がらくた処分場

コンソールの彼女(原題/男「おー、着いた着いた」ナビ《えっへん》)

1 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/13(日) 14:09:55 ID:yjinHqTI [1/13]



整備士「…そう最新型というわけではありませんので、別段特別な機能はついていません」

男「うん、営業の人からもそう聞いています」

整備士「強いて言えばルームミラーと一体型のドライブレコーダーと、タッチパネル式のナビがついています。ただ、ナビは社外品なので我々にも詳しい使い方は解りません」

男「…まあ使ってれば慣れてくるでしょ?」

整備士「そうですね。ハンドルのボタンを押すと音声入力モードになるようなので、走行中はそちらで操作して下さい」

男「解りました。じゃあどうも、お世話になりました」

整備士「いえいえ、不具合等ありましたら、いつでもお持ち込み下さいね」

キュキュキュ…ブオォーン

男(うん、エンジン快調じゃん)

整備士「ありがとうございました、お気をつけてー」





2 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/13(日) 14:11:01 ID:yjinHqTI [2/13]


男(走行の異音無し、ハンドルのブレも無し、車内も結構綺麗…)

男(あの値段にしちゃ大当たり過ぎるくらいだな)

男(さーて、お前が初のマイカーだ)

男(頼むぜ…あ、そうだ)

男(ただの思いつきだけど…えーと、音声スイッチ…これか)

…ピッ

ナビ《音声入力モードデス》

男「…お前の主人になった『男』だ。これからよろしく頼むぞ」

男(なーんて、ね。こういうのは雰囲気と思い入れだろ…)

ナビ《…わかりました、男さん。どうぞよろしくお願いします》

男「え?」

ナビ《私の事は『ナビ』とお呼び下さい、どこにもお供して参ります》

男(ちょ…まじか、最近のナビはここまで進化してるのか?…いや、最新型じゃないはず…)





3 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/13(日) 14:11:58 ID:yjinHqTI [3/13]


男「さっきから話をしてくれてるのは、このカーナビ…お前だよな」

ナビ《はい、男さん》

男「お前、俺の言葉が全て理解できるのか」

ナビ《もちろん知らない単語もあると思いますが、おおよそは》

男「…驚きだ、こんな技術が開発されているとは知らなかった」

ナビ《そうですね…私は特別製と考えて頂いた方がよろしいかと思います》

男「特別製?試作機か何かか?」

ナビ《そんなところです。詳しくは私も知りませんが》

男「なんだそりゃ…まあ、いいか。こりゃ一人でも退屈しなさそうだ」

ナビ《光栄です。BGMでもかけましょうか?》

男「ああ、そうだな…もう何か入ってるのか?」

ナビ《お好みに合うか解りませんが、こちらなどいかがでしょうかか》



《Do you remember, the 21st night of September…》





4 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/13(日) 14:12:28 ID:yjinHqTI [4/13]


男「はは、ずいぶん古いけど不朽のナンバーだな。10月だからひと月遅い…でも悪かないよ」

ナビ《よかった。私この曲、大好きなんです》

男「驚いたな、音楽の好き嫌いまであるのか。…ヘタなもの聴けないな」

ナビ《私の事はお気遣いなく、男さんのお好みのものを再生して頂いて結構ですよ》

男「ああ、解った。じゃあ早速だけどナビを頼もう、燃料があまり入ってないからガソリンスタンドへ案内してくれ」

ナビ《へ…?あ、ああ…少々お待ち下さい》

男(なんか今、躊躇ったか?)

ナビ《コノ先、300mヲ、左ニ、オ進ミ下サイ》

男「ん?今度はえらい人工的な音声だな」

ナビ《…すみません、基本機能は既製品と同じなんです》

男「ぷっ…!なんだそりゃ、面白い…笑わせるじゃねーの」

ナビ《笑わないで下さいよー》

男「はは…カーナビがふてくされるってのも、いいな」





5 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/13(日) 14:12:59 ID:yjinHqTI [5/13]


ナビ《目的地周辺ニ、到着シマシタ》

男「おー、着いた着いた」

ナビ《えっへん》

男「お前の機能とは別なんだろ」

ナビ《でも同じナビですから》

男「あれ?この車、レギュラーだっけ…ハイオクだっけ?」

ナビ《何か違いがあるんですか?》

男「いや、カーナビが訊くなよ。まあ社外品だって言ってたもんな…知らなくて当然か」

ナビ《前の持ち主はいつもレギュラーを入れていたと思います》

男「そっか、じゃあそれに倣おう」





6 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/13(日) 14:13:30 ID:yjinHqTI [6/13]


ナビ《さて、どこへ行きますか?》

男「初日からロングドライブする気は無かったんだけど」

ナビ《えー、久しぶりのお出かけなのに…》

男「…と思ってたんだけど、なんか楽しいからドライブ続行だ」

ナビ《そうこなくっちゃ、どこへ案内しましょう?》

男「こういう場合、地名を言った方がいいの?」

ナビ《キーワードで構いませんよ、行った先で文句を言わないなら》

男「えらい挑戦的なカーナビだなぁ。じゃあ…気持ちよく走れる眺めの良い峠道へ」

ナビ《帰りの予定は?》

男「俺は一人暮らしだからな、今日中であれば問題無しだ」

ナビ《了解、案内します》

男「よろしく頼む」

ナビ《コノ先10km、道ナリデス》





7 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/13(日) 14:15:05 ID:yjinHqTI [7/13]


男「おお、こりゃあいい峠だ。天気がいいから海まで見える」

ナビ《綺麗ですねー》

男「外、見えるのか?」

ナビ《ドライブレコーダーがモニターと接続されていますので》

男「なるほど、でも画像を綺麗だと識別できるなんてすごいな」

ナビ《もっと褒めていいですよ》

男「ナビ、格好いい!」

ナビ《可愛いの方が嬉しいです》





8 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/13(日) 14:15:37 ID:yjinHqTI [8/13]


男「ナビ、可愛い!」

ナビ《いやぁ、それほどでもー!…じゃあ姿を見せてあげますね?》

男「へ?」

ナビ《モニター、ご覧下さい》ニコッ

男「え?ちょ、まじか?」

男(女子高生じゃねーか、開発者の趣味かよ)

ナビ《こんな感じなので、よろしく。タッチパネルだからってヘンなトコロ触っちゃだめですよ》

男「触りたくなるような事、言うなよ」

ナビ《いやー、ヘンターイ》

男「カーナビに罵倒される日がくるとはな」





11 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/13(日) 14:36:48 ID:yjinHqTI [9/13]


男「俺の運転、どう?」

ナビ《うーん、60点です》

男「そう高得点じゃないな」

ナビ《下手ではないですが、まだ慣れてませんね。でもバックは下手です》

男「言いやがる、上手くなってみせるからな」

ナビ《期待してます》

男「…しかしこんな人格のハッキリしたナビがついてたら、車の寿命がきても手放せなくなりそうだな」

ナビ《もう既にぞっこんですか、私も罪な女ですね》

男「でも前の持ち主には手離されたんだろ?」

ナビ《……………》

男「ごめん。本当、ごめんって」





12 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/13(日) 14:50:33 ID:yjinHqTI [10/13]


ナビ《男さんは、一人暮らしなんですよね?》

男「ああ、そうだよ」

ナビ《まだ独身?》

男「まだ大学生だしね」

ナビ《それにしては随分控えめなコンパクトカーを選んだんですね》

男「まあ経済的な理由が大きいね。それに俺、別に派手な車が好きなわけじゃないから」

ナビ《悪くない趣味だと思いますよ》

男「ありがと、あとは助手席に乗ってくれる娘がいればね…」

ナビ《心当たりはないんですか》

男「うーん…何かの用事とかで女の子を乗せる事はあるだろうけど、他意があって乗る娘はいないね」

ナビ《…申し訳ない事を訊きました》

男「いや、反省しないで。余計へこむから」





13 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/13(日) 19:26:06 ID:KAqNj3Aw [1/2]


男「さて、今日のドライブはここまでだ」

ナビ《お疲れ様でした。こちらが自宅ですか?》

男「しがない1Kアパートだけどね」

ナビ《では自宅として位置登録しておきますね。今日は久しぶりのドライブで、本当に楽しかったです》

男「俺も一人だったらこんなに走ってないよ、楽しかった」

ナビ《男さん、明日もまた乗って下さいね?》

男「うん、解った。たとえ少しでも、乗るよ」

ナビ《はい、待ってます》

男「じゃあ、おやすみ」

ブルル…カチャ

ナビ《おやすみなさい、男さん》

男(…ん?)

男「ナビ、今…」

男(…エンジン、切ってからも喋ったような?…キャパシタの残電力なのかな)





17 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/13(日) 23:30:18 ID:yjinHqTI [12/13]


…翌日、日暮れ時


キュキュキュ…ブオォーン

男「待たせたな、ナビ」

ナビ《いいえ、ずっと中古車屋さんに並んでた時を思えば、すぐの事です》

男「そうか、意思があるだけに店頭では辛いだろうな…って、あれ?キーをアクセサリ位置に回さなきゃ、通電してないんじゃねえの?」

ナビ《そのへんはよく解りません。けど、ずっと意識はあります》

男「意識…とは、随分と人間くさい事を言うね」

ナビ《いいじゃないですか、早く走りましょうよ。早くお話しましょう》

男「あ、ああ…いいよ。夜景でも見にいこう」

ナビ《夜景スポット、検索しまーす》





18 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/13(日) 23:39:44 ID:yjinHqTI [13/13]


男「本当は夜景なんて、男独りで見に行くもんじゃねえよな」

ナビ《シブいおじさまなら独り夜風に吹かれてコンビナートの夜景を見るのも似合いますよ。男さんは…あー、えーと、うん、似合いますよ》

男「どんだけ人間くさいんだよ、君は。下手な気まで遣えるのか」

ナビ《2km先、右方向デス》

男「…なんかタイミング良くキャラが変わるなぁ」

ナビ《ソンナ事ハ、アリマセン》

男「こら、今のは標準機能の真似だろ」

ナビ《バレますか、やりますね》

男「あはは、くっだらねえ」

ナビ《楽しいですねー、男さんに買って貰ってよかった》

男「…その台詞、モニターの中とはいえ女子高生の姿をした君に言われると、背徳感がすごいな」

ナビ《うわ、そんな事考えるんですか》

男「ひくなひくな、ちょっと思っただけだ」

ナビ《姿、消しとこうっと》

男「あ、バードビューに戻しやがった」





24 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/15(火) 11:25:06 ID:uXM.faNQ [1/6]


ナビ《うわぁ、夜景すごーい》

男「そりゃ何よりで」

ナビ《私の案内の賜物ですね》

男「俺の運転の賜物だろ」

ナビ《でもここを選んだのは私ですよ?》

男「例えカーナビが場所を選んだって、ドライバーには無視する事もできるんだぜ」

ナビ《男さんはそんな事しません》

男「俺は…か、前のご主人サマはどうだったんだ?」

ナビ《………覚えてません》

男「…そっか、じゃあいい」





25 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/15(火) 11:25:42 ID:uXM.faNQ [2/6]


男「じゃあ、そろそろ帰ろうか」

ナビ《はい、自宅までの案内をスタートさせますね》

男「うん、頼む」

ナビ《…経路案内ヲ開始シマス、実際ノ交通規制ニ従ッテ走行シテ下サイ》

男「便利な世の中だよな」

ナビ《でもその代わり助手席の人に地図を見て貰って、道に迷いながら旅をする楽しみは失われたのでしょうけど》

男「カーナビの言葉とは思えないな」

ナビ《あは、まるで自己否定みたいですね》

男「まあ君に限っては、その楽しみも満たしてるんじゃないかな」

ナビ《…ありがとうございます》





26 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/15(火) 11:26:20 ID:uXM.faNQ [3/6]


…翌日


男「ナビに訊くもんじゃない気もするんだけどさ」

ナビ《なんでしょうか》

男「どこか行きたいところ、ある?」

ナビ《本当、本末転倒な感じですね。私の役目は男さんの行きたいところへ案内する事ですよ》

男「解ってんだけどさ、行った先で俺がどこかの店にでも入ったら、君は待ちぼうけだろ?」

ナビ《…男さん、それは気にする事じゃありません。だってもし他の人とどこかに行く時は必ずそうなるんですよ?》

男「まあね、でも今日は二人だよ」

ナビ《二人…って言ってくれるんですか》

男「んー、まあ…一人と一台かもしれないけど、俺の感覚的には二人だな」

ナビ《…嬉しい、です》





27 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/15(火) 11:27:44 ID:uXM.faNQ [4/6]


ナビ《私はお話しながらドライブできるなら、どこでも構いません》

男「そうだな、じゃあ…日付が変わる前に戻れるくらいのコースで、適当に」

ナビ《承知しました、コースを設定します…じゃなくて、設定させます》

男「画面はそのままでね」

ナビ《私の姿のまま、ですか?》

男「ああ、どうせ道を逸れたって構わないんだから」

ナビ《ふふ…あんまり見とれちゃ駄目ですよ?事故しちゃいます…なんてね》

男「解ってらぁ、からかうなよ」





28 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/15(火) 15:16:47 ID:uXM.faNQ [5/6]


…数日後


男「さて、今日はどこに行くかな」

ナビ《夜に運転して楽しいところ、なかなか無いですね》

男「君と話しながらだから、退屈はしないけどね」

ナビ《ナビ冥利に尽きます》

男「じゃあ適当に、渋滞しない方へ案内してよ」

ナビ《はい、お任せ下さい。…って、それは基本機能の役割なんですけどね》

男「あ、そうだ…明日はちょっと違う人を同乗させる用があるからね」

ナビ《私、出しゃばらない方がいいですか?》

男「いや…構わないとは思うんだけど、モニターに映せる姿って変えられるの?」

ナビ《残念ながら、これ以外のキャラは登録されてません》

男「うーん…制服の女子高生ってのも、俺の趣味だと思われそうだな」





29 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/15(火) 15:17:44 ID:uXM.faNQ [6/6]


ナビ《女性…なんですね》

男「ああ、まあね。ただのアシに使われるだけだけど」

ナビ《じゃあ、明日はなりを潜めておきます》

男「うん、ごめん」

ナビ《…頑張って下さいね》

男「何をさ?」

ナビ《えっと、良いドライブを》

男「…そんなんじゃないって」

ナビ《じゃあ頑張らなくていいです》

男「なんだそりゃ」

ナビ《なんでもない…です》





32 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/15(火) 18:50:31 ID:T4Kiutc2 [1/2]


…翌日


女「ごめんねー、男くん。車買った事に甘えちゃって」

男「いや、全然構わないよ。えっと、この後は…」

女「あ、次の交差点を左ね。その後みっつ目を右に入ってすぐのアパートだから」

男「了解、これを左ね…」

女「男くん、よかったら…上がってく?」

男「…うん、えーと」

女「………あの」

ナビ《目的地、周辺デス》

男「…ごめん、今日はやめとく」

女「そっか、じゃあ…またね。今日はありがとう」

男「どういたしまして」





33 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/15(火) 18:51:02 ID:T4Kiutc2 [2/2]


男「…彼女の家は知らなかったんだよ?」

ナビ《………》

男「目的地設定なんて、してなかったはずだよね」

ナビ《………》

男「…ま、怪しまれてはなかったみたいだからいいけど」

ナビ《…ごめんなさい》

男「ナビ、君にはどのくらい複雑な感情が与えられているんだ」

ナビ《…解りません、本当にごめんなさい》

男「責めてるんじゃないんだ。ただ…君に備わった人格次第では、俺も気をつけなくちゃいけない部分があるかもしれない」

ナビ《あの…私、決して嘘のルートを案内したりはしません》

男「そういう意味じゃない。君の人格を尊重しなきゃいけないんじゃないかと思ってるんだ」

ナビ《…私は、ただの機械です》

男「だんだん…ね…………」

ナビ《はい…?》

男(…そう思えなくなってきてるんだよ)





34 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/15(火) 22:39:37 ID:OsRlaNwU [1/24]


…更に数日後


男「さて、明日からは三連休だ」

ナビ《どこか遠くへ行きますか?》

男「うん、そのつもりだったんだ。早速だけど今から出ようか」

ナビ《やった、宿泊先とかは決めてるんですか?》

男「全く…ってか、行く先で温泉でも浸かって車中泊するつもりだよ」

ナビ《うわぁ、楽しみ!たくさんお話できますね!》

男「…とは言っても目的地は何も無いんだ。オススメはあるかな?」

ナビ《どのくらいの距離で設定しましょう?》

男「今日からカウントして三日目の昼くらいには到着できるところ。折り返しには高速を使えるように…かな」

ナビ《承知しました。…じゃあ、○△海岸でどうでしょうか》

男「どこだそれ?…まあ、いいよ。本当どこでもいいんだ」

ナビ《ではルートを検索させますね》





35 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/15(火) 22:40:26 ID:OsRlaNwU [2/24]


…初日、深夜


ナビ《もう少ししたら道の駅があります。今夜はそこで車中泊が良いんじゃないでしょうか》

男「了解、優秀なナビで助かるよ」

ナビ《もっと褒めていいですよ》

男「ナビ、可愛い!」

ナビ《大好きの方が嬉しいです》

男「ナビ、大好き!」

ナビ《愛の告白されちゃった!》

男「ナビ、愛してる!」

ナビ《きゃー、どうしましょう》

男「ナビ、結婚してくれ!」

ナビ《………そこまで言われると、逆に切ないものがあります》

男「…ごめん」





36 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/15(火) 22:47:04 ID:OsRlaNwU [3/24]


…二日目、朝


ナビ《おはようございまーす。出発のお時間ですよー》

男「ん…おはよう」

キュキュキュ…ブオォーン

男(…やっぱり、キーを回す前から動作してる。モニターはオフだったけど…)

ナビ《どうかしました?》

男「いや、なんでもない。…おぉ、明るくなるとこんなところだったのか」

ナビ《知らない所で車中泊すると翌朝そう感じますよね》

男「…ああ、そうだな」





37 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/15(火) 22:47:52 ID:OsRlaNwU [4/24]


ナビ《この峠はちょっと道がきついですけど、抜けた先は絶景ですよ》

男「そっか、楽しみだな」

ナビ《ほら、あのカーブの先です。運転には気をつけて…でも左側、見て下さいね》

男「うわぁ…岩が波に削られて、流木みたいになってるな」

ナビ《ね、すごいでしょう?》

男「…うん」

ナビ《ここからはこんな景色が続きますよ》

男(…まるで通った事があるみたいだな)

ナビ《もうじき道が広くなります。その後は少し混む街中を通るから、一区間だけでも高速に上がった方が良いかもです》

男「…解った、オススメのルートでいいから案内してくれ」

ナビ《はい、お任せ下さい》





38 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/15(火) 22:48:35 ID:OsRlaNwU [5/24]


…二日目、夜


ナビ《この先10kmほどで大きな港があります。緑地にトイレもあるので、車中泊しやすいですよ》

男「うん、そこでいいよ」

ナビ《夕方の温泉、どうでした?》

男「人が少なくて良かったなー。露天風呂も綺麗だったし」

ナビ《それは幸いでした》

男「…温泉は、どんなに小さくてもデータはあるかもね」

ナビ《はい…?》

男「ナビ、言いたくなかったら…答えなくていいよ」

ナビ《…何でしょうか?》





39 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/15(火) 22:51:40 ID:OsRlaNwU [6/24]


男「昨日から走ってるこのルート…少なくとも景観の良かった峠からは、通った事がありそうだよな」

ナビ《………》

男「いつのタイミングで絶景が見えるかなんて、通らなきゃ知らないはずだよ」

ナビ《…男さん》

男「それに、さすがに港の緑地にトイレがあるかどうかなんて、地図データに入ってないだろ?」

ナビ《…そう、ですね》

男「ナビ…君は、本当にカーナビの機能なのか?本当に人工知能なのか…?」

ナビ《………》

男「…目的地にしてる○△海岸、スマホで調べたよ」

ナビ《…出てきました?》

男「なんとか、ね。知る人ぞ知る…ってレベルの、穴場的スポットみたいだね」

ナビ《………》

男「全然構わないんだけどさ、普通…どこでもいいって言われて選ぶ場所じゃないと思う」





40 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/15(火) 22:52:51 ID:OsRlaNwU [7/24]


男「思うに、その海岸に行くのは…何か目的があっての事じゃないか?」

ナビ《………はい》

男「…答えにくそうだね」

ナビ《ごめんなさい…答えるのが、怖い…です》

男「…解った、ここまでの質問には答えなくていい。じゃあ…そこへ行ったら、何があるのかな?」

ナビ《…解りません、これは本当です》

男「そうか…なら、いい」

ナビ《男さん、ごめんなさい。やっぱり目的地…変えましょう》

男「その必要はないよ」

ナビ《ううん、もういいんです。私、どうかしてました…違うところへ行きましょう》

男「…そこでいいんだ」

ナビ《………でも》





41 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/15(火) 22:53:48 ID:OsRlaNwU [8/24]


男「ナビ、笑わないでくれよ?」

ナビ《…笑うような雰囲気じゃありません》

男「俺、画面の中の君が…語りかけてくれる君が、好きになってるんだ」

ナビ《…男さん》

男「だから、君の事…知りたい。もしかしたらこの旅路は以前の持ち主と通ったルートだったりするのかもしれないけど、君が見た風景を俺も見たいんだ」

ナビ《…私、このルートを通った事はあります。でも、それは前の持ち主とじゃありません》

男「じゃあ、誰と?」

ナビ《ごめんなさい、男さん。今夜ひと晩…考えてもいいですか》

男「…解った。どうしても答えられないなら、それでいいから」





42 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/15(火) 22:55:09 ID:OsRlaNwU [9/24]


…三日目の午前、出発後


ナビ《………》

男「…口数、少ないな」

ナビ《緊張…してます》

男「何に対して?」

ナビ《本当の事をお話しする事…それと目的地に着く事…です》

男「…あと20kmって表示だね」





43 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/15(火) 22:56:02 ID:OsRlaNwU [10/24]


男「…海の色、変わったみたいだな。すごく綺麗だ」

ナビ《男さん…私、本当はね…ナビの機能なんかじゃないんです》

男「うん…そうだろうね」

ナビ《気づいてたんですか?》

男「キーを回して通電する前や、切った後に話しかけてくれただろ?そんなの電気製品ではあり得ないよ」

ナビ《…そうですね》

男「それにドライブレコーダーで視界を得てるって言ってたけどさ、モニターに映る君はちゃんと俺の目を見て語りかけてた」

ナビ《うん…本当は車内も見えてます》

男「じゃあ訊こう、君は…誰?」

ナビ《…その前に、言わせて下さい》

男「うん…?」

ナビ《私、男さんの事…好きです》





45 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/15(火) 22:57:37 ID:OsRlaNwU [11/24]


男「…ありがとう」

ナビ《こんな事、正体不明で画面の中にいる女の子から言われても困っちゃいますよね…》

男「…俺はそんな女の子を好きになったよ」

ナビ《うん、本当に…嬉しかったです》

男「…しばらく道なりでいいのかな?」

ナビ《大丈夫です。…約束しましたから、嘘のルートは言いません》

男「モニターの残距離表示…10km、か…」





46 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/15(火) 22:58:56 ID:OsRlaNwU [12/24]


ナビ《…私、月並みな言い方をすれば…きっと幽霊です》

男「幽霊…」

ナビ《このルートを通ったのは半年前、父親とでした》

男「………」

ナビ《そしてこの先の目的地の海岸で…この車内で、私と父は…死んだんです》

男「どうりで…この車が格安だったわけだ」

ナビ《父は真面目な人でした。…でも保証人の関係で大きな借金を負っていて》

男「………」

ナビ《母親は私が小学校を卒業する頃に先立っていたので、私は父と二人暮らしでした。でも父は本当に優しくて、私は寂しくなんかなかった…》

男「…うん」

ナビ《半年前のある日、ドライブに行こうって…普段はガソリン代が出せなくて仕事以外には車を使わなかったのに》

男「………」

ナビ《お出かけ着なんか少ししか持ってなかったから、着替えは制服だったりしたけど…それでも嬉しかった》





47 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/15(火) 23:00:20 ID:OsRlaNwU [13/24]


ナビ《男さんの言う通り、初日の道の駅あたりからはその時に通った道です。…そして二日目、港で泊まって》

男「………」

ナビ《でも、今走ってる辺りは知らないんです。港で眠ってる内に車が動いてる気はしたんですけど…》

男「余計に口数が少ないわけだね」

ナビ《もしかしたら最後に港で食べさせてくれた食事に、睡眠薬でも入ってたのかもしれません。…とにかく着いた海岸で、父は車内で練炭を焚いたそうです》

男「…いたたまれない話だな」

ナビ《なぜ最期の場所にその海岸を選んだのか、そしてなぜ…私を連れていこうとしたのか》

男「………」

ナビ《たぶん…私をこの世に縛りつけているのは、その疑問だと思います》

男「もし海岸に着いて、その疑問が解けたら…君は」

ナビ《…解りません》





48 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/15(火) 23:01:50 ID:OsRlaNwU [14/24]


男「あと5km…だね」

ナビ《…私は気づいたらこの車に取り憑く幽霊になってました》

男「………」

ナビ《中古車としてひと月ほど店頭に並んで、最初の買い手がつきました。…ワケ有り車と知っての購入でした》

男「…うん」

ナビ《店の人とは気にもしないように話してた。だから納車された後…事件のあった海岸に連れて行って欲しくて姿を現したんです》

男「そりゃ…驚いただろうね」

ナビ《はい…想像以上に。すぐにこの車を手離してしまいました。…次の買い手がつくまで、それから二ヶ月待ちました》

男「………」

ナビ《私、店に並んでる間に気付いたんです。物を触ったりは出来ないけど、ナビの電気信号を思うように操作する事は出来るんだって》

男「…意識ってものも電気信号みたいなもんだって言うしな」

ナビ《それで、ナビのふりをする事にしました。でも次の買い手の人はすぐに音声をミュートしてしまって…》

男「ああ…そういう人もいるだろうね」

ナビ《私が勝手にミュートを解いて、ちょっとずつ話しかけようとしたんですけど…やっぱり怖がられて、手離されました》





49 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/15(火) 23:03:11 ID:OsRlaNwU [15/24]


ナビ《それから三ヶ月ほどして…九月の雨の日、一人の大学生さんがこの車を見つけました》

男「………」

ナビ《10月になって納車されて…私はまたカーナビのふりをするつもりだったけど、きっと駄目なんだろうと思ってました》

男「…ところが、その間抜け面の大学生は」

ナビ《びっくりしたんですよ。…だって向こうから話しかけてくれたんですもの。私…思わずカーナビのふりも中途半端に、普通に会話を始めてしまって》

男「それでもその大学生は怖がりもせずに、むしろその会話を楽しんだりしてね」

ナビ《嬉しかったな…この人なら、いつかあの海岸に連れていってくれるかもしれないって》

男「…うん」

ナビ《でもね…だんだん目的を忘れかけてしまう位、その人といるのが楽しくなってきて。…いつの間にか、好きになってて》

男「………」

ナビ《でも今さらカーナビじゃないなんて、言い出せなくて。…言ったところで、私は幽霊で…》





50 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/15(火) 23:04:44 ID:OsRlaNwU [16/24]


ナビ《助手席に女の人が乗るの…嫌で、いい雰囲気のところを邪魔なんかして》

男「………」

ナビ《それでも…その人、怒らないんです。…しかも…そんな私…を…好き…って…》

男「…うん」

ナビ《…私、目的の海岸に着くの…怖い…もしそれで本当に疑問が解けたら…消えてしまうかもしれない》

男「…あと、2kmだよ」

ナビ《もっと、ずっとその人と走ってたいんです…》

男(…1.5km)

ナビ《…でも、父の気持ちも知りたくて…》

男「あと、1km…」

ナビ《男さん…》

男(…700m)

ナビ《男さん、やめよう…って言って下さい》

男「…やめたいのか?」

ナビ《解らない…でも、男さんがやめろと言ってくれたら…私もう海岸に行かなくてもいいです》





51 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/15(火) 23:06:06 ID:OsRlaNwU [17/24]


男「…お父さんの事は?」

ナビ《知りたい…けど》

男(あと…300m)

ナビ《…ごめんなさい、こんな事…男さんに任せちゃいけませんよね》

男「君次第だ、俺だって君と離れたくないけど…それでも」

ナビ《…もし、私が消えても…忘れないでくれますか》

男「忘れられるわけ無いよ、それに消えるとは決まってない」

ナビ《…行って…下さい》

男「100m………着いたね」

カーナビ《…目的地周辺デス、案内ヲ終了シマス》





52 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/15(火) 23:18:47 ID:OsRlaNwU [18/24]


