聖夜の街と願いのリボン(原題/子供「願い事を枝に結ぶよ」 クリスマスツリー(それ七夕じゃない?))



1: ◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 10:42:13 ID:4VPd.D06


1997年12月24日


──私は、このツリーの精。

ある街の駅前広場に植えられたモミノキに、いつしか宿った木の精霊。

時季には街路樹と共にイルミネーションの飾り付けをされて、地域で一番大きなクリスマスツリーになる事が私の自慢。


単純な背の高さなんかは、駅の建物越しに見える運動公園のセコイア並木には敵わない。

だけど地元の人を見送り、訪れる人を迎えられるこの場所を私は気に入っている。

時々、駅から出てきた人が『立派なツリーだね』なんて褒めてくれると、背筋……幹がぴんと伸びた気持ちになれる。


そして一年の内で特に幸せなのが、まさに今夜。

待ち合わせる恋人やパーティーを終えたグループで私の足元が賑わう時間は、もうすぐそこに迫っている。

あと30分程すれば日が暮れて、そうしたら一年も楽しみに待ったイブの夜。

そんな夕方頃に、二人の子供達が私の元へ訪れた。



2: ◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 10:43:11 ID:ShZYRrGQ


「──このツリー、大きいよね」

「この木ならきっと叶うよ」フンスフンス

「僕、オトコだから緑のリボンにしたよ」

「私は赤にしたから、ちょうどいいね」


…モゾモゾ
シュルッ、ギュッ…


「ちょうちょ結び、どうやるんだっけ……」

「やってあげようか?」クスクス

「いい、自分でやる」

「そっちじゃ縦結びになっちゃうよ」

「わ、わかってるし、間違えただけだし──」モゾモゾ…



3: ◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 10:44:00 ID:ShZYRrGQ


──小学生になったばかり、くらいかな?

なんだろう、下枝にリボンを結んでくれたみたい……何か書いてあるね。


『おとしだま お たくさん ほしい』

『くりすます ふれぜんと たまごっち もらえますように』


これは、願い事? クリスマスツリーに願い事をするのって、普通なのかな?

もしかして七夕みたいなものと思ったのかも?

でも可愛い、頼りにされたみたいでちょっと嬉しいな。


お年玉たくさん貰えるといいね。

たまごっちも手に入りますように──



4: ◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 10:44:42 ID:ShZYRrGQ


……………
………


1998年12月24日


──私は、このツリーの精。

また今年もイルミネーションを纏い、訪れる人々を眺めながらイブの夜を楽しんでる。


昨年の夕方、私の下枝に願い事のリボンを結んだ子供達は今年も同じ時間帯に来てくれた。

……という事は、去年の望みは叶ったのかもしれない。

別に私の力でもなんでもないけれど、ちょっと誇らしい気がする。


今年もまたそれぞれに願い事を結んで行ったけど、内容はどちらもほとんど同じ事だった。

『三年生でも同じクラスになれますように』

二人は幼馴染みだね、ずっと仲良く一緒ならいいね──



5: ◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 10:45:23 ID:ShZYRrGQ


「──やっぱここのツリー、超めりくりじゃね?」

「写スンですで撮るしかないしー」ガリガリガリ……パチンッ

「夜だから写らなくね?」

「チョーウケルー」


「は? なにこれ? なんかリボンに願い事書いてあるしー」ピラッ

「それやってみるしかなくね? ね?」


「リボンとか持ってないしー」

「ルーズソックスに書いて吊るせばよくね?」

「チョーウケルー」

「めっちゃダメっぽいし、そこに100均あるし──」



6: ◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 10:46:08 ID:ShZYRrGQ


──なんか子供達が結んだリボンに気づいた人がいるみたい。

最近、ああいうファッションの女の子が多いな……リボンに悪戯とかされなければいいけれど。


あれ? 一人がリボン買って戻ってきた。

この子達も結ぶんだ……


『L'arcのチケット当てるしかなくね?』

『タイタニックみたいな恋に憧れるしー』

『世界が平和でありますように』


最後のを除くと願い事の体をなしてなくね?

……いけない、語尾が伝染った。

私はたぶん神聖なる木の精霊、砕け過ぎた言葉なんかつかわないしー。



7: ◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 10:47:01 ID:ShZYRrGQ


……………
………


2003年12月24日


──あれから数年。イブの夜に私の枝にリボンを結ぶ人は少しずつ、でもかなり増えてきた。

先月あたりにローカルのTV番組で『クリスマスの願い事』なんて題して、この広場で中継をしてたっけ。


もちろん最初にそれを始めた幼馴染みの二人は今年も来てくれた。

中学校の制服で、昔に比べるとずいぶん背も高くなった男の子は、女の子に見られないよう背伸びして結んだみたい。

それもそのはずだよね。

『幼馴染みに彼氏ができませんように』

こんな願い事、本人には見せられない。



8: ◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 10:47:48 ID:ShZYRrGQ


緑のリボンは男性、赤は女性。

いつのまにかそのルールも定着して、私の下枝はたくさんのリボンでデコレーションされている。


『ゆいちゃんと仲直りできますように』

お互いにごめんなさいすれば、きっと大丈夫。


『志望校に合格できますように』

これは責任重大だなぁ……と言っても何もできないけど、私も祈っておくよ。


『おじいちゃんが100才まで長生きできますように』

100才ってすごい、今いくつのおじいちゃんなんだろう? このモミノキよりずっと年上なんじゃないかな。


『可愛くて性格も良くて、俺だけに一途で料理が上手くて、俺のオタク趣味を理解してくれる巨乳の彼女ができますように』

……これはノーコメント。



9: ◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 10:48:30 ID:ShZYRrGQ


なんだか賑やかになったと思ったら、時々この広場で弾き語りライブを開く男の子二人組がギターを鳴らし始めたんだね。

前に立ち話が聞こえたけど、二人はまだ高校一年生という事だった。

ギターも歌もそこまで上手なわけじゃないし、足を止める人はまばらなもの。

でもカバー曲を中心に歌う彼らの音色、私は結構好きだったり。


今夜はクリスマスソングが多いみたい、それでも──


「そうさー俺らは♪ 地球ぅーにーひーとーつだーけーの花♪」


──この曲は外さないよね、本当に今年は駅前でもよく流れてた。


二人の歌をできるだけたくさんの人が聴いてくれますように。

リボンを結んでくれた人もそうでない人も、楽しいクリスマスを過ごせますように。

願いを叶える力なんて無いはずの私、だからせめて真剣に祈るからね。



10: ◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 10:49:41 ID:ShZYRrGQ


……………
………


2008年12月24日


──去年から、私に飾りつけられるイルミネーションは一段と華やかになった。

願いのリボンを結ぶ習慣が、とうとう自治体にも認知されて『クリスマスの地域イベント』として取り上げられたらしい。

私の周囲には2mくらいの高さがある足場が組まれ、たくさんのリボンがそれまでよりも高いところまで結ばれている。

足場からでも手が届かないと思われる高さから上は、イルミネーションを施工するのと同時に飾りのリボンが着けられた。


もともとこの広場のシンボルツリーとして立っていた私だけど、こんな形で人々に親しまれるようになるなんて。

ちょっとくすぐったくて、なんだか感動してしまうくらいに嬉しい。



11: ◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 10:50:26 ID:ShZYRrGQ


『赤ちゃんが元気に産まれますように』

楽しみだね、男の子かな? 女の子かな?


『うちゅうひこうし に なりたい』

宇宙なんてすごい、私は地面に立ってる事しかできないもの。どうか、夢が叶いますように。


『!Phoneを買ってもらえますように』

乗るしかないよね! このビッグウェーブに!


『企画書が通りますように』

この街の企業戦士さんなのかな、がんばって!


『可愛くて性格も良くて、俺だけに一途で料理が上手くて、オタク趣味を理解してくれる巨乳でJKの彼女ができますように』

……微妙に増えてない?



12: ◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 10:51:28 ID:ShZYRrGQ


「──ケーキのお買い忘れありませんかー? イチゴたっぷりのケーキ、お安くなってまーす」


ああ、やっぱりそうだ! 今まで気づかなかった!

あのサンタ衣装でケーキの売り子やってるの、最初にリボンを結んでくれた男の子だ!

アルバイトかな? あんまり在庫捌けてなさそうだけど……お隣りと比べて。


「2500円ちょうど頂きます、ありがとうございました! ……はい、こちら2つですね! 少々お待ち下さい!」

「くっそー、なんでそっちばっか売れるんだよー」ブツブツ…


じゃあ、ミニスカ履いたサンタさんの方は幼馴染みの女の子なんだね。

残念……帰り道の男性サラリーマンが多い時間帯、売れ行きの違いは歴然みたい。


「半分引き取ろっか?」

「うるせーし、自分で売れるし!」


女の子のお言葉に甘えた方が、たぶん早いと思うけどなぁ……



13: ◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 10:52:09 ID:ShZYRrGQ


……………
………


2011年12月24日


──今年のイブの広場は、例年とは少し趣が違う。

イルミネーションはちょっと控えめに、でも広場は一面にキャンドルの優しい灯りで彩られている。


同じ国の少し遠いところで、とても悲しい出来事があった。

規模はともかく同じような事は他の年にもあったんだと思う、でも今年あったそれはずば抜けて大きなものだったんだろう。

この広場で得られる情報しか知らない私でも察せられるくらい、街頭のモニターでひっきりなしに報道されていたから。

私に結ばれたリボンに書かれた内容も、それに関する願い事がちらほらと見られた。



14: ◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 10:52:39 ID:ShZYRrGQ


『少しでも早く被災地が復興できますように』

『がんばろう、日本』

『早く故郷に帰れますように』


私みたいな木の精がいるんだもの、神様だっているかもしれない。

もしそうなら、どうかこの願いを叶えてくれたら──私もそう願わずにいられなかった。

もちろんそれ以外の願い事もある。そっちは私の役割だよね……と言っても祈る事しかできないけど。


『3D-Sがもらえますように』

プレゼント開けるの楽しみだね、そうならいいね。


『幼馴染みへの告白が上手くいきますように』

祈るよ、過去にないくらい真剣に祈るからね!


『まだ年齢的にセーフなはず。可愛くて性格も良くて、俺だけに一途で料理が上手くて、オタク趣味を理解してくれる巨乳でJKの彼女ができますように』

惜しくもないアウトだよ、ていうかこのリボンだけ異様に長くて怖いよ。



15: ◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 10:53:24 ID:ShZYRrGQ


少し久しぶりに、あの二人組が広場で弾き語りライブを始めた。

ギターも歌もすっかり上手になって、ファンも随分ついてきたみたい。


「今夜の演奏は僕らへのお気持ちは結構です。それでも、もしこの音色が少しでも皆さんの琴線に触れる事ができたなら」

「そこのコンビニの募金箱へ……幾らでも構わないので、お願いします──」


立派になったなぁ……ちょっと感動してしまった。

オリジナル曲もたくさんできたんだね、どの曲も素敵だよ。


あっという間に夜は更けて、二人がライブを切り上げたのはイルミネーションの消灯時刻が迫る頃。

そしてギターを片付けた彼らは、私を見上げながら言った。


「……またいつか、ここで演ろうな」

「おう、でもまずは東京で頑張ってからだ。胸張って帰って来られるように」

「絶対にデビューして、有名になって……もう一度、このスギの木の下で──」


──モミノキなんだけど。



16: ◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 10:55:03 ID:ShZYRrGQ


……………
………


2013年12月24日


──私に結ばれる願いのリボンは、年々増え続けている。

今年からは『直接結びに来られない人』を対象に自治体がリボンを預かり、高所作業車で上の枝まで余すところなく飾りつけられた。

なんでもその数は2000本を超えたとか、私としてもすごく誇らしい。

12月の初めにイルミネーションと一緒にその作業が行われて、それからひとつひとつ願い事を読んでいたら意識しない内にイブ当日になっていた。


噂では数年先くらいに駅前周辺の再開発が計画されているみたい。

この広場も、ここから見える街並みも模様替えされるのかもしれない。

今の景観も好きだけど、ちょっと楽しみに思ったりしてる。



17: ◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 10:55:39 ID:ShZYRrGQ


『いもおと げんき うまれますよおに』

女の子だというのは判ってるんだね。がんばれ、新米お兄ちゃんかお姉ちゃん!


『100倍返しだ!』

これだけリボンが増えると、願い事じゃないネタが書かれたものも多くなる。楽しいからいいけどね。


『おじいちゃんが110歳まで長生きできますように』

お爺ちゃん、ほんとに100歳突破してたんだ!


『あやかしうおっち ほしい』

お正月にはアニメが始まるって街頭TVで言ってたね、人気なのかな?


