がらくた処分場

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フリーワンライ『採用お題:世界五分前仮説』



僕は二十数年前、ちょっと厳しくも頼りになる父と、その二歩後ろをついてゆく控え目な性分に見せかけて実は我の強い母の間に生まれ、ごく平凡な家庭で育った。

僕より四年遅れて妹ができ、十年ばかり前にはそりゃあ生意気な奴だった。でも今はお互いに大人になって、世間並みに仲の良い兄妹だと思う。

僕も妹も同じ地元の幼稚園を卒園して、同じ小学校に通った。その後、妹はバス通学くらいの距離にある中高一貫校へ進んだが、僕はそのまま地元の市立中学に通った。

たいして勉学に励む事もしなかった僕は商業高校に入学し、専門学校を経て社会へ出た。

車の部品を卸す商社、規模的にはばっちり中小企業に類される職場だが、このご時勢にあっても経営は順調なようで今のところ倒産の危険性は薄そうだ。


ここまでは主に自分だけの話、人生における相方の事はまだ語っていない。

高校で一度、一年間ほど続いた恋愛を経験した。

専門学校では麻雀やパチンコといった遊びを覚え、勉学以外ではどちらかというとそういった方面ばかりに励んだ気がする。

その後、合コンで知り合った女性と二人ほど付き合ったが、今いち長続きはしなかった。

結局のところ僕の人生の伴侶となった人は、もっと身近にいたのだ。

同じ職場で事務員をしていた女性。目立たないけれど気だてがよく、まるで自分の母のように相手をたてて後ろに控える人だった。

いつの間にか彼女と話している時が一番リラックスしている事に気づいた僕は、半ば強引にドライブに誘ったんだ。

心から好きな邦楽アーティストが偶然にも同じで、初ドライブから長距離を走破してしまった記憶がある。

そこから距離を詰めるのはさして難しい事ではなかった。


そして三年を経て二人は結ばれる、それが今から四年前のこと。結婚二年目にしてできた娘も、日々すくすくと成長している。

仕事はまずまず順調、給料は手取りにすると年齢×万には少し届いていないが、まあ普通だろう。今日も車の部品を積んだ営業バンで、得意先を回っている。


17時帰社予定、18時半頃退社予定、家につくのは19時というところか。それもいつも通りの運びだ。

次に寄る予定の取引先までは、まだ10分ほどの移動が必要だろう。

慣れた道を走りながら、ぼんやりとそんな今までの人生を振り返る。そんな気になったのは、つい5分ほど前にカーラジオから流れてきたパーソナリティが語った話題のせいだった。


『世界五分前仮説』というのをご存知ですか──


確かパーソナリティの女性はそんな単語を口にした。

『この世界ができたのはつい5分前の事で、我々は皆つくりものの記憶を与えられているにすぎないかもしれない』という突飛な説で、どちらかというとそれが真実かどうかよりも、その説を完全に否定する事ができないという点を検証するための思考実験に近いものだ。

だからつい過去の事を考えた。なにかその説を覆す根拠がないか、想いを巡らせてみたのだ。


記憶が全て植えつけられたものだったとしたら、過去というものに意味は無い。僕を知る全ての人が、僕の記憶と矛盾しないそれを与えられていれば何も不都合は生じないだろう。

ならば遺伝子はどうか。僕の遺伝子は僕の子に引き継がれている。そして僕には父と母の、彼らにはまたその両親の血が分け与えられている。それはずっと遡れば猿になり、もっと原始的な哺乳類になり、いつかは海に帰るのだろう。

だがそれさえも過去から現在に続く──と思い込まされている──生態系が全て作り物であれば、証明にならないのではないだろうか。

僕にはよく解らないけれど、現代科学をもってすれば物質の年代を測定できるらしい。その技法を用いればあるいは。

いや、その技術もそれによってもたらされる検証結果も、予め与えられたプログラムだとしたら意味をなさない。

少なくとも言えるのは我々を作り出し記憶を与えた主がいるのであれば、その者達の世界は5分前に始まったものではない……という事だけだ。だがそれは僕の生きるこの世界の証明にはならないだろう。