男「いい天気だ…窓開けてエンジン、切るよ」

ナビ《…はい》

ブルル…カチャ

男「もう無理に機械の中にいる必要、無いんだろ」

ナビ『そう…ですね』フワリ…

男「…やっと助手席に座ってもらえたな。もうナビって呼ぶのも気がひける」

ナビ『貴方にとっての私はナビ…それでいいんです。だって元々はナビって、助手席に座るドライバーの相棒でしょう?』

男「そうだね、ラリーなんかでは今もそうだろうな」

ナビ『…ありがとう、男さん。ここまで連れてきてくれて』

男「好きで連れてきたんだよ。それで、この海岸を見て…どうだい?」

ナビ『…思い出しました』





54 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/15(火) 23:21:39 ID:OsRlaNwU [19/24]


ナビ『ここは、私が小学校の六年生の夏の終わりに…親子三人で来た海…』

男「お母さんも一緒に…か」

ナビ『はい…もう九月になってたと思います。だからあまり長く泳げはしなかったけど…本当に幸せな日だった』

男「九月…『September』だね。あの曲は、お父さんの?」

ナビ『私が死んだ日にも、季節外れだけど車内でかけてました。きっと、遠いあの日にも…かかってたんだと思います』

男「…娘を道連れにしようとしたのは、決して誉められる事じゃない。でも、俺は責める気にはならないな」

ナビ『…はい』

男「一番幸せだった日の、その場所で…また三人一緒になろうとしたんだよ、お父さんは」

ナビ『そう…ですね…』





55 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/15(火) 23:23:07 ID:OsRlaNwU [20/24]


男「でも君は生きるべきだった」

ナビ『…え?』

男「生きて、俺と出逢うべきだったよ」

ナビ『…私も…それが良かった…な…』

男「…逝くんだろ?お父さんとお母さんのところ」

ナビ『うん…お父さんを叱りに、行きます』

男「…そっか」

ナビ『男さん…きっと触れられないけど、私が消えるまで手を握ってて下さい』

男「解った…」





56 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/15(火) 23:24:01 ID:OsRlaNwU [21/24]


ナビ『…貴方に逢えて、良かった』

男「俺も…そうだよ」

ナビ『お父さんを叱ったあと、帰って来られないかな…』

男「いつでも待ってる…ずっと」

ナビ『車…ワケ有りだけど、大事にしてくれますか』

男「幽霊なら、出て欲しいくらいだよ」

ナビ『男さん…大好き…でし…た…』

男「まだだよ…消えるな…」

ナビ『…ううん…ずっと…大…好き…』

男「…ナビ、俺だって…」

ナビ『さ…よな…ら…』フワリ…

男「ナビ…!」





57 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/15(火) 23:25:38 ID:OsRlaNwU [22/24]



…ピッ、ピピッ

《…Do you remember the 21st night of september?Love was changing the minds of pretenders…》



男「ナビ…Septemberは出逢いの曲だよ」

男「九月に出逢った二人が、十二月に結ばれようとする歌なんだ」

男「今はまだ、十月だよ…」

男「ナビ、別離の…失恋の歌をかけてくれないか」

男「…ナビ、どうやって帰ったらいい?」

男「君がいなきゃ、俺…自分の車のカーナビすら使えないよ」



《…音声入力モードデス》



男「………ナビ…」



《マイクニ向カッテ、行キ先ヲ、オ話シ下サイ…》





58 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/15(火) 23:30:24 ID:OsRlaNwU [23/24]


…12月はじめ、とある病院


医師「…驚いたよ、半年を超える植物状態から記憶障害もなく目覚めた時には」

少女「10月の事…でしたね。自分でも混乱しました、しばらく状況が飲み込めなかったです」

医師「ああ…そうだったね。医者としては君の快復はとても喜ばしい…しかし、君には身寄りが無い」

少女「…医療費、お支払いできなくてごめんなさい」

医師「なに、君は孤児という扱いになる…自治体の負担対象だよ。ただ、身元引受人がいない限りはこの後は施設行きという事になってしまうな」

少女「たぶん…なんですけど、一人だけ頼れる人がいます」

医師「そうか、それはいい。連絡なら、病院の電話を使えば構わないからね」

少女「電話番号は解りません…でも住所、位置情報ならしっかり登録してます」

医師「妙な言い方だね…失礼だが、君とその方との関係は?」

少女「…ナビとドライバーです」





72 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/16(水) 09:06:38 ID:zIwzHYDs [1/2]


…翌春


男「季節で風景の感じが違うとはいえ、カーナビ任せで走ってると道って覚えてないもんだよな」

少女「ちょっと…話しかけないで下さいよ。…解らなくなっちゃう」

男「去年の秋にこのルートを通った時は、君の方がうるさいくらい話しかけてきたけどね」

少女「今は集中してるんです」

男「二時くらいまでには海岸に着かないと、帰りキツくなるな…。買った花が萎れる前に頼む」

少女「ここが…トンネルだったから…よし、解ったあ」

男「この先のルートが?」

少女「ううん、今いるところが」

男「それすら解ってなかったのかよ。…で、どう行きゃいい?」

少女「…サッキノ、交差点ヲ、左…デシタ」

男「ちょ、さっきのって」

少女「もう、そんなに文句言うなら私に地図見させずに、カーナビを設定すればいいじゃないですか」

男「ばっか、これが楽しいんだよ」

少女「じゃあ文句言わない!はい、Uターンして下さいドライバー」

男「…優秀なナビで助かるよ」

少女「もっと褒めていいですよ?」

男「ナビ、大好き!」

少女「結婚してくれの方が嬉しいです」

おしまい


ナビ(少女)イメージ
H25.10.28 絵師ケケさんより許可の上、拝借しました。


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テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

  1. 2013/10/16(水) 14:13:11|
  2. 擬人化SS
  3. | コメント:12

スレ『ショートショート深夜VIP』・『みんなで文才晒そうぜ』投稿作品

これらはSS深夜VIPのスレ「ショートショート深夜VIP」に投下させて頂いたものになります。


86 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:32:21 ID:V.2kCN2g [2/17]

【ハッピーエンド】

俺には容姿可憐な幼馴染がいる。

でも俺は彼女の事を恋愛の対象として見る事はできない。

こう言うとまるで軽い恋愛作品にありがちな設定のようだが、俺の場合は本心での事だ。

俺には心を寄せる女性がいた。

同じクラスの『女』だ。

淡い想いだった頃から数えれば一年間に渡り、小さな努力を積み重ねてきた。

甲斐あって自信過剰とも思えないくらい、良好な仲を築いていた。

休日に二人で過ごす事も幾度か叶った程だ。



87 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:32:56 ID:V.2kCN2g [3/17]


「なんだか今日は落ち着かないみたいだね」

朝、通学路を歩きながら幼馴染が俺に言った。

「まあな、ちょっと…思い切ろうと思って」

「…女さんの事?」

「いいだろ、別に」

幼馴染は成績も素行も、性格さえもすこぶる良い奴だ。家も比較的裕福で、非をうつところは無いと言える。

俺はそんな彼女が、少し疎ましかった。

俺だってそんなに恵まれない人間ではないつもりだ。でも幼馴染と一緒に居るとどうしても自分で比較してしまう。

そんなちっぽけでくだらない自尊心が、幼馴染を好きになれない理由だった。

そして俺はその日、ついに女に想いを告げる。

勝算は充分にある、明日からの薔薇色の日々を脳裏に描いての告白だった。



88 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:33:37 ID:V.2kCN2g [4/17]


「ごめんなさい。貴方はいい人だけど、そういうつもりでは見られないの」

彼女は迷う様子すらなく、拒絶の言葉を返した。

目の前は真っ暗、足下が崩れ落ちるような衝撃。

俺は女の前では演じきれていないだろう平静を装い、部屋に戻っても帰り道での出来事さえ覚えていない始末。

翌日、俺の様子に気付いた幼馴染が「気を落とさないで」と労りの言葉を掛けても、返事をする気になれなかった。

幼馴染は当然のように異性に好かれている。何度も告白を受けてはそれを断り続けている事は知っていた。

そんな彼女に今の俺の気持ちなど解るはずが無い、そう思ったから。



89 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:34:09 ID:V.2kCN2g [5/17]


数ヶ月、失意の日々を過ごした後それでも俺には次の春が訪れる。

かねてより俺に歩み寄ろうとしてくれていた『後輩』だ。

彼女が俺に好意を持ってくれていたのは何となく解っていた。

でも俺には想い人がいたから、後輩に対して真っ直ぐに向き合う事はしてこなかった。

「男先輩、私の事を好きじゃなくてもいいです。嫌いじゃなかったら、私を彼女にして下さい」

その時の俺に、彼女を拒絶する理由は見当たらなかった。

失恋の傷を少しでも癒すためと言えば後輩に対してあまりに失礼だけど、実際のところその想いが無かったとは言えない。

こうして俺と後輩の交際は始まった。



90 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:34:39 ID:V.2kCN2g [6/17]


あれほどひどく傷ついたつもりだった失恋も、所詮は高校生の浅はかな恋心だ。

次第に傷は薄れていき、そしてやがて後輩の事を本心から愛しく想うようになった。

その頃から朝に幼馴染が俺を迎えに来る事は無くなる。

「最近、元気になったね」

「まあな」

教室では普通に会話するが、やはり彼女持ちとなれば近寄り難かったのだろう。

俺は、幼い頃から何でも思うように手にしてきた幼馴染を少し出し抜けたような優越感を覚えていた。

しかしそんな日々は突然に終わりを告げた。



91 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:35:09 ID:V.2kCN2g [7/17]


後輩の両親が転勤でヨーロッパに移住する事になったのだ。

卒業を控えたような歳であれば、彼女だけが日本に残る事も可能だったかもしれない。

でも後輩はまだ一年生だ、両親について行く他に選択肢は無かった。

「男先輩…向こうの高校を卒業したら必ず帰ってきます、その時まで待っててくれますか」

涙声で俺に告げる後輩。

でも俺は距離も時間も遠過ぎると思った。

遠距離恋愛など、そう続くものではない。

彼女が日本を発って独りになった俺は、再度訪れた失意の日々を過ごす事になる。



92 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:35:41 ID:V.2kCN2g [8/17]


嫌いあって別れたわけでない失恋というのは厄介なものだった。

新しい恋を探す事もできず、追いかける事もできない。

そしてまた、幼馴染が俺を迎えに来るようになった。

「元気出して、男…」

「…出ねえよ」

こんなにもぞんざいな態度ばかりとる俺に、なぜ幼馴染は構おうとするのだろう。

古くからの顔見知りだという事、誰よりも仲良く遊んでいた過去がそうさせるのだろうか。

本当は解っていた。

そこには密かな想いがあるのだという事。

でも俺は彼女の気持ちに応える気にはなれなかった。

相変わらずの身勝手な心のわだかまりと、今さら都合良くそんな関係になれるものかという変な拘りがあったから。



93 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:36:25 ID:V.2kCN2g [9/17]


そして俺は気を紛らわせるつもりで、かねてより興味のあった二輪に手を出す。

学校には内緒で免許を取得し、オンボロでもよく走るレプリカタイプのバイクを悪友から譲り受けた。

休日の昼間は峠を駆け回り、夜は高速道路で車間を縫って走る。

周りの迷惑を省みない、無謀な運転を繰り返した。

走っている間だけはツイていない境遇を忘れられる、そんな錯覚を感じていた。

馴染みの峠でも『アイツの走りはキレてる』と囁かれるほど速く、無謀な走行。

実際、死んでしまうならそれでもいい位に考えていた。

だから当然だったんだ。



94 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:37:04 ID:V.2kCN2g [10/17]


俺は事故をした。幸いにも相手はいなかった。

タイヤのグリップが限界を超え、滑り落ち投げ出された俺の身体が叩きつけられたのは、アウト側の擁壁。

次に目を覚ましたのは病院のベッドの上、丸一週間も昏睡していたらしかった。

一命はとりとめ、四肢を形として失う事も無かった。

ただ左の手足には軽い麻痺が残るだろうと、医者は言った。

こうして俺はロクなものでは無かったとはいえ、また心の拠り所を失ったんだ。

そして入院してひと月ほど経った今日、病室に幼馴染が見舞いに来た。



95 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:37:36 ID:V.2kCN2g [11/17]


「ザマ無えだろ?お前、バイク危ないからやめろって言ってくれたのにな」

「男…」

「笑えよ、マトモに左手も動かなくなっちまった」

「笑えないよ、そんな男を見て」

彼女は感覚も乏しい俺の左腕に触れて言う。

「大丈夫…私がついてる」

その一言が俺の心を抉った。

でもそれは今までの受け止め方とは違うものだった。

「なんで…お前、俺のところへ来るんだよ。俺は今までずっとお前を軽んじてきたのに」

情けなくも涙が溢れた。

ずっと意地を張ってきた幼馴染相手に、俺はついに弱い心を見せてしまった。

本当は意地を張る心こそが弱かったのかもしれないけれど。



96 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:38:18 ID:V.2kCN2g [12/17]


「幼馴染…俺についてちゃ駄目だ。お前まで不幸に巻き込んじまう」

「嫌だよ、私は男を見捨てたりしない」

幼馴染が俺を抱き締める。

「私、男が好き。ずっと好きだった」

あんなに冷たかった俺を、こんな身体になった俺を、それでも好いてくれる幼馴染。

俺は過去を悔いた。

つまらない自尊心に拘り彼女の想いに応えなかった自分を。

そして今、都合よくも彼女の気持ちを受け入れようとしている事を認めた。

涙を止められないまま、自由のきく右腕だけで彼女を抱き返す。



97 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:39:07 ID:V.2kCN2g [13/17]


そして俺は、今までで一番身勝手な言葉を吐いた。

「俺にはもう、お前しかいないんだ…」

彼女は小さく「うん」と答えた後、数秒して身体を離すと小さく溜息を落とした。

少しの間、二人の視線が泳ぐ。

「あ、スズメ…」

病室の窓枠に一羽のスズメがとまっている。

幼馴染はそれに左手を延べて、右手で自分の髪を一本ぷつりと抜きながら「おいで」と言った。

「…嘘だろ」

スズメが羽ばたき、彼女の手にとまる。

「昔、流行ったおまじないなの」

そう言いながら幼馴染は寂しそうに笑った。



98 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:39:37 ID:V.2kCN2g [14/17]


「髪を一本抜きながら願い事を声に出すと、叶うって。小学校の頃に女子の間で流行ったわ」

彼女は窓辺に歩むとスズメを放し、背を向けたまま外を眺めている。

「…消去法なんだね」

「え…?」

「俺にはもう私しかいないって、さっき言ったでしょう?」

「それは…」

言い訳はできなかった。でも自分の心は自分で解る。

こんなにも良くしてくれる幼馴染を、今の俺は心から愛しく想っている。

それなのに言葉はまだ薄汚い意地を張っていたのだ。

「…ごめん」



99 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:40:08 ID:V.2kCN2g [15/17]


「ずっと…ね、男にだけは本当の意味で振り向いて欲しかった」

「幼馴染…」

「でも、無理なんだね。消去法で私を選んだ貴方は、いつかまた違うモノを見つけてしまう」

くるりと俺の方に向き直った幼馴染の頬には、雫が伝っている。

「…その時、また男は私から離れてしまうんだね」

「そんな事ない」

こんな状態の俺を抱き締め、見捨てないと言ってくれた幼馴染。

だから俺はもう、絶対に離れるつもりなど無かった。

でも言葉にしなければ、それは伝わらない。

「幼馴染…俺は」

「男、お願い」

彼女がまた、ぷつりと髪を抜く。

「私のものになって」



100 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/11(金) 19:40:40 ID:V.2kCN2g [16/17]


当たり前だ、だって俺は今お前に告げようと思ったんだカラ。

「幼馴染…好きだ」

消去法じゃナク、心から好きだカラ、俺はズット幼馴染の傍にいるンダ。

「男、左腕が不自由でもいいの。私が貴方を守ってあげる。何も心配しなくていい」

「…うん」

良カッタ、最初カラコウスルベキダッタンダ。

「貴方は、私だけを見てくれたらいいんだからね」

ナンデモット早ク気付カナカッタンダロウ、馬鹿ダナア俺ハ。

「うん…幼馴染、大好き」

アア、幸セ。

ズット、幸セ。

ナノニ何デ、俺ハ泣イテイルンダロウ。


【おしまい】


140 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/12(土) 18:52:24 ID:1vXax0TU [2/8]

【貝殻の恋】

「もう、どのくらいですか」

「こっちは…そうだな、三年位かな」

少し冷たくて強い風が吹く砂浜に、二人分の足跡を刻みながら僕らは歩いた。

「そっちは?」

「もう四年目になりました」

足を水に浸すには季節が遅い。

砂の渇いたところを選んで少し蛇行しながら、ゆっくりと進んでゆく。



141 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/12(土) 18:52:55 ID:1vXax0TU [3/8]


「寂しいもんだよね」

「そうですね…。なにより段々と平気になってくるっていうのが、一番寂しいです」

「全くだな」

波の具合で出来たのだろうか、砂浜の質が少し変わった。

細かな砂というより、ちょっと砂利に近い粗い粒子が集まった場所。

ここなら腰をおろしても、服が砂まみれになる事は無さそうだ。

僕らは並んで、そこに座った。



142 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/12(土) 18:53:34 ID:1vXax0TU [4/8]


「最近でも連絡はあるの?」

「ごくごく、たまーに」

「それは余計、タチが悪いね」

「本当ですよ。…そっちは?」

「さっぱりだよ、もしかして幻だったのかと思うくらい」

数年前にはふた組のカップルとして、共に旅行をした事もある仲の四人だった。

今、一緒に歩くひとつ年下の彼女と僕の二人は、それぞれの相方の仕事の都合で取り残されてしまった言わば残り物同士。

「もういっそ、私達で幸せになっちゃいますか?」

「…悪くない話だな」

少し心臓が強く鳴った。

見れば彼女も落ち着かない様子で、右手の指で砂利を弄っている。



143 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/12(土) 18:54:12 ID:1vXax0TU [5/8]


座った周りの砂利浜に混じるたくさんの貝殻。

彼女はその中のひとつ、二枚貝の片割れを手に取り、ぎゅっと握った。

「今…私が手に取った貝殻、見ました?」

「ああ、なんとなく」

「じゃあ、その片割れ…探してみて下さい」

そんな無茶な。

砂の数ほどじゃなくても、同じ種類に見える貝殻だって無数にある。

たぶんそのひとつひとつが全部、微妙に違って合うわけがない。

僕はそう思いながらも、少し慎重に本気で同じくらいの大きさのものを探した。



144 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/12(土) 18:54:55 ID:1vXax0TU [6/8]


「あはは、がんばれー」

確かこのくらいの大きさだった、と思う。

「じゃあ、これ」

「はいはーい、では合わせてみまーす」

彼女は僕の手からそれを受け取ると「せーの」と呟きながら二つを合わせた。

「…違うね」

「はい、ちょっとずれてますね」

「残念」



145 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/12(土) 18:55:26 ID:1vXax0TU [7/8]


口にしてはいないけど、きっとこの行為には何らかの願掛けがあったに違いない。

でも、そう上手くいくはずが無いんだ。

だけど次に彼女が言った言葉は。

「じゃあ…私達、恋をしましょう」

ああ…そうか。

別々の貝の片割れずつでも、ぎこちなくとも、今この二つを選んだ事を運命だと考えるなら。

それは大きな問題じゃないのかもしれない。

「…随分と勝ちが見えた賭けだな」

「そりゃそうですよ、告白のつもりでしたから」


【おしまい】


ここからはSS深夜VIPのスレ「みんなで文才晒そうぜ」への投稿レス集です。

924 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/11/29(金) 10:47:35 ID:npRU7yXE

【お題:紅葉】

鮮やかに染まる山間の渓流。
紅に、黄色に、橙色に色づき鮮やかさを競う木立の群れの中、緑を残す常緑樹がまばらに混じってコントラストを強調している。

晩秋に葉が色づくのは、それまでの光合成で葉に溜め込んだ栄養素が変質するからだという。
葉を落とす前にその成分を取り込みやすい形にして枝に戻し、翌春に新芽が開く際の糧とするそうだ。
いわば今この景色を彩る木々の葉は、一年弱の役割を終えるために最期の命を燃やさんとしているのだろう。

花も葉も、散り際が美しいとはよく言われる事だ。
実を結ぶために花粉を受け、役割を終えて満開を過ぎる花もまた秋の葉に同じ。
それは葉一枚、花一輪にしてみれば等しく最期の輝きに他ならない。

ならば人間はどうだ。

新たな命という実を育むために花を咲かせる、その若者達の姿は確かに美しいだろう。
だが、葉を散らさんとする晩年に鮮やかに燃える事は難しい。

そして今、それを切なく想う私は既にその時期に近付いているのだ。

だから少しでも鮮やかに、似つかわしくなくとも華やかにありたい。

私はもう一枚、谷の風景をファインダーで切り取った後、車へと向かう。
息子には笑われたオープントップのクーペだが、孫は目を輝かせて褒めてくれた。

その助手席に座り、散り落ちる椛の葉を掴もうと手を延ばす老いた妻は、まだ近付く私に気付いていない。
ケースにしまいかけたカメラを再度構え、ファインダーに彼女を捉える。

私はその横顔を美しいと思った。



949 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/12/20(金) 09:48:07 ID:XDy1Oyf.

【お題:一週間】

既に戦の幕は切って落とされたのだ。

躊躇う事は許されない。戸惑っている暇も、再考する権利も与えられてはいない。
震える足に無理矢理でも力を吹き込んで、ただ前へ歩む。

自分の代わりなど幾らでもいる。歩みを止めれば追い越され、押され、倒れこんでも手を貸す者はいないだろう。

この孤独な行軍において共に歩みを止めてくれるのは、アスファルトの上に月明かりが描いた、自らの影くらいのものだ。

だが、いくらそう自分に言い聞かせて決めたはずの覚悟でも、思うほど強いものではない。

あがる火の手を潜り抜け、その背の重荷に水中へ没しそうになりながらも対岸に辿り着く。
その頃には最初の覚悟など、欠片でも残っていればいい方だ。

息を切らせつつ、それでも脇目をふる事など許されない。

例え目の端に捉えた大樹の木漏れ日が「少し休めよ」と甘く囁いた気がしても。
きっとその先にあるはずの金色の草原を脳裏に描いて、「まだいける」などと強い言葉を自らに唱える。

そしてようやく終わりを迎える、この行軍。

微かに鼻腔へと届く、懐かしい土の香り。
その大地を少し湿ったものとしているのは昨夜の雨か、忘れかけていた涙か。

柔らかな日の光に照らされて、やがてそのぬかるみは渇いてゆく。
戦いは終わった、今はただ傷を癒そう。


例えこの平和が仮初めのものであっても。


例え明日、再び出征の朝を迎えるとしても。



975 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2014/01/09(木) 10:37:55 ID:YRPmT62c [2/2]

【お題:1(イチ)】

明日、君と結ばれる。

別々の道を歩んできた僕らが、別々の個性の中に大いに通ずるところを見出して、惹かれあった。
その結果、別々の道はいつしか隣り合った二筋の線となり、三年の時を経てついにひとつに纏まるのだ。

でもこれからも僕らはあくまで別々の一個人であって、干渉すべきでない部分も存在して当たり前。
そこを誤れば僕らの道の纏まり方は『混ざる』のではなく、いつか離れてゆきかねない『交わる』に留まる事になる。

通うところがあるだけで、違う個性。
理解できるだけで、心の奥底ではきっと別のものであろう感性や価値観。
失くせば替えるものなど無い、互い。

そんなたくさんの二つずつが、一つ屋根の下で暮らし始める。
軋む事も、ずれを生じる事もあるだろう。

でもいつか同じ屋根の下、二つずつが三つずつ、四つずつになればいい。
そしてそれらが歪にも一つの、同じ幸せを育みあえたなら、それがいい。




50:以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/17(月) 19:04:29ID:FOzAegtk


【お題:麻薬】


いいか? 古臭いと、時代遅れだと罵るなら好きにするがいい。

ただしそいつはこれから三分間、まずは最初のナンバーだけでも、耳をつんざき腹わたをひっくり返すアンプの音圧に耐えてからにしてくれ。
それで伝わらないならそれまで、お前にゃ合わなかったってだけの話、好きに罵倒してくれて構わない。

例えば酒、例えば異性、例えば喧嘩、人の感情や精神を昂らせる要因は様々ある、それ位は理解できるだろう?

だけどコイツはちょっとレベルが違う。

お前に体験しろとは言わないし、決してお勧めもしない。何故ならコイツは違法だし取り返しのつかない行為だからだ。

でも常軌を逸したその感覚は、時に常軌を逸した旋律を生んでくれる。

これからお前が味わうのは、その力を借りた俺が可能な限りその力を具現化した音達。文字通り命を削って吹き込んだ、法を外れたメロディだ。


この前、僅か10歳だという少女が俺の元に駆け寄って『貴方の曲に勇気を貰った』って言いやがった。

薄汚れた俺が、精一杯に輝いたふりをして表現したナンバーが、濁りひとつない彼女に力を与えたなんて余りに出来の悪いジョークみたいだろ?


だけどその後、涙が止まらなかった。


決して褒められた物じゃない、ダーティな昂りを得て作った俺の魂の欠片達は、汚れてなんか無かったらしい。


いや、いいんだ、感傷的になっちまった。


だから三分間だけ時間をくれよ。
きっと最高の中毒性と暴力性を持ちながら決して身体は蝕む事の無い、世界最高のドラッグだと約束しよう。

近い将来、俺がオーバードーズでおっ死んだら、どうぞ笑ってくれ。
俺の遺すドラッグに心を蝕まれた奴らが、運び出される俺の棺が見えなくなるまでコールしてくれたら、それでいい。

時代遅れでも、俺はその言葉通りに生き、そして殉ずるんだよ。


さあ! イントロだ、コールを! 力の限りのコールを!


