかし。


夜警兵「反乱兵は砂漠進攻に異を唱えており…!主張を受け入れさせるために人質をとっております!」


そこまでを聞いて、ようやく何故この兵が血相を変えて俺を訪ねたかを理解した。

そしてこの後、俺は兵装を整える余裕すら無く部屋を飛び出す事になる。


夜警兵「人質の中には女様が含まれます…!」



253 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/05(火) 11:24:37 ID:5X26iL1Y [4/11]


………



夜の城内はやけに静かだった。

多くの兵が鎮圧のために出払っているのかもしれない。

部屋を訪ねた夜警兵が俺を先導して、一気に城門まで駆け降りる。


夜警兵「反乱兵は城下東の旧城塞跡に立て籠もっているとの情報です!」


旧城塞までの道程には狭い森が横たわっている。

まだ王都へ来て日の浅い俺は、それを抜けるルートを知らない。

城門にはかがり火こそ焚かれているが、見張りの兵はいなかった。


男(…見張りさえ出払うとは、まだ反乱兵の総数も掴めまいに)


もしまだ沈黙を保ったままに内心に反乱を企てる者が城内にいれば、王の首を狙うにこれほどの機会はあるまい。

しかし砂漠への侵攻を快く思わないのは俺も同じ。

例え女の父親であろうとも、その娘を都合の良い物のように扱う王の身を案ずる気にはなれなかった。



254 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/05(火) 11:26:07 ID:5X26iL1Y [5/11]


男(…おかしい、いくらなんでも兵の姿が少な過ぎる)


森を抜ける旧道へ駆け込んだ際、そこで松明を持った兵に出会い「やはり旧城塞に立て籠もっているようだ」との情報は得た。

でもこの一大事だというのに、他にすれ違う兵すらいない。


そして旧道はさらにその荒れ具合を増してゆく。

旧城塞はあくまで跡地ではあるが、今でも見張り台としては使われているはずだ。

そこへ続く道が、これほど草と落葉に覆われているものだろうか。


男「…おい、本当に」

夜警兵「……………」


静か過ぎた城内、それは本当に兵が出払っていたからなのか。

クーデターなど起こっていない、普段通りの平和な夜ならば当然の状態ではないか。

もし城門の見張りとこの夜警兵が共謀して、何らかの理由で俺を誘い出したとしたら…?


急いで部屋を出たから、俺は甲冑はおろか剣を提げるためのベルトすら身に着けていない。

故に左手で直接に鞘を握っていた剣の柄を、俺はそっと握った。



255 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/05(火) 11:27:33 ID:5X26iL1Y [6/11]


不意に視界が開ける。

だが、まだ旧城塞には達していないはずだ。

辿り着いたそこは森の中にあってここだけ木立の無い、隠れた小さな草原だった。


幾つかの控えめなかがり火が焚かれており、その周囲にはぼんやりと照らされた人影が見える。

その数は二十名以上、多くの者が纏っているのは月の国の兵装。

しかし城塞への突入を待つ鎮圧部隊にしては数が少なすぎる。


男(…やられたな、女の名を出されて我を失うとは…俺も甘いな)


おそらく女が人質となっている事そのものが、狂言に違いない…そう考えた。


反乱兵「砂漠開発部隊の警備隊長…男だな?」


かがり火の中央に立っていた兵が、口を開く。


男「いかにも…貴様ら、何の目的で俺を誘い出した」

反乱兵「…ふん、自らの手で渇竜を仕留めたわけでもあるまいに、砂漠の覇権を握ろうなど許されると思うか」


言葉の意味を思えば、反乱の理由そのものは夜警の兵が告げた通りのようだ。

その気持ちは解らなくもない…兵にしても自国が平和であるに越した事は無いはずだ。

砂漠へ侵攻し、余計な争いの火種をつくる事に異を唱える者がいるのも当然だろう。



256 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/05(火) 11:28:07 ID:5X26iL1Y [7/11]


男「俺とて望んでその任につくのではない、しかし…」

反乱兵「国に妻を人質とされては仕方が無い…とでも言う気か?」

男「……なぜ、貴様がそこまで知っている」


上半身をローブに包んだ一人の反乱兵が前に歩み出る。

そして先から話していた者は、親指でそのローブの兵を指して言った。


反乱兵「さあな…訊いてみたらどうだ」


ローブを脱ぎ、俺に正対したその者。

右手に円月型の剣を持ち、どこか悲しげな青い瞳で俺を見るその姿は…


男「……女…!」


…見間違うはずも無い我が妻、その者だった。



257 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/05(火) 12:48:21 ID:5X26iL1Y [8/11]


甲高い金属音が響く。

決して上手い太刀筋では無いものの、その剣撃に迷いは見られない。


男「女っ!どういう事だ…!」


俺はただその刃を自らの剣で受け流し、女に声を掛ける。


男(操られているとでも言うのか…!?くそっ…)

女「……………」

男「答えろっ!女…!」


やむを得ん、少々その細腕に響くかもしれないが他に手は無い。

俺は斬りかかる女の剣を躱し、その刀身の付け根を上から叩きつけるように斬り落とした。

闘気の充填無しで鋼の刀身を切断するのは不可能だが、女の力ではそれを握ったままで耐えることは出来ない。


剣が地に落ち彼女が無力化したと考えた俺は、他の兵の動きに目を光らせた。

しかし、誰も動かない。

ただ俺の方を見ているだけで、武器を手に取る様子すらない。


俺は失念していたのか、それとも操られている女にはその力が無いとでも錯覚したのだろうか。

彼女は数歩退がり、呟くように言った。


女「…凍りなさい」



258 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/05(火) 12:57:26 ID:5X26iL1Y [9/11]


突如、俺は動きを奪われた。

両足と地面が氷塊に結ばれている。


男「くっ…操られていても魔法が使えるとはな」


万事休す、この場を切り抜けようと思えばもはや剣の特殊効果で薙ぎ払う位しか手は無い。

充填する時間を与えられるかは解らないが、反乱兵も女も区別無く光の刃で薙ぎ払えば一撃で終わる。

だが、できるはずがあるまい。


女「誰が操られていると言ったのです」

男「…何だと、お前…」

女「私は正気です」


愕然とした、本当に彼女が正気なのだとしたら、いつから俺は騙されていたのか。

心が通じていると…愛しいと感じた女は全て偽物だったというのか。


男「…殺せよ、今なら抵抗はできない」


項垂れた俺に、女が歩み寄る。


男(…何故だ、それじゃ俺の剣の間合いに入ってしまう)


…そうか、解っているんだ。

例え騙されていたとしても、俺が彼女を斬る事など出来ないと。


そして彼女は、その魔力を宿らせたであろう右手を俺に翳した。



259 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/05(火) 14:36:33 ID:5X26iL1Y [10/11]


鋭い音と共に、頬に焼けるような痛みが走る。

翳された女の手が放ったのは、炎でも雷撃でも無かった。


男「……ってぇ…何のつもりだ…うっ!」


もう一度、今度は反対の頬を彼女の平手が打つ。

周囲で見ていた反乱兵達が、噛み殺したような笑いを漏らしている。

いたぶって殺すつもりにしても、あまりに回りくどい。

何故か兵達の失笑も、下卑たものとは思えなかった。


女「どの口が言ったのです」

男「………?」

女「あなたにとって私が必要な存在だと…そう言ったのはあなたじゃなかったんですかっ!」



260 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/05(火) 14:37:34 ID:5X26iL1Y


彼女は怒鳴りつけながら更に俺を叩く。

今度は頬を打つのではなく、それは駄々を捏ねた子供がするように。

俺の胸を握った両手で何度も打った。


女「私にっ!何も話さずに…!砂漠へ発つつもりだったのですか…!このっ!馬鹿男っ!」

男「……女…」


周りの兵達は堪えきれないという様子で、けらけらと笑う。

俺は…騙されたのか、二重に。


女「許しません!そんな勝手な事…!絶対にさせないっ!」

男「…だからって、こんな…兵まで巻き込んで」


いつ彼女が事に気付いたのかは知れないが、小さな復讐劇にしてはあまりにも手が込んでいる。

兵達にしても、こんな茶番に付き合うほど暇では無いはずだ。



261 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/05(火) 15:47:04 ID:o256bGOo [1/2]


???「本当の事、知りたい?」


そして並ぶ兵の中から現れた黒幕が、ついに真相を語り始める。


男「…お前」

幼馴染「女さんがこの事を知ったのは、ほんの30分前よ。この計画を企てたのは、私…そして」

時魔女「…ボクだよ。お風呂から出た女ちゃんを、巧みな話術で誘拐してみました」


なるほど…空間跳躍の力を使えば、城への侵入など容易い事だったろう。

時魔女の行方が判らないというのは、幼馴染の狂言だったに違いない。


男「この大勢の兵は…」

幼馴染「同志…とでも言おうかな?」


やはり集った兵にも思惑はあるようだ。

是非、納得のいく理由を聞かせ願いたい…が。


男「もし長い話になるなら、まずはこの氷をどうにかしてくれ。…足が霜焼けてしまう」

幼馴染「どうする?女さん…」

女「じゃあ、燃やします」

男「え、ちょ…!」


拒否する間も与えられず、女は俺の足元に火炎魔法を放つ。

自由は戻ったが、服の裾が焦げてしまった。



262 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/05(火) 15:47:36 ID:o256bGOo [2/2]


幼馴染「さて…兵士さん達の事は、直接話して貰った方がいいわ」


兵の内、最初に言葉を交わした者が前に歩み出る。


傭兵長「私は傭兵長と申します。…男隊長、まずは無礼をお許し願いたい」

男「企みの主は幼馴染達なんだろう、お前らを許すも何も無いさ」

傭兵長「かたじけない。…では」


そう言うと傭兵長は俺の前に片膝を衝き、残りの兵はその後ろに手早く整列した。


傭兵長「我ら月の国に雇われし傭兵15名および正規兵8名…貴殿の独立部隊への合流を願いたく、月の呪縛を逃れて参りました」

男「…貴様ら、何をしようとしているか解っているのか」


よく見ればどの顔にも見覚えがある…こいつら皆、討伐隊あがりだ。


傭兵長「なに…総員共に家族も無ければ、故郷に未練もありませぬ」

男「逆賊となるんだぞ、それでもいいのか」

傭兵長「我ら、戦士なれば死に場所くらいは手前で選びとうございます。濁雲に陰る月の袂で生き恥を晒すなど…御免被る」


にたり…と傭兵長は笑んだ。


こいつらを前に、もう俺だけが心根を隠すなど許されまい。

俺は今、震えるほどに嬉しいのだから。



263 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/05(火) 23:10:14 ID:L7GZLwEI [3/5]


しかし兵を率いようという者が、ここで泣くわけにもいかない。

こういう連中と接するには、それなりの流儀があるというものだ。


男「なるほど…逆賊の名を冠するには相応しい悪たれ共が集まっているようだな」

傭兵長「滅相もない。これだけのゴロツキに囲まれて痴話喧嘩を演じられる度胸など、我々の誰も持ち合わせてはおりません故…」


全く、こきやがる。

随分とみっともないところを見せたものだ。

姿勢だけは丁寧に跪いているくせに、後ろの兵は笑いを噛み殺せていない。


男「ふん…そんな馬鹿丁寧な口の利き方も慣れたものではあるまいに、似合いもせん猫を被るな…裂けた口が覗いているぞ」

傭兵長「はっはっ…目が利きますな、やはりアンタは俺達が仕えるに相応しい…悪たれの頭領になるべき御仁だ」



264 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/05(火) 23:12:29 ID:L7GZLwEI [4/5]


男「いいだろう、貴様らの覚悟は受け取った。…総員、立てっ!」


ざんっ…と、大地が鳴った。

憎々しくも頼もしい新たなる我が隊の面子が、俺の命令を待っている。

甲冑も外套も身に着けない頼りない俺を、その挑発的な眼差しで睨みながら。


男「我が隊はこれより西の台地を目指す。そこに竜の姿があるかは知れぬ、だがいつか我々はこの手で翼竜を討つ…!」


全兵「「「Sir,Yes,Sir!」」」


男「命を預けろとは言わん!各自、己の肝っ玉は手前で大事に握っておけ。…いいか!」


全兵「「「Sir,Yes,Sir!」」」


男「よし…気に入った。俺が責任をもって死に場所へ連れて行ってやる…自分の棺に名を彫っておけ」


これが新しい出発点だ。

甲冑も荷物も肩書きも、置いてきたものに未練は無い。


今宵、俺は23名の兵と一人の姫君を城から奪い、逆賊の長となる。



283 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/06(水) 13:40:53 ID:WqiSnDUQ


……………
………



その夜、俺達はそのまま王都を離れ北へ進んだ。

明日になり俺達の離脱が明るみとなれば、おそらく直接西へ向かうルートを中心に正規軍が捜索派遣されるだろうと考えたからだ。

深夜を超え、明け方を超えてなお足を止めずに、出来るだけ王都から離れる。

大した荷物があるわけでは無いが、馬車を持たない故に全て背に負っての行軍。

女性陣をはじめ、一同の疲労はピークに近づいていた。



284 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/06(水) 14:11:50 ID:WqiSnDUQ [4/5]


傭兵長「隊長殿…アンタもし追っ手が来たら、それが罪無き人間でも斬れるのか」


それは昨夜からずっと俺が考えていた事だった。

竜や魔物を相手にするのとはわけが違う。

逆賊となった今…己の正義を信ずる人間と敵対し、斬り伏せる必要もあるかもしれない。


男「…お前達は、どうなんだ」

傭兵長「我らは戦を飯の種とする傭兵、金さえ積まれりゃ…まあオンナ子供は斬りたくはないが」

男「…そんな貴様らが金勘定無しに従ってくれているんだ。俺にその覚悟ができんでどうする」

傭兵長「本心なら大したもんだ。…しかし心配はしないで頂こう。我らは己の信念の下、竜を討とうとするアンタに惚れたんだ。汚れ役は引き受けよう」


彼の申し出はとても有難かった。


それでも自分で言ったように覚悟を決めなければいけない時は、いつか来るはずだ。

そしてその『いつか』は…


隊員「後方より接近する影あり!騎馬兵と思われます…!」


…もうすぐに、迫っているのかもしれなかった。



285 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/06(水) 14:26:33 ID:WqiSnDUQ [5/5]


男「数は…!?向こうはもう、こっちに気づいているのか!?」

隊員「数は三人!真っ直ぐにこちらへ向かっています!」

傭兵長「三人とはチェイサーにしては少なすぎる。偵察かもしれませんな…ここは確実に潰さねば。隊長殿、号令を…!」


例え、自らの腕で剣を振るわなくとも。


男「…弓兵っ」


この隊の総員は、俺の手足に同じだろう。


男「掃射準備…!」


俺のこの号令が人の命を奪う、それは紛れもない俺の業だ。


女「男さん…」


…それでも、俺は退くわけにはいかない。


男「………放てっ!」


23名の内、弓兵の10名が矢を射る。

怒りでも憎しみでもなく、ただ我々の信ずる正義をのせて。



286 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/06(水) 19:53:08 ID:sl2TX8JY [1/4]


しかし矢の第一波は的を捉え損ねたらしい。

騎馬兵は既に馬の蹄の音が聞こえる程に接近している。

そして現在、隊には魔導士は女と時魔女を除けばいない。


男(女達にまで人を殺めさせたくはない…接近戦になるか)

弓兵「次を放ちます…!」

傭兵長「…待て、様子がおかしい」


見れば三人の騎馬兵は右腕を横に伸ばして掌を向け、首を垂れている。

あれは諸国間の協定による『交戦の意思無し』を表した姿勢だ。

しかも近付いてみると、チェイサーにしては馬が提げる荷物がやけに大きい。


男「総員、交戦姿勢のまま待機しておけ…向こうの出方を見るぞ」


やがて眼前にまで達した彼らは、すぐに馬上から降りて自らの剣を鞘のまま地に置いた。



287 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/06(水) 19:55:06 ID:sl2TX8JY [2/4]


騎馬兵「…男殿とお見受けいたす」

男「しらばっくれても無駄だろう…お前達は、チェイサーではないのか」


当然だが、三名とも月の兵装に身を包んでいる。

少なくとも討伐隊で見た顔ぶれではない。


騎馬兵「その任務を請けた者には違いございませぬ。…しかし、我々は貴殿との交戦は望まない」

男「それは、何故だ」


語る騎馬兵の瞳は濡れている。


騎馬兵「貴方がたこそが真の月の誇りだと知るが故…」


自らの正義と自由にならない境遇の狭間で、彼等の魂は燻っているのだろう。


騎馬兵「…貴殿部隊に、我らの誇りを託しとうございます」


そして彼等は自らの手綱を差し出した。

騎馬兵がその愛馬を託すなど、並の想いで出来る事では無いだろう。


男「…貴様らの誇り、この双肩に預かり受けよう。いつか…必ず返させてくれ」

騎馬兵「ありがたき…幸……せ…」



288 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/06(水) 20:28:47 ID:sl2TX8JY [3/4]


騎馬兵の話によれば、砂漠開発部隊の編成が始まった当初から士官を含む多くの兵が、砂漠への派兵を強行する月王に懐疑的になっているとの事だった。

そしてそれと対照的に、翼竜を討つという大義に従って動こうとする我々を敵視する者は少ないという。

現在も、そしてこれからも秘密裏にこの部隊への参入呼び掛けは続けられてゆくらしい。


彼等は我が隊の全員と固い握手を交わし、我々を見送った。


馬の提げた大きな荷袋には、全員には足りないまでも数基のテントや幾つものシュラフ、毛布などが詰められていた。

毛布には全て、個人名が記されている。

これは軍から配給された兵達の私物なのだろう。


そして俺に手綱を託された一頭の荷袋の奥底には。


男「…傭兵長、この北回りのルートは貴様が進言したが、誰かに伝えていたのか」

傭兵長「察しが良いですな。…隊に参入は出来ぬまでも、涙を浮かべて悔やしがっていた者がおりましたのでね」

男「討伐隊だった者か」

傭兵長「如何にも…心当たりが?」

男「少々、そいつらに恨みがあってな。なに…飲み負けたというだけだが」


俺は荷袋から取り出したバーボンのボトルを開け、ひと口だけ呷った。



295 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/07(木) 15:10:41 ID:YGo/EYxs [1/8]


それからは女性陣がそれぞれの馬の背に乗り、少しペースを上げて北への進路を歩んだ。

午後の四時を回る頃、街道から少し外れた森に入り、立木の薄いところを選って野営地とする。


男「暗くなれば灯りは控えねばならん。各自日没までに食事を摂り、その後は三交代で見張りを行う」

傭兵長「承知、森の中故に魔物が出るやもしれませぬしな」

男「食糧は限られている。少ないメシで我慢を強いるが…皆、堪えてくれ」


テントは四人用が三基、三つの班に分けるにしても休むニ班の全員が収まるわけではない。

ただシュラフを併用すれば頭数には足りる。


男「装備が落ち着くまで、雨が降らなければいいがな」

幼馴染「そればっかりは神様の気分次第ね」



296 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/07(木) 15:11:46 ID:YGo/EYxs [2/8]


テントの内のひとつを俺と女、幼馴染と時魔女の四人が使う事にした。


隊員「羨ましいですな。カラダがもたなければ一人お預かりしますぜ?」

男「馬鹿を言え。貴様は魔法と矢、動きを封じられての拷問…いずれで殺されたいのだ?」

隊員「はっはっ…おっかない話だ。全部、隊長殿にお任せしますよ」


隊員達は皆、口も育ちも悪いが気のいい奴等だと思う。


幼馴染「失礼しちゃうわ」


女性陣はその軽口に少し不満気ではあるが。


時魔女「もっとイケメンじゃなきゃ相手しないもんねー」

幼馴染「ねー」

男「お前らの軽口もなかなかのもんだぞ」

幼馴染「バッカじゃない、アンタにも言ってんのよ。乙女を危険人物みたいに言わないで」


おっと、矛先が変わりそうだ。

今は男独りで分が悪い、余計な事は言わないようにしよう。



297 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/07(木) 15:12:48 ID:YGo/EYxs [3/8]


少しの野菜と干し肉を鍋の中に焚いた火で炙って、簡素な食事とする。

僅かな量をできるだけ味わって食べるように、ちびちびと摘まんでは話をして気を紛らわせた。


男「しかし幼馴染はどうやって兵に話を回したんだ?」

幼馴染「討伐隊は皆お酒が好きだったみたいだから。城下の酒場で様子を見てたら、案の定…見た顔が次々とね」

男「そいつらに、時魔女が同行する事は…?」

幼馴染「ぬかりないよ、改めて口止めしてる」

時魔女の同行を知っているのは討伐隊の者だけ、その中に俺たちを裏切る者がいるとは考え難い。



298 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/07(木) 15:13:37 ID:YGo/EYxs [4/8]


そしてたまたま彼女の名前が出たところで、時魔女は次の話を切り出した。


時魔女「…あの…ごめんなさい、黙ってたんだけど。ボク、副隊長とは時空魔法で連絡がとれるんだ」


時魔女は懐から手帳ほどの大きさの革ケースに納められた金属板を取り出した。

ブロンズのような色をした艶の無い板に、彼女の胸にあるものと似た結晶があしらわれている。


男「連絡…?」

時魔女「うん、副隊長が造った特殊なパッドとインクでね。お互いの手元にあるパッド同士が座標登録されてて、書いた文字を交換できるの」

男「今までずっと、連絡をとってたのか?」

時魔女「うん…港で副隊長と別れてからは。ごめん…本当、なんかスパイみたいな事してる気がして、言い出せなかった」


なるほど、時魔女の単独行動が許される理由が少し解った気がする。

おそらく定時連絡という形で、文書を交換しているのだろう。



299 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/07(木) 15:14:49 ID:YGo/EYxs [5/8]


男「何も謝ることは無いさ、情報を利用して戦争を仕掛けようってんじゃないんだろ?」

時魔女「うん…でも月の国が砂漠へ派兵を検討してるって事は、やっぱり星の軍の一員として黙っておけなかった」


彼女の口調は重い。

でも今の俺は、それを咎めるべき月の国の軍人ではないのだ。

それに砂漠を占拠せんとする月の振舞いに対して、他国が相応の準備を施すのは当り前の事。

あの副隊長は聡明な女性だと思えたし、ましてや星の国は五大国の中でも穏健派として通っている。

事態が悪い方に転がるような事はあるまい。


…ふと、月の副隊長の事を思い出す。

港でこちらから王都へ送った伝言で負傷した副隊長を星の国へ送るとは伝えたけれど、この事態となって彼に帰る場所があればいいが。

いかにも頑固で己の正義を貫かんとする彼の事だ、きっと月軍の現状には憤慨するに違いない。

それとも愛しの星の副官殿に毎日構って貰って、鼻の下を伸ばしているのだろうか。

その様子を想像して思わず口元で笑んでしまった…が、どうやらその笑みがマズかったらしい。



300 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/07(木) 15:15:26 ID:YGo/EYxs [6/8]


女「…何が可笑しいのです」


突然、今までずっと沈黙を保ってきた女が言葉を発した。

しかも大層に機嫌の悪い声で。


女「幼馴染さん、時魔女さん…およそ話と食事は終わりましたでしょうか」

幼馴染&時魔女「う、うん…」


あれ、おかしい。

女が喋らないのは、夜通しの行軍の疲れがきているからなのだろうと思っていたのに。

これは違うっぽい、そして俺の予感が正しければ…


女「…じゃあ、昨夜の話を煮詰めましょうか」


…うん、正しいみたいだ。


幼馴染「じゃあ、ちょっと席を外すね!」

時魔女「ごゆっくりー」



301 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/07(木) 15:16:58 ID:YGo/EYxs [7/8]


それから三十分に渡り、こんこんと説教を受ける。


『本当に置いて行く気だったのか』


『寂しくて死ねというのか』


『そもそも黙ったままとは、どういう了見だ』


『剣を払われた時、手が痛かった』


『お詫びの抱擁も口づけも無い』


概ね内容はこんなところ、終わりの二つを除けば返す言葉も無い。



302 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/07(木) 15:17:41 ID:YGo/EYxs [8/8]


男「悪かったって…俺だって置いて行きたくは無かったけどよ」

女「そうしたく無くても『仕方ない』と思える程度だというのが、一番腹立たしいのです!」

男「ごめん…」


ちなみに彼女が剣を振るう際、その切っ先に一切の迷いを感じなかったのは『本気だったから』だそうだ。

幼馴染から『絶対に当らない』と言われ、時魔女からは『万一斬れても時間逆行で治す』と言われていたらしい。


女「首を落とすくらいの覚悟で斬りつけましたので」

男「時間逆行って、生きてる奴にしか使えないんじゃなかったっけ」

女「……そういえば、そうですね」


…怖えよ、嫁。



303 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/07(木) 19:38:49 ID:4MH/fj1I


詫びの印として一度、柔らかく口づけを落とした。

相変わらず彼女はそのあと少しの間、俺の胸に顔を埋めて表情を見えなくする。

だけど今日はそれも短めに。

俺は無言のまま彼女をそっと胸から引き離すと、立ち上がった。

いい加減に幼馴染達をテントに入れてやらないと、昨夜からの不眠の行軍で疲れ果てているはずだ。


女はまだ少し頬を赤らめたまま、俺を見上げて小さく微笑んだ。

ひとまず機嫌は直してくれたらしい。


俺は幼馴染達を呼びに、テントの外へ歩み出た。


男「おーい」

幼馴染&時魔女「…あっ」


テントのすぐ側面、二人は屈んだ姿勢でこちらを振り向く。


男「お前らっ…!」


…こいつら、聞き耳立ててやがったな。



306 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/07(木) 22:18:01 ID:glC8EJzQ [1/6]