『贅沢言わない、年下で可愛い彼女が欲しい。できればJK』

そろそろ理解して。



18: ◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 10:58:27 ID:ShZYRrGQ


夜も9時を回る頃、遅ればせながらリボンを結びに訪れる女性がいた。

ほとんどの枝はたくさんのそれで埋まっている。

それでも僅かに隙間の多いところを探して、彼女は赤いリボンを結んだ。


私はその女性に確かな見覚えがある。

でも彼女が一人でここを訪れる姿は、今まで見た事が無かった。


『幼馴染みが元気に新年を迎えられますように。それと来年はもっと会えますように』


そっか……去年、二人の願い事は『新生活が上手くいきますように』と『彼が浮気しませんように』だったっけ。

離れているのは寂しいね、元気だといいね。

そして貴女も、元気で待っていられますように。



19: ◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 10:59:11 ID:ShZYRrGQ


……………
………


2015年12月24日


──今年のイブはイルミネーションと共に、別の明かりが駅前に瞬いている。

とは言っても、それは鑑賞用の照明ではなく安全を確保するための『灯火』と呼ぶべき赤い光。

再開発工事が、まずは駅の建物から着工したからだった。


ちょっと雰囲気を損なってる気もするけど、人が怪我をしないために必要な措置なんだから仕方ない。

たぶん全ての工事を終えるには数年でも要するんだろう……綺麗になった街並みを見られる日が待ち遠しいな。


近くが工事中とはいえ、願い事のリボンは今年も変わらず枝に揺れている。

去年は赤が1173本、緑が962本で赤の勝ちだった。

今年も日付が変わったら数えよう──私がそうやって楽しんでいるだけの事だけど。



20: ◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 10:59:52 ID:ShZYRrGQ


『らぐびーせんしゅ に おれ は なる!』

すごかったよね、がんばれ未来のラガーマン。


『おじいちゃんが天国から見守ってくれますように』

おじいちゃん……


『あやかしウォッチしんうち ほしい』

ほんとにブームになったね、もらえるといいね。


『もう、誰でもいい』

……涙拭けよ。


『来年も、たくさん彼に会えますように』

知ってる、このリボンはあの女性のもの。そして──


『幼馴染みへのプロポーズが上手くいきますように』

──本人が結んだんじゃないけど、上の方の枝にこんなリボンがある事も。



21: ◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 11:00:41 ID:ShZYRrGQ


イルミネーションは夜11時まで、10時を過ぎる頃には人通りは減り始める。

その時間帯にここを訪れるのはイブの夜なんか関係ないサラリーマンか、或いは仲睦まじいカップル達。

毎年のこの時間が、なんとなく『祭りのあと』みたいな気がして切なくなる……まあ本当のクリスマスは明日なんだけどね。


一年に一度、私が心待ちにしている冬の晴れ舞台。

来年も来る事は解ってるのに、それでも終わるのは寂しいんだよ。

もちろん、どの季節だって人の営みを愛おしく見守る事は私の幸せなのだけど。


こんなにたくさんの人に親しんでもらえている、それだけで特別な事なのに。

これは幸せ過ぎるモミノキの贅沢な想い。

ただの我儘だ……って、解ってる──



22: ◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 11:01:12 ID:ShZYRrGQ





──でも、この時の私には『解っていない』事があったんだ。





23: ◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 11:01:51 ID:ShZYRrGQ


……………
………


2016年12月24日


──私は、このツリーの精。

ある街の駅前広場に植えられたモミノキに、いつしか宿った木の精霊。

時季には街路樹と共にイルミネーションの飾り付けをされて、地域で一番大きなクリスマスツリーになる。


いつからか『願いのクリスマスツリー』なんて呼び名がついて、たくさんの人々が願い事を書いたリボンを枝に結んでくれるようになった。

願いを叶える力なんて無いけれど、それが私の自慢であり誇りだったんだよ。

みんなの願いを、せめて一緒に祈ってた。


……だけど今年はそれができない。

いつもと同じように願いのリボンは12月の初め頃からその数を増していったけど。

私はそれらを読むことさえ許されなかった。



24: ◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 11:02:27 ID:ShZYRrGQ


駅周辺の再開発工事は着実に進み、とうとう今年の11月には広場の工事も半面は完成した。

広場の新しいエリアには、ステンレスの管でできたオブジェがあちこちに作られている。

ひとつひとつ違う造形をしたそれらは、私に代わる『リボンを結ぶ先』として設けられたものだった。


今年のリボンはそこに揺れている。

足場や高所作業車を使って大掛かりな準備をしなくても、人々がリボンを結べる金属の枝。

剪定や水遣りを施さなくても姿が変わらず、管理の手間がかからない人工の木々。


来春に着工する残り半面の広場改修工事で、私は伐採される事が決まっていた。

今年の私はイルミネーションこそ纏っているけれど、周囲は赤いパイロンで囲まれ『人避け』が施されている。


悲しくはある、寂しくもある。

でも『より便利で手軽にイベントを楽しむ事』が人々の願いであるならば、私は受け入れるべきだと思った。



25: ◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 11:03:59 ID:ShZYRrGQ


時刻は夜7時を回った。

私は最後のイブの光景を目に焼きつけようと思った。

枝にリボンが無い事は切ないけれど、行き交う人々の顔には変わらぬ笑みが浮かんでいた。


「──入っても大丈夫かな?」

「良くはないだろうけど、入るしかないよ」


その時、私は自らの足元に周りを気にしながら近づこうとする人影がある事に気づいた。

数はふたつ、私はその青年と女性の顔に確かな見覚えがある。


「見つかったら怒られるだろうな……」

「僕らも怒ってるし、文句言ってやりゃいいんだ」

「ささっと結んじゃおう、早く」


…モゾモゾ
シュルッ、ギュッ…



26: ◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 11:04:31 ID:ShZYRrGQ


赤と緑のリボンを結ぶ彼らの指には、銀色の指輪が着けられていた。

20年近くも前、私に初めてのリボンを結んだ二人。

あの男の子と女の子が大人になって、こうして『最後のリボン』を結んでくれている。

私は堪らなく嬉しかった。


でも、それは本当に最後のリボンとはならなかった。


「──誰か先に入ってね? ね?」

「ウッソ、先越されたしー」

「チョーウケルー」


また他の人影が近づく、手にはそれぞれリボンを持っている。

三人とも少し派手目な女性で、私の枝に赤のリボンが増えてゆく。



27: ◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 11:06:47 ID:ShZYRrGQ


やがてここに人の姿がある事に気づいたのか、広場にいる他の人達も少しずつ私の周りに集まり始めた。


「やっぱり、同じこと考えた人いるみたい」

「よし、俺らも行こう」

「パイロン除けちゃっていいんじゃない? まだここが工事されてるわけじゃなし」

「私、この枝にしよ!」

「ずりぃ! 真正面じゃんか!」

「こっちこっち! この枝なら届くよ!」

「一人でたくさん結んでもいいのかな?」


いつのまにか私の足元には、ちょっとした人集りができていた。

赤も緑もリボンは次々と結ばれ、数を増してゆく。

それらに書かれた、願い事は──



28: ◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 11:07:29 ID:ShZYRrGQ


『モミノキを無くさないで』

『伐採断固反対!』

『私はこのツリーに願掛けをして試験に受かりました、絶対に切って欲しくないです』

『現在署名活動中、市役所に叩きつけてやるからな』

『童貞貫いても魔法使いにはなれなかった、せめて願う先だけでも残してくれ』

『ツリーを きらないで ください』

『せめて移植を』

『伐採反対/駅前商店街有志一同』

『モミノキを保存するためなら管理のボランティアにも参加する意思があります』



29: ◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 11:08:04 ID:ShZYRrGQ


──涙を零せたらいいのに、私はそう思った。

利便性や維持費用を度外視しても私を必要としてくれる人々は、こんなにもいたんだ。

みんな笑顔で、でも真剣な目でしっかりとリボンを結んでゆく。


その少し向こうで、不意にギターがコードを奏でた。


「メリークリスマス、ちょっと歌っていいですか?」


その姿は街頭TVで何度も見かけた──ううん、私はそれよりも前から彼らを知ってる。

この街で歌い始めて、もっと大きな街へ巣立って、そして帰ってきた。


「おい! あれ『かぼす』じゃね!?」

「嘘、地元のスターじゃん!」

「ちょっとちょっと、私ファンなんですけど!」

「これ撮影して拡散してもいいのか!?」



30: ◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 11:08:49 ID:ShZYRrGQ


人集りは一層大きくなった。

二人はギターを構え直し、ハーモニカもセットして微笑んだ。


「どうも、地元に帰ってきました」

「この駅前は僕らにとって活動の礎になったところです」

「本当、よくこの木の下で歌ったんですよ……それで」

「噂で駅前が再開発されるって、そしてこの木が伐採されるって聞いて……今年のイブは絶対にここで歌おうって思いました」


バックボーカル担当がギターの弦を弾く。

聴いた覚えのない、静かで優しいアルペジオ。


「僕らはこの木に、ずっとここにあって欲しい。……その想いを込めて書き下ろした曲です」


それは、私のために書かれた曲だった。


「曲名は『大きなスギの木の下で』です。じゃあ、聴いて下さい──」


──モミノキなんだけど。



31: ◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 11:09:45 ID:ShZYRrGQ


……………
………


2017年12月24日


──私は、このツリーの精。

ある街の駅前広場に植えられたモミノキに、いつしか宿った木の精霊。

時季には街路樹と共にイルミネーションの飾り付けをされて、地域で一番大きなクリスマスツリーになる。


いつからか『願いのクリスマスツリー』なんて呼び名がついて、たくさんの人々が願い事を書いたリボンを枝に結んでくれるようになった。

願いを叶える力なんて無いけれど、それが私の自慢であり誇りなんだよ。

みんなの願いを、せめて一緒に祈る事……そのくらいしかできないけれど。


だけど本当は私が祈ったりしなくても『みんなの願い』は、とても強い力を持ってる。


私は、このツリーの精。

みんなの願いに救われて、ここにあるんだよ。



【おわり】


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Trick please.(原題/ハロウィンの夜、兄妹が知らないおねーさんに悪戯される話)



1: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:07:13 ID:sccwbCZc


回覧板:町内の皆様へ


10月31日はハロウィン、夜には仮装をした子供達が近所を訪ねて回る日です。

お菓子の用意があり子供達を受け入れて頂けるお宅は、ジャック・オ・ランタン(紙に描いた絵などでも構いません)を玄関に飾ってあげて下さい。

町内の子供達にはそれを目印に訪問するよう伝えます。

できるだけたくさんのお宅で子供達を迎えて下さいますよう、ご協力お願いします──


妹「──お兄ちゃん、なに見てんの?」

兄「ん、回覧板きてたんだ」ペラッ

妹「お隣に回して来ようか?」

兄「あとで頼むわ。さて……ハロウィン、どうするかな」

妹「あー、その案内なんだ」



2: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:08:44 ID:sccwbCZc


兄「ハロウィンは今年も平日だから、親父は仕事だしなぁ」

妹「そうだねぇ……お父さん、だいたいこの時期から年末までは帰り遅いし」ウーン…

兄「ウチみたいな父子家庭はこういう時が難しいよな」

妹「仮装した子供を迎えようにも、ウチにも子供しかいないってね」


兄「ま、親父がお菓子代だけ出してくれるなら俺が迎えてもいいんだけどさ」

妹「お兄ちゃんが?」

兄「来年には高校生だ、もう仮装してお菓子もらおうって歳じゃないし」


妹「そっか……私、どうしよっかな」

兄「お前はまだ中一なんだし、子供達に混じればいいと思うよ」



3: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:09:43 ID:sccwbCZc


妹「クラスの子も何人か仮装するって言ってたけど……でも衣装の準備とか、ちょっとだけ面倒くさかったり」テヘヘ

兄「ワシがお裁縫とかできなくてすまんのぅ……」ゲホゲホ

妹「おじいちゃん、それは言わない約束でしょ」クスクス


兄「お前がしたいようにすればいいけど、俺に気を遣う必要は無いからな?」

妹「うーん……じゃあ、私も家で子供達を迎える側になってみる!」フンス

兄「当日までに決めればいいよ。とりあえず回覧板には『受け入れ可』にハンコ押しとく」ペタッ


妹「んじゃ、お隣さんに持ってってきまー」

兄「へいへい、頼んだ──」



4: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:10:18 ID:sccwbCZc


……………
………


…10月30日、夜


妹「──40袋目ぇっ!」

兄「あと10袋作っとくぞー」ガサガサ


妹「けっこう大変……やっぱり箱にドサッと入れて掴み取りさせる方式にすればよかった」

兄「『可愛い袋に小分けしてリボンかけよう!』とか言い出したの、お前な」ヤレヤレ

妹「めっちゃリボン結ぶの下手で最初の十何個かやり直ししたのは、お兄ちゃんのせいだしー」


兄「カントリーママンが足りなくなってきたぞ……」

妹「お兄ちゃんが2枚ずつ入れるからじゃん、チロロチョコで代用しとこうよ」



5: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:10:52 ID:sccwbCZc


兄「しっかし、まさか親父がこんなにお菓子代くれるとはな」

妹「封筒開けたら諭吉さんだったからびっくりしたよ」

兄「こんだけ買っても、4千円近く残ってるぞ」

妹「サイゼリ屋で豪遊しちゃう? しちゃう──?」フンスフンス


…ガチャッ


父「──ただいま……うわ、リビングすごい事になってるな」

兄「おかえりー。ごめん、今がいちばん物が溢れてるタイミングなんだわ」

妹「お風呂できてるよー」


父「ほほう、こりゃまた凝った包装にしたなぁ」

妹「せっかくのお祭りだしね」



6: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:11:26 ID:sccwbCZc


父「父さんが子供の頃にはハロウィンなんて意識もしなかったが」

兄「まあだいぶ浸透したな……って思うのは、ここ数年だよね」


父「2人とも、このイベントは好きか?」

妹「うん、好き」

兄「ただの平日にお楽しみイベントがあるって考えると、そりゃ嫌いじゃないよ」

父「……それはよかった」ニコッ


妹「よかったの?」

父「ああ、こういう行事をちゃんと楽しめるのは素直の証しだ」

兄「いぇーい、反抗期真っ最中だぜー」ヘッヘッヘッ

父「本当に酷い反抗期なら、たぶん自覚せんよ」ハハハ…



7: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:12:02 ID:sccwbCZc


父「しかし、それなのに2人とも子供を迎える側でよかったのか?」

兄「俺はいいんだよ、子供好きだし」

妹「私もー」


父「そうか……すまんな」

兄「いいんだってば、仕事忙しいんでしょ?」

妹「そうそう、それにお菓子を用意して迎える側もやってみたかったっていうか」

父「うん、うん……大きくなったもんだ」

兄妹「よせやい」テヘヘ


父「ところで、お釣りは?」

兄妹「よせやい」プイッ



8: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:12:38 ID:sccwbCZc


……………
………


…ハロウィン当日、夜


ポニテ「──わ、やった! 板チョコ入ってる!」キャッキャッ

スポ刈「ずりぃ! 俺のなんかチョコはブラウンサンダーだぞ!」

メガネ「でも代わりにじゃがぴこ入ってるじゃん」


兄「中身はちょっとずつ変えてるけど、そんなに大差ないようにはしてるぞー」

妹「チョップチュッパスはどれにも入れてるしね!」


スポ刈「ほんとかよー? 仮装の出来で選んだりしてない?」

兄「だったらお前の『トイレットペーパー顔に巻いただけミイラ男』なんか、うみゃー棒1本だわ」

スポ刈「なにぃっ!?」ガーン

メガネ「ざまぁ」プププッ



9: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:13:28 ID:sccwbCZc


妹「ポニテちゃんの仮装は気合い入ってるね!」

兄「うん、可愛いオオカミ少女だ」

ポニテ「えへへー、お母さんが先月から作り始めてたんだ」テレテレ

メガネ「僕の吸血鬼衣装もなかなかでしょ?」キラーン

兄「そうだな、色白だしよく似合ってるぞ」


スポ刈「んじゃ、そろそろ次の家に行こうぜ!」

ポニテ「9時までには帰れって言われてるし、もうあんまり時間ないんじゃない?」

メガネ「さっき会った本屋の兄ちゃんに訊いたら、その時で8時20分って言ってたけど……」



10: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:14:15 ID:sccwbCZc


兄「本屋の……って、俺のクラスの?」

スポ刈「あ、そうか。兄ちゃん同級生だっけ」

ポニテ「ぜんぜんリアルじゃないゾンビの仮装してて、笑っちゃった!」

兄「まじかー、見たかったな」


メガネ「板金屋の兄ちゃんにも会ったよ……っていうか、お化けシーツ被ってたから声しか判らなかったんだけど」

兄(そっか……あいつら、今年も近所回ってたのか)