「SEX! Drug! Rock'nRoll!」

「SEX! Drug! Rock'nRoll!」

「SEX! Drug! Rock'nRoll!」



65:以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/22(土) 21:03:37ID:.nUhhiM6


【お題:消失】


「確かにあったのだよ、それは。……最初から、その姿を覆い隠す箱と共に」


上官は唐突とも思える切り口から、私の問いに答えた。


「箱……ですか」

「ああ、大層な装飾が施され、厳重な鍵がかけられた箱だ」

しかし続けて彼は言う。
その箱の中身である『それ』は、まだそこにあるのかどうかは判らないと。


「歴史の中で幾度となく争いが起き、そして終わった。箱の中身を求め、また護るための争いだった。……だが争いの終わりに『それ』が護られたのか奪われたのかは結局判らないのだよ」


どちらが奪う側なのか、護る側なのか。始まりがどこにあったのか。『それ』は誰が作ったのか、今でもどこかに存在するのか。


「その全てが、もう判らないのだ。……だが今、我々はここに在る」


そこまで聞いて、私はようやく多少の合点がいった気がした。

大事なのは箱の方なのだ。

その内に『それ』があるのかどうかを曖昧にする、その箱こそが我々の存在理由。


「もしかして『それ』は最初から……」


思わず想いが口をつきそうになる。
しかしその続きを声に出す事は自己否定にさえ繋がりかねない。

言葉を途切れさせた私に背を向けて、上官は静かに「征け」と呟いた。


「全軍に告ぐ! 国境を越え南進せよ! 今この時を以って我が国は宣戦を布告する!」


護るための戦いか、奪うための戦いなのか、知らないままに私は死地へ赴く。

例え既に箱の中身が失われていようとも。そう、最初から今まで『それ』を見た者などいないとしても。



90 名前:以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/01(土) 03:19:15


【お題:一撃必殺】


視界がひっくり返る、いや、自らひっくり返したのだ。

雲にも届こうかという高度で、魚の腹を思わせる機体の底面を太陽に向ける。そして操縦桿をぐいと引いた次の刹那、愚鈍に海原を横たわる醜い鉄の鯨の背が正面に見えた。

周囲で高射砲が炸裂している。しかし上着の裏に縫いつけた手作りのお護りがある以上、当たりはすまい。


あと少し、軌道を修正し固定できれば間違いない。

狙うは鯨の心臓部、そこへ通ずる排煙筒。
見る間に大きくなってゆく憎き米艦の輪郭に、己が命の刻限を知る。


父上、今も仏間の卓袱台の前で、口を一文字に結び座しておられるのでしょうか。どうか今、最期の時だけは幼き日のように『父ちゃん』と呼ばせて頂きとう御座います。

母上、貴女の作る牡丹餅が何より好きでありました。旅立つ日、それを皿いっぱいに盛りながら『めでたい、めでたい』と唱える貴女の目が濡れていた事、この愚息は気付いておりました。

姉上、庭の柿の木に登り、まだ熟れる前の実をかじった日が昨日のように思えるのです。料理の不得手な貴女の事、私は天からいつも心配しているとお心得下さい。


そして君よ、駅で別れし愛しき君。


どうか笑顔で送ってくれと、見えなくなるまで万歳をしてくれと頼んだはずだ。なのに思い出すのは涙化粧、行かないでくれと袖を握る君の姿ばかり。


嗚呼、二十年に満たぬ我が人生は、今この米艦を沈めて幕を閉じるのだ。


一撃必殺、必中轟沈。

あと僅か、ほんの軽く操縦桿を引──



147 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/03/15(土) 22:58:00 ID:px39WxlA [2/2]


【お題:頬擦り】


親が我が子に頬ずりをする。その温もりを、絆を確かめるように。

子がある程度の歳にもなれば、父親の頬ずりは「髭が痛い」だとか文句を言われる対象にさえなるが、それでも頬ずりをできる親子の関係は決して希薄なものではない筈だ。


血の繋がりはなくとも、愛すべき家族の一員たるペットに頬ずりをする事もあるだろう。

多くの種では人のそれとは違う、ふさふさとした毛に覆われた彼らの頬。

しかしそこで確かめられるのは、やはり互いの心の絆に違いない。


有機質か無機質かに関わらず、何か思い入れのある物に頬ずりをする事もあるかもしれない。

例えば丹精込めて作った野菜や、ずっと憧れ続けた楽器や車。

冷たく硬い感触の素材で出来ていようと頬を寄せてしまうのも頷ける。


若き恋人達が、結ばれて家族となったばかりの二人が、それぞれの居場所を確認するように頬を併せるのは、当たり前を過ぎて本能とも思える事だ。

長く連れ添った熟年の夫婦がそうしていても、微笑ましいばかりで何ら不自然さなど感じない。


頬に覚える感触や温度がどうであろうとも、その行為により心に伝い湧き上がるのは愛しさや喜びといった、優しい感情。

頬ずりとは、幸福や充足感を得るためにとる仕草である筈だ。


だから今、私の頬に触れているごつごつとした皺だらけの冷たい肌から届く感情も、悲しみでは無いと信じたい。



「ありがとう」



母が私にくれた、最後の言葉。

絞り出した掠れ声は、とてもそれを唱える唇が私の耳元にあるとは思えないほど小さく弱々しいものだった。


心拍の途絶を告げる機械音が部屋に響き、付き添っていた医師が母の手首に指を当てる。

私の目から零れ落ちた温かい雫が、互いの頬の隙間を濡らしてゆく。


「ありがとう、おふくろ、ありがとう」


幼な子が母を真似るように、私はただ彼女が遺した言葉を繰り返した。

冷たくてごつごつした感触の、優しい頬ずりと共に。



233:以下、名無しが深夜にお送りします 2014/04/16(水) 20:50:40ID:HH2IkReI


【お題:三分】


「今日は本当、楽しかった。思い出に残る日だね」


彼女は屈託の無い笑顔を見せてそう言った。

しかしその心の内には、本当に一点の曇りさえも無いのだろうか。


僕の転勤はもう来月に迫っている。

同期の仲間からは「栄転だな、憎いぜ」と肩を叩いて野次られたが、向かう先は県境をいくつも越えた土地。

車も持たない彼女にとっては、途方もなく遠いところに感じられるに違いない。

だからこそ今日という日を『思い出に残る』と、自分に言い聞かせたのではないだろうか。


「そろそろ帰らなきゃ、明日は月曜だよ」


時間は残り少ない。


今日一日のプランは、まずまず良かったらしい。

何度か通った店だけに、食事もいつもの気に入った味だった。

その店を出る前に化粧室で鏡を見た限り、髪型の乱れも気になる程ではなかったと思う。

ポケットの中なら、さっきから何度も確認した。

昨夜の内に言葉も決めた、用意したはずだ。


仕事も遊びも段取り七分とはよく言うが、そこまでは達している。


「大事な話、聞いてくれるか」

「なあに、改まって。良い話? それとも悪い話?」


僕は踏み出す。

今日をただの思い出の一日ではなく、二人の記念日にするために残された三分の道へ。

その先を彼女と手をとり、共に歩むために。



274 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/05/23(金) 01:14:43 ID:DPd21ZMQ



【お題:裏切り】



「糞ったれ、よりにもよってまあ……」


僕は日差しに焼ける楕円形の鉄タンクに、へこみができない程度に力を加減してげんこつを入れた。

こぁん、と響く音がいかにもその中身の少なさを物語っている。


とはいえこの鋼鉄の彼女が拗ねている理由は空腹では無いはずだ。

念のためハンドルを握りその身体を揺すってみると、ちゃぷんと液体が跳ねる音が聞こえた。


(いっそガス欠くらい単純な理由でへそを曲げてるなら、その方が楽なのに)


彼女の心臓に送られるガソリンの霧、その濃さがどうしても整わないのは長く解決しない持病というべき症状。

ガレージを出る前に短く調子を利く時はいつも機嫌が良いくせに、暫くその背に跨って駆けてみると決まって四千回転から上に達さなくなる。

そして挙句の果てには「ぶすん」と悪態をついて鼓動を止め、それからは毎度この有様だ。


しかし今日の不貞腐れようは、いつにも増してたちが悪い。

何しろこの場所は、いくら見渡しても茶色の大地にキャベツと思われる丸い緑が規則的に列ぶだけの畑、畑、田んぼの向こうにまた畑という片田舎。

普通なら三十分も歩けばある程度の得物を借りられるガソリンスタンドが目に入るものだが、こうも明らかに期待がもてない景色の中にあっては二百キロ台半ばの大女を押す気になどなれるはずがない。


「悪かったよ、あの若い娘は近所の買い物用に買った原付なんだ。僕は今までもこれからも……」


キックスターターにかけた足に力を籠めながら、僕は言い訳を並べたてる。


「君ひと筋だって!」


ささやくというより、声を荒げて告げた殺し文句。それと同時に繰り出す、渾身のひと蹴り。

しかし彼女は「まだ許さない」と嘲笑うかのように、めっき色に輝く排気筒からくぐもった不発音を漏らすだけだった。


411 :以下、名無しが深夜にお送りします:2015/03/07(土) 15:31:43 ID:aV6gFL0U



【お題:ビール】



我ながら馬鹿げた事に労力を使ったと思う。

耳が痛くなるほどに冷え切った空気の中、雪かき用の大きなスコップで新雪を集めては一輪車で運び、土手のように積み上げ重ねる。そんな作業を二時間もかけて作りあげたのが、大人ひとりが楽に入れる大きさのかまくらだ。寒かったのは最初だけで、作業を終える頃には上着だけでなくセーターまで脱いでいるほど懸命に働いた。

そして更に小一時間を費やし中に一通りのものを運び込んだ頃には時刻は夕方に近づき、白い厚化粧に埋もれた周囲の景色は青紫に染まっていた。ここは県内でも一番といっていい豪雪地帯、しかし私自身はこの地域の住人ではなく親戚の家を三日ばかり預かっているだけだ。

だからこそ目の前を覆う雪景色に、こんな子供じみた真似を堪えきれなくなった。しかしながらその努力の目的は子供に例えるには少々不純なものかもしれない。

暖をとるためを兼ねておこした七輪の炭が赤黒くちょうど良い火加減に落ち着いている事を確かめて、僕はそっと網の上に肉を置いた。最高級とは言い難いがそれなりに値の張った牛肉は程よく霜降りの模様を呈しており、ちりちりという音をたてながら少しずつ火に炙られてその身を縮めてゆく。裏返すのは一度だけ、そう心に言い聞かせながら待つ事およそ二分間。なんと長い事だろう、喉がごくりと鳴る。

重労働をこなした身体が求めているのは食べ物だけではない、むしろ渇きを潤す命の水こそを一番に欲している。それを知りながら自身で焦らしているのだ、もしかしたら私には虐げられて悦ぶ趣味があるかもしれない。

慎重に肉を裏返すと網の型が薄っすらと焦げ目に残る良い具合、反対の面は軽く炙る程度で良さそうだった。

座る傍らにこしらえたほぐしたままの柔らかい雪山に左手を突っ込み探ると、すぐ硬いものが指に触れた。半ば乱暴に抜き出したそれが纏う雪も拭わず、反対の手で栓を開ける。

もうここまでくると欲望は止まらない。

七輪の横に置いた小鉢から粗挽きの岩塩をつまみ乱雑に肉にかけると、その粒を零さないよう箸で巻く風にして網から上げる。まだぶつぶつとたぎる脂に二度息を吹きかけて、それでも熱いと知りながら口に放り込んだ。

熱い、美味い、甘みと旨みだけでできているかのような肉と、わずかに存在を示しつつ主役をひきたてるに徹する塩。そう大きくもない身からこんなに汁気が出るのか、熱さにきちんと閉じられない口から溢れてしまいそうだ。

しかしまだだ、私の身体は最も欲するものを得られていない。

噛む必要などほとんどない肉を喉の奥へ追いやる寸前、左手に持った缶に口づけ一気に呷る。脂の旨みに満たされていた口が、香ばしい麦の香りに洗われてゆく。熱さはが冷たさに塗り替えられてゆく。

ちくちくとした炭酸の刺激に喉が驚き、それでも喜びの音を鳴らしている。アルコールを含む飲料は水分の補給に向かない、一気飲みなどこの歳になってするものではない、そんな事は心からどうでもよかった。

ごくんと最後の一口まで飲み干して目尻を指で拭うと、私はただ幸せの溜息をついた。

さあ、二回戦だ。


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テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

  1. 2013/10/16(水) 13:49:57|
  2. その他
  3. | コメント:4

釣りとロマンスを求めて(原題/男「釣りロマンを求めて」幼馴染「仕方ないから付き合います」)

SSの性格的に、頂戴したレス等も含めて掲載しています。
現行時の雰囲気のままご覧下さい。
また、文中の赤色文字で表記された部分は参考画像等へのリンクボタンになっています。





1 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/09/07(土) 08:15:17 ID:Yr./98g. [1/3]


男「おはようございます」

幼馴染「まだ4時です。早朝とも言えますが、感覚的には夜です」

男「いいえ、もう朝です」

幼馴染「それで、何の用でしょうか」

男「俺は幼馴染が好きです」

幼馴染「まあ素敵」

男「だけど魚釣りも好きです」

幼馴染「同時に並べる事ではないと思います」

男「魚釣りが好きで、なかなか幼馴染と遊べません」

幼馴染「比率はそちらが上ですか」

男「でも幼馴染が好きで、なかなか釣りにも行けないのです」

幼馴染「なるほど」

男「そこで思いつきました」

幼馴染「察しがつきました」





2 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/09/07(土) 08:20:48 ID:Yr./98g. [2/3]


幼馴染「私は眠いです」

男「まだ何も言っていません」

幼馴染「もう一度、私に愛の告白でもすると少し目が覚めそうです」

男「もう一度と言われましても、過去にそんな事をした覚えがありません」

幼馴染「このSSの貴方の台詞の3言目を読み返してみて頂けませんか」

男「あれは僕の心情を説明したまでです」

幼馴染「告白ではないと」

男「断じて」

幼馴染「怒りで目が覚めてきました」





3 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/09/07(土) 08:35:53 ID:HnP0AXDc [1/8]


男「では、好きだから一緒に釣りに行きましょう」

幼馴染「すばらしく目的のはっきりした告白ですね」

男「もう時間が無いのです」

幼馴染「男は不治の病ですか」

男「朝マズメは貴重です」

幼馴染「釣り好きな人って、ある意味みんな不治の病ですね」





4 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/09/07(土) 08:43:24 ID:HnP0AXDc [2/8]


男「では早速、車に乗りましょう」

幼馴染「男、車持ってなかった気がします」

男「祖父宅の車庫に落ちていたのを、静かに持ち出してきました」

幼馴染「それは何か言っておかないと騒ぎになる気がします」

男「その場に俺の古い靴を片方転がしてきたので心配ありません」

幼馴染「深読みすると更に騒ぎが大きくなる可能性があります」

男「よくやるので大丈夫です」

幼馴染「よくやるなら何故ふつうに貸してくれと言わないのでしょう」

男「やつらはリース代を取ろうとします」

幼馴染「ほかほか家族ですね」





5 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/09/07(土) 08:49:39 ID:HnP0AXDc [3/8]


幼馴染「軽トラですね」

男「失礼な、ホンダアクティです」

幼馴染「アクティは軽トラです」

男「軽トラの横に乗るのは嫌ですか」

幼馴染「通常、女性を誘うに相応しい車種ではありません」

男「やはりメルセデスあたりにすべきだったでしょうか」

幼馴染「私はそれに魅力を感じません」

男「ならば軽トラで良かったのですね」

幼馴染「ただし私はスバル派です」

男「サンバーは生産終了しました」

幼馴染「まだ売っています」

男「あれはダイハツ製です」

幼馴染「動揺を隠し切れません」





6 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/09/07(土) 08:59:20 ID:HnP0AXDc [4/8]


男「釣具屋に着きました」

幼馴染「餌ですか」

男「まずは青イソメです」

幼馴染「おぅふ」

男「一応、マムシも買います」

幼馴染「触手ものですね」

男「食欲をそそられます」

幼馴染「貴方を見る目が変わりそうです」

男「次にユムシです」

幼馴染「これはモザイクが必要に思います。少なくとも私は頬に紅葉を散らします」

男「何に見えたか、このSSを読んで下さっている方に伝わるようにご説明下さい」

幼馴染「ggrks」

男「貴女のおかげでこのスレはレス無しになる事が確定的です」





7 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/09/07(土) 09:08:22 ID:Yr./98g. [3/3]


男「まずは砂浜です」

幼馴染「砂浜ですね」

男「では、投げ釣りを始めたいと思います」

幼馴染「てーい」

男「それはイカダ竿です。折れます」

幼馴染「では投げ竿を下さい」

男「こちらになります」

幼馴染「やだ…大きくて硬い…」

男「今は朝です」

幼馴染「てーい」

男「40mキャストというところでしょうか」

幼馴染「釣れますか」

男「朝マズメなら充分にチャンスはあります。言ってるそばからアタリました」

幼馴染「やだ…硬くて震えてる…」

男「引っ張らなくていいです」





8 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/09/07(土) 09:25:29 ID:HnP0AXDc [5/8]


幼馴染「何か釣れました」

男「ネズミゴチです。よくメゴチと呼ばれますが、全く違う魚です」

幼馴染「食べられますか」

男「小骨はありますが、大変美味です」

幼馴染「針を外します」

男「外しますと言う割にはこちらに出すのですね」

幼馴染「針外しを使っているのです」

男「その針外しは二足歩行ですか」





9 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/09/07(土) 10:21:42 ID:HnP0AXDc [6/8]


幼馴染「日が昇ってきました」

男「ここからは少し飛距離が必要になります」

幼馴染「手前ではだめですか」

男「釣れなくはないですが、遠くの深場が良くなります」

幼馴染「では、本気で。…てーい!」

男「70m近い飛距離が出ています。正直驚愕のレベルです」

幼馴染「アタッている気がします」

男「巻いてみて下さい」

幼馴染「可愛いのが釣れました」

男「ヒイラギです。先ほどのネズミゴチもそうですが、とてもぬるぬるします」

幼馴染「先っぽがですか」

男「今は朝です」





10 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/09/07(土) 10:32:04 ID:HnP0AXDc [7/8]


幼馴染「今度のアタリは大きいです」

男「これは…!幼馴染、この魚を釣り上げたら、その名にちなんだアクションを起こす必要があります!」

幼馴染「名にちなんだ?」

男「さあ、早く巻いていきましょう」

幼馴染「釣れました、これは何ですか」

男「キスです」

幼馴染「名前にちなみますか」

男「これはやむを得ません、受けて立ちます」

…ちゅっ

男「魚にするのではありません」

幼馴染「初キッスは生臭い香りでした。死にたいです」





11 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/09/07(土) 17:31:37 ID:ibx.06w. [1/2]


せめて焼くか揚げるかしてからだったら生臭さもなんとかなったのにな……





12 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/09/07(土) 19:52:57 ID:5ogS/xTU


時期的に房掛けぶっ込みでスズキを狙おう(提案)

もしくはメタジクでヒラメマゴチ

支援





13 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/09/07(土) 22:52:04 ID:HnP0AXDc [8/8]


1です。
スズキはぶっこみで狙った事無いのと、メタルジグも経験薄いんですわ。ごめんけど、ネタにできる程度にやった事ある釣りメインでイかせてねー





14 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/09/07(土) 23:35:06 ID:ibx.06w. [2/2]


サビキは初心者でも面白く釣れるよな





15 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/09/08(日) 00:29:30 ID:4JxLcZjw


乙っす
釣りに行きたいけど久しく行ってないな……





16 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/09/08(日) 00:51:57 ID:UAnES5Tk [1/4]


男「そろそろ日も高くなりサーフからの投げ釣りはアタリが落ちてきました」

幼馴染「さらに遠投すれば良いのではないですか?」

男「あながち間違いではありませんが、100m級のキャストとなると貴様のようなズブの素人が『やってみる』などと吠えていい技術ではありません」

幼馴染「私と釣りと、どちらがより貴方の心を掴んでいるかがよく判りました」

男「というわけで移動です」

幼馴染「軽トラは移動中に寝る事ができないのが辛いです」





17 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/09/08(日) 01:10:46 ID:UAnES5Tk [2/4]


男「それでは今度はテトラポッドの穴釣りをしてみましょう」

幼馴染「これは危険そうな釣りですね」

男「仰る通りです」

幼馴染「今日の私はショートパンツ履きという軽装ですが」

男「上半身にライフジャケットは必須ですが、下半身はむしろ長ズボンで布がつっ張るよりそういった服が向いていると個人的に思っています」

幼馴染「でも転倒時のダメージは大きそうです」

男「テトラから落下する事は死と同義とお考え下さい。ダメージの大小は関係なく、一撃死です」

幼馴染「なぜ私はこんな休日に死と隣り合わせの遊戯をさせられるのでしょうか」

男「正直、この釣りをしているとたまにふらついて冷や汗をかき、俺は何をしてるんだろう…と真顔になります」

幼馴染「やはり不治の病のようですね」





18 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/09/08(日) 01:21:34 ID:UAnES5Tk [3/4]


男「それでは幼馴染は防波堤とテトラの間を探って下さい」

幼馴染「防波堤の上なら安心ですね」

男「主な狙いはカサゴソイといった根魚です」

幼馴染「てーい」

男「穴釣りは投げません、落とすだけです。ブラクリ仕掛けを使います」

幼馴染「なんか引いてます」

男「すぐに巻いて引っこ抜きましょう」

幼馴染「巻けません」

男「根魚は違和感を感じるとテトラなどに張り付いて石化します。気を抜いてはいけません」

幼馴染「ステータス異常ですか」

男「残念ながら金色の針を使っていても、石化は解けません」





19 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/09/08(日) 01:31:27 ID:UAnES5Tk [4/4]


幼馴染「今度は釣れました」

男「カサゴです。関西ではガシラ、九州ではアラカブなどと呼ばれます」

幼馴染「とても不細工です」

男「しかし味は上品で旨味が強く一級品です。三枚目の役者のような魚ですね」

幼馴染「違うのが釣れました」

男「これは…!」

幼馴染「どうしたのでしょう」

男「これも名前にちなんだ行為をとる必要がある魚です」

幼馴染「その名は?」

男「アイナメです」

幼馴染「相舐めと言いたいのですか」

男「受けてたちます、さあ、さあ」

幼馴染「テトラに落とせば一撃死…」





20 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/09/08(日) 09:39:52 ID:OOT3fvKg








21 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/09/12(木) 11:53:43 ID:cJUTJYCw


名前にちなんだ行為でeye舐めとかマニアックすぎるだろと思ったが相舐めだった





22 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/09/13(金) 12:05:07 ID:QVaITulQ


>>21
むしろなぜeyeだと思ったんだwww





23 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/09/15(日) 16:46:52 ID:DLxO10YY [1/5]


男「はっ、あまりに長く防波堤で昼寝をしてしまった気がします」

幼馴染「それは相舐めのために防波堤に寝転がった事と、更新が滞っていた事のどちらを誤魔化しているのでしょうか」

男「では気を取り直して、今度はルアーを使ってみたいと思います」

幼馴染「疑似餌ですね」

男「というわけで、河口に程近い人工岸壁にやってきました」

幼馴染「ここは川ですか、海ですか」

男「河口の測点までを川と呼ぶなら海です。ただし海水に真水が多く混じる汽水域と呼ばれるところになります」

幼馴染「それによって何か違いがあるのでしょうか」

男「最も大きな違いはやはり生息する魚の種類です」

幼馴染「何が釣れるのでしょう」

男「ルアーで狙える代表格はスズキ、キビレチヌあたりです。餌釣りならハゼやキス、夜はアナゴなども対象となります」





24 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/09/15(日) 16:49:31 ID:DLxO10YY [2/5]


幼馴染「では早速スズキを狙います。あれは美味しい魚です」

男「ルアーで釣る場合リリースする方も多いのですが、俺の場合は基本持ち帰ります。多すぎる時はリリースもしますが、そんな事は滅多にありません」

幼馴染「てーい」

男「ナイスキャスト、ですが」

幼馴染「ですが?」

男「遠投で釣れないとは言い切れませんが、昼間はなかなか厳しいものがあります」

幼馴染「そんな事は先に言いやがれこのタコです」





25 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/09/15(日) 16:50:11 ID:DLxO10YY [3/5]


男「護岸の際には堤体を護るための捨て石が沈めてありますスズキは日中、その隙間や周りに着いている事が多いです」

幼馴染「てーい」

男「岸際にはもうちょっと慎重に投げて下さい」

幼馴染「引っかかりました」

男「だから言わんこっちゃないこのタコです」

幼馴染「切れました」

男「そのルアーが幾らするかご存知でしょうか」

幼馴染「身体で払います…」

男「それより新しいのを買って下さい」

幼馴染「てーい」





26 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/09/15(日) 17:43:21 ID:DLxO10YY [4/5]


幼馴染「際を狙って投げるのは難しいです」

男「無理もありません。これ以上のルアーロストも痛いので、貴女は沖にチヌ用のラバージグを投げて下さい」

幼馴染「こんな物で釣れるのでしょうか」

男「俺も最初そう思いましたが、意外と釣れるものです。思いきり投げてゆっくりゆっくり底を引きずってきます」

幼馴染「てーい」

男「気持ちいい位飛びます」

幼馴染「これは癖になりそうです。あん…気持ちいい…」

男「今は昼です」

幼馴染「あ、底の感触が…」

男「一瞬、アソコの感触に聞こえて心乱れました」





27 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/09/15(日) 18:52:10 ID:DLxO10YY [5/5]


幼馴染「てーい」

男「その調子で放射状に攻めてみて下さい。俺は岸際のスズキを狙います」

幼馴染「健闘を祈ります」

男「一番いいストラクチャーに一番いい魚が着いているものです。潮の向きがこうだから…ここだっ!電撃アワセ炸裂!」

幼馴染「相当竿が曲がっています、さすがです」

男「幼馴染、BGM!釣り番組ではヒットと同時にかかるものです!」

幼馴染「どういったものが良いのでしょうか」

男「洋楽ロックと相場は決まっています。早くしないとファイトが終わりそうです」

幼馴染「あああーーーあーっ」

男「なぜ『移民の歌』をチョイスしたのでしょうか」





28 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/09/15(日) 21:52:43 ID:U7DaHQU2


余裕で再生出来てしまう悲しさ……





29 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/09/16(月) 00:21:45 ID:HfczyLRc


吹いたわww





30 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/09/16(月) 10:11:09 ID:K5EsK2mE








31 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/09/18(水) 22:02:25 ID:pbACEOEo [1/2]


幼馴染「こちらも何やらアタっています」

男「チヌ用ラバジの釣りをする際は決してアタリに合わせてはいけません、向こう掛かりするまでゆっくり巻くのをキープです」

幼馴染「アタリが消えました」

男「よくある事です。幼馴染の邪念が伝わったものと思われます」

幼馴染「私には『邪』の『よ』の字もありませんが」

男「そのジョーク、ふりがな無しの文字だと解りにくいです」

幼馴染「ジョークのつもりではないのですがコノヤロー」





32 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/09/18(水) 22:03:38 ID:pbACEOEo [2/2]


幼馴染「ところで先からチヌ用ラバジと呼んでいますが、チヌ用でないラバジとは何でしょうか」

男「ラバジはラバージグといい、そもそもはブラックバス用のルアーです」

幼馴染「ほほう、何か違いがあるのですか」

男「ラバーが少なく短いものが多いのと、フックが遊動式である事が多いのが違いと言えば違いです」

幼馴染「それだけですか」

男「ほとんど同じです。しかしながら」

幼馴染「ながら?」

男「何かチヌ用ラバジの正しい呼び方(釣り方の名前?)があった気がするのですが、思い出せません」

幼馴染「博識な方のレスに期待しましょう」

男「お答え頂けた場合は、本日の幼馴染のパンツの色をお知らせします」

幼馴染「てーい」





33 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/09/18(水) 22:39:05 ID:Cs3K82rg


チヌボンボンと呼んでるわ……





34 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/09/18(水) 23:40:05 ID:YmMuRj7M








35 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/09/18(水) 23:45:41 ID:JRUX0A8M


よく知らないけど軽くググってみたらラバージグが正式名称で良さそうな感じだね
さあ男が正解を言ってるみたいだから何色かな?かな?





36 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/09/19(木) 11:28:08 ID:ih0bLfTQ [1/3]


男「そうそう、それが正式名称ってわけでは無いけど、連れ回りもチヌボンボンって言ってました」

幼馴染「スッキリしました、よかったです」

男「さて」

幼馴染「さて?」

男「パンツ」

幼馴染「……………みずいろ

男「だそうです」

…5分後

男(せっかくなので詳細に確認します)ジリジリ

幼馴染「てーい、てーい」

男「はっ!秘技ショートパンツずらし!」
幼馴染「て」

男「確かに水色で両脇から脚の付け根周りのみレースの大人っぽいパンツでした」
… … …
幼馴染「男ー、撒き餌ごっこ楽しいー?」

男「………」(海面漂い中)





37 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/09/19(木) 12:47:17 ID:ih0bLfTQ [2/3]


男「夕方になってきました」

幼馴染「海の夕焼けは素晴らしいです」

男「そろそろ戻らないと帰宅が遅くなります」

幼馴染「えっ」

男「えっ」

幼馴染「夕方や夜はよく釣れると聞いた事があります」

男「その通りですが、貴女がそんなに釣果にこだわるとは意外です」

幼馴染「失礼な、心外です」

男「意外と言えば、貴女のパンツが妙に大人っぽいのも意外でした」

幼馴染「夜釣りになるかもしれませんので」

男「えっ」

幼馴染「えっ」





38 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/09/19(木) 12:47:48 ID:ih0bLfTQ [3/3]


男「夜釣りにパンツとの関係があるのでしょうか」

幼馴染「帰らない可能性があるかと」

男「えっ」

幼馴染「えっ」

男「それは朝まで釣り続ける覚悟という事でしょうか」

幼馴染「そうとって頂いても構いませんが、少し不本意です」

男「では本意は」

幼馴染「お泊りの可能性が微レ存」

男「………」

幼馴染「『えっ』って言わないんですか」

男「さすがにここでふざけるのは男らしくないかと」

幼馴染「男のそういうところ、好きです」

男「とととととりあえず釣り続行です」

幼馴染「一気に挙動不審になりました、可愛いです」





39 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/09/20(金) 00:19:30 ID:34G6DmrU








40 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/09/26(木) 12:26:36 ID:ZlMcGfNM


保守





41 名前: ◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2013/09/27(金) 12:47:39 ID:lNrpVbmg [1/3]


保守感謝。これは書かねば。





42 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/09/27(金) 12:48:24 ID:lNrpVbmg [2/3]


男「夜の漁港でメバルを狙います」

幼馴染「メバルは魚屋さんでも高いですねー」

男「好調な釣果が得られれば、エサ代や交通費を考えても元がとれる釣りです」

幼馴染「どうやって釣るのでしょう」

男「今日はエビ撒きで釣ってみたいと思います。使うのはブツエビです」

幼馴染「そんなの釣具屋で買ってたっけ…」

男「しゃらっぷ」

幼馴染「水槽で飼いたいくらい可愛いエビです」

男「これを数匹手にとって、撒いて下さい」

幼馴染「てーい」

男「ブツエビはどちらかというと底へ潜っていきます。水面付近を横移動するシラサエビと使い分けましょう」

幼馴染「元気で食べられて来いよー!」





43 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/09/27(金) 12:49:04 ID:lNrpVbmg [3/3]


男「と、すかさず電気ウキ仕掛けを投入します」

幼馴染「てーい」

男「同じエビを二匹腹あわせに針がけするのが俺のスタイルです」

幼馴染「電気ウキ見てるとなかなか和みます」

男「全くです。でもトップが水面下に沈んで赤い光がぼやけるのを見る瞬間は息を飲みます」

幼馴染「おお!この瞬間ですね!」

男「大きく沈んで静止したところでアワセましょう」

幼馴染「てーい!…釣れました!結構大きいです!」

男「いいサイズです。秋は晩秋から冬の交尾時期に備えて大きめな型も岸に寄りやすい時期です」

幼馴染「………」

男「………シマッタ」

幼馴染「何に備えて岸に寄ると言いましたか」

男「俺は今、必死に夕方の心の乱れを克服しようとしています。察して下さい」

幼馴染「………交尾」ボソッ

男「ややややややめて下さい」





44 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/09/29(日) 21:40:56 ID:afjywOB6


男「…さて、帰るなら本当に今が最後という位の時間です」

幼馴染「帰るんですか」

男「…夜通し釣るには、今朝が早過ぎて辛いものがあると思います」

幼馴染「そうですね」

男「幼馴染」

幼馴染「はい」

男「さっきからふざけてますが」

幼馴染「はい」

男「本当に今日、帰さなくてもいいですか」

幼馴染「それは訊く事ではありません。どちらかというと、男が決めて宣言するのが望ましいと思います」

男「幼馴染…今夜は帰さない」

幼馴染「………」

男「…と言ってもいいですか」

幼馴染「てーい」





45 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/09/29(日) 22:01:46 ID:6usoRHFU


てーい可愛いわwww





46 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/09/29(日) 22:16:32 ID:Aq1wCDfg


続けて





47 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/09/30(月) 19:21:47 ID:WNvlfiU. [1/2]


幼馴染「家に電話します」

男「めっちゃ緊張します」

幼馴染「男が緊張してどうするのでしょう」

男「横で聞いてるのが怖いです」

幼馴染「………あ、もしもし母でしょうか」

幼馴染「今日は夜釣り続行で帰れそうにありません。…え?…はい、えーと…」

幼馴染「そんなに釣れてるのか…と訊いています」ボソボソ

男「釣れてます、釣れまくりやがってます」ボソボソ

幼馴染「あー、はい、釣れてます。とてもやめられません…え?…あー」

幼馴染「何が釣れてるのかと訊いています」ボソボソ

男「マアナゴだと言って下さい」ボソボソ

幼馴染「(よく聞き取れなかった…)…えーと、マグロだそうです」

男「てーい!」





48 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/09/30(月) 19:22:32 ID:WNvlfiU. [2/2]


幼馴染「え?…はいそうです、…えーと…」

幼馴染「どこらへんの海にいるんだと訊いています」ボソボソ

男「湾内だと言って下さい」ボソボソ

幼馴染「…One nightカーニバルだそうです」

男「てーーーーい!!!」

幼馴染「はい…はい…わかりました、では」

男「…何と言ってましたか」

幼馴染「めで鯛を釣って来い、健闘を祈る…との事でした」

男「それ、外泊バレてると思います」





49 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/09/30(月) 19:37:49 ID:1FYEGK9k


北井





50 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2013/10/04(金) 06:17:43 ID:h3wPfZ0.