暇潰しにそんな想いを巡らせる内、取引先は目の前に近づいていた。今ひっかかっている信号が青になれば、あと数十秒とかからない。

ふと助手席に置いたスマートホンのLEDが点滅していることに気づく。まだ信号が変わるには時間がかかると判断し、僕はそれを手に取った。

『新着メッセージ1件』

ロック画面のままSNSアプリの通知を右にスライドすると、直接トーク画面が開かれる。

『今日は冷えるから今夜はお鍋にするよ、早く帰っておいでね!』

娘の写真が添えられた短いメッセージ、その後ろに続けて投げキッスのスタンプ。思わず口もとが緩んだ。

この記憶が作り物である疑いなど否定できなくてもいい。僕を、彼女らを生んでくれた存在があるなら、いっそその者達に感謝したいくらいだ。


信号が青に変わる。ブレーキペダルから足を離し、アクセルを軽く踏む。たいして加速する間もなく、取引先の駐車場に入るためのウインカーを弾く。

暇潰しは終わりだ、注文品の降ろし忘れに気をつけなくては。うっかり届け忘れなどしてあとで二度手間など踏んでいたら、せっかくの鍋が冷めてしまう。

僕は5分以上前から馳せてきた考えごとに終止符を打って、左後方ミラーを確認した。

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テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

  1. 2000/01/17(月) 15:31:45|
  2. その他
  3. | コメント:2

星と占いと四番街の迷い猫【後日談④】(原題/「セクサロイド? お前が?」 「そうじゃ、おかしいか?」)



【後日談④(最終)】

(本編二十数年後)