ポニテ「それじゃ、ありがとー! お邪魔しました!」ペコッ

兄「ん……こちらこそ、来てくれてありがとな」

妹「来年も待ってるよー」ニコニコ


……パタンッ、タタタタッ
カエッコシヨウゼー
ヤーダヨー……



11: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:15:03 ID:sccwbCZc


妹「ふぅ……喜んでくれたね」

兄「もうお菓子袋もほとんど無いぞ」

妹「ぐぬぬ、たっぷり残ったら今後のおやつライフが充実するとこだったのに」

兄「せっかく袋分けしたんだから、貰われた方が嬉しいだろ」

妹「それはそうなんだけどね」


兄「……結局お前は仮装しなかったけど、本当に良かったのか?」

妹「ちょっとだけ寂しい気もするけど、迎える側をやるのも楽しいし。やっぱり子供達って可愛いしね」

兄「ほほう、さすが中学生。親父の言う通り大きくなったもんだ」


妹「お兄ちゃんの妹なのは変わらないんだから、内緒で用意してるスペシャルお菓子袋とかくれてもいいんだよ?」

兄「ねーよ」

妹「世知辛ぇぜ……」フッ…



12: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:15:38 ID:sccwbCZc


妹「でも、ほんと去年より更に盛り上がってる気がするねぇ」

兄「ただの仮装イベントとしてだけどなー」


妹「外国のハロウィンって、もっと違う感じなのかな」

兄「発祥を言えばケトル人の収穫祭であり、魔除け祈願だったりしたらしいよ」

妹「誰そのヤカン星人、もしかしてケルト?」

兄「ケルトって言ったけど?」

妹「ほっほーう」


兄「ごほん……なんでも日本のお盆みたい側面もあって、死者の魂が家族の元へ訪れる日だとか」

妹「へー、詳しいね」



13: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:16:24 ID:sccwbCZc


兄「でも同時に悪い霊なんかも現れるから、ジャック・オ・ランタンはそれを近寄せないためのおまじないなんだってさ」

妹「我が町内では『お菓子の準備がありますよ』サインだけどね」


兄「ランタン、まさか我が妹が本当にカボチャくり抜いて作ってるとはな」

妹「遊びに全力です」フンス

兄「なかなかよく出来てたよ、あれなら霊も寄って来られまい」

妹「だけどそれじゃ、良い霊も近寄れなかったりするのかな?」


兄「……そこまでは調べてないな」

妹「よく知ってると思ったらネット知識だったかー」

兄「やかましいわ」



14: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:16:59 ID:sccwbCZc


妹「さーて、まだ来るかな?」

兄「もう8時半も過ぎてるし、どうかな」

妹「9時になったらお風呂入ろっと」


……ポツ、ポツ
サーーーーーーッ……


妹「……あれ? 雨降りだした?」


兄「あー、こりゃもう来ないわ。街中で仮装してる人とか大変だろうなー」

妹「ランタン片付けてくる!」ガチャッ

兄「俺がやろうか? ロウソク熱くて出せないだろ──」



15: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:17:34 ID:sccwbCZc


ザーーーーーッ
ピチョン、ピチョン……


妹「わ、けっこう降ってる!」

兄「ちょっと大粒だな」

妹「私の力作ランタンがー! 上にも穴開けてたから火が消えてるよ……」

兄「悪霊が来たりして──」


魔女「──あの、ごめんください」


妹「ん?」

兄(女の人……魔女の仮装してる)


魔女「急に降りだしてしまって……その、できれば」

兄「ああ、雨宿り。玄関でもいいですか?」

妹「どぞどぞ!」



16: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:18:15 ID:sccwbCZc


魔女「すみません、お邪魔しますね」

兄「大変でしたね。靴履く時の椅子だけど、どうぞ掛けて」

魔女「ええ、ありがとう」ニコッ


兄(大人……それも大学生とかじゃないよな。30歳はきてないだろうけど……)

魔女「さっきまで月が見えてたのに……びっくりしたわ」

兄「天気予報もこんなの言ってなかったですよ」


妹「タオル持ってきたー」タタタ…

魔女「まあ、色々とありがとう。ごめんなさいね」

兄「帽子どこか掛けますか?」

魔女「ううん、髪のセットをこれで押さえてるから脱げないの」



17: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:18:49 ID:sccwbCZc


妹「すごく本格的な衣装、素敵だなぁ」キラキラ

魔女「あらあら、嬉しいわね」ニコニコ


兄(目深気味に帽子被ってるからハッキリは判らないけど、けっこう綺麗な人だよな……)

魔女「……なにか?」

兄(……おっぱい大きいし)


妹「ハロウィンパーティーとかでも行ってたの?」

魔女「ええ……地元まで帰ってきたところではあったんだけど、あんな大粒の雨じゃ堪らないわ」

兄「メイクもしてるし、女性は大変でしょうね」

魔女「ふふ……お化粧が落ちちゃったら歳が誤魔化せないし?」

兄「そ、そんなつもりじゃ」ゴニョゴニョ



18: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:19:27 ID:sccwbCZc


妹「でもメイクもホント綺麗、ほっぺのお星様シールとかで可愛さもバッチリだし」

魔女「若さ故の可愛さにはとても勝てないわよ」


兄「妹の場合、まだ子供の可愛さですけどね」

妹「だまらっしゃい」ムムッ

魔女「あはは、兄妹で仲良しなのねぇ」


兄「普段はもっと生意気ですよ、おねーさん来てるから鳴りを潜めてるけど」

魔女「でも貴方くらいの歳で素直に妹を『可愛い』と言えるなんて珍しいと思うわよ」

妹「そういえば初めて言われた気がする」

兄「言葉のあやってヤツだな」

妹「感じ悪っ!」ベーーーーッ

魔女「ふふふ、お邪魔したのが楽しいお家で良かった」クスクス



19: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:20:00 ID:sccwbCZc


妹「パーティーは何人くらいで?」

魔女「たったの2人っきりよ」

妹「2人きり! もしかして恋人!」フンスフンス

魔女「さあ、どうかしら?」


妹「いいなぁ、大人になってするハロウィンパーティーとか……そういうの憧れちゃう」

魔女「お祭りはいくつになっても楽しめばいいのよ。私、ハロウィンは大好きなの」


兄「パーティーが……じゃなく、ハロウィンが好き?」

魔女「ええ、ちょっと思い出深くってね」

妹「恋バナの予感!」

魔女「あら、さすが女の子ね。実はハロウィンにプロポーズされたのよ」



20: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:20:36 ID:sccwbCZc


妹「えっ、おねーさん結婚してるの?」

魔女「あらあら、未婚に見えたなら嬉しいわ」

兄(旦那さんがいるのに、2人でパーティー? ……まあ、女性の友達となら有り得なくもないか)


魔女「だけどそのエピソードが面白くって、余計に思い出深くなっちゃったの」

妹「聞きたいでーす!」


魔女「ハロウィンってだんだんと浸透してきてるけど、以前はもっと影が薄かったでしょ?」

兄「そうですね、僕が小学校の低学年の頃は町内で仮装してる子なんかいなかったし」

魔女「私の夫……当時は彼氏ね、その頃はハロウィンに何をするのかよく解ってなかったのよ──」



21: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:21:11 ID:sccwbCZc


………



『──パンプキンパイ美味しかったよ、上手く焼けてたな』

『よかった、作った甲斐があったわ』


『ハロウィンにパーティーするなんて初めてだったけど、たまにはこんなイベントに乗っかって楽しむのも悪くないかも』

『ふふ……似合ってるわよ、フランケン・シュタイン博士』

『この怪物が博士なわけじゃないんだぞ?』

『あ、そっか……博士は造った人だっけ。あははは……』


『でもいくら仮装するって、チャームポイントまで隠さなくてもいいのに』

『ほっといて下さーい』

『ははは……まあいいけどさ。じゃあイベントに乗っかりついでだけど、本題に入ろうか』

『本題?』

『うん、プレゼント交換。気に入るといいんだけど──』



22: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:21:44 ID:sccwbCZc


………



妹「──ハロウィンにプレゼント交換?」

魔女「そう、可笑しいでしょ? あの人ったら、クリスマスみたいにプレゼント交換するつもりでいたのよ」クスクス

兄「なるほど、そのプレゼントってのが」

魔女「ええ、婚約指輪だった。私は何も用意してなくって、だから……じゃないけど代わりに『OK』をプレゼントしたの」

妹「なにそれ、映画みたい!」キャーッ


魔女「でも彼、すごく恥ずかしかったみたいで『まさかプロポーズで一生の語り草を作ってしまうなんて』って嘆いてたわ」

兄「OKされたからいいようなものの、そりゃ凹むだろうな……」

妹「それでもやっぱり素敵なエピソードね、ハロウィンを好きになるのも納得だよ」



23: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:22:23 ID:sccwbCZc


魔女「……あなた達は? 今日は仮装したり近所を回ったりしなかったの?」

兄「うん、今年は回ってくる子供達を迎える側になろうと思って」

魔女「そう……それは偉いけど、あなた達くらいの歳ならまだお菓子を貰う側でもいいのに」


妹「ハロウィンでも平日だから、お父さん遅いし……ウチはお母さんがいないから」

兄「でも町内の回覧板に『できるだけたくさんの家で子供達を迎えてあげて欲しい』って案内があって、それで決めたんです」


魔女「……偉いわ、本当に。子供達はたくさん来てくれた?」

妹「うん! 50も用意してたお菓子の袋、ほとんど無くなっちゃった!」エヘヘ

兄「みんな色んな仮装してて、迎えるのも楽しかったし……良かったかなって」



24: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:22:58 ID:sccwbCZc


魔女「子供達も喜んだでしょうね」

兄「喜んでくれてたと思います、うん……喜んでた」

妹「すごく楽しそうにはしてたよ」


魔女「……でも、子供達の楽しそうな様子を見るとちょっと寂しかったりしない?」

兄「最後に来た子達が俺の同級生が仮装してるのを見たらしくて、そういうのを聞けば……少しだけ」

魔女「それは当然なの……大人達の代わりをしようとするのはとても立派だけど、あなた達は本当の大人じゃないもの」


兄「母さんがいないのも親父の仕事も、仕方ない事だから」

妹「私が生まれてじきにお母さんは病気で死んじゃったから……2人とも覚えてないし、そういう事には慣れてるんだよね」



25: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:23:52 ID:sccwbCZc


魔女「慣れる事と理解する事は違うわよ?」

兄「……どういう意味です?」


魔女「どんなに母親のいない生活に慣れても、それを寂しいと思っちゃいけなくなるわけじゃないでしょう」

妹「でも、寂しがってたらお父さんに心配かけちゃうし」

魔女「親が子の心配をするのは、当たり前の事じゃない?」


兄「そうかもしれないけど……それでも心配な事は少ない方がいいじゃないですか」

魔女「それが慣れと理解の違いよ。あなた達は母親がいない事、お父さん1人で子育てをするには限界がある事を理解はしてる」

兄「でも、慣れてはいない……?」

魔女「そう、だってそれは慣れるものじゃない。あなた達が『寂しがっては見せない』けど『寂しいと思ってる』時点でね」



26: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:24:27 ID:sccwbCZc


魔女「心配は少ない方がいい……間違いじゃないわ。でも親は『子供に感情を飲み込ませて』まで、それを望んだりしない」

妹「そんな風に思わせないようにしてたつもりなんだけどな……」

魔女「ふふ……それでも親には解るものよ」


『──2人とも子供を迎える側でよかったのか?』

『俺はいいんだよ、子供好きだし』

『私もー』

『そうか……すまんな──』


兄(……親父は、それを謝ってたのかな)

魔女「でも、あなた達はいい子よ。それは間違いない、私が保証するわ」ニコッ



27: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:25:05 ID:sccwbCZc


妹「私は……今日のために仮装の準備をするのを、ちょっと面倒くさいと思ったの」

妹「お裁縫とか得意じゃないし、全部買って揃えるのも勿体ないし」

妹「でも、なによりも──」


『──ポニテちゃんの仮装は気合い入ってるね!』

『えへへー、お母さんが先月から作り始めてたんだ──』


妹「──友達は、けっこう皆お母さんが衣装を作ってくれるって」

妹「私は……たとえ自分で作っても、お母さんに見てもらう事もできない」グスッ

妹「きっと、本当はそれが……寂しかった」ポロッ…


兄「お前……そんな風に」ナデナデ

妹「ごめん、お兄ちゃんやお父さんに見せられたら充分なはずなのに……」ポロポロ…



28: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:25:39 ID:sccwbCZc


魔女「……お母さんは病気で亡くなったんでしょう。だったら誰の事も恨んだりしてるわけはない」

魔女「ただ、こんなにも可愛い子達を遺して逝った事だけ……きっと悔しがってる」


魔女「本当は誰よりも、あなた達にハロウィンの衣装を作ってあげたかった」

魔女「それを着せて、何十枚も写真を撮って、お友達も招いてお菓子を振舞って……」

魔女「参観日も、運動会も、文化祭も、早起きしてお弁当を作って送り出して、見に行って」

魔女「そんな当たり前の愛情をかけてあげられなかった事が、すごく心残りだと思う」


妹「見せたかった……よ……」グスン

兄「……そうだな」



29: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:26:37 ID:sccwbCZc


魔女「ごめんなさい……本当に」

妹「え?」

魔女「ううん……きっとお母さんは、そんな風にあなた達に謝りたいと思ってるわ」


兄「それは、それだけは違う……と思う」

魔女「……違うの?」


兄「だって謝られる理由が無い」

妹「うん」ゴシゴシ

兄「つまんない駄洒落とかも言うけど、あんな親父の元に俺を生んでくれて……妹も与えてくれて」

妹「成績そんなに良くないけど、2人とも身体はすごく健康だもん」


兄「物心ついてから会った事もないけど、それでも」

妹「うん……なんとなくだけど、お母さんの事……きっと大好きなんだよ」ニコッ


魔女「……っ」



30: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:27:45 ID:sccwbCZc


妹「おねーさん、どうしたの?」

兄(下を向いて泣いてる? ……まさかな)

魔女「……大丈夫、なんでもないわ」フルフル


ピチョン……ピチョン……


兄「あれ? いつの間にか雨が上がってるみたいだ」

妹「9時もとっくに過ぎてる。お父さんも帰り始めた頃だろうし、良かったね」

魔女「通り雨だったのね。……じゃあ、そろそろ私はおいとましようかしら」

兄(なんで俺も妹も、今日初めて会った人にこんな話をしちゃったんだろう……)