……………
………


…五日後の夕刻
…月の国、北西の山麓


丘陵の向こうから、旅人の姿をした二人の男が歩んで来る。

少し後ろを振り返り、誰もついて来ていないかを気にしながら。


男「…ご苦労だった、村の様子はどうだった?」

隊員「兵の姿はありません。酒場で聞き込んでも、我々部隊の噂は入っていないようです」


二人は旅人を装わせた隊員達だ。

様子見に向かわせたのは、他ならぬ俺と幼馴染の故郷の村。

王都から消えた俺を捜索するなら、早い段階で手を回す可能性がある場所だ。

逆にそれが為されていないという事は、あまり本腰を入れた捜索は行われていないと考える事もできる。

渇竜ヴリトラに一矢を報い、紛いなりにも砂漠進出の口実を得た今、俺の存在価値はさほどありはしないのだろう。



307 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/07(木) 22:19:50 ID:glC8EJzQ [2/6]


砂漠開発の助力という任務を放棄し、二十余名の兵を連れて逃げたとはいえ、その目的は王の暗殺や国家の転覆ではない。

現にこの数日間、あの騎馬兵達を除いてチェイサーに遭遇する事も無かった。

禁足地への侵入に対してはどれほどの妨害があるかは知れないが、今すぐは追っ手の影に怯える必要は少なそうだ。


男「さすがに食糧も底を尽いてきている、装備を整えるためにも村に入るべきだろうな」

傭兵長「我々の足跡を知る者を作れば危険は増しますが…やむを得んでしょう」

男「まあ住民の数も少ない小さな村だ。しかも全て顔見知り…伏せておいてくれという願いは通じよう」

幼馴染「やった、五年以上ぶりの帰省ができるんだね!お隣の赤ちゃん、大きくなったんだろうなあ…」


傭兵長と真剣な協議をしているというのに、幼馴染は随分とマイペースな事を言っている。

昔からこんな奴だったというのは、誰よりも俺がよく知っている事だけど。

それに俺だって故郷への帰還が嬉しくないわけじゃない。

…友人に女を紹介するのが、少々気恥ずかしいと思うだけだ。



308 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/07(木) 22:20:43 ID:glC8EJzQ [3/6]


……………
………


…故郷の村周囲の農地


男友「おい…!嘘だろ、お前…帰ってきたのか!」

男「久しぶりだな、元気だったか」

男友「馬鹿やろ、身体悪くしてる余裕なんか無えよ。お前の畑まで世話してんだぞ」


村に入る前から友人に捕まった。

いや、捕まったとは言葉が悪すぎるか…昔から親友として付き合ってきた仲だ。

俺が管理していた農地は殆どこいつが引き継いでくれている。


男「すまん、面倒をかけるな」

男友「よせよ…慈善でやってんじゃない。お前の畑で穫れる作物も、俺の収入源になるんだ」

男「ああ、今年もいい出来だ。…お前に任せて良かった」



309 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/07(木) 22:21:51 ID:glC8EJzQ [4/6]


男友「ところで、噂は聞き及んでるぜ」


一瞬、ぎくりとする。

しかし彼が聞いた噂とは、独立部隊の事では無いらしい。


男友「お前が竜退治の戦士、ドラゴンキラー様とはねえ…俺も鼻が高いってもんだ」

男「ああ…お陰さんでな、こうして部隊も引き連れてるよ」

男友「これ全部お前の部下か、偉くなったもんだなあ…。あっ、幼馴染ちゃんじゃねえか!」

幼馴染「久しぶりね!私は男の部下ってわけじゃないけど」


俺はこの時、順序を間違えたと思った。

彼に幼馴染を見つけられるより先に、女を紹介すべきだったんだ。


男友「解ってるって、とうとう男も観念したかー。五年ぶりに再会すりゃ、ハッキリしないお前らも流石に良い仲になったんだろ?」

男「ちょ…おい!…それが…よ」

男友「はぁ?お前らまだ恋仲になってねえの?何やってんだよ、幼馴染ちゃんが旅立った後、暫く落ち込んでたくせに…」


ああ…もう、何でそんな余計な事を。

幼馴染は隣でニヤニヤしながら「そうだったんだー」と状況を楽しんでいる。

左後頭部がチリチリと痛い気がするのは、たぶんひどく睨まれているからに違いない。



310 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/07(木) 22:22:51 ID:glC8EJzQ [5/6]


………


…村長の家


男「…協力頂けますか」

村長「…何を水臭い事を、断るはずが無かろう」


木の香りが満ちた天井の高い部屋、パイプを咥え紫煙を燻らせながら村長である老人は答える。


村長「テントなら林業の泊り込み用の物が幾つもある、必要なだけ用意させよう。毛布も各家から集めれば揃おうよ」


俺は彼に現在までの経緯を話し、必需品や馬車の提供を願った。

先の通りそれは快諾され、食糧や衣類なども揃う限り持たせてくれるという。


村長「お前がサラマンダーを討った後、報酬の金貨を村に送ってくれた…それがどれほど有難かったか。テントなど百でも二百でも新しく作れてしまうわい」

男「感謝します、村長…」

村長「…すっかり軍人らしくなりおって、しかし立派なだけでは寂しいのお」


彼は椅子から立ち上がると俺に歩み寄り、小さな子供に接する如く頬に掌をあてた。



311 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/07(木) 22:24:41 ID:glC8EJzQ [6/6]


いつの間に軍人としての振舞いや、城での言葉遣いが染み付いてしまったのだろう。

ほんの半年前に村を出た日の俺は彼を『村長』などとは呼ばなかった。

両親を失った俺をずっと育ててくれた彼を、俺は親しみを込めて呼んでいたはずだ。


男「うん…ありがとう、じっちゃん…ただい…ま…」


在りし日の自分を取り戻すと同時に、己の内に溜め込んでいた様々な想いが溢れ出す。

兵の命を預かる重責、討伐隊隊長として背負う期待、逆賊となって着た罪。

強く装う自分を見せたいが故に、女にもその全ては晒せない己の弱さ。

年老いた彼だけはそんな俺の弱さを知っている、俺という人間を昔から見てきてくれた存在だから。


村長「よく…来てくれた…よく戻った…。おうおう…いい大人になっても、変わらんのう…」


彼の皺だらけの手で頭を撫でられて、妻さえも迎えた大人が涙を零すなど。

この姿、隊員達にも女にもとても見せられたものじゃないな。

きっと今、隣の家で幼馴染も同じように涙を見せているに違いない。


今夜は久しぶりに、あのベッドで眠ろう。

天窓に降る星を数えて、大時計の振り子が刻む音を確かめながら。



318 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/08(金) 08:55:22 ID:FaFtMyCM


…翌朝


木の階段を駆け上がる音、遠慮も無く開けられる部屋のドア。


幼馴染「おっはよーう」


知っている、この挨拶の後はきっと無理に肌掛けた毛布を取り払われるはずだ。

そしてそれは予想の通りとなる。


幼馴染「いつまで寝てんの。おじいちゃん、もう朝食できたって言ってたよ」

男「おぅ…おはよ」


実に五年ぶりとなる、それまでは当たり前だった習慣。

俺は毎朝繰り返されるこのやりとりを、当時は疎ましく感じながら気に入ってもいたと思う。



319 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/08(金) 08:56:00 ID:FaFtMyCM [2/2]


幼馴染「これからどう動くの?」

男「荷馬車やテントの準備は今日一杯かかるって聞いてるから、もう一泊ここに滞在する事になるだろ。傭兵長にもそう伝えて、交代で周辺の見張りは頼んであるよ」

幼馴染「よかった。せっかくの故郷だもの、すぐに出発は寂しいと思ってたの。じゃあ、今日は懐かしいところ回ろうよ」


俺がこの村を離れていたのは、僅か半年ほど。

さほど村に変わった所など無いだろうが、彼女の目にはさぞ懐かしく映るに違いない。


男「そうだな…じゃあ、女や時魔女も案内しようか」

幼馴染「…あの、どうしても嫌ならいいんだけど」


不意に彼女の口調がくぐもったものになったように感じられる。

少し俯いて、上目遣いに俺を見て。


幼馴染「今日だけ…ううん、午前中だけでもいいから、二人で過ごしたい」


…ちょっと困った。

でも俺の心の中にも少しだけ、それを望む想いがある。

きっと時魔女達を連れていては出来ない話もたくさんあるだろうと思ったから。



322 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/08(金) 12:23:48 ID:gXvHTkT.


一応、俺一人だけで宿に立ち寄り、昨夜二人で過ごした女と時魔女に『午前中は会っておきたい人のところを回るから』とだけ伝える。

笑顔で『いってらっしゃい』と送ってくれる女、なんとなく後ろめたく感じて『いってきます』が言えない俺。

その後、村の外れの牧場で幼馴染と落ち合った。


幼馴染「牛、少し減ったね」

男「ああ、ここにはな。少し離れた丘陵地に新しい施設を作ったから」

幼馴染「そうなんだ、すぐに行けるなら行ってみたいな」

男「ちょっと遠いかな…でも明日、出発したら近くを通ると思うよ」


牧場から農地の畦道を抜けて、昔よく遊んだ小川の畔へ。

足を浸すには少し時期が遅い、確か少し下流に歩けば跳んで渡る事ができる岩場の淵があったはず。


幼馴染「あそこ、渡れるよね」

男「お前、昔…そこで落ちなかったっけ」

幼馴染「もうっ…覚えてるんだ」



323 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/08(金) 12:25:17 ID:gXvHTkT. [2/20]


少し大きな岩がせり出した川の淵、そこから点在する石を跳び渡れば対岸に行ける。


男「よっ…と」

幼馴染「あー、懐かしいな…いつもこうやって男が先に渡ってたっけ」


それも覚えてる、そして先に渡った俺はいつも。


男「…ほら、大丈夫か?」


こうして彼女に手を延べていた。


幼馴染「ありがと…」


昔と同じ仕草で、少し昔とは違うぎこちなさをもって幼馴染は俺の手をとり、ひとつ目の岩を跳んだ。

ふたつ目、みっつ目…ひとつずつを順番に手を貸しながら、渡ってゆく。


そしてよっつ目、対岸までの間で最後のひとつが少し小さいのも覚えている。

ここで彼女は落ちたんだ。

確か暑い時期だったから、その後は服を着たまま水遊びに興じたと思う。


男「今度は落ちるなよ」

幼馴染「わかってますよーだ」



324 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/08(金) 12:26:45 ID:gXvHTkT.


また俺の手を握り、彼女が岩を蹴る。

決して下手な跳び方はしていないのに、幼い頃と比べれば俺達の身体は思う以上に大きくなっていたらしい。


幼馴染「わ…!狭いっ!」


小さな岩の上は今の二人が楽に立てるほどの広さは無く、幼馴染がよろめく。


男「危ねえっ」


無意識に手を引き寄せ、抱きとめるように彼女を支えた。

直後、我にかえって状況のまずさに気付く。


幼馴染「…さ、先に次に行ってよ」

男「こんな狭くちゃ跳べねえよ…お前を落としちまう」


抱き合った姿勢で数秒。

無いとは思うけど、こんなところを女に見られたら比喩でなく雷を落とされかねない。


男「同時に跳ぶしかねえか、残りは大した川幅じゃないし」

幼馴染「……………」


なんで黙るんだ、気まずい事この上無い。



325 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/08(金) 12:28:43 ID:gXvHTkT. [4/20]


彼女は俯いたまま、俺の胸に鼻先を当てて寄り添った。

それは口づけた後に女がする仕草に似ていて、俺の中に弱からぬ罪悪感を生む。


男(…まずいって)


本当は、朝に起こされた時から気付いていたんだ。

兵装を解いて村娘の服に身を包んだ幼馴染、その姿に目を奪われた事。


鼻をくすぐる彼女の髪の甘い香り。

胸元に届く、その体温。

意識せまいとする程に、それらをより強く感じ取ってしまう。


男「…行こう。いち、に、さん…で同時に跳ぶぞ」

幼馴染「あ…」

男「せーの、いち、に…」


彼女の返事を待たずにカウントを始めて、それでも二人は対岸へ着地した。

強引にそうしたのは後ろめたさに耐えられなかったから。

そしてあのままでは、胸の早鐘を彼女に悟られそうだったから。



326 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/08(金) 13:43:25 ID:gXvHTkT. [5/20]


対岸は少し切り立った岩山の裾で、そう高くはないが見晴らし台までの岩を削った階段の登山道がある。

二人とも毎朝この道を駆け足で登って往復しては、体力を鍛えたものだ。

その道を今は、ゆっくりと歩いて登る。


幼馴染「あ、やっぱり咲いてる」


途中にある、日当りが良く少しなだらかになった斜面。

そうだった、昔からこの時期には群生する野生のセージが咲き誇るんだ。


男「お前、たくさん摘み過ぎて『手からセージの匂いがとれない』って困った事あったな」

幼馴染「なんでそんな人の失敗談ばっかり覚えてるかなー」


…それは違う、失敗談くらいしか面白く語る事ができないだけだ。


そうでない思い出話はたくさんあるけど、あまりそれを掘り起こすと別の感情まで目を覚ましそうだから。

せっかく懐かしい場所を巡っているというのに、お前だって妙に口数が少ないじゃないか。

…きっと同じ事を考えている癖に。



327 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/08(金) 13:45:09 ID:gXvHTkT.


見晴らし台からは村が一望できる。

遠すぎて判るはずも無いのに、俺は宿の窓から見えるのではないかと少し心配になった。

麦の畑は黄金色に近付き、風に穂を揺らして脈を打っている。


幼馴染「あ、見て…旗が変わったよ」


村の中央の広場にある掲揚台には、今まさに赤色の旗が昇らされていくところだった。

畑からも見えるその台には、午前中は白、午後は赤い旗を掲げる事になっている。


男「正午になったんだな…そろそろ戻るか」

幼馴染「…うん」


俺は立ち上がり、ズボンについた埃を掃った。

彼女もそれに倣い立ち上がるが、俺が向かう来た時の道へ振り返ろうとはしない。

少し悩んだ風に間をとって、小さく頷いて。


幼馴染「…男、聞いてくれる?」


そして彼女は視線を村に向けたまま、ぽつりぽつりと話し始めた。



328 名前: ◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2013/11/08(金) 13:54:10 ID:gXvHTkT. [7/20]


一つずつ、敢えて触れてこなかった思い出話を彼女の口は紡いで。


幼馴染「私…やっぱり男の事、好き」


そしてやがて、その言葉は核心に触れる。


幼馴染「五年前に捨てたつもりだったけど、少しだけ捨てきれてなかった。でもその分も再会した夜にふっきれたと思った…」

男「…そう言ってたな」

幼馴染「でも、それも…まだ残ってたみたい」


何と答えたらいいだろう。


将来的には正式に女を妻とするつもりだ…その意思は、あの日はっきりと告げたはずだ。

それを覆すつもりも無いし、幼馴染だって忘れているわけでは無いだろう。

だから、繰り返す意味も無い。



329 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/08(金) 13:57:40 ID:gXvHTkT. [8/20]


幼馴染「ねえ、ここ…覚えてる?」


見晴らし台という場所の事を忘れるはずは無い。

だから彼女が問うのはここであった出来事の記憶だろう。


幼馴染「…いくつ位の時だったっけ」


…覚えて無い。


幼馴染「確か、竜に父親を奪われた…その少し後だから…ええと」


覚えて無いって、そんな事。


幼馴染「…お互いに親を亡くしたのに、やっぱり私は男より弱くて…泣いてばっかりだった」

男「そうだったかな」

幼馴染「そうだったよ…だから男は私を励まそうとしてくれた」


互いに隣り合った家に引き取られて、その家の人は充分な愛情を注いでくれたけど。

どうしたって埋められない穴は、二人の心に確かに穿いていた。


幼馴染「男、ここで言ってくれたよ。俺が家族だから、お前は独りじゃないから…って」



330 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/08(金) 13:58:10 ID:gXvHTkT. [9/20]


その言葉を忘れたと言えば薄情すぎる。

だから『そうだっけ』と、しらばっくれる事はできなかった。


幼馴染「その後…本当に子供だったのにね。男、一回だけキスしてくれた」


男「……………」


幼馴染「女さんがいなかったら…なんて恨みがましい事は言いたくないの。だから、もし私が五年前に男の傍から離れなかったら」


男「…今更だよ」


幼馴染「うん、解ってる。…でももしそうだったら、男…私と本当に家族になってくれた…?」


彼女は問いながら俺に振り返った。

その頬に伝う雫に、気づかないふりをするのは難しい。



331 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/08(金) 14:00:07 ID:gXvHTkT. [10/20]


幼馴染「私、目を瞑っとくから…答えが『ならなかった』なら、そのまま男だけ村に戻って」


彼女が目を閉じる、その瞼からまた一筋の涙が落ちる。


幼馴染「もし『なってた』と思ってくれるなら、たった二度目…でも最後のキスをください」


例えば、竜が現れなければ。

もし、あの日彼女が旅立たなかったら。


幼馴染「…どっちにしても、それでおしまい。それだけで私達の恋は…終わりにするから」


様々な『…たら』や『…れば』を使えば、いくらでも未来を想定する事はできる。

でもその中で選ばれてゆくのは一つだけ。

あとの選択肢は胸の中にだけ描く事を許された、憧れに似た物語なんだ。


あの日、俺と幼馴染が選ぶかもしれなかった未来。

それは今日、本当に幻となって消えたんだ。



336 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/08(金) 16:30:07 ID:gXvHTkT. [12/20]


………


…翌日朝


充分な大きさの荷馬車を手に入れ、隊員達の荷物も軽く街道を順調に進みはじめた。


時魔女「これで旅が楽になったねー」

幼馴染「ほんと、テントも荷馬車も必要数揃ったし、あの惨めな食事ともおさらばできるよ」


昨日、午後からは顔を合わせなかった幼馴染も、すっかり吹っ切れた表情をしている。

俺は心の内で、ホッと胸を撫で下ろした。


時魔女「腹が減っては!」

幼馴染「お肌が荒れる!」


もうひとつ安心したといえば、午前中の出来事が女にばれなかった事。

これについてもビクビクしていただけに、大きく安堵した。


時魔女「お肌が荒れたら!」

幼馴染「王子様が逃げる!」


なんでこいつら、こんなに気が合うんだ。

本当に姉妹なんじゃなかろうか。



337 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/08(金) 16:30:45 ID:gXvHTkT. [13/20]


男「あ…ここだ。おい、幼馴染…ここが昨日の朝に話した新しい牧場だよ」

幼馴染「おー、広ーい。どうりで、向こうに牛が少なかったわけだね」

男「な?…あのまま行くにはちょっと遠い…だ…ろ…」


…しまった、これはしまった。


女「…昨日、逢っておきたかった方とは、どなたの事だったんです…?」

男「…えーと」

女「おかしいと思ったんです。私と時魔女さんも午前中は村をあちこち散歩したのに、お二人とも一度も会いませんでしたものねえ…」


時魔女が胸に手を翳す、嫌な予感に襲われる。


女「時魔女さん!男さんを止めて下さい!」

時魔女「了解!時間停止発動っ!」

男「ちょっ…!」


時間停止を味わうのは二度目、今度は命の危機だ。


女「男さん、完全詠唱の魔法は炎と氷と雷…どれがお好みです?」

傭兵長「ここが隊長殿の死に場所だったのですな…どうぞ安らかに」


視界の端で、荷馬車の幌に隠れようとする幼馴染が見えた。



342 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/08(金) 19:40:58 ID:gXvHTkT. [15/20]


……………
………


…四日後
…月の国、北西の海岸


時魔女はその後も、内容を一々俺に告げながら星の副隊長との交信を続けていた。

そしてそれは我々にとって、良い方向に事態を進展させる事となる。


時魔女「あ、あの船だと思うよ!」


星の国の計らいにより、物資を乗せた船が海岸に近付く。

積荷は食糧を始め、予備の武器や当面を凌ぐに足る金貨などという話だ。


男「星の副隊長には感謝しきれないな」

時魔女「そっちの副官さんの事、副隊長も責任感じてるんだよ…遠慮なく役立ててあげて」


通信によれば本当なら魔法隊をはじめとする人員も送りたかったそうだ。

しかしそれは同盟国が無許可で月の国に派兵するという事になるため、さすがに叶わなかった。


傭兵長「さあ、船が接岸しますぞ。月の監視船に見つからぬ内に、手早く荷下ろしを」



343 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/08(金) 19:41:29 ID:gXvHTkT. [16/20]


船員と隊員の共同作業により、荷下ろしはものの10分ほどで完了する。

船には詳細な位置を相互に確認するため、星の副隊長も乗り込んでいた。


星の副隊長「時魔女様、月の隊長…いえ今は違いますね、男様を困らせてはいませんか?」

時魔女「困らせてなんかないよ!私がいなきゃダメって位、役立ってんだから」

男「そういう事にしとくよ」

星の副隊長「男様、どうかよろしくお願いします」


せっかくの再会だが、長居はできない。

星の副隊長は足早に船に乗り、離れゆく船尾から何度も手を振った。


月の副隊長の義足は既に試作段階を過ぎ、日々それに慣れるための訓練が行われているという。

彼と再会できる日も、遠くはないかもしれない。



344 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/08(金) 19:42:02 ID:gXvHTkT. [17/20]


それともう一つ、星の副隊長から伝えられた気になる情報がある。

まだあやふやな情報ではあるが、白夜の王都に翼竜が現れたというのだ。

そしてその襲撃により、既に高齢で天寿を全うするのも近いと噂されていた白夜王が亡くなったという。


白夜は既に世継ぎも定まっていたから国政に大きな乱れは無いだろうが、なぜ翼竜は遠く白夜の王都を襲ったのか。

竜にとって餌となり得るような家畜を多く飼う田舎の村を襲うのは納得できる。

しかし襲われたのは、家畜などいるはずもない王都。

まして高齢で遠征など行うとは考え難い白夜王が命を落としたという事は、その城の中枢を襲ったという事なのだろう。


星の国は月の国だけでなく白夜とも同盟を結んでいる。

だからこの情報もいち早く伝わったのだろうが、まだそれ以上の詳細は判らないとの事だった。



345 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/08(金) 19:42:58 ID:gXvHTkT. [18/20]


……………
………


…更に二日後
…月の国、西の山岳地


傭兵長「…偵察に行かせた者の情報によると、やはりこの先の関所を防衛線として多数の兵を配置しているとの事…強行突破は難しいでしょうな」

男「追っ手が無いから期待したが、やはり西の台地へは近寄せないつもりか…」

傭兵長「追っ手にしても派兵はしておるのかもしれません。ただ月の兵が我々に寛容であるために、本気で捜索をしないだけか…と」


西の台地までは、本来ならあと二日とかからない距離だ。

しかし現在地から半島の地形を呈したその場所との間には、越えるに現実的でない険しい山と監視船が多数浮かぶ海が隔たっている。

山岳地に三箇所ほどある通行可能な谷には全て関所が設けられ、海岸線もまた軍港を兼ねた施設が置かれており、隙は無い。


故郷の村と星の国の計らいで物資と装備は整った我が隊だが、絶対的な兵数の不足は如何ともし難い問題だった。

いかに月の兵の持つ我々に対する敵意が薄くとも、直接の指揮官がいる大隊となれば邂逅すれば交戦せざるを得まい。

もしも上手く関所を突破できたとしても、今度こそ多勢の追撃を受ける事となるに違いない。

そうなればまさにジリ貧、いかに隊員達が優秀であろうともこれ以上に数が減れば竜討伐どころではなくなる。



346 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/08(金) 19:43:32 ID:gXvHTkT. [19/20]


男「ひとまず少し道を戻って、山間に入った所で今日は野営を張ろう。ここは関所に近過ぎる」

傭兵長「もしかしたら、そこで長く凌ぐ事になるかもしれませんな。兵が薄くなるにどれだけかかるか…」

男「食糧はまだ二週間はもつだろう。確か今朝方に湖の畔を通った。その近辺…水の補給が可能な位置に陣取るのが良かろう」


歩んだ道を後進し、湖の畔へ着く頃には夕方が近付いていた。

しかし湖畔その場所ではいけない。

水場の直近はこうして野営を張るに適しているが為に、警戒も強いはずだ。

そのまま湖畔を周り、森がある所を選って水場から30分ばかり離れる。

見通しは無いが少し開けた場所を探し当て、野営地を決する頃には日が落ちようとしていた。



352 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/09(土) 09:12:40 ID:vyvPHclo [1/4]


一時を思えば随分と隊の備品は充実していると思う。

水が充分確保できる時は、盥に湯を汲み荷馬車の幌の中で軽い湯浴みもできる。

そのおかげで、女性陣のストレスも少ない。


女「…先に湯を頂戴しました。男さんも汗を流されては?」

男「ああ、そうする」


涼しい気候だからか、隊員達は数日に一度ほどしか湯浴みをしないようだ。

俺も自身としてはそれでも良いのだけど、女と寝床を共にする事を思えば一日の垢を拭わなければ落ち着かない。

相変わらず口の悪い隊員に、いつも『しっかり洗っておかないとマナー違反ですものね』などと冷やかされるが、気にしない事にした。


充分な数のテントが確保されているから今は俺と女、幼馴染と時魔女はそれぞれ二人ずつで一基が割り当てられている。

だからといって、隊員達が思うような不純な行為はしていない。

でもあまりそれを言い張ると、今度は俺の身体機能の正常性を疑われかねない。

だから、それについても主張するのはやめた。



353 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/09(土) 09:13:12 ID:vyvPHclo [2/4]