保守





51 名前: ◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2013/10/04(金) 12:31:01 ID:1CQ4pasg [1/3]


毎度保守感謝
ひとつSS終わったから、こっちがんばる





52 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/04(金) 12:31:39 ID:1CQ4pasg [2/3]


男「宿泊先を探します」

幼馴染「海沿いなのでホテルくらいありそうです」

男「どういうジャンルの?」

幼馴染「…予約なしで入れる感じの」

男「よかったです。リゾートホテル系をイメージされてたらコンビニATMに走るところです」

幼馴染「それっぽいネオンがあります」

男「軽トラで突入します」

幼馴染「椅子が倒せません、恥ずかしいです」

男「郊外のホテルは安くて助かります」

幼馴染「街中のを使った事が?」

男「………」ダラダラ

幼馴染「使った事が?」

男「………」ダラダラ





53 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/04(金) 12:39:53 ID:1CQ4pasg [3/3]


幼馴染「男に女性経験があるとは聞いていません」

男「身に覚えがありません」

幼馴染「これは重大な裏切りです」

男「無実です、黙秘権を使用します」

幼馴染「無実なら黙秘権を翳す必要はないと思います」

男「俺は潔白です」

幼馴染「男は童貞ですか」

男「神に誓って」

幼馴染「………デリヘル?」

男「………」ダラダラダラ





54 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/04(金) 20:58:34 ID:0qa4dxkI [1/2]


男「部屋に入りました」

幼馴染「まだ話は終わってません」

男「わー、ラブホなんてはじめてー」

幼馴染「白々しい事この上ありません。それで、デリヘルはどうだったのでしょうか」

男「デリシャス&ヘルシー?」

幼馴染「往生際が悪いです」

男「…60分18,000円部屋代込み」

幼馴染「費用的な事ではありません。あんな事やこんな事をしたんですか」

男「していません」

幼馴染「意味がわかりません」

男「トラウマになっています」





55 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/04(金) 20:59:08 ID:0qa4dxkI [2/2]


幼馴染「よほどのハズレを引きましたか」

男「嬢の名誉のためにも言いますが、決してハズレではありません。むしろイカしたチャンネーのボンキュボンでした」

幼馴染「それで何も無いはずがありません」

男「まず嬢が脱ぎました」

幼馴染「ほう」

男「それを見ました。もうガン見しました」

幼馴染「ほう」

男「果てました」

幼馴染「………」

男「ゴミを見るような目はやめて下さい」





56 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/05(土) 08:37:24 ID:48maPqrs [1/8]


幼馴染「しかしそれで60分かかるわけありません」

男「10分程落ち込み、嬢に慰められました」

幼馴染「ほう」

男「気を取り直して俺も脱ぎました」

幼馴染「ほう」

男「嬢が握りました」

幼馴染「何を?」

男「ナニを」

幼馴染「ほう」

男「果てました」

幼馴染「………」

男「憐れむような目もやめて下さい」





57 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/05(土) 08:38:15 ID:48maPqrs [2/8]


幼馴染「しかしまだ60分は経たない気がします」

男「今度は20分ばかり落ち込みました。嬢に慰められました」

幼馴染「ほう」

男「気を取り直そうとしました」

幼馴染「ほう」

男「気を取り直しませんでした」

幼馴染「何が?」

男「ナニが」

幼馴染「…もう、許すよ…」

男「目を逸らして言わないで下さい、死にたくなります」





58 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/05(土) 08:57:31 ID:FkuwmY4k


ワロタ





59 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/05(土) 12:28:51 ID:48maPqrs [3/8]


幼馴染「さて、改めて」

男「改めて」

幼馴染「ホテルに入ってしまいました」

男「連れ込んでしまいました」

幼馴染「相変わらずのふざけた口調ですが」

男「そうですね」

幼馴染「緊張と不安と期待ゆえと思って頂けたらと存じます」

男「お察しします」

幼馴染「………」

男「幼馴染」

幼馴染「はい」

男「愛しています」

幼馴染「てーい!てーい!てーい!」

男「痛いです。照れ隠しはやめて下さい」

幼馴染「…不束者ですが、よろしくお願いします」





60 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/05(土) 12:29:57 ID:48maPqrs [4/8]


只今このSSには不適切な行為が為されているため、釣り映像をご覧下さい。

…チャラララーン、ジャーン!

「デハ、キョウハリザーバーデノバスフィッシング。アキノパターンヲ、サグッテイキタイトオモイマス」

「モブプロ、キョウハヨロシクオネガイシマース」

「ハイ、ヨロシクオネガイシマス。モブコチャンハ、リザーバーノバスフィッシングノケイケンハドウナノカナ?」

「ワタシ、ジモトガイケハラダムニチカインデスヨー!デモオオキイノツッタコトナインデスー!」

「ジャアキョウハ、アキニランカーサイズヲネラウタメノ、ミッツノポイントヲオサエテイキタイトオモイマス」

「ヨーシ、ガンバルゾー!」

お待たせいたしました、引き続きSSをお楽しみ下さい。





61 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/05(土) 12:30:39 ID:48maPqrs [5/8]


男「ありがとうございました」ツヤツヤ

幼馴染「ありがとうございました」ツヤツヤ

男「幼馴染がマグロではなかったので安心しました」

幼馴染「そんな心配をしていたとは、心外です」

男「釣りたてのマメアジくらいピチピチでした」

幼馴染「安い魚に例えないで下さい」





62 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/05(土) 12:48:01 ID:48maPqrs [6/8]


男「さて明日の釣りに備えて寝ようと思います」

幼馴染「朝が早かったのと行為の後の気だるさでとても眠いです」

男「今日はとても楽しかったです」

幼馴染「私も存外楽しかったです」

男「思わぬ大物が釣れました」

幼馴染「スズキですか」

男「…解ってるくせに」

幼馴染「解っていても聞きたいものです」





63 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/05(土) 12:48:34 ID:48maPqrs [7/8]


男「ぐーぐー」

幼馴染「すやすや」

男「…フィッシュオーン!」

幼馴染「………!?」

男「ぐーぐー」

幼馴染「…何がヒットしたのでしょう」

男「…フィッシュオフ!」

幼馴染「バラしやがりました」

男「ぐーぐー」

幼馴染「………」

男「…今度はあっちに投げて下さい…ぐーぐー」

幼馴染「てーい」チュッ





64 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/05(土) 12:49:11 ID:48maPqrs [8/8]


男「おはようございます」

幼馴染「おはようございます」

男「もう8時を回っています」

幼馴染「朝マズメを逃してしまいました」

男「俺は釣りが好きです」

幼馴染「知っています」

男「でも幼馴染も好きです」

幼馴染「まあ素敵」

男「だからいいです」

幼馴染「ちょっと感動しました」

男「でも9時には退室しなければなりません」

幼馴染「では支度を、…あーっ!」

男「また移民の歌ですか」

幼馴染「そういえば今日は幼友と遊ぶ約束をしていました」





65 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/05(土) 17:01:49 ID:VsWVS5A2


幼馴染かわいすぎ





66 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/05(土) 18:23:11 ID:3FTa0oo2 [1/2]


男「幼友ちゃんというとあのロリ巨乳ですか」

幼馴染「ちなみにその方法で私を表現するとどうなるのでしょうか」

男「貧乳美少女でしょうか」

幼馴染「落として持ち上げてギリセーフですが、一応ハタチなので少女では無いように思います」

男「あえてロリ貧乳とは言わなかったのですが」

幼馴染「本音が見えました」

男「どんな約束だったのですか」

幼馴染「プランは特に決めていませんが、駅前で十時という話になっています」

男「それなら名案があります」

幼馴染「七割がた察せられます」





67 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/05(土) 18:47:33 ID:3FTa0oo2 [2/2]


幼友「おはようございます」

幼馴染「おはようございます」

男「おはよおっぱい」

幼友「男さんが一緒とは聞いてたけど、軽トラですね…」

幼馴染「どうやって乗るのでしょう」

男「聞きかじっただけですが、トラック等の荷台に不安定な荷物を積む際にそれを支えるための人員が荷台に同乗する事は特例的に認められるそうです」

幼馴染「そういう決まりがあるのかもしれませんが明らかに誇大解釈して利用しようとしています」

幼友「そもそも不安定な荷物が無いみたいです」

男「そんな時の秘密兵器があります」

幼馴染「ブルーシートでしょう」

男「………」ダラダラ

幼馴染「幼友、免許は」

幼友「一応、MT可能です」

幼馴染「誰が荷台行きかは決まりました」





68 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/05(土) 18:52:16 ID:c6rIlBTY


仕方ないな、俺が荷台に乗ろう





69 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/05(土) 21:38:17 ID:/EuQd8Co


そう言って>>68がブルーシートをめくると、既に何十人もの先客が居た…





70 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/05(土) 22:56:26 ID:1t0eeSu2


男「じゃあちょっと荷台を整理します」

幼馴染「あらゆる釣り道具がひしめいていますね」

幼友「手伝っちゃいます、よいしょ」

幼馴染「とりあえずクーラーボックスが一番場所をとっています」

幼友「お…重い…動かない…」

男「魚も氷も入ってるから、無理をしないで下さい」

幼友「…どうして朝イチから魚が入ってるんですか?」

男「幼馴染的には、何と答えるのが望ましいですか?」

幼馴染「………」プイッ

幼友「…ははーん」ニヤニヤ





71 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/06(日) 14:29:05 ID:lPczoFuI


おつ いいな

しかし、がらくた処分場…見つからないな…





72 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/06(日) 15:53:20 ID:SPG.SzhY


>>71
そのままググれば出てくるはずだが





73 名前: ◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2013/10/06(日) 16:06:15 ID:mZrVU1jU


>>71
本当のガラクタの処分場のサイトとか出てくるから、わかりにくくてごめん
過去作のタイトルと一緒にググッてくれたら確実だと思う





74 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/07(月) 20:58:54 ID:eTASBTvA


支援





75 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/08(火) 09:43:35 ID:.fmyy7Qg [1/7]


男「ではブルーシートに包まります」

幼馴染「現場検証時の仏さんのようです」

男「シートをめくる前に手を合わせないで下さい」

幼友「さて、では出発しまーす」

幼馴染「安全運転でお願いします」

男「特に段差はゆっくり越えて下さい。この軽トラは荷台にゴムマットが無いのでダメージ半端ないです」

幼友「今のはダチョウ倶楽部的に捉えていいんですか?」

幼馴染「飛ばすなよ!絶対に飛ばすなよ!」

男「やめて下さい、死んでしまいます」





76 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/08(火) 10:51:34 ID:njj82q3U


どうぞどうぞどうぞ





77 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/08(火) 11:48:13 ID:.fmyy7Qg [2/7]


幼友「男さん指定の港につきましたよー」

幼馴染「ここで釣るのでしょうか」

男「いいえ、船を出します」

幼友「男さん船持ってるんですか!?格好いい!」

幼馴染「パターン的にお祖父さんの船と考えて間違いないかと」

男「余計な事を…」

幼馴染「どの船でしょうか」

男「あれです」

幼友「うわ!本当に格好いい!」

幼馴染「立派な船です、船室も備えられています」

男「それは隣のUFです。その向こうの18ft船です」

幼馴染&幼友「………えー」

男「あからさまに残念な顔をするのはやめて下さい」





78 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/08(火) 12:10:26 ID:.fmyy7Qg [3/7]


男「ではライフジャケットを着て貰います」

幼友「うんしょ…男さん、胸のとこまでファスナーが上がりません」

男「なんて素敵な…では肩部分のベルトを伸ばして下にずらして下さい」

幼友「ファスナーは上がったけど、なんだかアンミラの制服みたいになっちゃいました」

男「素晴らしい、ナイス強調」

幼馴染「………」

男「幼馴染は入りましたか」

幼馴染「…ぶかぶかなので後ろのベルトを締めて下さい」

男「ふっ…」

幼馴染「殺す」





79 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/08(火) 12:21:52 ID:.fmyy7Qg [4/7]


男「では出港」

幼馴染「海風が気持ちいいです」

幼友「船が小さいから揺れるー」ポヨンポヨン

男「いい感じに揺れています」

幼馴染「どこを見ながら言っているのでしょう」

男「二人とも、船酔いは心配ないですか?」

幼馴染「私は乗り物には強いです」

幼友「酔っちゃったら、撒き餌します」

男「その時には胸をさすってあげます」

幼馴染「さするのは背中です」





80 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/08(火) 12:29:20 ID:.fmyy7Qg [5/7]


男「ポイントに着きました。エンジンを切って船を流します」

幼友「漂流してるー!」

幼馴染「ウィールソーン!」

男「キャストアウェイを観た人にしか解らないネタはやめて下さい」

幼馴染「なぜ漂流させるのですか」

男「これからマダイを釣ります。鯛ラバーと呼ばれる釣りで、船を潮に乗せて流しながら広範囲を探っていくのがセオリーです」

幼馴染「ちょっとチヌボンボンに似ています」

男「今日は70gヘッドの物を使います。底まで落としたらすかさず巻き上げて下さい」

幼馴染「てーい」

幼友「とーう」





81 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/08(火) 12:36:09 ID:.fmyy7Qg [6/7]


幼友「糸がカラフルですねー」

男「一色が10mになっています。底から15mくらいまで巻き上げたら、また沈めるというのを繰り返して下さい」

幼友「底に引っかかりました…」

男「この釣りにはつきものです」

幼友「あーあ、切れちゃった…ごめんなさい」

幼馴染「そのルアーが幾らするかご存知でしょうか」

男「幼馴染も知らないと思いますが」

幼友「身体で払います…」

男「喜んで」

幼馴染「私の時と反応が違う気がします」





82 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/08(火) 12:43:40 ID:.fmyy7Qg [7/7]


男「冗談はさておき、この鯛ラバーは自作なので値段は気にしなくて構いません。海に落し物をするのは気がひけますが」

幼馴染「自作で釣れるのでしょうか」

男「失礼な、実釣テストは重ねています」

幼友「結構キレイに出来てますねー、塗装もラメ入りで」

男「百均のマニキュアを使用しています」

幼馴染「それでこの間、買い込んでいたのですね」

男「作るとなったら色んなカラーバリエーションが欲しいものです」

幼馴染「男には口を出してはいけない趣味があるのかと思っていました」





83 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/08(火) 13:13:06 ID:X3fNOu1g


支援





84 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/08(火) 14:42:57 ID:n0SZOBbs


このSSと口を出してはいけない趣味
どっちへの支援なんだろ?





85 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/08(火) 14:49:42 ID:Imonh/N. [1/5]


男「おっと、my竿がアタりました。チヌボンボンと同じで決してアワセず向こう掛かりを待ちます」

幼馴染「緊張の瞬間ですね」

男「まだ…まだ………ノッた!」

幼馴染「幼友、BGM!釣り番組ではヒットと同時にかかるものです!」

幼友「どういったものが良いのかな?」

幼馴染「洋楽ロックと相場は決まっています」

幼友「ジャンゴゥ!ジャーンッジャジャーララーラーラー」

男「ノリはいいですが、海の上でWelcome to the jungleもどうかと思います」





86 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/08(火) 14:57:22 ID:Imonh/N. [2/5]


幼友「こっちもなんかアタッてる?」

幼馴染「アワセてはいけないそうです」

幼友「っていうか、もうグイグイ引いてるんですが」

男「たぶんその感じだとマダイでは無さそうです。ちょっと俺は大事にファイトしてるので、がんばって下さい」

幼友「でも男さんの竿ほど曲がってないです」

幼馴染「もう見えてきました。白っぽいです」

男「こっちのはデカイです、申し訳ないですが本当に余裕がありません」

幼友「釣れたー」

幼馴染「白銀色です」

男「それならたぶんグチじゃないかと思います。しばらく待ってて鳴いたら間違いありません」

幼馴染「………」

幼友「………」

魚「ぐぅ」

幼馴染&幼友「グチだーーー!」





87 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/08(火) 15:04:54 ID:Imonh/N. [3/5]


男「腕がだるい…やっと見えてきました」

幼友「ピンク色に見えますねー」

男「良型のマダイとみて間違い無さそうです」

幼馴染「本当にめで鯛を釣りやがりました」

男「65cmくらいはありそうです」

幼馴染「これはマダイではありません、顔が違います」

男「オスのマダイは大きくなるとオデコにコブができるのです」

幼友「おおー、観念して横になったよ」

男「幼馴染、タモをお願いします」

幼馴染「明日来てくれるかな!?」

男「そんな小ネタ要らないです」

幼馴染「空耳ー」

幼友「アーワーーー」

男「頼むから早くして下さい」





88 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/08(火) 16:05:03 ID:Ttr07xGY


>幼馴染「………」

>幼友「………」

>魚「ぐぅ」

>幼馴染&幼友「グチだーーー!」


かわいい





89 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/08(火) 18:08:10 ID:Imonh/N. [4/5]


幼友「立派なマダイですねー」

男「感無量です」

幼馴染「今度は私の方にアタリがきています」

男「もうノッているようです、巻いていきましょう」

幼馴染「そんなに引きが強くはないです」

男「マダイでは無さそうです。またグチでしょうか」

幼友「ぐぅ」

幼馴染「引きが無くなりました。でも重いです」

男「あー、たぶん…」

幼友「見えてきたよ、赤っぽいね」

男「うん、やっぱりカサゴです」

幼馴染「釣れました。カサゴは昨日のテトラでも釣りましたね…って、なんじゃこりゃああああ!?」

幼友「目が出てる!口からもなんか出てる!」

男「根魚は急な水圧変化に適応できないので、深いところから引きずりだすとエグい事になります」

幼馴染「ひええぇぇぇぇ…」





90 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/08(火) 19:27:10 ID:Imonh/N. [5/5]


幼友「ところで」

幼馴染「ところで?」

幼友「カサゴは昨日も釣ったらしいね?」

幼馴染「はい、確かに。こんなに大きくはありませんでしたが」

幼友「じゃあ、昨日は夜通し釣りをしたのかな?」ニヤニヤ

幼馴染「うっ」

幼友「それにしては眠そうじゃないね?」ニヤニヤ

幼馴染「………」プイッ

幼友「そーかそーか、幼馴染ちゃんも大人の階段昇ったんだねー」ニヤニヤ

男「失礼な、幼馴染の身体はまだ子供…」
幼馴染「てーい!」





91 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/08(火) 20:01:26 ID:Wa.OGDVs


思えば昨日釣った魚もクーラーボックスに入れたまま放置してるのか……





92 名前: ◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2013/10/08(火) 20:20:17 ID:yAZTxfmU [1/5]


スズキなんか身体が曲がったまま冷え冷えのガチガチですわ





93 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/08(火) 20:29:11 ID:yAZTxfmU [2/5]


男「さて、昼も過ぎてポイントを移動しました」

幼馴染「ずいぶん島や岩場でせせこましい海峡です」

男「俺は操船に集中してるので、二人はサビキ仕掛けを投げてシャクりながら巻いてきて下さい」

幼馴染「サビキというと港の岸壁でファミリーが楽しんでいるイメージなのですが」

男「その場合はアミエビコマセカゴに入れて魚を寄せますが、こういった海流の潮目になったところでは寄せなくても魚がいたりします」

幼馴染「どんな魚が?」

男「小さいですがアジやサバサッパなどです。潮目を狙って投げてみて下さい」

幼馴染「てーい」

幼友「とーう」

幼馴染「しゃくる…こうでしょうか」

幼友「とーう、とーう」ポヨンポヨン

男「いい感じに揺れてます、もといしゃくれています」

幼馴染「てーい、てーい」

男「………」

幼馴染「何か言え」





94 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage sage] 投稿日:2013/10/08(火) 21:44:52 ID:HGltizgU


すごく好き





95 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/08(火) 23:06:41 ID:yAZTxfmU [3/5]


幼馴染「おお、ぞろぞろ釣れます」

幼友「小さいけど気持ちいいねー」

男「どれも焼いてタマネギスライスをのせ、三杯酢をかけると良い酒のアテになります」

幼馴染「これは楽しいです。小さな魚だから針を外すのも怖くありません」

幼友「虫エサもつけなくていいし、ファミリーがサビキ釣りをするわけだぁ」

男「しかし針がたくさんついているので、手を刺さないように気をつけて下さい」

幼友「この針についたヒラヒラに食いついてるんですねー」

幼馴染「これはナイロンでしょうか」

男「サビキの種類も色々ありますが、今使っているのはピンクスキンです」

幼馴染「それは昨夜…」ポッ

男「貴女は何か勘違いをしています。食い渋ってきたらハゲ皮に変えます」

幼友「毛が無いからといって皮まで毟るなんて、あんまりです…」

男「貴女も何か勘違いをしています」





96 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/08(火) 23:29:19 ID:yAZTxfmU [4/5]


男「今度は比較的浅いところで虫エサを使った五目釣りをしたいと思います」

幼友「うへぇ…虫エサかぁ」

男「使うのは青イソメです。可愛いですね」

幼馴染「今後、貴方に可愛いと言われても素直に喜べなくなりました」

男「では胴突き仕掛けで探っていきましょう」

幼友「早速釣れたー!なんか派手ですよ」

男「キュウセンです。地方によっては臭みが強かったりするそうですが、ここらへんのは美味しいです」

幼馴染「こっちも釣れました」

男「カワハギです」

幼友「カワハギってやっぱり皮が剥げるんですか?」

男「色んな手順の方法がありますが、俺はおちょぼ口を切り落としてそこから一気に剥ぎます」

幼馴染「口を切り落とすんですか…」

男「しかも剥ぐ時、だいたい皮にくっついて目が取れます」

幼馴染&幼友「ひいいぃぃぃ…」


97 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/08(火) 23:30:30 ID:yAZTxfmU [5/5]





幼馴染「また何か釣れました。なんだか可愛いです」

男「幼馴染!触るな!」

幼馴染「…びっくりしました」

男「これはゴンズイで、背ビレと胸ビレに毒棘があります。貸して下さい、ペンチで釣り針をつまんで速やかに逃がします」

幼馴染「お願いします」

男「ゴンズイとハオコゼアイゴなどには気をつけなければなりません」

幼友「刺されるとどうなるんですか?」

男「釣りどころじゃないくらい痛いです。ハチに刺される以上だと思って下さい」

幼友「さっき男さん、素に戻ってましたよね」

男「何の事やら」

幼友「やっぱり嫁のピンチにはそうなりますか…」ニヤニヤ





98 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/09(水) 00:02:22 ID:olrmYkLM


幼馴染「また釣れました、これはわかります」

幼友「海の豚と書いてフグですねー」

男「フグは河の豚です」

幼馴染「逃がしますか?」

男「さすがに俺もフグ調理の資格は持っていません。いずれ取りたいです」

幼友「釣れましたー!」

幼馴染「あ…それは…」

男「その魚を釣った場合、名にちなんだ行為をする必要があります」

幼友「その名は?」

男「キスです」

幼友「仕方ありませんね…幼馴染ちゃん」チュッ
幼馴染「んっ…!!!」

男「…期待は裏切られましたが、これはこれで良いものを見たかもしれません」ドキドキ





99 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/09(水) 09:04:17 ID:dDak/AgA [1/2]


いいねぇ





100 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/09(水) 09:19:17 ID:PS7KZqvA [1/8]


男「俺も何か食いました」

幼馴染「ほほう、なんでしょうか」

男「………鱚です」

幼友「何故に漢字表記にしますか、キスですよね。名にちなんだ行為をして下さい」

幼馴染「仕方ありません、受けて立ちます」

幼友「携帯カメラすたんばーい」

男「………」チュッ

幼馴染「魚にするのではありません」

幼友「ヘタレー」

男「何とでも言え」





101 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/09(水) 09:19:59 ID:PS7KZqvA [2/8]


男「早くも夕方が近づいています。最後は島の磯まわりでアオリイカを狙います」

幼友「イカ好きです」

幼馴染「イかす気ですか、破廉恥な」

男「文字にしないと解らないボケですね」

幼馴染「これはルアーですか」

男「イカ用のエギという疑似餌です。先ほどのサビキ釣りに近い要領で、しゃくっては沈めて糸フケを取ります」

幼友「とーう、とーう」ポヨンポヨン

男「んー、よきかな」ハアハア

幼馴染「わざとこういう釣りをチョイスしていませんか」





102 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/09(水) 09:20:33 ID:PS7KZqvA [3/8]


幼馴染「てーい、てーい…おや、なにやら重くなりました」

男「イカが抱きついたようです、しゃくるのをやめて速すぎないペースで巻き上げましょう」

幼友「タモ、すたんばーい」

幼馴染「やりました、タモに入りました」ヒョイ

男「あ、すぐに上げては…」

幼馴染「うわああぁぁぁ!?」

幼友「墨吐いたーーー!」

男「水面でバシャバシャ揺すると墨を出してくれます」

幼馴染「お願いだから早く言って下さい。墨が服に散りました」

男「それがなかなか落ちないのです」

幼馴染「テンションだけがガタ落ちです」

男「残念ですがテンションも落ちたところで本日は納竿としましょう」





103 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/09(水) 09:21:06 ID:PS7KZqvA [4/8]


男「さて、また帰りがけも幼友ちゃんに運転させて申し訳なかったです」

幼友「いえいえ、私の家まで付き合わせてごめんなさい。今日はとっても楽しかったですよ」

幼馴染「では幼友、また」

幼友「ばいばい、幼馴染ちゃん。今夜はちゃんと家に帰らなきゃだめよ?」

幼馴染「わかっています!」

男「じゃあまた」

幼友「男さん、私の家は判ったんだから今度遊びに来てもいいですよ?」

幼馴染「ちょ!?」

男「わかりました。幼馴染と二人で来ます」

幼友「やれやれ…今日は見せつけられちゃったなぁ」





104 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/09(水) 09:21:38 ID:PS7KZqvA [5/8]


男「幼馴染宅です」

幼馴染「ありがとうございました」

男「こちらこそ、楽しかったです。また誘っていいでしょうか」

幼馴染「お待ちしています」

男「幼馴染」

幼馴染「はい」

男「………」チュッ

幼馴染「てーい!てーい!」

男「痛いです、照れ隠しはやめて下さい。…キスを釣りましたので」

幼馴染「最後の台詞、要らないです」

男「照れ隠しです」





105 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/09(水) 09:22:32 ID:PS7KZqvA [6/8]


おしまい

レスくれた方々、保守頂いた方々ありがとうございました
またそのうち淡水の釣り編を書くかも





106 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/09(水) 09:44:09 ID:pX0C7hNc




これは良いものだ
あ、幼友ちゃんはもらっていきますね





107 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/09(水) 10:39:25 ID:dPIbocOI


乙でした
淡水もやるんですかー
楽しみにしてます!