妹「そういえば飲み物も出さなかったね、ごめんなさい……」

魔女「お構いなく、すごくいい寄り道だったわ」



31: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:28:23 ID:sccwbCZc


魔女「来年、また子供達を迎える側になるのかは解らないけど……もしそうだったら」

兄「はい?」

魔女「今度は迎えるあなた達も仮装をして待っててみたらどうかしら?」

妹「あー、それも面白いかも」


兄「仮装した子を泣かすつもりでドア開けようか」ヘヘヘ…

妹「きっとあんなだけど、スポ刈くんが一番に泣くよ」クックックッ

魔女「こらこら、大人げないわよ……って、さっきあなた達を子供扱いしたけどね」


兄「海外なんかじゃ、迎える側も関係なく仮装してたりするらしいですね」

魔女「そうね、でもハロウィンに仮装するのはお遊びの意味だけじゃないから」



32: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:29:01 ID:sccwbCZc


妹「他にも意味があるの?」

魔女「ハロウィンは死者が家族の元を訪ねてくる夜でもあるの……知ってる?」

妹「お兄ちゃん、さっき言ってたよね」

兄「どうせネット知識だけどな」


魔女「それはつまり、冥界の扉が開く……言い換えれば生者と死者の区別が曖昧になる日という事よ」

兄「仮装って、もしかして?」

魔女「ええ……生者が死者に似た姿になる事で、死者をハッキリと見分けられないようにするものなの」


妹「なんでそうしなきゃいけないんだろう」

魔女「自分が話している相手を死者だと認識すれば、自分が生者だという認識があやふやになってしまう。……そうしたらどうなると思う?」

兄「冥界に引っ張られる……?」ゾクッ

魔女「……そういう説もあるわ」クスッ


妹「でも、本当に死んだ人が家族のところへ来るなら──」



33: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:29:44 ID:sccwbCZc


魔女「──生きてる人は死者を認識してはいけない」

魔女「だから死者は生者に、自らをこの世ならざる者だと悟らせてはいけない」


魔女「たとえ自分の家族に会ったとしてもね……ただ、願うだけ」

魔女「どうか愛する人達が健やかに過ごせますように……できるだけ先まで『自分の元へ来ませんように』って願うのよ」

魔女「生者は魔除けのランタンを焚いて悪霊もろとも死者を近寄せない、死者は近づかない……それでいいの」


魔女「だけどもし何かの偶然で、彼らが出会えたら」

魔女「名乗り出る事はできなくても、言葉を交わす事ができたら……それはきっと奇跡よ」

魔女「ハロウィンの夜がくれた、束の間でもかけがえのない奇跡の時間──」



34: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:30:25 ID:sccwbCZc


魔女「──いけない、帰るなんて言っておいてまた長居しちゃったわね」フフッ

妹「もっといてもいいのに」


魔女「……うん、ありがとう。じゃあ、せっかく仮装してお邪魔したんだから最後に言わせて貰おうかしら」

妹「え? なんだろ?」

魔女「ふふっ、大人が子供に対して言うなんて可笑しいわね。まあいい……かな?」

兄「ああ……そっか、そういえば」


魔女「Happy Halloween……Trick or Treat──?」



35: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:31:18 ID:sccwbCZc


兄「──Trick」

魔女「えっ?」

妹「私も……トリックがいい」

魔女「悪戯を選ぶの? 私があなた達に悪戯を……?」キョトン


兄「こんな事言うの失礼かもなんだけど……おねーさんと話してて『母さんってこんな感じかな』って思っちゃったんだ」

妹「悪戯でもなんでもいいから『何かをされたい』……可笑しいかな?」

魔女「ごめんなさい……悪戯なんて急には思いつかない」


フワッ、ギュッ……


兄妹「わっ……!?」

魔女「抱き締めるくらいしか、できないわ──」



36: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:31:52 ID:sccwbCZc


………



…ガチャッ


父「──ただいま。ごめんごめん、やっぱり遅くなってしまった」パタンッ

兄「おかえりー」

妹「おかえりなさーい、子供達たくさん来てくれたよー」

父「そうか、そりゃあよかった。迎える側は楽しかったか?」


兄「うん、悪くなかったな。どの子も可愛かったし」

妹「それに最後に大人も来たしねー」ニコニコ

父「大人も? 仮装して来たのか? ……町内の役員さんかな」



37: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:32:33 ID:sccwbCZc


妹「魔女の仮装した綺麗なおねーさんだったよ」

父「ほうほう、いいなぁ」


兄「おっぱいも大きかったし」プププッ

父「そこんとこ詳しく」キラーン

兄「たぶん二十代後半だと思うんだ」

父「なんと、旬じゃないか……」

妹「うわー、アホが2匹もいるー」


兄「あはは……大人だけど、ハロウィン大好きなんだってさ」

妹「素敵な思い出があるんだって、話してくれたよ」

父「そんなに仲良くなったのか」

妹「うん、すごくいい人だった。すごいんだよ、ハロウィンにプロポーズされたんだって!」

兄「それも『ハロウィンもプレゼント交換がある』って、勘違いした彼氏が指輪用意してたらしいよ。そりゃ思い出に残るよなー」



38: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:33:09 ID:sccwbCZc


父「……それは、どんな人だった?」

兄「だから二十代後半くらいの……」

父「そうじゃなく、顔の特徴とか身長とか」

妹「帽子を深く被ってたから、あんまり判らなかったんだよね。綺麗とは思ったけど……」

兄「身長どのくらいだったかなー? 椅子に座ってもらったからなぁ……」


父「そうか……いや、なんでもない」フゥ

兄「なに? やっぱ町内の人だったりするの?」

妹「あ、そうだ……ほっぺたに星のシール貼ってたよ!」

兄「そんなん身体的特徴にはならんだろ、剥がせば無くなるんだから」

妹「ちぇー」


父「……貼ってたのは、目の下くらいか?」

妹「そうだよ、このへん」ツンツン



39: ◆LyktYaZ0Wk :2017/10/20(金) 20:33:46 ID:sccwbCZc


『──魔女の仮装もいいけど、そろそろシール剥がさない?』

『やーよ、せっかく隠しても笑われない日なんだから今日はこのまま』

『泣きぼくろは立派なチャームポイントだろうに……まあほっぺたに星なんて、無邪気で可愛くもあるけどさ』

『持つ人にはそういうのもコンプレックスだったりするのよ? それに泣きぼくろって呼ぶには少し下過ぎると思うの』

『そうかなぁ……僕にとっては、そのほくろも含めて──』


父「……さぞ、美人だったろうな」

兄「そうは言ってもモデルさんや芸能人ってほどじゃないよ?」

父「いや、きっとそれは──」


『──世界一の美人だよ』




【おわり】



.

Japan Santa Claus Association(原題/NPO法人日本サンタクロース協会)



1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします[saga]


『──なあ、父ちゃん。サンタってやっぱり父ちゃんや母ちゃんなんだろ?』

『クラスみんな知ってるもん、サンタなんかいないって』


『俺、12月に出るファミコンソフトがいい!』

『でも発売日はクリスマスより前だから、先にプレゼントだけ欲しいんだけど』

『当日はケーキがあったらいいよ』


『えー、じゃあお年玉前借りはできない?』

『……俺、来年からクリスマスプレゼントは現金がいいな──』



2014/12/22(月) 15:31:45.65 ID:LeOO3t5gO
2:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします[saga]

……………
………



娘「サンタさん、私の欲しいものちゃんと分かるかなー」

父「どうだろうな」

娘「ママには言ったんだけどなぁ」ハァ…


父「そんなに気になるなら、サンタに手紙でも書いたらどうだ?」

娘「手紙? サンタさん読む?」

父「そりゃ読むだろ。今の内から枕元に靴下吊るして、そん中に入れとけばいい」

娘「……そっか」


父「もう保育園で字は習ったろ?」

娘「うん! でも『は』と『ほ』と『ま』をいっつも間違えるんだ……」

父「大丈夫、サンタは子供の字は見慣れてるはずだ。ちゃんと読めると思うぞ」

娘「じゃあ私、サンタさんに手紙書くよ──!」フンス



2014/12/22(月) 15:32:40.37 ID:LeOO3t5gO
3:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします[saga]


………



妻「──お疲れさま、あなた」

父「さんざん相手させられたなぁ」フゥ

妻「そりゃそうよ、朝にプレゼントを見た時から『パパが帰ってきたら一緒に遊ぶんだ』って大はしゃぎだったもの」

父「楽しいクリスマスだったみたいでなにより」


妻「ちゃんと欲しいおもちゃ解ってくれてた…って、すっかりサンタを信じてるわ」

父「そりゃよかった」

妻「でもいつまでサンタを信じる純粋な子供でいてくれるかしら」

父「……ずっとだ」

妻「だといいわね、ふふ…」



2014/12/22(月) 15:33:07.01 ID:LeOO3t5gO
4:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします[saga]


……………
………



娘「──サンタさんって、いつ手紙持って帰ってるのかな。枕元にあるのにいつの間にか消えてるの」

父「お前も大きくなったな、そういう事を不思議に思うようになったか」

娘「もう二年生だもん」フフン


父「じゃあ…そろそろ話すか」

娘「?」キョトン

父「実はな、お前の手紙はパパやママがサンタに送ってるんだ」

娘「えっ」


父「さすがにサンタも夜中、鍵をかけて家族が寝てる家に忍び込むわけにはいかんからな」

娘「……泥棒さんと間違えられちゃう」

父「そう、逆に泥棒がサンタのふりをしてたらそれも怖いだろ?」


娘「うん……でも、じゃあイブの夜にはどうやってプレゼントを置いてるの?」

父「それも…実はパパやママが夜中に玄関で受け取ってるんだ」

娘「そうなんだ……でも、サンタさんはいるんだね? プレゼントを持ってきてくれてるんだよね?」

父「そうだよ」

娘「そっか! じゃあやっぱり今年も欲しい物のお手紙書くね──!」ニパッ



2014/12/22(月) 15:33:51.84 ID:LeOO3t5gO
5:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします[saga]


………



妻「──今年のプレゼントも喜んでくれたわね」

父「ああ……でもどうかな、ちゃんとサンタを信じてくれてるだろうか」

妻「もちろんよ、じゃなきゃ欲しい物の手紙に『いつもありがとう』なんて書き添えないわ」

父「そうか、そうだな」


妻「よく遊ぶ娘友ちゃんのところでは、そろそろやっぱりサンタはパパじゃないかと疑い始めてるって」

父「隣の男の子はどうなんだ、毎日のように遊んでるけど」

妻「あの子はサンタがどうとかいうより、欲しいおもちゃの事やケーキの事で頭がいっぱいみたいよ」

父「はは……純粋でいい幼馴染みがいてよかったよ──」



2014/12/22(月) 15:34:27.16 ID:LeOO3t5gO
6:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします[saga]


……………
………



父「──今年欲しいものの手紙は書けたのか?」

娘「うん……書いたけど」

父「…どうした?」


娘「クラスのみんな、サンタさんなんかいないって言うんだ。プレゼントはパパやママがおもちゃ屋さんで買ってるって」

父「……なるほど。さすがに五年生にもなりゃ、童話みたいな話も信じ難いだろうな」

娘「じゃあ──」


父「──いるよ、サンタは」

娘「…え」


父「ただ、さすがに絵本に出てくるような赤い服でトナカイのソリに乗ったサンタはいない」

娘「………」

父「だがその絵本に出てくる昔のサンタが創った『サンタクロース協会』って組織はあるんだ」

娘「サンタ協会…?」

父「一人のサンタが世界中の子供にプレゼントを配れるわけないだろ?」


娘「そっか…服装とかは違っても、やっぱりサンタはちゃんといるんだね」

父「そういうことだ」

娘「よかった、じゃあやっぱり手紙書こうっと──」



2014/12/22(月) 15:34:56.84 ID:LeOO3t5gO
7:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします[saga]


妻「──ちょっと無理があったんじゃない?」

父「なにを言う、手紙はいつも通りだったぞ」

妻「そうだけど…ねぇ?」クスクス


父「いいんだよ、そろそろ少しは現実味を帯びた話じゃなきゃ信じない」

妻「そうかもしれないけど」

父「これでいいんだ」

妻「はいはい……でも子供にいつまでもサンタを信じていて欲しいなんて、それはそれで親の都合よね」


父「サンタだけじゃない」ボソッ

妻「え?」

父「…なんでもない」



2014/12/22(月) 15:35:27.37 ID:LeOO3t5gO
8:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします[saga]


……………
………



娘「──どうかなぁ…」ハァ…

父「どうした?」


娘「ん…サンタさんにね、手紙を書くの」

父「毎年の事じゃないか」

娘「でも、スマホなんてくれると思う? くれたとしても、その後の月々の料金とかどうなるんだろう」


父「……さすがに中学生になると、欲しいものもオモチャやゲームじゃなくなるんだな」

娘「まぁね」

父「…やむを得んな」

娘「?」


父「とうとう全てを話す時がきたか…」

娘「……やっぱ、サンタっていないの──?」



2014/12/22(月) 15:35:57.46 ID:LeOO3t5gO
9:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします[saga]


父「──いや、サンタはいる」

娘「………」


父「サンタ協会って組織がある…と言ったよな」

娘「うん」

父「この国では『NPO法人日本サンタクロース協会』がそれにあたる」

娘「…会社?」

父「非営利団体だがな。活動目的は世界の子供に対するプレゼントの配布」


娘「どうやってプレゼントを購入してるの? 資金は?」

父「もちろん会費制だ、タダでプレゼントが貰えるほど甘くはない」

娘「会費……パパやママが払ってるってこと?」

父「そうだ、毎月自動引き落としになってる。ただこの協会に加入するかどうかは任意だ」


娘「じゃあ、加入してない家も…」

父「そういうことだ、だからその家では『サンタなんかいない』ってことになる」

娘「なるほど…!」



2014/12/22(月) 15:36:28.08 ID:LeOO3t5gO
10:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします[saga]


父「通常は年間に納めた会費より、少し目減りした額のプレゼントが届く。浮いたお金は孤児や発展途上国の子供達へのプレゼントに回される」

娘「ボランティア的なものなんだね」

父「だが学校などから送られた内申書の査定により、何年かに一度掛け金を超えるスペシャルプレゼントを希望できる年がある」


娘「スペシャル…」キラキラ

父「三年生の時、覚えてるか?」ニヤリ

娘「ハッ……! Wii本体とソフトのセットだった!」


父「そうだ…そして今、またスペシャルプレゼントの権利がたまってる。いい子にしててよかったな」

娘「じゃあ…!」パァッ

父「スマホ、欲しいんだろ? 手紙に書いとけよ。ただし月料金はウチが払うんだ、ママにも感謝しろ」

娘「うんっ──」



2014/12/22(月) 15:37:02.02 ID:LeOO3t5gO
11:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします[saga]