俺がテントの方へ戻ると、女は外で星空を眺めていた。

見上げれば確かに満天の星屑が、手を延べれば触れられそうなほどに近い。


男「…綺麗だな」

女「はい…王都の空より、ずっと」


王都では夜通し何かしらの灯りがあったから、こうも星は見えなかった。

俺は昔から故郷の村でこれに近い星空を見てきたからそう珍しくもないが、彼女の目にはまだ新鮮に映るのだろう。


女「あ…流れ星!…男さん、見ました?」

男「いや、気付かなかったな」

女「願い事をするような間は無いものですね。せめていつ流れるか判っていれば、できるかもしれませんけど」


ふと、もし願う事ができるなら、彼女は何を唱えるのだろうと気になった。

この旅を無事に終える事か、それとも不穏な陰りをみせる祖国の安定だろうか。

俺なら…やはり翼竜を討つ事を願うだろうな。



354 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/09(土) 09:13:43 ID:vyvPHclo [3/4]


そして夜空にはまた、一筋の星が尾を引く。


女「………ますようにっ」


それに間に合ったかは解らなかったが、その時に彼女が早口で唱えた言葉は先に思ったいずれでも無かった。

言った後から彼女は口元を押さえ、俯き加減に横目遣いで俺を見る。


男「随分、照れ臭い事を言ってくれるな」

女「…言葉そのままの意味だけではありません」


…なるほど、確かに色んな意味を含むだろう。

旅の無事、翼竜の打倒、身の上の安定など…。

その全てが叶わなければ、彼女の望みが満たされる事はない。


男「まあ…待っててくれよ」

女「…少し、浮気が心配ですけど」

男「しない…してないって。テント入ろう、湯冷めしてしまう」

女「はい」



355 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/09(土) 09:14:15 ID:vyvPHclo [4/4]


女を先にテントに入らせ、その後に続こうとする。

その時、星明かりに照らされた周囲の照度が一瞬落ちたように感じて、俺は空を見上げた。


男(…あれは何らかの飛翔魔獣だな。かなり大きい…このまま飛び去ってくれればいいが)


この山岳地には飛翔能力を持つ魔物が多く巣食う。

小さなものではハーピーやバルチャー、更に大型のガルーダが生息すると聞いた事もあった。

例えガルーダであったとしても勝てないような相手ではないが、夜間の戦闘は面白くない。


男(…鳥型の魔物なら夜目はきくまい、向こうから襲ってはこないと思うが)


幸いその予想は正しかったようだ。

空を舞う影は真っ直ぐ山の向こうへと消えていった。


女「…どうされたのです?」

男「ん…いや、先に休んでおいてくれ。ちょっと傭兵長に、見張りの増員を頼んでくる」

女「…そんな事を言って、また幼馴染さんと逢引するつもりじゃないんですか」

男「馬鹿言え、もう勘弁してくれよ…」



357 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/09(土) 11:54:34 ID:vBYxDnHs [1/15]


…四日後、同じ野営地


連日、数名の隊員を偵察に送っているが、関所が手薄になった様子は無いとの報告しか上がってこない。

幸い今のところ野営地には魔物の襲撃は多くなく、二日目にハーピー数羽が近付いたが、交戦前に向こうから逃亡した。

そのハーピー達が仲間を引き連れて再来する可能性は否定できないが、野営地を変更するほどの理由にはならない。


そうして四日目の正午も過ぎようとしていた頃の事。

その僅かな危惧は、現実のものとなったのだ。


見張り兵「魔物襲来!ハーピー多数、大型の鳥型魔獣もいます!」

男「くそ…本当に来るとはな。弓兵、出番だ!腕を鈍らせてはおるまいな…!」

弓兵「へっ!隊長は眺める位しか出来ますまい、まあ指でも咥えてて頂きましょう…!」


全く、イキのいい隊員が揃ったものだ。

見るにハーピーは20羽以上、恐らくガルーダと思われる大型の鳥型魔獣も二体見える。



358 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/09(土) 11:55:47 ID:vBYxDnHs [2/15]


幼馴染「へっへーん、ちょっと腕を振るうのも久しぶりだもんね。かかってきなさいっての!」

男「調子に乗るな、ハーピーはともかくガルーダは気を付けなければ喰われるぞ」


ガルーダは鳥型魔獣としては最大の魔物、個体数は少ないがこの月の山岳地を主な生息地とする。

渡り鳥としての性質もあるらしく、寒くなるこの後の季節はあの砂漠の方面へと移動するらしい。

蛇の姿をしたヴリトラの存在があったからだろうか、砂漠ではガルーダは蛇を喰らう神鳥として畏敬の対象であるという。

その巨鳥にとって今は、砂漠への移動に向けた喰い溜めの時期に当たる。


女「魔法の使用許可を…!」

男「ああ、任せた!」


女が火炎魔法の詠唱を始める。

俺も傭兵長も、数名の隊員と共に見守るしかできない。

矢を受けた魔物が地に墜ちでもすれば出番もあろうが、地味な役割だ。



359 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/09(土) 11:57:45 ID:vBYxDnHs [3/15]


弓兵の活躍により、ハーピーの個体数は目に見えて減ってゆく。


幼馴染「…炸矢っ!」

女「業火に焼かれて貰いましょう…!」


そして彼女らの活躍により、ガルーダも飛ぶ速度と高度を落とし始めていた。

勝利は見えた、被害はありそうに無い…誰もが油断したその時。


傭兵長「いかん…!幼馴染殿、背後です!」

幼馴染「えっ…!?」


別の角度から滑空し密かに接近していた三体目のガルーダ、避ける間も無くその爪が幼馴染に迫る。


幼馴染「しまった…!ああぁっ…!」

男「幼馴染っ…!」


巨鳥は彼女を攻撃するのではなく、その足に捕らえて空へ奪った。

彼女に当たる可能性を思えば、矢も魔法も放つ事はできない。

既に高度は100フィートを超えている、彼女自身が抗って解放されても地上に叩きつけられてしまうだろう。


群れの他の個体も彼女を捕らえたガルーダと共に飛び去ってゆく。

巣に持ち帰り、彼女を喰らうつもりなのだ。



362 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/09(土) 12:59:40 ID:vBYxDnHs [4/15]


男「時魔女!」

時魔女「解ってる!時間停止…!」


対象の個体が動きを止める。

しかしそれだけだ、時間稼ぎにしかならない。


男「時魔女…もし幼馴染が落ちたとしたら、地上近くでアイツの時間を止める事はできるか…!?」

時魔女「時間停止を解いたら同じ落下速度を取り戻すから、意味が無いよ…どうしたらいいの…!」


俺は飛び去る他の個体がどの方向に行くかを覚えようとした。


男(くそっ…だからどうなるってんだ!)


鳥が数十分で飛ぶ距離を歩めば一日もかかるだろう。

巣を探したところで出来るのは彼女の骨を拾う位の事だ。


男「畜生…打つ手が無い…!」


未だ彼女を掴んだまま止まっている巨鳥を睨む。

その時、俺の視界は更なる魔物の姿を捉えた。



363 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/09(土) 13:00:11 ID:vBYxDnHs [5/15]


傭兵長「あれは…!」

男「嘘だろう…獲物を横取りに来たってのか!」


ガルーダを凌ぐ巨体、鷲の頭と翼、そして獅子の身体。

本来、月の国にいる筈のないこの魔物が何故。


女「グリフォン…!」


その数8体にも及ぶグリフォンの群れは、V字編隊から散開して巨鳥を襲う。


しかしそれと同時に、幼馴染を捕らえていたガルーダが閃光に包まれた。


時魔女「幼馴染ちゃんが…!」


喰われる位なら堕ちて果てた方がましだと考えたのか、囚われの彼女自身が炸裂の矢を放ったのだ。

宙に投げ出され、見る間に落下速度を上げてゆく幼馴染の身体。

ずっとガルーダの動きを封じていた時魔女には、すぐに幼馴染の時間を縛る事もできない。


男「幼馴染っ…くそおおおぉぉぉっ…!」


一体のグリフォンが落下する彼女に向かうのが見えた。

喰われる相手が変わるだけか、それとも地面に叩きつけられるか。

いずれにしても絶体絶命の彼女を、救う術は無かった。



364 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/09(土) 13:01:23 ID:vBYxDnHs [6/15]


時魔女「男…違う…!」


時魔女が何かに気付く。

接近したグリフォンが幼馴染を捕らえた。


時魔女「あのグリフォンは…!」


目を凝らす。

そうだ…グリフォンの脚は獅子のものに同じ、人間を掴めるようなつくりではない。

彼女を捕らえたのは、その魔獣の背だ。

その背には…


男「鞍がある…人が乗ってる…!」


話に聞いた事はあった。

グリフォンを駆る、誇り高き一団の存在を。

その名は…


時魔女「白夜の騎士団…!」



371 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/09(土) 19:52:55 ID:vBYxDnHs [9/15]


幼馴染を受け止めた一騎はこちらを目指し、残りの七騎はガルーダとハーピーを驚く程の早さで一掃せんとしていた。

俺達の前に舞い降りる、幼馴染の救世主たる騎士。

雄々しく巨大なグリフォンの背に、白銀の甲冑を纏った男が幼馴染を抱きながら跨っている。


男「幼馴染…!」

幼馴染「…ごめん、男が気をつけろって言ってくれたのに」


騎士の腕が解かれグリフォンが首を下げると、彼女はその背から地に降り立った。

ガルーダの鋭い爪に掴まれた事により、その肩は鮮血に染まっている。


男「時魔女、時間逆行は間に合うか?」

時魔女「うん、あと少しでロードできると思うから、充分間に合うよ」

幼馴染「だ、大丈夫…大した事ないよ」

時魔女「いいから、あっち座ろうよ」


時魔女に呼ばれ、幼馴染はちらちらと後ろを振り返りながら俺の横を通り指差された方へ向かう。

その際に見た彼女の顔は、些か紅潮して見えた気がした。



372 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/09(土) 19:53:50 ID:vBYxDnHs [10/15]


男「…白夜の騎士とお見受けする。まずは礼を言わせてくれ、本当に助かった」

???「礼には及びませぬ。…私個人の想いとしても、幼馴染殿を救えてよかった」

男「…あいつを知っているのか」


そこまで尋ねた後から、俺はハッとした。

幼馴染から聞いた、五年前の白夜と旭日の共同作戦。

洞窟竜クエレブレ討伐の話を思い出したからだ。


???「私は元・白夜の騎士団の長を務めていた『騎士長』と申す者…お見知り置きを」


つまり彼こそが幼馴染にプロポーズをした主、白夜のドラゴンキラーその者。

なるほど、幼馴染が頬を染めていたのはそれ故か。


騎士長がグリフォンの背から降りようとした時、彼の後ろに次々と他の七頭が集う。

この僅かな時間で魔物を殲滅したのだろう。

騎士長は他の騎士団員が地上に降り立つのを待って、改めて俺に正対した。



373 名前: ◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2013/11/09(土) 19:59:06 ID:vBYxDnHs [11/15]


騎士長「元・月の国討伐隊隊長、男殿とお見受けする」

男「いかにも…だが何故『元』という点を知っておられるのだ」

騎士長「星の国を経由し、貴殿の情報を得ました故。…先ほどはグリフォンの背、高いところからの挨拶となり申し訳なかった。ご容赦のほど願いたい」

男「気にしないで頂こう。今の俺は貴方が改まって話さなければならないような立場には無い…ただのゴロツキの長なのでね」


俺の後ろに纏まり無く立つ頼もしい隊員達が、くっくっ…と抑え切れない笑いを漏らす。

どっちが優れているなどと考える必要は無いが、少なくとも向かう騎士団の面子の方が上品なのは間違いない。


男「まあ、そういうわけだ…言葉を砕いていこう。先ほど騎士長殿も『元』騎士団長と言ったと思うが、どういう事なのか」

騎士長「では、私も気を楽にさせて頂く。まあ…はっきり申せば、白夜王が崩御される際の遺言で任を解かれた…つまりクビになったのだ」

男「クビ…?国にとって大事なドラゴンキラーがか」

騎士長「白夜では騎士という称号に比べれば、ドラゴンキラーなどという肩書きに大した意味などない。亡き我が主君も若かりし日には騎士王であった」

男「…なるほど。では、なぜこの国…しかもこのような辺境に?」

騎士長「知れた事…何のために星に情報を仰ぎ、数日もかけて男殿の部隊を探したと思われるか」



374 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/09(土) 20:00:34 ID:vBYxDnHs [12/15]


そして騎士長とその部下達は再度姿勢を正し、思いもしなかった言葉を告げた。


騎士長「我々を男殿が率いるゴロツキの部隊の一員として、雇って頂きたい。それを願うために馳せ参じた次第だ」


どういう事だ、なぜ俺が白夜の騎士を率いる事になど。

しかし信じて良いものなら、こんなに心強い申し出はない。

まして空を駆けるグリフォンの力があれば、関所を越えるにこれほど確実な方法は無いだろう。


男「…雇うために必要な見返りは、何を求める」

騎士長「我が主君の仇を討つ、それ以上の報酬はありますまい」

男「騎士がゴロツキ連中とつるんだのでは、主君の名折れになるのでは?」


今度は騎士団の方から笑いが漏れる。

しかしそれは我々を蔑むようなものではない。


騎士長「先ほどは男殿の言葉を借り、ゴロツキなどと申したが…今、貴殿の部隊が何と呼ばれているかご存知か?」

男「いや…知らん、月の逆賊とでも?」

騎士長「星の国で聞き申した。濁った月の光を避けながら、勇敢にも竜に挑もうとする誇り高き部隊がある…と」


我々自身が知り及ばないところで囁かれ始めていた、この部隊の呼称。


騎士長「誰が名付けたかは知れぬ…が、貴方がたは今や『月影の師団』と呼ばれている」



375 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/09(土) 20:39:01 ID:vBYxDnHs


…その夜


男「…実際のところ、噛み砕いて教えてくれないか。何故、この隊との合流を望んだ?」


小さな焚火に鍋をかけ、いつもより少しだけ豪華な食事を囲む。

今夜は俺と傭兵長、そして騎士長の三人で顔を突き合わせていた。


騎士長「…私は祖父の代から白夜王に仕える騎士の一族だ。王は死ぬ前に言った…次の主君は自分で決めろと」

男「世継の王を主君とはしないのか?」

騎士長「白夜にグリフォンの騎士は百に迫るほどもいる。新王には皇太子の頃から直属の騎士があったのだよ」

傭兵長「なるほど、それでお役御免というわけか」

男「傭兵長、言い方が悪過ぎるぞ」


思わず焦って器から肉のスープを溢しそうになる。

やはりこいつらには月影などと上品な名より、ゴロツキと呼ぶ方が相応しいのではないだろうか。



376 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/09(土) 20:40:18 ID:vBYxDnHs [14/15]


騎士長「はははっ…いや、言われる通りだ。しかし私はまだ、亡き先代に忠義を誓っているつもりでもある」

男「仇敵を討つまで…か」

騎士長「そういう事だ。次の主君はその後に決める…いや、あては無くも無いのだが」

傭兵長「ほう…天下に五人しかいないドラゴンキラー殿が仕えるを望む御仁とは、どのような方なのですかな」


傭兵長の問いに騎士長は少し思案して、ふう…と小さく溜息をついた。


騎士長「それは…またの機会に話そう。今はまだ公言するにも時期尚早だ」

傭兵長「…それは口にするのも躊躇われる程に、止ん事無き御方という事で?」

男「傭兵長、あまり詮索をするな」

傭兵長「はっはっ…そうですな。自ら望んでゴロツキなどに交わろうとする騎士殿に興味が尽きぬもので、失礼をした」


だめだ…今までそうまでも思わなかったが、とにかくこいつらはやはり品が無い。

いや、今まで思わなかったという事は、俺もそうなのかもしれないが。


それからまだ暫く、夜が更け始めるまで俺達は話し込んだ。

これからの手筈、翼竜戦における戦法など。


たまに息抜きのように互いの身の上やいきさつなども話したが、それでひとつ判った事がある。

四日前、彼らが我々の部隊を手分けをして探していた際に、一人が夜間に上空からこの野営地を見つけたという。

どうやら女が流れ星に願ったあの夜、俺が空に見た影はグリフォンだったらしい。



382 名前: ◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2013/11/10(日) 17:31:57 ID:H0xt12JE [1/5]


………



女「…明日にも関所を越えるのですか?」


テントの中、自らの敷布に座った女が尋ねる。


男「ああ、明日…といっても夜間の事になるだろうが」


俺は剣にクローブ油を塗りながら、彼女の方を向く事無く答えた。


星の国の技術を結集したこの剣はやはり優れたものだ。

ここまでの戦いでも刃こぼれのひとつも見られない。


女「ついに翼竜の巣へ向かうのですね…」

男「…西の台地が巣だとは限らないがな。可能性は高いと思うけど」



383 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/10(日) 17:32:57 ID:H0xt12JE [2/5]


白夜の騎士団が駆るグリフォンの背に着けられた、単座の鞍。

その後方、獅子の腰まわりに当たるところには、馬に着けるものを大きくしたような左右一対の皮の荷袋が装備されている。

その荷袋の内布は非常に厚く大きな生地で出来ており、平常は余分な大きさの部分は折り畳んで荷袋の底敷きとなっているそうだ。

しかしそれを左右共に広げてベルトで結ぶと、グリフォンが提げて飛ぶ事のできる大きな布のバスケットとなる。

大人の男性で四人から五人も乗る事が可能で、その重量の負担を受けても一度に20分程度は飛行出来るそうだ。


男「まさか空から関所を越える事になるとはな。船酔いのようにならなければいいが…」

女「そんな経験ができるとは、思っていませんでした」

男「ああ、本当は昼間に乗せて貰えば眺めも素晴らしいんだろうけどな」


空から地上を見下ろすなど滅多にある機会ではない、女も楽しみにしていたりするのだろうか。

しかし彼女の方を見ると、その横顔は憂いを秘めている風に映る。


男「…どうした?」

女「もうすぐに、翼竜と戦う事になるかもしれないのですね…」


言葉を紡ぐ口調も重く、視線は燭台に揺れる蝋燭の炎にぼんやりと向けられていて。


男(…何故、そんな悲しげな顔をするんだ)


翼竜は彼女にとっても兄の仇敵、ついにそれを討てるかもしれないというのに。



384 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/10(日) 17:35:20 ID:H0xt12JE [3/5]


それとは正反対に、俺はすぐには寝付けないのではないかというほど気が昂ぶっている。


もはや両親の仇を討ちたいという想いだけではない。

ヴリトラとの連戦となった砂漠での敗北、その借りを返す。

それを成さければ、いつかあの世で砂漠に散った兵達に再会する時、顔向けが出来まい。


男「必ずあの竜を地に伏せてやる。この十数年間、それだけを心に誓って過ごしてきたんだ」

女「……でも」

男「理由は解らないが、白夜が翼竜に襲われた。…生かしておけば、これからもあの竜は幾多の悲しみを齎し続ける」


俺は剣に残った余分な油を拭き取り、曇りが無い事を確認して鞘に収めた。

これで今夜の内に準備しておく事は無いはずだ。


あとは明日、日中に魔物が襲来すれば交戦は止むを得ないが、総員共に出来るだけ休息をとり鋭気を養う。

日没と共に関所越えを開始し、翌日…つまり今夜から数えて明後日の夜明けと共に翼竜を探し始める予定だ。

そして遭遇次第、決戦を挑む。



385 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/10(日) 17:35:58 ID:H0xt12JE [4/5]


砂漠での戦いに比べれば兵数は少なく、魔法隊も持たない。

その代わり空からの攻撃が可能な騎士団が加わり、あの時のように隊が疲弊した状態でも無い。

現在の持てる力を振り絞った、まさに総力戦となるだろう。


男「時魔女の力と騎士団の機動力があれば、翼竜を地に堕とす事はきっと叶うはずだ」


地上に降り立った翼竜が、どれほどの戦闘能力を持つかは知れない。

…だが、それは関係ない。

どんな力を持っていようとも、畏れるものか。


男「この剣が届くところまで翼竜が堕ちれば、あとは何としても仕留めるさ。…例え…」
女「…言わないで下さいっ!」


不意に言葉を遮られる。

そして彼女は俺の心の昂揚に対し、真逆の事を言った。


女「…怖いのです、翼竜と戦うのが」



386 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/10(日) 17:37:02 ID:H0xt12JE [5/5]


男「な…何を言うんだ、あの竜はお前にとっても…」


何故ここまで来て怖気づくのか、俺には理解出来なかった。

しかし彼女が怯えていたのは、戦闘の恐怖そのものに対してではなかったらしい。


女「もう失いたくないのです!…あの竜に、大切な人を奪われるのは…もう嫌…です…」

男「……女…」

女「…貴方はきっと、私を隊列の後方に置くでしょう…?もし貴方が死んだら…私だけが遺されたら…私は、どうしたら…」


消えてしまいそうな声で、彼女は訴えかける。

だからと言って魔導士である彼女を隊列の前方に置くわけにはいかない、それは彼女自身も解っているだろう。

零れてこそいないものの彼女の青い瞳は涙を湛えていて、俺は言葉を詰まらせた。


女「それでも…貴方を止める事など、できないから…だから、せめて言わないで欲しいのです」

男「…解ったよ」


ならば自らの心にだけ誓おう、俺は必ず翼竜を仕留める。


そう…例え、この命に代えても。



388 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/10(日) 22:06:01 ID:AAUpi6K6 [1/4]


それから後、女は無口だった。

蝋燭の灯りを消し、それぞれの寝床で横になる。

サイクロプス討伐の行軍の頃に比べれば季節も変わり、標高も高い所にいる為かなり寒い。

テントを二人で共にしても、毛布は一人用のものしかない。

例え背中合わせにでも一つの毛布の下で寄り添って眠る事は、王都を捨てたあの日からできていなかった。


男「…女、まだ起きてるか」

女「……はい」


ヴリトラとの戦いにおいても、死は眼前にまで迫った筈だ。


男「死なない…と、約束できなくて…すまない」


口先だけでそんな約束をしても何の意味も無い事は、彼女だって解っているだろう。



389 名前: ◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2013/11/10(日) 22:09:27 ID:AAUpi6K6 [2/4]


明日の夜はグリフォンによる移動を行う事になる。

慎重に…でも要所と定めた部分は速やかにパスしなければ。

果たして部隊の全てが安全に関所の向こうへ渡る為に、どの位の時間を要する事になるのか。

そして侵入した先がどのような地形条件なのか、それらは何も解らない。


女「……男さん…そっちに行っても、いい…?」


だから…だったのか。

もしかしたら、二人で過ごすのは今夜が最後になるかもしれない…彼女はそう思ったから、こんな申し出をしたのだろう。


男「…毛布、小さいから風邪ひいちまうぞ」

女「二枚をずらして重ねれば、平気です…」


言いながら、もう彼女は自らの毛布を握って俺の隣に跪いている。


男「…いいよ、おいで」



390 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/10(日) 22:10:07 ID:AAUpi6K6 [3/4]


久しぶりに女の髪の香りが鼻をくすぐる。

そして女は背合わせではなく俺の側を向いて横になると、初めて自ら俺に口づけをした。

今までの数度よりも長く唇を併せ、その後はやはり俺の胸に顔を埋めて表情を誤魔化して。

数分して、ようやく顔を上げた彼女に『暗いから表情など見えないのに』と言うと『ああするのが好きなんです』と、口を尖らせて答えた。


男「…女、俺は…まだ言ってなかったな」

女「何をです…?」

男「俺を慕ってくれているんだろう?…俺もだ、お前を愛してる」


じゃあ今度はどうなんだろう。

表情を隠しているのか、それとも泣いているのか。

とにかく彼女は再度、俺の胸に顔を埋めた。

そしてその夜、俺達は初めて互いに向き合いながら、彼女を抱き寄せたまま眠りについたんだ。



393 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/11(月) 12:31:59 ID:wZ6m/ZOw


………



傭兵長「総員、整列!」


翌日の日没前、野営地の中央で傭兵長の号令が響く。

月の部隊23名と白夜の騎士8名、幼馴染や時魔女をあわせて30余りという小規模だが精鋭が集った我が隊の面子が俺に正対した。


男「…これより関所を越え、西の台地へと向かう。多くは無い兵数だが、諸君らは一騎当千の強者であると俺は信じる」


七体のグリフォンが既に人員の搭乗準備を整えて待機している。

残り一体のグリフォンとそれを駆る騎士一名は、この野営地に残してゆく備品や馬を管理しながら待機させる事とした。

万一、関所近辺で何か大きな動きがあった場合の伝令の任務も兼ねての役割だ。



394 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/11(月) 12:32:32 ID:wZ6m/ZOw [2/6]


男「西の台地の地形はおろか、どのような魔物が存在するかすら不明だ。翼竜が潜むとすれば、それもいつ遭遇する事になるかも知れん」


多くの装備品を持っていくつもりは無い。

関所を越え地に降りても暗闇の中だ、恐らく野営を張る事はできまい。


男「しかし、今まで翼竜が夜間にどこかを襲撃したという例は無い。その頭上を飛ぶような事が無ければ、今夜の内に戦う事にはならないだろう…」


複数人が搭乗し負荷をかければ、グリフォンの一度に飛べる時間は20分程度。

夜間の内に幾度かの休息を経て、できるだけ関所から離れた安全性の高い場所を探して、夜明けまで待機する事となる。

もっともそのような場所があるかどうかも解らないのだが。


男「決戦は明日の朝以降となろう。だが決して気を抜くな、これより先は常に翼竜の顎が眼前にあると思え!」


あの速さを誇る竜に出会えば、そこで悠長に作戦命令を伝える事などできない。

俺は傭兵長と騎士長と共に決めた戦闘における体制を、部隊の各員に今この時点で命じてゆく。



395 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/11(月) 12:33:04 ID:wZ6m/ZOw [3/6]