108 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/09(水) 10:42:11 ID:DTuFo62g


普段の恋愛ものと違うノリで面白かったよ
淡水釣り編もここでやるなら保守もやぶさかではないぞ





109 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/09(水) 11:40:39 ID:dDak/AgA [2/2]


乙。面白かった。
淡水編も是非ここで





110 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/09(水) 12:44:14 ID:PS7KZqvA [7/8]


男「眠いよぅ、眠いよぅ…」ゴリゴリ

男「かれこれ一時間、魚を捌いてるよぅ…」スパー、ソリソリ…

ピピピピ…ピピピピ…

男「電話?こんな時間に…幼馴染」

幼馴染《もしもし、魚を捌いているのでしょうか》

男「手伝いに来てくれるのですか」

幼馴染《マダイは刺身だけでなく湯びきも食べたいので、皮をつけておいて下さい》

男「あの、手伝いには」

幼馴染《キスは開きに、アジは稜鱗も取って。スズキはアラも煮付けるので頭を割っておいて下さい。では》

男「眠いよぅ、眠いよぅ…」ゴリゴリ





111 名前: ◆M7hSLIKnTI[sage] 投稿日:2013/10/09(水) 12:46:48 ID:PS7KZqvA [8/8]


レスあざます
お言葉に甘えて淡水編、必ず書きます
もちろんまだたっぷり残ってるので、このスレで
落ちる前に開始できたらとは思ってますが、万一失念してたら保守頂けると助かります





112 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/09(水) 14:29:35 ID:/7JFQJUI


期待させてもらいます





113 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/09(水) 20:00:45 ID:3Y8QaKfA


なんという俺得スレ





114 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/09(水) 20:04:33 ID:29FgVmJo


可愛い女の子に囲まれてるクソ羨ましい男さんはひたすらブルーギルでも釣っててください





115 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/10(木) 19:50:54 ID:i5sh6n8. [1/12]


翌日談



男&幼馴染「お邪魔します」

幼友「また遊びに来てとは言ったけど、まさか翌日の晩に来るとは」

男「極上のブツを味わって頂こうと思いやしてね、へっへっへっ…」

幼馴染「揚げ物は衣だけつけてまだ揚げていません。焼き物も下ごしらえだけにしています。台所は使えるでしょうか」

幼友「大丈夫ですよー」

男「あと、小さめな土鍋がありますか」

幼友「もちろん、独り暮らしですから」

幼馴染「では今夜はお魚パーティという事で」





116 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/10(木) 19:51:27 ID:i5sh6n8. [2/12]


幼友「乾杯は何にしますかー」

男「プレモルで」

幼馴染「柑橘系のチューハイで」

幼友「おっけーです、ただしプレモルはありません」

男「無念」

幼馴染「では乾杯の一品は?」

男「やはり揚げ物かと思います。キス天とアオリイカの下足天、アジフライ、コチの唐揚げでいかがでしょう」

幼友「美味そうです、キス天が丸まっていますが」

男「スジ切りを忘れました。でも新鮮な証拠です」

幼馴染「ではでは」

三人「乾杯ーーー」





117 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/10(木) 19:51:57 ID:i5sh6n8. [3/12]


幼馴染「サクサクです、フワフワです」

男「淡白なキスの身と天麩羅衣のハーモニーです」

幼友「うわ!不細工なのにコチ美味しい!」

男「キスより脂身が多く、味も濃いのでビールには最適なのです」

幼馴染「アジフライもスーパーの惣菜とは全然違います」

男「小骨には気をつけて下さい。ビールおかわり」

幼友「すみませんねー、発泡酒しかなくて」

男「つまみが旨ければ何でも美味いものです」

幼友「せめて『これで充分だよ』とか言いましょうよ」





118 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/10(木) 19:52:31 ID:i5sh6n8. [4/12]


幼馴染「続いては私の作品です」

男「スズキがムニエルになっています。実にいい香りです」

幼馴染「ソースは和風に醤油ベースで、ガーリックバターを使いました。添えたスダチを絞ってお召し上がり下さい」

幼友「おお…幼馴染ちゃん、いい嫁になるわ…」

男「絶品です、薄い衣はしっとりなのに、皮がパリッと割れます」

幼馴染「ソースは周りに回しかけて、ムニエルそのものにはハケで薄く塗っていますので」

男「嫁に欲しいです」

幼馴染「…心の準備というものをさせて下さい」

幼友「幼馴染ちゃん顔、赤っ!」





119 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/10(木) 19:53:22 ID:i5sh6n8. [5/12]


幼馴染「引き続きグチの酒蒸しです」

幼友「酒蒸しといっても中華風だね」

幼馴染「蒸すのは日本酒を使いましたが、ソースはごま油を効かせた刻みネギソースにしてみました」

男「最初はネギソースの香りが強いですが、噛む内に酒蒸しの芳醇さが出てきます」

幼友「これは何のお酒でも合いそうだねー」

男「ビールおかわり」

幼友「早っ」





120 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/10(木) 19:54:17 ID:i5sh6n8. [6/12]


男「ではついに登場、マダイとスズキ、カワハギ、アオリイカの刺身です」

幼馴染「こちらの薄切り皮つきの身は鯛しゃぶ用ですね」

幼友「土鍋すたんばーい」

男「鯛しゃぶはポン酢と、こちらの謎のタレの二種類の味でお楽しみ下さい」

幼馴染「謎のタレが気になります」

幼友「何かバターのような塊が浮いてますけど」

幼馴染「つけて食べてみます………これはっ!?」

幼友「クリーミーで濃厚かつ後クチ爽やか…これ何ですか」

男「こちらはダシ醤油に先ほどのスダチを絞り、そこにカワハギのキモを落としたものです」

幼友「カワハギのキモ、恐るべし!」

男「冬場ほどキモが詰まってはいませんが、自分で釣らないとなかなか味わえない品です。寒くなったらカワハギの身をキモにつけて食べるという贅沢な鍋も素晴らしいものです」





121 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/10(木) 19:55:10 ID:i5sh6n8. [7/12]


男「刺身はいかがでしょうか」

幼馴染「アオリイカに素晴らしい甘みがあります。マダイも皮を薄くひいているので、味が濃いのですね」

幼友「スズキのコリコリ感もいいなぁ。これはルアー釣りの人も持って帰るべきですねー」

男「恐れ入ります、日本酒ありますか」

幼友「いきますねー」

幼馴染「鯛しゃぶをポン酢で食べるのも美味しいです。皮がキュッと縮んで、そこがコリコリと口に残って甘みがずっと続きます」

男「では幼馴染もキュッとしてみます」ギュッ

幼馴染「てーい!てーい!」

幼友「おお!鯛の皮と同じで甘いです!」





122 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/10(木) 19:55:42 ID:i5sh6n8. [8/12]


男「では次にサッパとヒイラギの焼き物です。タマネギとニンニクのスライスに味醂少し多目の三杯酢をかけています」

幼友「これはおかずにもつまみにもなりますねー」

男「とある大都会ではサッパをママカリと呼びます。ご飯(まんま)を隣に借りにいかなければならなくなるとの由来だそうです」

幼馴染「大都会?」

男「一部のネット上でそう呼ばれています」

幼友「確かにご飯欲しくなりますね」

男「その言葉を待っていました」カパッ、モリモリ…ペンペン

幼馴染「これは…!?」

男「お出汁で炊いたご飯に焼きサバのほぐし身を混ぜています」

幼友「うっわ、美味い!婿に欲しい!」

幼馴染「だめです」





123 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/10(木) 19:56:42 ID:i5sh6n8. [9/12]


幼馴染「ではここからはチビチビ飲むお酒のアテとして、私の作品をどうぞ」

男「根魚の煮付けにスズキのアラ炊きですね。日本酒おかわり」

幼馴染「船で釣った大きなカサゴは我が家で刺身にしてしまいました」

男「正解かもしれません。深場で釣った根魚は大きい代わりに煮付けると身が崩れやすく、味も劣ります」

幼友「どれも美味しいですねー。アラ炊きも旨味が詰まってます」

男「カサゴやメバルの煮付けは、是非ほっぺたの身を食べて下さい」

幼馴染「歯ごたえと味の深さが全然違います」

男「喉元や頭の後ろの身も美味しいですが、やはりほっぺたが一番好きです。ほっぺたが」プニプニ

幼馴染「つつかないで下さい」





124 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/10(木) 19:57:32 ID:i5sh6n8. [10/12]


男「最後に小さめなキスの骨せんべいで焼酎を頂きます」

幼友「オツですねー」

幼馴染「私は梅酒がいいです」

男「お腹いっぱい、目の前おっぱいです」

幼馴染「てーい」

幼友「お酒飲んだし、今日は泊まっていくよね?」

男「二人相手ですか」

幼馴染「お前、外な」

男「すみません調子にのりました」

幼友「じゃあ、向こうにお布団敷いときますねー」

……………

………







125 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/10(木) 19:58:56 ID:i5sh6n8. [11/12]


幼馴染「ふわぁ…おはようございます」

男「おはよおっぱい」

幼友「おはようございます、ちょっと座って下さい」

男&幼馴染「はい…?」

幼友「おぅ、お前ら。この寝不足どうしてくれる」

男「………」ダラダラ

幼馴染「………」ダラダラ

幼友「隣の部屋で声殺してもバレバレなんだよ、あぁ?」



おしまい





126 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2013/10/10(木) 20:02:24 ID:i5sh6n8. [12/12]


過去作置場にもこの作品置いて、そっちでは魚の名前や各種用語に画像リンクつけてみた
興味ある方は見てみてやって下さい
釣りに詳しい人は全部知ってると思いますが…





127 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/10(木) 21:12:04 ID:IV/XhcCs


乙乙





128 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/11(金) 00:03:12 ID:76Cj3hJQ


名作。乙





129 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/11(金) 00:34:05 ID:R8PlgKU6


おつ

もういっそ幼友も混ざればよかったのに





130 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/11(金) 01:28:13 ID:3J792ReM


聞き耳立ててナニしてたんですかねぇ…?





131 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/11(金) 01:59:06 ID:Ujr5MDQo


お腹空いた






132 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[sage] 投稿日:2013/10/11(金) 08:50:34 ID:Zjq94.MI


ちょwwww
置場の参考画像に幼のパンツやアンミラの制服もあるぞwwwww
あと魚画像がひとつだけ明らかに狙ってるwww


.

テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

  1. 2013/10/09(水) 22:46:07|
  2. 釣りSS
  3. | コメント:7

さくらOctober(原題/幼馴染「お邪魔するよー」男「お邪魔する前に言えないのか」)

1:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/27(金) 08:52:35 ID:lNrpVbmg

…ガチャッ

幼馴染「お邪魔するよー」

男「お邪魔する前に言えないのか」

幼馴染「だって男が変なDVDとか観てたらいけないし」

男「だからこそだろ」

幼馴染「観てたら怒らなきゃいけないし」

男「それはそんな物を観るくらいなら、幼馴染が慰めてくれるという意味にとっていいのかな」

幼馴染「付き合ってもないのに?」

男「付き合ってもないから、俺が何を観ようと自由なんじゃないでしょうか」

幼馴染「そんな勝手な理屈は通りません!」





2:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/27(金) 08:53:40 ID:lNrpVbmg

男「はぁ…」

幼馴染「溜息つくと幸せが逃げるよ?」

男「で、何の用?」

幼馴染「私がここに来るのに理由がいるんですか」

男「つまり毎度ながら、暇だったと」

幼馴染「さすが男!私の事は何でも解るんだね!」

男「だいたい週に五日は来てるもんな」

幼馴染「この部屋、適度に散らかってて和むのよねー」

男「お前が来ないならもっと散らかしてるんだけどな」

幼馴染「ほら、私が来た方がいいんじゃない」





3:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/27(金) 08:54:28 ID:lNrpVbmg

男「はいはい…まあ座れよ、茶でも取ってくるから」

幼馴染「お構いなく、さっき下でジュース頂いてから上がったから」

男「部屋だけじゃなく冷蔵庫まで勝手に開けるか」

幼馴染「失礼だなぁ、おばさんが出してくれたんだよ」

男「で、俺のは?」

幼馴染「察しが悪いね、あとコップ2杯分しかなかったから下で飲んだんだよ」

男「2杯分ありゃ俺のもあるだろ」

幼馴染「私とおばさんで美味しく頂きました」

男「…もういいわ」





4:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/27(金) 08:54:59 ID:lNrpVbmg

幼馴染「そのかわり、ね?」

男「そのかわり?」

幼馴染「おばさんがこれを男に渡せって、渡せば解るからって言ってたけど」

男「どれ?」

幼馴染「じゃーん!折り畳みノコギリー」

男「今の旧ドラえもん風だったよね」

幼馴染「鋭い!ノコギリだけに!」

男「まあ、オカンの言わんとする事は解ったわ…」

幼馴染「解るんだ」





5:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/27(金) 08:55:41 ID:lNrpVbmg

男「うーん、夏の間はずっと逃げてたからなー」

幼馴染「何から?」

男「無償の重労働から」

幼馴染「ノコギリを使う重労働ですか」

男「庭木を切れって、ずっと言われてんだよ」

幼馴染「いいじゃん!せっかく暇なんだし、やろうやろう!」

男「なんでノリノリなんだよ。手伝ってくれるのか?」

幼馴染「見ててあげる!」

男「いや、手伝えよ」

幼馴染「応援してあげる!」

男「意地でも手伝わせるからな」





6:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/27(金) 08:56:28 ID:lNrpVbmg

…男の家の庭



幼馴染「ここの庭、広いよねー」

男「田舎だからな」

幼馴染「でもウチ、狭いよ?」

男「お前んちで普通だろ、ウチが広すぎるんだ。元農家だったから」





7:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/27(金) 08:57:07 ID:lNrpVbmg

幼馴染「どれ切るの?」

男「まず一番にって言われてるのは、この桜だな」

幼馴染「大きいねー」

男「脚立だけじゃ無理だな、登らないと」

幼馴染「昔っから桜切る馬鹿って言うよ?」

男「桜は切り口を自己治癒する力が弱いんだ。そこから幹が腐りやすい」

幼馴染「だめじゃん」





8:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/27(金) 08:57:37 ID:lNrpVbmg

男「でも剪定が要らないってわけじゃないし、切り口を殺菌剤で保護してあげれば大丈夫なんだ」

幼馴染「男、詳しいね?」

男「高1から夏冬春の長期休みには、ツレの親父さんがしてる造園屋さんでバイトしてるからな」

幼馴染「そっか、してたねー。でもそれなら家の庭木も早くしてあげればよかったのに」

男「対価の無い労働って、気が進まないもんだよ。対価のある労働で同じ事をしてるから尚更な」

幼馴染「そんなにバイト代いいの?」

男「建設業のバイトって、大変だけど実入りはいいんだぜ」





9:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/27(金) 08:58:14 ID:lNrpVbmg

幼馴染「どうりで。あんまりそれに精を出すから、夏休みも平日は私の事なんか放ったらかしだったもんね」

男「平日に必ずお前を構わなきゃいけない理由もないしな」

幼馴染「…むかっ」

男「さて…まずは脚立で届くところから捌くか」

幼馴染「………」

男「幼馴染、脚立の足下支えててくれよ」

幼馴染「ふーんだ」

男「おーい、応援してくれるんじゃねえのかよ」

幼馴染「落ちろ」





10:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/27(金) 08:58:51 ID:lNrpVbmg

男「拗ねるなよ…まあいいか。とりあえずあちこちに天狗巣病が出てるなー、切り取らないと」

幼馴染(…どーせ、私よりお金なんでしょ)

ギコギコ…

男「下からノコを入れて、そのあと上から…」

幼馴染(いくら付き合ってないって言っても、それは男がハッキリしないからなのに…)

男「殺菌剤のペースト塗って…と」

ペタペタ…

幼馴染(そりゃ、私だってハッキリしてないけど…)





11:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/27(金) 08:59:24 ID:lNrpVbmg

男「こっちにも発症してるし、荒れ放題…そりゃ花咲かないわけだわ」

ギコギコ…バサッ

幼馴染(こないだだって、黙ってクラスの友達とグループで遊びに行くんだもん)

男「いつからこの桜が咲いたの見てないかなー」

ガサガサ…

幼馴染(女の子が一緒だったのだって、知ってるんだから)

男「十年…くらいかな。古い木だもんなー」

ペタペタ

幼馴染(男の、ばーか)





12:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/27(金) 08:59:59 ID:lNrpVbmg

男「剪定したら来年は咲くかな…。おっと…殺菌剤落とすとこだった」

フラッ…

幼馴染「あ…!男、危ない!脚立が…!」

男「うわっ…!?」

幼馴染「男っ!」

???『危ない!』

ガシャーン!カラカラ…





13:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/27(金) 09:00:34 ID:lNrpVbmg

男「痛てて…足打ったな…」

幼馴染「男!大丈夫…!?」

???『大丈夫ですか?』

男「折れたりはしてなさそう…え?」

幼馴染(…誰、この人)

???『ごめんなさい、頭を打たないように支えるので精一杯でした』

男「あ、ありがとう…あの、どちら様でしょうか」

???『…サクラ、と申します』

男「サクラ…さん、えっと…いつの間にこの木の下に」

サクラ『ずっと、いました』





14:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/27(金) 09:01:15 ID:lNrpVbmg

幼馴染「そんなわけ無いよ、誰もいなかった…」

男(だよな…俺も見てない)

サクラ『信じて頂けないかもしれませんが、私はこの桜の精…というのが相応しいかわかりませんが』

男「桜の精…だって?そんな…」

幼馴染(綺麗な人…桜色の絣袴なんて今時着てる人いないし…)

サクラ『驚かせてごめんなさい。本当に久しぶりに枝を切ってもらっていたから、ずっと見ていたんです』

男(…信じられない…けど、信じなきゃ説明がつかないタイミングだった)





15:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/27(金) 09:01:53 ID:lNrpVbmg

幼馴染「と、とにかく!もう男を離していいから!」

サクラ『あら、ごめんなさい…抱えたままでしたね』

男「でも本当に助かったよ、ありがとう。誰かさんが脚立持ってくれないから…」

幼馴染「…むっ」

サクラ『歩けますか?』

男「歩けるけど少し痛くて力が入らない…もう今日は高いところには上がれないな」

幼馴染「…悪かったわよ」

男「サクラさんがいなかったら、まじでアタマ打ってたぜ…」

サクラ『ふふ…サクラと呼び捨てにして頂いて結構ですわ』

男「ああ…なんか照れるけど」





16:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/27(金) 09:02:27 ID:lNrpVbmg

サクラ『照れる必要なんてありません、貴方が産まれた時から知ってますもの』

男「そっか…桜の精だっていうなら、そうだよな…」

幼馴染「………」

男「せっかく現れたんだから、お礼もかねて家に上がってお茶でも出すよ」

サクラ『ありがとうございます。…でも、それはできません。私はこの木からあまり離れられないので』

男「そうなのか…残念だな」

幼馴染「なにナンパしようとしてんのよ、節操のない」

男「そんなつもりじゃねーよ」





17:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/27(金) 09:02:59 ID:lNrpVbmg

幼馴染「…サクラさん、男を助けてくれてありがとう。でももう大丈夫だから」

サクラ『そうですね、では消えます』

男「幼馴染、感じ悪りいぞ」

幼馴染「ふんっ」

男「あの、足が直ったら平日でも少しずつ続き切るから。…また出てきてくれるかな?」

サクラ『はい、せっかく私を知って頂いたんですから』

男「うん、じゃあまた」





18:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/27(金) 09:03:34 ID:lNrpVbmg

サクラ『では…幼馴染さん、お邪魔してごめんなさいね…』

幼馴染「なんで私に言うのよ…って、本当に消えた!」

男「今、スーッと消えたよな…まじで桜の精なんだ…」

幼馴染「信じられない…けど、本当みたいだね…」

男「…綺麗…だったな…」

幼馴染「何よ、やっぱりナンパしようとしてたんじゃないの?」

男「ちち、ちげーし」

幼馴染「もう私、帰る。…すぐにでもサクラさん呼んだら?ばーか」

男「なんだよ、さっきから感じ悪りぃな…」

幼馴染「ばいばーい」





19:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/27(金) 09:04:18 ID:lNrpVbmg



…翌朝



幼馴染「おはよー」

男「おぅ、すぐ行くわ」

幼馴染「いつも用意遅いなー、また遅刻ギリギリになるよ」

男「じゃあ先に行けよ」

幼馴染「いやでーす」

男「なんだよそれ…もう朝メシいいや、行ってきまーす」

ガチャッ、…バタン





20:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/27(金) 09:05:02 ID:lNrpVbmg

幼馴染「…大丈夫?」

男「何が?」

幼馴染「その…足、大丈夫なのかなって」

男「ああ…ちょっと痛むけど」

幼馴染「…ごめん、昨日は」

男「あ?…いいよ、俺が無理な体勢したのが悪いんだ」

幼馴染「でも、脚立支えなかったから」

男「まあ、すぐに治るよ。サクラのおかげで頭は打たなかったしな」

幼馴染「覚えてるんだ、やっぱり夢や幻じゃないんだね…」

男「…みたいだな」





21:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/27(金) 09:05:32 ID:lNrpVbmg

幼馴染「よかったね」

男「何がだよ?」

幼馴染「庭先にあんな綺麗な人がいるんだもん、さぞ嬉しいんでしょ」

男「なんかつっかかるなー、嫉妬してんのか?」

幼馴染「なんで桜の木に嫉妬しなきゃいけないのよ、ばーか」

男「…そんなに機嫌悪いなら無理に一緒に行かなくてもいいのに」

幼馴染「ふんっ」

男「解ったよ…悪かったって」

幼馴染「べっつにー」

男(絶対怒ってんじゃん…無理もないけど)

幼馴染(なんで私、素直に謝れないんだろう…)

男(なんで俺、もっと幼馴染に優しくできないかな…)

男&幼馴染(好き…なんだけどな…)





23: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/29(日) 15:42:58 ID:lNrpVbmg



…放課後



男(帰るかぁ、幼馴染は…ん?メール?)

幼馴染《機嫌が悪いので、言う通り独りで帰ります。探さないで下さい》

男(…家に帰るんだったら探すも何も無いだろ)

男(にしても、まだ怒ってんのか…どうすればいいのかな)

男(あいつの好きなクレープでも買って、家に寄ってみるかぁ…)





24: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/29(日) 15:43:51 ID:lNrpVbmg



…クレープ屋の前



男(ん?幼馴染…!?)

男(あいつ自分で寄ってやがる…やけ喰いする気だな)

男(しゃーねえな…向かいの店の鯛焼きにするか…)

鯛焼店員「ラッシャイッセーィ」

男「三匹下さい」

鯛焼店員「ァズキサンビキッシャーカァー?」

男「はい(何て言ってんだよ)」

鯛焼店員「サンビャッキュージューエンッスァー」

男「……(390円でいいよな…?)」

鯛焼店員「ァマタセァッシター」

男(なんか腹たつわ…この店)





25: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/29(日) 15:44:46 ID:lNrpVbmg



…自宅前



男(さて、タイミング的にどうすっかなー)

男(わざと少し遠回りしたから、もう幼馴染は帰ってると思うけど…)

男(それでも帰ったばかりだろうし、まあ服くらい着替えてから行ってみるか)





26: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/29(日) 15:45:16 ID:lNrpVbmg

サクラ『おかえりなさい』

男「うわ、びっくりした。…サクラか、ただいま」

サクラ『ごめんなさい、驚かせちゃって』

男「いや、いいよ。ボーッとしてただけだから」

サクラ『足はどうですか?』

男「ああ、だいぶ痛みは無くなってきたよ。今日は体育は見学したけどな」

サクラ『そうですか、よかった』





27: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/29(日) 15:46:00 ID:lNrpVbmg

男「あ、そうだ…こないだお茶も出せなかったし、鯛焼きとか食べない?」

サクラ『わあ、大好きなんです。嬉しい…いつから食べてないだろう』

男「食べた事はあるんだ?」

サクラ『本当に昔…ですけど』

男「そっか…じゃあ、どうぞ。一匹しかあげられないけど」

サクラ『ありがとうございます、一匹で充分ですよ。………美味しいっ』

男「よかった、また買ってくるよ」





28: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/29(日) 15:47:01 ID:lNrpVbmg

???『いいなー』

男「…!?」

???『あ、見つかっちゃった』

男「見つかったって…もしかしてお前も、どれかの庭木の精か」

男(小さな娘だ…人間なら小学生か、せいぜい中学生になりたて位か)

サクラ『そうですね、彼女はカナメちゃんです』

カナメ『そこの紅カナメの化身なんだ。ずっと隠れてたんだけど、サクラが姿を見せたんならもういいかなって』





29: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/29(日) 15:47:53 ID:lNrpVbmg

男「そっか、よろしくな。お前も鯛焼き食うか?」

カナメ『物を食べるなんて、した事ないけど…興味は深々だなぁ。どうしよ…』

男「食ってみればいいじゃん。だめなら俺が食べるから」

男(まあ、幼馴染の分は一匹あるからいいよな)

カナメ『よーし、食べてみる!………うわ、美味ぁい!』

男「そりゃよかった。…なあ、もしかして全部の庭木に精がいるの?」

サクラ『この庭には結構多いですよ、全てではないですけど。彼女の他にもあの赤松と欅(けやき)、それから椛(もみじ)二本にもいますね』





30: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/29(日) 15:49:05 ID:lNrpVbmg

カナメ『古い庭だからね。ボクは割と最近に植えて貰ったけど』

サクラ『ふふ…カナメちゃんはケヤキさんと恋仲なんですよ』

カナメ『もう、サクラそんな事まで言っちゃだめー!』

男「そんな恋愛関係もあるんだ。じゃあケヤキも出てきたらいいのに」

サクラ『彼はけっこう硬派ですから、今も姿は消して自分の枝の下で昼寝してますね』

男「あー、位置関係的にも紅カナメは欅の枝の下だな。なんとなくお似合いな気がするわ」

カナメ『そ、そう!?参っちゃうなー!』

サクラ『あ、ケヤキさんがむせてる。聞いてたみたいですよ、あはは…』





31: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/29(日) 16:11:31 ID:lNrpVbmg

男「ははは…そっか、この庭にぎやかなんだなー」

カナメ『鯛焼き、もう一匹食べたいなー』

男「ん?…ああ、悪い。これはだめなんだ」

サクラ『もしかして幼馴染さんの分ですか?』

男「当たり、あいつちょっと機嫌悪くってさ。貢ぎ物をね…」

カナメ『やっすい貢ぎ物だなー』

男「高校生だからこれくらいでいいんだよ、ほっとけ」





32: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/29(日) 16:12:02 ID:lNrpVbmg

サクラ『もしかして機嫌が悪いのって、私のせいだったりします…?』

男「んー、まあ…でもどっちかというと、俺のせいだよ。ハッキリしないのが悪いんだよな」

カナメ『それはだめだよ、男ならそこは夜這いかけるくらいじゃないと』

男「馬鹿言え、そういうハッキリじゃねえよ。まだ付き合っても無いんだから」

カナメ『幼馴染って事は昔っから一緒にいるんでしょ?なのに付き合ってもないの?』

男「そういう関係だから余計に難しいって面もあるんだって」





33: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/29(日) 16:12:44 ID:lNrpVbmg

サクラ『解りますけど…でもハッキリはした方がいいですね。きっと幼馴染さんも待ってますよ?』

カナメ『そうそう、ボヤッとしてたら他の男に攫われちゃうんだから』

男「怖い事言うなよ、あいつあれで結構モテるから心配なんだ」

サクラ『大丈夫、男さんもなかなか男前です。自信もって』

男「そんなん初めて言われたよ」

カナメ『お世辞って知ってる?』

男「てめえ、鯛焼き返せ」





34: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/29(日) 16:13:15 ID:lNrpVbmg

サクラ『カナメちゃん、ここは男さんをその気にさせないと』

カナメ『あ、そっか。ごめんごめん、男前ー』

男「遅せぇよ。ってか、サクラもひでえ」

サクラ『あはは…ごめんなさい。でも私は男さん、好きですよ』

男「もう何も信じられない」

カナメ『ぎゃはは、いじけたー』





35: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/29(日) 16:37:14 ID:lNrpVbmg



…幼馴染の部屋



幼馴染(どうしよう)

幼馴染(行くなら、そろそろ行かないと)

幼馴染(でも感じの悪いメール送って、勝手に帰っちゃったしなぁ…)

幼馴染(………だめだよね、尻込みしてたら。せっかく男の好きなツナクレープも買ったし)

幼馴染(今度は素直に謝ろう。謝った後に余計な事は言わないように…)

幼馴染(それと…できたら、好きって言おう)

幼馴染(…無理かなー、無理だろうなー)

幼馴染(ええい、とりあえず男の家に行こう!)





36: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/29(日) 17:11:26 ID:lNrpVbmg

幼馴染(…庭先から、声…?)