………



妻「──飽きれたわ、あそこまで作り話して信じさせるなんて」

父「大人でも引っかかりそうだろ」クックッ…

妻「でもどうしてそんなに頑なにサンタを信じ込ませるの? あの子ももう中学生よ?」

父「それが大事だからだよ──」


『──なあ、父ちゃん。サンタってやっぱり父ちゃんや母ちゃんなんだろ?』

『クラスみんな知ってるもん、サンタなんかいないって──』


父「──俺はな、兄貴がいたのもあって小学校も早い内からサンタを信じなくなった」

父「サンタを信じないって事は、プレゼントは親がくれるものと認識するって事だ」

父「するとクリスマスというイベントは普通の家庭では『プレゼントを買ってもらって当たり前の日』という事になる」

父「子供心にも感謝の気持ちは薄くなったと思う」


父「でも実際にはどうだ。サンタがくれるプレゼントも親が買うそれも、ただ子供に喜んでもらうための優しい贈り物だ、なにも変わらない」

父「でもそんな大人たちの気遣いも小学生の子供には解らないんだ」



2014/12/22(月) 15:37:39.91 ID:LeOO3t5gO
12:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします[saga]


父「サンタを信じるってことは、御伽噺みたいな優しい世界を信じるってことだと思う」

父「……俺はサンタを信じなくなった事が、子供らしい夢を失うきっかけのひとつになった気がする」


『……俺、来年からクリスマスプレゼントは現金がいいな──』


父「挙句、プレゼントは現金がいい…なんてな」

父「優しさの形を金に求めるなんて、大人だってするもんじゃないのに」


父「自分が色んな優しさに包まれて育てられてきたんだ……それに気づける歳になるまで」

父「俺はあの子にサンタを信じていて欲しい」

父「例えその形が偽物の団体であったとしても、子供達の幸せを願う団体とそこに加入する優しい親達が世界中にいるって」

父「そう思っておいて欲しいんだ──」



2014/12/22(月) 15:38:09.36 ID:LeOO3t5gO
13:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします[saga]


……………
………



娘「──お父さん」モジモジ

父「ん、どうした?」


娘「今年の…サンタさんへのお願いなんだけどね」

父「ああ」

娘「こんな事…怒られるかな」

父「……言わなきゃ解らん」


娘「お金…現金がいいの」

父「!!」

娘「商品券でもいいんだけど…」


父「……それは、なにかサンタに伝えにくいようなものが欲しいのか?」

娘「ち、違う!」

父「じゃあ──」



2014/12/22(月) 15:38:36.04 ID:LeOO3t5gO
14:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします[saga]


娘「──プレゼントを買いたいの」

父「プレゼント…?」

娘「うん…人にあげるプレゼント」

父「………」


娘「あの…ウチの高校、バイト禁止だから…その」

父「うん」

娘「普段のやりくりは贅沢しなければお小遣いでなんとかなるんだけど……それ以上の余裕はなくて」


父「……誰にあげたいんだ?」

娘「!!」ドキッ

父「隣の幼馴染くんか」

娘「…ん」コクン



2014/12/22(月) 15:39:06.20 ID:LeOO3t5gO
15:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします[saga]


娘「やっぱり怒られるかな」

父「怒られるもんか。でも…その願い事をしたらそれで最後なんだ」

娘「最後…?」

父「ああ…子供が自分の金で、他の誰かにプレゼントをしたい…そう言い出す時」

娘「………」

父「それがサンタの役目が終わる時なんだ」

娘「……お父…さん」グスッ


父「大きくなった…お前も大人になったんだなぁ…」

娘「大人じゃないよぅ…まだ」

父「幼馴染くんは、お前と同じように純粋で素朴な子だと思う」

娘「うん」

父「これからは彼がお前のサンタになってくれる、よかった…よかったなぁ──」



2014/12/22(月) 15:39:37.19 ID:LeOO3t5gO
16:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします[saga]


………



妻「──あら、おはよう。久しぶりだったわね、夫婦二人でのイブなんて」

父「そうだな……ところで、これはなんだ?」

妻「ああ…朝、私も見たわ。貴方の枕元にあったわね。でも私は知らないわよ、サンタさんじゃない?」

父「バカな」ガサガサ


妻「あら、いい色」

父「!!」


妻「あの子ったら……幼馴染くんへのプレゼント、少し切り詰めたのね」

父「娘、あいつ──」



2014/12/22(月) 15:40:04.81 ID:LeOO3t5gO
17:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします[saga]


……………
………



司会「──ではここで、お手元のプログラムには記載しておりませんが、新婦よりご両親への手紙を読んで頂きたいと思います」


パチパチパチ…


父「なんだ、聞いてないぞ」

妻「あらあら」ニコニコ


娘「……お父さん、お母さん。私を今日まで育ててくれて──」



2014/12/22(月) 15:40:35.45 ID:LeOO3t5gO
18:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします[saga]


娘「──でした。…それから、お父さん」

父「………」


娘「子供の言う事にちゃんと耳を傾けてくれて、ちょっと怖いけど誠実な貴方が、私は大好きでした」

娘「子供の夢をできるだけ壊さずに、ずっと守ってくれた貴方のおかげで」

娘「私は幼馴染くんから『少し天然気味』と言われてしまうくらい、純粋に育つことができたんだと思います」

娘「貴方が語ってくれたサンタさんの秘密、私はずっと忘れません」グスッ

父「うっ…うぅ…っ」


娘「…こんな大事な日に、そんなくたびれた安物のネクタイでよかったの?」ポロポロ

父「当たり…前だ」


娘「いつか私も母になると思います、だから──」

父「……娘っ」ポロッ…


娘「──私にも、サンタ協会への加入方法…教えて下さい」



【おしまい】



.

Halloween apartment(原題/男「ハロウィンアパート」女「少女の悪戯」)



1 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:17:45 ID:rlAncNMc [1/50]


魔女娘 (……どの家にしよう)テクテク

魔女娘 (あんまり子供がいなさそうな家がいいなぁ)キョロキョロ


魔女娘 「…アパート」ピタッ

魔女娘 (玄関が…いち・に・さん…で二階建て、部屋ちっちゃそう…)

魔女娘 (どうみても一人暮らし用のワンルームってやつだよね)

魔女娘 (うん…いいかも)


タタタッ…



2 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:18:25 ID:rlAncNMc [2/50]


ピーンポーン、ピーンポーーン…

…ガチャッ


DQN 「うぇ?」

魔女娘 「Trick or Treat!」ニパッ


DQN 「…あー、ヘロイン?」

魔女娘 「ハロウィン…」

DQN 「チッ…めんどくせーな…なんでこんな安アパートに来たんだよ」ハァ…

魔女娘 「うっ」


DQN 「えーっと、どうすんだっけ?」

魔女娘 「えと…悪戯されるか、お菓子をくれるか…です」モジモジ

DQN 「お菓子ねぇ…」



3 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:19:07 ID:rlAncNMc [3/50]


魔女娘 「あ、あの…無かったらいいです」

DQN 「ちょっと待ってろ」クルッ

魔女娘 「あぃ」


ゴソゴソ、ゴソゴソ…ナニカアッタカナー


魔女娘 「…あの、無理には」


ガラガラ…ガチャーンッ!


魔女娘 「ひぅ」


チッキショ…コレ、イツノダ…?


魔女娘 (あ…あんまり古いの持ってこられても困るなぁ…)



4 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:20:05 ID:rlAncNMc [4/50]


DQN 「うぇい、待たせたな」ポイッ

魔女娘 「ひゃっ…あ、ありがとう」アタフタ


DQN 「アイスでもお菓子だろ?」

魔女娘 「でもこのピノの箱、開いて…」

DQN 「あぁ? カノジョが残してったんだよ。今日の昼のだ、古かねぇぞ」チッ

魔女娘 (あうぅ…確かにみっつ残ってる。でもピックは人が使ったお古なんじゃ…)

DQN 「カノジョはフォーク使ってたから、気にすんなよ」


魔女娘 「そ、そうですか…ありがとうございました」ペコッ

DQN 「あ?」


魔女娘 「さような──」

DQN 「──待てよ」



5 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:21:29 ID:rlAncNMc [5/50]


DQN 「お前、お菓子貰っといてお辞儀ひとつか? あぁ?」

魔女娘 「え…でも、ハロウィンってそういう…」キョトン

DQN 「まあ玄関で悪いが、座って落ち着いて食えよ。その間俺の愚痴でも聞け」

魔女娘 「えっ…えっ…?」アセアセ


DQN 「す・わ・れ・よ?」ニコッ

魔女娘 「ぁぃ…」


魔女娘 (あうぅ…参ったなぁ…)ビクビク

魔女娘 (…でも、アイスくれたし…愚痴を聞けって言われただけだし…)

魔女娘 (怖いけど…悪いヒトじゃなさそう…?)チラッ…



6 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:22:32 ID:rlAncNMc [6/50]


DQN 「…お前、いくつだ?」カチッカチッ…ボッ

魔女娘 「8歳…です」パクッ

DQN 「………」ジジジ、スゥッ…フウゥゥ…

魔女娘 (たばこ…煙い…臭い…)

DQN 「おお…悪りぃ、煙がそっち行ってんな。外に向かって扇風機回すわ」スッ、パチン…ブオオォォォ…

魔女娘 (もう明日は十一月だよ…ピノ食べてるし寒いよ…)モグモグ


DQN 「まあ…よ…お前みたいな子供に話しても仕方ねえんだけどな」

魔女娘 「…はい?」

DQN 「それこそ、カノジョがその大好物のピノ食いかけで部屋出ていった…その話だ」



7 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:23:23 ID:rlAncNMc [7/50]


DQN 「あいつと付き合い始めて、もうすぐ一年になるよ」スゥ…

魔女娘 「はぁ」パクッ

DQN 「けど、付き合い始める前は…俺、遊んでたオンナいたんだ」フゥーーッ

魔女娘 (本当に小学生に聞かせる話じゃないなぁ)モグモグ…


DQN 「知らなかった…気づかなかったんだよ、そのオンナも割と遊んでるやつだったからさ」

魔女娘 「なにをです?」

DQN 「俺の事が本気で好きだったんだってさ……カノジョが出来たって教えてから言いやがった」スゥ…

魔女娘 (返事に困る…)ズーン…


DQN 「でも、俺もこんなだけどよ…できたカノジョは大事にしたいわけよ」フゥーッ…

魔女娘 (そうは見えないって自覚はあるんだ)



8 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:24:55 ID:rlAncNMc [8/50]


DQN 「なんだけどなぁ…たまーに、その遊んでたオンナから連絡がある」

魔女娘 「一年経っても…?」

DQN 「ああ、ちゃんと言ったんだぜ? カノジョができた以上、もうお前とは遊べない、会わないって」

魔女娘 「ハッキリ言っててもだめなんですか…」


DQN 「今日だって、夜にはヘロインパーティーしようと思ってたんだよ、カノジョと」

魔女娘 「ハロウィンですってば」

DQN 「ケーキも買ってたってのに……最悪のタイミングで電話してきやがった。無駄になったぜ…ったく」チッ…

魔女娘 (アテのないケーキあるのに、出てくるのは食べかけのピノだったのかぁ…)パクッ


DQN 「まぁな…俺が悪いのは解ってんだよ」スゥ…

魔女娘 (…うぅ、寒いなぁ)モグモグ

DQN 「ハッキリ言ったのは最初の一度だけ…その後は『電話してくんな』って言って切るだけだもんな」ハァー…



9 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:25:28 ID:rlAncNMc [9/50]


DQN 「全部食ったか」

魔女娘 「は、はい…ごちそうさま」

DQN 「…悪かったな、聞いても仕方ないような話してよ。まあそのアイスのお代だと思えや」

魔女娘 (ハロウィンはお代を求められるものじゃないんだけどなぁ…)


DQN 「お前、もうこのアパートの部屋ぜんぶ回ったのか?」

魔女娘 「ううん、ここが最初です」

DQN 「……そうか」


魔女娘 「?」

DQN 「いや…なんでもねぇ。暗いから変な奴に気をつけてな」

魔女娘 (怖そうな人にはもう会っちゃったけど…)クスッ

DQN 「ん?」

魔女娘 (…でも、いい人だった)



10 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:27:53 ID:rlAncNMc [10/50]


………



魔女娘 (じゃあ次…お隣、いってみよ)テクテク

魔女娘 (玄関まわり、なんにもないなぁ…空き部屋みたい)

魔女娘 (でも薄っすら灯りは点いてるような)

魔女娘 (…呼び鈴、押してみよっと)


ピーンポーン、ピーンポーーン…

…ガチャッ


男「…はい?」

魔女娘「Trick or Treat!」ニパッ

男「うわぁ、びっくりした」

魔女娘(全然びっくりした感じじゃなかったけどなぁ…)



11 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:28:27 ID:rlAncNMc [11/50]


男「そっか、今日はハロウィンだね。いらっしゃい」ニコッ

魔女娘(よかった、いい人っぽいおにーさんだ)ホッ…


男「お菓子だね、ちょっと待ってて」

魔女娘「あの、なにも無かったら──」

男「ううん、あると思うよ」

魔女娘「──そう…ですか」


男「お待たせ、あるとは言っても安いお菓子ばっかだけど。はい、どうぞ」ゴソッ

魔女娘「あ、ありがとう」

男「持ちきれる?」

魔女娘(けっこういっぱい…袋とかないのかな)



12 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:30:55 ID:rlAncNMc [12/50]


男「持ち切れないようだったら、ちょっと食べていきなよ。お茶でも淹れるよ」

魔女娘「えっ…あの、袋…」

男「玄関のミニチェア、靴履く時に掛けるやつだけど座ってたらいいよ」

魔女娘「…はい」チョコン


魔女娘(まだまだ帰らなきゃいけない時間よりは早いし、まあいっか…)

魔女娘(お菓子…うまい棒とブラックサンダー、キャベツ太郎とよっちゃんイカ…マルカワのフーセンガム)

魔女娘(100円を超えるお菓子ないなぁ…いいけど、ブラックサンダー好きだけど)


男「はい、ミルクティーにしてるからね」

魔女娘「頂きます」



13 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:31:33 ID:rlAncNMc [13/50]


魔女娘(小さいのはポケットに入れて持って帰ろう…まずは一番かさ張るキャベツ太郎食べようかな)ガサガサ

男「キャベツ太郎美味しいよね」

魔女娘「うん」パクッ

男「コーンポタージュスナックも美味しいけどね、昼に食べちゃった」

魔女娘(あー、そっちの方が好きだったな…)サクサク…


男「魔女の仮装だよね、手作り?」

魔女娘「うっ…」ギクッ


男「ん? どうかした?」

魔女娘「…手作り…しかも、布はほとんど使ってないから」

男「うん、紙袋とかに色塗ったり工夫してるんだね」



14 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:32:11 ID:rlAncNMc [14/50]