ある冬の夕暮れ、シロとノーラは手を繋ぎ休日の街を歩いていた。

すれ違う人達は時に彼らを好奇の目で見る。

それも仕方ないだろう、既にシロは四十路にさしかかろうという歳だ。

ひきかえノーラは変わらず少女の姿のまま、彼らの見た目はふた回りほども違っている。

そして仲睦まじく並び歩く様子は、どう見ても親子とは思えない。


この冬、ノーラは外出する時いつもマフラーを身に着けている。

それは去年のクリスマスにシロが贈ったもの。

ロボットの彼女が寒さに凍える事はないが、冬らしい装飾品として彼女はそれをとても気に入っている。

故に人々の目に、彼女が首輪を着けたロボットである事は判らないのだ。


「この間入った子らは皆、元気が良い。少々いたずらが過ぎるのは困るが、可愛いのう」

「そうだね、女の子達はすっかりスミレが仕切ってるけど」

「あはは……さすが、ユーリの娘じゃな」


サブローと百合子の夫妻は、長男のサン太より後に三人もの子を儲けた。

今、名前の挙がったスミレが一番の末っ子にあたる。

ジローと花子にもロクローの下に双子の娘がおり、つい先日ようやく身を固めたゴローもまた半年後には父親になる予定だ。


「……賑やかな家じゃ、幸せじゃの」

「うん、本当だね」


そこにシロとノーラの子が加わる事はない、だがそれは二人とも『嘆く事ではない』と考えている。

ノーラにとってシロは唯一の所有者であり主だ。

そしてシロも彼女以外と生涯を歩むつもりは無い、その相手がロボットだったというだけの事。


時刻は18時になろうとしていた。

もうすぐこの道はイルミネーションに包まれる。

二人はこの冬まだそれを見ていないが、今年の装飾テーマは『流星』だという。

彼らにとっては何となく遠いあの日を思い返してしまうキーワードであり、是非見ておきたいと話していた。


「あ……シロ、点き始めたぞ」


軒を並べる建物や街路樹、道を跨いでそれらに渡された架空線に星々を思わせる白や金色の光がちりばめられてゆく。

それだけでも見上げるようにすれば、確かに星空のような趣きを感じられるものだ。

だが更にそこへ、数年前から取り入れられたホログラムによる演出が加わる。


「おお、見事じゃな……!」


昼と夜の違いはあれど、それは二十数年前に見た彗星の欠片が降る光景を思わせた。

顔を綻ばせてはしゃぐノーラ、対照的に真面目な顔でそれを見上げるシロ。

そして彼は決心をした。


「……ノーラ、あれ以来なんだけど」

「む? 何がじゃ?」

「二度目、これで最後の命令をするよ」


彼はこの二十数年、ノーラに命令らしい命令をする事はなかった。

ささいな喧嘩などをしてしまった時に冗談で「命令だ、機嫌をなおせ」などと言った事はあるが、それはカウントすべきではないだろう。

人間同士であれそういった希望は唱えるし、そうでもしないと膨大な記憶を持つノーラに口喧嘩で勝てるはずがない。


「いつか、僕が死ぬ時の事だよ」

「……お前はずっと生きていろ、というのではあるまいな? 言われれば断れぬが、儂はそれは嫌じゃぞ」

「違う……逆だ、お前も一緒に時を終えてくれ」


命令を受けたノーラは暫し目を丸くした後、微笑んで頷いた。

それを確認して、シロは「少し早いんだけど」と呟きながらポケットを探る。


「ノーラ、ロボットは死んでもロボットか?」

「ふむ……それは考えた事も無いが、どうじゃろうな?」

「きっと違うだろ。死んだら人間もロボットも同じだ、そうじゃないと困る」


ホログラムの流星がその数を減らす。

代わりに長い尾を引いた彗星が投影され、ノーラは向き合うシロの背後にそれを見た。


そして彼は取り出した小箱をノーラに向けると、その蓋を開けて言った。



「死んだら結婚しよう、ノーラ」



人間よりも優れた思考能力を持つはずのノーラ、だが彼女はその処理が一瞬フリーズしたような錯覚を感じた。

シロは「これは命令じゃない、考えて答えてくれ」と続け、小箱に収められていたリングを手に取る。

震える声で「はい」と答えたノーラの頬を、一筋の涙が滑り落ちた。


「……セクサロイドに求婚などする者がおるとはの」

「セクサロイド? お前が?」

「そうじゃ……じゃが、もうそんな事を言うのはおかしいじゃろうな」


ノーラの左手、その薬指に婚約指輪が通される。

それが結婚指輪に変わるのは数十年後、穏やかに眠るシロの隣で彼女が生を終える時だ。


シロが右手を差し出すと、ノーラは左手でそれを握り返した。

彼の手にまだ少し冷たい金属の感触が伝う。

二人はまたゆっくり歩き始め、四番街の方へと続く光の川を下っていった。



【おわり】



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テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

  1. 2000/01/01(土) 00:00:00|
  2. SF
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星と占いと四番街の迷い猫【前日談②】(原題/「セクサロイド? お前が?」 「そうじゃ、おかしいか?」)



【前日談②】

(本編の三年前)