遭遇した時点でグリフォン隊が翼竜を包囲、遠巻きに威嚇しつつ可能な限り動きを阻害する。

射程高度に翼竜を降ろす事が叶えば、弓兵と幼馴染による矢の掃射と女の魔法攻撃を開始し、その翼を弱体化。

翼へのダメージが蓄積し、動きが鈍ったところを時間停止で縛り、グリフォン隊による直接攻撃で翼を完全に潰す。

おそらく翼竜の鱗も堅い、しかし蝙蝠のそれのような鱗をもたない翼を騎士団の槍で裂く事は叶うはずだ。

そして翼竜を地に落とせば、地上部隊で包囲攻撃をしつつ俺が剣で止めを刺す。

ヴリトラ戦のような失敗はしない、何としてもこの手でその心臓を裂いてみせる。


男「…基本的な作戦は以上だ。しかし想定外の事態も在り得る、その際は諸君ら各自の判断に任せる事となろう」


描いた通りに進まない可能性はあるが、それでも翼竜を相手とするに相応しい手勢は揃っている。

勝算は相応にあるはずだ。



396 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/11/11(月) 12:33:39 ID:wZ6m/ZOw [4/6]


男「…成したところで誰が讃える事も無い戦いかもしれん。しかし、我々が翼竜を討つのは賞賛や褒賞を求めての事では無い」


俺の両親、幼馴染の父親、女の兄、そして白夜王の仇を討つ事。


男「諸君らの武勇は全てこの俺が見届けよう。その勇姿は生き残った者の胸に刻まれ、語られるだろう」


そして今まで翼竜が齎してきた悲しみに報い、もう二度と繰り返させない事。


男「讃えられる事は無くとも、いつか人々が伝えるはずだ…翼竜を討ちし、勇猛なる隊があったと」


そのために俺達は、竜を堕とす。


男「その名は、月影の師団…我々の事だ。決して忘れるな、あの世で同じ名の元に集おう。…騎士長、グリフォンは」

騎士長「…いつでも」

男「では、征こう」


俺は傭兵長に目を遣った。

彼が強く頷く、そして。


傭兵長「総員、グリフォン搭乗!臆するな…!目指すは我らが望んだ死に場所ぞ!」


月影は今宵、地上に在らず。

それは紺碧の空に舞う。



397 名前: ◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2013/11/11(月) 12:35:18 ID:wZ6m/ZOw [5/6]


第二部、終わり


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テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

  1. 2013/11/11(月) 20:39:38|
  2. ファンタジー
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農夫と皇女と紅き瞳の七竜 『第一部』 (原題/同じ)

第一部

『農夫と皇女と
き瞳の七竜』


1 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/19(土) 12:42:18 ID:WEHvgTN6 [1/18]


切り立った岸壁の合間、けたたましい咆哮が響く。


男「火炎警戒!防御体勢!」


ありったけの大声で俺は叫んだ。

間も無く紅蓮の炎が周囲を総なめにする。


弓兵「うあぁぁぁ!熱…っ!熱いっ!」

男「魔法隊、消火!弓兵隊は一斉掃射だ!翼を狙え!」

兵士達「はっ!」


火炎の主、巨大なサラマンダーが大きく羽ばたき、矢の弾幕から逃れようとする。


男「馬鹿め、何のために谷間に誘い込んだと思ってやがる」


ジリ貧のような撤退戦を演じ、一番谷の幅が狭まるエリアまで誘い込んだのは、この巨体の動きを封じるためだ。





2 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/19(土) 12:43:10 ID:WEHvgTN6 [2/18]


副隊長「くっ!また火炎がきます!」

男「怯むな!諸君らの双肩にはこの戦いで既に散った英霊が宿るものと思え!あの醜き翼を切り裂き、竜を地にひれ伏させるのだ!」


恐怖を振るい、激しさを増す矢の掃射。

竜が息をする間を奪い火炎の吐出を防ぐには、この手を休める訳にはいかない。


男「よし!動きが止まった!魔法隊、雷撃魔法!略式詠唱だ、威力は低くてもいい!」


数秒の後、竜の頭上の空間に小さな黒雲が渦を巻く。


男「放て!」


俺が手を振り下ろすと同時に竜を襲う、青白い閃光。

詠唱の大半を破棄している分、威力は竜に大きなダメージを与えられる程のものでは無い。

狙いはその電撃によって竜の筋運動を阻害する事だ。

矢の掃射で既に穴だらけになった翼、その羽ばたきまで意のままにならなければ、もう巨体を浮かせておく事は出来ないだろう。





3 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/19(土) 12:43:47 ID:WEHvgTN6 [3/18]


副隊長「隊長!竜が堕ちます!」

男「この機を逃すな!槍兵隊は背後に回れ!弓兵隊、竜の脚を狙い歩ませるな!盾兵は前方で威嚇、火炎吐出を引き寄せろ!」

弓兵「男隊長殿、首は…!?」

男「首は、俺が獲る!」


竜の注意が目の前の盾兵隊に逸れた一瞬の隙をついて、俺は地に伏せられた翼を駆け上がる。

そこから長い首を伝い、後ろ角を掴もうと手を伸ばす…その時、竜がぐるりと首を回し俺の方を睨んだ。

その紅き右眼に、俺の姿はどう映っただろうか。


男「よう、手間かけてくれたな」


腰からダガーを抜き、最も手近な竜の首部分の鱗の隙間に突き立てる。

そして俺はそれに足を掛け、竜の頭部めがけて跳んだ。





4 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/19(土) 12:44:25 ID:WEHvgTN6 [4/18]


竜が口を開け、周囲の空気を吸い込む。


男「遅いんだよ、火蜥蜴」


両手剣を前に構え、そのまま竜の顎へ。

口の中から上顎を貫く様に刃を立てて思い切り振り下ろし、内側から眉間を切り裂く。

その一撃は確実に急所を捉え、竜は火炎ではなく鮮血を散らせながら地に崩れた。


男「とどめを刺すぞ!魔法隊、凍結魔法!完全詠唱で心臓を狙え!」


魔法隊はすぐに詠唱を開始する。

およそ30秒を要する完全詠唱の凍結魔法、それを心臓に喰らえばもう生きてはいられまい。


副隊長「詠唱、完了します!」

男「よし総員退避!魔法隊………放てっ!」


刹那、周囲の空気が氷点下に変わる。今までに無いほど冴え渡る、魔法隊の渾身の鉄槌。

散った七つの御魂に報いたい、その想いが彼らに能力を超える程の力を与えていた。





5 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/19(土) 12:45:00 ID:WEHvgTN6 [5/18]


サラマンダーの巨体が力を失い、長い首が地面を打ち付ける。

大きく口を開き火炎を蓄えようとするも、もう周囲の空気を吸い込む事もできない。

最期の咆哮は弱々しく、狭い谷間を震わせる事すら叶わなかった。


弓兵「ざまぁみろ!隊長、やりましたよ!ついに憎きサラマンダーを仕留めた!」

盾兵「見ろ!火の大蜥蜴が凍りついてるぞ!」


討伐隊員達はみな肩を叩き合い、勝利を噛みしめている。


男「皆よく戦った。俺は今日この時、諸君らと共に戦えた事を誇りに思う。願わくばこの竜の断末魔が散りし英霊の鎮魂歌たらんことを!」

兵士達「おお、万歳!男隊長万歳…!」





6 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/19(土) 12:46:35 ID:WEHvgTN6 [6/18]


……………
………



…月の国、城内。謁見の間。



月王「いや、愉快じゃ!今宵の酒のなんと美味き事よ!」


王は空になった葡萄酒のグラスをもたげ、大きな声で笑った。


男「お言葉ですが、王。今回の討伐では勇敢な戦士7人の命が失われております。どうか今宵の酒は亡き者達を弔うためのものでありますよう」

月王「…うむ、そうであったな。しかし男よ、その事を自ら責めるでないぞ。お前の隊より以前では二百人の兵を送り、その全てが竜の顎に飲まれたのだ」


そこまで言って王は玉座から立ち上がり、俺の前まで歩み寄る。そして膝まづく俺の肩に手を置き、「顔を上げよ」と促した。





7 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/19(土) 12:47:05 ID:WEHvgTN6 [7/18]


月王「わしはお前がわずか五十の兵で討伐に向かうと聞いた時、その正気を疑った。しかしお前は見事、竜を討ち戻ってきた。わしは驚嘆しておる」

男「もったいなきお言葉」

月王「さあ宴じゃ。立たれよ、勇士殿」


王がぽんぽんと手鼓を打つ。

控えていた侍女達が赤い絨毯の上に白布を広げ、手際良く宴の準備が整えられた。


月王「男よ、我が国で初めてのドラゴンキラーよ、その武勇譚を話してくれ。散った戦士達がいかに勇猛であったかを」

男「…はっ」





8 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/19(土) 12:47:42 ID:WEHvgTN6 [8/18]


……………
………



…城内、男の部屋。



男「…ふぅ」


少々飲みすぎた。

俺の隣りに座った侍女が際限なく注いでくるのだから仕方が無い。

俺はベッドに腰掛け、石積みの壁にもたれかかった。冷たい石が酒に火照る背中に心地いい。

やはりああいう席は苦手だ。

そもそも俺は城みたいな堅苦しい所自体が好きじゃない。

まして本当の俺は、討伐隊隊長として兵を連れ歩くような男じゃあない。

この国の中でも辺境の村、そこで田畑を耕す農夫だったのだから。





9 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/19(土) 12:48:13 ID:WEHvgTN6 [9/18]


ただ自分でいうのもなんだが武芸に長けていた、それだけの事。

幼い頃、突然村に現れた竜に両親を殺された。その時からいつか仇を討つ事を誓い修練を絶やさずにいた。

そんな俺の噂がいつしか王の耳に届き、呼び寄せられたのだ。

そしてその王の目の前で、王国最強とうたわれた近衛兵長を打ち倒した。

王は俺に部隊を持たせ、竜討伐の任を命じた。俺はついに親の仇が討てると考え、それを受けた。

それが今回のサラマンダー討伐の成り行きだ。





10 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/19(土) 12:49:11 ID:WEHvgTN6 [10/18]


…とんとん

扉がノックされる。


男「どうぞ」


ベッドに座ったまま返答すると、きい…という音を軋ませて木の扉が開いた。


???「失礼いたします」


その扉の向こうに立っていたのは若い女性。

そういえば先の宴の席で王は、最初の約束だった金貨以外にも褒美をとらせると言っていたっけ。

それを持ってきた侍女…にしては少々身なりが良すぎる。


???「王より仰せつかりました」


男「…何を?」


見る限り彼女は何も手にしていない。


男「あー、…そういう事か」





11 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/19(土) 12:49:42 ID:WEHvgTN6 [11/18]


つまり彼女自身が褒美だ、と。


???「…はい」

男「んー、まあ…入りなよ」


女性は部屋に一歩入ると、木扉を静かに閉めた。

部屋の灯りに照らされ、より鮮明に浮かんだ女性の姿は素晴らしく美しいものだった。

この上なく整った顔立ち、清楚な立ち姿、派手過ぎずも煌びやかな装飾品と上品な白い絹の衣。

ふんわりとしたシルエットの服だが、彼女の魅惑的な身体の線は充分に見てとれた。

なるほど…これはすこぶる上等な褒美には違いない、けれど。





12 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/19(土) 12:50:15 ID:WEHvgTN6 [12/18]


男「えーとね、でも俺…そういうのはいいから」

???「そういうの、とは」

男「つまり、あれだろ?王は褒美として、俺に君自身を与えようと」

???「はい」

男「うん、だから…それは気持ちだけでいいんだ。なんなら朝まで部屋にいてくれてもいい。王には俺が大層喜んだと伝えてくれたらいいよ」

???「…そうはまいりません」

男「ほんと、気にしないで。俺からも王に礼を言っておくから。その…なんだ、夜伽はした事にしてさ」


その言葉を聞いて、女性は目を伏せた。

どうも居た堪れない。

俺はベッド脇のテーブルにある水瓶を手に取りぐい…と煽った。





13 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/19(土) 12:50:45 ID:WEHvgTN6 [13/18]


???「それでは…困るのです」

男「…なんでだ?」

???「王から仰せつかったのは、夜伽だけではないからです」

男「ん?」

???「私は、男様の妻とならなければなりません」

男「う…ぐっ!?」


あまり予想外の言葉に、水が気管に入りむせてしまう。


男「つ…妻って」

???「ですから、もし断られてしまうと私は居場所が無くなってしまいます」

男「いやいや、単に俺がまだ結婚する気はないからって言ったように伝えればいいんじゃないか?」

???「…一度婚姻の申し出を反故にされた皇女など、もうどこに嫁ぐ事ができましょう。どうしても私を要らぬと申されるならば、どうぞ男様の剣でひと思いに」





15 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/19(土) 12:51:28 ID:WEHvgTN6 [14/18]


男「ちょっと待て、今…皇女って」

???「はい、私は月の国第七皇女。名を『女』と申します」


…これは参った。

確かに他の国に出遅れ竜討伐の戦士、ドラゴンキラーを今まで有していなかったこの国にとって、俺の存在は大切なものなのだろう。

しかしだからといって、まさか王族に取り込もうとするとは。


男「……どうするかな」

女「男様が躊躇うのも無理はありません。先に申した通り私は所詮、第七皇女…皇后ではなく妾の娘に過ぎませぬ故」

男「そんな事を言ってるんじゃない、俺はまだ結婚なんて考えていないんだ。君が魅力的じゃないわけでなく、単に突然過ぎて…」


落ち込んだような彼女の瞳に、慌てて弁明の台詞を並べたてる。

しかしどうもそれが滑稽に思えて、自分で可笑しくなってしまった俺は言葉を途中で飲み込んだ。





16 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/19(土) 12:52:07 ID:WEHvgTN6 [15/18]


男「ふっ…はは…何を言ってるんだろうな、俺は。まさかこんな話をするとは、五分も前には考えていなかった」

女「私は真剣です、男様…」

男「ああ、解ってる…。君の事情も、なんとなく察せられるよ」


彼女は自分を妾の娘だと言った。

きっと王から俺の妻となる命を受けた以上、それにが叶わなかった場合は本当に居場所を失いかねないのだろう。


女「…では」


女は自らの纏う絹の衣の、腰まわりを結うリボンを解こうとした。


男「ちょっと待った、だからといって今夜の伽は不要だ」

女「しかし…」

男「君を妻とすれば、王の命は果たされるんだろう?…俺は舞踏会の色ボケした貴族のように、知り合ったばかりの女を抱くような趣味は無い」


と…いうか、女を抱いた事自体が無い。

まあそれは今、このタイミングでは言う必要はあるまい。





17 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/19(土) 12:53:44 ID:WEHvgTN6 [16/18]


男「一応、形式上という事で王の厚意は受けよう。よろしく頼む…女」

女「はい…ありがとうございます」

男「何を礼を言う事があるんだ。本当は俺みたいな田舎農夫の妻になるようなつもり、無かっただろうに」

女「…それは否定はできません」

男「ははっ…言うじゃないか。いいな、そういう方が付き合いやすい」


ふと女を見ると、その頬を涙が伝っていた。

その透きとおった美しい青い瞳は、一層の輝きを湛えている

きっと突然の命に、よほど覚悟を決めてこの部屋を訪れたのだろう。


男「夫婦となるなら、互いを知らなきゃいけないだろう。今夜は俺が眠るまで、君の事を教えてくれないか。…俺も話すから」

女「は…い…」

男「うん…泣き止んでからで、構わないよ」


それから十分余り、彼女は少し肩を震わせながら泣いた。





22 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/19(土) 20:22:14 ID:pM78Uj06 [1/9]


………




男「驚いたな…じゃあ君は皇女でありながら、この国で一番の魔導士だってのか」

女「国中で一番かは判りません。王都以外にどのような方がいるかも知れませんので」


それはそうだ。

魔導士と剣士の違いはあれど、現に俺自身がそうだったのだから。


男「ああ…まあね、でも少なくともこの王都では最強という事なんだな」

女「…男様は既に今後の命を受けておられるのですか?」

男「いや、まだ聞いていない。明日の朝また謁見するよう言われてるから、そこで何かあるかもな」


急に話題を変えられたようだが、おそらく違う。

この流れで、次に彼女が言う事はおよそ想像がついていた。





23 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/19(土) 20:23:01 ID:pM78Uj06 [2/9]


女「夫を支える事こそ妻の役目。今後の遠征、私も同行させて頂きます」

男「うーん…」


その魔力がいかに強大だとしても、やはり女性を遠征に連れ歩くのは躊躇われる。

でも先のやりとりから彼女の芯の強さは窺えた、だから多分。


男「駄目だ…と言っても、通じそうに無いね」

女「…察して頂いてありがとうございます」

男「仕方ない…ただし戦場では俺の命をきいてもらうぞ」

女「度々申しますが私は男様の妻、戦場にあらずとも己の誇りに背かない命であれば、何なりと従いましょう」

男「だからそれは形式上だって…」


しばらく話す内に夜は更けていた。

さすがに遠征から戻ったばかりで酒が入れば、いつもより早く眠気が襲ってくる。





24 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/19(土) 20:24:03 ID:pM78Uj06 [3/9]


男「…だめだ、もう眠い。君も部屋に戻りなよ」

女「私の寝所は今宵から男様の部屋です」

男「…だと思った」


おそらく俺がソファで寝ようとしても、彼女はそれを許さないだろう。

かといって皇女たる彼女をソファで寝かせるわけにもいかない。


男「どうりで部屋に入った時、前と違ってベッドが二人用になってると思ったんだよ…」

女「…失礼して、よろしいでしょうか」

男「どうぞ、何もしやしないよ」

女「夫が妻を求める事は当たり前と存じます。私の誇りに背く事ではありません」

男(…さっき安心して涙を零す姿を見ておいて、それを裏切るなんてできないだろ)


彼女は俺に背を向け、そっと隣で横になる。

その綺麗なうなじにハッと目を奪われた、その位は仕方が無いと思う事にしよう。





25 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/19(土) 20:24:33 ID:pM78Uj06 [4/9]


……………
………




『逃げろ、男!幼馴染ちゃんを連れて…!母さんを護れ!』

『来るぞ!…くそっ、こっちだ!この竜め!』

『父さん!おじさん!』

『よし…いいぞ!俺達に気付いた!』

『父様!やだ…父様も逃げようよっ!』

『くそっ…幼馴染!行こう!』

『父様っ…!』

『早く行け!男っ!』

『男君…!娘を頼むぞ!』





26 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/19(土) 20:25:17 ID:pM78Uj06 [5/9]


………




『男ちゃんと幼馴染ちゃん…可哀想にねぇ…』

『彼らの父親二人のおかげで被害はこの程度ですんだというのに』

『でもよりによって男ちゃんのお母さんまで亡くなるなんてなあ…』

『崩れる瓦礫から二人を庇っての事だったそうじゃないか』

『幼馴染ちゃんの家には元々お母さんがいなかったから…二人とも天涯孤独だなんて、神様も酷な仕打ちを…』

『生き残った我々で、あの子達を育てていくんだ。そうするしかないし、そうすべきだろう』





27 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/19(土) 20:25:52 ID:pM78Uj06 [6/9]


………




『くそっ!父さんに…母さんを護れって言われたのに…!』

『男…仕方がなかったよ…』

『忘れるもんか…あの竜の姿…』

『うん…』

『幼馴染…俺、強くなるよ。絶対にこの手で仇を討つ』

『…私も、負けない』

『村一番の剣士だった父さんの息子として、俺は誰よりも強くなるんだ』

『私だって、父さんの弓が残ってる』

『いつか必ず…俺達で』

『うん、絶対に…!』





28 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/19(土) 20:26:36 ID:pM78Uj06


……………
………




あの竜には翼があった。

サラマンダー討伐の命を受け、その姿を聞かされた時は仇の竜かと考えた。

けど、記憶の中の憎き竜は火を吐きはしなかった。

ましてあの竜はサラマンダーのような愚鈍な飛び方ではなく、その羽ばたきは瞬く間に山を超えてゆくほどだった。

遭遇した時、サラマンダーが仇の竜でない事は確信できた。

もっともその前から情報を推察するに、違うだろうと予想してはいたのだが。





29 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/19(土) 20:27:36 ID:pM78Uj06 [8/9]


この世界には七竜と呼ばれる強大な竜がいた。

ここ月の国の山岳に巣食っていた、火竜サラマンダー。

旭日の国の森に潜む、蛇竜オロチ。

落日の国の谷を徘徊する、多頭竜ハイドラ。

白夜の国の大洞窟を占拠する、洞窟竜クエレブレ。

月の国と星の国の間に横たわる大海を縄張りとする、海竜サーペント。

旭日の国と落日の国の間に広がる砂漠を根城とする、渇竜ヴリトラ。

そして未だはっきりとした住処が判らない、翼竜ワイバーン。

それ以外にも竜は存在するが、その力も大きさも七竜に遠く及ばない。

そして七竜には共通して、左目の色は様々だが右の瞳は紅を呈しているという特徴がある。





30 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/19(土) 20:28:59 ID:pM78Uj06 [9/9]


サラマンダーやオロチ、そしてハイドラはそれぞれの国の辺境に住むが、周辺の村を襲撃しては家畜を食い荒らし、それに伴って人間への被害も後を絶たなかった。

旭日の国と白夜の国を最短距離で結ぶ洞窟に潜むクエレブレをはじめ、サーペントやヴリトラはそれぞれ交通の要となる地点を障害していた。

故に各国で討伐が試みられ、ついに八年前落日の国でハイドラが倒されたのを皮切りに、五年前にクエレブレ、昨年にはオロチがそれぞれの国で倒される。

そして今年、星の国でサーペントが倒された後、ようやくこの月の国でもサラマンダーを討伐した。

あとはどの国の領地にも属さない砂漠に住むヴリトラと、情報の少ないワイバーンだけ。

しかし情報が少ないからといってワイバーンの被害が少ないというわけではない。

むしろその飛翔能力ゆえに神出鬼没で、最も甚大な被害をもたらしている主なのだ。

詳しい居場所の掴めないこの竜だが、最も面積の広大なここ月の国の果てに巣食っている可能性が高いという。

世界中で発生するワイバーンの被害を地図上に表せば、その中心が月の国西部の未開の台地になるからだ。

そしておそらく探し求める仇の竜は、翼を持つサラマンダーが違った今このワイバーンしかあり得なかった。





31 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/20(日) 15:44:04 ID:XrDTOfew [1/7]


……………
………



女「…おはようございます」


俺が部屋で目を覚ますと、女は部屋のクローゼットに手を延べながらこちらを向いた。


女「ベッド、狭かったでしょう。よく休めましたか?」

男「ああ…おはよう。大丈夫、全然狭くなんかなかったよ」


女はクローゼットから俺の衣類の内、謁見に適するものを選んではソファの背もたれに掛けてゆく。


男「すまない、自分でやるよ」

女「これは妻の役目です。男様は他の身支度を整えていて下さいませ」


…どうも気恥ずかしい。

俺はぼりぼりと頭を掻きながら、部屋に備え付けられた洗面台へと向かった。





32 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/20(日) 15:45:42 ID:XrDTOfew [2/7]


月王「よく参った、男よ。昨夜はお前の話のおかげで過去に無い美酒に酔う事ができた、感謝しておるぞ」

男「…恐れいります」

月王「今日お前を呼んだのは二つの話があっての事だ。…女は一緒ではないのだな」

男「謁見を命ぜられたのは手前だけでありますれば」

月王「ふむ…して男よ、皇女を妻取ってはくれるものか?それによってはもう、我らは身内…そのような堅苦しい話し方は要らぬ」


そこを問うなら、せめて昨夜の宴席で問うべきではないかと思う。

そうでないという事は、やはり断る事は許されなかったのだろう。


男「…私などの妻にするには勿体なき姫君ではございますが、それを断る術も理由も持ちませぬ故」

月王「そうか!それはめでたい!…ならば皇女も同席すればよかったものを、今はどうしておる?」

男「部屋で待っているよう申しつけはしたのですが、この謁見の間の扉の前で待つ…と」

月王「なんと、ではそこにおるのではないか。おい、番兵…すぐに中に入るよう申せ」





33 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/20(日) 15:47:39 ID:XrDTOfew [3/7]


番兵に招かれ、女はこの部屋に入ってくる。


女「おはようございます、お父上」

月王「よく参った皇女…いや、もはや我が娘であるより先に男殿の妻。女…と名で呼ぶべきであろうな」

「はい、よき妻となれるよう精進いたします」


女は俺がするように王に跪くではなく、姿勢良く直立して王に相対している。

その様に改めて彼女が末位に近かろうとも、やはり王族の者なのだと実感した。


月王「男殿はこの国にとって欠かす事のできぬ最高の剣士、その妻となれた事はそなたにとって誇るべき誉れと心する事だ」

女「もとより、承知しております」

月王「うむ…では大臣、あれを」

大臣「こちらに」

月王「男、そして女よ。これを受け取るがいい」





34 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/20(日) 16:04:21 ID:XrDTOfew [4/7]


月王「昨日、男殿が持ち帰った竜の瞳を一晩かけて切り出し、職人に作らせたのだ。ドラゴンキラーたるそなたには相応しかろう」


王が手渡したのは真紅に輝く小さな石があしらわれた、一対の指輪だった。


月王「竜の瞳を切り出すのは骨が折れたと職人が申しておったそうだ。金剛石の刃をいくつも駄目にして作った至高の品だ、そなたらの婚儀の証として受け取ってくれ」

男「…ありがたき幸せ」


俺は二つの指輪を受け取ると一度立ち上がり、女の方を向き直って再度膝まづいた。


男「…女、左手を」


女は俯いた様子で、躊躇いながらその左手を差し出す。

やはり少なからず俺の妻となる事に抵抗があるのだろうか…そう思いながらも彼女の手をとった。


「…改めて、よろしく頼む」


薬指に小さい方の指輪を通す時、彼女の手が少し震えている事に気付く。

視線を上に遣り、窺った彼女の顔は…


男(…なんだ、そういう事か)