魔女娘「安っぽいでしょ…?」シュン…

男「え? ハロウィンの仮装って、そんなにお金かけるもの?」

魔女娘「んー…お金はかけないかもしれないけど、クラスの友達はお母さんが縫ってくれたり…」

男「ああ、そういうのも嬉しいよね」

魔女娘「…うん」


男「でも工作をがんばった子供らしい仮装、可愛いと思うよ」

魔女娘「ほんと?」パァッ


男「うん、新聞丸めた魔女の杖もかっこいいね。ナイロンひも割いたフリフリの飾りも女の子っぽいし」

魔女娘「これ…ホウキ…」ズーン…

男「ごめん…」アセアセ



15 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:32:47 ID:rlAncNMc [15/50]


男「なんにもない週末の晩だと思ってたけど、思わぬイベントがあって嬉しいよ」

魔女娘(…さっきのピノくれたお兄さんは、本当はハロウィンパーティー予定してたんだっけ)サクサク

男「今年のハロウィンはちょうど金曜日だったんだね、ぜんぜん意識してなかった」


魔女娘「なにも予定無かったんですか」

男「…痛いとこ訊くねぇ」アハハハ

魔女娘「ご、ごめんなさい…」


男「まあね、ハロウィンだって気づいてれば、勇気出して食事くらい声を掛けてみても良かったのかも」

魔女娘「彼女さん?」パクッ

男「…に、なって欲しいヒトかな」


魔女娘「まだ七時にもなってないです、電話してみたら…」サクサク

男「そうだね、電話する距離じゃあないけど」



16 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:33:27 ID:rlAncNMc [16/50]


男「もうこのアパートの部屋、全部回ったの?」

魔女娘「ううん、ここが二軒目です」


男「じゃあここの前には…」

魔女娘「こっちの部屋に、先に寄りました」

男「ああ、DQNさんの。…見た目怖そうだけど、いい人だったでしょ」

魔女娘「はい」


男「じゃあ次はこっち隣か…えっと、うん…悪い人じゃないよ」

魔女娘「?」

男「でも万一なにかあったら、大きい声出しなね?」

魔女娘(えっ)



17 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:34:03 ID:rlAncNMc [17/50]


男「いやいや…心配ないか、人を見かけで判断しちゃダメだよね」

魔女娘「あの、なにか気になるようなヒトなんですか…?」

男「ううん、大丈夫…だと思うよ」

魔女娘(思う…としか言えないような人なのかなぁ)


男「あと二階の三部屋は女の人が住んでるから、心配ないよ」

魔女娘「わかりました。…紅茶、ごちそうさま」

男「いいえ、来てくれてありがとう」ニコッ

魔女娘「お邪魔しました──」



18 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:34:41 ID:rlAncNMc [18/50]


………



魔女娘(…いい人でよかった)

魔女娘(次の部屋がちょっと不安だけど…)


魔女娘(二階はみんな女の人かぁ)

魔女娘(…でも、だからって一階のひと部屋だけ訪問しないなんておかしい)

魔女娘(もし入居してる人同士で話した時『ウチだけ来てない』なんて…嫌だったりするかも)


魔女娘(うん、もし留守なら仕方ないけど…呼び鈴押してみよ!)



19 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:35:11 ID:rlAncNMc [19/50]


ピーンポーン、ピーンポーーン…


魔女娘(………)

魔女娘(留守みたい! うん、それなら仕方な──)クルッ


…コトンッ

魔女娘「ひぅ」ビクッ


魔女娘(ゆゆ…郵便受けが少し開いて…誰か覗いた…?)ドキドキ


ガチャッ……キィ…ッ…

魔女娘(ちょっとだけドアが開いたけど…)


キモオタ「……誰でござる」

魔女娘「ご…ござる?」



20 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:35:42 ID:rlAncNMc [20/50]


キモオタ「お、女の子……ハァハァ、魔女? だ、騙されないでござる! 騙されないでござるよ!?」

魔女娘(なんでチェーンロック掛けたままなんだろう…)

キモオタ「拙者好みのコスプレロリ娘を家賃取り立てに仕向けるとは…大家さんめ、なかなかやりおる…」

魔女娘「はい?」


キモオタ「デュフフ…しかし、なけなしの金なら好物の生チョコにつぎ込んだばかり。払うのは無理でござる! 残念無念フォカヌポゥ!」

魔女娘「家賃…私、別にお金とか…」アタフタ

キモオタ「それなら何の用でござるか!? ど、ど、どうせ言えないに違いないでござるよ!」


魔女娘「と…」ドキドキ…

キモオタ「と?」


魔女娘「Trick or Treat!」


キモオタ「………フヒッ」ピクッ

魔女娘「…あの?」



21 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:36:16 ID:rlAncNMc [21/50]


キモオタ「その魔法詠唱…そして今日の日付」

魔女娘(魔法…?)

キモオタ「まさか、ハロウィンの夜にコスプレ美少女が拙者の部屋を訪ねてきたというのか…」ワナワナ

魔女娘(び…美少女とか)テレテレ


キモオタ「感動…感涙でござるっ!」ブワッ

魔女娘「ふぇっ…」ビクッ


キモオタ「それで金の無い拙者はこの奇跡への対価としてなにを支払えば良いでござろうか?」キリッ

魔女娘「ええと…お菓子をくれるか、悪戯されるか──」

キモオタ「なりませぬ! Yes、ロリータ! No、タッチ! デュフフ、拙者マジ紳士コポォ」

魔女娘「あのっ、悪戯はそっちがするんじゃなくて…!」


キモオタ「拙者がされる側…だと?」ピクッ



22 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:36:50 ID:rlAncNMc [22/50]


キモオタ「それならば話は別でござるっ!」

魔女娘「えっ」


キモオタ「さあ、その新聞紙の杖をドアの隙間から差し入れるでござるよ…ウェヒヒ」

魔女娘「うぅ…ホウキなんだけど…」スッ

キモオタ「そう、もうちょっと奥まで…その辺その辺…デュフッ」


魔女娘「これが悪戯になるんですか?」キョトン

キモオタ「オゥフ…ナイロン紐のフサフサが実に小悪魔的な悪戯でござるぅ…」ゴソゴソ

魔女娘「ふぇっ? なんか動かしてる…」


キモオタ「…ロリ娘が丸めた新聞紙が拙者の拙者にジャストフィット、オゥ…イェァ…シーッ、ハーッ」ハアハア

魔女娘(…暗くてぜんぜん見えない)



23 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:37:45 ID:rlAncNMc [23/50]


キモオタ「おおおおお! 昂ぶってきたでござるぅぅぅ!」コスコスコスコス

魔女娘「あ、あの…」

キモオタ「……フォックス2…ッ! …オゥ…ィェス…ッ…ブルズアーィ…」ビクンビクン


魔女娘「えっ? だ、大丈夫ですか…!?」

賢者「…お嬢さん」

魔女娘「へ?」


賢者「とっておきのお菓子を持ってこよう。代わりにこの杖は貰ってもいいかい?」

魔女娘「あの…人が変わりました?」

賢者「とんでもない、元から君の前には紳士一人しかいないさ…少し待っていてくれ、ズボンが冷たくてね」

魔女娘(持っていかれちゃった…ホウキって言ったのになぁ…)



24 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 20:38:25 ID:rlAncNMc [24/50]


………



魔女娘(…結局、ホウキは返してもらえなかった)

魔女娘(なにをしてたのかわかんないけど、まあ…悪いヒトじゃなかったのかな?)

魔女娘(私がしたいのは、あんな意味のわかんない悪戯じゃなくて)ハァ…


魔女娘(だけどなんかちょっと高そうなチョコレートもらっちゃった)

魔女娘(『なけなしのお金で買った』って言ってたけど…)

魔女娘(あーる…おー…ロイズ? 紙袋にも入ってるし…うまい棒とか一緒に入れちゃお)ガサガサ


魔女娘(あとは二階の三部屋…女の人って言ってたなぁ)

魔女娘(いい人ばかりでありますように)


魔女娘(…なんのお菓子も無いって人がいればいいな──)



28 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 22:52:10 ID:rlAncNMc [25/50]


ピーンポーン、ピーンポーーン…


《はーい》ガチャ

魔女娘(う、やっぱり女の人はインターホンで出るんだ)アセアセ

《…あら? どなたー?》

魔女娘「あ…と、Trick or Treat!」

《えっ…? あぁ…もしかして、近所の子なのかな。ハロウィンで来てくれたんだ?》

魔女娘「はい」


《嬉しいなぁ、ちょっと待っててね! お菓子持って出るから!》ガチャッ

魔女娘「あの…無理には…っ」

魔女娘(…切れちゃった、待ってよう)



29 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 22:53:06 ID:rlAncNMc [26/50]


…カチャッ


女「ようこそ、ハッピー・ハロウィン!」ニコッ

魔女娘(おぉ…ちゃんとハロウィンらしく返された)ジーン…


女「かっわいい! いいね、手作りの魔女衣装!」

魔女娘「ありがとう…」テレテレ


女「はい…これ、お菓子。入れる袋とか…あるね、よかった」

魔女娘「頂きます」ゴソゴソ

女「あと、これ! 持って帰るには適さないから、食べてかない?」

魔女娘「わぁ、かぼちゃパイ…手作りなんですか?」

女「うん、焼きたてだよー」


魔女娘(…パイはあったかい内に食べたいなぁ)ゴクリ

女「ふふーん、目が『食べたい』って言ったね? どうぞ、上がって──」



30 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 22:54:10 ID:rlAncNMc [27/50]


………



女「飲み物、熱々のパイには冷たい牛乳がいいと思うんだけど、飲める?」

魔女娘「はい、牛乳好きです」

女「じゃあ座っててね」


魔女娘(わぁ、アパートはそんなに新しくないのに綺麗な部屋)キョロキョロ

魔女娘(やっぱり女の人だなぁ…)

魔女娘(…あれ?)

女「はーい、お待たせ……あら、見つかっちゃった」クスッ



31 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 22:54:49 ID:rlAncNMc [28/50]


魔女娘「あそこに掛けてあるのって、魔女の衣装…?」

女「うん、今日のために縫ったんだよー」


魔女娘「すごい…私の衣装とはぜんぜん違う…」

女「そんなことないよ、充分可愛いと思うな」

魔女娘「そうかなぁ」


女「あとは…そうね、杖かホウキでもあればもっと良かったかな? なーんて、さ…食べよ?」

魔女娘「う…」

女「…ん?」

魔女娘「実は──」



32 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 22:55:37 ID:rlAncNMc [29/50]


女「──そっか、取り込まれちゃったのか」モグモグ

魔女娘「はい…なんでかはわかんないんですけど」モグモグ

女「…まだこれからも他のお家を回るのかな?」

魔女娘「うーん…せめてこのアパートの部屋は全部」


女「……よしっ」スクッ

魔女娘「?」


女「紙粘土で作ったからちょっと重いんだけど、いいよね」

魔女娘「…杖? それも作ったんですか? すごい、ちゃんと先に宝石みたいなのもついてる…」

女「ギュッと絞った新聞紙を芯にして、先のはちょっと特別製なんだ。はい、どうぞ…きっと魔法が使えるよ?」

魔女娘「えっ? こ、これ…」

女「あげる、うん…よく似合ってる!」



33 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 22:58:00 ID:rlAncNMc [30/50]


魔女娘「でも、それじゃおねーさんのが…!」

女「いいの、貴重な情報をもらったしね」

魔女娘(情報…?)キョトン

女「それにこのパイをトレイに載せて持っていくとしたら、杖を一緒には持ち難いなぁ…って思ってたんだ」


魔女娘「…仮装した人がお菓子を持っていくんですか?」

女「ふふっ…そうだね、ちょっとおかしいけど。でも、そうするつもり」

魔女娘「あはは…それじゃTrick or Treatって言われても、相手が困っちゃいそう」

女「じゃあ、お菓子あげる代わりに悪戯しちゃおうかな?」クスクス

魔女娘「おもしろい」クスッ


女「……いっそ、悪戯してくれたらいいんだけどね」ボソッ

魔女娘「え?」

女「『好き』って言ったら、悪戯してくれるかな…? なんてね、あはは」



34 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 22:59:15 ID:rlAncNMc [31/50]


………



魔女娘「──ごちそうさまでした」ペコリ

女「どういたしまして」

魔女娘「杖、本当にいいんですか?」

女「うん、いいよ。可愛い魔女さんに持ってもらえて嬉しい」ニコッ


魔女娘「じゃあ、ありがとう。おねーさんも良いハロウィンを」

女「こちらこそ、来てくれてありがとう。…それと、確認なんだけど」

魔女娘「?」


女「一階…全部の部屋の人、居たんだよね? みんな一人で」ボソボソ

魔女娘「はい、さっきは確かに」

女「よしっ…がんばってみるかっ!」

魔女娘「…? が、がんばって…」



35 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 23:00:53 ID:rlAncNMc [32/50]


………



魔女娘(なにをがんばるんだろ)テクテク

魔女娘(…まあいいや、すごくいいヒトだったなぁ)

魔女娘(杖、かっこいい…)ニヘラ


魔女娘(あと…ふた部屋、順番に真ん中の部屋から行ってみようかな)

魔女娘(…なんか今までになく生活感溢れる感じの玄関だなぁ)

魔女娘(肥料のボトル挿した植木鉢とか、モップや竹ぼうきが並んだ傘たて)

魔女娘(…割と年配の人の部屋かな?)