氷点下に迫る気温、僅かに粉雪の舞う夜。

雪雲が覆う空からは、月明かりも星のそれも届く事は無い。

暗闇が支配する山裾の街外れ、凍りかけた小川の畔に少女の姿をした一体の野良ロボットがいた。


着衣を全て脱いだロボットは水辺にしゃがみ、小さな掌で水を掬っては己の身体にかけて肌を清めている。

人間であれば悲鳴を上げてしまうであろう行為だが、つくりものの感覚センサーしか持たない彼女にはさほどの苦痛は無い。

ただその水の冷たさは、度を過ぎれば人工素材とはいえ皮膚を傷める事に繋がる。

自己破壊を防ぐようプログラムされた彼女は、本能的にその冷たさを不快には感じていた。


水浴びを終えたロボットは川の脇にある壊れかけの小屋に入り、その隅にうずくまる。

外でさえ暗闇に閉ざされた夜、まして屋内であれば人間なら自分が目を開けているのかさえ判らないだろう。

だがロボットならば微弱な赤外線照射により、多少の視界を得る事はできる。

彼女はそれを頼りに、手にした本のページを捲っていた。


ひとつ前の隠れ家にいた時に見つけ、ここへ持ち込んだ数冊の本。

その内の一冊、現在彼女が読んでいるのは児童向けの短い物語が数話収録された文庫本だ。

一話ずつはほんの30分ほどで読み終える事ができる。

彼女は今の一話を読了したら、セルフメンテナンスの為に擬似的な睡眠をとろうと考えていた。


その物語に人間は登場しない。

一本の柿の木になったふたつの実と、風に乗ってやってきたアキアカネとのやりとりを描いた御伽噺。

話の中核を成すキーワードは『名前』だった。


もしもこの世に二人しか存在しないなら、名前は無くとも困らない。

『私』と『貴方』と表すだけでも、他に指す者がいなければ迷わないからだ。

だが三人目の登場人物が現れた時、名無しでは通用しなくなる。

そしてその来訪者が去った時、それでも二人には名前が残った。

それまで困っていなかったとしても、名を呼び合えるのはやはり幸せな事なのだと知る……そんな内容だ。


「──名前……か」


話を読み終えたロボットは呟き、本と瞼を閉じた。

たった二人ぼっちでも、名を呼び合うという行為は心を満たしてくれる。

だがそれが最低単位なのだ、孤独では呼び合うという行為自体が成立しない。


彼女は四十数年前に人間の手で生み出され、人間の都合で捨てられた。

逃げ出して野良となった事に、はっきりとした目的は無い。

ただ、怖かった。

人に仕えるためのロボットとして生まれたのに、誰にも一度も必要とされず存在を否定される事が悲しかった。

もし誰かが自分を求めてくれたら、それだけで彼女が生き延びた理由は満たされる。


「名など……要らぬ──」


セルフメンテナンスが開始され、彼女は機械仕掛けの意識を手放す。

ロボットの睡眠とは完全な思考の遮断だ。

彼女は『名を与え、呼んでくれる誰か』を、夢に見る事さえ許されない。



【前日談②おわり】



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  1. 2000/01/01(土) 00:00:00|
  2. 未分類
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星と占いと四番街の迷い猫【後日談③】(原題/「セクサロイド? お前が?」 「そうじゃ、おかしいか?」)



【後日談③】

(その後の四番街)