先の躊躇い、そしてぎこちない手の延べ方の理由はすぐに察せられた。

彼女の顔は茹で上がったロブスターのように真っ赤だったから。

思わず吹き出しそうになるも、王の眼前である事を踏まえて何とか堪える。





35 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/20(日) 21:13:17 ID:XrDTOfew [5/7]


月王「さあ、もうひとつの話だ。話の方向性は察しがつこう?」

男「新たな討伐任務…でございますか」

月王「その通りじゃ、請けてくれような?」

男「…喜んで」


心がたぎった。

早く、俺に次の竜討伐の命を。

憎きワイバーンを倒すために、兵を伴わせると言ってくれ…俺は口には出さずにそう願う。

しかし王が告げたのは、違う任務の命令だった。


月王「この国の北東部にある港町へ赴き、付近より繰り返し町を襲っているサイクロプスを討伐して貰いたい」

男「………」


期待とは違う展開に、少し言葉に詰まってしまう。


月王「どうした、不服か?」

男「…滅相もない事でございます」





36 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/20(日) 22:26:30 ID:XrDTOfew [6/7]


月王「早くワイバーンを討伐したい…そうじゃな?」


昨夜の宴でサラマンダーが仇の竜ではなかった事、そしてワイバーンこそがそうに違いないという事は話していた。

故に今の微妙な間に含まれた真意を、王は悟ったようだ。


男「…私は王より命を頂戴すれば、それを遂行するまで。己の誇りに背くもので無い限り、喜んで死地にも赴きましょう」


咄嗟に出た取り繕う台詞は、一部を隣の女性の言葉に借りたもの。


月王「よい…その気持ちもよく解る。しかしこの任務は憎きワイバーンを討つ事に繋がる布石と考えて欲しい」

男「………?」

月王「…昨夜の宴の席で、そなた自身も申しておったな。現実にあの翼竜を討つ事の困難さを」

王は長い髭を触りながら、語り始めた。

月王「そなたの話においても、また各地よりの情報を元としても…あの翼竜の飛ぶ速さはサラマンダーの比ではない」

男「…その通りでございます」

月王「そのままでは矢もまともに当たらず、ましてや剣や槍が届くとも思えぬ。魔法もいかに略式詠唱を用いようとも狙いの定めようがあるまい」


それらは王の言った通り、昨夜の俺自身が言った事だ。

仇の竜を討つ事に気は急いても、現実的な討伐に向けた作戦や勝算の目処はついていない。





37 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/20(日) 23:28:16 ID:XrDTOfew [7/7]


月王「やはりあの竜を討つなら、その速さをどうにかしなくてはならぬ。いかに男殿と言えど、何の見通しも無く挑めば勝機は薄い…違うか?」

男「…返す言葉もございません」

月王「しかしこの普通の方法では攻撃がままならない…という条件、ワイバーンだけに限った話ではないと思わぬか?」


たくわえた長い顎鬚に隠れその口元の表情は窺えないものの、おそらく王はそう言いながらニヤリと口の端を上げただろう。

俺は少し考えを巡らせ、導かれた答えを口にした。


男「海竜サーペント…でございますか」

月王「その通りじゃ。いかに雷撃の魔法を海に落としたところで、それだけでとどめを刺す事はできまい」


確かにそうだ。

では星の国のドラゴンキラーは、どうやってサーペントを海の藻屑としたのか。


月王「…実はその星の国のドラゴンキラーを、呼び寄せておる。今回の作戦はその者と男殿を引き合わせ、共同の戦線を張るための味利きと考えて欲しい」





38 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/21(月) 00:02:15 ID:aIy4nT2g [1/8]


……………
………



…北東の港町へ続く街道


男「…よし、少し休もう。予定のペースよりは幾分かリードしている。星の国のドラゴンキラー殿は船で港町へおいでだ。そう到着が早まる事はあるまい」

副隊長「はっ」


街道の脇、草原に陣取った隊員はそれぞれ肩の荷物を降ろして休息をとる。

このペースで歩けば目指す港町へは、あと二日とかからないだろう。


男「女、足は大丈夫か」

女「平気です。ただ…私だけ何も荷物を持ちもせず、それが申し訳なくて」


初日は靴擦れに悩まされ、途中からは荷馬車の隅に腰掛けていた彼女も、三日目から再び自分の足で歩き始めた。

慣れない徒歩の旅に違いないだろうに、華奢な見た目に似合わず中々に芯が強い。

俺は彼女を連れて木陰に歩み、並んで腰を降ろした。





39 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/21(月) 00:11:33 ID:aIy4nT2g [2/8]


男「…無理はするなよ」

女「自分から同行を申し出たのです、弱音など」

男「…足を出してみろ」


俺は隣に座る彼女の足を引ったくり、カリガの紐を緩めようとした。

女は俺の手を抑え、くぐもった声で「自分でやります」と言ってからぎこちなく紐を解いてゆく。


男「ずいぶん赤くなってるじゃないか」

女「そ、そんな事はありません!」


少し腫れた足を見て俺が言った言葉に対し、女は頬を手で抑え反対を向いた。

俺は最初その理由が解らなかったが、どうやら彼女が俺の言葉の意味を取り違えたらしい事に気づき、思わず笑ってしまう。


男「ははっ、違う違う。赤くなってるのは、お前の足の事だ」

女「え…!?」


驚き振り返る、女。

その頬が染まっているのは勘違いを恥じたせいか、その前からだっただろうか。





40 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/21(月) 00:49:28 ID:aIy4nT2g [3/8]


男「そういえば王の前で指輪を君の指に通した時にも、見事なほど頬を染めてたな。あれも笑いそうになったよ」

女「…仕方が無いじゃないですか。あのような経験、あるはずがありません」


彼女は拗ねたように俯き、上目遣いに俺を見て零す。

その顔はまだあどけなさを残し、気丈に振る舞ういつもよりも可愛らしく俺の目に映る。

これが仮にも俺の妻だとは、改めて勿体ない事だ。

俺は荷物からまだ使っていない綺麗な拭き布を取り出し、水筒の水を染ませて絞り彼女の足に当てた。


女「あの、それも自分で」

男「いいから…それともこうされる事は、自分の誇りに背いてしまうのか?」

女「…意地の悪い事を」


気まずそうにしながらも、彼女はそれ以上の抵抗を諦めたようだ。





41 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/21(月) 01:02:09 ID:aIy4nT2g [4/8]


女「…その指輪、男様は指に通しては下さらないのですか」


足を冷やされながら、彼女は俺の胸元を見て言った。


男「ん…?ああ…俺が指に通して持っていたら、すぐに傷まみれになって変形してしまうよ」


俺が首から提げたペンダントのトップは、彼女の指に光るものと一対のあの指輪。

俺はまだその指輪を、一度も正しい方法で身につけてはいない。


男「それと…俺は両親の仇を討つまでは、ずっと喪に服してるつもりなんだ。それもあってね…ひとまずは君との婚姻も、形式上のものとさせて貰いたい」

女「ではその翼竜を倒せば、私は男様の妻として認めて頂けるとあいう事なのですね」

男「変な言い方をしないでくれよ。君を認めるという話じゃない…ただの俺の中の拘りだ」


本音を言ったつもりだが、彼女は不服ありげに小さく溜息を落とした。


女「…同じです、私はまだ男様の妻になれてはいないのですね」


別に心からなりたい訳でも無いだろうに、そう思ったが言うと余計に機嫌を損ねそうだ。

俺は沈黙をもって返事に代える事にする。





42 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/21(月) 01:20:08 ID:aIy4nT2g [5/8]


今、この束の間の休息をとる丘はなだらかだが、標高はかなり高いようだ。

木陰に入れば風は涼やかで、旅に疲れた身体を優しく冷ましてくれる。

草原は風が描く波模様に揺れ、その葉が擦れあう音も耳に心地良い。

このまま小一時間でも目を閉じて眠りに落ちれば、随分と癒される事だろう。

少し離れて休む兵達の中には、座ったままうつらうつらとしている者もいるようだった。


男「…眠いな」

女「眠っても構いませんよ」

男「そうもいかんだろう、俺が規範とならなければ」


ああ…故郷の田畑を耕していた時は、こんな日には仕事も半分に木陰で昼寝をしても誰も文句は言わなかった。

自ら望んで竜討伐の任を請けたとはいえ、それが懐かしく思えるのは仕方がない。


女「あとどのくらい休まれるのですか?」

男「三十分くらい…かな」

女「なら、ひと寝入りできるじゃありませんか」





44 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/21(月) 01:42:13 ID:aIy4nT2g [6/8]


女「必要とあらば…ですが」

男「…なんだ?」


女はこちらを見ず、黙ったままで自らの膝をぽんぽんと叩いた。


男「………ああ、なるほど。ありがたいが、それこそ兵に示しがつかないよ」


ふう…と、女はまた溜息ひとつ。そして少し離れた隣の木陰に憩う副隊長に問いかける。


女「副隊長殿、男隊長は暫しの昼寝を所望されております。これは隊の規範を乱す事になり得るでしょうか」

男「ちょ…女っ」

女「…また、それを労う為に妻が膝を貸す事は?」


少しの間、副隊長はぽかんとしているようだったが、やがていかにも可笑しそうにからからと笑って答えた。


副隊長「…よろしいのではないですか?その方が兵も心置きなく休めましょう」

女「…との事です、男様」


そう言う彼女の目はどこか、してやったりという風に笑っているように思える。


男「参ったね…どうも」

女「…先ほど少々意地悪な事を言われましたので」


断る事は叶いそうもない。俺は照れ臭くも、その柔らかな膝に頭を預ける事にした。





45 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/21(月) 01:57:54 ID:aIy4nT2g [7/8]


たぶん、彼女なりに俺に歩み寄ろうとしてくれているのだろう。

互いにあまりに突然の縁だった、ぎこちないのも無理は無い。


男「…女、ひとついいか」


ただ、とりあえず今…彼女に望む事は。


女「何でしょうか、男様」

男「それ、やめてくれ」


本当に俺は、ついこの間までただの農夫だったんだ。


女「それ…とは?」

男「その呼び方、だよ。いつまでも馴染まない」


王族を妻とし、そんなくすぐったくなるような呼び名が似合う男じゃない。


女「では…旦那様」

男「呼び捨て希望、無理なら『さん』付け。できるだけ話し方も砕いて、気を遣わないで」

女「…努力します」


そう言って彼女は、俺の頬をそっと触れた。

それが冷たくて心地よかったという事は、たぶん俺の顔は火照っているのだろう。





48 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/21(月) 10:12:40 ID:DIOdSezo [1/10]


……………
………




…月の国、北東の港町



副隊長「星の国よりの船は夕方頃の着港になる模様です」

男「そうか、なら各自夕食までは自由に過ごして構わん。ただし今から羽目を外して酒を喰らわないよう、言い聞かせておいてくれ」

副隊長「それは無論ですな。今夜は懇親の宴席が予定されております故…こちらが既に出来上がっていては申し訳が立ちませぬ」

男「…まあ一杯欲しいのは無理もないが、俺も晩まで我慢するのだと皆に伝えろ」


副隊長は町の広場に整列する隊員達の元へ向かってゆく。

最初のサラマンダー討伐遠征の際には、いきなり隊長として湧いて出た俺を煙たがる者もいたが、無事その命を果たした事で今回は皆素直に言う事をきいてくれる。

そして二日前の草原での休息の際、照れ臭くも女の膝を借りる姿を見せてしまった事により、俺がさほど気難しい気質ではないと認知されてきたようだった。


女「…気持ちの良い潮風ですね」


女は風になびく長い髪を、さらりと手で梳きながら言った。


男「ああ、俺の故郷は海からは遠く離れていたからな…数えるほどしかこんな風の匂いを感じた事はないよ」

青く広がる水平線には、まだここを目指す船の姿は見えない。





49 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/21(月) 10:14:13 ID:DIOdSezo [2/10]


男「女も疲れただろう、宿の部屋へ行っていてもいいんだぞ?」

女「男様を…男さんを差し置いて私だけが休むわけにはまいりません。…それに」


彼女は俺の希望に従い、その呼び方を改めようとしてくれているが、まだ今ひとつ馴染まないようだった。


女「潮風の香りは、好きなので」

男「…なるほど、じゃあ波止の方へ散歩でもしてみるか」


波止までの歩道脇は露天市になっていて、たくさんの魚介を中心としたものが売られている。

調理しなければ食べられないような生鮮品が多いが、中には牡蠣を殻ごと網焼きにして売っている店など、食い歩きに適するものもあった。

見れば幾人かの隊員達も、そこで目ぼしい物を買っては賞味しているようだ。


男「あいつら、晩は宴席だと聞いているだろうに」


とはいえ見る限り酒を飲むなという言いつけは守っているようで、文句をつける筋合いは無い。

…それに。


女「でもいい匂いです、無理もないのでは?」

男「確かにな、女も食べたいか」

女「私は今まで買い食いなど、した事はありません」


訊いたのは食べたいか否か…だった筈、少しピントのずれた返答の真意はなんとなく察せられた。





50 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/21(月) 10:15:41 ID:DIOdSezo [3/10]


男「…オヤジ、焼き牡蠣を二つだ」

屋台オヤジ「へい、ひとつ小銅貨一枚でさあ」

男「…安いんだな」

屋台オヤジ「この辺りは良く採れますんでね。サーペントも出なくなって、今年は大漁でさあ」


なるほど、星の国の活躍はこの国にも恩恵をもたらしているらしい。

向こうのドラゴンキラー殿に会ったら、この事も話題としようか。

木の皮を曲げて留めた使い捨ての皿に、大きな牡蠣を二つのせてオヤジは俺に手渡した。

殻の中にははち切れんほどの身と、天然の出汁が満ちている。

うっかりして零しでもしたら木の皮を染みて随分熱いに違いない。


男「向こうの木陰へ行こうか」

女「はいっ」


…随分と機嫌の良い声だ。

美味を前にすれば、身分は関係ないものなんだな。





51 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/21(月) 10:16:16 ID:DIOdSezo [4/10]


隊員「おや、隊長殿も匂いの誘惑に耐えきれませんでしたか」


木陰では見慣れはじめた隊員数名も舌鼓を打っていた。


男「まあな…我慢しようと思ったが、お前らの美味そうに食う顔を見てたら、女が堪えきれなくなったららしい」

女「男さんっ!私は何も言ってません!」

男「ああ、二つ買おうとしても何も言わなかったな」


顔を赤くして似合わない大きな声をたてた女に、隊員達も笑いを殺しきれなかったようだ。


隊員「正解ですよ、明日には星の国の連中と合同で動くようになるんでしょうから、ウチだけ買い食いするわけにもいかない」

男「違いないな、でも程々にしておけよ」


俺は牡蠣の殻を持ってひとつ手に取ると、受け皿ごともうひとつを女に手渡す。

皿を手にとって物を手掴みで食べるなど慣れていないのだろう、女はぎこちなく戸惑いながらも目を輝かせて受け取った。


女「熱っ…!?」

男「当たり前だ、ナイフもフォークも無いぞ」

女「解っていますっ」





54 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/21(月) 12:51:48 ID:DIOdSezo [5/10]


港の波止は丸太組の桟橋が長く延び、透き通った水の中には無数の小魚が見られる。


女「なぜ木でできた桟橋が、水に建てられても腐らないのでしょうか」

男「丸太を触って…小突いてみなよ」


女は言われた通り、緩く握った拳で桟橋を叩いた。

こんこん…という木特有の音には違いないが、その音程は通常よりずっと高い。


女「堅い…」

男「アイアンウッドとも呼ばれる木材だ。水より重く、普通よりずっと腐りにくい」

女「海から離れたところで暮らしておられたのに、詳しいのですね」

男「まあな…俺は田畑を世話する農夫だったが、俺の故郷は材木の産地でもあった。まさにその木が故郷の森を形づくっていたんだよ」


過去に海を訪れた数少ない経験の内、二度ほどはその木材を運ぶ手伝いを求められての事だった。

確かこの町にも故郷の木が運ばれた事があったはずだ。


女「…少しずつで構いません」

男「ん…?」

女「最初の夜、貴方の事を訊く時間はあまりありませんでした。また…話して頂けますか」

男「ああ、もちろんだ」





55 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/21(月) 12:53:21 ID:DIOdSezo [6/10]


飽く事なく海を眺め、魚達の姿を愛でている内に空は少し橙色を帯びてきていた。

今いる桟橋は漁船をはじめとした小さな舟が着く施設だが、少し離れたところには石垣が積まれた大きな船着場がある。

見ればそこには、もうすぐ大きな旅客船が着くところだった。


男「あれが星の国の一団を乗せた船に違いないな」

女「出迎えますか?」

男「ああ、この国の無理をきいてわざわざ出向いてくれているんだ。礼を尽くさなければいけないだろう」


俺は腰掛けていたロープ留めの丸太から立ち上がり、女に手を差し出した。

僅かに躊躇ってから彼女はその手をとり、腰を上げる。

恥じらいがあるのか、少し目が泳いだ…そのせいだったのだろう。

彼女は足元の係留ロープに足をかけ、よろめいてしまう。


女「あっ…!?」


俺は握った手を引き寄せ、彼女を支えた。

図らずも彼女を胸に抱いた姿勢になった、その時。


女「………!?」

男(身体が…動かない…!?)





56 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/21(月) 14:49:44 ID:DIOdSezo [7/10]


いや、正確には動く。

通常の動きの何分の一、いや何十分の一という早さでの事だが。

解せないのは俺の目に映る女の長い髪が揺れる早さまで、ゆっくりになっている事。

身体機能が麻痺しているのではない、何らかの要因で時間がほぼ止められている。


男(魔法…か?思考は通常の早さでできるが…)

???「はじめましてだねー」

男(誰だ…!?子供…いつからそこに…)

???「あんたがこの国のドラゴンキラーでしょ?ボクは星の国で同じく呼ばれてる」


驚いた、星の国のドラゴンキラーがこんな少年だったとは。

しかしその俺の驚きは少し的外れなものだった。

その、的を外した部分とは。





57 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/21(月) 14:50:17 ID:DIOdSezo [8/10]


少年?「ボクの名は『時魔女』。挨拶にきてみたらイチャついてたから、ボクの力を知ってもらうためにも二人の身体の時間を止めさせてもらったよ」


少年…ではなかったらしい。

いや、今この状況において肝心なのはそこではない。

重要なのは彼女の台詞の後半、この少女は俺たちをどうするつもりなのかという事だ。

だがどうやら『力を知ってもらう』という言葉通り、悪戯な手段ではあっても他意は無かったらしい。


時魔女「そして時は動き出す…ってね?」


彼女は指をパチンと鳴らし、自らがかけた束縛を解く。

不意に胸に抱えた女の体重を受けてしまい、俺は情けなくも尻もちをついた。

女もまた、その俺の身体に覆い被さるように倒れ込む。


時魔女「ははっ、あれだけゆっくりさせてあげてもまだイチャつき足りなかったみたいだね?」





58 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/21(月) 15:10:15 ID:DIOdSezo [9/10]


男「…随分なご挨拶だな、時魔女…星の国のドラゴンキラー殿。いつからそこに?」

時魔女「ボクは時空を操る魔女。そこの船から二人の姿が見えたから、ちょっと空間を飛び越えてきたよ」


時や空間を操る魔法など、聞いた事が無い。

時魔女はけらけらと笑いながら「ただしハッキリと視認できる所へしか飛べないけど」とつけ加えた。


男「女、大丈夫か?」

時魔女「ごめんごめん、ちょっと悪ふざけが過ぎたかな。敵意は全く無いの、ただこの力は口で説明してもなかなか信じて貰えないからね」

男「それはそうだろう。そんな魔法、今の現在まで知らなかった」

時魔女「今夜は懇親の食事会を開いてくれるって聞いてるから、詳しくはそこで話すよ」


少女らしいあどけない笑顔で、彼女は悪びれもせずに言う。

しかし直後、今度は表情を凛々しく変えて直立すると、敬礼の姿勢をとった。


時魔女「月の国のドラゴンキラー、男殿とお見受けします。私は星の国の時魔女。三十名の兵と共に貴殿の隊に合流したく、馳せ参じました」

男「…月の国、討伐隊々長の男だ。貴殿部隊の合流を許可する…ようこそ、時魔女殿」

時魔女「先の無礼をお許し下さい。それでは後ほど、ご機嫌よう…」


彼女はスカートの裾をつまんで一礼した後、風のように消えた。





61 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/21(月) 20:25:34 ID:qTfnW/ZA [1/3]


……………
………




…その夜、懇親の宴席


副隊長「えー、この度は星の国よりの選抜隊ご一同には、ここまでのご足労を頂き誠に恐れいる次第であります。明日より開始いたします作戦は対ワイバーンに向けた前哨戦として…」

男「…副隊長、みんな喉がカラカラだ」

副隊長「ごほん…夜の闇を照らす星と月の輝きよ、永遠たれ!乾杯!」


星の国と我が月の国は古くからの同盟関係にあり、毎年のように合同での訓練演習も行われる関係だ。

それぞれの兵同士には競い合う想いこそあれど、共に作戦を遂行する事への抵抗は少ない。

上座も下座も無いように幾つかの円卓を広間に配し、その中央のテーブルに俺と女そして時魔女が座っている。


時魔女「うっわ、豪勢!港町での合流と聞いた時から期待はしてたんだよー!」


互いに隊を率いる者として、それなりに気を遣う事になるだろうと覚悟していただけに、彼女のざっくばらんな気質はとても有難い。

これなら明日からの任務も、気を置く事なく共闘していけるだろう。


男「遠慮なく、いくらでも食ってくれ。どうやら言葉にも気を遣う必要は無さそうだ」

時魔女「もちろんだよ。お互い竜の首を獲った同士、後でサラマンダー討伐の話を聞かせてね?」





62 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/21(月) 20:26:30 ID:qTfnW/ZA [2/3]


男「しかし港での一件は驚いた、まさかあんな魔法が存在するとはな」

時魔女「うん…純粋な魔法じゃあ無いんだけどね」

女「そうでしょうね…私も魔導士としてあらゆる魔術書を学びましたが、あのような例は見た事がありません」


時魔女は食事の手を休め、「うーん」と声に出して何かを思案している。


時魔女「本当は内緒なんだけどね。どうせ共同戦線を張るんだから、ボクは知っておいてもらった方がいいと思うんだ」

男「何をだ?」

時魔女「それと後で男に試して欲しい事もあるしね…うん、もう話しちゃおう」


そう言って彼女は自分の服の胸元を解き、その両胸の間を見せた。


男「…それは」


そこに顔を覗けていたのは、青い水晶のような宝玉。

ただその結晶にはあまりに規則的な模様が刻まれていて、人工物であるように思われた。


男「どういう事だ?…その模様と色、まるで作り物みたいだ」

時魔女「ご名答、お目が高いね。…でも、女の子の胸を穴があくほど凝視するもんじゃないぞ、すけべ」





63 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/21(月) 20:27:03 ID:qTfnW/ZA [3/3]


時魔女「星の国は資源に乏しい小国だから、機械と科学技術の発展に重きをおいてきたの。…そのひとつの究極形がボク、時空を操る人造の魔導士だよ」


時魔女は胸元の紐を結いながら、自分をそう表現した。


女「人造魔導士…」

時魔女「もちろん元はただの魔導士だけどね。その魔力を胸に埋めたコアで時空操作の力に変換してるの」


なるほど、よく解らない。

とりあえずその原理や方法の詳細を聞いたところで、俺にもこの月の国にも活かす術が無い事だけは解った。


男「どんな事ができるんだ?」

時魔女「時間の停止…厳密には時間の減速だけど。それから逆に時間の加速、それから条件は限られるけど少しなら時間の逆行もできるよ」

女「時間の減速は自ら味わいましたし、加速…というのも何となく解ります。時間の逆行とは…?」

時魔女「命ある有機生命体に限りだけど、その物質的な部分の状態を最大10分くらい巻き戻す事ができるの。つまり、怪我をしてもその前の状態に戻せるって事。すごく魔力を消耗するけどね」

男「それはすごい、無敵じゃないか」

時魔女「本当に疲れるんだよ…しかも自分には使えないの。自分がその魔法を使った事自体が無くなっちゃうから。あとは、さっきも見せた空間の跳躍かな」





68 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/22(火) 15:04:36 ID:HHl4ZHqA [2/3]


時魔女「…はぁ、話し過ぎて疲れちゃった。とりあえず目の前のご馳走の続き、食べていいかな?」

男「ああ、すまなかった。あまりに聞き入ってしまったな」


俺は既に空になって久しい麦種のグラスを持ち上げて、係の者におかわりを催促する。

さすがにこの少女に勧める訳にはいかないだろうが、新たな仲間の増えた今宵は城での凱旋の際よりも酒が美味く感じられた。


女「男さん、明日からまた徒歩での遠征です。飲み過ぎてはなりませんよ」

男「解ってるよ…たぶん」


言いながらおそらく俺は今、目が泳いだと思う。

女は少し呆れたような眼差しで、小さく溜息をひとつ。

そんな俺たちの様子はきっと恋人にしては立ち入り過ぎで、夫婦としてはぎこちないものだったと思う。

だから…だろうか、少し首を傾げて時魔女は尋ねた。


時魔女「ところで、女ちゃんって男の…何?」





69 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/22(火) 15:05:07 ID:HHl4ZHqA [3/3]