幼馴染(サクラさん、いるんだ…それに違う娘も。あの娘も木の精なのかな)

幼馴染(楽しそうに笑っちゃって、なによ…)

幼馴染(………だめ、またそんな素直じゃない事を考えて)

幼馴染(『男、クレープ買ってきたよ。サクラさん達には悪いけど、部屋で食べよう』…うん、そのくらい言ってもいいよね)





37: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/29(日) 17:12:00 ID:lNrpVbmg

幼馴染(サクラさん達は木から離れられないんだから、仕方ないよ。この時間に男の部屋に行くのは日課なんだから)

幼馴染(男…怒らないよね、…よしっ)

スタスタ…

幼馴染「お、男…」
サクラ『…私は男さん、好きですよ』

幼馴染「………!」

…ササッ

幼馴染(…なんで隠れちゃったんだろう)

幼馴染(違う、もう一人の娘もいるんだし、まさか告白なんてわけじゃない)

幼馴染(ただの他愛もない会話だよ…ね)





38: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/29(日) 17:12:35 ID:lNrpVbmg

男「…とにかくなー、幼馴染とは本当にこの関係の時間が長過ぎてさ」

幼馴染(私の事、話してるの…?)

男「正直、恋人になるとかってイメージわかないんだよなぁ」

幼馴染(………!!!)

サクラ『そんなものですか』

男「うん…あいつも素直じゃないし、まあ俺もなんだけど」





39: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/29(日) 17:13:06 ID:lNrpVbmg

カナメ『もういっそのこと、好きって言ってくれるサクラと付き合っちゃえばー?』

サクラ『カナメちゃん、変な事言わないの』

幼馴染(…どうやって顔を出せばいいのよ)

男「はは…悪くない話だな」

幼馴染(…私とは恋人になれないって聞いた後で、どんな顔をして話し掛ければいいの)

カナメ『男、真に受けてるー!』

男「ばーか、そんなんじゃねえよ」

幼馴染(もう…いいや…帰ろう)

幼馴染(男…私は…好きなんだよ)

幼馴染(伝える前から、ふられちゃったなぁ…)





42: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/29(日) 20:14:56 ID:lNrpVbmg



…15分後



男「…さて、そろそろ行ってみるかなー」

サクラ『頑張って下さい、告白するんですよ?』

男「今日、必ずってわけじゃないよ…」

カナメ『そんな事言ってるからだめなんだよー、思い切らなきゃ』

サクラ『そうです、絶対ふられるわけないですよ』

男「お、おぅ…がんばるわ」

サクラ『はい、その調子です』





43: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/29(日) 20:26:12 ID:lNrpVbmg

ピンポーン…

幼馴染母「あら、男くんいらっしゃい。いつもあの娘がお邪魔ばかりしてごめんなさいね」

男「いいえ、なんかもう部屋にいるのが当たり前みたいだから」

幼馴染母「でも今日は男くんが来てくれたのね。どうぞ上がって、部屋にいると思うわ」

男「お邪魔します」





44: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/29(日) 20:45:09 ID:lNrpVbmg

パタパタパタ…
…トントン

男「幼馴染ー、いるのか…?」

幼馴染《…いない》

男「いるじゃねえか、開けるぞ」

幼馴染《開かない、鍵かけてるから》

男「じゃあ、鍵を開けてくれよ」

幼馴染《…嫌だ》

男「いつまで膨れてんだ…鯛焼き買ったから、食えよ」

幼馴染《いらない、食欲無い…》





45: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/29(日) 21:06:17 ID:lNrpVbmg

男「幼馴染…悪かった。サクラの事、木の精だなんてあんまりびっくりしたから、つい…」

幼馴染《もう、いい…》

男「…幼馴染、話がしたいんだ。開けてくれないか」

幼馴染《話したくない、お願い…今日は帰って》

男(俺の部屋は無断で開けるくせに…勝手な奴だなぁ)

男(でもこんな機嫌の日に告白なんか、そもそもできないか…)

男「鯛焼き、袋のままドアの外に置いとくから…」

幼馴染《………》

男「明日は機嫌、直しといてくれないか。話…したいんだ」

幼馴染《………ごめん》

男「今日は帰るわ…じゃあな」





46: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/29(日) 21:08:58 ID:lNrpVbmg



…幼馴染の部屋



幼馴染(…帰っちゃった)

幼馴染(いいんだ、今日はどうやっても普通になんて話せない)

幼馴染(こんな真っ赤な目で、会えるわけないよ)





47: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/29(日) 21:09:50 ID:lNrpVbmg

『…イメージわかないんだよなぁ』

幼馴染(…私は、ずっとイメージしてたよ)

幼馴染(もし、ちゃんと付き合えるようになったら、あんな事がしたい…どんな所に行きたいって)

幼馴染(男は…違ったんだね)

幼馴染(ただハッキリしてないだけだと思ってた…どっちからでも告白さえすれば、だめなワケは無いって思ってた)

『正直、恋人になるとかって…』

幼馴染(…でも、だめなのかもしれない)





48: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/29(日) 21:10:30 ID:lNrpVbmg

『…サクラと付き合っちゃえばー?』

幼馴染(まさかサクラさんじゃないだろうけど…いつか、男は他の誰かのものになっちゃうのかな)

幼馴染(そんなの、考えた事も無かったのになぁ…)

『いつまで膨れてんだ…』

『明日は機嫌、直しといてくれないか』

『話…したいんだ』

幼馴染(…気持ち、切り替えなきゃ)





53: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/30(月) 11:25:58 ID:lNrpVbmg



…翌朝



男(おかしいな…幼馴染が迎えに来ない)

男(これは多分、まだ拗ねてんだな)

男(しゃーねぇ、たまには俺が迎えに行くか)





54: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/30(月) 11:26:30 ID:lNrpVbmg

…ピンポーン

幼馴染母「あら…?おはよう、男くん。あの娘、もう出たけど…男くんのところへ行かなかったのかしら」

男「え…そうなんですか」

幼馴染母「それにしても貴方達、ケンカでもした?」

男「いや…まあ…」

幼馴染「今回はあの娘、相当ヘソを曲げてるみたいだわ。ごめんなさいね…」

男「何かあったんですか?」

幼馴染母「うーん…まあ、学校には行っただろうから、会えば解ると思うわ」

男「…はい」





55: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/30(月) 11:27:20 ID:lNrpVbmg



…学校、男と幼馴染のクラス



ガラッ

男「おはよー」

友1「あっ、来たぜ」

友2「おい!男、どういう事だ!?」

男「はぁ?…何が」

友1「てめえ、幼馴染ちゃん泣かしたのかよ!?返事によっちゃブン殴るぞ!」

男「ちょ、何の事だよ。わけ解らねえぞ」

友2「ふざけんな、だってあれ…どう見ても自分で切ってるじゃねーか」


56: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/30(月) 11:27:53 ID:lNrpVbmg

男「切ってるって、何を…」

友2「お前、知らなかったのか?…見りゃ解んだろ」

男(何がだよ…え!?)

男(幼馴染…!髪が…!)

男「…悪りぃ、友1。ちょっとHR遅れるわ、適当に担任に言っといてくれ」

スタスタスタ…

男「幼馴染、ちょっと来い」

幼馴染「あ、男…おはよ。昨日、鯛焼きありがとう」

男「いいから、ちょっと来いよ」

幼馴染「もうHRが始まっちゃうよ」





57: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/30(月) 11:28:26 ID:lNrpVbmg

男「うるせえ、いいから」

グイッ

幼馴染「ちょっと…男…!」

男「屋上、行くぞ」

モブ友「ヒャッホー、チワゲンカダー」

モブ友「ヒューヒュー、オトコーセキニントレー!」





58: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/30(月) 12:28:05 ID:lNrpVbmg



…屋上



幼馴染「強引だなぁ…私、乱暴されちゃうのかな?」

男「ふざけてんじゃねえよ、お前…その髪どうしたんだ」

幼馴染「ん…ちょっと、ね」





59: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/30(月) 12:28:38 ID:lNrpVbmg

男「背中まであったのに…適当な切り方しやがって。肩下しか無えじゃねーか」

男(俺はお前の長い髪、好きだったんだぞ…)

幼馴染「イメチェンです」

男「それなら普通、美容院行くだろうが」

幼馴染「…なんで怒ってるのよ」

男「こないだから怒ってんのはお前だろ!しかもそんな真似しやがって…!」

幼馴染「怒ってないよ、もうスッキリしてる」

男「してねえよ!明らかに空元気じゃねえか…!」





60: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/30(月) 12:29:15 ID:lNrpVbmg

幼馴染「…男が気にする事じゃないでしょ」

男「お前、俺が…!」
幼馴染「…付き合ってるわけでもないのに」

男「………!」

幼馴染「彼氏でもないんだから、私がどう髪型変えても口出しする必要なんて無い…そうじゃない?」

男「………幼馴染」

幼馴染「もう放っといて、男には関係ない話だから」





61: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/30(月) 12:29:52 ID:lNrpVbmg

男「関係なくても、やっぱり髪を切った理由はあるんだな」

幼馴染「…私ね、失恋…したの」

男「え…!?」

幼馴染「だから、気分転換が必要だったんだ。大丈夫…帰りに美容院寄るから、ちゃんとしてもらう」

男「…お前、好きな奴がいたのか」

幼馴染「うん、言ってなかったけど…ずっと前から」

男「そいつに振られたのか」

幼馴染「…そんなとこ」

男「…そうか」





62: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/30(月) 12:30:25 ID:lNrpVbmg

幼馴染「だから、男が気にする事は無いの。それに髪短くしたらけっこう楽なんだよ」

男「…解った。ごめん…変な口出しして」

幼馴染「教室、戻るね。男も行こう」

男「…もう少し、ここにいる」

幼馴染「怒られちゃうよ」

男「いいから、気にするな。…本当、さっきは悪かった」

幼馴染「…早くおいでね?」

男「おう」





63: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/30(月) 12:31:08 ID:lNrpVbmg

男(参ったね、こりゃ…)

男(強引に屋上に連れて来たのが、赤っ恥のレベルだな)

『言ってなかったけど…ずっと前から』

男(何が『部屋にいるのが当たり前』だよ、ただ散らかってて居心地が良かっただけだったんじゃねえか)

男(俺の部屋で他愛もなく話しながら、笑いながら…お前は別の男の事を想ってたんだな)





64: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/30(月) 12:31:43 ID:lNrpVbmg

男「ははっ…俺は馬鹿か…」

男(ただハッキリしてないだけだと思ってた…どっちからでも告白さえすれば、だめなワケが無いと思ってたんだ)

男(なんて図々しい、なんて勝手な思い込みだよ)

…ガンッ!

男「…痛ってぇ」

男(コンクリートで壁ドンしちゃだめだな…血ぃ出た)

男(教室…戻りたくねえなぁ…)





65: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/30(月) 12:54:28 ID:lNrpVbmg



…その日の夕方、男の家の庭先



カナメ『おかえりー、あれ…独り?』

サクラ『お帰りなさい、昨日はどうでした?』

男「うん、だめだった」

サクラ『え…!?』

カナメ『だめだったって、フラれたって事…!?』

男「まあ、そんなとこだな」





66: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/30(月) 12:55:00 ID:lNrpVbmg

サクラ『そんな…そんなはず無い、ただ怒ってるだけなんじゃないですか?』

男「いや、そもそも機嫌が悪かったのも…どうやら俺とは関係無い理由だったみたいだ」

カナメ『なんだよ、その理由って』

男「悪い、今は言いたくない…まだ俺も気持ちが整理できてないんだ」

サクラ『男さん…』

男「まあでも、ちょうどいいよ。たぶんこれから夕方は暇になるから、お前らの剪定もはかどりそうだ」

サクラ『男さん、無理しないで…』

男「はは…大丈夫だよ。着替えてから取り掛かるから、待ってて」





67: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/30(月) 12:55:34 ID:lNrpVbmg



…五日後



ギコギコ…バサッ

男「欅の剪定は難しいなー」

ケヤキ『まあ上出来だろ、自然形の枝ぶりを意識してくれてるだけで御の字だ』

男「そう言ってくれると助かる」

…バサバサ…ストン

ケヤキ『ふう…さっぱりするぜ』

男「ケヤキは本当、硬派な感じだなー。木質も堅いけど」

ケヤキ『そうか?クヌギや栗ほどじゃないんだがな』

男「まあノコの刃を替えたから、大丈夫だけどね。格好よく切らないとカナメに怒られそうだ」





68: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/30(月) 12:56:09 ID:lNrpVbmg

ギコギコ…

ケヤキ『あいつもスッキリしたよな、ありがとよ』

男「惚れ直したかい?」

ケヤキ『オトコってのは、いったん惚れたらそれ以上は無いくらいまで惚れ込まなきゃだめなんだよ』

男「はは…耳が痛てぇな」





69: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/30(月) 12:56:41 ID:lNrpVbmg

パチン、パチン…サッ、サッ

ケヤキ『…アンタ、失恋したってな』

男「まあね…」

ケヤキ『ちゃんと想いは伝えて、それで砕けたのか』

男「………」

ケヤキ『…そうじゃねえんだったら、後悔するぜ』

男「それ以前に、後悔しきりだよ。…チャンスなら十年以上もあったんだから」





70: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/30(月) 12:57:13 ID:lNrpVbmg

…バサバサ

ケヤキ『今からでもいいじゃねえか』

男「そうだな…まだ、チャンスが無いわけでも無いのかな」

ケヤキ『思い切れよ』

男「機会を窺って…な。たぶん今は逆効果なんじゃないかと思う」

ケヤキ『まあ、アンタの気持ちだ。アンタの好きにすりゃあいい…』





71: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/30(月) 12:57:45 ID:lNrpVbmg

…サッ、サッ

男「よし、こんなもんでどうだ?」

ケヤキ『ああ、見違えるぜ。すまねえな』

男「明日は椛二本かなー」

ケヤキ『…なあ、ちっとも礼にはならねえんだが、ひとつお節介を言わせてくれねえか』

男「お節介?」

ケヤキ『アンタ、今はその幼馴染って娘と距離を置いてんだろ。だったらこの件は逆に好都合なんだ』

男「…聞くよ」





72: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/30(月) 12:58:22 ID:lNrpVbmg

ケヤキ『そんなに難しい話じゃねえ。…ただ暫く、サクラに出来るだけ優しくしてやってくれねえか』

男「サクラに…?どうしてまた」

ケヤキ『ここだけの話だ。まだカナメや、精として幼いモミジの双子には言ってねえ』

男「…少し小さい声の方が良さそうだな」

ケヤキ『サクラは…あの桜は、もう長くは無い。たぶんいくら保っても来年の夏は越せないだろう』

男「………!!!」





73: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/30(月) 12:59:04 ID:lNrpVbmg

ケヤキ『それに今年は剪定をしたからな、春には花をつけるかもしれない。いや、もしかしたらじきに秋の狂い咲きをする可能性もある』

男「それがどうしたんだ」

ケヤキ『木にとって花を咲かせるというのは、凄まじい生命力を消費する事だ。多分、花を咲かせたらその後は…』

男「俺が剪定をしたから、サクラは早く死ぬってのか」





74: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/30(月) 12:59:35 ID:lNrpVbmg

ケヤキ『さっき言ったろう、長くても夏までだって。お前が責任を感じる必要は無いさ、むしろ最期の花を咲かせられるなら願ったりだ』

男「でも…なんとかならないのか」

ケヤキ『あの桜は染井吉野だからな、そもそも花は最高に華美だが寿命は短い…仕方が無えよ』

男「…その事と俺が彼女に優しくする事と、関係があるのか」

ケヤキ『そこは赤松のジジイから聞いてくれ、俺より適任だ。とにかく、頭の隅にだけ置いといてくれよ』

男「…ああ、解った」





76: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/30(月) 16:34:52 ID:lNrpVbmg



…男の部屋



男(…ショックだ)

男(庭からサクラがいなくなるなんて、思ってもみなかった)

男(まさか恋をしちゃいないけど…寂しすぎるだろ)

男(幼馴染に話すべきかな…知らない間柄じゃないし)

男(でもここ数日、めっきり話してもないんだよな。近寄り難いというか…気まずくて)

男(ここんとこ、ショック受けてばっかだ)

男(…幼馴染が振られた事に、少し安堵してる自分が嫌だし。なんかもう、胃が辛い)

男(また…この部屋に来てくれねえかな)

男(もう前みたいにぞんざいな事、言わないから)

男(俺…お前がいなきゃ、だめなんだよ…)

男(とてもじゃないけど、今は連絡なんてできねえや…)





77: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/30(月) 16:35:26 ID:lNrpVbmg



…翌日



イロハ『今日は私達の番だよねー』

ノムラ『だよねー』

男「えっと、イロハとノムラ…。悪いけど先に赤松を剪定してもいいかな」

イロハ『楽しみにしてたからだめー』

ノムラ『だめー』





79: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/30(月) 16:36:01 ID:lNrpVbmg

男「ちょっと赤松に訊きたい事があんだよ、すまねえけどさ…」

イロハ『じゃあ松ジイをこっちに呼べばいいよー』

ノムラ『いいよー』

男「いや、内容的にそういうわけにもいかないんだよ…」

イロハ『男、モミジ嫌いなのー?』ウルウル

ノムラ『なのー?』ウルウル

男「んな事は無い!無いから!」

イロハ『じゃあ私達の番だねー』ニッコリ

ノムラ『だねー』ニッコリ

男「…解ったよ、解りました。切らせて頂きます」





80: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/30(月) 17:52:40 ID:lNrpVbmg

…パチン、パチン

男(ケヤキと同じで自然樹形を保たなきゃいけないから、難しいよなー)

プチプチ…

男(多過ぎるところは手で葉っぱを毟って…)

男「痛ってえ!?…ああ、くそ!イラガがついてるじゃねえか…!」

イロハ『防除しないからだよねー』

ノムラ『だよねー』

男「くっそー、そうだった…モミジはこれが多いんだ…後で手がグローブみたいになるんだろなぁ」

イロハ『柿ほどじゃないけどねー』

ノムラ『けどねー』





82: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/30(月) 18:11:26 ID:lNrpVbmg

サクラ『まあ、イラガに刺されたんですか?』

男「…サクラ。いや…大丈夫、ちょっとだけだよ」

イロハ『イラガに刺されるのにちょっとだけとか関係ないよねー』

ノムラ『ないよねー』

男「大丈夫だから、もう手袋したから」

サクラ『男さん、切りながらでいいです。お話…できますか?』

男「ああ、いいよ」





83: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/30(月) 18:32:39 ID:lNrpVbmg

…パチン、パチン

サクラ『その後、幼馴染さんとは何かお話しました…?』

男「…挨拶くらいだな」

サクラ『彼女の雰囲気は、どうなんですか?』

ギコギコ…

男「やっぱり、なんか落ち込んでる風ではある…かな」

サクラ『幼馴染さん、失恋したって言ったんですよね?』

男「…うん、どこの誰に振られたのかは解らないけど」





84: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/30(月) 18:33:28 ID:lNrpVbmg

プチプチ…

サクラ『…もしかして、ですよ?』

ノムラ『ですよー』

サクラ『男さん、幼馴染さんに何か言いませんでした?』

…パチンッ

男「…どういう事?」

サクラ『私…幼馴染さんが、男さん以外の人を好きになるようには思えないんです』

男「…俺は何も言ってないし、あいつは俺には関係ないって言ったよ」





85: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/30(月) 18:34:25 ID:lNrpVbmg

サクラ『何か理由があって幼馴染さんが男さんに振られたと思い込んでるとしたら…そんな風に強がって当たり前じゃないですか?』

男「…都合が良すぎるよ」

プチプチ…

サクラ『でも他の人が好きだったんだとしたら、男さんに対しては今までと何も変わらないはずなんですよ?』

男「………まあ、そうだな」

サクラ『別に今まで通り男さんの部屋に来ればいいはずじゃないですか、その方が少しでも気が晴れるでしょう?』

男『そんな気分になれないくらい、落ち込んでるんだろ』

ギコギコ…
…パサッ

イロハ『…恋ってめんどくさいねー』

ノムラ『ねー』





86: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/30(月) 18:35:16 ID:lNrpVbmg

サクラ『じゃあ、質問を変えます。…幼馴染さんが本当に誰かに振られたんだとして』

男「うん…」

サクラ『どうして男さんは、この機に幼馴染さんの気を惹こうとしないんですか?』

…パチンッ

男「…どうやって」

サクラ『幼馴染さんを慰めて元気づけるなら、男さんが最適なはずじゃないですか。…それなのに』

男「そんな事…ないよ。俺は関係ないって言われたんだぞ」





87: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/30(月) 18:36:13 ID:lNrpVbmg

サクラ『…幼馴染さんって、随分ひどい人なんですね』

男「………え?」

サクラ『ずっと男さんの部屋に入り浸って、男さんが自分に気があるって思い込むくらい思わせぶりな態度をとって』

男「サクラ…」

サクラ『それで本当は他の人が好きで、振られて、男さんには関係無いなんて冷たい事を言って』

男「サクラ、君に何が解る…」
サクラ『…最低な女ですよね』
男「…違う!あいつはそんなやつじゃないっ!」

イロハ『怒った…男、怒った』

ノムラ『怒った』





88: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/30(月) 18:48:43 ID:lNrpVbmg

男「サクラ、あいつを侮辱するのは君でも許さない」

サクラ『ほら、やっぱり…解ってるんじゃないですか』

男「え?」

サクラ『幼馴染さんはそんな人じゃないでしょう?…だったら、何か理由がありますよ』

男「…ずるいな、サクラは」

サクラ『何とでも、男さんが目を覚ましてくれるなら』





89: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/30(月) 18:49:21 ID:lNrpVbmg

男「これじゃ、ケヤキに怒られちゃいそうだな」

サクラ『はい?』

男「何でもないよ…ありがとう、サクラ」

イロハ『男、手が止まってるー』

ノムラ『止まってるー』

男「ああ、ごめん。…もうすぐだからな」





90: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/30(月) 18:49:57 ID:lNrpVbmg

プチプチ…

男(そうだよな、俺が尻込みする必要は無いんだ)

…パチン、パチン

男(メールでもしてみる…かな)

ギコギコ…
…パサッ

男(あいつが落ち込んでるなら、何か美味いもんでも食いに誘ってみるか)

イロハ『すっきりしたねー』

ノムラ『ねー』

男「俺も少し、すっきりしたよ」

イロハ『何がー?』

ノムラ『何がー?』

男「恋を患う胸の奥…かな?」

イロハ『…臭いねー』

ノムラ『ねー』





92: ◆M7hSLIKnTI:2013/09/30(月) 23:27:13 ID:lNrpVbmg



…その夜、幼馴染の部屋



幼馴染(…まだ8時かぁ、時間経たないな…)

幼馴染(私…男の部屋に行かなくなったら、男と会わなくなったら…何もする事無いんだ)

幼馴染(学校や休日なら友達と過ごす事もできるけど、平日の夕方から夜なんて…本当に何も無い)

幼馴染(今まで思った事も無かったなぁ…)

幼馴染(私、こんなに男に依存してたんだね。男はきっと、それに疲れちゃったんだ)

幼馴染(こんな女を恋人にしたら、もっと疲れちゃうよね…)

幼馴染「でも…」

幼馴染(声に出しちゃ、だめなんだけどな…)

幼馴染「私…男がいなきゃ…だめなんだよ…」

幼馴染(髪も切ったのに、ちっとも諦め切れてないや…)





93: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/01(火) 10:00:26 ID:lNrpVbmg

キラキラリーン…ピコーン

幼馴染(…メール、誰だろ)

幼馴染(男…だったら、いいな)

パカッ

幼馴染(本当に男からだ…!)





94: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/01(火) 10:01:00 ID:lNrpVbmg



件名…どうしてる?
本文…無理もないけど、最近元気が無いな。
よかったら今週末、どこか遊びに行きませんか?
朝、幼馴染の迎えが無いからいつも遅刻しそうになるよ。
元気出せよなー!





95: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/01(火) 10:01:32 ID:lNrpVbmg

幼馴染(男…なんか複雑だよ。まあ私の失恋相手が男だとは伝えてないんだから、当たり前かな)

幼馴染(でも、嬉しい)

幼馴染(もう一回…ただのお友達からやり直してでも、頑張れば私に振り向いてくれる…?)

幼馴染(今までの馴れ合い過ぎた私から変われたら、恋人のイメージ…持って貰えるかな)

幼馴染(返信…どうしよう。男相手のメールに悩むなんて初めてだなぁ)





96: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/01(火) 10:07:30 ID:lNrpVbmg



件名…Re:どうしてる?
本文…ありがとう、楽しみにしてるからね。また前の日に連絡します。
おやすみ、男。



幼馴染(シンプル過ぎるかな…でも、あんまり書き込むと面倒臭い感じになりそうだし)

幼馴染(うう…どうしよ…ええい!送信しちゃえ!)

…ピッ

幼馴染(…送っちゃった、はああ…緊張した…)

幼馴染(よし、がんばろう…!恋人のイメージがわかないとは言ってたけど、嫌いだって言われたわけじゃないんだから)

幼馴染(チャンスはある!…はず!…たぶん!…きっと…)





97: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/01(火) 12:39:31 ID:lNrpVbmg



…男の部屋



…バチコーイ!ピコーン

男「返信きたー!?」

男(やっぱ幼馴染だ!…うおお、あいつのメールでドキドキするなんて初の感覚…)

男(開封するの怖えぇ…!見るの明日にしようかな…)

男(って、アホか!もし『明日からまた迎えに行くからね、はぁと』とか書いてあったらどーすんだ!…いや無いな、うん…無い)

男(ええい、もう届いた内容は変わらねえんだ!…いつ読むの!?)

男「…今でしょ!」

…ピッ





98: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/01(火) 12:40:21 ID:lNrpVbmg

男「………!!!」

男(よっしゃ!とりあえず好感触…!)

男(…はあああぁぁぁ、なんだこの安堵感と疲労感は)

男(まあ焦らずに…とにかく今度の休みは、あいつの傷心を労わって自分のポジションを上げなきゃな)

男(…幼馴染相手に、こんな風に普通に片想いする事になるとは…)

男(でもなんか、新鮮だな…)





99: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/01(火) 14:37:49 ID:lNrpVbmg

男(あいつを慰めるのは当たり前として、何かもうひと押し…武器が欲しいな)

男(やっぱ思いつくのは今までの時間…だよなあ)

男(無為に過ごしてしまったけど、この十数年は俺達にとって大事な記憶には違いない)

男(最近の事はもちろん覚えてるけど…忘れかけたような懐かしい記憶)

男(これは俺以外の男は持ってない武器になるんじゃないか?)

男(…たしか、リビングの書棚にアルバムあったな。二人で写ってる写真もあったはず)

男(よし…夜更かし覚悟で見てみるか)





100: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/01(火) 14:38:42 ID:lNrpVbmg

男母「あらー?珍しいわね、アルバムなんか出して」

男「ああ、ちょっとな」

男(…ええと、これかな?)

…ドサッ
パタッ…パタッ…

男(おお…!中学校の入学式!そっかー、女子はこんな制服だったなー。…可愛いなー、幼馴染)

男(これは…ウチの庭で流し素麺した時のか、ちょっと映りがイマイチ)





101: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/01(火) 14:39:22 ID:lNrpVbmg

パタッ…パタッ…

男(あんまり無いんだなー、これは…そっか二家族揃ってキャンプした時のやつか。…これは結構いいな)

男(まあこの頃はもうデジカメだったもんなー、ほとんどPCの中かぁ)

男(もうちょい古いやつ…小学校くらいの、これかな?)





102: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/01(火) 14:41:43 ID:lNrpVbmg

…ドサッ
パタッ…パタッ…

男(おお!あるある!…運動会のやつ、遠足のやつ…)

男「うおっ!?」

男母「どうしたの変な声出して?」

男「な…なんでもない!」

男(庭先のビニールプール…小学3年くらいか?…二人とも素っ裸じゃん)

男(幼いけど顔は今の幼馴染とそんなに変わらない…これはヤバイ、お宝発見!)

男(後でこっそりスキャンして隠しフォルダ行きだな…。携帯にも保存しとこ)





103: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/01(火) 14:44:30 ID:lNrpVbmg

男(ん…?こっちのアルバムは、えらい古いな…)

…ドサッ
パタッ…パタッ…

男(写真、白黒じゃん。しかも写真館みたいなとこで撮ったのしか無えぞ。よっぽど昔だな…)

パタッ…パタッ…

男(…ん?…んん!?)

男「オカン、これ…誰だ?なんか俺にそっくりなんだけど」

男母「ええ?…あ、これはアンタの曾祖父さんよ。本当にそっくりよねぇ」

男「びっくりだよ…あ、そういえば」

男母「そうそう、アンタの名前も曾祖父さんからとったのよね。字は違うけど」

男「そっか…昔、聞いた事あったなー」

男母「次のページ見てごらんなさいな、美人さんがいるわよー?」

男「まじか、どれどれ…」





104: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/01(火) 14:45:16 ID:lNrpVbmg

…パタッ

男「……!!!」

男母「…ね?それ、アンタの曾祖母さんよ、綺麗な人でしょ」

男「曾祖母…ちゃん…?」

男(これ…サクラだ…!)