ロクロー誕生からおよそ5年後、メンバーが住処としていた廃ビルは老朽化により危険が増したため転居を要する事となった。

とはいえその先は、元の廃ビルから数百メートルの位置にある別の建物。

築年数は大きく違わないが、造りがシンプルであったため暫くは使用に耐えると見込み新居とした。


ただ、そのタイミングでジロー・花子夫妻とロクローの一家は更に別の居を探し、他の皆とは別れて暮らす事となった。

彼らが見つけた元は商店と思しき小さな愛の巣は、皆が暮らす建物から僅か数軒隣りだ。

それでも百合子は花子と離れる事を随分と寂しがっていた。


それから間もなく、サブローは勤める事となった建設会社の寮に入る事となり、四番街を後にする。

ノーラは百合子に対して「サブローについていかなくて良いのか」と散々けしかけたが、不貞腐れた彼女は「白馬の王子様を探す」と言って四番街に残った。

しかしそれから3年程をかけても遂に王子様は現れず、週末の度に四番街に帰って来ていたサブローに「いい加減諦めろ」と諭されようやく言う事をきく。

翌年、二人も結ばれ結局四番街のごく近所に居を構える事となった。


タローは念願だった安価なパワードスーツ型ロボットの開発責任者となる。

ジローとサブローは後に、それを現場で試用するオペレーターとして活躍する事となるのだ。


ゴローはノーラに様々な物語を聞かされた事に影響されてか、小説家を志すようになった。

基本的には四番街の新居を拠点としているが、時に数ヶ月も帰って来ない事もある。

青年となっても街の年上女性から好かれる性質は変わっておらず、彼女達から『静かに執筆できる環境』を与えられているようだ。


そしてジローの一家が別に暮らすようになった頃から、四番街にはもうひとつの変化が起こっていた。

ノーラという有名人を抱え、地区としても名を知られるようになったそこには各地から孤児達が集まってくるようになったのだ。

新居は元はホテルだったと思われ、部屋数は多い。

年に数名から10名ほども頭数を増やしてゆくメンバーも、暫くは無理なく受け入れられた。


しかしそれもさすがに限度がある、しかも新たに加わる者の多くは10歳にも満たない児童だ。

時には幼児という呼ぶのが相応しい年齢の者を抱え込む事もあり、明らかに大人の手が足りない状況となってゆく。


だが連続三期目を務める縦浜市長は、それを捨て置かなかった。

四番街にあった適度な大きさの建物を補強・改築し、市営の孤児院を構えたのだ。

それはノーラが地球を救ってから、およそ10年が経過した頃の事だった。


無論、公営の施設である以上は施設長や職員の多くは市から派遣される。

ただその内で幼い子供達に接する保育士のリーダーには、元よりそのコミュニティで親しまれている二人が適任と判断された──


………



「──はいはい! みんな並んで座るよー! 一番遅い子は誰かなー!?」


二十代後半となった『シロ先生』は、温厚で子供達の人気者。

正確には子供達からだけではなく、同僚にあたる歳の近い女性保育士の間でも密かな人気がある。

しかし誰も彼を射止めようとする者はいない、それは常にシロ先生の傍には『10才以上も歳が離れて見えるパートナー』がいるからだ。


「ふふふ……儂の目は誤魔化せんぞ! 一番遅かったのは小サブじゃ!」

「小サブじゃねーし! 俺の名前はサン太だし!」

「いい子にしておらぬと、また百合子に言いつけるぞ?」


孤児院は地域の家庭向けの託児所としても使われている。

これも市長が推進する失業対策のひとつだ。

午後にはボランティアとしてロクローもよく手伝いに訪れていた。


「じゃあ、今日もノーラ先生のお話を始めるよー。はい、昨日はどこまでだったっけ?」

「『夢だけど夢じゃなかった!』までー!!」

「じゃあノーラ、よろしく」

「こほん、それでは皆が静かになったら始めようかの──?」


………



シロとノーラは孤児院に併設された居住スペースで二人暮らしをしている。

ただの持ち主とロボットのような関係とも、普通の恋人や夫婦という存在とも違う、特別な二人だけの絆。

無論、互いを愛し共に生きる事を望んでいるのは確かだが、それは家族愛や男女間の愛情を内包しつつも通常のそれとは異なる。


「──おやすみ、ノーラ」

「うむ、おやすみ」


二人がいくら身体を重ねても、彼らの間に子を授かる事は無い。

時と共に歳をとってゆくシロと、いつまでも16歳の少女をモデルとしたままのノーラ。


「……シロ、寝たか?」


だがそれこそが、あの日ノーラが夢見た想い。


「愛しておるよ、シロ──」


ロボットでありながら家族を得て、忘れるのではなく『それでもいい』と認め合い共に生きてゆく。

互いが救いあい、手にした幸せの形なのだ。



【後日談③おわり】



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  1. 2000/01/01(土) 00:00:00|
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星と占いと四番街の迷い猫【前日談①】(原題/「セクサロイド? お前が?」 「そうじゃ、おかしいか?」)



【前日談①】

(本編の十年前)