男「んー、話せば長くなるな」

女「妻です」

時魔女「ツマ…って、二文字じゃん。話しても長く無いよ?」


…手を握るだけで照れるくせに、そんな宣言をするのは何とも無いのだろうか。

少なくとも俺は大変に照れ臭いのだが。


女「…まだ認めて頂いてはいないようなのですが」

男「おい、そこまで言わなくていいから」

時魔女「え、男って隊長のくせに優柔不断?」

男「いいんだよ…そこが話せば長いところなんだ」

時魔女「長くてもいいから聞きたいなー、女の子にとっては興味深々な話題だよ?」

男「それはそうとサラマンダー討伐の話をだな」

時魔女「それは今度でいいでーす」


時魔女に絡まれる俺を見る女の目は、少し意地悪な気がした。





71 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/22(火) 19:50:03 ID:OOFB5JUY [1/2]


……………
………




…宿泊所内、男と女の部屋


男「ふわ…また飲み過ぎた」

女「だから言いましたのに、明日は大丈夫なのですか?」


大丈夫だろうと無かろうと、俺の二日酔いのせいで星の国の兵まで足止めさせる事なんてできる筈がない。


男「水…くれないか」

女「もうさっきから持ってます。…どうぞ」


差し出されたグラスを受け取り、半分量ほど呷る。

ふう…とひとつ息を落とし、それをテーブルに置いてベッドに深く腰掛けた。


男「サーペント退治の話、興味深かったな。七竜の動きを時魔法で縛るとは」

女「それでもさすがに巨大な竜を相手には、十秒が限度だそうですね」

男「その間に百名の魔導士の凍結魔法で、周囲の海を凍らせて…あとは魔法と直接攻撃か。…よく考えたものだ」





72 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/22(火) 19:51:12 ID:OOFB5JUY [2/2]


男「動きを縛る時魔法は、対ワイバーン戦でも大いに役立つだろう。…ただ、周囲に凍らせる海が無い以上、そのままの作戦は使えないな」

女「でも…サラマンダーをそうしたように、動きを止めた間に矢の攻撃で翼を奪い、雷撃によって堕とす…というのは有効では?」


彼女は言いながら少し口の端を上げて、不敵な笑みを見せた。

まだその様を見た事は無いが、彼女は月の国きっての魔導士。おそらく雷撃魔法にも絶対的な自信があるに違いない。


男「そうだな、ただ…時魔法を発動するには数秒の魔力変換…だったかな?…とにかく少しの時間が必要だと言った」

女「…はい。その間、術士の視界中央に標的を留め続ける必要があるとも」

男「『ろっくおん』…って言ってたっけ?…よく解らない言葉が多かったけど」


とにかく時魔女の話は所々でついていけない部分があった。

俺には機械とかいうものが何なのかさえもよく解らないのだから、仕方ない話だ。

とにかく標的に対して時魔法を発動するには、魔力を『こんばーと』する間に標的を『ろっくおん』して、視界から消えない内に『でぃすちゃーじ』しなければならないらしい。

うん、全く解らない。





73 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/23(水) 01:09:41 ID:o0yg593w [1/4]


男「でも、それでも少しだけ…ワイバーン打倒の望みが見えてきた気がするよ」

女「ご両親の仇との事、悲願なのでしょうね」


悲願…その通りだ。

そのために俺は十年以上にも渡って、剣術をはじめとした戦闘技術を磨いてきた。


男「ああ…俺と、幼馴染の…まさに悲願だな」

女「…幼馴染?」

男「うん、そいつも同じ時に父親を奪われたんだ。必ず仇をとろう…強くなろうって、互いに誓い合った」

女「あの、その…幼馴染さんって…どんな方なんですか」

男「あいつは弓使いだった。主に父親の遺した弓を使って修練を重ねてたな」

女「…だった?」

男「ああ、もちろん今もそうだと思うけどな。五年も前に旭日の国に無双の弓使いがいると聞いて、そこへ訪ねて行ったきり会ってないから」





74 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/23(水) 01:10:17 ID:o0yg593w [2/4]


女「…やはりあの翼竜に大切な人を奪われた方は、多いのですね」


女は目を伏せ、ぽつりと呟いた。


男「なんとなく、他にも知ってるような言い方だな?」

女「…私が貴方の部隊への同行を申し出た、もう一つの理由…本当なら、その時に言うべきでした」


語り始めた彼女の口ぶりは、とても悲しげな響きをもって俺の耳に伝う。


女「でも『夫を支える事こそ妻の役目』なんて啖呵を切ってしまったから…言い出せなくて」

男「…聞こう」

女「翼竜は、私にとっても仇敵なのです。この世でただ一人、亡き母の血を分けた兄の仇…」

男「………」

女「私などよりはるかに優れた魔導士でした。七年前の当時は前年に竜討伐を成した落日の国に続いて、この国でも盛んに討伐任務が繰り返されてたんです」

男「君の兄も…?」

女「第六次討伐隊々長として、翼竜に挑み…そして帰らなかった」


女の拳は強く握られ、僅かに震えている。

俺は手を延べて、彼女を自分の隣に座るよう促した。





75 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/23(水) 01:12:26 ID:o0yg593w [3/4]


女はベッドに座りつつも床を見つめ、口は一文字に結んだまま。

俺はその頭に手を置き「大丈夫だ」と囁いて、軽く髪を撫でる。


男「女…君にも誓おう、必ず仇は討つ」

女「はい…」


彼女を慰め、励ますつもりで口にした誓い。

でも彼女の返事は弱々しかった。

それはやはり、兄の無念を自らが晴らしたいという想いがあっての事に違いない。


男「最初の夜、君が切った啖呵は何も間違ってなんかいない」


彼女を慰めるのではなく、奮い立たせる為に必要な言葉は。


男「女、俺を支えてくれ。仇敵を討つ戦力としても、俺が死ぬわけにはいかない理由を心に持つためにも」

女「男さん…」

男「俺には、君が必要だ」


今まで言った事も無い歯の浮きそうな台詞ではあったが、それでも効果はあったらしい。


女「…はいっ、承知しました」


その証拠に、彼女の顔には微笑みが戻ったから。





78 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/23(水) 12:44:54 ID:VzF7EZqM [1/2]


深夜、身体を火照らせていた酒はもうすっかり中和されていた。

ベッドに横になっていても、時魔女のサーペント討伐の話を思い返しては目が冴えてしまう。

時魔法の効果をワイバーン戦にどう活かすか、そればかりを考えて眠るタイミングを逸し続けているのだ。

でも明日からの行軍を思えば、いい加減にしておかねばならない。

俺は頭を切り替えるつもりで、既に隣で微かな寝息をたてている女の横顔を見つめた。


男(…こいつにも、色んな過去のしがらみがあるんだろうな)


母親を亡くし、慕う兄までも失った後…王の正妻の子ではない女は、どんな肩身の狭い想いをしただろうか。

その兄だって王にとっては実の息子なはずなのに、今まで王とワイバーン討伐の話をした時に『息子の仇だ』という点に触れられた事はなかった。

つまり彼女が言った『所詮、妾の子』という言葉通り、兄もまた軽視されてきた存在だったのだろう。





79 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/23(水) 12:45:47 ID:VzF7EZqM [2/2]


真偽は定かでないが、遠征への同行を申し出た理由の一番のものは、やはり妻としての務めだと彼女は言った。

その次が兄の仇討ちだとして、やはりその次には窮屈な環境から抜け出したいという想いがあったのではないだろうか。


男(自惚れかな…でも俺たちがこういう関係になったのは、結果としてはこいつにとって良かったのかもしれない)


そっとその横顔の、白い頬に触れてみる。

柔らかな肌の感触と温かさが俺の指に伝った。

僅かに、でも確かに胸が高鳴る。


男(いや、俺にとっても…かな)


…だめだ、意識を切り替えたつもりでもこれじゃ逆に眠れそうにない。

俺はもぞもぞと彼女に背を向け、心に芽生えようとする初めての気持ちに見えないふりを決め込んだ。





80 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/23(水) 19:42:04 ID:Ces6stes [1/5]


……………
………




『兄上…どうしてみんな母上の弔いに来てくれないの?』

『…女、僕達はこれから強くならなくちゃいけない。そうしなければここには居られなくなってしまう』

『でも、兄上…私は強くなんかなれないよ』

『大丈夫だ、僕達は宮廷魔導士だった母上の子。絶対に優れた魔導士になれる力を持っているはずだ』

『…母上の…力…』

『大人達が皆、僕達を軽んじるなら…この国にとって無くてはならない存在になるしかない』

『うん…がんばる』

『そうだ、母上を蔑ろにした奴らを僕達で見返してやるんだ…』





81 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/23(水) 19:42:57 ID:Ces6stes [2/5]


………




『兄上、お気をつけて…』

『ああ…だがもしもの事があったら、お前だけでも強く生きるのだぞ』

『そのような事を言わないで、私を独りにしないで下さい』

『女、お前はもうこの国で私に次ぐほどの魔導士となった。何も恐れる事は無いさ』

『私は兄上を失う事が怖いのです。だから…必ず戻って下さい』

『…ああ、きっと帰るよ。ドラゴンキラーの称号を得てな』





82 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/23(水) 19:43:43 ID:Ces6stes [3/5]


………




『王はいつまであの卑しい情婦の娘を城に置くつもりなのかしらね』

『しっ…姉様、聞こえるわよ。他の情婦の子もいるわけだし、気にしても仕方が無いじゃないの』

『他の腹違い達は皆、私たち正当な王族には従順だわ。あの女だけよ…魔導士として優秀だか知らないけれど、目が生意気なのよ』

『どうせ最後は政略結婚に利用されるだけよ。その時に私たちが使われるよりマシだと思えばいいわ』

『それはそうね…休戦協定中の落日の国への人柱にでもされたら堪ったものじゃないし。…アレがそうなればお笑い種だわ』

『そうそう…そんな行く末を待つしかないんだから、哀れなものよねえ…』





83 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/23(水) 19:45:11 ID:Ces6stes [4/5]


………




『女よ、そなたはサラマンダー討伐から凱旋する男殿の妻となるのだ』

『そんな、知りもしない殿方の妻などと!』

『男殿は我が国が求め続けたドラゴンキラー。王族の端くれにでも取り込まねば、他所の国に引き抜かれかねん』

『…なぜそこまで、ドラゴンキラーを欲するのですか』

『どの国の領土でも無い砂漠地域に巣食う竜、ヴリトラ…それを討伐すれば我が月の国は実質、砂漠を支配できる。あの大量の資源が眠ると言われる砂漠をだ』

『………』

『そこへ大義名分をもって兵を送るには、ドラゴンキラーの率いる部隊でなくてはならぬ。男殿は我が国に欠かす事のできん存在なのだ…女よ、解ってくれような』

『…せめて、僅かでもその方を知るための時間を頂けませんか』

『時間を得てどうする、まさか断るつもりでおるのか?…そなたは優秀な魔導士、ドラゴンキラー殿の妻として付き従うには申し分ない。…そなたしかおらぬのだ』

『しかし…お父上、男殿の方が私との縁を望まぬ可能性もあります』

『男殿が戻るその晩には祝賀の席を設ける。そなたはその後、部屋を訪ねるのだ』

『お父上!それは…!』

『何…美酒に酔った男が、一人部屋を訪れたそなたを受け入れぬはずがあるまい』

『そんな…』

『あくまでも男に身を委ねた後で素姓を明かすのだ。皇女の純潔を奪ったとあっては、婚姻を断るなどできまいて…』





84 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/23(水) 19:45:50 ID:Ces6stes [5/5]


………




『あー、…そういう事か』

『それは気持ちだけでいいんだ』

『俺からも王に礼を言っておくから。その…なんだ、夜伽はした事にしてさ』

『君が魅力的じゃないわけでなく、単に突然過ぎて…』

『…俺は舞踏会の色ボケした貴族のように、知り合ったばかりの女を抱くような趣味は無い』

『一応、形式上という事で王の厚意は受けよう。よろしく頼む…女』

『俺みたいな田舎農夫の妻になるようなつもり、無かっただろうに』

『ははっ…言うじゃないか。いいな、そういう方が付き合いやすい』

『うん…泣き止んでからで、構わないよ』

『仕方ない…ただし戦場では俺の命をきいてもらうぞ』

『女、足は大丈夫か』

『その呼び方、だよ。いつまでも馴染まない』

『最初の夜、君が切った啖呵は何も間違ってなんかいない』

『俺には、君が必要だ』





86 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/24(木) 07:25:40 ID:s2pvoESU [1/12]


……………
………



…サイクロプスの谷付近



石灰岩で形作られたカルスト台地の渓谷。

木もあまり生えていないこの谷が、港町を襲うサイクロプスの住処だという。


月の副隊長「…せり出した崖の先の見通しがききませぬな」

男「ああ…地形の深さからして、そろそろ警戒しておかねばならんだろう」


サラマンダー討伐での行軍においても、偶然一体のサイクロプスに遭遇した。

その際は不意に現れた巨人に先制攻撃を受け、先頭を務めていた兵一人が犠牲になってしまったという経験がある。

正々堂々と対面しての勝負など人間同士だから叶う話、魔物に通用する理屈ではない。

見通しのきかない地形は、そんな危険を孕んでいる。





87 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/24(木) 07:26:15 ID:s2pvoESU [2/12]


時魔女「じゃあ、ボクが偵察に行くよ」

男「待て、一人じゃ…」


制止しようとした俺を気にもとめず、時魔女は自らの胸に左手を当てて風変わりな詠唱を始める。


時魔女「コンバート開始、空間跳躍モード…」


普通の魔導士が詠唱する古代言語もさっぱり解らないが、時魔法のそれもまた不可解な響きだ。


時魔女「位置確認、座標ロックオン…よーし、行ってきます」


そう言うが早いか、時魔女の姿が目の前から消える。

そして次の瞬間、彼女の姿は既に視界を塞ぐ原因である崖の上にあった。

見晴らしが良いであろうそこは、まともに声が届くほど近くはない。

時魔女はこちらを向いて両手で頭上に大きな○印を作り、安全をアピールする。

どうやらまだすぐにサイクロプスが潜んでいる事は無さそうだ。


男「時魔女…!上だ!」


サイクロプスは…だが。


月の副隊長「いかん、時魔女殿は気づいておられんようですぞ!」


こちらを向いた彼女の背後上空、切り立った崖の更に上に潜んでいたハーピー三羽が時魔女に迫っている。





88 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/24(木) 07:27:35 ID:s2pvoESU [3/12]


男「くそっ!下しか見なかったな…!」

月の副隊長「弓兵!」

弓兵「無理です…!届きません!」


俺は大きく手招きをする動作で、彼女を呼び戻そうとした。

しかし彼女はまだ胸に手を当ててはいない、時魔法の準備時間を考えればとても間に合うはずが無い…しかし、その時。


女「…私が」


そう進言すると、女はその細い右腕を崖の上に向けて、すっ…と延ばした。


女「凍りつきなさい」


一瞬の事だった。ハーピー達が羽の動きを止めたかと思うと、キラキラと氷のつぶてを散らしながら墜落してゆく。

この距離で三羽同時に…しかも。


男「お前…今、詠唱してなかったよな」

女「あの程度なら、無詠唱で充分です」

男「お前…本当に凄いんだな」

女「…これなら男さんを支えられますか?」


充分過ぎるだろう、ちょっと妻が怖くなった。





89 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/24(木) 09:13:03 ID:s2pvoESU [4/12]


星の副隊長「何をやってるんですか隊長…いきなり月の方々のお手を煩わせて」


星の国の副隊長…というよりも、さながら時魔女の世話係とも思える女性は、呆れたように自らの上官を窘めた。

なるほど、なかなかに綺麗な女性だ。ウチの副隊長が昨夜の宴席でわざわざ二人掛けの小テーブルを用意させたのも頷ける。


時魔女「いやー、格好つけて偵察したつもりがね…ごめんごめん」

男「まあ何事も無くて良かった。…女、よくやってくれた」

女「勿体無きお言葉です、討伐隊隊々長ドラゴンキラー殿」

男「よせよ、からかうな」





90 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/24(木) 09:13:38 ID:s2pvoESU [5/12]


時魔女は崖の上から見えたこの先の様子を説明した。

暫くの区間に変わった様子は無いが、視界の果て辺りには不自然に折れた木が見えたと言う。

おそらくサイクロプスが潜むのは、その辺りと思われる。


時魔女「よっし、じゃあ…星の国、全兵に告ぐ!これより我が隊は月の国討伐隊の指揮下に入る!」

星の兵「はっ!」

時魔女「…男隊長、指令をどーぞ」


やれやれ…解ってはいたが、他国の兵の命まで預からねばならんとは。

自国と他国で命の重さが違うわけではないが、より肩に負う荷は重くなったような気がする。





91 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/24(木) 09:19:06 ID:s2pvoESU [6/12]


男「…では全戦力に命じよう。先陣は月の盾兵隊、その後方に両国の槍兵を配置する。両国弓兵隊はその次に控え、サイクロプスの姿を視認次第、距離をもったまま目標周囲に散開せよ」

星魔女「ウチの弓兵はクロスボウ使いだから、射程は長いよ?」

男「…クロスボウなら大弓よりも有効射程は短いんじゃないのか?」

星魔女「ちょっと機械仕掛になっててね…圧縮空気を使うんだけど。とにかく大弓より30%位は飛距離が出るの。少し精度は落ちるけどね」


やはり星の国は機械を発達させたというだけの事はある。

精度が低くとも的の大きい巨人相手なら、射程の長さは有利に働くだろう。


男「では星の弓兵は月の弓兵の後ろ、標的距離については各自の判断で有効な配置をとってくれ」

時魔女「私と女ちゃんは魔法隊と一緒でいいよね?」

男「ああ…俺は盾兵に続くから、魔法隊はその後ろに控えてくれ。…では進軍を開始する、進みながら見通しの良い内に各自陣形を整えろ」





92 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/24(木) 10:04:05 ID:s2pvoESU [7/12]


谷間が広く平原のようになったエリアで、布陣を整える。

その先、また少し谷が狭まり見通しに劣る地形に近づいた頃、先頭の盾兵が声をあげた。


盾兵「サイクロプス視認!11時方向、距離およそ300ヤード!まだこちらに気づいていません!」

男「時魔女、サイクロプスに時間停止は使えるか」

時魔女「もちろん。でも大きいから30秒停止を5回くらいで限度かな」

男「よし…おそらく標的は複数体いるだろう、最も近い個体を時魔法で止めて火炎魔法で攻撃。後方の個体は弓で足止めするんだ」


あまり身を隠せる物は無い谷間だ、最接近するよりは早く気づかれるだろう。

近付き過ぎて狭い谷あいに入るよりは、広いエリアで戦うべきとも思われる。

あと150ヤードというところか、弓や魔法の射程には充分に入ったところで、俺は時魔女に目配せをした。


時魔女「コンバート開始、時間停止モード…目標ロックオン、いつでもどーぞ」

男「魔法隊、詠唱準備!時魔女…巨人を止めろ!」





93 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/24(木) 10:04:37 ID:s2pvoESU [8/12]


時魔女「いくよっ、時間停止!」


ゆっくりと歩んでいたサイクロプスが、動きを止める。

ほどなく詠唱を終えた魔法隊が火炎魔法を放つと、巨人は火に包まれた。

狭い谷の向こう、異変を察知した他の個体が地を震わせて姿を表す。

その数、現在4体。


男「弓兵、撹乱を狙え!もしサイクロプスの瞳を射抜き、一撃の下に倒した者には、あとでとっておきのバーボンをくれてやる!」

弓兵「そいつぁいい!総隊長、ちゃんと覚えてて下さいよ!?」

男「倒してから言え!…放てっ!」


矢の弾幕が上がる。

巨人はそれを逃れようとばらばらの方向に動き始めた。

火に包まれた最初の一体が、そのままで動き出すが、熱さに悶えて前進する事は叶わないようだ。


女「可哀想に、冷ましてあげましょう…」


刹那、その個体の瞳を氷の矢が貫いた。





94 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/24(木) 10:07:18 ID:s2pvoESU [9/12]


巨体が膝をつき、ゆっくりと大地に崩れおちる。


男「…凍結魔法にそんな使い方があるとはな」

女「私にもバーボンを頂戴できますか?」

時魔女「魔力ロード完了、次…いくよっ」


いい調子だ。

七竜を狙うわけでもないこの前哨戦で、悪戯に兵を失うわけにはいかない。

このまま完全勝利を狙う…そう考えた時だった。


盾兵「隊長!さらに追加個体!」

男「くそっ、何体だ!?」

盾兵「それが…!多過ぎて、判りませんっ!」


谷間の向こう、そして気づかなかった鍾乳洞の入り口から、少なくとも20体以上のサイクロプスが現れる。

まずい、こんなにいるという情報は無かった。

月と星、双方あわせて60余名の兵で挑む規模など超えている。





95 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/24(木) 10:22:35 ID:s2pvoESU [10/12]


男「いかん!後退しろ!こう多くては広いところで相手をするのは不利だ!弓で威嚇しながら退けっ!」


動きの鈍そうに思える巨人だが、その歩みの幅は大きい。

重装の盾兵が遅れ、追いつかれている。


男「盾兵!回避しろっ!」


巨人が引き抜いた木そのままのような、巨大な棍棒を振り上げる。


男(間に合わない!畜生…大事な兵を!)

盾兵「うわああぁぁぁ!…あ……あ?」


危機一髪のタイミング、何者かによりその巨人の瞳が射抜かれた。





96 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/24(木) 10:23:07 ID:s2pvoESU [11/12]


後ろのめりに倒れる巨体、その矢の主は。


男「誰だ…!?」


一人、崖の上に弓を構えた者の姿が見える。

この隊の兵では無い、あんなところに配してはいないはずだ。


???「バーボンを頂けるんだったかしら?」


独特のチェインメイルに身を包んだ弓使いは、逆光を背負いながら言った。


男「旭日の国の甲冑…!まさか…!?」

???「久しぶりね…でも話す間は無さそうよ」

男「幼馴染…!」





98 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/24(木) 19:15:26 ID:/gsuce/o [1/7]


幼馴染「与一流弓術、追影…!」


彼女は崖の上から矢を放つ。

その矢は真っ直ぐにサイクロプスを目掛けた後、その手前で軌道を変えて顔前から瞳を貫いた。


男「矢が曲がるだと…!?」

幼馴染「不思議がってる場合じゃない!しっかりしなさい、男っ!」


言いながら幼馴染は連続で矢を射っている。

突然に懐かしい顔を見た事と、その主が放つ矢の不可解な軌跡に思わず思考が停止してしまった。

だが、ここは彼女の言う通り窮地を脱するのが先だ。

俺は弓兵の矢を受け、動きの鈍くなりかけた個体から討つつもりで剣を抜こうとした。

そこへ駆け寄る時魔女。


時魔女「男!これ使って…!」


彼女は俺に、一振りの風変わりな剣を差し出す。





99 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/24(木) 19:16:45 ID:/gsuce/o [2/7]


男「これは…?」

時魔女「試作品だけど、普通の剣として使っても充分強いはず!」


受け取り鞘から抜くと、まずその軽さに驚いた。

柄の付け根には何か指を掛けるように細工され、可動する部分がある。


時魔女「今なら兵達が離れてるから、特殊効果も使えるかも…!男、トリガー握って!」

男「トリガーって…この指のところのか!?」

時魔女「そう!引いて、言うまで離さないで!」


彼女の言う通り、トリガーを人差し指で引いた。

すると刀身の中央に刻まれた模様が柄に近い方から青白く光り、次第に先の方へと伸びてゆく。

同時に剣から発せられる、妙な響きを伴った声。


《充填率30%…50%…70%》





100 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/24(木) 19:17:15 ID:/gsuce/o [3/7]


時魔女「うそ…!?チャージがとんでもなく早い…!やっぱり男なら使いこなせるのかも!」

男「どういう事だよ…!?おい、サイクロプス来るぞ!」


もう一番近い巨人個体までは20ヤードと離れていない。


《100%…充填完了、加圧開始…110%…120%…》


時魔女「男!サイクロプスの群れに向かって薙ぎ払いながら、トリガーを放して!」


訳が解らない、でも時魔女にも考えがあっての事だろう。

言われるままに剣を両手に構え直し、横に薙ぎ払いつつトリガーを解放する。


男「こう…かっ!?」





101 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/24(木) 19:18:34 ID:/gsuce/o [4/7]


目が眩むほどの青白い閃光、刀身全体が光ったかと思うと、その光が横一閃の帯となり前方十時から二時方向範囲に放出された。

光は一帯のサイクロプスを捉え、瞬く間に消える。

そして巨人達は。


月の副隊長「なんと…!」

時魔女「すごい…本当に使えた…!」


目の前の一体の胴が、ずるり…と横にずれる。

巨人は、光を受けた部位で切断されていたのだ。

今の一撃でサイクロプスの大半が倒れ、残るは7体ほど。

それも一体ずつ確実に、幼馴染の矢と女の魔法によって倒されていく。

その様を見ながら俺はぐらりと揺れ、地に片膝を衝いた。

先の一閃によるものなのだろう、突然すさまじい疲労に襲われたのだ。





102 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/24(木) 19:32:00 ID:/gsuce/o [5/7]


男「くっ…倒れた巨人にも油断するな!槍兵隊は制圧された範囲から順に一体ずつとどめを刺して回るんだ!」


声を上げるだけで頭がくらくらとする。

肉体的な疲労というより、気力が失われたような倦怠感が強い。


男(この剣は何なんだ…凄まじい威力だが、これじゃ後が続かない)

月の副隊長「隊長、お見事でありました!あとは私にお任せを…!」

男「ああ…すまん、指揮を…頼む…」


大地が斜めに見える、俺は倒れようとしているのだろう。


時魔女「男…!ごめん、無理をさせて…!」


時魔女が小さな身体で俺を支える。

全身に力が入らず、それに甘えるしかない。

サイクロプスの最後の一体が倒れてゆくのが見えた、とりあえずもう心配は無さそうだ。

そう思うと同時に、俺は意識を手放した。





103 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/24(木) 19:54:31 ID:/gsuce/o [6/7]