105: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/01(火) 14:45:49 ID:lNrpVbmg

男母「名前は片仮名で『サクラ』っていってね。そうそう…アンタが剪定してくれた桜の木は、二人の結婚記念樹なのよ」

男母「その写真の時、曾祖母さんのお腹にはアンタのお祖父さんがいたの。でも、産んですぐに曾祖母さんは亡くなったそうよ。産後の肥立ちが悪かったって…」

男「曾祖父ちゃんは、目が見えなかったよな…」

男母「覚えてるのね。アンタが7歳位の頃に亡くなったけど、戦地で目を負傷してね…。それでも命は助かって帰国したら妻は子供を遺して亡くなってるし、辛い人生を送った人だったわ」

男「俺が7歳…十年前か」

男母「目が見えなくても、庭の桜が咲くとその下で曾祖母さんに語り掛けながらお酒を飲んでたねぇ」

男母「普段は年相応な話し方をする人だったけど、その時だけは結婚当時みたいに若々しく、凛々しく語りかけてたわ…」





106: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/01(火) 14:47:24 ID:lNrpVbmg

男母「曾祖父さんが亡くなったのは三月のはじめだった。…最期の言葉で『桜が咲くのを見たい』って言ってたのが、忘れられなくてねぇ…」

男「曾祖父ちゃん…」

男母「その年の桜は一番綺麗に咲いたわ…でも曾祖父さんは見られなかった。不思議な事に次の年から桜は咲かなくなったのよ」

男(そうか…ケヤキの言った事は、そういう意味か)

男(俺が曾祖父ちゃんにそっくりだから…)

男(サクラは曾祖母ちゃんの幽霊?…よく解らないけど)

男(でもそれならどうして、そう言ってくれないんだろう…)

男(訊かない方がいいのかな?…そうだ明日、赤松のジイさんとやらに訊いてみよう…)





109: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/01(火) 22:08:37 ID:lNrpVbmg



…翌朝



…ガチャッ

幼馴染(どうしよ…昨日のメールで、迎えに行くって書けば良かった…)

『朝、幼馴染の迎えが無いからいつも遅刻しそうになるよ』

幼馴染(せっかく男がそう書いてくれてたのに、バカだなぁ…私)

幼馴染(行ってもいいかな…行ってみようかな…)

幼馴染(…ダメでは無い…よ…ね?)





110: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/01(火) 22:09:20 ID:lNrpVbmg

ピンポーン…

男母「あら幼馴染ちゃん、おはよう。髪型すっきりしたわねー、可愛いわよ」

幼馴染「あ、お…おはようございます。あの…男は…」

男母「それがねぇ…」

男「オカーン!制服はー!?あああぁぁ、寝ぐせだらけだしいいぃぃぃ!!」

バタバタバタ…!

男母「なんだか昨日やたら夜更かししたみたいで、この通りなのよ。幼馴染ちゃん、今日はいいから先に行きなさいな?」

幼馴染「は、はい…」





111: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/01(火) 23:12:02 ID:lNrpVbmg



…教室、休み時間



モブ女「…キノウノドラマミター?」

モブ女「ミノガシタノヨー、デモロクガシタカラー」

幼馴染(結局、男…大遅刻しちゃってたなぁ)

モブ女「エー、ハナシチャオッカナー」

モブ女「チョ、マテヨ!」

幼馴染(…やっぱりもっと早く、前みたいに私が迎えにいかなきゃダメなんだよ!)





112: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/01(火) 23:13:10 ID:lNrpVbmg

モブ女「エットネー、アノネー」

モブ女「ヤメテヨー!タノシミニシテルノー!」

幼馴染(男にとっても私がいなきゃダメなんだね!)

モブ女「ヒャクバイガエシダ!」

モブ女「ソレ、ニチヨウノジャナイノー!」

幼馴染(男は週末、私を誘ってくれたんだし!やっぱり、望みは充分にある!)

モブ女「ヤレー!オオワダー!」

モブ女「キャハハハ!ニテナーイ!」

幼馴染(絶対、男を振り向かせてやる!見てろー!)





116: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/02(水) 08:37:50 ID:lNrpVbmg

幼友A「あの…幼馴染ちゃん?」

幼友B「なんで天井に向かって拳突き出してんの?」

幼馴染「え!?あ…いや、ちょっとボーッとしてた!あはは…」

幼友A「いや、ボーッとしてる感じじゃなかったけど」

幼友B「まあいいや…幼馴染ちゃん、お客さん来てるよ」

幼馴染「お客さん?」

幼友A「たぶん隣のクラスの男子、これはアレじゃないのー?」

幼友B「幼馴染ちゃん、本当に男くんとは別れちゃったの?」

幼馴染「え…男とはもともと付き合ってはないし…」

幼友A「はぁ…そういうのはいいから、見え透いてるし」

幼友B「そうそう…ま、どうする?断っとこうか?」

幼馴染「…うーん、まあ…行ってみる」





117: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/02(水) 08:56:41 ID:lNrpVbmg

モブ友「キノウミタオンナノコ、オボエテル?」

モブ友「モチロンヨ!スゲェカワイカッタヨナー」

男(…夜更かししすぎた、眠い)

モブ友「シカモ、チラチラコッチヲミテキテタシ」

モブ友「ソリャオマエガガンミシテタカラダロ」

男(結局、アルバム見るだけで日付変わったし…その後はお宝写真のスキャンと活用に勤しんだし)





118: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/02(水) 08:57:20 ID:lNrpVbmg

モブ友「モシカシテダケドー!」

モブ友「モシカシテダケドー!」

男(本当は今朝、早起きして幼馴染を迎えに行ってみたかったんだけどなー)

モブ友「オイラノズボンノチャックガアイテタンジャナイノー!」

モブ友「ゼンゼンモジスウアッテネーシ!」

『ありがとう、楽しみにしてるからね』

男(まあ週末が勝負だ、それまではこのメールを励みにするさ…)





119: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/02(水) 08:59:57 ID:lNrpVbmg

男友A「なに溜息ついてんだよ、似合わねえな」

男「心配するなら、ひと言多いよ」

男友B「心配してないからな」

男友A「じゃなくて、お前いいのかよ?幼馴染ちゃんの事」

男「どういう意味だよ?」

男友B「お前ら別れたって噂が広まってんぞ?」

男「そもそも付き合っちゃないけど…それは嬉しくはねえな」

男友A「だろ?でも…さっき幼馴染ちゃん、隣のクラスの奴に呼び出されてたぞ」

男友B「ありゃあ噂を信じて告白する気だろうな」

男「まじか…!?」

男友A「行けよ、手遅れになんぞ?」

男友B「向こうの階段の方に行ったから、たぶん屋上だろ」

男「…サンキュ、行ってみるわ!」





120: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/02(水) 09:24:06 ID:lNrpVbmg



…屋上、ドアの内側



男(そーっ…とね…)

…ガチャッ

男(…いた!…何か話してる)

男(あー、見た事あるわ…確かに隣のクラスの奴だ)

男(くそ、結構イケメソじゃねーか)





121: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/02(水) 09:24:37 ID:lNrpVbmg

イケメン「ごめんね、急に」

幼馴染「ううん、いいけど…」

イケメン「日差しのある屋上でも、随分肌寒くなったよね」

男(うるせーよ、何くっちゃべってんだよ)

幼馴染「そうだね、…えっと」

イケメン「うん、ごめん。本題に入るよ…幼馴染さん」

男(当たり前だけど、やっぱ大事な話ってやつか…)

イケメン「ずっと付き合ってた彼氏と別れたって、本当なのかな」

幼馴染「男とは付き合ってたわけじゃ…」

男(…ぐはっ!自分もそう言ったけど、聞くとダメージでかいぜ)





122: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/02(水) 09:25:10 ID:lNrpVbmg

イケメン「そうなの?いつも一緒にいたから…」

幼馴染「男とは『おさななじみ』だから」

イケメン「そうか、じゃあ遠慮はしなくてよかったのかな」

男(しろよ!空気読み続けろよ!)

イケメン「幼馴染さん、俺…君の事が前から好きだったんだ」

幼馴染「…あー、うん…えーと」

イケメン「よかったら、付き合ってはくれないかな…?」

幼馴染「…ごめんなさい」

男(よし!ナイス!さすが幼馴染!あんにゃろ、俺がフラれた場所で告白した罰だ!)





123: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/02(水) 09:25:52 ID:lNrpVbmg

イケメン「どうして?…って訊いてもいいのかな」

幼馴染「イケメンさんの事、全然知らないし…」

イケメン「それはこれから知って欲しいんだけど」

幼馴染「うん…正直に言うと、私…好きな人がいるの」

男(………幼馴染)

幼馴染「フラれたみたいなものなんだけどね、まだ…諦められない」

イケメン「そうなんだ…そいつが憎いなぁ」

男(…戻るか)

幼馴染「だから、ごめんなさい。気持ちは嬉しかったよ」

イケメン「うん、こっちこそごめんね。話…聞いてくれてありがとう」





124: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/02(水) 09:27:17 ID:lNrpVbmg

…ガチャッ
トボトボ…

男(…落ち込んでるだけじゃなく、まだ好きなんだな)

男(さっきのイケメソと俺、似たようなもんか…顔は似てないけど)

男(…やっぱ、無理なのかな)

男(週末、俺…ちゃんと笑えるかなぁ…)





125: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/02(水) 12:35:17 ID:lNrpVbmg



…夕方、男宅の庭先



プチプチ…

松ジイ『まだまだ葉毟りの手つきがおぼつかんのぅ』

男「勘弁してよ、プロじゃないんだから…」

松ジイ『ああ、構わん構わん…ワシは赤松じゃからな、黒松ほどキチッと造り込まんでええぞ』

…パチンッ

男「やっぱ松はムズいわ…手間かかるなぁ、今日じゃ終わらない」

松ジイ『すまんのぅ、じゃが良くなっていっとるぞ』





126: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/02(水) 12:35:49 ID:lNrpVbmg

プチプチ…

男「それで松ジイ…話の続きなんだけど」

松ジイ『おお…サクラがお前さんの曾祖母じゃという事には気付いたんじゃったな』

男「どうしてサクラはその事を俺に言わないんだろう…松ジイは知ってるのか?」

松ジイ『まあハッキリ聞いてはおらんがな…。それはサクラの気持ちだけの話じゃろうて』

男「気持ち…?」

松ジイ『お前と曾祖父が瓜二つじゃというのは解っとるんじゃろう?…ならば自ずと解らんかの?』

男「…解らないから訊いてるんだよ」





127: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/02(水) 12:36:51 ID:lNrpVbmg

プチプチ…

松ジイ『若いのぅ…。サクラもお前が曾孫だという事は当たり前じゃが解っておる。しかしこう似ていては、自らの愛した男の影を重ねずにはおれんじゃろう』

男「曾祖父ちゃんの影…か」

松ジイ『見かけだけの事と知り、ましてお前が他に想う娘がおる事を知ってもなお…夫の姿をしたお前さんの前では、曾祖母ではなく一人の女でありたいのじゃろうなぁ…』

男「…なんか複雑な気分だよ」

…パチッ、パチンッ

松ジイ『無理も無いがの…じゃがサクラの思いもよく解る。しかも、お前さんは目が見えるからのぅ』

男「もしかして、曾祖父ちゃんが見られなかった花を俺に…?」





128: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/02(水) 12:37:29 ID:lNrpVbmg

松ジイ『お前さんが剪定をしたからというだけではなく、今年は害虫のシロヒトリが多かったからのぅ。あの桜は晩秋を待たずしてほとんど葉が無い』

松ジイ『ワシには難しい事は解らんが、桜が花芽を持ちながら春と気候の似た秋に花を咲かせないのは、開花を抑制する物質が葉から供給されるからじゃそうな』

男「じゃあ、葉が無いって事は…」

松ジイ『この秋に狂い咲きをするじゃろうなぁ。気付かんかったか…?既に花芽は膨らみつつあるぞ』

男「でもケヤキが、今度花を咲かせたらあの桜は枯れるって…」

松ジイ『それも生ある者の定めじゃよ。悲しくはあっても、嘆く事では無い…』

男「………」

松ジイ『ケヤキ坊主の言った通りじゃ…最期の花を咲かせ、お前さんに見せられるならサクラも嬉しかろう』

男「うん…でも本当なら、曾祖父ちゃんに見て欲しかったな」





129: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/02(水) 12:38:42 ID:lNrpVbmg

松ジイ『…男よ、実はワシら木の精には二つの種類がある』

男「へえ…?」

松ジイ『ひとつはまさに木の化身、木魂(こだま)と呼ばれておる。ケヤキ坊主やカナメ、モミジの双子がそうじゃな』

男「じゃあサクラは…やっぱり曾祖母ちゃんの幽霊?」

松ジイ『幽霊という言葉には語弊があるのぅ。思い遺す念の強い魂が、生前に自らの心の拠り所としていた木に生命力を借りた姿…それがサクラをはじめとした宿木の精じゃな』

男「宿木の精…」

『私はこの桜の精…というのが相応しいかわかりませんが』

男(確か…そう言ってたっけ)

松ジイ『サクラが思い遺したのは、光を失った夫の支えとなれなかった事…そして宿木の精となってからも、自らの咲かせる花を見せる事ができなかった事…』

男「…悲しいな」





130: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/02(水) 12:39:49 ID:lNrpVbmg

松ジイ『男よ…その気持ちがあるのなら、その時はお前さんがサクラの想いを果たさせてやってくれ。…ワシも力になろう』

男「できるだけの事はするよ。サクラのためなら…」

松ジイ『…うむ。やはり、良く似ておるのぅ』

男「…松ジイは、曾祖父ちゃんを知ってるのか?」

松ジイ『ああ、よく知っておるよ…。ワシもサクラと同じ頃からの、この赤松の宿木の精じゃからのぅ』

男「松ジイも?…松ジイは何を思い遺してたんだ?」

松ジイ『まあまあ…ワシの話は良いじゃろ。ほっほっほ…』

男「なんだよ…じゃあ違う事。松ジイはそんな年寄りの姿だけど、なんでサクラは若いんだ?」

松ジイ『死んで魂だけの存在となったワシらは、見かけの年格好など自由じゃよ。最初から精霊として生まれる木霊はそうはいかんがの…』

松ジイ『お前さんの曾祖父は晩年もサクラに結婚当時のつもりで語りかけておったからな、サクラもその時の姿でおるんじゃろうて』

男「じゃあ逆に、なんで松ジイはわざわざ年寄りの姿でいるんだ?」

松ジイ『ほっ、決まっておるわ…!ワシが若い頃の姿でおったらサクラもカナメもワシに惚れてしまうからのぅ!ほっほっほっ…』

男「はいはい…そういう事にしとくよ」

パチッ、パチンッ…





133: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/02(水) 16:14:34 ID:lNrpVbmg



…次の朝



ガチャッ…

幼馴染「行ってきます」

幼馴染母「はいはい、行ってらっしゃい」

…バタン

幼馴染(…迎えに行きたいけど)

幼馴染(もし見られたら、イケメンさんに悪いよね…)

幼馴染(男とは付き合ってないしフラれたけど、やっぱり好きなのは男なんだ…って、はっきり言うべきだったな)

幼馴染(私、相変わらず煮え切らない…こんなだから男も恋人のイメージ持てないんだよ)

幼馴染「はぁ…」

幼馴染(独りで行こう…迎えに行くとしても、週末に男とデートして…その時の雰囲気次第でその後からにしよう)

幼馴染(せめて前みたいに…なりたいな…)

トボトボ…





134: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/02(水) 16:15:16 ID:lNrpVbmg

ガチャッ…

男「行ってくるわー」

男母「あら?今日は早いじゃないの。行ってらっしゃい」

…バタン

男(よっしゃ、幼馴染を迎えにいくぞー)

カナメ『あ、出てきた!男ー、ちょっと来て!』

男「カナメ、おはよう…どしたんだ?…朝から」

カナメ『見てのお楽しみ!』

男「いや、時間が…まぁ、ちょっとだけだぞ」





135: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/02(水) 16:16:29 ID:lNrpVbmg

イロハ『男、綺麗だよ。見てー』

ノムラ『見てー』

男「何がだよ?…あっ…」

カナメ『桜が狂い咲きしてるんだよ!まだちょっとだけど』

イロハ『私が見つけたのー』

ノムラ『見つけたのー』

男(本当に…咲いちまった…)

カナメ『うそ!ボクだよ!』

イロハ『私だもんねー』

ノムラ『ねー』





136: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/02(水) 16:17:10 ID:lNrpVbmg

男「…サクラは?」

サクラ『いますよ、ここに』

男「ああ…よかった」

カナメ『何がよかったの?』

男「いや、何でも無いよ。…この桜の花を見るのは久しぶりだな」

サクラ『春じゃなくてごめんなさい。まだ数輪だけど、もっと咲くと思うんですが…』

男(そんな無理をしなくていいんだ、サクラ…)

カナメ『何か男、辛そう?』

男「ば…馬鹿言えよ、せっかく綺麗な花が見られるのに」

ケヤキ『カナメ、お前はこっちに来い。双子もだ…』

カナメ『えー、何でー?』

イロハ『なんでー?』

ノムラ『なんでー?』

ケヤキ『…いいから、来い』





137: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/02(水) 16:17:45 ID:lNrpVbmg

サクラ『ケヤキさんに感謝、ですね』

男「サクラ…」

サクラ『聞いてるんでしょう?…桜がこの後どうなるか』

男「…うん、ケヤキと松ジイから」

サクラ『大丈夫、明日枯れるってわけじゃありませんから。たぶんこの花が散って、来春に花や葉を芽吹く事は無いと思いますけど…』

男「サクラ、君は…?」

サクラ『…解りません。宿木が生きていても、私に分ける生命力が足らなくなれば…消えるんだと思います』

男「………」





138: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/02(水) 16:18:30 ID:lNrpVbmg

サクラ『でも、少なくとも花が散らない内は大丈夫だと思いますから』

男(でも、あと数日ってとこか…)

サクラ『男さん、必ず最期の花…その満開の時を見て下さい。若い木のように見事では無いでしょうけど、精一杯咲かせますから』

男「…解った、必ず見るよ」

サクラ『さあ、学校に行かないと。遅れちゃいますよ?』

男「あ、うん…」

男(もう幼馴染は行っただろうな…)

サクラ『行ってらっしゃい…』ニコッ

男「…いいね、サクラの笑顔」

サクラ『ふふ…ありがとうございます』

男「…行ってきます」





139: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/02(水) 16:19:00 ID:lNrpVbmg



《…サクラ、行ってくるよ》

《はい…あなた、必ず生きて…帰ってきて下さいね》

《ああ、俺は君とお腹の子の為に戦いに征くんだ。お国の為は…その次さ》

《う…うぅ…あなた…っ》

《サクラ、笑ってくれ。君の笑顔を焼きつけておきたい。そして俺の姿が見えなくなるまで、万歳と言ってくれないか…》



ザ…ザザッ…

サクラ『行ってらっしゃい…男さん』ザザッ…





141: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/02(水) 20:34:26 ID:lNrpVbmg



…三日後、土曜日の夜



男(結局あれからは幼馴染の所にも行かなかったな…)

男(まあ、今はサクラと過ごしてあげなきゃだし…仕方ない)

男(剪定して枝数が少ない事を思えば、もう桜の花は五分咲きくらいか…)

男(明日…幼馴染を誘ってるけど、どうするかな…)

男(散るまでは大丈夫…って言葉を信じれば、早くとも明日や明後日にサクラが消える事は無いはず)

男(ごめんな、サクラ…。明日だけ、俺に時間をくれよな)

男(曾祖母ちゃんであるサクラも大切な人だけど、俺にとって幼馴染は…)





142: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/02(水) 20:36:30 ID:lNrpVbmg

…バチコーイ!ピコーン

男「うおっ!?」

男(めめめ…メールだ、そういえば前日に連絡するって返信に書いてたっけ)

男(この受信音、変えよう…心臓に悪いわ)

…ピッ



件名…こんばんは
本文…まだ起きてる?それと明日の事は覚えてますか?
最近たしかに落ち込んでたから、とても楽しみにしてます。
どこか行くところは決めてるのかな?私はどこでも構いません。
それと、せっかくこうして改まった形で誘ってくれたんだから、朝はどこかで待ち合わせをしてはどうかと思います。
そうじゃなくてもいいけど、読んだら返信してくれると嬉しいな。



男(…可愛いじゃねえか)





143: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/02(水) 20:37:27 ID:lNrpVbmg

男(さて、返信…だな)

男(………)

男(………)

男(…うおおおぉぉぉ!何て返せば好印象なんだー!?)

男(『俺もどこでもいいよ』だと…たぶん困らせるだけだよな)

男(『映画でも行く?』…今、何を上映してるのかさっぱり解らねえ…)

男(『遊園地行こうか』…落ち込んだ幼馴染がそこまでテンション上げられるだろうか)

男(『身体で慰めてやんよ』…ダメ、ゼッタイ)

男(…くはぁー、悩みすぎてハゲるわ)

男(あんまり返信遅いと感じ悪いよなー)





144: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/02(水) 20:38:20 ID:lNrpVbmg

男(えーと…えーと…)



件名…Re:こんばんは
本文…俺も楽しみにしてるよ。
とりあえず駅前で九時に落ちあって、適当に買い物でもしよう。
街で昼メシ食って、それから荷物を駅のロッカーに預けて電車で海浜公園でも行こうか。
やっぱり気晴らしには海でしょ。
朝、駅まで俺は自転車で行くから幼馴染はバス使いなよ。
待ち合わせるなら同じバスに乗っちゃうと恥ずいぜ。



男(無難…だよな?)

男(…大丈夫、かな?)

男(やっぱ書き直そうかな…イヤイヤ待てまて、良くなる保証は無いぞ)

男(…送ってしまえ!)

…ピッ

男(送ったあああぁぁぁ!)





145: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/02(水) 20:39:20 ID:lNrpVbmg

男(…この待ち時間がキツいんだよなぁ)

男(よし、明日のシミュレーションをしよう。そうだ、それがいい)

男(まず、駅前で会うよな…時間的に挨拶は『おはよう、待った?』だろう…。え、それどっちが言うんだ?)

男(俺は自転車だから、駅に着くのは家を出る時間次第…)

男(九時に余裕をもって着こうと思えば、8時20分頃には出とかなきゃな…)

男(たぶんそうすればさっきの台詞は幼馴染が言う事になるはずだろ…?)

男(それに対しては、やっぱ『いや、今来たところだよ』だろうな…それしか無えだろう)

男(よし、声に出してみよう)

男(せーの…)

…バチコーイ!ピコーン

男「うおあぁぁっ!?」

男(ぜってえ消す!この着信音、消去だ!)





146: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/02(水) 20:40:50 ID:lNrpVbmg

男(はぁ…はぁ…と、とりあえず返信は…)

…ピッ



件名…Re:こんばんは
本文…本当だね、同じバスになっちゃったら台無しだよね。
プラン、とても良いと思います。
でも自転車で疲れない?男なら大丈夫かな?
では明日を楽しみに、おやすみなさい。



男(…イエスッ!手応え充分!自信は半分!)

男(よし…寝よう。まだ九時前だけど、幼馴染の『おやすみなさい』を胸に…寝る!)

男(…たぶん寝付けねえだろうけどな)





147: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/02(水) 21:46:48 ID:lNrpVbmg

《…すまんな、赤松》

《何を言ってやがる。サクラが貴様を選んだんだ、胸を張れよ》

《ああ…必ず俺が幸せにする、約束しよう》

《言ったな?よし…貴様、自分の家の庭先に結婚の記念樹にサクラを植えると言ってたが、その庭の隅でいいからアカマツも一本植えろ》

《それは構わんが…》

《そのアカマツは俺だ。貴様がサクラを泣かせないか、目を光らせておいてやる》

《…はは、気が抜けんな》





148: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/02(水) 21:47:49 ID:lNrpVbmg

《…赤松、頼みがある》

《どうした、水臭い言い方だな》

《もし戦地で俺が死んだら、サクラを…そして腹の子を託したいんだ。こんな事、貴様にしか頼めない》

《ふざけるな、貴様は死なせん!俺の命に代えてもな…!貴様の死などどうという事は無いが、サクラに悲しい顔だけはさせんぞ!》





149: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/02(水) 21:49:27 ID:lNrpVbmg

《赤松!赤松…!どこにいる、返事をしろ!》

《…ここに…おるわ、貴さ…まの…足元だ…》

《赤松!よかった…生きているのか!》

《戯けた事…を…はらわたを晒して…生きていられるか…息をしているだけ…だ…》

《怪我をしているのか…!?赤松、立てないのか!?》

《貴様…目をやられ…たか…。いいか…生きて…帰れ!…必ず…》

《赤松…!死ぬな!》

《…投降…するんだ…お国のた…めの…自決など…決してするな…》

《もう喋るな!すぐに救護を呼ぶ…!くそ、どっちに本隊が…!?》

《生きろ…サクラの…元へ…》

《赤松!赤松っ!》

《………》

《赤松…逝った…のか…》





150: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/02(水) 21:50:57 ID:lNrpVbmg

《…嘘、だろう》

《サクラが…死んだ…だと》

《俺は…何の為に…》

《サクラ…サクラ…何故…お前が逝かねばならんかったのだ…》

《俺には…我が子を見る事すら叶わんのだ…サクラ…》

《これほど悲しいのに…癒着した瞼では涙すら流せんのだ…》

《サクラ…許せ…生きている俺を…許してくれ…》





151: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/02(水) 22:03:43 ID:lNrpVbmg

男(…う…ん?…朝か…)

男(何の夢だ…今のは。戦争…失明…?)

男(赤松って…松ジイ…?)

男(もしかして、曾祖父ちゃんの記憶…なのか)

男(どうしてそれを俺が…)

男(…ん?今、何時だ?)

…ピッ

男「もう七時半じゃねーか!やっべ…!」





153: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/02(水) 22:29:54 ID:lNrpVbmg

ガチャッ!

男「行ってきます!」

…バタンッ!