……………
………


…四番街のはずれ


「──このコソ泥が!!」


売り物を盗まれた商店の主人が、犯人である少年を殴り飛ばす。

少年の懐から数個の缶詰が溢れ落ちた。


「クソッ……幾つか凹んで売り物になりゃしねえ、そんだけ持ってここから失せろ! 糞餓鬼!」

「うっ……!」


主人は舌打ちし、大きく凹んだ缶詰を少年に投げつける。

その内ひとつが目の上に当たり、彼はよろめいた。

数秒経って地面にぽたりと血が落ちる。


「……ってぇ」


傷口に指で触れると刺すような痛みが走り、少年は顔をしかめた。

流れる血が入ったのだろう、視界の霞む左目を瞑った彼は周囲に誰も居なくなった事を確認して「もう大丈夫だ」と声を発した。

すぐに物陰から一人の少女が駆け寄り、ぼろぼろの鞄から傷口に当てる布を探す。


「綺麗な布……無い」

「いい、放っときゃ治る」


少女は涙ぐんで「水道のあるところへ行こう」と促した。

彼女の鞄には、少年がくすねたより多くの缶詰や固形食品が入っている。

少年は商品を盗む時、わざと主人に見つかるようにしたのだ。

そして少女は主人が彼を追っている間に、より多くの食べ物を安全に盗んだ。


「ごめんなさい、いつも」

「俺はこのくらいの傷はへっちゃらだ、お前も痛くないんだから泣くんじゃねえ」

「でも……」

「文句言うな、俺はすぐに泣く奴は嫌いだ」


彼は少女に対して、いつも言っている事があった。


『泣くな、笑え』

『辛くて泣くくらいなら生きてる意味が無い』

『笑いながら過ごせば、明日も生きようと思えるだろ』


手に入れた分の食料があれば、ひとまず一週間は生き長らえるだろう。

少年は少女の手を引き、水道のある公園を目指して歩き始めた。

その時、二人に背後から声を掛ける者がいた。


「その傷、割と深いぞ。手当てした方がいい」

「……誰だ」

「いいから……手当てしてやるから来い。僕は一人暮らしだ、心配は要らない」


声の主は15歳ほどと思える男だった。

彼は自分の名を「タロー」と名乗り、二人に歩み寄る。


「スラムグループに属しておけば配給が受けられるだろうに、どこから来たんだ」

「……追い出された」


自治体に登録されたスラムの共同体には食料の配給と共に、年に二度わずかな生活補助金の支給がある。

二人は先日までスラムグループに属していたが、グループ全体に補助金が払われると同時に追い出されたと言う。

補助金はグループに所属する人数に応じて額が決まるからだ。

今までもずっとそうだった、いわば彼らは半年に一度の頻度で住処を失い続けてきた。

少年と少女が出会ったのは、ふたつ前のグループに属した時だ。


「グループは三人から登録してもらう事ができる、よかったら僕と──」

「──半年間だけか? 次の給付金が入ったら、また俺達を追い出すんだろ」

「そんな事しないよ、まあその時まで信じないんだろうけどね。ええと……君達、名前は?」

「……二人とも無い、チビって呼ばれたり小僧とか、坊主とか」


タローは腕組みをし、少し考える。

しかしそんなに凝った名がすぐに思いつく訳もない。


「まあいいか……僕がタローだから、君はジロー。女の子は花子でいいだろ? 気に入らなきゃ、また考えよう──」


──半年後、補助金の給付を受けてもなおタローは彼らを変わらず仲間として傍に置いた。

それから少しずつ彼らはタローに打ち解け、いつしか『タロ兄ちゃん』と呼び慕うようになる。

彼は幼い二人に「この居場所を失いたくなければ、決して罪は犯すな」と言い聞かせた。

そして逆に余所者が四番街で悪さを働くようなら追い払うか、もし『行き場も無く困っているようなら仲間に迎え入れる』というルールが生まれたのだ。


間も無くこのグループにはサブローとシロー、数年遅れて百合子とゴローが加わる。

そしてグループが生まれておよそ十年後、心根の優しいシロが先のルールに従い『ある野良ロボット』を連れて帰る事になるのだった。



【前日談①おわり】



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  1. 2000/01/01(土) 00:00:00|
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星と占いと四番街の迷い猫【後日談②】(原題/「セクサロイド? お前が?」 「そうじゃ、おかしいか?」)