……………
………



『旭日の国へ行くって、お前…あてはあるのかよ』

『あては無いけど、どうしても行きたいの。無双の弓使いと呼ばれる人を探して、弟子入りするつもり』

『お前、冷静になれよ。オンナ独りでそんな当てずっぽうな事、させられないって』

『…大丈夫だよ、剣術だって男に習って一人前程度にはできるつもり。男もそう言ってくれたじゃない?』

『そうだけど…』

『お願い、男…解って。私はどうしても仇の竜を討ちたい。弓の力でそれを成すには、ただ闇雲に矢を射る訓練をするばかりじゃ駄目なの』

『なら魔法も覚えたらどうだ。お前、そこそこ魔力の適性もあるって…』

『うん、だからこそ…旭日の国の弓使いは、その魔力を矢に付与する技を使うって言うわ。私はそれを習得したい』





104 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/24(木) 19:55:57 ID:/gsuce/o [7/7]


………



『…ありがとうね、港まで送ってもらって』

『本当に気をつけて行けよ。…どうしても入門できなかったら、帰って来い』

『うん、解ってる…竜を討つのは男と一緒にって、思ってるから』

『ああ…誓ったからな』

『男…私ね、男の事…好きだったよ』

『幼馴染…』

『…でも、もういいの。私を心配して引き止めてくれた男を、振り切って行くんだもの。一切の心残りなんか、連れて行かない』

『ああ…それがいいよ』

『だから、言うだけ言っておきたかった。でも気にしないで、私は貴方への恋心も捨てて行くから』

『上等だ、行って来いよ。…船、出るみたいだぞ』

『うん、行ってきます。…さよなら…男』

『…捨てたんだろ、泣くなよ』





105 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 01:05:14 ID:bPGwyeig [1/5]


……………
………



男「………ぅ…うん…?」


時魔女「あ、起きた!幼馴染ちゃん、男が起きたよー!」


目を開けると、俺を覗き込む時魔女の顔が視界の中央にあった。

周りの景色は見えない、野営用のテントの中のようだ。

…という事は、かなり長く意識を失っていたのだろう。


幼馴染「おはよ、男…大丈夫?」


テントの入り口付近にいた幼馴染が、こちらに歩み寄る。

入り口から見えたテントの外は、既に暗くなっているようだった。


男「ああ…楽になってる」


上体を起こしてみても、もうフラつく感覚は無い。





106 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 01:05:56 ID:bPGwyeig [2/5]


時魔女「ごめんね…本当に無理をさせちゃった」

男「いいさ、あの剣の一撃が無かったらもっと苦戦してたかもしれない」

幼馴染「すごかったよね、ひと振りで十体以上は片付けてたもの」


本当に、その斬撃を繰り出した本人が一番驚いているほどだ。

…いや、それよりも驚いたのは。


男「お前…いつ戻ってたんだ」

幼馴染「二日前、男達がサイクロプス討伐に出た日だよ。あの港町に着いたの…それから後をつけてたんだ」

男「とりあえず礼を言おう。助かった、無駄に兵を減らさずにすんだよ」

幼馴染「どういたしまして、ドラゴンキラー殿」

男「よせよ、お前に言われるのが一番気恥ずかしい」





107 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 01:06:58 ID:bPGwyeig [3/5]


俺はテントの中を見回した。

しかし姿は見えない。誰の…とは言うまでも無いだろう。


時魔女「女ちゃんなら、外にいるけど…呼ぼうか?」

男「いや…行ってみるよ」

幼馴染「まだ立たない方がいいんじゃない?」

男「…大丈夫だ」


立ち上がると流石にまだ少し脚がおぼつかない。

できるだけそれを二人に悟られぬよう振る舞いながら、俺はテントの開口部をくぐる。

西の空はまだ幾分か夕焼けている、時刻は午後七時といったところか。

少し離れたところ、草地の中から顔を覗けた胸高ほどの岩の上に、女は腰掛けていた。





108 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 01:07:30 ID:bPGwyeig [4/5]


男「…女、心配をかけたか」

女「………私の夫は、あの程度で大事に至るような方ではありません」


彼女は視線を遠くに遣ったまま、控えめな声でそう答えた。

短い沈黙、そして小さな溜息に続いてこちらを振り返る。


女「…嘘です、心配しました」

男「すまん…」

女「何に対してです?」

男「………?」


質問の意図が読めず口ごもる俺に対し、女は人差し指を立てて言葉を続けた。


女「心配をかけた事ですか?まだバーボンを下さって無い事…?」

男「前者に決まってるだろ、バーボンなら後で…」

女「それとも、幼馴染さんが女性だとは言って下さらなかった事…ですか?」





109 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 01:24:06 ID:bPGwyeig [5/5]


男「…女、何か勘違いをしてないか」

女「勘違いなどしていません。幼い頃から共に過ごし、強くなる事…仇敵を討つ事を互いに誓い合い、数年も離ればなれになった女性でしょう?」

なんて意地の悪い言い方をしやがる、女も段々と地が出てきたらしい。

でも俺がおぼつかない脚を隠してまで女の元へ来たのは、確かにその点を言い訳するためだった気がする。

男「わざとらしい言い方をするなよ、あいつは兄妹みたいなもんなんだ」

女「…解っています」


すとん…と、岩から降りる女。

彼女の長い髪が揺れて、高くなり始めた月の明かりに照らされた。


女「こんな気持ち、不快です。胸が痛くて、熱くて…」

男「………」

女「私…嫉妬をしてるんだと思います」





112 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/28(月) 13:13:56 ID:mO4GwnEs [1/12]


女の口から零された意外な言葉。

俺たちの関係はそもそも、突然に降って湧いた縁だったはずだ。

それでも日々を共に過ごす内、互いに歩み寄ろうとはしていた…それは解っている。

ただ、その歩みはとても緩やかなものだと思っていた。

だから俺は既に彼女の心に嫉妬という感情が芽生え得るなど、幼馴染の存在をそんな風に捉えるなどとは考えもしなかったんだ。


女「…ごめんなさい、困らせて」


詫びる女の表情はとても切なげに見えるけど、それを晴らすためにどんな言葉を選べば良いのかさえ俺には解らない。

こんな痴話喧嘩のようなやりとりなど、した事が無いから。

だから不器用にも、ただ言い訳を並べるしかできなかった。


男「…幼馴染がオンナだと話さなかったのは、話す必要性さえ感じなかったからなんだ」


…でもこの時、この言い方はまずかったらしい。

ただしそれは目の前の女に対してまずいのではなく。


幼馴染「それは酷いなあ」


俺はその女性が背後から憤慨の声を投げるまで、その接近に気付けていなかった。





113 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/28(月) 13:14:26 ID:mO4GwnEs [2/12]


男「幼馴染…聞いてたのか」

幼馴染「そーですか、男にとって私はそんな存在だったのね」


腰に手を当てて、さも不服そうに彼女は言った。


幼馴染「…ま、仕方ないけどね。あんたへの恋心は捨てるって宣言しちゃったんだし」

男「おい、変な事を言うなよ」

幼馴染「…女さん、だったよね?時魔女ちゃんから聞いてはいるけど、貴女自身の口から聞かせて。…貴女は男の、何?」


知ってるなら敢えて訊かなくてもいいのに。

しかし女の返答は時魔女から同じ問いを受けた時とは、微妙に違うものだった。


女「妻です、ただし…形式上の」

幼馴染「…そんな言い方したら本当にそう認識させて貰うけど、それでいいの?」

女「事実ですから」





114 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/28(月) 13:15:44 ID:mO4GwnEs [3/12]


男「幼馴染、それは俺が言った事なんだ。仇の竜を討つまではそういう事にしておいてくれって」

幼馴染「ふーん…じゃあ、やめといた方がいいんじゃない?こんな身勝手な人と結婚するのは」

男「…ひでえ言われようだな」

幼馴染「女さん、悪い事は言わないから形式上って言ってる内に、破棄しちゃった方がいいよ?」


身勝手なのは認めるが、何も俺は女との結婚を嫌がってるわけじゃない。

ただ、護るべき物を持てば死地に赴く際の枷となる…そう考え、恐れただけ。

その事は女に話して、納得して貰っている。

だから女は幼馴染の発言に表情を変えた。

おそらく彼女は今、怒っている。


女「それは嫌です」

幼馴染「…どうして?聞けば貴女は月の国の皇女様で、男と引き合わされたのもついこの間の事なんでしょう?」

女「…そんな事は関係ありません」

幼馴染「男はね、皇女様に似合うほど大層な人間じゃないわ」

女「男さんはこの国に無くてはならないドラゴンキラー、逆に王族の末席たる私では釣り合わない程の御方です」





115 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/28(月) 13:16:40 ID:mO4GwnEs [4/12]


女「幼馴染さん、今の男さんは貴女がよく知る昔の彼とは違うんです」

幼馴染「ううん、私にとっては変わらない。五年前、好きだと告げた男のままよ」

女「いいえ、変わってるんです。だって先日、仮にも私と結婚しましたから」

幼馴染「仮にも、形式上…ね?」

女「仮でも形式上でも、私は彼の妻です。だから夫を貶める言葉は見過ごせません」


そこまでで二人は言葉を切り、睨み合うようにして数秒を過ごす。

俺にとってその僅かな時間は、とんでもなく長い沈黙に感じられた。


…それを破ったのは。





116 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/28(月) 13:17:58 ID:mO4GwnEs [5/12]


見張り兵「敵襲!敵襲…!サイクロプスの生き残りが来たぞ!」


かがり火の向こう、谷の奥側を見張っていた兵が声をあげる。

まだ巨人は宿営地には達していないらしい、よくこの暗さで手前から気付いてくれたものだ。

だが多くの兵士はその身の兵装を解き、すぐに戦える者は少ない。

兵装にこだわらず戦闘が可能な隊に頼るしか無いだろう。


男「魔法隊っ!急げ!」

見張り兵「サイクロプス、現在3体!」

幼馴染「視界さえきけば、目を射抜いてやるのに…!」

女「…言いましたね?」


女は短く魔法詠唱を経て、手を翳す。

かがり火の向こう、夜空をバックとしたシルエットで見えていた木立が火に包まれ、その向こうを照らした。


女「これで見えるでしょう、外さないで下さい?」

幼馴染「なめないで、単身異国に渡って修練を重ねたのは伊達じゃないわ」


幼馴染が背に負ったままにしていた大弓を構える。

つがえた矢は三本、まさか同時に放つつもりか。





117 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/28(月) 13:19:24 ID:mO4GwnEs [6/12]


幼馴染「追影、複式…!」


三本の矢が放たれる。それらは独立した弧を描きながら、三体の巨人の瞳を目指した。


幼馴染「…女さん、意地悪を言ってごめんなさい」


一体ずつ、地に伏してゆく巨人。

防衛線を張ろうとしていた兵達が感嘆の声をあげている。


幼馴染「貴女の気持ちが知りたかっただけなの。いくら自ら男に決別を告げたとは言っても、少しは悔しくもあったから」

女「いえ…謝るのは私です。幼馴染さんの存在を知っていたとしても、どうする事もできなかったとはいえ…」

幼馴染「じゃあ、決まりね。悪いのは男、という事で」

女「はい、それで結構です」

男「え…!?」


どういう事だ、さっき女は俺を庇ってくれたのに。俺がどんな悪い事をしたというのか。

五年前、幼馴染は一方的に俺に想いを告げて、一方的に別れを告げた。俺はそれに対して特に答えなかった。

女と結ばれる流れになった時、そんな過去の事を気にしなかった。だから女には話もしなかった。

そして幼馴染との間には何のしがらみも無い事を女に告げ、間抜けにもそれを本人にまで聞かれた。

うん、悪いな。俺が悪い。





118 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/28(月) 20:25:16 ID:mO4GwnEs [7/12]


……………
………



ごとん…と少し強めに陶器のグラスをトレーに置いて、同時に彼女は「それで?」と不機嫌に訊いた。


男「ええと…とにかくこの国はドラゴンキラーの肩書きを持つ俺を、手放したくなかったんだと思うんだよ」

幼馴染「それは解ってるの。それで女さんと結婚させて王族の端くれにでも加えようとしたんでしょ?」


今は俺と幼馴染、顔を突き合わせて二人でバーボンを呷っている。

幼馴染の希望により、女も時魔女もテントの外。

たぶん声が届かない程度、さっき女がいた辺りまで離れているのだろう。





119 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/28(月) 20:26:42 ID:mO4GwnEs [8/12]


幼馴染「そうじゃなくて、その成り行きなら女さんも最初はアンタとの結婚なんて望んで無かったでしょ?」

男「そりゃそうだろうな、今だって納得なんかしてない…」

幼馴染「それはない。女さんは後々からだろうけど、アンタを気に入ってる。今さら彼女にそんな事言ったら、私が引っ叩くよ?」


どうもさっきの一件から立場が弱い。

女と時魔女に席を外してもらう際には『ちょっとつもる話があるから』と断ったが、これじゃ完全に俺が説教されている状態だ。


男「じゃあ何が訊きたいんだよ」

幼馴染「アンタはどうなの?」

男「どうって」

幼馴染「女さんとの結婚、ちゃんと望んでるの?女さんを妻にするって覚悟はきちんとあるの?」

男「…覚悟は、翼竜を倒すまでは持てない。俺はあの竜を倒す為なら代償としての死も、厭わないつもりだからな」





120 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/28(月) 20:27:45 ID:mO4GwnEs [9/12]


幼馴染「じゃあ、その後は」

男「…ここで、その時にならないと解らないなんて言ったら」

幼馴染「私の矢でアンタを殺せるかしら、試そうか?」


ただの例え話としての表現のようだが、彼女は目が笑ってない。


男「だよな…解ってる、冗談だ。幼馴染、もう歯に衣着せず言うぞ?」

幼馴染「…うん」

男「俺も最初は結婚なんて望んで無かった。でも今はそうでもない、いや…これで良かったと思ってる」

幼馴染「………」

男「五体満足、無事に翼竜を討つ事が叶ったら…俺は必ず、本当の意味で女を妻取るつもりだ」


できるだけ堂々と言ったつもりだ。

でも言い終われば少々どころでなく照れ臭い。

俺はまだ半分ほども残っていたバーボンのグラスを一気に呷った。





121 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/28(月) 20:28:56 ID:mO4GwnEs [10/12]


幼馴染「…そっか」


対面の彼女は一気に声色を落とし、視線を逸らす。

なんとなく気まずく、なんとなく申し訳ない気分に襲われた。


男「…幼馴染、でもな」


まして今から言おうとする事はもしかしたら言わない方がいい、残酷な事なのかもしれない。


男「五年前、港でお前を見送った時。…お前の気持ちを聞いたあの時の俺は」


だけど伝えておきたかった。


男「たぶん、お前の事…好きだったよ」

幼馴染「…うん」


後から『たぶん』なんて付けなきゃ良かったと思う。

自分の記憶だ、間違いようがない。

あの時、俺は旅立つ彼女の枷にならぬよう想いを捨てた。

あの日、俺達は互いにその幼い恋心を捨てあったんだ。





122 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/28(月) 20:29:30 ID:mO4GwnEs [11/12]


それから幼馴染は少しの間、泣いたようだった。

そして息が落ち着きはじめてから、旅立った後の事をぽつりぽつりと話し始めた。

旭日の国の弓使いに弟子入りするために、八日間休まず訪れては一日中その門の前に立った事。

入門すると意外と女性の弟子も多くて安心した事。

髪色や言葉遣いの違いから、最初は仲間内で異端と見られ避けられた事。

でも実力はすぐに認められ、仲間達と切磋琢磨する内に次第に馴染めた事。

師匠その人こそが旭日の国のドラゴンキラーとなった人で、その討伐の際には副隊長を務めた事。

俺がサラマンダーを討った噂を聞いて、帰国の為に師匠に破門を願い出た事。

師匠がそんな彼女に、破門でなく免許皆伝の旨を告げた事。

そして港町で隊を率いる俺の傍に女の姿を認め、その場で声を掛けられなかった事。





123 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/28(月) 20:30:35 ID:mO4GwnEs [12/12]


幼馴染「…よし、吹っ切れたよ」


全てを話し終えて、彼女は自らに言いきかせるようにそう言った。


幼馴染「実はね、私も一度だけ色気のある話があったの」

男「…どんな?」

幼馴染「白夜の国のクエレブレ討伐は、主導は向こうだったけど旭日の国との共同作戦だった」

男「ああ…知ってる、白夜と旭日は同盟国だからな。お前、あの作戦にも参加したのか」

幼馴染「うん、まだ新米だから矢の補給兵的な役目だったけど。…そこで向こうの隊長さんに求婚された」


ちょうど口をつけていたバーボンを思わず零しそうになる。なんていきなりな話だ。


男「…そりゃ、すげえな」

幼馴染「すっごく良い人で、すごく人望も厚くて。私に一目惚れしたって…でも私、まだ師匠に習いたい事だらけだったから」


白夜の隊長という事は、つまりその彼もドラゴンキラーという事だ。


男「そりゃ…何だか惜しいような話だな」

幼馴染「何言ってんの、アンタも月のドラゴンキラーでしょ?…でもアンタに振られるなら、受けとけば良かったかな」


そう言って笑う彼女の表情は複雑そうに映るけれど、俺はそれに気付かないふりをするしかなかった。





124 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/28(月) 23:38:25 ID:zBUXI6mE


最後にグラスにもう半分程のバーボンの水割りを作って、俺と幼馴染はやっと再会の乾杯を交わした。

思えば彼女と酒を飲む事自体が初めての行為で、その事実こそが二人を隔てていた時間と距離を物語っているように思う。


男「…お前、強くなったよな。驚いたぜ」

幼馴染「ああまでして異国へ渡ったんだもの、強くならなきゃ帰れないよ」


いや、強くなっただけではない。

決して口には出さないけれど、あどけなかったあの頃よりもずっとオンナらしく綺麗になった。

きっと女の存在が無ければ、想いを捨てた事を後悔してしまう位に。

でも女がいなかったら、もしかして…そんな今更あり得ない未来を少しだけ想像してしまったのは、また酒が過ぎたせいなんだろう。

この後、女がテントに戻った時に飲み過ぎを咎められなければいいなと思った。





127 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/29(火) 13:03:18 ID:i83WYtN. [1/12]


……………
………



…翌日、港町への帰路


時魔女「身体どうー?」

男「ああ、すっかり大丈夫だ」


やはりあの剣技による疲労は肉体的なものではないのだろう。

気を失うほどの体力を使ったのなら、翌日こうも身体が楽になるわけがない。


時魔女「あの特殊効果は、いざという時にしか使えないね。でも、初めてだったんだよ?チャージ率が100%に達したのは」





128 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/29(火) 13:04:14 ID:i83WYtN. [2/12]


男「それはどういう意味だ?」

星の副隊長「恥ずかしながら我が国ではその剣を試作したものの、それを使いこなせる闘気を持つ者がいなかったのです」

時魔女「闘気っていうのはまだ研究段階だから仮称だけど、つまり精神力と肉体的な技量を併せたような力。単純にその人の強さだと思っていいよ」


相変わらず星の国の人間が言う事は端々が解らない。

ただ月の国で最強の称号を得た俺は、星の国でも並ぶ者がいないという事なのだろう。

正直なところ、気分は良かった。


幼馴染「顔、緩んでるよ」

男「うるせえな」





131 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/29(火) 13:09:17 ID:i83WYtN. [5/12]


時魔女「でも本当の事だよ、男は強いんだね。闘気の充填率が100%に達すると、あの斬撃を出す事ができるの」

星の副隊長「もちろん刀身に闘気を溜めたまま切りつける事も可能です。その場合は充填率によって威力が変わる事になります」

時魔女「あの時は130%位まで加圧されてたけど、理論上は150%で金剛石でも砕けるはず。限界が何%なのかは未知数ね」


金剛石を砕くとはとてつもない話だが、あの時で後に気を失うならそれ以上だと死を覚悟しなければいけない気がする。

ただ対翼竜戦においての命を賭けた一撃としては、使えるかもしれない。


男「でも、俺が持ってていいのか?これは星の国の兵器だろ」

時魔女「試作品だからね。使いこなせる人に使って貰って、こっちはデータが欲しいところだから」


俺にしか使いこなせない剣とは、まるで神話上の勇士にでもなったような気分だ。

さっき幼馴染に指摘されたが、どうしても顔が緩む。


女「…男さん、気を良くしているところ申し訳ないのですが。それは実験台という意味ですよ」

男「女まで言うか」

星の副隊長「おや、ばれてしまったようですね。あはは…」





132 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/29(火) 13:10:13 ID:i83WYtN. [6/12]


星の兵士「魔物です!コボルドとオークの混成群!数、およそ50以上!」


先頭を行く兵からの声が響く。

そう強い魔物ではないが五十体以上とはなかなかの規模だ、混戦は避けられまい。


男「弓兵隊と魔法隊は手を出すな!同士討ちになりかねん!盾兵は弓兵と魔法隊の周囲で擁護しろ!槍兵隊、俺に続け!」

幼馴染「私も行くわ!」

男「弓の修練にかまけて剣の腕が落ちてないなら、来い。女は時魔女と一緒に魔法隊と同じくしろ」

女「でも…!私は魔法で仲間を巻き添えになどしません!」


女は強い口調で異を唱えた。

たぶん俺が幼馴染の参戦を認めたからなのだろう。


男「最初の約束だったはずだ、戦場では俺の命に従え」


少しずるい気もしたが、こう言えば彼女も逆らえない。

まだ不服ありげな表情ではあるものの、女は小さく「解りました」と答えた。





133 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/29(火) 15:38:01 ID:i83WYtN. [7/12]


男「槍兵、各自散開!殲滅しろ!」


俺は剣を抜き、駆け出した。

右側にコボルド三体、その向こう左側にオーク一体。

駆け抜けるならここだ、一気に群れの後方まで回って魔物を撹乱してやる。


男「街道の旅人を脅かす雑魚共め!我が隊と出会ったのが運の尽きだ!」


最初のコボルドが粗末な槍を大ぶりに翳すが、振り下ろす間も与えない。

その胴を真二つに切り裂きながら、目は次の個体に向ける。

やはりこの剣は軽い、無意識に片手持ちをしてしまうが長さは両手持ちの大剣に迫るほどだ。

それを片手で振り回せるのだから、よりリーチは長く、斬撃はより速い。

闘気の充填などせずとも、通常の剣よりはるかに強いのは間違いない。


男(強度はどうだ…!?)