魔女娘(まあ二階はみんな女の人って言ってたし、よしっ…呼び鈴押してみよう)



36 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 23:01:38 ID:rlAncNMc [33/50]


ピーンポーン、ピーンポーーン…

…ガチャッ


魔女娘「ふぇっ」

大家「はいはい、どなた?」

魔女娘(お…女の人でもいきなりドア開けるんだ…)ドキドキ


大家「あら、可愛いお嬢ちゃんねぇ」

魔女娘「あっ…えっと、Trick or Treat!」

大家「おやまぁ! ハロウィンで来てくれたのかい、嬉しいねぇ!」ニコニコ



37 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 23:02:10 ID:rlAncNMc [34/50]


大家「じゃあお菓子を持ってこなきゃねぇ」

魔女娘「あの、無かったらいいです!」

大家「やだよこの子ったら、こんなオバサンの家に茶菓子が無いわけないじゃないの」

魔女娘「そう…ですか」


大家「…あんた、もしかして三丁目の孤児院の子じゃないかい?」

魔女娘「はい」

大家「ああ、やっぱり。回覧板来てたのよ、子供達が訪ねてくるかもしれないって。でもあなた、一人で来たのねぇ?」

魔女娘「………」

大家「いいんだよ、みんなの分まで持って帰ってあげなさいな。いつも以上に買い置きしてたんだから」

魔女娘「はい」

大家「あはは、オバサンの肥やしにならなくて良かったわ。ちょっと待ってて頂戴ねぇ」パタパタパタ…



38 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 23:02:48 ID:rlAncNMc [35/50]


魔女娘(みんないい人だなぁ、お菓子いっぱいになっちゃう)

魔女娘(でも、本当は)

魔女娘(私は…)


大家「はいはい、お待ちどうさま。好きなだけ持っていきなさい」ドチャッ

魔女娘「うわ…たくさん」

大家「あなたみたいな子供が好むお菓子があるといいけどねぇ」ニコニコ

魔女娘「あ、ハッピーターン大好きです。ポンスケも、ピッカラも好き」

大家「良かったわぁ、大きい袋出してあげましょうね」

魔女娘「ありがとうございます」



39 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 23:03:24 ID:rlAncNMc [36/50]


大家「でもその小さな袋、ちょっと高そうなお菓子ねぇ。お隣の女さんからでも貰ったのかしら?」

魔女娘「ううん、一階の…こっちの端っこの部屋の人です」


大家「えっ…キモオタさんかい!?」

魔女娘「たぶん…」


大家「あの人、部屋にいるのね……そう…」ホッ…

魔女娘「…?」

大家「どうだった? 元気そうだったかい?」

魔女娘「いえ…ドアの隙間からお菓子をもらっただけで…」



40 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 23:03:57 ID:rlAncNMc [37/50]


大家「…あなたに言っても仕方ないんだけどねぇ…あの人、アルバイトしてたお店が潰れちゃったとかで」

魔女娘「ああ…そういえば、私を家賃の取りたてだと勘違いしてました」

大家「!! …それで、なんて!?」ガシッ

魔女娘「へっ?」ビクッ


大家「あの人、他になにか言ってなかったかい!?」

魔女娘「え、ええと…お金は無いから払えない…って」


大家「…………馬鹿だねぇ…」ボソッ


魔女娘「…はい?」

大家「なんでもないわ、教えてくれてありがとうね──」



41 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 23:04:31 ID:rlAncNMc [38/50]


………



魔女娘(すっごく優しいおばさんだったけど…最後どうしたんだろ)

魔女娘(キモオタさん? …のこと、話しちゃったのマズかったかなぁ…)


魔女娘(大きな紙袋も貰ったし、持って帰るのも安心)

魔女娘(お菓子、もう充分あるけど…でも残りのひと部屋も呼び鈴押してみよう)

魔女娘(このアパート、みんないい人だし)

魔女娘(きっとこの部屋の人も──)


──ガチャッ…パタン

魔女娘「…あ」


魔女娘(杖くれたおねーさん、魔女の衣装で出てった。…何の事かわかんないけど、がんばってね)

魔女娘(…よしっ、私も最後のひと部屋がんばろっ)フンス



42 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 23:05:06 ID:rlAncNMc [39/50]


ピーンポーン、ピーンポーーン…

…シーン…


魔女娘(…あれ? お留守かな)


ドタッ!


魔女娘「ん?」


バタバタバタバタ…ッ!

…ガチャッ!


スイーツ「DQN!?」バッ

魔女娘「ひゃっ!?」



43 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 23:05:37 ID:rlAncNMc [40/50]


スイーツ「……ちがぅ…?」ハァ…ハァ…

魔女娘「あ、あの…?」ビクビク

スイーツ「DQNがゎざゎざ謝りにきてくれたのかと思ったょ…」シュン…

魔女娘「なんかごめんなさい…」


スイーツ「そんなワケなぃょね…ァィッゎゥチのコトなんかどぅでもぃぃ…」

魔女娘(どうしよう…なんか変な空気…)モジモジ

スイーツ「…で、アンタゎ?」

魔女娘(うっ…)



44 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 23:06:09 ID:rlAncNMc [41/50]


スイーツ「ぃたずらなら今ゎゃめてょ……ウチ、そんな気分じゃなぃ…」

魔女娘(…悪戯)ピクッ

スイーツ「…はぁ…もぉマヂ無理…ピノたべょ」

魔女娘(違う…私がしたいのは──)

…ギュッ

魔女娘(──こんな悪戯じゃないっ!)


スイーツ「ばぃばぃ」スッ…

魔女娘「…とっ…」

スイーツ「?」


魔女娘「Trick or Treat!」



45 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 23:06:45 ID:rlAncNMc [42/50]


魔女娘(怒られるかな、落ち込んでる時に…)ドキドキ

スイーツ「……それって」

魔女娘「うっ」ビクッ


スイーツ「知ってるょ…そっか、今日ゎヘロインだったょね…」

魔女娘「…ハロウィン」


スイーツ「杖、かっこぃぃじゃん…オーマイハニーみたぃ」

魔女娘(もしかしてハーマイオニーかな…)

スイーツ「来てくれてァリガト…ぉ菓子だょね? 待ってて」



46 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 23:07:33 ID:rlAncNMc [43/50]


魔女娘「あの…無かったらいいです!」

スイーツ「…ぇ?」

魔女娘「いえ…だから、お菓子なかったら…」


スイーツ「アンタ…ぃぃコだね」クスッ

魔女娘「…!」ピクッ


スイーツ「でもだぃじょうぶ…お菓子ぁるょ」

魔女娘「いい子じゃ…ない」

スイーツ「…?」

魔女娘「私、いい子じゃない…っ!」



47 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 23:08:19 ID:rlAncNMc [44/50]


魔女娘「お菓子が無いならいいって、遠慮して言ってるんじゃ…ないの…」ジワッ…

スイーツ「ぉ菓子なかったら、ィタズラされるんだょね?」

魔女娘「!!」ドキッ


スイーツ「アンタ、ィタズラがしたかったんでしょ…?」

魔女娘「……ん」コクン


スイーツ「ゴメンね…先に気づいてぁげられなかった。ゥチ、バカだから…」ナデナデ

魔女娘(──ずっと、いい子にしてた)ギュッ

スイーツ「してもぃぃょって言ゎれてするィタズラなんか、嬉しくなぃょね」

魔女娘(施設には悪戯っ子もいたけど、職員の人達を困らせる事…私はできなかった)ポタッ

スイーツ「…ちょっと待ってるんだょ?」スッ…

魔女娘(だから…今夜は悪戯がしたくて、他のみんなはお菓子目当てで集まってたから、わざとはぐれて)ポロポロ…



48 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 23:08:59 ID:rlAncNMc [45/50]


スイーツ「ぉ待たせ、アイスしかなぃから…ここで食べなきゃだケド」

魔女娘「ううん…ありがとうございます」ゴシゴシ

スイーツ「ゴメンね、ィタズラさせてぁげられなくて」

魔女娘「いいんです」クスン


スイーツ「はぃ、ウチこれ大好きなんだ」ニコッ

魔女娘(ピノ…?)ハッ…

スイーツ「…そぉぃぇば、ァィッの部屋に食べかけのャッぉぃてきちゃったなぁ」ボソッ


魔女娘「もしかして…おねーさんって、一階のこっちの端っこのおにーさんの…?」

スイーツ「アンタ、ァィッのトコにも行ったんだ…機嫌悪くなかった?」

魔女娘「大丈夫…でも、ちょっと話を聞いたの」

スイーツ「話…?」


魔女娘「うん、昼間に他のヒトから電話があったこと、それでおねーさんが怒っちゃったこと──」

スイーツ「ァィッ…こんな小さぃコに話しても仕方なぃのに」



49 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 23:09:36 ID:rlAncNMc [46/50]


魔女娘「──『悪いのは自分だ』って、おねーさんのこと『大事にしたい』…って」


スイーツ「ぇ…」

魔女娘「今夜は二人でハロウィンパーティーしようと思ってたって言ってた」

スイーツ「ァィッが…ウチのために…?」

魔女娘「ケーキも買ってたって」コクン


スイーツ「……やっぱ…ウチ、バカだ」グスッ

魔女娘「ま…まだまだ日が暮れたばっかりです、今からでも訪ねてみたら…!」

スイーツ「ぅん、そだね…ぁゃまんなぃとね」ゴシゴシ


魔女娘「きっとおにーさんは怒ってないです」

スイーツ「ぁは…マスカラがヘンになっちゃった…直してから行かなきゃ、玄関入ってピノ食べてて──」



50 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 23:10:10 ID:rlAncNMc [47/50]


魔女娘(……結局、悪戯はできなかったなぁ)モグモグ

魔女娘(でもお菓子、いっぱいもらった)プスッ

魔女娘(…満足しなきゃ)パクッ


魔女娘(うん、楽しかった)モグモグ

魔女娘(お菓子だけじゃない、かっこいい杖ももらったし──)


『──きっと魔法が使えるよ?』


魔女娘(…魔法…かぁ)



51 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 23:10:53 ID:rlAncNMc [48/50]


魔女娘(ピノ、食べ終わっちゃった…)

魔女娘(おねーさん、まだ奥に入ったままだなぁ)


魔女娘「あのー、ごちそうさまでした…」

スイーツ「ぁ、食べぉわったんだ! ゴメンね、今ちょっと鏡の前から動けなぃょ!」

魔女娘「ありがとうございました。あの…みんなが心配したらいけないから、そろそろ帰ります」

スイーツ「ぅん、見送れなくてゴメンね…! 空き箱ゎ置ぃとぃてね!」


魔女娘「はい、おねーさん…あの…が、がんばって!」フンス

スイーツ「……泣かせなぃでょ、またメイクがヘンになっちゃぅ。もぅマヂ無理…すっぴんにしょ…」

魔女娘「あぅ、ごめんなさい──」



52 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 23:58:36 ID:rlAncNMc [49/50]


………



魔女娘(帰ろうっと……みんな、私がはぐれたの気づいてるかな)カツン、カツン

魔女娘(階段からだと周りよく見えるけど、姿は無いなぁ…)キョロキョロ

魔女娘(…施設、帰ってみればいっか)カツン、カツン


女「あっ」

魔女娘「あれ?」

女「うぅ、ぐずぐずしてたら見つかっちゃった、早く開けてよー」モジモジ

魔女娘(手にかぼちゃパイ…おねーさんが訪ねるつもりだったのって──)


…ガチャッ

男「──はい?」

女「と…Trick or Treat!」



53 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/30(木) 23:59:24 ID:rlAncNMc [50/50]


男「えっ…! お、女さん…!?」

女「あの、ハロウィンだからっ、そのっ…!」

男「そっか…ハロウィン……魔女の衣装、似合ってるよ」テレテレ

女「ありがとう…」テレテレ


『──好きって言ったら、悪戯してくれるかな…? なんてね』

魔女娘(おねーさん…)


男「…でも、参ったな。もう、お菓子無いや」

女「あはは、逆に持ってきちゃった。ほら、これ…」

男「かぼちゃパイ…作ったの?」

女「うん、がんばりました」フンス



54 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/31(金) 00:00:26 ID:NIHkuhfc [1/15]


女「だから……」スッ…

男「うん?」


女「……てーいっ!」スポッ


男「うわ、なにを…!?」

女「えへへー、狼男風耳つきニット帽。これで男さんも仮装してるからお菓子もらってもいいでしょ?」ニコニコ

男「…参ったね、こんな可愛いの似合わないよ。照れくさい悪戯だなぁ」クスッ


魔女娘(…悪戯──)



55 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/31(金) 00:01:11 ID:NIHkuhfc [2/15]


…カツン、カツン、カツン

魔女娘(…あれ、真ん中の部屋のおばさん)


ピーンポーン……ドタタタタタッ


キモオタ「──ま、またロリ娘魔女が来てくれたでござるかっ!?」ガチャッ!

大家「はいはい、Trick or Treat。悪かったねぇ…魔女じゃなくて鬼婆で」ギロリ

キモオタ「ぎゃああああああぁあぁぁっ!? お菓子ならもう無いでござるよおぉおぉっ!!」

大家「何言ってんだい! 職も失った貧乏人からお菓子もらおうってほど落ちぶれちゃないよっ!」


キモオタ「でも家賃を払う金も無いでござる! どどどうかお慈悲を…!!」ガクブル

大家「アンタ、それで引き篭もってたのかい。あたしに会ったら二か月分の家賃を取り立てられると思って…」

キモオタ「堪忍でござるうううぅうぅぅ!!」



56 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/31(金) 00:02:00 ID:NIHkuhfc [3/15]


大家「ほんっとーに馬鹿だねぇ…今までだって家賃こそ払っても給料日前にはお金が無くて喘いでたじゃないか」ハァ…

キモオタ「オゥフ…め、面目ないっ…」

大家「しょっちゅう多めに作ったお鍋を持ってきてやったこと、忘れちゃないでしょう? ほら、これはさっき作った肉じゃが」グイッ

キモオタ「………」


大家「アンタの懐は解ってんだよ…ちゃんと外に出てお仕事を探して、家賃なんざその後でいいから」

キモオタ「…大家殿……」グズッ


大家「食事も差し入れてやるから、元気出しな? 全く…あたしゃ、中で孤独死でもしてんじゃないかと心配したよ」

キモオタ「大家殿おおおぉおぉぉ!!」ウワアァァァン

大家「やれやれ…会っていきなりあんだけ驚かれて、今度は大泣き。しっかり悪戯した気分だよ」クスクス


魔女娘(…悪戯──)



57 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/31(金) 00:03:02 ID:NIHkuhfc [4/15]


…カツン、カツン、カツン

魔女娘(今度はピノのおねーさんが…)


ピーンポーン……ガチャッ

DQN「うぇ?」


スイーツ「DQN…! とりっくぉぁとりぃとだょ!」

DQN「は?」

スイーツ「昼間ゎ信じてぁげられなくてゴメン…ウチ、ゃっぱりヘロインをアンタと過ごしたぃょ…」

魔女娘(ハロウィン…)



58 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/31(金) 00:03:40 ID:NIHkuhfc [5/15]


DQN「…なんでそんな下向いてんだよ、もういいって」

スイーツ「でも…ウチ…」シュン…

DQN「悪かったのは俺なんだって…入ろーぜ、ケーキあるべ」

スイーツ「………」グスッ


DQN「おい──」

スイーツ「──ばぁっ!」ニコッ


DQN「うぉっ!? えっ!? うぇっ? ス…スイーツ…!?」ビクゥッ!

スイーツ「ぇへへ…すっぴんだと、ゎかんなぃ?」

DQN「ビビッたぁ…お前、眉毛どっかいってんじゃん」クククッ…

スイーツ「ひどーぃ、もぅマヂ無理…」

DQN「普段の仮装をしてないのに一番ビビるとかウケる。もう悪戯したからケーキやんねぇ」ケラケラケラ


魔女娘(…悪戯──)



59 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/31(金) 00:04:11 ID:NIHkuhfc [6/15]


魔女娘(──人をびっくりさせて)

魔女娘(そのあと笑顔になってくれる)

魔女娘(私だって…そんな悪戯がしたかった)


…ギュッ!


魔女娘(杖…本当に魔法、使える?)

魔女娘(ここにいるみんなから、もうお菓子をもらっちゃったけど)

魔女娘(今から勇気を出して悪戯しても、笑顔になってくれる…そんな魔法──)スゥッ…


魔女娘「──お願いっ!」フワッ!



