がらくた処分場

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  1. --/--/--(--) --:--:--|
  2. スポンサー広告

星と占いと四番街の迷い猫【前日談②】(原題/「セクサロイド? お前が?」 「そうじゃ、おかしいか?」)



【前日談②】

(本編の三年前)


氷点下に迫る気温、僅かに粉雪の舞う夜。

雪雲が覆う空からは、月明かりも星のそれも届く事は無い。

暗闇が支配する山裾の街外れ、凍りかけた小川の畔に少女の姿をした一体の野良ロボットがいた。


着衣を全て脱いだロボットは水辺にしゃがみ、小さな掌で水を掬っては己の身体にかけて肌を清めている。

人間であれば悲鳴を上げてしまうであろう行為だが、つくりものの感覚センサーしか持たない彼女にはさほどの苦痛は無い。

ただその水の冷たさは、度を過ぎれば人工素材とはいえ皮膚を傷める事に繋がる。

自己破壊を防ぐようプログラムされた彼女は、本能的にその冷たさを不快には感じていた。


水浴びを終えたロボットは川の脇にある壊れかけの小屋に入り、その隅にうずくまる。

外でさえ暗闇に閉ざされた夜、まして屋内であれば人間なら自分が目を開けているのかさえ判らないだろう。

だがロボットならば微弱な赤外線照射により、多少の視界を得る事はできる。

彼女はそれを頼りに、手にした本のページを捲っていた。


ひとつ前の隠れ家にいた時に見つけ、ここへ持ち込んだ数冊の本。

その内の一冊、現在彼女が読んでいるのは児童向けの短い物語が数話収録された文庫本だ。

一話ずつはほんの30分ほどで読み終える事ができる。

彼女は今の一話を読了したら、セルフメンテナンスの為に擬似的な睡眠をとろうと考えていた。


その物語に人間は登場しない。

一本の柿の木になったふたつの実と、風に乗ってやってきたアキアカネとのやりとりを描いた御伽噺。

話の中核を成すキーワードは『名前』だった。


もしもこの世に二人しか存在しないなら、名前は無くとも困らない。

『私』と『貴方』と表すだけでも、他に指す者がいなければ迷わないからだ。

だが三人目の登場人物が現れた時、名無しでは通用しなくなる。

そしてその来訪者が去った時、それでも二人には名前が残った。

それまで困っていなかったとしても、名を呼び合えるのはやはり幸せな事なのだと知る……そんな内容だ。


「──名前……か」


話を読み終えたロボットは呟き、本と瞼を閉じた。

たった二人ぼっちでも、名を呼び合うという行為は心を満たしてくれる。

だがそれが最低単位なのだ、孤独では呼び合うという行為自体が成立しない。


彼女は四十数年前に人間の手で生み出され、人間の都合で捨てられた。

逃げ出して野良となった事に、はっきりとした目的は無い。

ただ、怖かった。

人に仕えるためのロボットとして生まれたのに、誰にも一度も必要とされず存在を否定される事が悲しかった。

もし誰かが自分を求めてくれたら、それだけで彼女が生き延びた理由は満たされる。


「名など……要らぬ──」


セルフメンテナンスが開始され、彼女は機械仕掛けの意識を手放す。

ロボットの睡眠とは完全な思考の遮断だ。

彼女は『名を与え、呼んでくれる誰か』を、夢に見る事さえ許されない。



【前日談②おわり】



.
スポンサーサイト

テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

  1. 2000/01/01(土) 00:00:00|
  2. 未分類
  3. | コメント:2

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。