二体目を袈裟懸けに切り伏せる。

幾つもの骨を切断したはずなのに、刃こぼれはおろか刀身が震える感触すらない。





134 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/29(火) 15:39:51 ID:i83WYtN. [8/12]


男「こいつはすごいな…!」


目に捉えた三体目のコボルドは手にした槍を振りかぶり、投げつけてきた。

魔物にしては見事な投撃だ、槍は俺の胸目掛けて真っ直ぐに飛来する。

俺は剣の側面でそれを叩き除けて、得物を無くした個体を睨んだ。

そのコボルドの向こう、俺が一連の攻勢で最後に捉えようと考えていたオークの首が、血飛沫を上げて飛ぶのが見えた。


幼馴染「やるじゃない、ドラゴンキラーは伊達じゃないわね!」

男「余計な事すんじゃねえよ!」


俺は三体目のコボルドを仕留めながら、オークを倒した凶刃の主に悪態をつく。

彼女が振るうのはカタナと呼ばれる、旭日の国で使われる独特な形状の剣だ。

女性の力でやすやすとオークの首をはねるとは、その切れ味は聞きしに勝るものに違いない。


男(…後で見せて貰おう)





135 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/29(火) 15:40:29 ID:i83WYtN. [9/12]


振り返れば槍兵も奮闘している、群れの中央後方が大きく空いた。

そこに陣取っているのは、他の個体よりふた回り程も大きな威厳あるオーク。

あれが群れの長に違いない。


男「奴は俺がとる!横槍入れるんじゃねえぞ!」

幼馴染「女さんが観戦に徹してるからって、張り切ってんじゃないの」

男(うるせえ、ちょっとは格好つけさせろ)


狙う巨躯に近付く間に、おまけで二体のコボルドを切り落とす。

長の危機を感じとったか、傍に控えていた他とは身体つきの違うコボルドが立ちはだかる。

恐らく群れの副リーダーなのだろうその個体は、低級な魔物とは思えない速さで俺に切りかかった。


…しかし。


男「さすがだ…副隊長」

月の副隊長「…出過ぎました。格好をつけたいのは私も同じ故、お許しを」


ニヤリと笑う三十路越えの男は、俺の目にはなかなか精悍に映る。

あとは、あの星の副隊長が惚れてくれればいいのだが。





136 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/29(火) 18:37:56 ID:i83WYtN. [10/12]


………



時魔女「男、強いねー」

女「………」

時魔女「…女ちゃん、もしかして機嫌悪い?」

女「…そんな事ないです」

時魔女「置いてけぼりされたから?」

女「………」

時魔女「幼馴染ちゃんもがんばってるもんねー」

女「…あのくらい」

時魔女「…意外と可愛い性格してるよね」

女「………あっ」

時魔女「大丈夫だと思うよ?男…ほらね、後ろに目がついてるのかってくらい隙が無いもの」

女「…何も言ってません」

時魔女「本当、可愛いなー」





137 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/29(火) 18:39:25 ID:i83WYtN. [11/12]


………



オークがその豪腕を振るう。

敢えて槍や棍棒のような得物を持っていないのは、粗末な武器などより自らの巨躯こそが凶器だと解っているからだろう。

高等な知能は無くとも、この怪物は幾多の争いを勝ち抜く中でそれを悟ったのだ。


男「たかがオーク…そうは思わん、貴様の全力を切り伏せてやる」


恐らく喰らえばダメージは重い。

俺は慎重に間合いを取り、その隙を窺った。

次にオークが繰り出したそれは、今までよりも少し大振りな一撃。

ここまでの打撃が紙一重で空を切ってきた事に苛ついたのか、また俺を捉え損なったその惰力で巨躯が背中を見せる。





138 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/29(火) 18:39:57 ID:i83WYtN. [12/12]


男「…貰った!」


俺はオークの背後に回り、そのままでは刃の届かないその首目掛けて跳躍した。

サラマンダー戦でそうしたようにダガーを巨体の背に突きたてる。

しかし硬い竜の鱗とは違い、足を掛けられる程の支持力は得られない。

ダガーを握った左手一本で懸垂をする要領で、自らの身体をあと数フィート高く持ち上げた。


男「届いたぞ、バケモノ」


その肩口から斜めに深く、剣を突く。

身をよじるオーク。

俺は刺した剣を支点に巨躯の前方に身を翻すと、後ろ手のままその身体を引き裂き地に降りる。

数秒ほどの間をもって、背後の地面が揺れた。

俺は自らの頬に散った返り血を拭い、剣を鞘に収める。

残り数体のコボルドも、槍兵の奮戦によって倒されようとしていた。





150 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/30(水) 21:08:36 ID:HKG/Ie9M [2/5]


時魔女「男、幼馴染ちゃん、お疲れ様!乱戦ではボクあんまり役に立たなくて、ごめんねー」


時魔女は水に濡らした拭き布を渡しながら、俺達を迎えた。


男「何言ってんだ。七竜戦では時魔法が要になるんだから、役割はそれぞれでいいんだよ」

幼馴染「そうそう。私だってサイクロプスみたいに弱点のはっきりした相手じゃなかったら、地味に矢を射るしかできないんだから」

時魔女「でも幼馴染ちゃんの接近戦も格好良かったよ!あ、もちろん男もね!」


兵に負傷者こそあるが、時魔女の時間逆行を必要とするような重傷を負ったのは片目をやられた一名のみ。

それも数分以内の事なので、彼女の力で無かった事にできた。

戦果は良好、快勝と言っていいだろう。

ただ接近戦でオークを相手にすると、浴びる返り血がひどい。

今夜は是非とも川か湖があるところで野営したいところだ。


女「拭き布を」

男「ああ…大丈夫、自分でするよ」

女「背中は思うように拭けないでしょう?…貸して下さい」


女はちょっと強引に俺から布を奪った。





151 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/30(水) 21:10:17 ID:HKG/Ie9M [3/5]


ごしごしと背中に浴びた返り血や泥を拭ってくれているが、少し力が強すぎやしないか。


男「おい、腕とかは自分で拭けるって」

女「今は戦時ではありません。やめろと言われても、命に従う義務は無いかと」

男「…誇りに背かない命ならいつでも従うんじゃなかったか」

女「夫の身嗜みを整えるのは、妻の役目と考えておりますので」


昨夜からどうも機嫌が悪い、まあ理由は解っているけれど。

気だて良く振る舞い、夫の心の安らぎとなる事は妻の役目じゃないのか…とは思っても言わない。

何故ならそれは、本心じゃない。


男「格好つけたつもりだったんだけど」

女「お望みの言葉は、今日は言いません」

男「…お前の性格、見えてきた気がするよ」


少なくとも結婚してから言う台詞ではないな…言った後からそう考えて苦笑する。

でもそんな女の性格と振る舞いを、俺は気に入っているんだろう。

最初、気を遣うばかりでぎこちなかった二人の関係は、いつしか俺にとって心安らぐものになっていた。





152 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/30(水) 21:12:14 ID:HKG/Ie9M [4/5]


……………
………



…月の国、北東の港町


月の副隊長「総員、整列!」


無事に帰還した60余名全員の兵が、足を鳴らして広場に整列する。

サイクロプス討伐成功の報告をもって凱旋した港町、夜には自治体の振る舞いによる宴が催される事になった。

海からサーペントが消え、断続的に町を襲うサイクロプスの脅威も無くなった事で、港町の民の生活は格段に安定したものとなる。

それを成した星の国の一団と我々に対するせめてものもてなしだと、町長は顔を綻ばせて言ってくれた。


男「討伐隊全員、各自夕刻までは思い思いに過ごすがいい。ただし…」

月の副隊長「宴まで羽目を外すな…ですな」

男「そういう事だ、なんだかこの町に入る度に言ってるな。…あと明朝には町の伝令所に今後の命についての指示が入る事になっている」


国内の主な拠点までは数マイル毎に中継所が設けられ、日射鏡を使った信号による通信網が整備されている。

それは月の国と星の国のように同盟を結んだ国家同士にも巡らされ、実質のところ月・星・旭日・白夜の四か国は一日程度のラグはあれど相互に通信する事が可能だ。


男「いつ号令をかける事になるか解らん、明日の午前中は宿泊所で待機せよ」





153 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/30(水) 21:13:34 ID:HKG/Ie9M [5/5]


月の副隊長「午前中だけでよろしいので?」

男「午後になってから急な指令など入っても、この大所帯がすぐに発てるものか。それにこの美しい海を前に一日中待機など、俺が耐えられん」


一同が失笑した。

月と星の混成部隊だが、随分馴染んできたと思う。


男「…総員、素晴らしい活躍だった。宴では貴様ら勇士が俺に杯で挑んでくる事を期待している。では、解散!」


やはり俺は討伐隊々長には向いていない。

号令に従い、生き生きとした顔で解散してゆく隊員達が、親しい友人のように思えてしまう。

いつか彼等を死地に送る号令を掛ける事になるかも知れないというのに。





154 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:22:12 ID:wvXawXYo [1/15]


……………
………



…翌朝

男「う…うぅ…午前中は待機って言っといて良かった…」


頭が割れそうに痛い、胸の辺りは火がついたように熱い。


女「連日飲み過ぎです、お身体の事も考えて下さい」

男「だってあいつら順番に挑んでくるんだもんな…」

女「自業自得です。…お水、要りますか?」

男「頼む…」


女は呆れた溜息をつくと「氷を貰ってきます」と言い残し、部屋を出ていった…

…と、思った。





155 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:24:10 ID:wvXawXYo [2/15]


しかしドアは閉まる途中で止まり、その陰から再度顔を覗かせる女。


女「覚えて無い…みたいですね」


呟くようにそう言った彼女は頬を赤らめ、どこか拗ねている風に目に映る。


男「…え?」


そして彼女の姿は部屋の外に消え、ドアは閉じられた。


男「………え?」


しばし頭が真っ白になった後、急に嫌な汗が吹き出す。


男(ちょっと待て、何だそれ!俺…昨夜、何かしたのか!?)


だって今朝、俺は二日酔いに苛まれながらもいつも通り二人同じベッドで目覚めた。

いや、女は俺より早く目覚めてはいたけど…とにかく寝床は共にしてたんだ。





156 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:24:43 ID:wvXawXYo [3/15]


つまり昨夜、酒に飲まれた俺は彼女に『しようと思えば何でもできた』事になる。


男(何にも覚えて無えよ…どうやって部屋まで帰ったかさえ解らないんだぞ)


とりあえず今いるベッドに掛けられている薄手の毛布を払い除け、シーツの状態を確認。

…そう著しく乱れてはいない。


男(そりゃそうだろ!だって俺、服着てるものな!)


少なくとも真っ白な彼女を赤く染めるような事には、至っていないものと思われる。

ホッと胸を撫で下ろした。





157 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:26:16 ID:wvXawXYo [4/15]


さて、じゃあ俺は何をした。

彼女の純潔を完全に奪うまでの事はしていないとして、その一歩手前とかはありえないか?

つまり彼女を押し倒したり、ひん剥いて…こう…ほら、もにょっと…


女「…何の手つきです?」

男「うぉっ!?…も、戻ったのか」

女「氷を頂きに行っただけですから…そんなに驚かれるとは思っていませんでした」

男「驚いてない、ぜんぜん」


女は氷水のグラスを差し出して、俺の額に手を当てた。

ひやりと冷たい、白く細い指。


女「まだ火照ってるんじゃないですか…?」


さっきまでの疚しい考えを引きずっているのか、どうもその言葉が意味深に思えてならない。


男「なあ、さっきの…どういう意味だ?俺、昨夜…何かしたのか」

女「本当に覚えてませんか」

男「すまん、さっぱり解らん」





158 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:27:09 ID:wvXawXYo [5/15]


女はまた拗ねた風な顔を作り、ぷい…と横を向く。

その横顔を暫く見つめていると、彼女は口籠もらせながら言った。


女「唇を…奪われましたのに」


…頭を整理する。


これは、なんて事をしてしまったと後悔すべきか、その程度で良かったと思うべきなのか。


男「本当かよ…すまない…」

女「別に謝らずとも構いません。…でも」


でも、覚えていないなんて失礼極まりないだろう。


男「女、昨夜は本当に酒でどうかしてたんだと思う。覚えてもないなんて…俺だって気がすまない」

女「………」

男「無かった事にはしてくれないか?…それで、その…」


形式上でも妻だ、不貞を働いたわけではない。


…だから、せめて。


男「今、しよう。もう一度…これが初めてって事で」





159 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:28:15 ID:wvXawXYo [6/15]


女「…承知しました」

男「ちょ…ちょっと、口を濯いでくるから」


俺はベッドから立ち上がると、早足に洗面台に向かう。

途中で軽く足が縺れてフラついた、いかん…焦っている。


男(ああ…きっと今日は酒臭いはずなのに。いや、昨夜はもっと酷かったか…)


荒い粒子の磨き粉を指に取り、念入りに口内を磨く。

肉桂のフレーバーをできるだけ擦り込み、丁寧に口を濯いで。


…これで大丈夫、多分。


女はさっきと変わらずベッドの脇に佇み、こちらに背を向け俯いている。

一歩ずつ歩み寄る、それに従い俺の胸は次第に早鐘を打ち始めた。

もう二十代も半ばに差し掛かろうとする、いい大人だというのに。

ずっと剣術の鍛錬に明け暮れて、こういう点では少年にすら劣る自分が情けない。





160 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:29:44 ID:wvXawXYo [7/15]


男「………女…」


その肩に手を掛けると、彼女はゆっくりとこちらに振り返った。

頬を朱に染め、目は俺を見ているようで少し焦点が定まっていない風に見える。


男「昨夜、すまなかった。…これは誇りに背きはしないよな?」

女「…妻ですから」


細い両肩を持ち、軽く引き寄せた。

抵抗することなく、俺の胸に身体を預ける女。

彼女が上を向き、目を閉じた。

俺はその艶やかな桜色の唇に吸い込まれるように、顔を近づけ…


時魔女「おっはよー!伝令文きたよー!」


慌て弾けるように身を離す。

部屋のドアの開く向きが逆なら、目撃されていたに違いない。


時魔女「あれ?…もしかしてタイミング最悪だった?」

男「ぜんぜん!」

女「………」





161 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:30:58 ID:wvXawXYo [8/15]


月王からの伝令、そこに記された新たな任務は旭日の国と落日の国の間に広がる砂漠へ赴く事だった。

砂漠に巣食うのは七竜の一、渇竜と呼ばれるヴリトラ。

伝令文のそこまでに目を通し、翼竜討伐でない事に落胆する。

しかし文の続きには、こう記されていた。


『昨今、砂漠上空における翼竜の目撃が頻発。点在するオアシス近隣の居住地への被害報告も在り。ヴリトラ討伐は元より、二頭の竜を一掃する事を期待する』


…心臓が大きく脈打った。


ついに、あの翼竜を討てるかもしれない。

俺は胸に手を当て、その昂りを確かめてみる。

怖れなど無い。今、この胸に打つのは奮いの鼓動だ。

自然と口の端が上がる、拳を握り固める。


男(墜つべき時が来たぞ、翼竜…!)


二日酔いの不調など、どこかへ失せていた。





162 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:33:53 ID:wvXawXYo [9/15]


………



港町の外れ、砂浜を女と二人で歩く。

竜討伐の命に気は急くものの、伝令文の更に続きには増援の兵を送るために数日この町で待機の指示が記されていた。

もしかしたら七竜との連戦になる可能性もある、確かに増援は必要だろう。


男「さっきは参ったな、結構いい雰囲気だったんだけど」

女「すみません…部屋に戻った時に鍵を下ろしておけばよかったものを」

男「お前のせいじゃないよ、別に時魔女が悪いわけでもないし」


話しながらゆっくりと、足は砂浜の端に見える岩場に向いていた。

そこへ歩むのは無意識か、それともわざとか…その岩場なら人目につかないところもあるだろう。

女もそれを察しているかもしれない。

海岸、波の音、潮の香り、人目につかない岩場…狙い過ぎだろうか。





163 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:34:25 ID:wvXawXYo [10/15]


…しかし辿り着いた岩場には。


月の兵A「あ、隊長殿!」

月の兵B「散歩ですか、待機継続ですものね」


こいつらの顔、見覚えが強い。

昨夜、俺に順番に挑んできた最後の二人だ。


男「…お前ら、ここで何を?」


男二人で人目につかない岩場って、理由によっては隊の在り方を考えなければならない。

まあ二人が提げた麻袋をみれば、およそ察せられるが。


月の兵B「この岩場、栄螺や雲丹が採れるんですよ」

月の兵A「さっきなんか小振りですが鮑を拾いました、晩酌が捗りますよ」

兵が開いた袋の口を覗いてみると、ごろごろと型の良い栄螺が重なっている。

男「…なるほど。だがこの町の漁師はそれらで生計をたてているんだ、程々にしろよ」

月の兵A「自分らの晩酌のアテになれば充分ですから、もうここまでにします」

月の兵B「隊長殿も拾ってみては?…ああ、さすがに今日はもう酒は召されませんかね」





164 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:35:54 ID:wvXawXYo [11/15]


男「まあ昨夜さんざん飲んだ…いや、飲まされたからな。…他でも無い貴様らに」

月の兵A「覚えておいででしたか…確かに自分らのせいですが、大変でしたよ。隊長殿を部屋まで運ぶのは」

月の兵B「引きずってベッドに寝かせても、いっさい目を覚ましませんでしたからね」

男「俺は酒に酔って寝たら起きない事で有名なんだ。まあ、一応すまなかった…と言っておこうか」


兵士二人は軽く会釈をして、すぐに岩場を離れてゆく。

たぶん女を連れた俺に気を遣ったのだろう、これで本当に人の目は無くなった。

…少し雰囲気は失われてしまったように思うが。


男「…あれ?」

女「………」


そこで俺は、ある事に気付く。

先の兵士の言葉が正しければ…


男「兵に引きずられて…ベッドに…?」





165 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:37:07 ID:wvXawXYo [12/15]


女「か…帰りましょう、男さん!」

男「…いっさい目を覚まさずに?」

女「そうだ!また波止場の近くの露天で牡蠣を食べませんか!?」


急にあたふたと挙動を乱す女。

俺の中に芽生えた疑念が、確信に近付く。

さあ、どうする…?


女「この間の焼き牡蠣、美味しかったです!食べたいですっ!」


いかにも普段らしくない女の態度からして、おそらく俺の予想は違わない。


女「そう、今度は時魔女さんも誘いましょう!それがいいです!」


でも、ここでそれを糾弾するのは無粋じゃないか、女に著しく恥をかかせる事になる。


女「ええと…あの、あの…!」


俺は女が望む通り露天市に行こうと考え、その旨を言おうとした。


男「じゃあ」
女「ごめんなさいっ…!」





166 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:38:20 ID:wvXawXYo [13/15]


しかし、少し間に合わなかった。

突然の謝罪、彼女の方が罪の意識に負けてしまったらしい。


女「だって!だって、仕方なかった!突然に幼馴染さんが現れて…彼女は昔、男さんの事が好きで…!」

男「女、もういいから…」


恥ずかしさのせいなのか、彼女は顔を真っ赤にして目を潤ませている。


女「私よりずっと男さんの事、よく知ってて…一緒に過ごした時間は比べものにならなくて…」


ひと滴、ついに涙は頬を伝う。

俺は疑念を抱いた時に、それを口にしてしまった事を悔やんだ。


女「私は男さんの妻なのに…それは形式上の事で…夫婦なのに、口づけすらした事…無くて…」


そもそも悪いのは俺だ。

婚姻を形式上の事にしたのも、夫婦だというのに彼女の手さえ握らなかったのも。





167 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:38:53 ID:wvXawXYo [14/15]


男「女、顔を上げろ」


彼女がそれに従うより先に、俺はその背中に手を回して華奢な身体を抱き寄せた。


女「………!」


驚いて上を向いた女、その唇を強引に奪う。

彼女の身体が強張り、やがてその力を抜く。

数秒の口づけを終えて、俺より小さなその身体を解放しようとした時、今度は俺が彼女の細腕に抱き締められた。

俺の胸に顔を埋めて、ぐいぐいと首を横に振る。

きっと涙を拭いたんだろう。

そして今は顔を見るな…という事なんだろう。





171 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/01(金) 17:45:48 ID:chjj9IH6 [1/10]


……………
………



…三日後


月の副隊長「総員、整列!」


昨夜、月の増援部隊が合流して総勢120名を越す規模となった討伐隊。

その全員が普段は運輸物資の集積場所となっている港の広場に整列した。

目の前には隊の専用艇として確保された三隻のキャラック船が出港の時を待っている。

これまで以上に本格的な部隊を率いる事となった今、元々の軍人ではない俺は些かの気後れを覚えていた。


男「合流部隊諸君、長旅ご苦労だった。…しかし参ったな、こんな大所帯の指揮など慣れるものじゃない」


元々の討伐隊、既に気の知れた仲間達が小さく失笑する。

きっと笑いは噛み殺したのであろう増援部隊の面子も、この部隊の隊長たる俺が最近まで農夫であった事くらいは知っているだろう。


男「まあ…今は気楽に聞いてくれ。これより我が隊は海を超え、旭日と落日の間に広がる砂漠を目指す。…長い旅になるだろう」


天候が良くて航海が六日、そこから砂漠までの行軍も十日ではきかない。


男「おそらく戻る頃には季節すら変わろう。それほどの時を共に過ごし死線を超える我々は、国も故郷も越えて一つの絆で結ばれるべきだと思う」





172 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/01(金) 17:46:24 ID:chjj9IH6 [2/10]


行軍の間には雑多な魔物との交戦もあるだろう。

環境の違いに身体を悪くする者もいるかもしれない。

その時に長たる俺が気後れなどしていてどうする。


男「家族にも似た絆だ。俺は諸君らの全てを率き連れて戻りたい。…問おう、俺に命を預けられるか」

全兵「「「サー、イエッサー!」」」

男「諸君らにもそれぞれの家族があろう。しかし今これからは我々部隊がその代わりだ。家族を護るように、隣に立つ仲間を庇い、護ると誓えるか」

全兵「「「サー、イエッサー!」」」

男「ならば我ら家族の想いは一つだ。必ず竜を討ち、全員が生きて帰り、祝杯を交わす。…それ以外の戦果は望まん!」

全兵「「「サー、イエッサー!」」」

男「目指す栄光は海原の向こうにある。…総員、乗船せよ!」





173 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/01(金) 17:47:28 ID:chjj9IH6 [3/10]


………



…一時間後


男「うええぇぇぇぇぇ」

幼馴染「船酔いなんて情けないなあ…」


仕方ないだろう、こんな大きな船に乗った事なんて無い。

大きな船の方が揺れは少ないと言うけれど、そもそも波の無い川でカヌーより少し大きい程度の運搬船にしか乗った経験は無いのだ。


男「うぅ…この大きな間隔の揺れが、死ぬほど気持ち悪い…」

幼馴染「はぁ…演説は格好良かったのに、見る影も無いね」


うるせえ、罵るだけならどっか行け。

俺には口づけも交わし絆を深めた女がいる…


女「………くっ」

男「今、笑ったよな」


もういい、ほっといてくれ。





174 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/01(金) 17:48:14 ID:chjj9IH6 [4/10]


見張り兵「9時方向の島嶼より飛来する影あり!数は10…いや、12です!」

男「副隊長…頼む」

女「しっかりなさって下さい、副隊長殿は二番艦にご搭乗です!」

男「じゃあ時魔女…」

幼馴染「時魔女ちゃんは三番艦」


そうか、そうだった。


見張り兵「敵影はバルチャー!かなり大型です…!」

男「…どうせ剣も槍も届くまい。弓兵…魔法隊、応戦せよ。…うえええぇぇぇ…」

幼馴染「どの口がさっき隣の兵を護れって言ったのよ」

男「…今は俺を護ってくれ」


不服を垂れながらも幼馴染は弓を構える。


女「ふふ…私は嬉しいです。たまには夫に頼られないと」

男「…よろしく」





175 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/01(金) 17:50:36 ID:chjj9IH6 [5/10]


幼馴染「与一流、炸矢…!」


鋭く矢を射る幼馴染。緩い弧を描き怪鳥を目指す矢は、相手の回避によって目標を捉え損なったように見えた。

しかし矢がその怪鳥の翼下をくぐろうとする時。


幼馴染「そんなに小さく躱しても意味は無いわ」


閃光と共に矢が炸裂する。

つがえていた矢は普通の鏃に見えた…という事は、これも魔力を籠めた旭日の弓術なのだろう。


女「…翼を焼き払います」


ほんの数秒、略式にしても短い程の詠唱を経て女が手を翳す。

一瞬にして火に包まれる翼、なす術無く堕ちる巨鳥。


幼馴染「惜しげも無く魔法使ってたら、魔力がもたないわよ?」

女「あら、ここは海の上ですから…矢こそ大事にしないと回収できませんよ」

幼馴染「…言うじゃない」

女「ライバル視してますから」


互いに憎まれ口のような言葉を交わしながらも、最初の夜のように深刻な雰囲気ではない。

関係はどうあれ、二人は馬が合う存在らしい事は解ってきていた。





176 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/01(金) 17:52:23 ID:chjj9IH6 [6/10]


他の兵士の活躍もあり、バルチャーの襲来は被害無く乗り切る事ができた。

このまま沖へ進み、周りに島などが無い辺りになれば水中に棲むもの以外の魔物は現れなくなると思われる。

水中の魔物にしてもサーペントのいない今、この大きさの船を襲える者などそうはいまい。


男「おえええぇぇぇ…」


後の悩みはいつ俺が落ち着くか、それだけだ。


男「女…水、頼む」

女「なんだか私、飯炊き女ならぬ水汲み女みたいですね」


口づけを交わして以降、当たり前だが女との仲はより親密になったと思う。

もう最初のように気を遣う事も無く、こうして冗談すら言ってくれる程だ。


女「はい、どうぞ…あ、ちょっと待って下さい」


女は渡そうとした器を左手に持ち直し、右掌を胸の前で上に向けると何かを小さく唱えた。

きんっ…という音と共に、その掌の上に現れる氷塊。


女「あら、少し大き過ぎました…器に入りきっていないので、気をつけて飲んで下さい」

男「…便利なもんだな」


冷えた水を喉に通すと、幾分か胸がすっきりした気がした。





177 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/01(金) 17:53:10 ID:chjj9IH6 [7/10]


………



船旅も三日目になると、すっかり船酔いもしなくなった。

でもそれは今回に慣れただけで、帰りがけの船ではまた発症するのだろうか。


男(七竜に挑むんだ、帰りの心配をするのは早いか…)


俺は遠い水平線を見遣りながら、迫る戦に想いを馳せる。

七竜、特にワイバーンに対しては命を賭して挑むつもりだ。

兵に対する伝令では総員生きて帰る旨を語ったが、サラマンダー戦でも七人が散った事を思えば難しい話なのは解っている。

人の命は皆、平等な筈だ。

この隊の全てが家族だ…そう兵達にも告げた、それは嘘じゃない。

でも誰よりも、隣に佇む女を死なせたくないと思うのは仕方のない事だろう。


女「…水平線の景色は素敵ですけど、こうも毎日それしか見えなければ退屈ですね」

男「まあな…俺は落ち着いて眺められるようになったのは、今朝くらいからだけど」

女「あはは…そうでしたね」


このごろ女は、よく笑うようになったと思う。





178 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/01(金) 17:53:52 ID:chjj9IH6 [8/10]


女「あら…?幼馴染さん、船尾で何をされているのでしょう…」


見ると幼馴染が船尾の低くなったところで、何かごそごそと弓を弄っている。


男「何してるんだー?」


幼馴染は声に気付き、こちらを振り返った。

そして弓を高く掲げて「まあ見てて」と大きな声で告げた。

遠目で判りにくいが、弓には弦が張られていないように見える。


幼馴染「てーい!」


彼女が海に向かって振りかぶる、その仕草でピンときた。


男「釣り…か、アイツも暇だったんだな」





179 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/11/01(金) 17:54:24 ID:chjj9IH6 [9/10]


女「楽しそう、見に行きましょう」


言うより早く女は船尾に向かって歩き出した。

皇女という立場にあった彼女だ、こういう俗な遊びを見るのは初めてなのだろう。


男(竜を討ち、全てが終わったら…二人で色んな所に旅をするのも悪くないかもな)


ついさっき帰りがけの心配をする事さえ早いと考えたばかりの筈なのに。

本当に命を賭して竜に挑む気があるのかと、自分で可笑しくなる。

俺はもう一度水平線に目を遣り、自分に言い聞かせるように迫る死闘を心に描いた。





180 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/01(金) 17:55:24 ID:chjj9IH6 [10/10]


第一部 終わり


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テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

  1. 2013/11/02(土) 13:29:28|
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