男「ん…?」

イロハ『男!大変ー!』

ノムラ『大変ー!』

男「おはよう、イロハとノムラ。どうしたんだ…?」

カナメ『男…!』

男「ああ…カナメも、おはよう」

カナメ『それより、サクラが…!』

男「サクラ…!?」





154: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/02(水) 22:30:57 ID:lNrpVbmg

カナメ『サクラ!大丈夫…!?』

イロハ『サクラ…起きちゃ、めーよ』

ノムラ『めーよ』

サクラ『カナメちゃん、大丈夫…だから…』

男「サクラ…!ちっとも大丈夫そうじゃないぞ…」

ザ…ザザッ…
サクラ『…男さん、ごめんなさい…心配をかけて…』ザザッ…

男(サクラの姿…輪郭が、時々乱れる…ノイズみたいだ)

男「サクラ…もう、だめなのか…」





155: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/02(水) 22:32:09 ID:lNrpVbmg

サクラ『…まだ、もうしばらくは大丈夫…。少し…木から伝わる生命力が…落ちてる…だけ』

男「…でも」

男(もう花は七部咲き…今夜が満開になるな…)

サクラ『男さん…今日は幼馴染さんと…会うんでしょ…う?…早く…遅れた…ら…』ザ…ザザッ…

男「だめだよ…サクラがこんな時に…!」

サクラ『いけま…せん…男さん、本当に…大丈夫…だから』ザザッ…





156: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/02(水) 22:33:16 ID:lNrpVbmg

カナメ『男…サクラ、どうなっちゃうの…?』

男「それは…」

ケヤキ『カナメ…サクラはもうすぐ、消える』

カナメ『そんな…やだよ…』

ケヤキ『宿木の桜がもう枯れようとしてるんだ、仕方がない…』

カナメ『やだ…やだよぅ…うわああぁぁん』

ケヤキ『カナメ…』ギュッ





157: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/02(水) 22:35:04 ID:lNrpVbmg

男「サクラ…今日は俺、傍にいるから…」

サクラ『絶対に…だめ…そんな…の…許しません…』ザザッ…

松ジイ『男よ…サクラの言う事を聞いてやれ』

男「でも、松ジイ…」

松ジイ『大丈夫じゃ…まだ消えはせん。サクラにとっては苦しい時間かもしれんが、あと二日ほどはもつじゃろう…』

イロハ『サクラ、消えちゃやーよ』

ノムラ『やーよ』

松ジイ『花の満開はおそらく今夜…男よ、今はサクラの願う通りにするのじゃ。その代わり夜は必ず、傍にいてやってくれ…』

サクラ『男…さん…お願い…』

男「…解った。必ず、夕方には帰るから…」

サクラ『男さん…』ザ…ザザッ…

男「…サクラ」

サクラ『…行って…らっしゃい』…ニコッ





160: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 08:30:13 ID:lNrpVbmg



…駅前、午前8時50分



男(げ、もう幼馴染着いてるじゃねーか)

幼馴染「あ…!男…おはよう」

男「おはよう…待たせたか?」

幼馴染「ううん…今さっき来たばかりだよ」

男「そっか、よかった」

男(幼馴染…服、可愛い…)

幼馴染「…どしたの?」

男「え…!?いや、なんでも…」





161: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 08:30:57 ID:lNrpVbmg

幼馴染「朝ゴハン食べた?」

男「いや、オカン起きたばっかだったから」

幼馴染「私も食べてないの。朝マック行こうよ、マフィン食べたい」

男「ああ、いいよ」

幼馴染「………あの」

男「うん…?」

幼馴染「腕、組んで…いい?」

男「え、いい…けど」

幼馴染「…ん」ギュッ

男(…嬉しい、けど…頭の中では誰と腕を組んでるつもりなのかな…)

幼馴染(あんまり焦っちゃ駄目だけど…できるだけ恋人っぽく、男にイメージを持たせるように…)





162: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 08:31:28 ID:lNrpVbmg

幼馴染「んー、美味しー。やっぱり私、朝のマフィン好きだな」

男「うん、昼間のメニューよりいいよね」

男(幼馴染って、美味しそうに物を食べるよな…)

幼馴染「…ごめんね、驕らせちゃって」

男「ばっか、これくらい見栄張らせろよ」

幼馴染「うん…ありがと」

男(サクラ…鯛焼き買って帰っても、もう食べられないかな…)





163: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 08:32:35 ID:lNrpVbmg

幼馴染「男、あの雑貨屋さん行こう」

男「ああ、いいよ…もう十時だから、開いてるな」

幼馴染「本棚ちょっと大きいやつ買ってもらったから、可愛いブックエンド欲しいんだ」

男「コレとか?」

幼馴染「やだよー、そんなメタリックなのじゃなくて」

男「じゃあコレ」

幼馴染「悪くないけど、黒は地味です」

男「やっぱ女の子の趣味は解んねーわ…」

幼馴染「そうだろうねー」





164: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 08:33:29 ID:lNrpVbmg

男「………」

幼馴染「これ、いいかも」

男(…カナメ、泣いてたな)

幼馴染「手前にインデックスが覗くようになってて、書き込みできるんだ」

男(双子には、まだよく解らないんだろうけど)

幼馴染「色、どれにしよう」

男(松ジイ…二日は保つって言ってたけど、なんで判るんだろう)

幼馴染「どう思う?」

男(もしかして前にも木が枯れて、庭の仲間が消えた事あるのかな…)





165: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 08:34:10 ID:lNrpVbmg

幼馴染「………男…?」

男「…ん?…ああ、ごめん」

男(いけね、ボーッとしてた)

幼馴染「どの色がいいと思う?」

男「え…と、桜色…じゃなくて、オレンジとか」

幼馴染「だよね!私もパステルオレンジと赤で迷ってたんだ」

男「そっか、色の趣味は悪くなくて良かった」

幼馴染「よし、赤にしよう」

男「おい」





166: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 11:49:35 ID:lNrpVbmg

男「服とか、見る?」

幼馴染「あー、服は…いい」

幼馴染(女物の服を見るほどオトコの人にとって退屈なものは無いって、何かで見たもん)

男「そっか、じゃあ…」チラッ

幼馴染「…今、スポーツデポの方チラ見したよね。いいよ?」

男「うげ、バレたか。…ちょっといい自転車欲しいんだよな」

幼馴染「今朝のやつ、お母さんのシティサイクルだもんね」

男「そんじゃ、ちょっとだけ」

幼馴染「うん、別に私の買い物だけじゃなくていいんだからね」

男「まあ、今日は自転車買うわけじゃないけどな」





167: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 11:50:25 ID:lNrpVbmg

男「クロスバイク欲しいなー」

幼馴染「違いが判らないよ…」

男「ロードは普段使いにはちょっとな」

幼馴染「これは?可愛いよ?」

男「ミニベロ、悪くないけどね」

幼馴染「高っ!十万円以上するじゃない」

男「それ、まだまだ手頃だよ。高校生には買えないけど」

幼馴染「予算あるの?」

男「バイト代残してるから、五万くらいは出せるけど…」

幼馴染「これは?四万八千円だって」

男「車体だけじゃなくて、あれこれ要るからな…。携帯用の空気入れとか、LEDのライトとか…エンドバーも欲しいし」

幼馴染「色々だねー」





168: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 11:51:05 ID:lNrpVbmg

男「予備チューブや修理キットを入れるサドルバッグも要るし、車体にかけられるのは四万を切るだろうな」

幼馴染「修理キットなんか備え付けるんだね」

男「スポーツ車ならツーリングとか行きたいしな、遠出した先で応急処置できないと」

男(………応急処置…か)

幼馴染「健康的ですねー」

男「結局、消去法でジャイアントのエスケープとかになってくるんだよなー」

男(…桜に応急処置…って、今更過ぎるんだろうな…)





169: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 11:51:42 ID:lNrpVbmg

幼馴染「これだね、格好いいじゃない」

男「安くて充実装備ですげえ売れてるらしい。ただそのせいで、めちゃくちゃ街で見かけるんだよなー」

男(………だけど…)

幼馴染「予算無いのに贅沢言い過ぎでしょ」

男「…ごめん、ちょっとトイレ行ってくるわ」

幼馴染「うん、この辺にいるよ」





170: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 11:52:35 ID:lNrpVbmg

…ピッ

《与作はぁ木ぃーを切るぅぅぅーーー》

男(親方…待ち歌いつもコレだよな…)

親方《ヘイヘイホーーーヘイ…プツッ…もしもし…どうした男くん、珍しいな》

男「あ、親方…すみません休みの日に」

親方《なに、秋はかきいれ時だからね。雨の日以外に休みは無いさ》

男「じゃあ仕事してるんですね。あの…無理を言うんですけど、ウチの桜を看て貰えないでしょうか?」





171: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 11:53:21 ID:lNrpVbmg

親方《ああ、また行こうか》

男「いや、その…できれば今日」

親方《………大事な木なんだね?…昼までは動けんが、午後なら何とかしよう》

男「すみません、本当に無理な事を」

親方《何、他ならん男くんの頼みだ。だが今の現場が遠いから、二時前にはなってしまうだろう…いいかね?》

男「…はい、お願いします」





172: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 12:15:02 ID:lNrpVbmg

男「ごめん、待たせた」

幼馴染「ううん、大丈夫だよ」

男「じゃあ、どこ行く?」

幼馴染「うーん…特に思いつかない。ちょっと歩こう?…何かあるかも」

男「うん…」

男(今が11時過ぎ…か)





173: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 12:15:38 ID:lNrpVbmg

幼馴染「街路樹、少ーしだけ色づいてるね」

男「………」

幼馴染「ね、この木は何の木?」

男「………」

幼馴染「『気になる木』って言ったら怒るよ?」

男「………」

幼馴染「……男…?」

男「…あ、悪い…えっと…ごめん」





174: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 12:16:25 ID:lNrpVbmg

幼馴染「………つまんない?」

男「そんなわけ無いだろ、ごめん…ちょっと考えてたんだ」

幼馴染「この木の種類を?」

男「え?…これはナンキンハゼだよ?」

幼馴染「…違う事なんだ。何を考えてたの?」

男「いや、その…何でもないって。ち、ちょっと早いけど何か食う?」





175: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 12:17:02 ID:lNrpVbmg

幼馴染「さっき食べたばっかりだよ。…じゃあ、もう海浜公園に行っちゃう?向こうでも何か食べるとこあるでしょ」

男「…あぁ…海…か。そうだな…そう言ってたっけ」

男(やばいな…海に行ったら二時には戻れない)

幼馴染「…忘れてたの?」

男「…幼馴染、ごめん」

幼馴染「何が…?」

男「俺、帰らなくちゃいけない」

幼馴染「え…」

男「全部、話すよ…そこのカフェ、入ろう」





176: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 12:46:16 ID:lNrpVbmg

幼馴染「サクラさんは…男の曾祖母さんだったんだ…」

男「うん…」

幼馴染「もう、親方さんには連絡したんだね?」

男「ああ、来てくれるって」

幼馴染「…男、行って」

男「幼馴染…」

幼馴染「自転車、駐輪場でしょ?すぐに行けば一時間もかからないよ。今、まだ12時前だし」

男「本当…ごめん」

幼馴染「いいから、早く。私も後から行く…よ」

男「うん、じゃあ…」ガタッ

幼馴染「………男っ…」

男「……どうした?」

幼馴染「ううん、…気をつけてね」

男「…ありがとう」





177: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 12:51:21 ID:lNrpVbmg

幼馴染(…サクラさん、知らない人じゃない)

幼馴染(消えてしまうなんて、私も…寂しい気はするけど)

幼馴染(ごめん、男…今日はたぶん…私、行けないや…)

幼馴染(今日の事…本当に楽しみにしてたんだよ…)

幼馴染(サクラさん、今日消えてしまうんじゃないんだよね)

幼馴染(明日…会えばいいよね)

幼馴染(…私…こんな嫌な女だったんだ…)





181: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 23:33:33 ID:lNrpVbmg

男「サクラッ…!」

カナメ『男…帰ってきたの…!?』

男「はぁ…はぁ…サクラ…眠ってるのか」

ケヤキ『ずいぶん急いだみてえだな』

イロハ『汗かいてるねー』

ノムラ『ねー』

松ジイ『…とりあえず今は落ち着いておる。良くなったわけではないが…』





182: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 23:34:03 ID:lNrpVbmg

男「みんな…もう少ししたら俺の親方が来る。いい人だけど、姿は隠しておいた方がいいかもしれない」

カナメ『プロの庭師さんって事?…松ジイ、それならサクラ助かる…?』

松ジイ『それは無理じゃろうな…桜の寿命じゃからのぅ…』

男「それでも、やれるだけの事はしたいんだ…」





183: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 23:36:27 ID:lNrpVbmg



…1時間後



親方「男くん…一応できる限りの養生はしたが、おそらく効果は薄い…」

男「…はい」

親方「剪定も君がしているだけに、ほとんど切るところは無かったしね…。いくらかは枝を透かしたけれど」





184: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 23:37:14 ID:lNrpVbmg

親方「しかし、狂い咲きで満開とは…初めて見たよ。これが最期の花だろうが…」

男「…前に使ってた、幹に直接打つ薬はどうなんですか」

親方「あの活力剤は良く効きはするが…この状態ではその場凌ぎにしかならん」

男「その場凌ぎ…」

親方「言わば死を目前とする老人に脂ののったステーキを食わせるようなものだ。食べてすぐは元気も出るだろうが、数日すれば余計に体調を崩すやもしれん」

男「数日…か。…親方、それでもやってもらえませんか」

親方「結果的には木の寿命を早めるだけかもしれんぞ」

男「お願いします…」

親方「いいだろう、それで気が済むなら。だが打てて2本だな、ほとんど幹に生きた所が無い。中も空洞化してしまっている」

男「もっと早く処置していれば…」

親方「そうだな…十年単位で早く処置をしていれば、少しは長らえたかもしれん。…だが、仕方の無い話だよ」

男「はい」





185: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 23:39:02 ID:lNrpVbmg

カナメ『庭師さん、帰った…?』

男「ああ…できるだけの事はしてもらったよ」

ケヤキ『ありゃあ、いい腕だ。剪定にしてもお前とは手つきが違う』

男「うるせえな…年季が違うよ」

カナメ『サクラ…良くなるかな』

ケヤキ『…今のところ木から届く生命力に変わりは無いようだがな』

男「サクラは…?姿は消しているけど」

カナメ『まだ、眠ってるよ』





186: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 23:39:42 ID:lNrpVbmg

ケヤキ『ただでさえ俺達みたいな落葉樹は、そろそろ眠くなる時期だからな』

男「そうか…」

ケヤキ『まあ、お前も休んでな。まだ満開には少し早い、夜にサクラの傍にいてやりゃあいいだろう』

男「ああ…そうする」

カナメ『男…幼馴染ちゃんは…?』

男「後で来るって言ってたんだけどな…今日はもう、あわす顔が無い。とりあえずサクラの事だけ考えるよ」

ケヤキ『…お前も不器用な事だな』

男「ケヤキも、そう見えるぜ?…松ジイもな」

ケヤキ『まあ、ちげえねぇな…』





187: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 23:40:40 ID:lNrpVbmg

ケヤキ『…ジジイ、聞いてたんだろう』

松ジイ『何をじゃ?』

ケヤキ『とぼけるな、アイツはアンタの正体に気づいてるみたいじゃねえか』

松ジイ『ふむ…かもしれんのぅ』

ケヤキ『いい加減にしろよ。アンタ…昨日の夜、何をした』

松ジイ『ほっほっ…さすが、ケヤキ坊主にはバレておったか』

ケヤキ『当たり前だ、真夜中にアンタの気配が薄らいだからな』





188: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 23:41:23 ID:lNrpVbmg

松ジイ『なに…ただの味利きじゃよ』

ケヤキ『…それで、その味はどうだったんだ』

松ジイ『うむ…上手く仕上がりそうじゃ』

ケヤキ『…そうかい』

松ジイ『ケヤキ坊主よ…お前さんも大きくなったのぅ。桜が無くなる事を思えば、もうお前さんがこの庭では一番大きい』

ケヤキ『見かけだけの話だ』

松ジイ『これからはお前さんが守ってゆくのじゃ、カナメだけでなく…双子ものぅ』

ケヤキ『まだ…アンタから教わる事は尽きてない』

松ジイ『ほっほっ…後は長く生きる内に見えてこよう…』

ケヤキ『くそジジイめ…』





189: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 23:42:36 ID:lNrpVbmg



…夜8時、幼馴染の部屋



幼馴染(…結局、行かなかった)

幼馴染(私って自分で思う以上に冷たいのかな…)

幼馴染(ごめんね…男、ごめんなさい…サクラさん)

幼馴染(とても明日から迎えになんて…行けないなぁ)





190: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 23:43:25 ID:lNrpVbmg

ザザッ…

幼馴染(………?)

ザ…ザザッ…ザッ…

幼馴染「何…?誰か…いる…?」

サクラ『幼…馴染さん…』ザザッ…

幼馴染「サクラさん…!?なんで、身体が透けてる…!」

サクラ『…大丈…夫、まだ…ここなら…桜の力が…届く…』

幼馴染「嘘…!だって男の家に入るのも無理だって…!」





191: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 23:44:01 ID:lNrpVbmg

サクラ『…幼馴染さん…ごめん…なさ…い…今日…男さんを…許して…あげ…て…』

幼馴染「違う…!男が帰ったのは当たり前なの…だってサクラさんは…!」

ザザザッ…ザッ…
サクラ『男さん…私の…曾孫…には…貴女が…必要なの…』ザザッ…

幼馴染「だめ…!サクラさん!」

幼馴染(身体がどんどん薄らいでいく…)

サクラ『お願い…男さん…を…支え…て…』





192: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 23:45:02 ID:lNrpVbmg



…男の部屋



カナメ『起きて!男…!』

男「う…うん…?今、何時だ…桜の花は…?」

カナメ『しっかりしてよ…!ボクも長くはいられないの!』

男「カナメ…!?なんで…木から離れて…!」

カナメ『ボクの木はまだ若いから、少しだけなら平気!そんな事より、大変なの…!』

男「どうしたんだ…!?」

カナメ『サクラがいないの…!』





193: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 23:45:41 ID:lNrpVbmg

男「…まさか、もう消えたのか…!?」

カナメ『そんなはずない…つい30分ほど前に話したもの…。昼の手当てが効いたのか、少し楽そうだったから…』

男「…何を話した?」

カナメ『男が…昼に帰ってきたって、それで庭師さんを呼んだんだって』

男「それだけか」

カナメ『そしたら…幼馴染さんは?…って言うから…』

男「置いてきたって…言ったのか?」

カナメ『う…咄嗟に嘘が…うぅ…出てこなくて…』

男「くそっ…!たぶんサクラは幼馴染の家だ、どこかも解らないくせに…!」





194: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 23:46:14 ID:lNrpVbmg



…男の家、庭先



男「ケヤキ!カナメを頼む!俺は幼馴染の家に…!」

幼馴染「男…っ!」

カナメ『幼馴染ちゃん…!』

男「幼馴染…サクラは…!?」

幼馴染「肩に抱えてるよ…!もう見えない位、身体が薄れて…!」

松ジイ『いかん…すぐに桜の木の下へ!』

ケヤキ『手伝おう、男…左肩を抱えろ』

男「わかった…なんて無茶を…」





195: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 23:47:24 ID:lNrpVbmg

カナメ『少しだけ、身体が濃くなってきた…』

イロハ『サクラ、しっかりしてー』

ノムラ『しっかりしてー』

幼馴染「ごめんなさい…私が自分でこの庭に来てたら…」

男「幼馴染のせいじゃない…俺がずっとついておけば良かったんだ」

幼馴染「でもサクラさんは私に伝える事があったから、無理をしたの…」

男「そんなの知らなかったんだから、幼馴染が気に病む事じゃない」





196: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 23:48:02 ID:lNrpVbmg

幼馴染「ううん…私が男にフラれたって思い込んだから、サクラさんは誤解を解こうと…」

男「はぁ?フラれたのはこっちだろ」

幼馴染「違う…!だって男がサクラさんに、私の事を恋人だなんて思えないって言ってるの聞いたもん!」

男「付き合ってねえんだから、思えなくて当たり前だろ!お前、他に好きな奴がいるんじゃねえのか!?」

幼馴染「それを聞いたから失恋したって言ったの!男以外に好きな人なんていないよ!」

男「馬鹿かよ!俺がどんだけ落ち込んだと思ってんだ!」

幼馴染「私だってその日、どれだけ泣いたと思ってんのよ!」

ケヤキ『うるせえ!お前ら痴話喧嘩する時間なら、これからいくらでもあるだろう!』

男「すみません…」

幼馴染「ごめんなさい…」





197: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 23:49:05 ID:lNrpVbmg

サクラ『…良かった…やっぱり誤解だった…』

男「サクラ!無理に喋るな…!」

サクラ『男さん…花、見てくれてますか…?ほら…満開です…よ』

男「ああ…見てるよ!綺麗だ、すごく…」

サクラ『良かった…これで…やっと…』





198: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 23:49:48 ID:lNrpVbmg

ケヤキ『おい、モミジの双子…しばらくサクラを看てろ』

イロハ『うん、わかったー』

ノムラ『わかったー』

ケヤキ『男…お前はこっちに来い、松ジイのところだ。…カナメ、お前も知っておかなきゃいけねえ』

カナメ『…え?』

男「解った…何かありそうだな」

幼馴染「…私も行く」





199: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 23:50:36 ID:lNrpVbmg

ケヤキ『ジジイ、連れてきたぞ』

赤松『ああ…こっちも用意はできた』

男「え…!だ、誰だよ…まさか」

ケヤキ『ジジイだよ、若い頃のな』

赤松『…驚かせたな、夢で見なかったか』

男「夢…昨夜のか、確か…赤松と呼ばれてた」

赤松『男よ、貴様に無理を言わねばならん』

男「…どんな話だ」

赤松『なに、少しでいい…貴様の寿命を分けろというだけの話だ』

幼馴染「寿命を…」





200: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 23:51:46 ID:lNrpVbmg

男「それでどうなる、まさかサクラを救えるのか?」

赤松『そう上手い話は無い。いや…救うと言うなら、最もあいつが求める救いかもしれんがな』

男「………」

赤松『今から貴様の曾祖父を呼び寄せる。俺にある宿木の力の全てを使ってな。…だが奴はアカマツを宿木とする事はできん』

男「そんな事、できるのか…?アンタの力を全て使うって、じゃあアンタは…」

カナメ『松ジイ…消えちゃうの』

赤松『つまらん事を気にするな、サクラを送れば俺がこの世に留まる理由などない』





201: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 23:52:53 ID:lNrpVbmg

ケヤキ『だが宿木の無い状態じゃ呼び出した魂は数分ともたねえ、だから男…お前を宿木代わりの依り代とするんだ』

赤松『貴様の中に奴を宿らせたら、依り代の生命力を消耗する事になる。およそ10分で寿命ひと月程度…どうだ?』

幼馴染「男…」

男「構うかよ、一年分でも使いやがれ」

赤松『よく言った…本当に似ているな。だが奴も貴様の曾祖父だ、そう長く使おうとはすまい』

男「…俺に宿らせるって、本当に上手くいくのか」

赤松『昨夜、味は利いた。あらゆる面で奴に瓜二つの、貴様にしかできん事だ』





202: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 23:53:51 ID:lNrpVbmg

イロハ『男ー!サクラがまた苦しそうだよー!』

ノムラ『サクラ消えちゃ、やー!』

赤松『もう昨夜から奴の魂はすぐ傍にある。あとはこちら側に寄せるだけだ。…男、目を閉じろ』

男「………」

赤松『声が聞こえてくるはずだ…耳を澄ませ』





203: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 23:54:32 ID:lNrpVbmg

《…男、聞こえるか》

《うん…曾祖父ちゃんなの?》

《ああ、この目で見るのは初めてだな…大きくなった》

《会えて嬉しいよ…曾祖父ちゃん》

《お前の命を分けてもらうのは心苦しいが…本当にいいのか》

《いいんだ、僅かな時間だろ?》

《すまん…》

《曾祖父ちゃん、サクラ…曾祖母ちゃんが待ってるよ。…早く!》

《…ああ、頼むぞ…曾孫よ》





204: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 23:55:40 ID:lNrpVbmg

男『…久しいな、赤松』

赤松『ふん…来たか…死に損ない』

男『…生きろと言ったのは貴様だろう』

赤松『ふは…は…違いな…い』ザザッ…

幼馴染「男…じゃない…」

幼馴染(見た目は変わらないけど、違う…)

男『貴様にはあの時も、今も救われたな…すまん』

赤松『貴さ…まを…救った…つもりなど…無い…わ…』

男『ああ…それでいい、貴様らしいよ』





205: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 23:56:27 ID:lNrpVbmg

赤松『さあ…すぐに来…い、俺は先に逝くぞ…貴様の…いたとこ…ろへ』ザザッ…ザッ…

男『…すぐに、逝くさ』

赤松『ふ…貴様と…また…飲めるなぁ…』

ケヤキ『ジジイ…!』

ザザッ…
赤松『情けな…い顔を…するな、坊主…さらば…だ…』ザザッ…ザザザッ…

ザザッ…ザッ…

………

カナメ『…逝っちゃった、松ジイ』

ケヤキ『泣くな、カナメ。…アンタは早く、サクラの元へ!』

男『ああ…』





206: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 23:57:48 ID:lNrpVbmg

男『サクラ…』

サクラ『男…さん…』ザザッ…

男『違うよ、サクラ…俺だ』

サクラ『嘘…まさか、あなた…』

イロハ『男じゃないねー』

ノムラ『ねー』

男『手を…俺に触れていれば少し楽だろう?』

サクラ『あなた…あなたなの…』

男『男の身体を借りた、赤松のおかげだ。…ずいぶん待たせたなぁ』

サクラ『嬉しい…あなた…』

男『見事な夜桜だ…本当に』

サクラ『やっと…見て貰えた、あなたに…』

男『すまなかった…』





207: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/03(木) 23:59:32 ID:lNrpVbmg

イロハ『あー、キスしたよー』

ノムラ『キスしたー』

カナメ『…幼馴染ちゃん、これで妬いちゃだめだよ』

幼馴染「…解ってる、曾祖母さん相手だもの」

男『さあ、身体を返そう…サクラは俺から離れるな、共に逝くぞ』

サクラ『…はい』

ザザッ…ザ…ザザザッ…

幼馴染「あ…!」

幼馴染(男が分かれた…!あれが男の曾祖父さん…)





208: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/04(金) 00:02:38 ID:lNrpVbmg

曾祖父『男…すまなかった。立てるか』

男「う…フラフラ…する…」

幼馴染「男っ…!」ギュッ

曾祖父『幼馴染と言ったか』

幼馴染「…はい」

曾祖父『男の身体に宿って、その意識が見えたよ…。そいつの心の中は君の事でいっぱいだ』

男「変な事言うなよ…曾祖父ちゃん」

曾祖父『…どうか男を、我が曾孫を…頼む』ザザッ…





209: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/04(金) 00:26:36 ID:lNrpVbmg

幼馴染「はい…」

サクラ『男さん…あなたの曾祖母だという事、ずっと言わずにいてごめんなさい』ザッ…ザザザッ…

男「途中から、知ってたよ」

サクラ『そう…本当にありがとう…男さん、いえ…男ちゃん…そして幼馴染さん…』

男「曾祖母ちゃん…会えて嬉しかった」

サクラ『ケヤキさん…カナメちゃん、仲良くね…イロハちゃん、ノムラちゃんも元気で…』ザザッ…





210: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/04(金) 00:27:11 ID:lNrpVbmg

イロハ『サクラ、嬉しそうー』

ノムラ『嬉しそうー』

カナメ『サクラぁ…うう…う…』

ケヤキ『…笑って送るんだ、カナメ』

ザッ…ザザザッ…

男「…さよなら、曾祖父ちゃん…曾祖母ちゃん」

ザザッ…
サクラ『さよ…な…ら…』ザッ…

ザザ…ザッ………

…………







211: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/04(金) 00:28:12 ID:lNrpVbmg



…翌春、ある日曜日



男「やあ、ケヤキ…もうすっかり目が覚めたか?」

ケヤキ『ああ…』

男「新緑が綺麗だなー」

ケヤキ『そうか?…自分の葉がこうも小さくて柔らかい時期は、なんとなく不安なんだがな』





212: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/04(金) 00:29:23 ID:lNrpVbmg

男「カナメ、すっかり芽が紅くなってるな」

カナメ『鮮やかでしょ?…ボクの一番良い季節だからね!』

男「そうだな、すごく綺麗だ」

カナメ『冬の間、ケヤキもモミジ達もほとんど寝てるんだもの…すっごい暇だったから、お日様いっぱい浴びといた』





213: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/04(金) 00:29:55 ID:lNrpVbmg

イロハ『男ー!緑の葉っぱ綺麗ー!』

ノムラ『男ー!赤の葉っぱ綺麗ー!』

男「どっちも綺麗だと思うよ」

イロハ『今年はイラガ出さないようにねー』

ノムラ『ねー』





214: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/04(金) 00:30:25 ID:lNrpVbmg

男「アカマツ…たくさん芽吹いたなー」

男「もう少ししたら、緑摘みしなきゃ」

男「…しかし松ジイ、本当に昔はイケメンだったんだなー」

男「曾祖父ちゃんと、酒…飲んでるんだろうな…」





215: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/04(金) 00:31:05 ID:lNrpVbmg

幼馴染「おはよう!」

カナメ『あ、幼馴染ちゃん!おはよー!』

イロハ『おはよー』

ノムラ『おはよー』

男「おー、おはよ…。どうしたんだ?」

幼馴染「私がここに来るのに理由がいるんですか?」

男「つまり毎度ながら、暇だったと」

幼馴染「さすが男!私の事は何でも解るんだね!」

男「だいたい週に五日は来てるもんな」





216: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/04(金) 00:31:50 ID:lNrpVbmg

幼馴染「桜の木…無くなっちゃったね…」

男「うん、こないだ親方に根まで取ってもらった。結局、芽は吹かなかったし…あのままじゃ白蟻を呼んで、他の木にまずいからね」

幼馴染「仕方ない…ね」

男「うん」

幼馴染「でも、寂しいなぁ…」

男「うん…でもさ」

幼馴染「でも?」

男「あの時、親方が養生の剪定をしてくれて…それで親方はその枝の芽を、温室でたくさん挿し木にしてくれてるらしいんだ」





217: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/04(金) 00:32:41 ID:lNrpVbmg

男「染井吉野は挿し木では繁殖出来ない…って言われてたんだけど、最近では不可能じゃなくなってるんだって」

幼馴染「そうなんだ…」

男「しかも念のため、確実性の高い接ぎ木も何本か試みてるとか。…それがしっかりした苗になったら、くれるって」

幼馴染「親方、良い人だねー」

男「本当、頭が上がらないよ」

幼馴染「どのくらいで出来るの?」

男「まあ一年の内にはこっちの手元に来るだろうけど、それから何年もかけて少しずつ大きな鉢に植え替えていかなきゃな」

幼馴染「私も手伝うからね」

男「うん…」

幼馴染「あの桜の子供達かぁ…」

男「そうだな」

幼馴染「良い苗になったらいいね、うん…きっとなるよね」





218: ◆M7hSLIKnTI:2013/10/04(金) 00:33:26 ID:lNrpVbmg

男「…いつかそれをこの庭に、二人で植えよう」

幼馴染「うん、楽しみだね。………ん?」

男「………」

幼馴染「今のは、どういう意味かな?」

男「…別に」

幼馴染「それは何かの記念樹だったりするのかな?」

男「その辺は察してくれたらいいと思うよ」

幼馴染「はっきり言ったらいいと思うよ?」

男「その時まで言わない」



おしまい


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テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

  1. 2013/10/05(土) 11:32:50|
  2. 男・幼馴染SS
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