【後日談②】

(本編から二年後)


……………
………


…商店街入り口、占いカウンター


「──そろそろ今日は店じまいとするかの」


占いのカウンターは、最初を思えば幾分凝った作りになった。

ノーラが四番街に戻った直後はまさに休む間もない盛況ぶりで、代金や釣り銭の出し入れなどを含めできるだけ手早く効率的にこなす必要があったからだ。

さほど高いものではないがカウンターのテーブルも新調され、鍵のかかる引き出しを備えている。


「ユーリ、お疲れ様じゃったな」

「なんのなんの」


今日の占い助手は百合子一人だった。

普段はよく花子かゴローと共に助手を務める彼女だが、自身が「今日は一人でいい」と名乗り出たのだ。

もちろんそこには目的があった。


「ノーラ、ところで……えへへ」

「わかっておるよ」


ノーラは引き出しから幾らかの金を取り出し、百合子に渡す。

決して高い額では無いが、百合子の日当というわけだ。


「何か欲しいものでもあるのかの?」

「んー、ちょっとね」


今日は月曜日。

毎週木曜は店を休む事にしているが、百合子は火曜・水曜と続けて今日と同じく一人で助手を務めると宣言している。

三日分の日当を合わせれば、まずまずの服や靴でも買えるだろう。


二人は慣れた順序でカウンターを片付け、廃ビルへと帰る。

百合子はその途中、仕事の間は邪魔にならないようゴムで束ねていた長い髪を解き、ふう……と息をついた。


……………
………


…木曜、廃ビル1Fホール


「──ちょっとサブ! なんで盗み食いとかしてるわけ!? この野菜レトルトは今日の夕食に使うつもりだったのよ!」

「うるせー! なんとなくご飯にかけて食いたくなったんだ、現場仕事するにはシリアルなんかじゃ腹が保たねーんだよ!」

「ジロ兄ちゃんはシリアルだけで済ませてるんだよ! あんた、燃費悪過ぎ!」


サブローと百合子は相変わらず、あの日ノーラが願った通り『仲良く喧嘩』している。

それ以上でも、それ以下でもない仲だ。


「んじゃ、行ってくる!」

「こら! 逃げるな! まだ話は終わってないんだから!」

「晩メシ期待してるぜー!」

「あんたの分なんか作るもんか! 帰ってくんなっ!」


無理もないが、百合子は非常に機嫌が悪い。

シロとゴロー、ノーラが宥めるもすぐには直りそうもない。


サブローはここのところ、こうしてジローと共に日雇い仕事に出る事が多くなった。

シロも時に呼ばれるが、彼は現在いつかのタローほどではないにせよ勉学にも励んでいる。

特にはっきりした目標があるわけではないが、ノーラという家庭教師がいる事を活かさない手は無い。


「あー、もう腹立つ! 出掛けてくる!」


百合子は腹の虫も治まらぬまま、上着を手に引っ掛けてホールの玄関へと向かった。


「ユーリ、どこへ行くのじゃ? 買い出しなら荷物持ちに付き合うが」

「一人でいい! 王子様探しに行くんだから! もう、サブなんか知るかっ!」


悪態を吐きつつ去る百合子、残る者達は『誰も今、サブローの事など訊いていないのに』と苦笑いした。


………


…ハンドメイドショップ


「──うーん、お嬢ちゃん……前も言ったけど、これを直すなら新しいのが幾つも買えるよ?」


手作りのアクセサリーやインテリア小物などを販売するショップ、百合子から修理の依頼品を渡された主人は念を押すように言った。


「いいんです、直して下さい」

「ふむ……留め具だけを付け替えるのは手間がかさむ、台座ごと変えた方が安く済むからそれでいいかい?」

「……できる限りそのままがいいです」


軽金属の溶接は難しい。

かといって接着剤などで簡易に処置したのでは、じきにまた外れてしまうだろう。


「わかった、やってみるよ。よほど大事なものなんだね」

「別に、大事とかじゃないです!」


主人は「サイズが合う在庫があるかな」と呟き、棚からバレッタのパーツを探し始めた。



【後日談②おわり】



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  1. 2000/01/01(土) 00:00:00|
  2. SF
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星と占いと四番街の迷い猫【前後日談①】(原題/「セクサロイド? お前が?」 「そうじゃ、おかしいか?」)