60 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/31(金) 00:04:45 ID:NIHkuhfc [7/15]


ピカッ…!!キラキラッ──

魔女娘「えっ…!?」


女「あ…」

男「おお、すごいね」

大家「あらまぁ、素敵じゃない」

キモオタ「オゥフ…魔法少女を見たでござる…」

DQN「カッケーじゃん」

スイーツ「マヂきれぃ…」


魔女娘(光った…杖の石が……魔法使えた…!)



61 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/31(金) 00:05:19 ID:NIHkuhfc [8/15]


魔女娘「…悪戯──」グッ…


…タタタッ!


魔女娘「──おねーさんっ」

女「ん?」

魔女娘「Trick or Treat!」ビシッ!


女「えっ…も、もうだめだよ! このパイは男さんに…!」アセッ

魔女娘「じゃあ、悪戯しちゃいますっ!」バッ…!

女「へっ…!?」



62 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/31(金) 00:05:54 ID:NIHkuhfc [9/15]


魔女娘「えいっ! スカートめくりっ!」ブァサッ!

女「きゃああぁっ!?」


男(…白、わりと勝負系)

キモオタ(くっ…ロリ趣味な拙者でも目はいくでござるっ!)

DQN「うぇーーーぃ」ニヤニヤ


女「もうっ! なんてコト──」キッ

魔女娘「──バラしちゃう、このおねーさんはねっ!」ビシッ


男「ん?」

魔女娘「おにーさんに悪戯して欲しいって言ってたよ!」

女「ちょっ…言っちゃだめええぇえぇぇっ!!」



63 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/31(金) 00:06:27 ID:NIHkuhfc [10/15]


男「女さん…」

女「違うっ! 違うよ!? いや違わないけどっ!」アタフタ


DQN「ほほーぉ?」ニヤニヤ

スイーツ「ぉしぁゎせにだょ」クスクス

大家「うるさくしたら承知しないよ」

キモオタ「もげろ」


女「あうぅ…もう死ぬ…」プシュー

男「女さん、怒っちゃだめだよ…ハロウィンだし」

女「…うん」

男「でも悪いけど、悪戯するまではもう少し時間かけさせてもらうね」クスッ

女「改めて言わなくていいからっ! ……でも、嬉しかったり」ニコッ


魔女娘(…よかった、笑ってくれた…魔法が効いたんだ)ウルッ



64 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/31(金) 00:07:16 ID:NIHkuhfc [11/15]


魔女娘「あ、あの…お菓子ありがとうっ! 楽しかったです、さよならっ!」ペコッ

クルッ…タタタッ──


大家「──待ちなさい」

魔女娘「……っ…」ビクッ



大家「…来年もおいでね、今度はお友達も一緒に」ニコッ

男「そうだね、今度は安い駄菓子じゃないもの用意しとくよ」ニコニコ

女「来年はかぼちゃプリンにしよっかな」クスッ

スイーツ「じゃぁ、ピノのパーティーパック買っとくょ!」フンス

キモオタ「に、人数増えるなら今度はナッティバーを取寄せておくでござる!」デュフフ…

DQN「暴君ハバネロ買っといてやらぁ」クックックッ


魔女娘「…はいっ──」ニパッ



66 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/31(金) 00:08:09 ID:NIHkuhfc [12/15]


………



魔女娘(楽しかった…嬉しかったなぁ)テクテク

魔女娘(あとは、はぐれちゃった事…みんなに怒られなきゃいいな──)


チビフランケン「──あっ! いた!」ハァ…ハァ…

魔女娘「うっ」ビクゥッ

チビフランケン「…お前、なんで勝手にどっかいくんだよー。めっちゃ走って探したぞ…」フゥ

魔女娘「ご…ごめん」


チビフランケン「施設長が最低でも2人以上で行動するようにって言ってたじゃんか、悪りーんでやんのー」ケケケッ

魔女娘「…大丈夫だもん、怒られないもん」フンス

チビフランケン「なんで?」



67 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/31(金) 00:08:44 ID:NIHkuhfc [13/15]


魔女娘「この杖があったら魔法が使えるからだよ……ほらっ!」フワッ!


ピカーッ!キラキラキラ…


チビフランケン「うわ、なにそれすげえ!」

魔女娘「いいでしょ」フフリ


チビフランケン「あー、なーんだ…先の石みたいのって、弾んだり叩いたらしばらく光る100均のスーパーボールじゃん」

魔女娘「ち…違うしっ! 魔法だし!」ムッ

チビフランケン「魔法なんかねぇよーだ」ケラケラ



68 名前: ◆M7hSLIKnTI[] 投稿日:2014/10/31(金) 00:09:31 ID:NIHkuhfc [14/15]


チビフランケン「馬鹿言ってないで帰るぞ、もうみんな戻ってるって」

魔女娘「う、うん…」


…ギュッ


魔女娘「ふぇっ…!? 手…繋ぐの?」ドキッ

チビフランケン「うっせ、二人で回ってたことにしてやっから…こんくらい我慢しろっ」テレテレ

魔女娘「いいの…?」キョトン

チビフランケン「特別だかんなっ! 怒られたくないだろ?」プイッ

魔女娘(なーんだ──)


タタタタッ…


魔女娘(──ほらね、魔法…ちゃんと効いてるもん)クスッ



【おしまい】



.

冬枯れと椿の小径(原題/ツバキの道と少女の話)

1 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:01:35 ID:.JhPNqoc [1/13]

慣れた道、少し飽きた道を、いつもの通り会社へと歩く。

まだ眠気を残していた頭も、一級河川を渡る長い橋の上で寒風に吹かれ、少しずつ覚めてきた。


徒歩や自転車、それぞれのスピードで橋上の歩道を渡りゆく人々。

朝のラッシュに連なり、歩くよりも遅く停滞した車道。

この橋は住宅やマンションが多く建つエリアと市街地を結ぶ、渋滞の名所だ。

川面を見下ろすと冷たそうな水が透き通って、底のごろた石の模様がよく見える。


測った事は無いけれど、たぶん三分ほどの時間をかけて橋を渡りきり、僕はいつも通りその袂を右へと折れた。

そこからは舗装もされていない土道、周りには樹木が生い茂った川沿いの遊歩道となっている。



2 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:02:24 ID:.JhPNqoc [2/13]

市街地に近い場所に、不釣り合いに残された緑豊かなエリア。

それが保持された理由は、この雑木林の向こうにある。

そこには築庭から三百年を数える、由緒正しき大庭園が広がっているのだ。


この地の殿様が城下に造らせた広大な庭で、今は自治体による運営管理の下、観光地としても有用な施設となっている。

その外周を巡るこの遊歩道は通勤や通学のルートとして、また朝の散歩道としても多くの人に利用されていた。


車がいないから比較的安全な、街までの近道。

それもこの道が多くの人に利用される要因のひとつではあるが、何よりもこの趣が心地よいというのが一番の理由だろう。

朝夕、少なからず憂鬱な職場と心休まる自宅との行き来にここを通る事によって、気分は大いにリフレッシュされていると思う。



3 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:03:02 ID:.JhPNqoc [3/13]

林の向こうの庭園は、数キロ離れたところに横たわる低い山々を借景としているそうで、その障害とならないよう近隣は建物の高さが制限されているらしい。

それ故に遊歩道からも人工的な建造物はあまり目につかず、里山を散策しているかのような気分に浸る事ができる。

木立越しに川面を望む側に設置された人止め柵も、丸太を型取ったコンクリート製の擬木で作られており、人工的ではあるが景観を損なうほどではない。


僅かずつでも日々変わりゆく景色を眺めつつ、今朝もその小径をゆっくりと歩いていた。



4 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:03:41 ID:.JhPNqoc [4/13]

ふと、擬木の柵の一点に目がとまる。


丸太を模した柵は約2メートル間隔ほどに親柱が建ち、その先端からおよそ10センチ下に横の丸太が渡された形になっている。

その親柱の天端、年輪を象った直径15センチ位の円形部分に、鮮やかな色彩が置かれていたのだ。


まだ瑞々しさを残すツバキの花、一輪。

一輪丸ごとが首から落ちるという性質を指して縁起が悪いと言われる事もある花だが、この彩りの少ない時期に花を開く貴重な花木でもある……という位は、僕でも知っている。


上を見ると、大きなツバキの木立が歩道にまで被さり、まだまだたくさんの花が咲き誇っていた。

おそらくいち早く寿命を迎えた一輪が落ちる時、偶然この柵の上に乗ったのだろう。

まるで飾られているかのようなその鮮やかなピンク色を見つけた事で、僕は少し得をしたような気分になった。


今日は良い事がありそうな気がする……そんなありきたりで根拠の無い勝手な期待も、自分が心の内で抱くだけなら誰も困らない。

そこを通り過ぎ、やがてその日の業務に身を置いた僕は、朝の考えがただの幻想に過ぎなかった事を思い知らされるのだけれど。



5 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:04:19 ID:.JhPNqoc [5/13]

しかし翌朝、同じところを通りながら僕は少し驚く事になる。


花が、増えている。


ツバキの木立を中心として、およそ10メートルほどの区間。

柱の数にして六本の頭上に、それぞれツバキの花が置かれていたのだ。


一番端っこの柱など、ツバキの枝が被さる範囲から外れてさえいる。

どう考えても誰かが置いている、それしか思いつかない。


向きを揃えるでもなく置かれたその花を眺めながら、また少し嬉しい気持ちでそこを通り過ぎてゆく。

そして更に数十メートルほど進んだ先で、僕はその小さな悪戯の犯人を目撃する事になる。



6 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:05:10 ID:.JhPNqoc [6/13]

今度は歩道の反対側に佇むツバキの木立、その下に落ちた花を拾い上げる一人の少女。

近くの私立小学校の制服を着た彼女は、手近な柱の頭に何気なくそれを置いた。

手にはまだ数輪の花、順番に柱の上に置きながらこちらへと歩んでくる。

やがて僕とすれ違った彼女、年齢はたぶん小学校の高学年くらいか。


校区の限定される公立の学校であれば班体制で通学するのだろうが、様々な地域から児童が集う私立校に通う彼女は一人ぼっちだった。

この花を飾り歩く可愛らしい悪戯は、寂しい通学路で彼女が見つけた小さな楽しみなのかもしれない。


すれ違ったばかりの少女を目で追う事は他意は無くとも躊躇われる、この妙なご時勢。

わざと十秒ほどの間を開けて立ち止まり振り返ると、彼女はさっき僕が通り過ぎた木立の下で屈み、また花を拾っていた。



7 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:05:45 ID:.JhPNqoc [7/13]

少し迷った後、僕は周囲を窺う。

幾人かの通行人は見られるが、特徴もないサラリーマンを気にとめる者などいない。


その存在には先から気づいていた、自らの足元に転がる一輪の花。


照れ臭さを拭い、それを拾い上げる。

少女が置いた場所の次、彼女が進む方向にとってはひとつ手前になる柱に、その一輪をそっと置いた。


何も悪い事をしてるわけじゃない。

誰も責めてはいないのに、自分にそう言い聞かせてしまう。


また少し周りを気にした後、おそらくわざとらしい知らんぷりの顔を作って、僕はさっきよりも早足で歩き始めた。



8 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:06:19 ID:.JhPNqoc [8/13]

日々、少しずつ増えてゆく柱上のツバキ。

その行為に慣れ始めた僕は、数日経って色が褪せたものがあれば新しいものと交換しながら、日に二つか三つほどツバキの小径の伸ばしていった。


彼女は自分の他にも同じ悪戯をしている者がいる事に気づくだろうか。

たまに彼女とすれ違う事はあったけど、その目の前ではあえて花を持つ姿は見せないようにしていた。


この1キロ程の遊歩道には、あちこちにツバキが点在している。

だんだんと花が落ちやすい時期に近づいているのだろう、素材を拾う事には苦労しなかった。



9 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:06:56 ID:.JhPNqoc [9/13]

やがてその小径が一日に延びる距離は、飛躍的に長くなり始める。


「あ、あそこ落ちてる」

「そこのやつは色が悪くなったな」

「白もあってもいいかなあ」


朝の散歩をするお年寄りが、僕と同じように通勤する男性が、ベビーカーを押した母親が、ツバキを拾っては柱に置いてゆく。


「ちょっとストップ!」

「もう、急に停まらないでよ」


自転車に乗った女子高生が、わざわざブレーキをかけてまで風で落ちた一輪を柱に戻すのを見かけた。


「よっしゃ、いっぱいあったぞ」

「お前、それはもう汚いだろ」


普段なら顔を逸らしてすれ違いたい柄の悪そうな建設作業員が、両手にたくさんの花を持ち朗らかに笑っている。



10 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:07:27 ID:.JhPNqoc [10/13]

遊歩道の最初と最後には誰かの手によりゴミ袋がかけられたダンボール箱が置かれ、周知があったわけでもないのに色が褪せた花はそこへ集められるようになった。


「これ、侘助かな」

「そうじゃない? さっきの木の花に似てるもの」


『ヤブツバキ』
『侘助』
『西王母』
『乙女椿』


いつしかツバキの木立には木板で作られた手書きの樹名札がつけられている。

色んな形の花があるな……とは思っていたけれど、やはり品種はいくつもあったらしい。

人為的に植えられたものも多いのだろう。



11 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:08:24 ID:.JhPNqoc [11/13]

「ああ、今日も綺麗に並んでますね」

「おはようございます」

「行ってらっしゃい、気をつけてね」

「今朝は少し暖かいですね」


きっと名前も知らない人と人、それでも挨拶を交わしている。

前からあった事なのかもしれないが、前より多いのは間違いないと思う。


そんな小さな光景の中、僕は気付いた。

向かいから近付く、誰よりも元気な声で誰よりもたくさんの者に挨拶をする人の姿。


「おはようございます」

「おはよう、だいぶ拾う花が減ってきたね」

「はい、なかなか見つからなくて」



12 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:08:56 ID:.JhPNqoc [12/13]

近くの私立小学校の制服を着た彼女は、にこにこしながら「だけどね」と続けた。


「もう、春がくるから」


そう言いながら上を向く彼女につられて、空を見上げる。

そこには、ついこの前まで冬枯れていた落葉樹の枝が、僅かに新緑の彩りを湛えて覆い被さっていた。


次にツバキが咲き、その花を落とし始めるのはいつになるだろう。

でも、それまでもこの道は様々な彩りに満ちて僕を迎えてくれるはずだ。

そして少しだけ深まったすれ違う人々との繋がりは、一年を通じてそこにあるに違いない。


「行ってらっしゃい」

「行ってきます」


僕は微笑み、また少し憂鬱ないつもの職場を目指して歩き始めた。



13 名前:以下、名無しが深夜にお送りします[] 投稿日:2014/01/10(金) 12:10:36 ID:.JhPNqoc [13/13]

おしまい


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