【後日談①】

(本編から数ヵ月後)


……………
………


…廃ビル、1Fホール


「──なあ、俺の番は!?」

「あとで! せっかく今スヤスヤ寝てるんだからっ!」

「チョーウケルー」


百合子はまだ首も据わらないロクローを抱き、でれでれとした表情でその寝顔を覗き込んでいる。

ゴローは既に抱っこして済んだ、現在順番待ちをしているのはサブローだ。


花子の出産はかなり安産な方だったが、初産であったためその後10日ほど入院していた。

その間、四番街の他メンバー達はロクローに触れられる日を指折り数えて待っていたのだ。

しかしよくある話で、その期間の内にロクローのへそが化膿してしまう。

結果、花子は予定通り退院できたが彼は一週間余分に入院したままとなってしまった。


「赤子というのは実に可愛いものじゃの」

「本当だねー」


ジロー・花子夫妻が利用した産院は、面会者は新生児をガラス越しにしか見られない。

しかもロクローは実によく寝る子で、今のところ5人は目を開けた状態の彼を見た事がないのだ。


「ほら! もう5分経ったぞ! 交代交代!!」

「もう! うるさいなぁ、起きちゃうじゃない!」

「いいから、ほら! ……おおおおおぉおおぉっ!? 軽い! 小さい! 可愛い!」


サブローは赤子を受け取るなり、その軽さに驚いて小さく『高い高い』の仕草をとった。

首に手は添えられているが、その持ちようは実に雑だ。


「ちょっと! 首しっかり支えてよ!」

「ジロ兄ちゃんの子だから丈夫だって、心配ないって」

「 チ ョ ー ウ ケ ル ー 」

「ヒッ!? す、すみません……っ!」


花子が威嚇し、サブローは姿勢を正す。

その時の動きも雑で急だった事が災いした。


「あっ……あっ……あーーーうぁーーーーーん」

「ほら! ロクロー泣いちゃったじゃん!」

「うぇ!? ちょ、うわ、どうしよ、次のノーラにパス!」

「なんじゃと!?」


驚きつつも、慣れない手つきでロクローを受け取るノーラ。

彼女が過去に読んだ本にも赤子は登場したが、それを頼りに最初から上手くできるというものではない。


「うぁーーーーーーーん」

「ど、どうすればよいのじゃ!? ええと、むかしむかしあるところに」

「それはまだ早いよ……」


皆が初めて目にする起きた状態のロクローではあるが、泣いているが故に相変わらず目は瞑ったまま。

しかし解らないなりにもノーラが優しく身体を揺すり、おむつ越しのお尻をぽんぽんと叩いていると次第に彼は落ち着き始めた。


「いい感じ……泣き止んだぞ」

「よしよし、良い子じゃ……賢いぞ、ロクロー」

「ノーラ、意外と上手いじゃん」


そして、ついにロクローがその目を開ける──


「……ジローじゃ」

「ぷっ……そっくりだ!!」

「あははははは! 目を開けても眉間に皺寄ってる……!」

「ジロ兄ちゃーーーん!」


──男前かどうかは別として、少なくともその人相はあまり良くない。

今は仕事に出ているジローがもし横にいれば、仲間達は余計に大笑いしていた事だろう。

どこからどう見ても親子だと判るレベルにそっくりなのだ。


「ハナに似てるとこがあんまり無い……」

「チョーウケル……」


花子はホールの壁を透かして空を見つめるように視線を逸らし、少し複雑そうに呟いた。



【後日談①おわり】



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テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

  1. 2000/01/01(土) 00:00:00|
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